タッチ ・パネル のしくみと...
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タッチ・パネルのしくみと制御方法- 新しい入力装置を用いて実習を展開するために -
愛知県立佐織工業高等学校
電子工学科 永坂勝弘
要 旨
抵抗膜方式タッチ・パネルの特徴、しくみの基礎、タッチした位置の検出を通して、抵抗膜方式タ
ッチ・パネルを使った実験を行い、タッチ・パネルの使い方や制御方法について報告をする。
1 はじめに
今回の研究では、4線式抵抗膜方式のタッチ・パネルを用いて、具体的にハードウェアの動作を実
験しながら理解する。また、タッチ・パネル上の座標値をA D変換し、その値をパソコン上に表示-
したり、タッチ・パネルの駆動・検出波形を観測する。さらには、A D変換したタッチ・パネルの-
データをどのような方法で寸法表示データや画面のドット座標データに変換するのかを示し、タッチ
・パネルの制御方法について理解する。
2 タッチ・パネルとは何か
電子機器の入力装置には、スイッチやボタン、キ
ーボード、マウス、タッチ・パネル、トラック・ボ
ールなどのほかに、音声入力やジェスチャ入力(モ
ーション入力ともいう。身振り手振りを認識する)
などがある。その中でタッチパネルはタッチした座
標が分かる入力装置であり、銀行のATM(現金自
動預払機)や鉄道の券売機などとして利用されてい
る。
最近では、携帯ゲーム機にも抵抗膜式によるペン 写真1 カーナビゲーション
を使ったタッチパネルがある。
3 タッチ・パネルの方式について
タッチ・パネルはタッチした座標を検出するが、
ON/OFFをタッチで判断できるタッチ・スイッ
チ(タッチ・センサともいう)というものもある。
、タッチ・パネルの座標検出方法を大きく分けると
。① 直接的にタッチされたX-Y座標を取得する
② 画面上の数個のセンサによって、タッチされ
た場所からの距離の差分情報、角度などの情報 写真2 ゲーム機
を得て、タッチ位置を三角測量などと同じように算出する。
という二つの方法に分類できる。
位置や距離などの情報を得るには、電気、光、音などを利用できる。これらによるタッチ・パネル
検出方式には、抵抗膜式、静電容量式、超音波式、光学式の4つがある。
その中でコストが安く、使い方も簡単で、幅広く使用されている方式が抵抗膜式の一種である4線
式抵抗膜方式である。
4 4線式抵抗膜式タッチ・パネルの基本構造
4線式抵抗膜式タッチ・パネルは、タッチ・センサと
して最も基本的な方式である。透明で電気が流れる「透
」 。明導電膜 を成膜した2枚の抵抗膜を対向して配置する
指やペンなどで押下されると、2枚の抵抗膜である透明
、 、 、導電膜が接触し 導電膜がゆがみ 互いに接することで
タッチ位置を検出する(図1 。)
また4線式抵抗膜式は、日本国内において、安定性、
扱いやすさ、低コストなど、他の方式に対する利点があ
り、タッチ・パネルの方式として中心的な位置付けを持っ 図1 4線式抵抗膜方式
ている。
透明導電膜は、主にITO( ;インジウIndium Tin Oxide
ムの酸化物にすずを添加したもの)が使用されている。
タッチ・パネルでは、主にこのITOを透明基板に成膜
したものが使われている。基板は用途によって材質、厚み
が異なるが、材質は主にプラスチック・フィルムやガラス
が使用されている。指(ペン)で操作する面の基板はフレ
キシブルである必要がある。プラスチック・フィルムの場
合は各コーティング層を含めた総厚み μm程度、ガラ190
スの場合は μ~ μm程度の厚みが必要である。100 400
図2に4線式抵抗膜式タッチ・パネルの構造の例を示
す。上部基板としてフィルムを使用して、下部基板として
ガラスを使用している。 図2 4線式抵抗膜式タッチ・パネル
30ドット・スペーサは 非押下時に上下ITO膜 導電膜 が接触することを防止するために φ、 ( ) 、
μ~ μm程度の大きさの円状に配置され、スペーサ間隔は mm~ mm配置されることが多50 1.5 3.5
い。透明なセンサ・エリアをタッチ・アクティブ・エリアあるいは単にアクティブ・エリアと呼ぶ。
寸法は、液晶面に表示されたボタンなどを操作するため
に使用されることが多いことから 液晶ディスプレイ L、 (
CD)のアクティブ・エリアに合わせるのが一般的であ
る(写真3 。)
周囲には、X軸およびY軸の平行電位分布を得るため
の各電極が配置されている。電極と外部コネクタを接続
するための引き出し線が周囲に配置され、FPCコネク
タに接続するため、一カ所に集約される。この引き出し
線が配置される領域を、一般に額縁と呼ぶ。 写真3 抵抗膜方式タッチ・パネルの外観
タッチ・パネルとLCDの張り合わせに使用する両面テープやクッション材の配置されるエリアは
額縁エリアとなる。タッチ・パネルの製造上の上下基板の張り合わせも額縁で行われる。接着剤とし
ては両面テープや粘着ペーストが使用される。
、 。タッチ・パネルはLCDの外形に合わせるとが多く 十分な額縁幅を確保することが容易ではない
電極、配線配置の効率化が要点の一つとなる。
5 タッチ・パネルの制御
(1) タッチ信号を検出する方法
今回の研究では「4線式抵抗膜方式」のタッチ・パネルを用いて、ハードウェアの動作が理解で
きるようにするため、タッチ・パネルから取得したA D変換値をパソコン上に表示したり、タッ-
チ・パネルの駆動・検出波形を観測した。
(ア) タッチ・パネル・コントローラの回路構成
仕様として、以下の3項目を目標とした。
①回路構成を複雑にせず、分かりやすさを最優先とする。
②長年実績のある回路を利用する。
③組み込みマイコンだけでなくパソコンにも接続して使用可能とする。
以上の3項目からマイコンには、安価、少ピン、小型化を考慮してルネサンス テクノロジの
マイコン 「 」を使用した(写真4 。R8C R5F211B4SP、 )
写真4 タッチ・パネル・コントローラ基板の外観
(イ) インターフェース回路構成
プログラムの書き込みや実験の利便性を考え、タッチ・パネル・コントローラ基板の のCN 3
信号を、写真5に示した実験用インターフェース回路接続し、実験を行った。
写真5 インターフェース回路
(ウ) 実験に用いたハードウェア
タッチ・パネル・コントローラ基板と実験用インターフェース基板、 インチのタッチ・パ5.7
ネル、電源を含め配線を行った(写真6 。)
(エ) パソコンにA D変換値を表示させる-
ソフトウェアを正常に書き込みできたら、4線式のタッチ・パネルを接続して、パソコンの
にケーブルを接続する。パソコンのハイパーターミナルなどを起動して、シリアル・RC-232-C
= 38400 =データを受信できるようにする 設定は データ 8ビット dps ストップ・ビット。 、「 、 、
1、パリティ なし」である。=
ソフトウェアの書き込みが正常に終了したら、電源をいれる。実験用インターフェース基板の
設定は、 :オープン、 : 通信」側とする。実験用インターフェース基板を経由して電源J SW1 1 「
5Vを供給する。ハイパーターミナル画面からデータが出力される。このプログラムはマイコン
に電源が入ると、 や周辺ICなどを初期設定し、タッチ・パネルのR とR に順次電圧を印I/O X Y
加して、A D変換のデータを単 経由で出力する。そのようすを図3に示す。- RS-232-C
写真6 実験に用いたハードウェア
ハイパーターミナル画面に表示されるデータは、左側がX、右側がYのデータである。CPU
、 。 、内蔵の ビットA Dコンバータを使っているので ~ まで値をとる 図3の場合10 - 0000h 3FFh
いずれも「 」前後の値となっている。適当にタッチ・パネルにタッチしてみると数値が変化003
する。
図3 ハイパーターミナル画面に出力されるA D変換値-
(オ) タッチ・パネルの実際の動作を確認する
方眼紙の上に インチのタッチ・パネルを置く。この状態で、あらかじめタッチ・パネルの5.7
開口部(透明の押さえることが可能な範囲)の左下を(0 、0 )としたときの右上の寸mm mm
法を記録しておく。
今回、研究に使用した インチのタッチ・パネルは 「 ( 」 であり、右上の寸5.7 AST057 DMC、 )
法は( 、 )であった。118mm 88mm
準備ができたところで、その左下をタッチペンのようなもので押さえる。
実験では( 、 )前後の値となった。これを仮に(X 、Y )とする。030h 038h min min
次に右上のできるだけ端を押す。今度は( 、 )前後になる。この値を仮に(X 、3D0h 3B8h max
Y )とする。max
このように目いっぱい端を押さえつけたつもりであっても、タッチ・パネルの抵抗R 、R そX Y
のものに到達するまでには、リード線抵抗や、タッチ・パネル内部の配線抵抗などが存在するた
めである。
(a)左下をタッチペンで押さえる (b)右上をタッチペンで押さえる
写真7 タッチ位置の確認
タッチ・パネルの検出範囲は、実測した結果から、寸法位置座標からA D変換値を簡単に導-
き出すことが可能である。XとYのA D変換値をそれぞれX 、Y とすると、- D D
D max min minX =(X -X )×(x[ ]/ )+Xmm 118
3D0h 30h mm 118 30h=( - )×(x[ ]/ )+
D max min minY =(Y -Y )×(y[ ]/ )+Ymm 88
3B8h 38h mm 88 38h=( - )×(y[ ]/ )+
以上のことから、方眼紙をよく見ながら( 、 )の座標を押したときのA D変換値50mm 20mm -
を計算すると( 、 )になる。一致しない場合は、左下と右上の値の設定そのものが違1B9h 104h
っていると考えられる。
また、タッチ・パネルを正確に押さえるペンが必要で、先端が太すぎないか確認する。
(カ) 駆動・検出回路の波形観測
4線式抵抗膜方式では、Vの電圧値がタッチ・パ
ネルのX座標側の抵抗体(R とする)に印加するとX
電位が発生する。R の右端にほぼVに近い値となるX
(写真8 。)
タッチ・パネルにタッチすると、その位置のR とX
Y XY座標側の抵抗体(R とする)が接触するのでR
の電圧をR で計測でき、タッチした場所のX座標がY
分かる。
(2) 座標を計算してボタン操作する方法 写真8 波形観測
今回の研究では、A D変換したタッチ・パネル・データを寸法座標データにしたり画面のドッ-
ト座標データに変換するのかについて実験しながら理解する。
インチの4線式抵抗膜方式タッチ・パネルとその駆動回路をそのまま使って実験する。例え5.7
5.7 118mm 88mmば インチの液晶ディスプレイ LCD の場合 タッチできる寸法範囲はX= Y=( ) 、 、
で、そのときの最も端のA D変換値は以下の通りである。-
(0、0) =(X 、Y )=( 、 )min min 30h 38h
( 、 )=(X 、Y )=( 、 )118 88 3D0h 3B8hmax max
そして、これらの計算式も求めたが、タッチ・パネル・コントローラ回路の検証のため、A D-
変換値を求める式であった。今度は逆に A D変換値から寸法を求める式に変換する。-
X[ ]= ×(X -X )/(X -X )mm 118 D min max min
= ×(X - )/( - )118 30h 3D0h 30hD
Y[ ]= ×(Y -Y )/(Y -Y )mm 88 D min max min
= ×(Y - )/( - )88 38h 3B8h 38hD
この数式を使って実験を行った。方眼紙に書いたスイッチを認識させる。
方眼紙に、写真9のような四角形を書いて、その上にタッチ・パネルを乗せる。書く場所は、例
えば左から ㎜、上から ㎜(下から ㎜)の位置から横 ㎜、 縦 ㎜の四角形を書く。20 30 38 50 20
、 。この ㎜× ㎜の四角いエリアをタッチ・ペンで押すと 写真 のようにLEDが点灯する50 20 10
写真9 方眼紙に書いたスケッチ 写真 LEDが点灯10
電源を入れてスイッチのエリアをタッチしてみると、LEDが点灯し、スイッチ以外をタッチし
てもLEDは点灯しない。また、タッチした位置がどのような座標としてされているか、リアルタ
イムでパソコンのハイパーターミナルの画面で確認することができた。
(3) を活用する方法Excel
ハイパーターミナル画面に表示されるデータは、左側がX、右側がYのデータである。CPU内
蔵の ビットA Dコンバータを使っているので ~ まで値をとることができる。適当に10 - 000h 3FFh
タッチ・パネルにタッチしてみると数値が変化することが理解できたので、今、本校の実習で展開
している を使う方法を考えた。Excel
図4 実験結果
ハイパーターミナル画面に表示されるデータは、多変量のデータを取り扱うことから、散布図を
利用することにした。
実験結果は、図4の通りである。
タッチ・パネルのR とR に順次電圧を印加し、A D変換のデータをプロットして、タッチしX Y -
た軌跡を観察することができた。
6 結果と考察
4線式抵抗膜方式のタッチ・パネルを使って、A D変換値をパソコン上に表示したり、タッチ・-
パネルの駆動・検出波形を観測することができた。
このことから位置に応じた処理をソフトウェアで記述すれば、分かりやすい操作で機器を動作させ
ることができる。さらには、タッチ・パネルを使った実験をすることで、タッチ・パネルの使い方を
より深く理解することができた。
今後は、判定する基準を考えたプログラムの解析をはじめ、タッチ・パネル・コントローラ基板や
実験用インターフェース基板の製作をしていきたい。
7 おわりに
現在、携帯電話、携帯型ゲーム器、電卓、時計など小型液晶表示器が非常に多くの機器で使われて
いる。タッチ・パネルは、消費電力も少なく、マイコンなどからの制御も容易であるため、簡単に使
えて便利なものである。
今回の研究では、4線式抵抗膜方式のタッチ・パネルを用いた実習の取り組みを考えた。特に、生
徒たちが興味・関心を持っている内容にしたテーマづくりができたと考えている。今後も、より一層
研究を重ね、タッチ・パネルの制御を行う実習も展開していきたい。
参考文献
トランジスタ技術 №78 CQ出版社
トランジスタ技術 2009年8月 CQ出版社
LCD&タッチセンサ活用の素 技術評論社
タッチ・パネル 要点解説 工業調査会
インターフェース 2010年7月 CQ出版社