ワイン酵母oc-2株のura3遺伝子破壊株の構築j. brew. soc. japan. vol.108, no. 3, p....

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ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築 誌名 誌名 日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan ISSN ISSN 09147314 巻/号 巻/号 1083 掲載ページ 掲載ページ p. 181-187 発行年月 発行年月 2013年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築J. Brew. Soc. Japan. Vol.108, No. 3, p. 181 ~ 187 (2013) 研究報文ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築

ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築

誌名誌名 日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan

ISSNISSN 09147314

巻/号巻/号 1083

掲載ページ掲載ページ p. 181-187

発行年月発行年月 2013年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築J. Brew. Soc. Japan. Vol.108, No. 3, p. 181 ~ 187 (2013) 研究報文ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築

J. Brew. Soc. Japan. Vol.108, No. 3, p. 181 ~ 187 (2013) 研究報文

ワイン酵母 OC-2株の URA3遺伝子破壊株の構築

三木健夫 lホ・安藤直哉 1 谷本守正 1・村松 昇 1・添川ー寛 2・猪狩信次 2・林 幹雄 2

e山梨大学大学院医学工学総合研究部 2 (株)林農園)

平成 24年6月7日受理

Construction of a URA3 gene deletion mutant in J apanese wine yeast OC-2.

Takeo MIKI[" Naoya AND01, Morimasa TANIMOT01

, Noboru MURAlv!ATSU1, Kazuhiro SOEKAWA2,

Shinji IKARI2, Mikio HA Y ASHI2

(IInterdisciplinary Graduate School of Medicineαnd Engineering, Universi砂ofYamanashi,4-4-37, Takeda, Kofu, Yama-

nαshi, 400-8510

2Hyashi Win巴ηCo,Ltd., 1298 Ki匂Jogaharα,Soug.α, Shi吋iri,Nagano, 399-6461)

Construction of a URA3 gene deletion mutant in J apanese wine yeast Saccharomyces cerevisiae OC-2

JCM1499 applying Cre-loxP system was carried out in this study. The Cre-loxP system can eliminate the

KanMX positive marker gene from th巴 genomeafter homologous recombination. The URA3 disruption

cassette containing a G418 resistant gene (KanMX) was designed by a URA3 gene sequence of OC-2

and amplified by recombinant PCR. As a result of transforming the cassette into OC-2, G418-resistant colo-

nies were obtained by the rate for 1.02 x 103cfu/μg DNA. Furthermore, URA310ci homo-knockout colonies

appeared at th巴 rateof 0.12% among G418-resistant coloni白 Thestrain OCL'lura3-KM could not grow on

the Uracil d巴ficientm巴dium,thus confirming a Uracil requirement. The following step of巴liminationof the

KanMX marker gene from OCL'lura3-KM genome was carried out. Fortunately, we were able to obtain a

URA3 gene deletion mutant (OCムura3)from J apanese wine yeast Saccharomyces cerevisiae OC-2.The

fermentation ability of OCL'lura3 and its parent yeast strain OC-2 is similar to that in synthetic grape juice目

Key words : URA3遺伝子,Saccharomyces cerevisiαe OC-2株, Cre-loxPシステム

緒言

酵母は様々な発酵食品および酒類製造に用いられる

ばかりでなく,実験室酵母として広く研究にも用いら

れている。特に,染色体上の遺伝子について相同組換

え現象が起こることが,主に実験室酵母 Saccharomy

ces cerevisiaeを用いて,明らかにされている1)。この

相同組換え現象を利用し,酵母の染色体 DNA塩基配

列の一部を破壊・変異させることができるようにな

り2) 細胞内で特定の遺伝子産物の生産を停止させる

ことが可能になった。この手法は部位特異的遺伝子破

壊技術と呼ばれ,実験室酵母を用いて,これまで困難

第 108巻 第 3号

であった遺伝子産物の機能解析を可能にしてきた。

一方,産業用酵母においては,遺伝子を破壊するた

めに広く用いられている方法として,抗生物質等に対

する耐性遺伝子を用いる方法 3) あるいは UV等によ

り遺伝子を変異させ,その後,変異株を選抜する方法

が用いられる 4)。しかし前者は遺伝子変異後も薬剤

耐性遺伝子が保持されるため DNA組換え体である事

や,後者は標的とする遺伝子以外の予期しない遺伝子

変異を想定しなくてはならず,両方法とも遺伝子変

異・破壊後の産業利用に支障が生じる可能性を否定で

きない。これらの技術的問題を解決するためには,実

験室酵母の場合と同様に染色体上の特定部位のみを標

181

Page 3: ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築J. Brew. Soc. Japan. Vol.108, No. 3, p. 181 ~ 187 (2013) 研究報文ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築

三木健夫・安藤・谷本・村松・添川・猪狩・林 ワイン酵母 OC-2株の URA3遺伝子破壊株の構築

的とした相同組換えによる遺伝子破壊を行う必要があ

る。

産業用酵母の遺伝子破壊は,実験室酵母を用いる場

合に比べて難しい。その一因として,ほとんどの産業

用酵母株が倍数体であることが挙げられる九即ち,

産業用酵母はワイン,ビール,清酒等の酒類製造およ

び製パン等の利用目的に合った酵母を自然環境より分

離するため,多くの株が倍数体である。

倍数イ本は破壊しようとする遺伝子が対立遺伝子座位

にも存在している可能性が高く,遺伝子ホモログが複

数存在するとされる。従って,産業用酵母の遺伝子破

壊株の取得と,その後の利用を考えた場合,ホモログ

全てを破壊した株を構築する必要がある。このため,

産業用酵母の遺伝子破壊には,複数の遺伝子座におい

て相同組換えを効率よく起こす方法が必須となる。

Guldenerらは 6) 従来の方法とは異なる新しい相

同組換え法について報告している。本法は,ポジテイ

ブマーカーとして広く用いられるアミノグリコシド系

抗生物質 (G418) に耐性を示す KanMX遺伝子の両

端に 34bpからなる loxP配列を配置した薬剤耐性マ

ーカーカセット(loxP-KanMX-loxP) を利用し 7) こ

のカセットによる相同組換えによって遺伝子破壊等を

行う。また,相同組換え後,染色体 DNAに組込まれ

たカセットは. Creリコンビナーゼを発現させる事に

よって loxP部位に挟まれた領域を欠失させることが

可能である。この Cre-loxPシステムは,欠失させた

KanrνfX耐性遺伝子を再度 別遺伝子の破壊に利用で

きる点で特徴を持つ。本法を用いることによって,多

くの酵母種で遺伝子破壊が可能で、あることが報告されている 8.9.10)。

Saccharomyces cerevisiae OC-2株は,日本で分離さ

れたワイン酵母である。この株を用いてワイン酵母の

特性の遺伝的背景を解析する場合,本株は遺伝子組換

えの成否を簡便に確認できる栄養要求マーカーを保持

しないことから,そのままの状態では実験操作を行う

ことが難しく,遺伝子操作による機能解析のために本

株への栄養要求マーカー付加が望まれている。

実験室酵母の場合,栄養要求マーカーとして多く利

用されるものの一つにウラシル要求性がある。ウラシ

ル生合成系路に位置する Orotidine-5'目phosphatede

carboxyla況をコードする URA3遺伝子を破壊,もし

くは変異させる事によって,ウラシル要求性マーカー

182

株が取得されている lI)o

本研究では. Guldenerらの方法を応用し 6) Sac

charomyces cerevisiae OC-2株に対してウラシル要求

性の付加,即ち URA3遺伝子の破壊を試みた。また,

本株の合成果汁培地における発酵能力についても調査

したので報告する。

実験方法

1.使用菌株および培地

供試菌株としておccharomycescerevisiae OC-2

]CM1499株 (MATa/tα) を使用した 5)。菌株の培養

には YPD培地 (2% Glucose. 1 % Yeast extract. 2 %

Polypepton) およびSD合成培地 (2% Glucose.

0.67% YNB w/o amino acids and ammonium sul-

fat巴)に 12種のアミノ酸を含む CSM-URA(MP Bio-

medicals. USA) を0.2%加えたものをイ吏用した。 SD

合成培地に G418(l.Omg/ml)および寒天 (2g/l) を

加えたものを KanMX遺伝子組換え株選択寒天培地

(G418培地)として用いた。同様に 5-Fluoroorotic

Acid Monohydrate (l.Omg/ml) およびUracil(10

μg/ml) を加えた培地を URA3遺伝子破壊株選択培

地 (5-FOA培地)として使用した。 Cre遺伝子発現

培地として. Gal培地 (2%Galactose. 1 % Yeast巴X

tract, 2% Polypepton) を使用した。また,菌株の発

酵試験には合成果汁培地 (20% Glucose. 0.67 %

YNB) を用いた。全ての培地は 1210

C. 15分の滅菌

処理を施した後,実験に用いた。

2. 培養条件

供試菌株を YPD液体培地に波長 610nmにおける

濁度が 0.1になるように接種後. 28tで振渥培養し濁

度 0.5になった時点で集菌を行った後,エレクトロポ

レーションに供試した。エレクトロポレーション後の

菌体は. G418 培地で 2~5 日間. 26tで静置培養し

た。合成果汁培地 (400ml) に対し,菌株を波長

610nmにおける濁度が 0.3になるように接種後. 200

C

で35日間,発酵させた。

3. DNA抽出法および PCR

染色体 DNAの抽出には Genとるくん TM (酵母用,

Takara-bio Co.. ] apan) を使用した。また, リコンビ

ナント PCRはPrimeSTAR Max DNA Polymerase

(Takara-bio Co.. ]apan) を使用し. PCR protocol

(Academic pr巴ss.CA, USA) にf足い千子った 12)o

醸協 (20l3)

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三木健夫・安藤・谷本・村松・添川・猪狩・林.ワイン酵母 OC-2株の URA3遺伝子破壊株の構築

4.各種プライマーおよびプラスミド

本実験で使用した PCRプライマーを第 1表に示し

た。全てのプライマーは Oligo@SIGMA-PCRサービ

ス (Sigma-Aldrich,Japan) にて合成されたものを購

入した。プラスミド BYP1463(pUG6) および

BYP1464 (pSH47) は,文部科学省「ナショナルバイ

オリソースプロジェクト:酵母」より購入した。また,

ウラシル要求性相補試験にはプラスミド pRS416を用

いた。

5.形質転換方法

酵母への遺伝子導入は, MicroPuls巴rエレクトロポ

レーター (Bio-Rad,Japan) を用いた。即ち,酵母溶

液 40μLおよび URA3遺伝子破壊用カセット DNA1

μgを0.2cmキユベットに投入し電圧1.5kV,5mSの

条件で遺伝子を細胞に導入した。エレクトロポレーシ

ヨン後の酵母細胞を G418培地に塗布し, 280

Cで 3日

間培養した後,生育可能であったコロニーを形質転換

体として取得した。また, pSH47およびpRS416を形

質転換体は, SD合成培地を用いて選択した。

6. スポットアッセイ

各 URA3遺伝子変異株を SD合成培地および、本培

地に Uracil(10μg/ml) を加えた培地に接種し, 280

C

で振塗培養した。波長 610nmにおける濁度が 0.3に

達した菌液 5μlを各培地にスポットした。各培地は

280

Cで 24~ 36時間培養した後,各株の生育状況を撮

影した。

実験結果

1) S. cerevisiae OC-2株の URA3遺伝子破壊カセッ

トの作製と形質転換

URA3遺伝子破壊の第一段階として,本遺伝子破

壊用カセットを作成した。 OC-2株より抽出した染色

体 DNAを鋳型として, Table 1に示したプライマー

セット A+CおよびB+Dを用いた 1stPCRを行

い, URA3遺伝子両端の部分塩基配列(約 100bp) を

増幅した (Fig.1)。プラスミドベクタ-BYP1463

(pUG6) を鋳型として,プライマーセット E+Fを

用いた PCRを行い, loxP-KanMX-loxP含む部分塩基

配列(約 1600bp) を増幅した (Fig.1)。各 DNA断片

nペυη

、υηべυ

n〈

υ内ぺU

q

ペυ

Oligo nucreotide prim巴rsusing in this study

Primer Name Sequence

A 5'-ATGTCGAAAGCT ACATAT AAGGAACGTGCT

B 5'-TTAGTTTTGCTGGCCGCATCTTCTCAAATA

C 5'-ACCTGCAGCGT ACGAAGCTT-GAACATCCAATGAAGCACACAAGTT

D 5'-AACTTGTGTGCTTCATTGGA TGTTCAAGCTTCGT ACGCTGCAGGT

E 5二TATCAGATCCACTAGTGGCC-ATCTGACATTATTATTGTTGGAAGA

F 5'-TCTTCCAACAAT AAT AATGTCAGA TGGCCACT AGTGGATCTGAT A

Table 1

Template: BYP1463

!Pr川 町 E,+一一___.m:t盟盟圏直監量m:t掴ト一一

+¥ Prij附 erF

Template目 OC-2genome

PrimerA令、 PrimerD

→ URA3 ← P司 EP B

¥ ・E函掴堕盟国監盟m:t掴

¥

仁王一四国司¥己

仁王1 st PCR products

Recombinant PCR

183

| E園盟園田盟国益 |

Fig. 1 Construction diagram of the URA3 gene disruption cassette by recombinant PCR.

Oligo nucleotide sequences of primers are shown in Table 1.

第 108巻

URA3 disruption cassette (1841 bp)

第 3号

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三木健夫・安藤・谷本 ・村松 ・添)11・猪狩 ・林 ワイン酵母 OC-2株の URA3遺伝子破壊株の構築

をアガロースケ、ル電気泳動後に精製し,これを鋳型に

プラ イマーセッ トA+Bを用いた リコンビナント

PCRを行った結果,約 1.8kbp付近に目 的産物と思わ

れるバン ドが現れた (Fig.2. Panel A)。このバン ド

をアガロースゲルより 切り取り, DNAを精製するこ

とによって URA3遺伝子破壊カセッ トを得た。

URA3遺伝子破壊用カセット DNAを酵母へ形質転

換した結果,抗生物質 G418に耐性を示す形質転換体

は 1.02x103cfu/μgDNAの頻度で得られた。さらに,

G418 耐性株 ( 1 680 株)を • URA3遺伝子を持つ株は

生育不能となる 5-FOA培地にて選択した結果,生育

可能であった株は 2株のみであり,その取得確率は約

012%であった。

G418l耐性株と G418および 5-FOAに耐性を示す株

より染色体 DNAを抽出し,プラ イマーセッ トA+

B を用いて URA3遺伝子座をターゲッ 卜にPCRを行

った結果, それぞれ異なる 2つのバンドパターンが観

A) B)

1 2 1 2 3 4 5

Fig. 2 Molecular weight determination of PCR prod-

ucts by agarose gel electrophoresis.

Panel (A) shows URA3 gene disruption cassette

made by r巴combinantPCR. Lane 1, A/ Hin dIII ; lane

2. Recombinant PCR products. Arrow indicates

URA3 disruption cassette DNA (about 1841bp)

Panel (B) shows PCR amplification targeting URA3

loci. Lane1. AlHin dIII; lane 2, S. cerevisiae OC-2; lane

3, S. cerevisiae OC-2 (URA3/ L'lura3-KM); lane 4, 5

cerevisiae OC-2 (L'lura3-KM); lane 5. S. cerevisiae

OC-2 (L'lura3. URA3 gene deletion variant). Agarose

gel (l.0%) was used to the electrophoresis (lOOV.

35min.).

184

察された (Fig.2)0 .ellち,一つは約 800bp(URA3遺

伝子と 同サイズ)と約 1.8klコpの 2バンドが増幅され

るパターン (Fig.2,Panel B, lane 3)および約 1.8kbp

のバンドのみが増111]i¥されるパターン (Fig.2,Panel B,

lane 4)が見られた。前者は, 2倍体の URA3遺伝子

座のうち片方だけが遺伝子破壊カセッ トと組換わった

ヘテロ破壊株であり, G418耐性株のほ とんどがヘテ

ロ破壊株であった。一方,後者は両方の URA3遺伝

子座が組換わったホモ破壊株と考えられ, G418およ

び5-FOA耐性を示す 2株のみがホモ破壊株であった。

この実験で得られた URA3遺伝子ホモ破壊株 (Fig.2,

Panel B, lane 4) をOCL'lura3-KM1~ミとした。

2) OCL'lura3-KM株の KanMX遺伝子の除去

上述のように本研究では, Guldenerらの方法 6)を

用いて遺伝子を破壊した。本システムは.一度,染色

体に組み込まれた KanMX薬剤耐性マーカー遺伝子

を含む遺伝子破壊カセ ットを除去する事が可能で与ある。

具体的には,カセットに含まれる loxP配列 (34bp)

を認識する Creリコンビナーゼ (CRE遺伝子)を発

現させ, loxP配列に挟まれた領域を欠失させる。そ

こで,OCL'lura3-KM株の URA3遺伝子破壊カセ ット

の除去を試みた。本株にプラスミドベクター pSH47

(CEN6, ARSH4, Ampll, URA3, GAL1Pro-CRE) を M~

質転換し, GAL1プロモーターを持つ Cre遺伝子を

発現させるために Gal液体培地 (5ml)で 3EI間培養

し培養後, Gal寒天培地上でシングルコロニーを取

得した。取得株より染色体 DNAを十111出し, URA3遺

伝子をタ ーゲッ トとした PCRを行った結果,染色体

上に残存した URA3の両端部分(約 200bp)を増幅

した思われるバン ドが観察さ れたものの, URA3遺

伝子 (約 800bp)の存在を示す増幅産物は観察されな

くなった (Fig2,Panel B, lane 5)。この結果から,

OCL'lura3-KM株の URA3遺伝子破壊カセッ トは染色

体 DNAから除去され,遺伝子型として URA3遺伝

子を欠失 した OC-2株を得ることができた。そこで,

本株を OCL'lura3株と命名した。

3)各 URA3変異株の薬剤耐性および栄養要求性

OC-2親株および URA3遺伝子変異株の各プレート

における生育状態を Fig.3に示した。いずれの株も

YPD培地では良好に生育したのに対して, G418を含

む培地では, OCL'lura3-KM株のみが生育し, 5-FOA

培地では OCL'lura3・KM株および OCL'lura3株が生育

醸協 (2013)

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ニ木健夫 目安藤 ・谷本 ・村松・ 1奈川・猪狩・林 ワイン酵母 OC-2株の URA3逃伝子破壊事1,の構築

A 14 D C B

-O-Control

寸トOCd.ura3+pRS416

12

10

6

4

2

8 (式)ち

S召叫

YPD

G418

Uracil

deficient

35

Time (Days)

Comparison of fermentation ability between

S. cerevisiae OC-2 and OC/::"ura3

30 25 20 15 10 5 。。

イン酵母の特性について分子生物学的解析に供する目

的で,その URA3迫イ云子破壊株を構築した。

G418耐性遺伝子を中央に持つ URA3遺伝子破壊カ

セッ ト (Fig.l)を作製し, OC-2株に形質転換した結

果, G418培地で生育可能な株が得られ,その URA3

遺伝子座位の塩基長を調査した結果, 2つのバンドパ

ターンが観察された (Fig.2,Pan巴IB, lane 3 and 4)。

この結果から, 2倍体で生育する OC-2株の URA3遺

伝子座位は複数存在し, URA3遺伝子破壊カセット

とlか所のみ組換わったヘテロ破壊株と 2か所とも組

換わったホモ破壊株 (OC/::"ura3-KM)が現れること

がわかった。さらに, OC/::"ura3-KM株は 5-FOAおよ

びG418培地で生育したが ウラシルを含まない SD

培地では生育不能であり,ウラシル要求性を示すこと

が確認された (Fig.3,lane B)。 これらの結果は,

URA3遺伝子破壊カセットが有効に働き, OC-2株の

染色体上の URA3座位に相同的組換えが起こったこ

とを示している。

本実験では,線状 DNAである URA3遺伝子破壊

用カセットを用いて形質転換を行ったが,その転換

効率は 1.02x 103cfll/μg DNAであった。 E字母に環状

プラスミドをエレクトロポ レーション法にて形質転換

した場合,その形質転換効率は 1.0X 103-6の間にあ

るとされており 13) 先述の値と比較しでも極端な差

はなく,ワイン酵母 OC-2株より, G418耐性株を符

Fig.4

Growth ability determination of the URA3

gene recombinant variant in each medillm by

spot assay

The ingredients of each medillm are described in

Materials and Methods. COlllmn A: S. cerevisiae OC-

2; Colllmn B: OC/::"ura3-KM; Colllmn C: OC/::"ura3;

Colllmn 0: OC/::"ura3 with plasmid pRS416

5-FOA

Fig.3

185

可能で、あった (Fig.3,laneB and C)。逆に,両株はウ

ラシルを含まない SD培地で生育不能で、あった。一方,

OC/::"ura3株に URA3遺伝子を保持するプラスミドで

ある pRS416を形質転換した株を作製し,同様に試験

した結果,親株と同じ生育パターンを示した (Fig.3,

laneA and 0) これらの結果から,OC/::"ura3株はウ

ラシル要求性を示し, pRS416由来の URA3遺伝子に

よって栄養要求性を相補で、きることがわかった。

4) OC/::"ura3株の発酵能力

合成果汁培地 (300ml)における OC-2親株および

OC/::"ura3 株に pRS416 を ~l~質転換した株の発酵能力

を比較した (Fig.4)。両株とも,実験開始直後より発

酵を開始し, 30日目でほぼ発酵が終了した。35日目

における各培地のエタノール濃度は,親株および OC

/::"ul'a3:pRS416形質転換体で,それぞれ 12.9および

12.6%であり ,合成果汁培地における両株の発酵能力

に大きな差は見られなかった。

本研究では, Guldenerらの方法 6)を応用し, 日本

で分離された Saccharomycescerevisiae OC-2株をワ

ロロロロロロ ロロロ

第 3 号第 108巻

Page 7: ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築J. Brew. Soc. Japan. Vol.108, No. 3, p. 181 ~ 187 (2013) 研究報文ワイン酵母OC-2株のURA3遺伝子破壊株の構築

三木健夫・安藤・谷本・村松・添川・猪狩・林・ワイン酵母 OC-2株の URA3遺伝子破壊株の構築

るには十分な効率を示すことがわかった。一方,

G418耐性株中に占める OCt1ura3-KM株の割合は

0.12%程度あるとると予想され,一度の形質転換で複

数の遺伝子を破壊することは可能ではあるものの,か

なり低い確率であることがわかった。

本研究で用いた Guldenerらの方法は 6) 比較的効

率よく相同組換えが起こる事に加えて, 目的遺伝子を

破壊した後, loxP-KanMX-loxPカセット部分を除去

できる点で優れている。具体的には,酵母細胞内に

loxP配列 (34bp) を認識する Creリコンビナーゼを

発現させることにより, loxP配列に挟まれた DNA

領域が脱落する 14)。これまでに Cre-loxPシステムを

利用し染色体DNAの相同組換えおよびKan-MX

マーカー遺伝子の除去に成功した例として,S. cerevi

sia/) , Kluyveromyces lactisl5), Yarro例 αJψolytical6

),

Schizosaccharomycesρombel7), Candida albicαns1S),

Kluyveromyces marxianusl9)で、報告がある。本研究に

おいても ,OCt1ura3-KM株より ,URA3遺伝子破壊

カセット(loxP-KanMX-loxP)の除去を試みた結果,

OCムura3-KM株のカセットの除去に成功した。この

ことから, OCムura3-KM株においても上記の各酵母

種と同様に Cre-loxPシステムが機能することがわか

った。一方, Creリコンビナーゼ遺伝子を保持する

pSH47プラスミドには, URA3が含まれている。従

って,本プラスミドを保持する株は, 5-FOA培地で

生育できない。本研究では,OCt1ura3-KM株に

pSH47を形質転換し URA3遺伝子破壊カセットを

欠失させた株,即ち OCムura3株を構築したが,本株

は5-FOA培地で生育可能あった。この事実から, OC

ムura3株より pSH47は脱落していると考えられた。

逆に, URA3を保持するプラスミド pRS416をOCム

ura3株に形質転換した株は, 5-FOA 培地で生育不能

であったことから,URA3を保持する OCt1ura3株は

5-FOAにより選択可能であることが裏付けられた。

さらに,本株はウラシル要求性を相補したことから,

他属酵母と同様に栄養マーカーを持つ酵母株として,

種々の形質転換系のホストセルとして使用可能で、ある

ことが示された。

遺伝子破壊によって,発酵能力が影響を受ける場合

がある却)。そこで,本研究においても ,URA3遺伝

子破壊株の発酵能力について検証を行った。本実験で

は,ウラシルをほとんど含まないブドウ果汁に近い組

186

成の合成果汁培地を実験に供した。合成果汁培地にお

いて OCムura3株の pRS416形質転換体は,親株との

聞に発酵能に差が見られなかったことから,発酵時に

おけるワイン酵母の生理機能について遺伝子を用いた

機能解析が可能であることが示された。

ワイン醸造や各種産業に利用される酵母には高い安

全性が要求される。遺伝子組換え酵母を産業用に利用

しようとする場合,厚生労働省食品安全委員会により

決定された「遺伝子組換え食品(微生物)の安全性評

価基準Jに適合する必要がある 21)。他方,ワイン醸

造用酵母を含めた食品製造等を主たる使用目的とする

産業用酵母においては,産業上のメリットを有する遺

伝子組換え株以外,実用利用に至るケースは多くはな

い。結果的に産業用酵母への遺伝子破壊技術の導入は

実験室酵母に比べ限定的となり,遺伝子破壊株を用い

た生理学的研究は進みにくい状況にある。本研究で用

いた Cre-loxPシステムは,遺伝子組換え後も薬剤耐

性遺伝子を保持せず,また予期しない遺伝子変異を想

定する必要もないことから今後,発酵産業への利用が

期待できる。また,本研究で構築した OCt1ura3株

(MATα/a,ムura3) を用いて,ワイン酵母の遺伝子

解析,特にプロリン資化に影響する遺伝子の調査を行

う予定である。

謝辞

本研究は,科学研究費補助金(基盤研究 C)の助成

を受けて実施した。

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