ミクロ経済学 基本講義 -...
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1 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
ミクロ経済学 基本講義
第 10 回 不完全競争 Ⅱ ・ 市場の失敗 Ⅰ
Ⅰ.寡占(複占)市場 ②(屈折くっせつ
需要じゅよう
曲線きょくせん
) 【 参 考 】
…… 寡占市場における価格● ●
の●
硬直性● ● ●
を説明する理論
A社の経営者が以下のような“予想● ●
”をたてる。
ⅰ).A社が現在のP0から価格を引き下げ● ● ● ●
た場合
⇒ 「ライバルB社も、対抗して価格を引き下げてくるに違いない」
⇒ 「価格を下げたところで、A社に対する需要量はさほど増えないだろう」
ⅱ).A社が現在のP0から価格を引き上げ● ● ● ●
た場合
⇒ 「ライバルB社は、これには追従しないだろう」
⇒ 「B社に需要を大きく奪われ、A社に対する需要量は大きく減るだろう」
A社が直面する需要曲線は、
E点で屈折したものとなる。
屈折需要曲線の理論
A社の経営者が勝手に
イメージしている需要曲線
(市場需要曲線ではない!)
予 想
【 前 提 】
登場企業 : A社の状況のみ考える(ライバルB社が存在する)
A社の現状: 当初、価格はP0で、A社に対する需要量がX0という状況に
直面しているとする(下図のE点)。
E
屈折くっせつ
需要じゅよう
曲線きょくせん
P
X O X0
● P0
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2 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
◆ 寡占市場における企業もMR=MC(限界収入=限界費用)という条件に従って行動します。
屈折需要曲線に対応する限界収入曲線(MR)は、以下のような“不連続”な曲線となります。
※ 独占企業の場合
◆ 限界費用曲線(MC)が限界収入曲線(MR)の“不連続”部分(線分FG)を通過し
ているなら、費用条件が変化して限界費用曲線(MC)がシフトしても設定される価格に
変化はない。
P0
X0 X
P
O
(D2)
(D1)
A
MC1
MC0 ●
●
E
F
G
●
● B H
●
●
限界収入曲線(MR)は、
AFGHとなります。
(MR1)
(MR2)
価格の硬直性
右下がりの市場需要曲線に直面
する独占企業の場合、限界収入曲
線も右下がりとなり、費用条件の
改善(MC0からMC1に上方シ
フト)が生じると、独占企業の設
定する価格は上昇することにな
る(P0からP1)。 P0
X0 X
P
O
D(市場需要曲線)
A MC1
MC0 ●
E0
E1
●
●
B H
●
MR
●
●
●
P1
X1
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3 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
Ⅱ.独占的どくせんてき
競争きょうそう
市場しじょう
【 参 考 】
【 プロセス 】 ⅰ).当初、独占的競争下の 1 企業がP0FABだけの超過利潤を得ていたとする。
独占的特徴
⇒ 「代替的だいたいてき
」ではあるが「同質的どうしつてき
」でない、差別化さ べ つ か
された財の供給を行う企業間の競争状態。
♫ 完全競争の「多数の生産者・消費者の存在」は満たすが、「財の同質性」を満たさない。
ex.横浜中華街、表参道、銀座、秋葉原など
完全競争的特徴
…… この市場の企業は、差別化された財については独占的な供給者
企業は、特定の顧客を表す主観的しゅかんてき
需要じゅよう
曲線きょくせん
に直面する
…… 参入・退出が自由であるため、多数の生産者が存在する
参入企業の超過ちょうか
利潤りじゅん
がゼロになるまで参入が発生
ⅱ).この超過利潤を狙って、新規に参入が発生する。
ⅲ).新規参入によって、既存の企業は顧客を新規参入企業に奪われる形になる。
主観的需要曲線の左方● ●
シフトが発生
ⅳ).このようなプロセスは、超過利潤がゼロになるまで続く。
AC
P
X O
D
X0
P0
●
●
MC
MR
E0
A B
F ● ●
● ● 主観的しゅかんてき
需要じゅよう
曲線きょくせん
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4 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
独占的競争市場の長期均衡においては、
P
X O
D
X1
P1
●
AC
MC
MR
G 主観的需要曲線の
左方シフト
E1
●
●
●
長期ちょうき
均衡点きんこうてん
◆ 独占的特徴 :
◆ 完全競争的特徴 :
MR = MC
主観的需要曲線上で価格設定
生産量決定(X1)
超過利潤ゼロ P = AC
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5 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
Ⅲ.ゲームの理論
(1) ゲームの理論とは?
①.ゲーム的てき
状 況じょうきょう
⇒ 相互● ●
に●
、相手の行動や意思決定を考慮しながら、自らの行動を決定しようとする状況。
②.協 力きょうりょく
ゲームと非協力ひきょうりょく
ゲーム
③.ゲーム的状況の表現方法
・・・
・・・
相手は何を考えているのか…
自分はどうすべきか…
ex.企業の合併・提携交渉、価格競争、労使交渉、外交交渉、貿易交渉 など
協力ゲーム
非協力ゲーム
…… 話し合いを通じた協力関係を前提として、協調行動を分析。
…… 競争・対立の状態を前提として、互いの独立した意思決定を分析。
ゲームの 3 要素
ⅰ).プレイヤー …… (企業A、企業B)
ⅱ).戦せん
略りゃく
………… (価格引き上げ、現状維持)
ⅲ).利り
得とく
………… (Aの利得、Bの利得)
【 標 準 型ひょうじゅんがた
ゲーム:Case1 】
価格引き上げ 現状維持
価格引き上げ
現状維持
企 業 B
企
業
A
( 100 、 50 )
( 120 、 40 )
( 85 、 60 )
( 80 、 70 )
※ 企業Aが「価格引き上げ」、企業Bが「現状維持」を選択した場合、
企業Aの利得は 85、企業Bの利得は 60 となる。
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6 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
(2) ナッシュ均衡きんこう
①.ナッシュ均衡と支配し は い
戦略せんりゃく
均衡きんこう
◆ 囚人Aの立場
…… 相手が戦略を変更しない限り、もはや自己の戦略を変更させよう
とする誘因(インセンティブ)が働かない安定的な均衡状態。
ナッシュ均衡
囚人 B が「黙秘● ●
」のとき : 「自白● ●
」を選択すべき
※ 互いに独立して意思決定を行うので、プレイヤーごとに場合分けして考えてみる。
★ 囚人Bがいかなる戦略に出てこようとも、
囚人Aは常に「自白」を選択すべき。
囚人 B が「自白● ●
」のとき : 「自白● ●
」を選択すべき
「黙秘」を選ぶと利得-15、「自白」を選ぶと利得は-10 となる。
囚人Bが「自白」でくるなら、囚人Aは「自白」をとるべき。
「黙秘」を選ぶと利得-5、「自白」を選ぶと利得は 0 となる。
囚人Bが「黙秘」でくるなら、囚人Aは「自白」をとるべき。
「自白」は囚人Aの支配し は い
戦略せんりゃく
ナッシュ均衡
かつ
支配し は い
戦略せんりゃく
均衡きんこう
(№248)
【 標準型ゲーム:Case2(囚人しゅうじん
のジレンマじ れ ん ま
) 】
黙 秘 自 白
黙 秘
自 白
囚 人 B
囚
人
A
( -5 、 -5 )
( 0 、 -15 )
( -15 、 0 )
( -10 、 -10 )
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7 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
◆ 囚人Bの立場
◆ 2 人の均衡状態は?
②.ナッシュ均衡の性質
囚人Aが「黙秘● ●
」のとき : 「自白● ●
」を選択すべき
★ 囚人Aがいかなる戦略に出てこようとも、
囚人Bは常に「自白」を選択すべき。
囚人Aが「自白」のとき : 「自白」を選択すべき
「黙秘」を選ぶと利得-15、「自白」を選ぶと利得は-10 となる。
囚人Aが「自白」でくるなら、囚人Bは「自白」をとるべき。
「黙秘」を選ぶと利得-5、「自白」を選ぶと利得は 0 となる。
囚人Aが「黙秘」でくるなら、囚人Bは「自白」をとるべき。
最終的な戦略の組合せは ⇒ ( 自白 、自白 )=( -10 、-10 )
この場合のナッシュ均衡はパレート最適か?
⇒ 互いに協調して「黙秘」を選択することができるなら、誰も不利にすることなく
両者の利得の状況を同時に改善させることができる。
∴ 改善の余地のある均衡状態であるため、パレート最適とは言えない。
※ ここでは予定に関して話し合いはしないと仮定。プレイヤーごとに場合分けして考えてみる。
【 標準型ゲーム:Case3(逢引あいびき
のジレンマ) 】
サッカー観戦 ケーキ食い放題
サッカー観戦
ケーキ食い放題
カ ノ ジ ョ
カ
レ
シ
( 7 、 3 )
( -2 、 -2 )
( 2 、 2 )
( 3 、 7 )
ナッシュ均衡が
複数ある!
「自白」は囚人Bの支配戦略
囚人のジレンマ
(№247)
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8 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
◆ カレシの立場
◆ カノジョの立場
◆ ナッシュ均衡 = (サッカー、サッカー)と(ケーキ、ケーキ)
カノジョが「サッカー」のとき : 「サッカー」を選択すべき
★ カノジョの戦略に合わせて自らの戦略を変えなければならず、カレシには支配戦略
が存在しない。
カノジョが「ケーキ」のとき : 「ケーキ」を選択すべき
「サッカー」を選ぶと利得 2、「ケーキ」を選ぶと利得は 3 となる。
カノジョが「ケーキ」でくるなら、カレシは「ケーキ」をとるべき。
「サッカー」を選ぶと利得 7、「ケーキ」を選ぶと利得は-2 となる。
カノジョが「サッカー」でくるなら、カレシは「サッカー」をとるべき。
カレシが「サッカー」のとき : 「サッカー」を選択すべき
★ カレシの戦略に合わせて自らの戦略を変えなければならず、カノジョにも支配戦略
が存在しない。
カレシが「ケーキ」のとき : 「ケーキ」を選択すべき
「サッカー」を選ぶと利得-2、「ケーキ」を選ぶと利得は 7 となる。
カレシが「ケーキ」でくるなら、カノジョは「ケーキ」をとるべき。
「サッカー」を選ぶと利得 3、「ケーキ」を選ぶと利得は 2 となる。
カレシが「サッカー」でくるなら、カノジョは「サッカー」をとるべき。
◆ ナッシュ均衡は、1 つであるとは限らない。
( 複数存在する場合(№245)や、存在しない場合(№249)もある )
◆ ナッシュ均衡は、パレート最適とは限らない。 《 囚人のジレンマ 》
◆ ゼロ・サム・ゲームの場合、ナッシュ均衡とミニ・マックス均衡は一致する。
【 ナッシュ均衡の特徴 】
(№253)
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9 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
(3) ゼロ・サム・ゲーム
⇒ プレイヤーの利得の合計がゼロになるゲーム的状況。
①.ゼロ・サム・ゲームの表現方法
②.ミニ・マックス戦略(マクシ・ミン戦略)
【 標準型ゲーム:Case4 】
戦 略 1 戦 略 2
戦 略 1
戦 略 2
企 業 B
企
業
A
( 10 、 -10 )
( 12 、 -12 )
( -5 、 5 )
( -8 、 8 )
戦 略 1 戦 略 2
戦 略 1
戦 略 2
企 業 B
企
業
A
10
12
-5
-8
一方の利得がaであ
るとき、他方の利得
は-aとなる。
企業Aの利得だけを
示し、企業Bの利得
は符号を変えて読
む。
◆ 人生戦略(就職問題)
最高年収
最低年収
(最小利得)
A 社
2,000 万円
0 万円
B 社
800 万円
300 万円
公務員
600 万円
500 万円
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10 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
◆ プレイヤーAの立場
◆ プレイヤーBの立場
…… 各戦略
● ● ●
の●
下●
で●
得られる● ● ● ●
「最小さいしょう
利得り と く
」のうち、最小利得が最
も大きくなるような戦略を選択する。
ミニ・マックス戦略
戦略A1の最小利得 1
【 標準型ゲーム:Case5(ゼロ・サム・ゲーム) 】(V問題集 №253)
B1 B2 B3
A1 ( 1 、 -1 ) ( 1 、 -1 ) ( 2 、 -2 )
A2 ( 2 、 -2 ) ( -1 、 1 ) ( 0 、 0 )
A3 ( 2 、 -2 ) ( -1 、 1 ) ( -2 、 2 )
手持ちの
戦略 戦略A2の最小利得 -1
戦略A3の最小利得 -2
最小利得のうち、最も大きな
利得を実現できる戦略は?
戦略A1
戦略B1の最小利得 -2
手持ちの
戦略 戦略B2の最小利得 -1
戦略B3の最小利得 -2
最小利得のうち、最も大きな
利得を実現できる戦略は?
戦略B2
(マクシ・ミン戦略)
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11 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
Ⅳ.費用ひ よ う
逓減ていげん
産業さんぎょう
費用逓減産業 …… 市場の需要規模に対して資本の規模が巨大なために、市場の需要規
模を超えて平均費用(AC)が逓減し続けてしまうような産業。
ex.電力産業、ガス産業、鉄道産業など
【 完全競争市場の 4 要件 】 【 市場の失敗のケース 】
②.財の同質性
③.市場への参入・退出の自由
④.情報の完全性
①.多数の生産者・消費者の存在
+ ◆“特殊な効果” 外部効果
◆“特殊な財” (純粋)公共財
◆“特殊な市場構造 費用逓減産業
完全競争市場均衡はパレート最適である
厚生経済学の第1命題
不完全競争理論
完全競争ではないために
パレート最適にならない。
市場しじょう
の失敗しっぱい
完全競争市場が前提でも
パレート最適にならない。
◆ 資本(K)が巨大になると、大量生産が可能になる。
平均費用(AC)= + 固定費用(FC)
生産量(x)
可変費用(VC)
生産量(x)
資本に関する固定費用(FC)が巨額になっても、大量生産によって平均費用(AC)
を低く抑えることができる。 《 規模き ぼ
の経済性けいざいせい
》
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12 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
(1) 自然し ぜ ん
独占どくせん
※ 完全競争市場が前提なので、新規の参入・退出により財の市場均衡価格は低下し、1 企業
が直面する市場均衡価格は、長期的には損益分岐点価格に至る(P=MC=AC)。
《 産業さんぎょう
の長期ちょうき
均衡きんこう
》
TC
O
AC
O
x
x
●
●
r・KA
r・KB
TCA TCB
A
B
xB xA
ACB
ACA MCA
MCB
●
※ KA<KB
xA xB
●
AC P1
X1 X
P
O
MC
MR
F
G
E
●
P* ● ●
XS*
●
● D
XD*
H
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13 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
(2) 価格規制の方法
①.限界げんかい
費用ひ よ う
価格か か く
形成けいせい
原理げ ん り
E*
長期均衡を実現する価格(P*)の下で、需要量<供給量(XD*<XS
*)となる。
長期において、複数の企業によって財の供給が行える可能性はない。
費用逓減産業は、複数の企業が供給主体として存在し続けられない市場構造であ
るため、完全競争的な参入・退出のメカニズムが機能する結果、自然と独占状態
になる。
公共性の高い費用逓減産業において、独占の弊害(独占価格の形成)が現れてしまうため、
政府は何らかの規制● ●
(価格か か く
規制き せ い
)を行う必要がある。
◆ 市場需要曲線(D)と限界費用曲線(MC)が一致する水準(PM*)に価格を規制する。
最適な資源配分(パレート最適な配分)を実現する。
AC
P1
X1 X
P
O
MC
MR
A
G
●
PM*
D
XM*
B
C
自然し ぜ ん
独占どくせん
●
●
●
●
F
1 社しかいませんが、限界費用曲線(MC)
は供給曲線(S)に相当することを考えると、
E*点は完全競争市場均衡点と同様の状態。
パレート最適
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14 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
②.平均へいきん
費用ひ よ う
価格か か く
形成けいせい
原理げ ん り
独占企業に損失(= BCE*PM
*)が発生してしまい、長期的には独占企業
も市場から退出してしまう。
問題点
しかし、
◆ 消費者余剰(CS)の存在は、X財の供給を消費者が望んでいることを表す。
消費者余剰
独占企業の損失
A
PM* E*
B
PM* E*
C
>
このような場合には、XM*の供給を行うことが社会的にみて望ましい。
◆ 限界費用価格形成原理に基づく価格規制を採りながら、独占企業に発生する損失額に等しい
補助金を支給し、XM*の供給を維持する。
ⅰ).補助金の財源をどこから確保するかという問題がある。 問題点
ⅱ).補助金を与え続けると、経営努力をしなくなる。
しかし、補助金政策にも問題がある
《 X非効率 》
市場需要曲線(D)と平均費用曲線(AC)が一致する水準(PA*)に価格を規制する。
独立採算が可能となり、補助金が不要となる。
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15 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
③.二部に ぶ
料金制りょうきんせい
【 参 考 】
PA*
パレート最適な資源配分(XM
*)を実現することができない。 問題点
XA*
◆ 価格を「従量料金」と「基本料金」の二部構成として設定する。
…… 限界費用価格形成原理によるPM*に設定する。 従量料金
…… 消費者余剰(CS)の存在を前提として、消費者に負担させる. 基本料金
パレート最適な取引量は実現できるが、
独占企業に損失が発生してしまう。
独占企業の損失を補填し、パレート最
適な財の供給を実現する。
+
E*
AC
P1
X1 X
P
O
MC
MR
A
G
●
PM*
D
XM*
H
●
● ●
F
●
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16 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
最低限解くべき問題
番 号 1 回目 2 回目 コメント
№ 234 / │ / │ 飛ばしても結構です。余裕のある方のみ。
№ 241 / │ / │ 2 年前の問題集では「難易度A」です。できた方が良いです。
№ 243 / │ / │ ナッシュ均衡に関する基本問題。
№ 245 / │ / │ ナッシュ均衡が複数存在するケース。類題は№244。
№ 247 / │ / │ パレート最適とはならないナッシュ均衡(囚人のジレンマ)
№ 248 / │ / │ ナッシュ均衡かつ支配戦略均衡のケース。類題は№250。
№ 249 / │ / │ ナッシュ均衡が存在しないケース。
№ 254 / │ / │ 良い問題です。繰り返しましょう。
№ 255 / │ / │ 練習、練習。
№ 256 / │ / │ 費用逓減産業に関する基本問題。類題は№257。
№ 258 / │ / │ 余剰分析は、原理・原則に従って行いましょう。
№ 260 / │ / │ とりあえずは“消去法”で。
№ 261 / │ / │ ぜひ解けるようにしておきましょう。
№ 263 / │ / │ 「社会科学」の方で出そう。基本の確認に良いでしょう。
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17 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
■ 屈折くっせつ
需要じゅよう
曲線きょくせん
の理論
これはスウィージーという学者によって提唱された理論で、寡占市場における「価格か か く
の硬直性こうちょくせい
」を
説明する理論です。企業に価格支配力があるなら、「いやぁ~、最近やけに生産コストがかかるなぁ~」
という時には、即座に価格を高めに設定してくるはずです。ところがこの理論によると、寡占的な競
争下では価格が高くなることはないというのです。
(1) 寡占企業が直面する屈折需要曲線
今、A 社と B 社の2社が存在している寡占市場を前提とし、そのうち A 社の状況を考えます。当
初、A 社は生産量 X0を価格P0で供給しているとしましょう(E点)。
ここで、A 社はライバルの行動について、以下のような“予想● ●
”を立てると仮定します。
まず、A 社は「ウチが価格を下げても、やつらも同じことをやるだろうな…。頑張って価格を下
げても需要の増加はたいして見込めんだろう…」と予想すると考えます。A社がこのように考える
とすれば、A社が想定する(= 直面する)需要曲線は、X0を上回る生産水準において傾きが急な
ものになります(線分EB)。
一方、価格引き上げに対しては、「ウチだけが上げることになるな…。価格を上げたら最後、客を
大きく減らすことになるだろう…」と予想すると考えます。A社がこのように考えるとすれば、A
社が想定する需要曲線は、X0を下回る生産水準において傾きが緩やかなものになります(線分AE)。
以上から、A 社が直面する需要曲線はE点で屈折することになります。これが屈折くっせつ
需要じゅよう
曲線きょくせん
です。
おまけ (読む気になる方はどうぞ)
P0
X0 X
P
O
A
● E
●
● B
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18 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
ただし、これは1企業が想定する(= 直面する)需要曲線が屈折するということであって、寡占
市場の市場需要曲線が屈折しているということではありません。注意しましょう。
(2) 寡占企業の限界収入曲線(MR)
利潤最大化生産量の決定条件は独占企業と同じで、MR=MC(限界収入=限界費用)になりま
す。限界収入曲線(MR)は、需要曲線の傾きの大きさを2倍した直線として描くことができまし
た。屈折需要曲線を前提にした場合にはどうなるのでしょうか。
まず屈折需要曲線を、“傾きが異なる2つの需要曲線のそれぞれ一部をとったもの”と考えます。
A点を切片とした傾きが緩やか需要曲線(D1)のうち、現行の生産量X0を下回る領域だけ認識し
(線分 AE)、上回る領域では無視します。一方、傾きが急な需要曲線(D2)のうち、現行の生産
量X0を下回る領域は無視し、上回る領域でのみ認識します(線分EB)。このように考えることで、
屈折需要曲線 AEBが描けるのです。
次に、限界収入曲線(MR)を考えます。まず、傾きが異なる2つの需要曲線それぞれに、その
傾きの大きさを2倍した直線をとります。需要曲線(D1)は、現行の生産量 X0を下回る領域での
み認識していますから、限界収入も X0を下回る領域でのみ認識します(線分AF)。一方、需要曲
線(D2)は、現行の生産量X0を上回る領域でのみ認識していますから、限界収入もX0を上回る
領域でのみ認識します(線分GH)。よって、屈折需要曲線AEBに対応する限界収入曲線(MR)
は、屈折した線分AFGHとなります。F点とG点との間に不連続ふれんぞく
部分ぶ ぶ ん
が生じます。
(MR2)
P0
X0 X
P
O
(D2)
(D1)
A
●
●
E
F
G
●
● B H
●
●
(MR1)
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19 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
(3) 価格の硬直性
屈折需要曲線は、寡占市場の1企業が直面する需要曲線ですから、同じ平面上に1企業の限界費
用曲線(MC)を描きます。
現行の生産量はX0ということですから、生産量X0の下で利潤最大化条件(МR=МC)を満た
しているはずです。したがって、A社の限界費用曲線(МC)は限界収入曲線(МR)の不連続部
分を通過していることになります。当初、限界費用曲線はМC0にあったとしましょう。
ここで仮に、人件費などの生産コストが上昇し、A社の限界費用曲線がMC1に上方シフトしたと
しましょう。費用条件が悪化してしまったのです。普通だったら、「い、いかん! このままじゃ商
売にならん! 価格を上げようか?」ということになると思うのですが、限界収入曲線の不連続部分
の範囲内で限界費用曲線のシフトが生じている場合には、利潤最大化条件を満たす点が変化するだ
けで、生産量も需要曲線上で設定される価格もE点の組み合わせから変化しません。
このように、限界費用曲線(MC)が限界収入曲線(MR)の不連続部分(線分FG)の範囲内
を通過している場合には、費用条件が変化しても価格に変化が生じない、というのです。これが、
寡占市場における価格か か く
の硬直性こうちょくせい
です。
ただし、この理論は不完全な理論として有名です。限界収入の不連続部分以外の領域では説明に
なりませんし、ライバル企業がなぜ価格の引き上げには追随しないのか理由が明らかではありませ
ん。細かく考えていくと疑問点の多い理論ですので、まともに考えてはいけません。
P0
X0 X
P
O
(D2)
(D1)
A
MC1
MC0 ●
●
E
F
G
●
● B H
●
●
(MR1)
(MR2)
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20 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
■ 独占的どくせんてき
競争きょうそう
市場しじょう
これは完全競争の4つの条件のうち、「財の同質性」を満たさない市場のことを言います。ブランド
などによって差別化された市場です。分かりやすい例としては、“横浜中華街”、“表参道(ブランド街)”、
“新橋(焼鳥屋街)”などがあります。
(1) 2つの性質
独占的競争市場の特徴として、以下の2点があります。
第一に、代替的ではあるが同質的ではない財が取り引きされている、という点です。横浜中華街
を例にとるなら、中華料理店は多数存在しますが(代替的)、それぞれの店の料理の味はみんな違い
ます(同質的ではない)。つまり、店舗数で言えば完全競争的でも、「この味を出せるのはウチだけ
よ!」といった感じで、“味”(= 質)の観点から見れば、各店舗は独占的な立場にあるのです。
各店舗はそれぞれ“味”(= 質)に群がる“贔屓ひ い き
客”を抱えており、“贔屓客”で構成される右下
がりの需要曲線に直面します。これを主観的しゅかんてき
需要じゅよう
曲線きょくせん
(差別化された需要曲線)といいます。これ
は、特定の店舗に集まる消費者だけで計算されたものであって、中華街全体の市場需要曲線とは異
なるものです。注意しましょう。
第二に、長期においては市場への参入・退出は自由です。横浜中華街は、「お前なんか仲間に入れ
てあげないよー!」という市場ではないとします。この場合、長期的には、既参入企業の超過利潤
がゼロになるまで代替的な財の生産を行う企業の参入・退出が生じることになります。
以上から、独占的競争市場は、「独占的性質」と「完全競争的性質」の2つを兼ね備えた中間的な
競争状態と言えます。
(2) 短期た ん き
均衡きんこう
次ページのグラフにおいて、MCとACは横浜中華街の老舗“聘珍樓へいちんろう
”の限界費用曲線(MC)
と平均費用曲線(AC)です(実在のお店です)。さらに、このお店の“贔屓客”で構成される主観的需
要曲線(D)を描きます。そして、この主観的需要曲線の傾きの大きさを2倍した直線として限界
収入曲線(MR)を描いています。つまりこのグラフは、市場全体を描いたものではなく、“聘珍樓”
1 社が直面している状況を描いたものです。
さて、“聘珍樓”は利潤を最大にするようにMR=MC(限界収入=限界費用)となるX0を生産
量として決定し、「ウチの客って結構金持ちが多いんだよな」といったノリで主観的需要曲線上のF
点で価格をP0に設定します。この生産量と価格の組み合わせを示すF点を短期た ん き
均衡点きんこうてん
といいます。
無断での複製・頒布を禁じます
21 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
このとき、“聘珍樓”の収入はP0・X0で四角形P0Fx0O、生産量1単位あたりの費用はA点
の高さ(= B点の高さ)になりますから、費用は四角形BAx0Oとなります。したがって、“聘珍
樓”は短期均衡において四角形P0FABだけのプラスの超過利潤を得ていることになります。
(3) 長期ちょうき
均衡きんこう
短期において“聘珍樓”がプラスの超過利潤を得ていることを他の市場の企業が察知すると、長
期において中華街への新規参入を促します。“羨ましい”からです。横浜中華街に新規の出店が起き
始めると、各店舗は贔屓客を新しいお店に奪われることになります。“聘珍樓”にも集まる消費者が
減少してしまいますから、“聘珍樓”が直面する主観的需要曲線が左方へシフトし始めます。すると、
これに合わせて限界収入曲線(MR)も左方にシフトし、やがて主観的需要曲線と平均費用曲線(A
C)が接する状態に至ります(G点)。“聘珍樓”はMR=MCを満たすように生産量をX1に決定し、
AC
P
X O
D
X0
P0
●
●
MC
MR
E0
A B
F ● ●
● ● 主観的しゅかんてき
需要じゅよう
曲線きょくせん
X*
P
X O
D
X1
P1
●
AC
MC
MR
G 主観的需要曲線の
左方シフト
E1
●
●
●
長期ちょうき
均衡点きんこうてん
●
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22 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 10回
価格を主観的需要曲線上のG点でP1に設定しています。このとき、収入と費用はともに四角形P1
GX1Oとなり、超過利潤はゼロとなっています。つまりG点のような状況が成立すると新規参入は
ストップし、長期的な均衡を実現することになるのです。このG点を長期ちょうき
均衡点きんこうてん
と言います。
このように長期均衡では、個別企業はMR=MCを満たすように生産量を決定し、設定される価
格は平均費用に一致することになります(P=AC)。MR=MCは独占企業の利潤最大化条件と同
じであり、P=ACは完全競争市場における長期均衡条件に類似しています。このような意味で、
独占的競争理論は独占的な特徴と完全競争的な特徴を併せ持った理論だとされるのです。
ただし、独占的競争下の長期均衡で実現される生産量(X1)は、完全競争市場下の生産量(損益
分岐点生産量)(X*)よりも過少● ●
なものになります。完全競争市場を前提にするなら、“聘珍樓”は
X*までの料理を生産する生産能力があるのです。ところが、独占的競争下ではX1に止まってしま
っています。このことは、生産している料理が少ない分だけ“使用されていない厨房機器”(資本、
生産能力)が存在していることを暗に示すものです。そのため独占的競争市場は、生産の効率性の
観点からは完全競争市場よりも望ましくなく、個別企業は過剰生産能力(X*-X1)を抱えている
と指摘されることがあります。
以 上