漁川ダム貯水池における 水質保全の取り組みについて - …ジェオスミン...

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Masahiro Yasuda,Toshiaki Kikuchi,Takahiro Nishida 平成24年度 漁川ダム貯水池における 水質保全の取り組みについて 札幌開発建設部 千歳川河川事務所 漁川ダム管理支所 ○安田 昌弘 菊地 敏秋 西田 貴博 漁川ダム貯水池は、道央圏4市の水道水源として重要な役割を担っており、水環境を保全し ていくことが重要である。しかし、長年、カビ臭が問題となり、湖水循環装置の設置や堆砂掘 削を中心とした対策が実施され水質保全に努めてきた。本報告は、漁川ダム貯水池に設置され た湖水循環装置による水質保全の取り組みと、その効果について水質調査結果を考察し報告す るものである。 キーワード:水質保全、湖水循環 1. 漁川ダムの概要 漁川は、千歳川最大の支川であり、その源は漁岳に 発し、幹線流路延長46.8kmである。 漁川ダムは、千歳川水域総合計画の一環として、千 歳川合流点より約25km上流の恵庭市漁平に昭和55年に 完成した多目的ダムで、堤高45.5m、堤頂長270.0m、総 貯水容量15,300千m3、流域面積113.3km 2 、湛水面積1.1km 2 を有するロックフィルダムである。洪水調節、正常流 量の確保のほか、石狩東部地区の水道用水供給を目的 とした多目的ダムである。図-1に位置図を示す。 図-1 恵庭市(漁川ダム)の位置 2. これまでの課題と対策の経緯、現状の課題 (1)カビ臭の発生と防止対策の経緯 漁川ダムの集水域には特定の汚濁源はない。しかし、 平成 5 年より顕著にカビ臭が起こり、利水者より早急 な対策が求められていた。この要請を受け、平成 11 年 より本格的な原因を究明した結果、カビ臭物質はジェ オスミンによるもので、カビ臭発生のメカニズムは次 のとおり推定された。模式図を図-2 に示す。 堆積土砂の進行により、貯水池上流部に棚状の浅瀬 が形成される。 貯水池内に流入する放線菌が、棚上の浅水部で日光 により水温上昇した環境下で活性化し増殖する。 増殖した放線菌は、棚部から嫌気化した貯水池深水 部に移流する。この深水部に放線菌が沈降すると希 薄な酸素のため死滅する。 放線菌体内に生成されたジェオスミンが水中に拡散 し、漁川ダムのカビ臭発生の原因となっている。 これらを踏まえ、平成 13 年より 5 ヶ年計画で貯水池 水質保全事業を立ち上げ、カビ臭の防止対策として放 線菌の繁殖域となっている浅瀬の解消と、堆積土砂の 形状が要因で貯水池深層部に形成された嫌気層の改善 を主目的として、湖水循環装置の導入、堆砂掘削など が実施された。図-3 にその模式図を示す。 図-2 カビ臭発生のメカニズムの模式図 図-3 カビ臭防止対策の模式図

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Page 1: 漁川ダム貯水池における 水質保全の取り組みについて - …ジェオスミン (ng/L) DO 目標値 ジェオスミン 施設諸元 ・空気揚水筒 1台 ・コンプレッサー

Masahiro Yasuda,Toshiaki Kikuchi,Takahiro Nishida

平成24年度

漁川ダム貯水池における 水質保全の取り組みについて

札幌開発建設部 千歳川河川事務所 漁川ダム管理支所 ○安田 昌弘

菊地 敏秋

西田 貴博

漁川ダム貯水池は、道央圏4市の水道水源として重要な役割を担っており、水環境を保全し

ていくことが重要である。しかし、長年、カビ臭が問題となり、湖水循環装置の設置や堆砂掘

削を中心とした対策が実施され水質保全に努めてきた。本報告は、漁川ダム貯水池に設置され

た湖水循環装置による水質保全の取り組みと、その効果について水質調査結果を考察し報告す

るものである。

キーワード:水質保全、湖水循環

1. 漁川ダムの概要

漁川は、千歳川 大の支川であり、その源は漁岳に

発し、幹線流路延長46.8kmである。

漁川ダムは、千歳川水域総合計画の一環として、千

歳川合流点より約25km上流の恵庭市漁平に昭和55年に

完成した多目的ダムで、堤高45.5m、堤頂長270.0m、総

貯水容量15,300千m3、流域面積113.3km2、湛水面積1.1km2

を有するロックフィルダムである。洪水調節、正常流

量の確保のほか、石狩東部地区の水道用水供給を目的

とした多目的ダムである。図-1に位置図を示す。

図-1 恵庭市(漁川ダム)の位置

2. これまでの課題と対策の経緯、現状の課題

(1)カビ臭の発生と防止対策の経緯

漁川ダムの集水域には特定の汚濁源はない。しかし、

平成 5 年より顕著にカビ臭が起こり、利水者より早急

な対策が求められていた。この要請を受け、平成 11 年

より本格的な原因を究明した結果、カビ臭物質はジェ

オスミンによるもので、カビ臭発生のメカニズムは次

のとおり推定された。模式図を図-2に示す。

① 堆積土砂の進行により、貯水池上流部に棚状の浅瀬

が形成される。

② 貯水池内に流入する放線菌が、棚上の浅水部で日光

により水温上昇した環境下で活性化し増殖する。

③ 増殖した放線菌は、棚部から嫌気化した貯水池深水

部に移流する。この深水部に放線菌が沈降すると希

薄な酸素のため死滅する。

④ 放線菌体内に生成されたジェオスミンが水中に拡散

し、漁川ダムのカビ臭発生の原因となっている。

これらを踏まえ、平成 13 年より 5ヶ年計画で貯水池

水質保全事業を立ち上げ、カビ臭の防止対策として放

線菌の繁殖域となっている浅瀬の解消と、堆積土砂の

形状が要因で貯水池深層部に形成された嫌気層の改善

を主目的として、湖水循環装置の導入、堆砂掘削など

が実施された。図-3にその模式図を示す。

図-2 カビ臭発生のメカニズムの模式図

図-3 カビ臭防止対策の模式図

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(3)水質保全の目標と対策

a)貯水池水質保全事業の概要

貯水池水質保全事業の具体的対策として、平成 14 年

度から堆積土砂の掘削が開始され、曝気式湖水循環装

置の設置に関する検討が行われ、翌年、カビ臭発生の

抑制対策としてダムサイト湖底付近に曝気循環装置を

設置、同年稼動が開始された。

b)水質改善目標と曝気式湖水循環装置の設置

漁川ダムでは、貯水池の嫌気化改善に必要なDOを

6mg/L以上として目標値を設定している。これは既往の

カビ臭発生期間におけるDOとジェオスミンの関係より

設定したものでその関係図を図-4に示す。この相関関

係によればDOが6mg/L程度に低下した時、ジェオスミン

濃度は5ng/L程度に上昇する。この濃度は、過去に水道

利用者から苦情があった 小濃度であり、ジェオスミ

ン定量下限値と同程度である。従って、カビ臭の改善

目標値として、ジェオスミン5ng/L以下とし、貯水池の

嫌気化改善に必要なDOを6mg/L以上とした。

湖水循環装置は、間欠式空気揚水筒式が採用され、

融雪出水後の 5 月中旬から 9 月中旬のカビ臭発生の

恐れがある期間において連続運転を行っている。設

備概要を図-5 に示す。

図-4 DO とジェオスミンの関係

図-5 間欠式揚水筒型曝気装置の概要

c)堆砂掘削の概要

漁川ダムの堆砂形状の特徴は図-6 に示すようにテラ

ス状の堆砂棚が縦断的に発達し、制限水位との水位差

は、2~3m 程度であった。さらに、堆砂棚下流端からダ

ムサイトまでは、13~15m の深度が続くため水循環が鈍

く、深水部では嫌気層を形成している。

堆砂掘削は、堆砂棚部の水深を確保し、放線菌の抑

制を図る目的で、約 60 万 m3 の土砂掘削がを行い、制

限水位との水深は、4m 程度確保された。掘削形状は、

カビ臭発生が顕著となる以前の S60 頃の河床と近似す

る。

図-6 漁川ダムの堆砂状況

(4)循環装置運用後の効果と課題

事業着手前から循環装置設置後のDOとジェオスミン

の濃度推移は、以下に示す表-1、図-7のように示され

る。事業実施前に比べ、事業実施後はDO濃度は管理目

標値を概ね達成している状況にあり、ジェオスミン濃

度は低く安定しており、堆砂掘削並びに湖水循環装置

設置については効果が認められた。

表-1 DO、ジェオスミン平均濃度の推移

図-7 DO、ジェオスミン濃度の推移

事業期間 DO(mg/L) ジェオスミン(ng/L)

実施前(H9~H13) 5.0 13.6

実施中(H13~H18) 5.5 6.7

実施後(H18~H23) 7.9 5.6

0

2

4

6

8

10

12

14

H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23

DO(

mg/L)

目標値 6.0mg/L 以上

事業実施前 事業実施中 事業実施後

0

10

20

30

40

50

H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23

ジェ

オス

ミン

(ng/L)

水道水基準値 10.0ng/L 以下

事業実施前 事業実施中 事業実施後

DO(下層)

DO(底泥直上)

DO平均値 DO目標値

ジェオスミン(下層)

ジェオスミン(底泥直上)

ジェオスミン平均値 ジェオスミン目標値

0

2

4

6

8

10

12

14

16

5/13 5/28 6/12 6/27 7/12 7/27 8/11 8/26 9/10 9/25

DO (mg/

L)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

ジェオ

スミン

(ng/

L)

DO

目標値

ジェオスミン

●施設諸元・空気揚水筒 1台・コンプレッサー 22kw・空気量 3,700L/min

145

148

151

154

157

160

163

166

169

0 250 500 750 1000 1250 1500 1750 2000 2250 2500 2750 3000 3250

貯水

位[

EL]

(m)

ダム堤体からの距離(m)

S54河床

S60河床

H13河床

H17河床

常時満水位 EL=164.3m

制限水位 EL=161.0m

最低水位 EL=154.6m

水質運用水位(変更前) EL=159.0m

水質運用水位(変更後) EL=157.0m

930m

深層部 堆砂部

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Masahiro Yasuda,Toshiaki Kikuchi,Takahiro Nishida

しかしながら、循環装置設置・稼動後の平成18 年に

は小規模なカビ臭の発生や、平成20 年度においてもジ

ェオスミン濃度も高くなる時期があった。これは、渇

水等により貯水位低下時やダム流入量減少時にDO濃度

の低下が生じていたものと推定される。図-8に、平成

20年のダムサイトDO鉛直分布を示す。これによれば、5

~6月(EL160m以上)はDOの鉛直分布の大きな濃度差は

発生せず、低い水位で運用される7~9月に下層付近の

濃度低下が発生している。

図-8 DOの鉛直分布(H20ダムサイト)

以上のことから、渇水等による貯水位、流入量低下

時において嫌気化することが推察されたため、現有循

環装置の能力と効果を踏まえた新たな湖水循環装置の

増設仕様、位置、運用方法等の検討実施が必要となっ

た。

3.湖水循環装置増設の検討と概要

(1)現有機の機能検証と課題の整理

循環装置の増設検討にあたり、現有循環装置の能力

と効果を把握するため、投げ込み式水質測定器による

水質調査とADCPによる湖水流動計測を実施した。あわ

せて、湖水および底泥が必要とする酸素量を把握する

ため、酸素消費速度試験を行った。図-9に調査位置図

を示す。また、現有循環装置の運用を加味した貯水池

の水質変化予測を行うため、流入水質・放流量などの

「水象条件」、「気象条件」、「水質条件」を用いて、

鉛直2 次元流動モデル4)を基礎とし、水温や植物プラン

クトン(クロロフィル換算)消長を計算する水質モデ

ルを運用し、貯水池内の流動・DO 等について計算した。

図-9 湖水流動計測試験位置

湖水流動調査の結果を表-2、図-10に示す。現有循環

装置の有効範囲は、貯水位159.3mで100mであり、水位

が3m程度低下した場合、有効範囲が50mと循環能力が

半減しており、下層付近の循環混合効果が低下してい

る。また、循環装置の気泡吐出敷高がEL155.0m であり、

水位がEL156.0m 以下まで低下した場合、循環機能が大

幅に低下することが推定された。

表-2 現有循環装置の水位別能力比較

図-10 水質測定器・ADCP測定結果

図-11は、ダム流入量が低水流量相当のQ=3.0m3/s時

にEL156m、EL158m、EL160m 及びEL162m で運用した場合

の鉛直2次元モデルによる計算結果で、DO 濃度の目標

値である6.0mg/L を1 日目で下回る可能性を示している。

このことは、湖水循環装置を常時運用し貯水位が高い

145

150

155

160

165

4 6 8 10 12 14

DO(mg/L)

貯水位(

m) 5/15

6/19

7/16

8/13

9/17

取水塔

湖水循環装置ADCP観測・湖水底泥採取

水質機器測定測線

測定時の貯水位 159.3m 156.6m

循環装置近傍の流速 50mm 20mm

鉛直循環発生地点(循環装置からの距離)

有効な循環流の到達距離

(循環装置からの距離)

30m 20m

100m 50m

(mg/L)

100m 0m 100m

流動到達距離 100m

鉛直循環範囲 30m

流動到達距離 50m

鉛直循環範囲 20m

DO

(循環装置設置箇所)下流(ダムサイト)方向上流方向

09/08/24 WL=159.3

09/09/14 WL=156.6

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Masahiro Yasuda,Toshiaki Kikuchi,Takahiro Nishida

場合でも、ダム流入量が減少時には底層へのDO供給が

不十分となり、嫌気化が進行することを意味している。

貯水位を156m 付近で運用したケースでは、湖水循環

装置がその構造上機能しなくなる(揚水筒TOP より水

面までの距離が1.0m 以下になる)ため、DO 濃度の急速

な低下が発生し、下層DO 濃度は1日で6.0mg/Lを下周り、

7 日間程度で5mg/L 以下まで低下している。

漁川ダムの 低水位はEL154.6mで、EL156.0m~154.6m

の間で水位管理がなされる場合(目標確保水位で8月下

旬~9月上旬)、循環装置が機能停止した際にカビ臭発

生リスクが高まることになる。

図-11 流入量の違いによる下層DO濃度の変化

(2)増設機の選定

循環装置に必要な機能はEL152.0m以深への恒常的なDO

供給である。この条件に適応する機種として、表層の

酸素豊富な水を直接下層に送水することができること、

気泡より広範囲に酸素を供給できること、経済性等を

勘案してプロペラ式循環装置を選定した。設備諸元を

図-12に示す。

定格流量:1,000m3/h

定格出力:2.2kw

図-12 プロペラ式循環装置の概要

循環装置に求められる能力は、貯水位低下時に現有

循環装置が機能停止した場合に発生する嫌気層の酸素

濃度を回復させるために必要な酸素量を恒常的に供給

することである。必要酸素量は、底泥および湖水の酸

素消費速度試験の結果から、嫌気層が発生する貯水容

量と湖底面積を用いて嫌気層の酸素濃度を回復させる

ために必要な酸素量が190.8kg/dayであることを算出し

た。表層水のDO濃度を10mg/Lとした場合、これに表層DO

濃度の変動と装置流路部分の圧力損失等を考慮して

1,000m3/hの定格流量とした。

また、ダム流入量減少時においても、DO濃度の低下

が懸念されるため、常時は250m3/hの送水を行うことに

より循環能力の強化を図るとともに、貯水位低下時の

必要酸素量が増大した場合へも対応できるよう、送水

量の切替を行える設備としている。なお、湖面結氷に

よる浮体への損傷は、プロペラの逆回転による凍結防

止対策により保護する構造となっている。

4. 効果検証結果

(1)効果検証方法

増設した循環装置は、EL152.0m以深への恒常的なDOの

供給と鉛直混合規模の維持を目的としている。この効

果を検証するため、投げ込み式水質測定器(プロファ

イラ)による湖内水質測定と、過年度に実施した堆砂

測量次の河床地形メッシュデータを基にした水質の3次

元分布を検証した。調査の概要を以下に列記する。

<調査地点>

•図-13に示す貯水池内11測線

観測地点は既往調査箇所と同一地点である堆砂測量

断面上の3点(LCR)とし、調査地点への誘導はGPSを使

用している。

図-13 調査地点

<調査時期および貯水位>

•第1回 ・・・稼動直前(H24.07.30 WL=158.18m)

•第2回 ・・・稼動4日後(H24.08.03 WL=158.28m)

•第3回 ・・・稼動8日後(H24.08.07 WL=159.14m)

(2)調査結果の考察

a)貯水池内の水質分布

水質測定結果と堆砂測量(H23)を用いて水質メッシュ

データ(5m)を作成し、図-14に鉛直分布( 深河床)を

4

4.4

4.8

5.2

5.6

6

6.4

6.8

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10日数

下層

DO

濃度

(mg/

L)

EL=162m EL=160m

EL=156m EL=158m

目標 DO;6.0mg/L

EL.156m で、曝気装置が機能しなくなると、下層 DO 濃度は 6 日間程度で 5mg/L

以下まで低下する可能性がある。

取水塔

湖水循環装置水質機器測定測線

DO 濃度の高い表層付近の湖水を

湖底付近へ強制的に送り込む

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示す。

水温の縦断分布をみると、表層付近は経時的に低下

を示しているが、気温低下によるものと推察される。

中層付近では循環装置稼働前後で温度低下がみられ、

循環機能により中層~下層の湖水混合によるもの推察

される。

DOの縦断分布をみると、循環装置稼動前後に下層付

近のDO上昇が認められ、稼働前に確認された湖底の貧

酸素水塊は稼働後には消失している。ただし、図-15に

示すとおり、第2回調査と第3回調査の間には降水影響

のため貯水位および流入量に変化が発生している。こ

れにより、湖水流動と鉛直循環が促進された可能性が

あり、循環装置のみによる水質変化と断定するに至っ

てはいない。

図-14 水質の縦断分布( 深河床)

図-15 調査日前後の貯水池状況

図-16 水質の経時変化

b)水質の経時変化

カビ臭調査分析値を図-16に示す。

底泥直上のジェオシミン濃度は、装置稼動後は低濃

度で安定しており、平均濃度は装置稼動前の3.2ng/Lか

ら1.9ng/Lへ改善傾向にある。河床付近の酸素状況は概

ね改善傾向にあり、装置稼動前の5.1mg/Lから7.2mg/Lに

上昇している。しかしながら、管理目標値である

6.0mg/Lを下回る値も散見されており、河床付近のDO変

化については気象や流況等も含めた観測の継続が必要

と思われる。

5. 今後の調査計画

今後、循環装置の効果監視を目的として水質変化の

の監視継続、渇水等の流況変化に対応した運用方法

(出力調整、稼動・停止)も併せて策定する必要があ

る。上記の課題に対応するため以下の調査を計画して

いる。

① 定期水質調査による水質監視

調査地点:ダムサイト(定期調査定点)

採水層数:表・中・下層、湖底直上

分析項目:DO、ジェオスミン

② 循環機能把握のための流向流速調査

調査範囲:循環装置を中心に4方(上下流、直行)

計測機器:ADCPまたは同等能力を持つ測定器

調査頻度:吐出量変化時(0、250、1000m3/h)

豊水時、渇水時を考慮して追加

③ 自記水質測定器による水質経時変化の調査

調査期間:6月~9月下旬

調査項目:水温、DO

設置深度:湖底直上

また、これらの調査結果を踏まえて水質予測を行い、

湖水循環装置の運用等を含めた水質保全対策のフォロ

ーアップしていく予定である。

6. おわりに

漁川ダムは石狩南部の貴重な水道水源であり、日常

のダム水質を注意深く監視、管理することは、当ダム

を水源として水道を利用する多くの住民の生活や産業

活動に大きく貢献するものであり、今後ともダムの水

質保全に取り組む必要がある。

これまで、貯水池水質保全事業により堆砂掘削や湖

水循環装置の導入などにより、ダム貯水池での放線菌

の繁殖抑制や深水部の嫌気化改善により、ジェオスミ

ン濃度が低下し、カビ臭防止が図られてきた。

また、渇水等によるダム貯水位低下時、流入量減少

20

12

11

7

水温(゚C)

DO(mg/L)

8日後凡例

08/0707/30 08/03稼動前 4日後

0

2

4

6

8

10

07/27

07/28

07/29

07/30

07/31

08/01

08/02

08/03

08/04

08/05

08/06

08/07

08/08

08/09

08/10

08/11

日平

均流

入量

(m3/s

ec)

155

156

157

158

159

160

日平均貯

水位

(m)

調査日 日平均流入量(m3/sec) 日平均貯水位(m)

循環装置稼動日 循環装置停止期間 貯水位

DO分析値 DO平均値 ジェオスミン分析値

ジェオスミン平均値

158.0

160.0

162.0

164.0

貯水

位(EL.m)

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

DO(mg/L)

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

06/01

06/08

06/15

06/22

06/29

07/06

07/13

07/20

07/27

08/03

08/10

08/17

08/24

08/31

09/07

09/14

09/21

09/28

geosmin(ng/L)

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時へのカビ臭防止として湖水循環装置が増設され、本

年度から運用している。その結果、DO濃度の上昇及

びジェオスミンの低下が確認され、循環機能の向上が

確認された。しかし、単年度の調査結果であり、渇水

時など流況変化時の効果や堆砂進行による水質変化を

監視し、良好な水質維持のためフォローアップをして

いく必要と考えられる。

謝辞:本報告にあたっては石狩東部広域水道企業団の

ご協力をいただいた。ここに記して謝意を表す。

参考文献

1) 小森太一、稲村豊、鈴木将:漁川ダムにおけるカビ

臭発生原因の究明、第46回北海道開発局技術研究発

表会発表概要(ダム・砂防部門),調査計画 、ダ-

17,2003.2

2) 鈴木将、稲村豊、三田村宏二:漁川ダムのカビ臭の

改善方法と防止対策、第46回北海道開発局技術研究

発表会発表概要(ダム・砂防部門),調査計画 、ダ-

18,2003.2

3) 小倉和紀、村椿健治、三俣晴由:漁川ダムにおける

カビ臭発生の防止対策とその効果について、第47回

北海道開発局技術研究発表会発表概要(ダム・砂防

部門),調査計画 、ダ-6,2004.2

4) 玉川尊、村椿健治、小倉和紀、三俣晴由:漁川ダム

における貯水池水質保全事業の効果検証、土木学会

北海道支部年次技術研究発表会(論文報告集第61号

Ⅱ部門-55)、2005.2

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6,2006.2