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インフェクション コントロール コーディネータ 近藤 静夫セラチア感染対策セラチア感染対策
セラチア感染症
病 原 体 :セラチア 菌( 霊 菌 )
感 染 症 :セラチア 感 染 症
好発年齢 :50~ 60 歳 代 が 最 も 多 い
性 差 :男 性 対 女 性 比( 約 3:1 )
分 布 :ヒト・動物の腸内、水・土等の環境
好発時期 :梅 雨 時 期 、夏 季
●はじめにセラチアはグラム陰性桿菌で腸内細菌科に分類されるが、この場合の腸内細菌というのは必ずしも腸管内に住むという意味ではない。
セラチア属として12種類まで明らかにされているが、病原体の主たるものはセラチア マルセッセンス( :霊菌)であり、
ヒトや動物の腸のほか、水や土壌など自然環境にも広く生息している。弱毒菌なので健康なヒトでは口から入っても肺炎などの病気を
引き起こすことはまれであるが、高齢者や抵抗力が落ちたヒトに感染すると病気を起こす日和見感染菌の1つとして認識されている。
感染経路は主として接触感染で、医療従事者の手指や医療器具から伝播するリスクが大きいとされ、尿や痰から分離される頻度が多い。
したがって、尿路感染症と呼吸器感染症を予防することが重点的になる。以下、 についての 感染経路、 腸内細菌科に
おけるセラチア菌、 セラチア感染の予防と対策、 集団発生事件をケーススタディまでの一連についてまとめた。
セラチア血流感染過程
二 次 性血流感染
血流感染
敗 血 症
一 次 性血流感染
定 着
局所感染
暴 露
重症化 血流感染血流感染 敗血症敗血症 主な感染症(感染部位) 呼吸器感染症
尿 路 感 染 症
分離材料
痰
尿
感 染 症 成 立
感染源(分布)
ヒト、動物
自 然 界
1.ヒト腸管内
1. 水、土壌
2.動物腸管内
2.食品、塵埃
感染経路(伝播経路)
医療従事者の手指
医 療 器 具 の 接 触
1.手洗い不足
1.消毒不良
2.消毒不良
2.使いまわし 3.留置カテーテル
セラチア属菌の生息と感染経路
トピックストピックス
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セラチア菌に対する院内感染予防対策は、
標準予防策で血液ウイルスも含めて統一
されたものになる。感染経路別は接触感
染予防策が当たるが、MRSA等と同じ対
応になる(表3)。ただし、病原性から考えた場
合、呼吸器及び尿路の感染がほとんどを占
めるため、双方ともに留置カテーテルをで
きるだけ避ける、やむを得ない場合は短
期交換する及び看護者のカテーテル挿入
時の手洗いがケアポイントになる。
セラチアは接触感染が主たる伝播経路で感染力は弱いため、基本的には標準予防策(スタンダードプレコーション)を行っておけばよい。標準予防策と呼べば、感染経路別予防策が「含まれている」、「含まれない」の論議があるが、ここでは分割した考えをとり、「標準予防策」+「感染経路別予防策」とする。
表2 腸内細菌科に属する菌(大腸菌群)
感染予防対策
エシェリキア属(大腸菌、病原性大腸菌)、シゲラ属、サルモネラ属、クレブシェラ属、エンテロバクター属、エルシニア属、エルビニア属、プロテウス属
1
セラチア マルセッセンスセラチア属菌
(霊 菌) 腸内、(水、土壌) 弱毒菌(日和見)
特 徴:無芽胞桿菌で周毛性の鞭毛をもち、運動性があって、ブドウ糖を発酵して酸を生産する。腸管内に住むことを意味していないが属による分類では、セラチア属は重症の食中毒を起こす病原体がたくさん含まれている大腸菌群 に属している(表2)。大腸菌 には、食物消化を助ける善玉菌と恐ろしい病原性大腸菌O157が存在しているが、セラチア菌もブドウ糖消化する働きと感染症を起こす悪玉菌がいて病原性に違いはあるが、類似性がある特徴といえる。
定 義:腸内細菌科とは、グラム陰性桿菌で通性嫌気性のオキシダーゼ陰性の性状をもつ菌群と定義される。分類学 上の群分けで腸管内に住むという意味ではなく、自然環境にも常在する。
セラチア感染症予防と対策
対象事項
手 洗 い
手 袋
マ ス ク
ガ ウ ン
器 具
環 境リ ネ ン患者配置労働環境
予防策標準予防策接触予防策標準予防策接触予防策標準予防策標準予防策接触予防策標準予防策接触予防策標準予防策標準予防策接触予防策標準予防策
該当する対象者すべての患者に適用セラチア感染患者に適用すべての患者に適用セラチア感染患者に適用すべての患者に適用すべての患者に適用セラチア感染患者に適用すべての患者に適用セラチア感染患者に適用すべての患者に適用すべての患者に適用セラチア感染患者に適用すべての医療従事者に適用
主な項目日常手洗い衛生手洗い血液・体液患者に接触血液・体液血液・体液患者に接触血液・体液患者に接触血液・体液血液・体液患者隔離ハザード管理
表3 セラチア感染予防対策(標準予防+感染経路別)
感染予防対策とセラチア菌の薬剤感受性
酸素濃度が15~21%の環境を必要とする
酸素濃度が約5%で発育増殖する
生存、分裂に酸素分子を必要としない
酸素分子の有無にかかわらず生きのびる
炭酸ガスが0.5%以下の環境では発育が悪い
表1 好気性菌及び嫌気性菌の分類
偏性好気性菌
微好気性菌
嫌気性菌
通性嫌気性菌
カプノフィル
酸素分圧及び炭酸ガス分圧が細菌の発育に及ぼす影響から、好気性及び嫌気性総論的に細菌を分類する方法がある。細菌を寒天平板培地に接種し、4種類の異なるガス環境下で培養すれば発育状況から、5つのグループに分類できる(表1)。セラチア菌は の通性嫌気性グラム陰性桿菌に分類されるのであるが、さらに科で分類すれば、ビブリオ科、パスツレラ科などと並 んで、腸 内 細菌科 に分けられる。
腸内細菌科におけるセラチア菌
属(Genus) 代表的な菌種 生息・分布 病原性(感染力)
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薬剤感受性
セラチア菌の薬剤感受性は殺菌・消毒剤並びに合成抗菌剤・抗生剤に対するものを確認しておく必要がある。
1.殺菌・消毒剤CDCガイドラインに示される殺菌力の弱い消毒剤で十分に効果を示す。したがって、アルコール類などの中程度の殺菌力の消毒剤との組み合わせになる。ただし、セラチア耐性株には注意を要する(表4)。
2.抗菌剤・抗生剤M病院の事件で調査した研究班の疫学研究で患者、医療従事者及び環境の複数箇所から分離された 19株の感受性試験結果は、抗菌剤と抗生剤に対するいろんなセラチア耐性株が確認された(表5)。
1999年( 平成12年 )6月頃に大阪府 のM病院で集団発生した事件では、徹底的な原因究明とアウトブレイク再発
防 止に対する研 究に迫られた。敗 血 症 集 団 発 生になったた め、病 院が自主 的に保 健 所 へ 通 報すると共に府 の 機 関や
大学の専門家に協力を求めたものであった。専門調査班が編成され、そこで実行された研究とそ の推進 のあり方は、
院内感染対策に携わる者にとってずいぶん参考になったと考える。
従来から、医療機関側の認識には「マニュアルどおりに正しく行えば感染症はなくなるので、それで院内感染対策は
おわり」という考え方があった。そうではなくて、発生してしまった感染症が拡大した場合には終焉させなければ終わる
ことができないのであるから、院内感染予防対策とは終焉まで含めなければならない。
中間には拡大しつつある時期、さらにはアウトブレイクへ進んでいる時期があり、経時的に視聴が続けられているはずで
ある。感染症を確認し、拡大を察知しながら進行しているということは「すり抜け現象 」が起こっているということに
なる。かつての品質管理用語に「TQC」というのがあり、飛躍しすぎるが、これは現医療の場での「医療機能評価システム」に
読み替えることができると考えている。感染症発生からの拡大の傾向の察知能力をもたなければならず、管理機能の
問題につながる。すなわち、リスクマネジメントの重要性と組織としてのトータルリスクマネジメントであるべき姿が
ほしいと考える。そこで今題では、前述の敗血症集団発生に立ち向かった研究班の活動結果を熟慮し、研究としての掘り
下げを行い、結果を私見としてまとめた。
院内感染予防対策を総合的に行えば、感染対策を管理しながらのPDCA(プラン・ドウ・チェック・アクション)を 実践
することができる工程管理としての推進につながることを目標とする(図1参照)。
表5 [抗菌剤・抗生剤] セラチア 株の全てに有効な抗菌剤・抗生剤
●ノルフロキサシン(NFLX)
●シプロフロキサシン(CPFX)
●クロラムフェニコール(CP)
●スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)
●ゲンタマイシン(GM)
●イミペネム(IPM)
耐性が獲得された抗菌剤・抗生剤と個々の分離株の関連
DNA及びプラスミドによる分画
被検体と株数
感受性を示さない抗菌剤・抗生剤
(耐性獲得済)
アンピシリン(ABPC)
テトラサイクリン(TC)
ストレプトマイシン(SM)
カナマイシン(KM)
ホスホマイシン(FOM)
ナリジクス酸(NA)
セフォタキシム(CTX)
の分離元 耐性株
7
7
3
ー
2
2
1
(7名)
入院患者
2
2
1
ー
1
ー
ー
(2名)
医 療従事者
10
8
5
5
ー
ー
ー
(10株)
環境由来
19
17
9
5
3
2
1
合計
(株数)
セラチアによる院内感染事例報告書 : 堺市保健福祉局(平成12年12月)
表4 [殺菌・消毒剤]
セラチアに有効な殺菌・消毒剤
強い殺菌力の消毒剤 注意点
グルタラール 有害性フェノール、クレゾール石ケン 有害性
耐性株が確認されている殺菌・消毒剤●塩化ベンザルコニウム ●塩化ベンゼトニウム●5%グルコン酸クロルヘキシジン●塩酸アルキルジアミノエチルグリシン
弱い殺菌力の消毒剤 注意点
四級アンモニウム塩類(ベンザルコニウム、ベンゼトニウム)
耐性化
グルコン酸クロルヘキシジン 耐性化塩酸アルキルジアミノエチルグリシン 耐性化
中程度の殺菌力の消毒剤次亜塩素酸ナトリウムポビドンヨード消毒用エタノールエタノール・ラビング剤イソプロパノール(推奨70%)
注意点
ケーススタディとこれからのリスクマネジメントの提案
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ケーススタディからのリスクマネジメントへのつながり による院内感染と疑われた事例から
平常時 : リスクがないか又はほとんどないとき 起炎菌が定着、蔓延していないとき
1.保菌者がいないか又は検出されない2.検出されたが1,2名で、発症の恐れはない3.相互に伝播の因果関係はないといえる
注1 〔定義〕
病院封鎖 : 必ず閉鎖ではなく、最悪時注2
消 滅 消 滅
経過観察
感染経路別(接触予防策) 重要である
標準予防策 保菌者、感染症の有無に関わらず、恒常的に実施
平常時(感染者がいない)は適用を考えなくてよい
感染予防対策実践
感染対策管理
患者入院
未発症
発 症
伝 播
拡 大
蔓 延
新規入院患者
の受け入れ
(標準予防策 + 感染管理業務)
平常時(リスクはほとんどない)
(多発阻止の時期・委員会)
観察→察知→報告→対策のレベル
(国立衛研、保健所行政の介入)
緊急レベル(原因究明、疫学調査)
医療従事者の医療活動●感染経路別予防策の徹底 ●呼吸器感染対策の重点的徹底 (気管留置カテーテル)
●尿路感染対策の重点的徹底 (尿道カテーテル)
感染対策管理活動●感染症の発生・経過記録 ●感染症患者の対策規定による
●感染対策委員会の開催と協議 ●感染患者取扱いの検討と徹底
●拡大の防止策の検討と徹底
拡大の察知発生の認識 [予知に対する機能と体制造り]
原因究明多 発広 が り感 染 症保 菌 者感染記録
感染経路別予防策 発症者には追加的に適用する アウトブレイク処理 (多発)
終焉
医療従事者の医療活動●通常に医療・治療活動する
●通常に看護・介護活動する
感染対策管理活動●プランニング(ハイジーン計画)
●実施・実行(実践と記録)
●監視・監査(内部監査)
●チェック(結果と改善)
マネジメントシステム(組織的)として病院機能(評価)構造の一貫として
セラチア院内感染の多発に至る経過のフロー(一般論から)
院内感染予防対策マニュアル
患者転院
注2病院封鎖病院封鎖
診 療 記 録看 護 記 録
1~2例程度
保菌者
起炎菌の定着、蔓延がない
注1平常時
感染症状(発症)は見られない
保菌のみ
複数人2、3例超
発症者増加
1~2例程度
発症者
病院の組織ぐるみでの対処●アウトブレイク時の重点事項
1. 感染患者の治療に全力をあげる。2. 患者及び家族への十分な説明。3. 患者の個室管理、二次感染防止。4. 新規患者の入院、手術の延期。5. 発生の原因究明と再発防止策。6. 患者、職員の保菌状況の検査。7. 感染症発生が察知できる体制造り。
外部専門機関、大学等の支援
感染拡大の経過、患者数と感染率、感染患者追跡調査、実地疫学調査、細菌学的検査、疫学的調査、等々
図1
多人数(多発)
アウトブレイク