シラン系表面含浸材の塗布に際しての コンクリート表層の含...

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18 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 シラン系表面含浸材は、外部からコンクリート内部への水や塩化物イオンの侵入を抑える浸透性の保護材である。 国土交通省北海道開発局管轄の道路橋では、コンクリート部材の凍・塩害対策として広く使用されている。既設の 地覆コンクリートを冬期に打換える場合、地覆は工事終了後すぐ供用されるため、部材を保護する観点から、冬期 であっても供用前にシラン系表面含浸材が塗布される。一方、冬期のコンクリート部材の表面は川霧や結露で濡れ やすい。表層に水分が多く含まれていると、塗布したシラン系表面含浸材の含浸が阻害されるため、塗布前に加温 を行って水分を低減させ、かつ、表層の含水状態を適切に管理する必要がある。本研究は、表層の含水状態の管理 方法として、市販の水分計の有用性を調べたものである。コンクリート表面を加温したときの表層の含水状態の変 化は、電気抵抗式の水分計が把握しやすく、試験により冬期の低温下で塗布可否を判定する上で電気抵抗式の水分 計から得られる表面のカウント値は有用な管理指標となる知見を得た。 《キーワード:コンクリート;シラン系表面含浸材;含水状態;管理;水分計》 Silane-type surface penetrants are penetrating protective materials that control the intrusion of water and chloride ions into concrete. Such penetrants are widely used to protect against frost and salt damage to the concrete members of highway bridges managed by the Hokkaido Development Bureau. When the concrete of a wheel guard is replaced in winter, the wheel guard enters service immediately. To protect the member, a silane- type surface penetrants are applied to the completed wheel guard before the bridge enters service in winter. Concrete members tend to collect surface moisture from river mist or condensation in winter. Excess moisture in the surface layer hinders the impregnation of silane penetrants being applied. It is necessary to appropriately manage the moisture of the surface layer by heating the concrete surface and reducing the moisture before the penetrant is applied. This study investigates the effectiveness of commercially available moisture testers in managing the moisture content of the surface layer. Changes in the moisture content of the surface layer in heated concrete were easily measured by using an electrical resistance moisture meter. We found that the values measured in this way are useful for decision-making regarding the application of penetrants under low- temperature conditions in winter. 《Keywords:Concrete;Silane-type Surface Penetrants;Water Content;Management;Moisture Tester》 報 文 シラン系表面含浸材の塗布に際しての コンクリート表層の含水状態の管理に関する研究 A Study on Water Content Management of Concrete Surface Layer in Coating Works of Silane-type Surface Penetrants 遠藤 裕丈  安中 新太郎 ENDOH Hirotake and YASUNAKA Shintaro

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18 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月

シラン系表面含浸材は、外部からコンクリート内部への水や塩化物イオンの侵入を抑える浸透性の保護材である。国土交通省北海道開発局管轄の道路橋では、コンクリート部材の凍・塩害対策として広く使用されている。既設の地覆コンクリートを冬期に打換える場合、地覆は工事終了後すぐ供用されるため、部材を保護する観点から、冬期であっても供用前にシラン系表面含浸材が塗布される。一方、冬期のコンクリート部材の表面は川霧や結露で濡れやすい。表層に水分が多く含まれていると、塗布したシラン系表面含浸材の含浸が阻害されるため、塗布前に加温を行って水分を低減させ、かつ、表層の含水状態を適切に管理する必要がある。本研究は、表層の含水状態の管理方法として、市販の水分計の有用性を調べたものである。コンクリート表面を加温したときの表層の含水状態の変化は、電気抵抗式の水分計が把握しやすく、試験により冬期の低温下で塗布可否を判定する上で電気抵抗式の水分計から得られる表面のカウント値は有用な管理指標となる知見を得た。

《キーワード:コンクリート;シラン系表面含浸材;含水状態;管理;水分計》

Silane-type surface penetrants are penetrating protective materials that control the intrusion of water and chloride ions into concrete. Such penetrants are widely used to protect against frost and salt damage to the concrete members of highway bridges managed by the Hokkaido Development Bureau. When the concrete of a wheel guard is replaced in winter, the wheel guard enters service immediately. To protect the member, a silane-type surface penetrants are applied to the completed wheel guard before the bridge enters service in winter. Concrete members tend to collect surface moisture from river mist or condensation in winter. Excess moisture in the surface layer hinders the impregnation of silane penetrants being applied. It is necessary to appropriately manage the moisture of the surface layer by heating the concrete surface and reducing the moisture before the penetrant is applied. This study investigates the effectiveness of commercially available moisture testers in managing the moisture content of the surface layer. Changes in the moisture content of the surface layer in heated concrete were easily measured by using an electrical resistance moisture meter. We found that the values measured in this way are useful for decision-making regarding the application of penetrants under low-temperature conditions in winter.

《Keywords:Concrete;Silane-type Surface Penetrants;Water Content;Management;Moisture Tester》

報 文

シラン系表面含浸材の塗布に際しての コンクリート表層の含水状態の管理に関する研究

A Study on Water Content Management of Concrete Surface Layer in Coating Works of Silane-type Surface Penetrants

遠藤 裕丈  安中 新太郎

ENDOH Hirotake and YASUNAKA Shintaro

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寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 19

1.はじめに

シラン系表面含浸材(以下、シランと記す)は、外部からコンクリート内部への水や塩化物イオンの侵入を抑える浸透性の保護材である。施工が容易で経済性に優れ、塗布後もコンクリート部材の外観を変化させないなどの長所を有している。国土交通省北海道開発局管轄の道路橋では、コンクリート部材の凍・塩害対策として広く使用されている1)。

既設の地覆コンクリートを冬期に打換える場合、地覆は工事終了後すぐに供用されるため、部材を保護する観点から写真-1に示すように冬期であっても供用前にシランが塗布される。一方、冬期のコンクリート部材の表面は川霧や結露で濡れやすい傾向にある。シランは含浸しながら加水分解を起こして2)写真-2に示すように含浸域のコンクリート組織を疎水化し、水や塩化物イオンの侵入抑制機能を発揮する吸水防止層を作り出すため、コンクリート表層に水分が多く含まれていると、塗布後、早期に加水分解が生じて表面近傍に成分が結合し、十分な厚さの吸水防止層が形成されにくくなる。このことから、シランを塗布する前に加温を行ってコンクリート表層の水分量を低減させることが大切であり、その際は表層の含水状態を適切に管理・把握する必要がある。

コンクリート表層の含水状態の管理方法として、現場では一般に写真-3に示す高周波容量式の水分計3)

が使用されている。一方、谷倉ら4)は、コンクリート表面が大きく濡れ、表面と内部で含水状態が異なるような場合、写真-4に示す電気抵抗式の水分計の方が表面付近の含水状態を適切に評価できると述べている。本研究では、冬期にシランを塗布する際の表層の含水状態の管理方法としてのこれら水分計の有用性を調べた。

2.実験で使用した水分計の概要

2.1 高周波容量式の水分計

この水分計には、写真-5(左)に示すように、長さ50mm、幅5mmの金属製の電極が35mm間隔で2本配置されている。図-1(左)に示すように、コンクリート表面に電極を押し当て、高周波(20MHz)電流を流し、水分が多いほど誘電率が大きい原理を利用して、誘電率の変化から深さ0~40mmの平均含水率を0~12%の範囲で推定する仕組みになっている。

2.2 電気抵抗式の水分計

この水分計とコードで繋がる上面直径40mm、下面直径28mm、長さ120mmの円筒状センサの下面には、写真-5(右)に示すように長さ20mm、幅5mmの導電ゴム製の電極が10mm間隔で2本配置されている。図-1(右)に示すように、コンクリート表面に電極

写真-1 冬期の仮囲い内でのシラン塗布状況

写真-2 塗布後のコンクリート断面に水を噴霧した様子

シランが含浸し、疎水化された表層(吸水防止層)

外部からの水や塩化物イオンの侵入を抑える役割を果たす

表面(塗布面)

写真-3 高周波容量式の水分計

写真-4 電気抵抗式の水分計

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20 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月

を押し当てて電流を流し、電極間の電気抵抗が水分によって変化する原理を利用して、コンクリートの表面付近の含水状態を評価する仕組みになっている。この水分計で計測できる含水率の範囲は0~6%である。なお、この水分計には、乾燥状態のときに最小40、湿潤状態のときに最大990の電気抵抗換算値(以降、カウント値と記す。乾燥しているほど値は小さい)で含水状態を評価する機能が備えられている。

3.各々の水分計の測定結果の比較実験

はじめに、コンクリート部材の表層の含水率を下げるために部材の表面を加温した場合について、高周波容量式と電気抵抗式それぞれの水分計による測定結果の違いを把握する基礎的な実験を行った。

3.1 実験概要

実験は、国土交通省北海道開発局函館開発建設部管内の道路橋の桁で行った。写真-6に実験を行った現場の外観を示す。橋は1971年に架設された橋長7mのPC橋である。実験は夏期に桁の下面で行った。写真

-7に示すように、桁の下面をシートで囲い、囲い内へ温風を1日間送り続け、桁の表面を加温した。そして、加温開始から約1時間おきに高周波容量式の水分計と電気抵抗式の水分計による測定を行った。測定結果は、高周波容量式の水分計による測定では含水率、電気抵抗式の水分計による測定ではカウント値で整理した。なお、加温開始から6時間後~21時間後の間は夜間のため測定は行っていない。ただし、この間も温風による加温は続けている。図-2は温度の推移を示している。囲い内の温度は外気温より約10℃高い35~40℃で推移している。

3.2 実験結果・考察

図-3に測定結果を示す。加温前における高周波容量式の水分計による深さ0~40mmの平均含水率は5%、電気抵抗式の水分計による表面のカウント値は228であった。谷倉ら4)は、コンクリート平板および模擬床版を使用した実験の結果をもとに、電気抵抗式の水分計におけるカウント値とコンクリート表面の水分状態の関係の目安として表-1を示している。この目安に鑑みると、実験開始前の桁の状態は、表面乾燥状

囲い内の温度測定位置

温風

囲い外温度

測定位置

水分計測定位置(囲い内No.1)水分計測定位置

(囲い内No.2)

水分計測定位置囲い外加温なし

写真-7 実験の様子

高周波容量式 電気抵抗式

写真-5 コンクリート表面に押し当てる電極の外観

40m

m 電流

試料内の誘電率を把握

電流

電極間の電気抵抗を把握

電気抵抗式高周波容量式

図-1 測定の仕組み

写真-6 3章の実験を行った現場

20

25

30

35

40

45

0:00

1:00

2:00

3:00

4:00

5:00

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0

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0

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0

27:3

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温度

(℃

経過時間

一般区間 養生区間囲い内囲い外

図-2 温度の推移

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寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 21

態と湿潤状態の中間程度ということになる。そして加温を続けたところ、測定値にばらつきはあるが、高周波容量式の水分計による深さ0~40mmの平均含水率はほぼ変わらず5%前後の値で推移したのに対し、電気抵抗式の水分計による表面のカウント値は経時的に低下し、約1日の加温で143まで低下した。このことは、高温の空気に直接触れる桁の表面近傍は含水率の低下が進行しているのに対し、その直下から深さ40mmまでの内部は含水率の低下がさほど進行せず、高周波容量式の水分計による測定値は表面より内部の含水状態の影響を大きく受けていることを示すものと考えられる。

この実験より加温を続けることで表層の水分を低減できることと、その状況は電気抵抗式の水分計の使用により明確に把握できることが確認できた。

4.冬期の塗布を想定した実験

3.で得た各々の水分計の特徴を基に、冬期にシランを塗布する状況を模した環境下で実験を行い、コンクリート表面の水分を減少させるための適切な加温方

法と含水状態の管理方法について検討を行った。

4.1 実験概要

4.1.1 コンクリート配合・使用材料

コンクリートの配合を表-2に示す。水セメント比は55%とした。セメントは高炉セメントB種、細骨材は苫小牧市錦岡産の海砂(表乾密度2.67g/cm3、吸水率1.24%、除塩処理済)、粗骨材は小樽市見晴産の砕石(表乾密度2.68g/cm3、吸水率1.69%)を使用した。粗骨材の最大寸法は20mmとした。スランプと空気量の目標値はそれぞれ12±2.5cm、4.5±1.5%とし、AE減水剤(リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体)とAE助剤(変性ロジン酸化合物系陰イオン界面活性剤)で調整した。供試体の寸法は100mm×100mm×200mm(打ち込み面は100mm×200mm)とした。なお、表-2に示すスランプと空気量は、供試体を作製するために5回行った練混ぜの実測値の平均である。4.1.2 実験の流れ

実験の流れを図-4に示す。供試体は冬期打設を想定し、脱型後、湿った麻布で包んだ状態で5℃の気中に12日間静置し、その後2日間、常温の水中に浸漬させた5)。この2日間の水中浸漬は供試体の養生に加え、実験趣旨に鑑み、供試体表層の含水率を高めることも

系列2 系列1 系列3

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.00:

00

1:00

2:00

3:00

4:00

5:00

6:00

21:0

0

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0

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0

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0

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0

26:0

0

27:0

0

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0

27:3

0

高周波容

量式の水

分計による

深さ

0~40

mmの

平均

含水

率(%

経過時間

0

50

100

150

200

250

300

0:00

1:00

2:00

3:00

4:00

5:00

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0

22:0

0

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0

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0

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0

26:0

0

27:0

0

27:1

0

27:3

0

電気

抵抗式の水分計

による

表面のカウント値

経過時間

囲い外 囲い内(No.1) 囲い内(No.2)

図-3 水分計による測定結果の推移

表-1 �谷倉ら4)の実験による電気抵抗式の水分計のカウン

ト値とコンクリート表面近傍の水分状態の関係

カウント値 10~55 60~132 137~230 235~520 521~744

表面状態 絶乾 乾燥 表面乾燥 湿潤 滞水

水セメ

ント比

(%)

使用セ

メント

の種類

単位量(kg/m3) 実測ス

ランプ

(cm)

実測

空気量

(%) 水 セメ

ント

細骨材 粗骨材

55 高炉 B 155 282 849 1040 13.0 5.1

表-2 コンクリートの配合

21日

12日

14日

28日

0日

冬期打設を想定し、5℃の気中に存置この間、供試体を湿った麻布で包む

供試体を常温の水中に浸漬

供試体の打設面以外の5面をエポキシ樹脂でコーティング

供試体を‐20℃の気中に存置

供試体を‐20℃の気中に存置

シランの含浸深さを測定

材齢

打設、翌日脱型

供試体の打設面を加温し、シランを塗布加温による水分量の変化を測定

図-4 4章の実験の流れ

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22 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月

ねらいとしている。材齢12日の圧縮強度は15.4N/mm2

で、5℃養生を終了するのに必要な圧縮強度の標準6)

を満足している。次に、養生を終えた部材を外気に曝す状態を模擬し、供試体を材齢21日まで-20℃の気中に存置した。

材齢21日に打設面を加温してシランを塗布した。加温と塗布は20℃の室内で行った。打設面以外の5面は水の蒸発を防ぐためのエポキシ樹脂コーティングを施している。写真-8に加温状況を示す。加温は、温風送風機から排出される約65℃の温風で行った。ここでは、温風が気中に拡散して加温の効果が薄れることを防ぐため、写真に示すように打設面に容器を被せ、容器にあけた直径50mmの穴に送風機の排出ホースを差し込み、容器へ温風を送り込む形で加温した。また、加温の際は写真-9に示すように非接触型の赤外線温度計を使用して表面温度を測定した。容器には、コンクリート表層内の水分の蒸発に起因する水蒸気の滞留を防ぐための直径30mmの穴を2箇所設けた。加温時間を10秒から360秒の範囲に設定し、加温終了後にシランを塗布した。シランは、北海道開発局道路設計要領の基準1)を満たす無溶剤系の3製品(以下、材料1、材料2、材料3と記す)とした。表-3に使用したシランを示す。塗布量については統一せず、製品メーカー指定の標準量とした。なお、この3種類のシランはいずれも、-20℃の環境下では凍結しないことをあらかじめ確認している。塗布後は7日間、-20℃の気中に再び存置した。

4.1.3 測定内容

(1)シランの含浸深さ

塗布7日後にシランの含浸深さを測定した。打設面に対し垂直方向に供試体を割裂し、割裂面に水を噴霧し、撥水を呈した範囲をシランの含浸域と判断してシランの含浸深さをノギスで測定した。

(2)含水状態の変化

1)水分計による測定

2.で述べた高周波容量式の水分計と電気抵抗式の水分計を使用し、低温下でのシランの塗布可否を判定する手法としての適用性評価も兼ねて、これらの水分計で求めた測定値の経時変化を調べた。2)質量法による含水率の測定

シランの含浸域にあたる深さ0~10mmのコンクリートの質量から、加温による含水率の経時変化を調べた。

図-5に測定の概念を示す。この測定を行うために作製した供試体については、水中浸漬を終えた材齢14 日(図-4)に深さ10mm位置をコンクリートカッターで切断した。その後、切り分けたコンクリート(10mm×100mm×200mmと90mm×100mm×200mm)の切断面同士を重ね合わせた形で-20℃の気中に存置した。そして、材齢21日の加温で10mm×100mm×200mmの質量を測定し、式(1)、(2)より含水率の経時変化を調べた。

d

dm

MMMU

(1)

送風機

供試体

容器内での水蒸気の滞留を防ぐための穴

容器

温風(65℃)排出口

写真-8 加温状況

写真-9 表面温度の測定状況

表-3 実験で使用した材料

製品名 成分 外観 有効成分 塗布量

材料 1 シラン・シロキサン ジェル状 90%以上 0.35kg/m2

材料 2 シラン・シロキサン ジェル状 90%以上 0.20kg/m2

材料 3 アルコキシシラン 液状 90%以上 0.28kg/m2

送風機の排出ホース 容器

10mm

深さ10mm位置を材齢14日に切断切断後、切断面同士は密着

100mm

供試体表面

温風

200mm

質量法による含水率の測定に使用した試料(厚さ10mmの薄板)

加温前後の質量変化から評価

図-5 質量法による深さ0~10mmの含水率の測定概念

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寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 23

m

mmtt M

MUMU

)1( (2)

ここに、Uは加温前の含水率、Mmは加温前の質量(g)、Mdは絶乾質量(g)、Utは加温時間t後の含水率、Mmtは加温時間t後の質量(g)である。

4.2 実験結果・考察

4.2.1 シランの含浸深さ

図-6にシランの含浸深さの測定結果を示す。加温時間は当初、10秒、180秒、360秒の3水準を設定していた。材料1はシランの含浸が確認され、加温時間を長くとるほど含浸深さは大きくなる傾向が示された。しかし、材料2と材料3では加温を360秒まで行ってもシランの含浸が確認されず、材料の種類によって含浸挙動が異なる結果となった。選定した材料1は、材料2、3よりも加水分解2)の進行が緩やかであることから水が残存する空隙へも含浸しやすい特徴を有していると考えられる。この結果を受けて、追加実験として、材料3において加温時間を30分、1時間、2時間、4時間まで延長した上で塗布したところ、シランの含浸を確認することができた。4.2.2 含水状態の変化

図-7に加温による供試体の含水状態の変化を示す。加温前の表面温度が-20℃ではなく-10℃を示しているが、これは供試体を-20℃の冷凍機から取り出した際、

供試体の表面に常温の室内の空気が触れ、若干暖められたことによる。表面温度は加温開始から180秒後に0℃を上回り、2時間後に40℃まで上昇した。温風の温度は65℃であるが、加温2時間以降は40℃で停滞し、これ以上の温度上昇は確認されなかった。これは、容器にあけた直径30mmの2箇所の穴(写真-8)から熱が逃げたためと考えられる。

高周波容量式の水分計で調べた深さ0~40mmの平

材料1

材料3

材料2

含浸せず

加温時間延長

含浸せず

加温時間

含浸

深さ(m

m)

0

1

2

3

4

5

10秒 180秒 360秒0

1

2

3

4

5

10秒 180秒 360秒

0

1

2

3

4

5

10秒 180秒 360秒 30分 1時間 2時間 4時間

含浸

深さ(m

m)

加温時間 加温時間

図-6 シランの含浸深さの測定結果

表面

温度(℃

)電

気抵抗

式の水

分計

による表面の

カウント値

高周

波容

量式

の水

分計

による深

さ0~

40mmの

平均

含水

率(%)

深さ0~

10mmの

質量

法による含水

率(%

加温時間

蒸発分

‐20

‐10

0

10

20

30

40

50

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

5.5

6.0

0

50

100

150

200

250

300

350

400

4.8

5.0

5.2

5.4

5.6

5.8

6.0

6.2

加温前

10秒

180秒

360秒

30分

1時

2時

4時

図-7 加温による供試体の含水状態の変化

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24 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月

均含水率は、加温時間の増加に伴って継続的に上昇し、加温開始から4時間を経過しても減少しなかった。一方、電気抵抗式の水分計で測定した表面のカウント値については、加温開始から加温180秒にかけて上昇したものの、それ以降は減少に転じた。深さ0~10mmの質量法による含水率をみると、加温時間の増加に伴って経時的に減少し、加温4時間後には約1%の水分が打設面から蒸発していた。

深さ0~10mmの質量法による含水率の変化と、高周波容量式の水分計で測定した深さ0~40mmの平均含水率の変化は正反対の傾向を示した。この理由として、水の比誘電率が80(5℃)であるのに対し、氷の比誘電率は3.2(-12℃)と水よりも小さい7)ことから、表面付近のコンクリート組織の空隙の氷は加温によって水に変化して蒸発したものの、内部のコンクリート組織の空隙の氷は融解に留まり、空隙に残存する水の影響でコンクリート内部の誘電率が上昇したことや、深さ40mmより深い位置の空隙の氷が融け、その水が深さ10~40mm付近へ移動したことが考えられる。すなわち、加温時間が短いコンクリートにおいて高周波容量式の水分計の測定値が小さく表示されたのは、含水率が小さかったためではなく、コンクリートの空隙が誘電率の小さい氷で充填されていたためと言える。

電気抵抗式の水分計に関しても、加温直後は融解によって氷から変化した水の存在の影響で一時的に表面のカウント値は上昇したが、加温を続けると水の蒸発によって表面のカウント値は減少に転じ、質量法による含水率やシランの含浸状況とも良く対応した。このことから、冬期の低温下の含水状態の調整に際し、加温時間と電気抵抗式の水分計の組み合わせによる管理の方法は有用性が高いと言える。今回の実験の範囲では、表面のカウント値と深さ0~10mmの含水率は概ね対応しており、少なくとも表面のカウント値によりシラン含浸域の含水率を評価できるものと考えられる。

5.冬期の防寒仮囲い内での塗布を想定した実験

4.では、-20℃の気中に存置した直後に加温を行った。5.では、シランを塗布する前に防寒仮囲いを設置する現場を想定した実験を行った。

5.1 実験概要

コンクリート配合・材料、実験に使用したシランは4.に同じである(表-2、3)。供試体の寸法も4.

に同じく100mm×100mm×200mmとした。図-8に実験の流れを示す。材齢21日以前は図-4に

同じである。材齢21日において、防寒仮囲いを想定した塗布条件の下限とされる5℃8)の気中に1日存置した。なお、比較のため5℃の気中に存置しないケースも設けた。存置後、打設面を温風で180秒間加温し、シランを塗布した。加温と塗布は20℃の室内もしくは写真-10に示すように冬期の-9℃の屋外(札幌市の寒地土木研究所構内)で行った。塗布後、-20℃の環境に7日間存置した。

測定項目は4.に同じく、加温前・後の高周波容量式の水分計と電気抵抗式の水分計による含水状態の測定、質量法による含水率およびシランの含浸深さとした。

22日

12日

14日

29日

0日

冬期打設を想定し、5℃の気中に存置この間、供試体を湿った麻布で包む

供試体を常温の水中に浸漬

供試体の打設面以外の5面をエポキシ樹脂でコーティング

供試体を‐20℃の気中に存置

供試体を‐20℃の気中に存置

シランの含浸深さを測定

材齢

打設、翌日脱型

供試体の打設面を加温し、シランを塗布加温による水分量の変化を測定

21日供試体を5℃の気中に存置

(防寒囲い内を想定)

加温場所は常温室内、もしくは屋外

図-8 5章の実験の流れ(比較のため、  

   �青い部分を行わない実験条件も設定)

写真-10 加温状況(冬期の屋外)

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寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 25

5.2 実験結果・考察

図-9にシランの含浸深さの測定結果を示す。加温時間は180秒に設定した。材料2については、4.において-20℃の気中に存置後すぐに180秒間加温して塗布を行った場合は含浸が確認されなかったが、5℃の気中に1日置いた後に加温した場合は常温の室内、冬期の屋外のいずれも含浸が確認された。材料3は180秒間の加温ではいずれのケースも含浸が確認されなかった。ここで追加実験として、-20℃の気中に存置後すぐに冬期の屋外で加温するケースにおいて加温時間を2時間、4時間まで延長して材料3を塗布したところ、深さ3mm、4mmのシランの含浸を確認することができた。

図-10に加温による含水状態の変化を示す。電気抵抗式の水分計を用いて測定した表面のカウント値をみ

ると、-20℃の気中に存置した後すぐに加温した場合は加温後の方が値は大きいが、-20℃の気中に存置した後、5℃の気中に1日間置いてから加温した場合は加温後の方が小さかった。この加温後のカウント値と同様の傾向は質量法による含水率においてもみることができ、5℃の気中に1日間置いてから加温した方が含水率は小さい。この結果は、5℃の環境に1日置いたことで表面付近のコンクリート組織の空隙に存在する氷の融解が進み、水に変化し、さらに加温による水の蒸発が促進されたことを示しており、材料2において5℃の気中に1日間置いたケースで含浸が確認された結果もこうした過程によるものと考えられる。一方、深さ0

含浸

深さ(m

m)

0

1

2

3

4

5

① ② ③ ④

0

1

2

3

4

5

① ② ③ ④

含浸せず含浸せず

含浸

深さ(m

m)

0

1

2

3

4

5

① ② ③ ④

含浸せず含浸せず含浸せず 含浸せず

含浸

深さ(m

m)

材料1

材料3

材料2

加温180秒

加温180秒

加温180秒

追加実験(加温時間延長)・加温2時間:3mm含浸・加温4時間:4mm含浸

表面温度(℃

)電気抵抗式の水分計

による表面のカウント値

高周波

容量式の水分計

による深さ0~

40mmの

平均含

水率(%)

加温後の深さ0~

10mmの

質量

法による含

水率

(%) ‐20℃存置終了時の含水率(5.96%)

0

100

200

300

400加温前 加温後

5.7

5.8

5.9

6.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0加温前 加温後

‐15‐10‐505

101520

加温前

加温後

図-9 シランの含浸深さの測定結果

(なお、左端の「材齢14~21日-20℃存置→

常温室内で加温・塗布」は、図-6の180秒

と同じデータである)

図-10 加温による含水状態の変化(加温180秒)

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26 寒地土木研究所月報 №800 2020年1月

~40mmの範囲の含水率が反映される高周波容量式の水分計の測定値からは、こうした傾向を明確に捉えることはできなかった。

6.�冬期のシラン塗布における含水状態の管理に関す

る考察

表面と内部で含水状態が異なる状態になりやすい冬期の低温下に曝されるコンクリート部材へのシランの塗布において、電気抵抗式の水分計によるカウント値は表層の含水状態を管理する上で有用な指標と言える。本研究で得た知見をもとに、電気抵抗式の水分計によるシラン塗布可否の判定方法の概念をまとめると図-11のようになる。

はじめに、材料によって異なる、シランの含浸が期待できるカウント値の範囲をあらかじめ把握した上で、現在の表面のカウント値を測定する。なお、カウント値は、含水率が小さいだけではなく、水が凍結していても小さく表示されることがあるため、1回の測定だけで塗布可否を判断することはできない。そのため、表面を加温してカウント値の変動を調べる。加温の直後にカウント値が下がる場合は水分の蒸発が進んでいることを表しているが、上昇する場合は蒸発ではなく、凍結していた空隙内の水の融解、もしくは、内部から表面への水の移動が起きていることを示唆しており、この段階での塗布は基本的に避ける必要がある。このようなときは、カウント値が上昇から下降に転じるまで加温を続け、下降に転じて以降は、シランの含浸が期待できる範囲にカウント値が達するまでさらに加温を続け、所定のカウント値まで下がったことを確認した上で塗布可と判断し、塗布作業に入ることにな

る。高周波容量式の水分計においても、測定値の単位は

異なるものの、塗布可否の判定方法の考え方は基本的に同じと考えられる。なお、高周波容量式の水分計の評価対象の深さは0~40mmと、シランの含浸域にあたる表面近傍を評価の対象とする電気抵抗式の水分計に比べると深く、大きく安全側に評価される可能性があることや、部材の表面のみが濡れているときは表面近傍の含水状態を適切に把握できないとの報告4)もあることから、電気抵抗式の水分計の併用も望ましいと思われる。

7.まとめ

冬期のコンクリート部材は、川霧や結露で表面が濡れやすく、冷えやすい。このような部材へシランを塗布するときは、塗布前に加温を行ってコンクリート表層の水分量を適切に低減させる必要がある。本研究では、高周波容量式の水分計と電気抵抗式の水分計の特性に着目し、冬期にシランを塗布する際の表層の含水状態の管理方法としてのこれら水分計の有用性について調べた。本研究の範囲で得られた結果をまとめると、以下のようになる。(1) 電気抵抗式の水分計は、コンクリート部材の表面

を加温したときのコンクリート表面近傍の含水状態の変化を把握しやすい。

(2) 冬期の低温下でシランの塗布可否を判定する上で電気抵抗式の水分計による表面のカウント値は有用な管理指標となる。

(3) 水分計による冬期の低温下でのシラン塗布可否の判定方法の概念を図に整理することができた。

8.今後の課題

今後は、図-11で示した電気抵抗式の水分計による塗布可否の判定方法の概念の実用性について、現場での検証を通じて、さらに詳しく調べていきたい。

また、冬期の低温下でのシランの塗布に先立ち、表層の含水率を下げるための加温方法として、本実験では温風の有用性が示されたが、適切な加温温度や加温時間は、現在の含水状態に加えて気温、湿度、部材厚など、様々な要素を考慮して定めることになる。適切なシランの施工法のさらなる充実化に向け、現在は経験等に基づき、個々の現場で独自で定められるこれらの事項の設計仕様の確立についても、取り組んでいき

カウント値

加温時間シランの含浸が

期待できる

カウント値

の範囲

カウント値が下降に転じてから塗布可否の判定を開始する

カウント値が上昇中の間は判定しない

塗布不可 塗布可

0

最低必要な加温時間 {この範囲で加温時間を設定

図-11 �電気抵抗式の水分計による冬期の低温下での

シラン塗布可否の判定方法の概念

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寒地土木研究所月報 №800 2020年1月 27

安中 新太郎YASUNAKA Shintaro

寒地土木研究所寒地保全技術研究グループ耐寒材料チーム上席研究員

遠藤 裕丈ENDOH Hirotake

寒地土木研究所寒地保全技術研究グループ耐寒材料チーム主任研究員博士(工学)

たいと考えている。

謝辞:本報3.の道路橋での実験では、国土交通省北海道開発局函館開発建設部をはじめ、関係各位より多大なご支援を賜りました。ここに厚く謝意を表します。

参考文献

1) 国土交通省北海道開発局:平成31年度北海道開発局道路設計要領、第3集橋梁、第2編コンクリート、参考資料B「道路橋での表面含浸材の適用にあたっての留意事項」、2019.4

2) 土木学会:表面保護工法設計施工指針(案)[工

種別マニュアル編]、コンクリートライブラリー119、p.149、2005.4

3) 湯浅昇:旧JASS8における防水施工の目安「Kettの水分計を用いて8%」物語2014、防水ジャーナル、No.507、pp.70-75、2014.2

4) 谷倉泉、榎園正義、後藤昭彦:床版防水工における水分計の適用性に関する研究、構造工学論文集、Vol.59A、pp.1112-1123、2013.3

5) 土木学会:2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]、pp.166-167、2018.3

6) 文献5)、p.165.7) 酒井昇:食品の誘電物性とマイクロ波加熱、日本

食品工学会誌、Vol.11、No.1、pp.19-30、2010.38) 文献2)、p.162.