【ダイジェスト版】 肥大型心筋症の診療に関するガ …d-hcm:dilated phase of...

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1 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007 目  次 改訂にあたって…………………………………………………… 2 Ⅰ.病 態………………………………………………………… 3 Ⅰ‒ 1 定義と基本病態 …………………………………… 3 Ⅰ‒ 1 1 定義と分類 …………………………………… 3 Ⅰ‒ 1 2 肥大型心筋症の基本病態 …………………… 3 Ⅰ‒ 2 病態生理と血行動態 ……………………………… 4 Ⅱ.診 断………………………………………………………… 4 Ⅱ‒ 1 自覚症状・身体所見 ……………………………… 4 1)自覚症状 ………………………………………… 4 2)身体所見 ………………………………………… 4 Ⅱ‒ 2 評価法 ……………………………………………… 4 Ⅱ‒ 2 1 心電図・ホルター心電図・加算平均心電図・ 運動負荷心電図・M-TWA・臨床電気生理学的 検査 …………………………………………… 4 Ⅱ‒ 2 2 心エコー図・ドプラ法 ……………………… 5 Ⅱ‒ 2 3 心臓カテーテル検査(含,心内膜心筋生検) 5 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告) 【ダイジェスト版】 肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2007 年改訂版) Guidelines for Diagnosis and Treatment of Patients with Hypertrophic Cardiomyopathy (JCS 2007) 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会,日本心血管インターベンション学 会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本心電学会 班 長 高知大学老年病科循環器科 班 員 貫   東京女子医科大学循環器内科 東京女子医科大学附属青山病院循環 器内科 久留米大学医学部附属医療センター 循環器科 岡山大学大学院医歯学総合研究科心 臓血管外科 榊原記念病院循環器内科 田   兵庫県立淡路病院内科 近 森 大志郎 東京医科大学病院第二内科 鄭   鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 循環器呼吸器代謝内科学 澤   脳神経疾患研究所附属総合南東北病 院小児科 谷   国立循環器病センター心臓内科 市立宇和島病院内科 山   兵庫医科大学循環器内科 山口大学大学院医学系研究科器官病 態内科学 森   京都大学大学院医学研究科循環器内 科学 協力員 阿 南 隆一郎 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 循環器呼吸器代謝内科学 東京女子医科大学循環器内科 神戸大学循環呼吸器病態学 高知大学老年病科循環器科 保   高知大学老年病科循環器科 若草第一病院循環器科 西 京都大学医学部附属病院救急部 山口大学大学院医学系研究科器官病 態内科学 外部評価委員 浦   大阪医科大学第三内科 畠   加納総合病院循環器内科 東京医科歯科大学難治疾患研究所分 子病態分野 中   東京大学検査部 兵庫県立尼崎病院 大阪掖済会病院 (構成員の所属は 2007 年6月現在)

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1Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

目  次

改訂にあたって…………………………………………………… 2

Ⅰ.病 態………………………………………………………… 3  Ⅰ‒1 定義と基本病態 …………………………………… 3   Ⅰ‒1‒1 定義と分類 …………………………………… 3   Ⅰ‒1‒2 肥大型心筋症の基本病態 …………………… 3  Ⅰ‒2 病態生理と血行動態 ……………………………… 4

Ⅱ.診 断………………………………………………………… 4

  Ⅱ‒1 自覚症状・身体所見 ……………………………… 4     1)自覚症状 ………………………………………… 4     2)身体所見 ………………………………………… 4  Ⅱ‒2 評価法 ……………………………………………… 4   Ⅱ‒2‒1  心電図・ホルター心電図・加算平均心電図・

運動負荷心電図・M-TWA・臨床電気生理学的検査 …………………………………………… 4

   Ⅱ‒2‒2 心エコー図・ドプラ法 ……………………… 5   Ⅱ‒2‒3 心臓カテーテル検査(含,心内膜心筋生検) … 5

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006年度合同研究班報告)

【ダイジェスト版】

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)Guidelines for Diagnosis and Treatment of Patients with Hypertrophic Cardiomyopathy (JCS 2007)

合同研究班参加学会: 日本循環器学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会,日本心血管インターベンション学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本心電学会

班 長 土 居 義 典 高知大学老年病科循環器科

班 員 笠 貫   宏 東京女子医科大学循環器内科

川 名 正 敏 東京女子医科大学附属青山病院循環器内科

古 賀 義 則 久留米大学医学部附属医療センター循環器科

佐 野 俊 二 岡山大学大学院医歯学総合研究科心臓血管外科

高 山 守 正 榊原記念病院循環器内科

宝 田   明 兵庫県立淡路病院内科

近 森 大志郎 東京医科大学病院第二内科

鄭   忠 和 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科循環器呼吸器代謝内科学

中 澤   誠 脳神経疾患研究所附属総合南東北病院小児科

中 谷   敏 国立循環器病センター心臓内科

濱 田 希 臣 市立宇和島病院内科

増 山   理 兵庫医科大学循環器内科

松 﨑 益 德 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学

松 森   昭 京都大学大学院医学研究科循環器内科学

協力員 阿 南 隆一郎 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科循環器呼吸器代謝内科学

梶 本 克 也 東京女子医科大学循環器内科

川 合 宏 哉 神戸大学循環呼吸器病態学

北 岡 裕 章 高知大学老年病科循環器科

久 保   亨 高知大学老年病科循環器科

寺 柿 政 和 若草第一病院循環器科

西 尾 亮 介 京都大学医学部附属病院救急部

村 田 和 也 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学

外部評価委員

北 浦   泰 大阪医科大学第三内科

北 畠   顕 加納総合病院循環器内科

木 村 彰 方 東京医科歯科大学難治疾患研究所分子病態分野

竹 中   克 東京大学検査部

藤 原 久 義 兵庫県立尼崎病院

吉 川 純 一 大阪掖済会病院

(構成員の所属は2007年6月現在)

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2 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告)

 肥大型心筋症(HCM)の診断・治療は専門性の高い領域であるが,臨床の現場において診療にあたる機会は少なくない.HCMの診断・治療,特に治療に関しては確固たるエビデンスが乏しいのが現状である.このような状況の中で日本循環器学会は2002年に肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(班長 吉川 純一)を発表し,これまで活用されてきている.医学の日進月歩は肥大型心筋症の領域においても著しく,診断・治療ともに新しい知見も出されてきたことから,この度,日本循環器学会学術委員会(委員長 堀 正二)より指定されたガイドライン作成班(班長 土居 義典)により,改訂の運びとなった. 本疾患に関するエビデンスは我が国のみならず諸外国においても少ない.従って,我が国のデータだけではなく,欧米からのデータを用いるに至ったところも多々ある.一方,初版から5年が経過したが,診断・治療について臨床データが少しずつではあるが確実に蓄積してき

たことも事実である.まず,厚生省(現,厚生労働省)特定疾患特発性心筋症調査研究班により1986年(昭和61年)に作成された「特発性心筋症の診断の手引」が2005年に全面改訂された.さらに,分子遺伝学の進歩によって本疾患の新規病因遺伝子も数多く報告され,一般臨床におけるCTやMRIによる画像診断能力が著しく向上したことも大きな変化と考えられる.また,治療についても従来の薬物治療に加えて,中隔枝塞栓術(PTSMA)などの非薬物治療も臨床の現場で一般的に用いられるところとなった.以上のようなデータを加え,実際の臨床現場で活用できるようガイドラインとして部分改訂を行った.先にも述べたように本疾患のエビデンスは少ないため,この領域のエキスパートの委員間で慎重に討議を行い,さらに外部評価委員のコメントも頂き,本ガイドラインとなった.本ガイドラインも新たな知見が集積したと思われる適当な時期に改訂されるべきものであろう.本ガイドラインを日常診療に役立てていただ

   Ⅱ‒2‒4 核医学およびその他の 画像診断 …………… 6     1)核医学検査 ……………………………………… 6     2)CT・MRI ………………………………………… 6   Ⅱ‒2‒5 遺伝子診断 …………………………………… 6  Ⅱ‒3 診断のフローチャート …………………………… 6  Ⅱ‒4 小児から見た肥大型心筋症の診断 ……………… 9

Ⅲ.治 療………………………………………………………… 9  Ⅲ‒1 日常生活の管理 ……………………………………10   Ⅲ‒1‒1 運 動 …………………………………………10   Ⅲ‒1‒2 性生活 …………………………………………10   Ⅲ‒1‒3 妊 娠 …………………………………………10   Ⅲ‒1‒4 飲酒と喫煙 ……………………………………10   Ⅲ‒1‒5 感染予防 ………………………………………11   Ⅲ‒1‒6 塞栓症の予防 …………………………………11   Ⅲ‒1‒7 遺伝カウンセリング …………………………11  Ⅲ‒2 薬物療法 ……………………………………………11     1)無症状例 …………………………………………11

     2)有症状例(軽度~中等度) ……………………11      a)閉塞性肥大型心筋症 …………………………11      b)非閉塞性肥大型心筋症 ………………………11     3)心不全例 …………………………………………11      a)閉塞性肥大型心筋症 …………………………11      b)非閉塞性肥大型心筋症 ………………………13     4)ハイリスクグループ ……………………………13     5)不整脈 ……………………………………………13  Ⅲ‒3 非薬物療法 …………………………………………14   Ⅲ‒3‒1 手術(心筋切開術,心筋切除術,僧帽弁手術) …14   Ⅲ‒3‒2 ペースメーカー植え込み術 …………………14   Ⅲ‒3‒3 経皮的中隔心筋焼灼術 ………………………14  Ⅲ‒4 小児における肥大型心筋症の管理と治療 ………14   Ⅲ‒4‒1 突然死の予防と管理 …………………………14   Ⅲ‒4‒2 薬物療法の適応 ………………………………14   Ⅲ‒4‒3 非薬物療法 ……………………………………14

(無断転載を禁ずる)

改訂にあたって

主 な 略 号HCM:Hypertrophic cardiomyopathy

HOCM:Hypertrophic obstructive cardiomyopathy

SAM:Systolic anterior motion

MR:Mitral regurgitation

ICD:Implantable cardioverter defibrillator

PTSMA:Perctaneous transluminal septal myocardial

ablation

D-HCM:dilated phase of hypertrophic cardiomyopathy

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3Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン

くなった.特定心筋症の中には虚血性,弁膜性,高血圧性,炎症性(心筋炎),代謝性,過敏・中毒性,周産期心筋症や,神経・筋疾患,膠原病などの全身性疾患に伴う心筋症が含められている.

Ⅰ-1-2 肥大型心筋症の基本病態 厚生労働省特発性心筋症調査研究班によって2005年に心筋症・診断の手引が全面改訂された.このなかでHCMの基本病態は表2の様に定義されている.病態生理の特徴は左室の伸展異常による左室流入障害であるが,拘束型心筋症との混同をさけるために,「心肥大に基づく左室拡張能低下」が基本病態とされている. HCMの分類については従来,左室流出路の狭窄の有無により閉塞性と非閉塞性の2型に分けられてきた.しかし,本症の本態は心筋肥大であり,流出路の狭窄はその表現型の一つとするのが妥当と考えられる.基本的には肥大型心筋症として総称し,左室流出路に狭窄が存在する場合特に閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic

ければ幸甚である. 尚,今回のガイドライン作成にあたっては診断法および治療法の適応に関する推奨基準として,以下のクラス分類及びエビデンスレベル表示を用いた.

クラス分類 クラスⅠ:手技,治療が有効,有用であるというエビ

デンスがあるか,あるいは見解が広く一致している.

 クラスⅡ:手技,治療が有効,有用であるというエビデンスがあるか,あるいは見解が広く一致していない.

   Ⅱ a:エビデンス,見解から有用,有効である可能性が高い.

   Ⅱ b:エビデンス,見解から有用性,有効性がそ

れほど確立されていない. クラスⅢ:手技,治療が有効,有用でなく,時に有害

であるとのエビデンスがあるか,あるいはそのような否定的見解が広く一致している.

エビデンスレベル レベルA:複数の無作為介入臨床試験または,メタ解

析で実証されたもの. レベルB:単一の無作為介入臨床試験または,大規模

な無作為介入でない臨床試験で実証されたもの.

 レベルC:専門家及び /または,小規模臨床試験(後向き試験及び登録を含む)で意見が一致したもの.

表1 1995年WHO/ISFC合同委員会による心筋症の定義と   病型分類

定  義:心筋症は心機能障害を伴う心筋疾患をいう.

病型分類:1.拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy; DCM)2.肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopahy;

HCM)3.拘束型心筋症(restrictive cardiomyopathy;

RCM)4.催不整脈性右室心筋症(arrhythmogenic right

ventricular cardiomyopathy)5.分類不能の心筋症(unclassified cardiomyopathy)

  特定心筋症(specific cardiomyopathies)

Ⅰ 病 態

Ⅰ-1 定義と基本病態

Ⅰ-1-1 定義と分類 心筋症とは ,臨床的に,弁膜症・高血圧などの心筋因子以外の原因がなく,心筋そのものの障害により心機能異常をきたす疾患であり,肥大型心筋症HCM

(hypertrophic cardiomyopathy; HCM)は,左心室ないし右心室の肥大を呈する病態と定義される. WHO/ISFCの1980年の提案では心筋症は“原因不明な心筋疾患”と定義されたが,その後病因遺伝子の検索・確定が進み,次々とサルコメア蛋白の異常が認められ,1995年の改訂では“原因不明な”とする説明が削除され“心機能障害を伴う心筋疾患”と改められた. 心筋症の分類についても病因の解明がすすめば将来的には病因分類が採用されると思われる.しかしこれまでの臨床病態に基づく分類が定着していることもあり,1995年の提案でも拡張型dilated,肥大型hypertrophic,拘束型 restrictiveの分類はそのまま残され,新たに不整脈 源 性 右 室 筋 症 arrhythmogenic right ventricular

cardiomyopathy と 分 類 不 能 の 心 筋 症 unclassified

cardiomyopathyがつけ加えられた(表1). 一方“原因または全身疾患との関連が明らかな心筋疾患については特定心筋症 specific cardiomyopathyとされ「二次性」あるいは「続発性」という名称は用いられな

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4 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告)

obstructive cardiomyopathy; HOCM)とよぶのが望ましい.この他に肥大部位が特殊なものとして,心室中部閉塞性心筋症,心尖部肥大型心筋症が挙げられ,拡張型心筋症様病態を呈した場合拡張相肥大型心筋症(dilated

phase of hypertrophic cardiomyopathy; D-HCM)と呼ばれている.

Ⅰ-2 病態生理と血行動態

 本症の病態は,圧負荷などでは説明のつかない不均等な心筋肥大であり,拡張能障害を特徴とする.肥大の著しい左室流出路や心室中隔中部などに圧較差を生じうる.また,冠微小循環の障害により,心筋虚血・冠血流予備能の低下を来し,胸痛など臨床症状が現れる.

Ⅱ 診 断

 HCMの診断手順を図1に示す. 診断には不均等な心筋肥大を検出するために,心エコー図が簡便で有用であるが,エコーウインドウの制限や,エコーの描出不良の場合などには,CT・MRIが用いられる.また,病因の説明のつかない心電図変化(異常Q

波,ST-T)を見たときには,本症を念頭に精査を進める.

Ⅱ-1 自覚症状・身体所見

1)自覚症状

 HCM患者では無症状の患者もあるが,呼吸困難・胸痛・動悸・失神などを訴える.

2)身体所見

 2峰性心尖拍動を触知し,第 IV音を認める.左室流出路狭窄を伴う場合,狭窄部を通過する渦流による駆出性収縮期雑音や心室中隔と僧帽弁前尖の接触音である収縮早期過剰心音が聴取される.

Ⅱ-2 評価法

Ⅱ-2-1心電図・ホルター心電図・加算平均心電図・運動負荷心電図・M-TWA・臨床電気生理学的検査

 12誘導心電図では,異常Q波,ST-T変化,陰性T波,左室側高電位などを示し,説明のつかない心電図変化を見た場合,まず,HCMを疑うことが重要である.HCM

では,心室性あついは上室性の頻脈性不整脈,除脈性不整脈など,多彩な不整脈が発生し,失神発作や突然死,心原性塞栓症の原因となるが,不整脈の多くは無症状であるため,全例,ホルター心電図の適応となる.

肥大部位の検出

症状・検診

病歴聴取身体所見心電図胸部 X線

心エコー図ドプラ法

核医学検査CT,MRI心臓カテーテル検査冠動脈造影心内膜心筋生検遺伝子診断

除外診断

弁膜症先天性心疾患高血圧性心疾患虚血性心疾患代謝性疾患全身性系統疾患 アミロイドーシス Fabry病など

確定診断

収縮能・拡張能など心機能のチェック

図1表2 2005年特発性心筋症調査研究班による肥大型心筋症の   基本病態

 肥大型心筋症は,明らかな心肥大をきたす原因なく左室ないしは右室心筋の心肥大をきたす疾患であり,不均一な心肥大を呈するのが特徴である.また,通常,左室内腔の拡大はなく,左室収縮は正常か過大である.心肥大に基づく左室拡張能低下が,本症の基本的な病態である.

① 左室流出路に狭窄が存在する場合,特に閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy; HOCM)とよぶ.

② 肥大部位が特殊なものとして,心室中部閉塞性心筋症(midventricular obstruction; 肥大に伴う心室中部での内腔狭窄がある場合),心尖部肥大型心筋症(apical hypertrophic cardiomyopathy; 心尖部に肥大が限局する場合)がある.

③ 肥大型心筋症の経過中に,肥大した心室壁厚が減少し菲薄化し,心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下をきたし,拡張型心筋症様病態を呈した場合,拡張相肥大型心筋症(dilated phase of hypertrophic cardiomyopathy; D-HCM)とされる.その診断は経過観察されていれば確実であるが,経過観察されていなくても,以前に肥大型心筋症との確かな診断がされている場合も含まれる.

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5Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン

 加算平均心電図による心室遅延電位検出による突然死や致死的不整脈の予測予測に関してはいまだ実証されていない. 電気生理学的検査の適応を示す.

肥大型心筋症における電気生理学的検査の適応ClassⅠ : 1.心停止後蘇生したHCM患者の原因検索や植え込

み型除細動器(ICD)の適否の決定 2.加算平均心電図による心室遅延電位を認める症候

性のHCM

ClassⅡ : 1.非閉塞性肥大型心筋症患者の失神発作の原因検索 2.非持続性心室頻拍を認めるHCMのうち,連発数

の多いものまたは頻回に認めるもの

ClassⅢ : 1.心室頻拍が見られず,失神発作に見合う圧較差を

認めるHOCM

Ⅱ-2-2 心エコー図・ドプラ法 HCMの基本病態は,心内腔の拡大を伴わない心筋の不均等な肥大であり,断層心エコー図により肥大様式の形態評価を,ドプラ法により1)左室流出路狭窄など左室あるいは右室の閉塞の評価,2)左室拡張能,3)MR

などの合併症の評価を行う.心エコー図により描出が困難な場合には,CTやMRIなどのほかの画像診断法から総合的に診断する.

肥大型心筋症または肥大型心筋症が疑われる患者における経胸壁心エコー図の適応:ClassⅠ : 1.心筋症が疑われる患者における形態診断と血行動

態的重症度の評価 2.心筋症の確定診断患者で臨床病態に明らかな変化

が生じている場合または薬物療法の選択の指針としての再評価

ClassⅡ : 1.心筋症の診断が確定している患者で臨床病態に変

化がない患者の再評価   (但し,年1~2回程度の,経過観察目的に必要な

心エコー図検査を除く) 2.左室機能の計測による予後リスクの層別化

肥大型心筋症または肥大型心筋症が疑われる症例における経食道エコー検査の適応:ClassⅠ : 1.臨床症状または経胸壁エコー図でHCMが強く疑

われるが,経胸壁エコー図の画質不良のため,左室流出路および血行動態の観察が不充分な場合.

 2.重症僧帽弁逆流症または突然の血行動態悪化の原因として腱索断裂が疑われるため,僧帽弁装置の詳細なる観察が必要な場合.

 3.心筋切除例における術中のモニター. 4.心房細動を有する例で左房内血栓が疑われる場合

または電気的除細動を考慮する場合.

ClassⅡ :

 1.心筋症の診断が確定している患者で臨床状況に変化がない患者の再評価

ClassⅢ : 1.臨床上安定しており,処置法の変更が考慮されて

いない患者におけるルーチンの再評価

Ⅱ-2-3 心臓カテーテル検査(含,心内膜心筋生検)

 心エコー図・ドプラ法を始め,CTやMRIなどでHCMの非侵襲的評価が可能であるが,冠動脈疾患との鑑別のための冠動脈造影や二次性心筋症との鑑別のための心内膜心筋生検など,心臓カテーテル検査が必要となる.

肥大型心筋症の診断,評価のための心臓カテーテル検査の適応ClassⅠ : 1.冠動脈疾患の鑑別のための冠動脈造影 2.二次性心筋症の鑑別のための心内膜心筋生検 3.心エコー図で評価不能のHCM症例での以下の病

態   ・心室の形態,機能診断   ・HOCMに対する二腔ペーシングの効果の評価   ・ HOCMに対する外科的治療の術前術後の心室

の形態,機能診断   ・薬効評価

ClassⅡ : 1.心エコー図あるいはMRI・CTで評価可能な心室

の形態,機能診断,治療効果の評価

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6 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告)

Ⅱ-2-4 核医学およびその他の画像診断

1)核医学検査

 核医学検査では,他の検査法では知ることのできない,心筋血流や心筋代謝,心筋交感神経機能の評価が可能であり,予後の推定にも有用である.

肥大型心筋症の診断,評価のための核医学検査の適応ClassⅠ : 1.心エコー図で評価不能な症例での左室の機能診断

のためのRIアンギオグラフィ

ClassⅡ : 1.左室の非対称性肥大診断,予後推定のための心筋

血流イメージング 2.心筋障害診断,予後推定のための心筋脂肪酸代謝

イメージング 3.心筋障害診断,予後推定のための心筋交感神経イ

メージング 4.心エコー図で評価可能な症例での左室の形態,機

能診断のためのRIアンギオグラフィ 5.心アミロイドーシス,心サルコイドーシス除外の

ためのピロリン酸シンチグラフィ 6.心サルコイドーシス除外のためのガリウムシンチ

グラフィ 7.心筋代謝障害診断のためのFDG-PET

2)CT・MRI

 心エコー図にて描出困難な患者における形態診断に用いられ,特に心尖部肥大型心筋症の描出不良の際など,肥厚部位の同定に有用である.さらにMRIでは,シネモードにより左室造影のように左室の機能評価も可能である.

肥大型心筋症または肥大型心筋症が疑われる患者の病態把握におけるCT・MRIの適応:ClassⅠ : 1.心筋症が疑われるが,心エコー図の描出困難な患

者における形態,機能診断 2.心尖部肥大型心筋症が疑われる患者における形態,

機能診断

ClassⅡ : 1.心尖部肥大を除く肥大型心筋症患者における形態,

機能診断 2.遅延造影効果による陳旧性心筋梗塞および二次性

心筋症の鑑別 3.遅延造影効果による患者のリスク層別化

ClassⅢ : 1.撮像時に呼吸・心電図同期の困難な患者

Ⅱ-2-5 遺伝子診断 本法は,現時点では多くの施設で簡便に行える検査とはいえないが,特定の症例に限れば有力な診断法であり,今後遺伝子解析の進歩により,広まっていくと思われる.

肥大型心筋症における遺伝子診断の適応ClassⅠ :・家族性で表現型より遺伝子型が推測できる場合 〈遺伝子検索による遺伝子異常確定の可能性が高い〉 1.家族性HCMで閉塞性,非閉塞性の場合,βミオ

シン重鎖遺伝子の検索 2.D-HCMの場合,トロポニンT遺伝子の検索 3.次に,頻度の多い心筋ミオシン結合蛋白C遺伝子

の検索を行う. 4.上記の3つの遺伝子でも遺伝子異常が確認出来な

かったときには,検索可能な環境の場合のみ,上記の3つの遺伝子以外の疾患遺伝子の検索が推奨される.

ClassⅡ :・ 家族性であるが表現型から遺伝子型が予測出来ない場合

・孤発性でも表現型から遺伝子型が推測される場合 〈遺伝子検索による遺伝子異常確定の可能性は不確実〉 1.βミオシン重鎖遺伝子,心筋ミオシン結合蛋白C

遺伝子,トロポニンT遺伝子の検索 2.上記の3つの遺伝子でも遺伝子異常が確認出来な

かった場合,検索可能な環境の場合のみ,上記の3つの遺伝子以外の疾患遺伝子の検索が推奨される.

ClassⅢ :・孤発性で表現型から遺伝子型が推測できない症例

Ⅱ-3 診断のフローチャート

 HCMの診断にあたっては,病歴や身体所見から心臓

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7Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン

カテーテル検査や心内膜心筋生検所見まで,さまざまな質の異なる情報を駆使して行うが,心肥大・拡張機能低下,左室流出路狭窄,不整脈の3つの病態に留意することが重要である.この過程で心エコー図検査は豊富な情報を提供するので,これを軸にするが,最初にHCMを疑うところから心エコー図検査,さらに病態把握や重症度評価を目的として行う心臓カテーテル検査を含めた精密検査まで,様々な診断上のステップが存在する.HCM診断の以下のようなステップごとのフローチャートを示す(図2).

 1.ステップ1:自覚症状からHCMを疑うまで―非循環器専門医も含めた一般外来のレベル

 2.ステップ2:心エコー図検査でHCMと診断するまで―循環器専門外来のレベル

 3.ステップ3:病態把握,重症度判定を目的とした精密検査―入院も含めた精査のレベル

 4.原因不明の左室肥大に対する鑑別診断(表3)

表3 原因不明の左室肥大に対する鑑別診断

家族性HCM・FHC1:第14番染色体(β-myosin)・FHC2:第1番染色体(troponin T)・FHC3:第15番染色体(α-tropomyosin)・FHC4:第11番染色体(myosin-binding protein)・FHC6:第7番染色体(associated with WPW syndrome)*・FHC7:第19番染色体(troponin I)・FHC8:第3番染色体(myosin essential light chain)・FHC9:第2番染色体(titin)・FHC10:第12番染色体(myosin regulatory light chain)・その他その他の左室肥大を呈する遺伝子疾患・Noonan症候群・Friedreich失調症生理的負荷に対する過剰反応・スポーツマン心臓(Athletic heart)代謝性疾患・アミロイドーシス・糖原病・ミトコンドリア疾患・褐色細胞腫・Fabry 病

* 形態的にはHCMに類似するが,病態は代謝疾患の一つである糖原病として位置づけるほうが望ましい

自覚症状

詳細な病歴聴取

身体所見

一般検査所見

推定される病態

心臓超音波検査

ステップ 1:自覚症状から肥大型心筋症を疑うまで

鑑別診断上のポイント

収縮機能不全を示唆する所見がないか?

心肥大をきたす他の疾患を示唆する所見がないか?

肺うっ血・左房圧上昇に起因するか?

頚静脈波でのa波増高心尖拍動の増大心音:IV音の亢進心雑音:収縮期雑音(肺胞性クラックル)

心電図: 左房負荷 左室肥大 高電位 異常Q波 ST-T変化 巨大陰性T波 調律の異常 伝導障害胸部X線写真 正常または軽度心拡大 上肺野血管陰影増強

心肥大拡張機能低下

家族歴,既往歴(検診歴),職業歴,嗜好・常用薬

息切れ呼吸困難

失神めまい

動悸脈の乱れ

胸部不快感胸痛

心悸亢進

疲労感

左室流出路閉塞に起因するか?

脈拍・頚動脈拍動 :     2峰性脈波心雑音:     左室流出路     駆出性雑音

左室流出路狭窄

不整脈に起因するか?

心筋虚血に起因するか?

症状なし

不整脈

図2

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8 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告)

ステップ 3:病態把握,重症度評価を目的とした精密検査

左室形態(壁厚部位)の評価・ Maron分類の各型・ 心尖部肥大型

心臓超音波・ドップラー検査(経胸壁,経食道)

MRI

心内圧測定,心室造影

左室内狭窄の評価・ 部位・ 程度・ 僧帽弁の状態

左室拡張機能の評価

不整脈評価

ホルター心電図

心電図上のQT時間,QT dispersion加算平均心電図によるLP

運動負荷試験

電気生理学的検査

冠動脈造影

心筋虚血の評価

心筋シンチグラム

成因に関する評価(特定心筋症の検索)

詳細な家族歴調査

遺伝子検査

内分泌学的・免疫学的検査

心筋生検心臓カテーテル検査

ステップ 2:心臓超音波検査で肥大型心筋症と診断するまで

心臓超音波・ドップラー検査

左室壁運動正常

左室壁厚増大・ 非対称性肥大部位の同定

左室内狭窄の有無と部位の同定・ 左室内加速血流・ SAM (僧帽弁逆流)

左室拡張機能障害・ 左室流入血流速波形 ・ 弛緩障害型パターン ・ 偽正常化パターン ・ 拘束型パターン・ 組織ドプラー法による僧帽弁輪 部拡張早期速度       (右室収縮期圧推定)

肥大型心筋症HCM

心臓超音波検査における鑑別ポイント

弁膜の異常

弁膜疾患による肥大

左室壁運動・壁厚正常

“心電図異常”

拘束型心筋症RCM

不整脈源性右室形成不全症

ARVC

左室拡大・壁運動低下

拡張型心筋症DCM

拡張層肥大型心筋症

DHCM

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9Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン

Ⅱ-4 小児から見た肥大型心筋症の診断

 無症状の場合が多く,学校検診などが発見の契機となる.小児における診断のフローチャート(図3)および鑑別すべき二次性心筋症(表4)を示す.

Ⅲ 治 療

 HCMの発症機序は,サルコメア蛋白異常による収縮力低下に対する代償的肥大とともに,心筋収縮におけるカルシウム感受性亢進などが推測されている.HCMの

表4 小児で鑑別すべき二次性心筋症疾  患  名 機 序 ・ 全 身 症 状 心  症  状

Noonan症候群

特異な顔貌,低身長,翼状頚などTurner症候群と類似の表現型をとる.染色体は正常であるが,12q24への連鎖の報告がある.

異形成弁による肺動脈弁狭窄,肥大型心筋症とくに中隔肥厚が強い型,心房中隔欠損などがある 215)

LEOPARD症候群(multiple lentigines syndrome)

首と体幹部の多発性の黒子,軽度の発育不全,眼球隔離,目立つ耳介,中等度の感音性唖,性器異常などの症候群である.Noonan症候群との類似性も指摘されている.

軽度肺動脈狭窄,肥大型心筋症とくに閉塞型,PQ 時間延長をみる 216)

Pompe病

酸性α -glucosidase欠損のため,グリコーゲンが全身に蓄積する疾患で,乳児型がPompe病と呼ばれる.乳児期前半に発症し,筋力低下のため frog positionをとる.予後不良で呼吸困難や心不全で死亡する.

著しい心筋肥厚があり,左室はやや拡大する.心電図は特徴的で著しい高電位差でPQ時間が短い 217)

Fabry病

α -galactosidase 欠損による伴性劣性遺伝の糖脂 質 代 謝 異 常 で,globotriaosylceramideやgalabiosylceramide が血管内膜,結合織,心臓,腎臓などに蓄積する.Xq22上に遺伝子座があり,その変異が原因である.小児期以降,四肢疼痛,アンギオテラトーマ,関節痛,蛋白尿,角膜混濁などを現す

肥大型心筋症が主で,僧帽弁逸脱・閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全なども見る.全身症状がなく心異常だけの例があり,心Fabry病と呼ばれる 218)

Friedreich's ataxia 進行性家族性の延髄小脳失調症肥大型心筋症を高頻度に合併する 219) 肥大型心筋症を高頻度に合併する 219)

糖尿病母体児(IDM:Infant of Diabetic Mother)

5~30%に心室中隔の非対称性肥厚(ASH)を合併する.流出路狭窄が血行動態的障害となることがある.通常生後1 週間くらいで消失する

von Recklinghausen病染色体17q11.2上のNF1変異による疾患で,近年はneurofibromatosis 1と呼ばれ,コーヒー斑,多発神経線維腫がある

肺動脈狭窄,ファロー四徴などが主であるが,肥大型心筋症合併の報告がある 220)

双胎間輸血症候群(twin-to-twin transfusion syndrome:TTTS)

一絨毛膜性双胎で両児の胎盤内血管の吻合によって,一児から他児へ血液の移行が起こる

受血児では容量負荷から心筋肥厚が起こり,心不全となる.胎内死亡も多く,出生しても治療に抵抗して死亡率が極めて高い 221)

先天性筋緊張性ジストロフィー

骨格筋萎縮,筋力低下,知能低下,白内障などを有する常染色体性優性遺伝疾患で,染色体19q13.3上のmyotonin protein kinaseをコードする遺伝子のトリプルリピートによる

伝導系異常,軸偏位など知られている.小児例を分析した黒崎によれば,心エコー検査を行った11例中7 例にASHがあり,うち1例では肥大型心筋症であった 222)

新生児甲状腺機能亢進症褐色細胞腫 心室壁肥厚をみる 223)

図3 小児期肥大型心筋症診断のフローチャート

管理・治療

所見が無い

否定

否定的

終了

終了随時受診

学校検診一般検診

失神・胸痛心電図所見S34

家族歴,症状,理学所見心電図,胸部レ線,心エコー図検査

可能性あり

種々のリスクがある

運動負荷テスト,核医学検査,ホルター心電図

所見がある

心カテーテル検査 オプション  心内膜心筋生検  遺伝子検索

確定的

疑い

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10 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告)

心肥大,左室拡張障害の一因は心筋細胞内カルシウム濃度の異常高値とされ,その改善に向けての治療につながる研究がなされている. 図4にHCMの治療のフローチャートを示す.

Ⅲ-1 日常生活の管理

Ⅲ-1-1 運 動 競技スポーツは,一部の軽いスポーツを除き,原則禁止する.特にハイリスク患者では厳重に注意する(表5). 運動中のみならずむしろ運動直後にも注意する.

Ⅲ-1-2 性生活 性交時には心拍数,血圧とも上昇するので,HOCM

では予め十分な内科治療を受け,安定した状態であることが前提となる.

Ⅲ-1-3 妊 娠 若年の女性患者では妊娠・出産に際して,血行動態が変化するため常に潜在的なリスクをともなうことに留意する.出産時には心エコー図・ドプラ法による非侵襲的血行動態のモニタリングを行い,出産,産褥期には,感染性心内膜炎の予防のため,抗生剤の投与が考慮される

べきである.

Ⅲ-1-4 飲酒と喫煙 少量のエタノール(40%エタノール50ml)の摂取により,収縮期血圧の低下,SAMの増強,左室流出路圧較差の上昇が認められ,さらにアルコールは,交感神経系の亢進を来たし,心拍数を増加させるので,HCM全

図4肥大型心筋症

自覚症状(ー)不整脈(ー)心機能正常

無投薬で経過観察

ベラパミル(?)

β遮断薬(?)

自覚症状(+)

非閉塞性 閉塞性

β遮断薬,カルシウム拮抗薬     +心不全例:ACE阻害薬,ARB,利尿薬

β遮断薬,カルシウム拮抗薬,ジソピラミド,シベンゾリン      +心不全例:ACE阻害薬,ARB,利尿薬

反応が良好であれば薬物療法を継続 心移植 外科療法,ペーシング植え込

み術,PTSMA

不整脈(+) 臨床的または遺伝学的に突然死のリスクが高い症例

アミオダロン 植え込み型除細動器

心房細動

抗不整脈薬(ジソピラミドアミオダロンなど)

抗凝固薬

(カテーテルアブレーション+ペースメーカー)

心房細動上室性頻拍WPW症候群

抗不整脈薬

カテーテルアブレーション

心室頻拍心室細動

抗不整脈薬(ジソピラミドアミオダロンなど)

植え込み型除細動器

表5 突然死に関する危険因子

特に強い因子・心停止の既往・持続性心室頻拍の自然発作・非持続性心室頻拍(3連発以上,HR≥120)・HCM による突然死の家族歴(特に,一親等内または多数の突然死症例を有する場合)

・失神発作の既往・運動負荷に伴う血圧低下(血圧上昇25mmHg未満 ;対象は40歳未満の症例)

・著明な左室肥大(最大壁厚≥30mm)その他の因子・左室流出路圧較差が50mmHgを超える場合などの血行動態の高度の異常

・中等度から高度の僧帽弁逆流 ・50mmを超える左房拡大・電気生理学的検査での持続性心室頻拍/心室細動の誘発・発作性心房細動・心筋灌流の異常・危険度の高い遺伝子変異・若年発症例

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11Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン

般に好ましくないと考えられる.HCMで喫煙が冠スパズムの引き金となうる.

Ⅲ-1-5 感染予防 HCMでは感染性心内膜炎の罹患率が高くなり,抗生剤の予防内服が必要である.

Ⅲ-1-6 塞栓症の予防 高齢者のみならず,若年者においても心原性塞栓症を起こすことがある.特に心房細動などを合併する場合は,抗凝固薬の投与が必要であり,抗血小板薬を併用することもある.

Ⅲ-1-7 遺伝カウンセリング 臨床遺伝学に精通した遺伝カウンセラーなどによる,患者本人および家族を含めた遺伝相談が必要な場合がある.

Ⅲ-2 薬物療法

 薬物療法の目的は1)生命予後の改善 2)症状の軽減 3)合併症の予防 にある.薬剤の一覧表(表6)を参照

1)無症状例(若年者あるいはハイリスクグループではない例)

 薬物療法の有効性について明らかなエビデンスはみられない.

ClassⅠ :   なし

ClassⅡ :   β遮断薬,ベラパミル

2)有症状例(軽度~中等度)

a)閉塞性肥大型心筋症 β遮断薬,陰性変力作用を有するカルシウム拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼム),Ia群の抗不整脈薬(ジソピラミド,シベンゾリン)が用いられる.カルシウム拮抗薬は末梢血管拡張作用により,左室流出路圧較差を増大させ,使用には注意を要する.

ClassⅠ :   β遮断薬   ベラパミル,ジルチアゼム

ClassⅡ (*):   ジソピラミド   シベンゾリン

   「(*)Ⅰ群抗不整脈薬のジソピラミド・シベンゾリンについては,現時点で大規模臨床試験のデータがないことを除けば,ClassⅠに準ずる」

ClassⅢ :   左室流出路に高度な狭窄を有する患者におけるジ

ヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬,陽性変力作用を有する薬剤

b)非閉塞性肥大型心筋症 労作性呼吸困難や狭心痛のある例ではβ遮断薬,ベラパミルが有効である.β遮断薬とベラパミルの併用,単剤のどちらがより有効かは明らかではない.

ClassⅠ :   β遮断薬   ベラパミル,ジルチアゼム

3)心不全例

a)閉塞性肥大型心筋症 高度な圧較差をともなう場合,β遮断薬やNa遮断薬を用い,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬はむしろ禁忌である.薬物療法に抵抗性の場合には,非薬物療法を考慮する.

ClassⅠ :左室流出路狭窄例:β遮断薬,ベラパミル,ジルチアゼム収縮能低下例:利尿薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬拡張能低下例:β遮断薬,ベラパミル,ジルチアゼム

ClassⅡ :   左室流出路狭窄例:シベンゾリン,ジソピラミド

ClassⅢ :高度収縮機能低下例における陰性変力作用を有する薬剤(少量のβ遮断薬は認容性があれば使用)高度な圧較差をともなう症例におけるアンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体

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12 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告)

表6 薬剤の一覧表

経口薬剤の用量海外での報告 本邦での一日投与量

β遮断薬aISA

プロプラノロールブフェトロールブプラノロールブクモロールベフノロール

Ⅰ類 2 群 -

120~160mg/day 249-251)

50mg/day 252#)

60~120mg/day15mg/day30~60mg/day15~30mg/day30~90mg/day

ナドロールチモロールチリソロール

4 群 -40~80mg/day 253,254)

20mg/day 255##)30~60mg/day10~20mg/day10~20mg/day

メトプロロールアテノロールビソプロロールベタキソロール

Ⅱ類 4 群 -

150~300mg/day 256,257-259$)

50~100mg/day 260,261$$)

5~10mg/day 262$)

5~80mg/day 263$)

60~120mg/day50~100mg/day5mg/day2.5~20mg/day

カルシウム拮抗薬bベラパミル 240mg/day 276)

360~480mg/day 278)120mg/day 271)

240mg/day 274,281)

ジルチアゼム なし 90mg/day 269)

90~180mg/day 280,283)

180mg/day 279,281,282)

ニフェジピン※ 10mg(舌下)286) 10~20mg(舌下)287,288)

抗不整脈薬cジソピラミドシベンゾリン

600~800mg/day 251,291,301)

260~390mg/day(*)300mg/day(*)300mg/day 292*)

アンジオテンシン変換酵素阻害薬dエナラプリル SOLVD

初期量 5mg/day目 標 20mg/day実際使用量Prevention trial 16.7mg/dayTreatment trial 16.6mg/dayCONSENSUS初期量 10mg/day目 標 20mg/day,最大 40mg/day実際の使用量18.4mg/day

5~10mg/day2.5mg/dayより開始

リシノプリル ATLAS 初期量 2.5~5mg/day目 標 低用量 :2.5~5mg/day 高用量 :32.5~35mg/day

5~10mg/day腎障害・高齢者では2.5mg/dayより開始

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬eロサルタン ELITEⅡ

初期量 12.5mg/day目 標 50mg/day実際の使用量 42.6mg/day

25~100mg/day

カンデサルタン RESOLVD4,8,16mg/day

4~8mg/day(最大12mg/day)腎障害では2mg/dayより開始

バルサルタン Val-HeFT初期量 80mg/day目 標 320mg/day

40~160mg/day

保険適応a:高血圧,狭心症,頻脈性不整脈(#):狭心症に対する用量(##):心筋梗塞に対する用量($):心不全に対する用量($$):拡張型心筋症に対する用量b:ベラパミル:心筋梗塞,狭心症など

の虚血性心疾患ジルチアゼム:高血圧,狭心症c:ジソピラミド:頻脈性不整脈シベンゾリン:頻脈性不整脈本剤は米国未発売(*):期外収縮,発作性頻拍に対する用量

d:高血圧,心不全e:高血圧エナラプリル~カンデサルタンの項までは日循の慢性心不全ガイドラインより引用※急激な血圧低下,反射性の頻脈などのため,舌下投与は推奨されない.

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13Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン

拮抗薬

b)非閉塞性肥大型心筋症 心不全例やD-HCMでは一般の心不全治療に準じる(詳細は「慢性心不全治療ガイドライン」を参照). 収縮能の低下している例においては,利尿薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬による治療をおこなう.

ClassⅠ :拡張機能低下例:β遮断薬,ベラパミル,ジルチアゼム収縮機能低下例:アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬,利尿薬

ClassⅡ :   なし

ClassⅢ :高度収縮能低下例における陰性変力作用を有する薬剤(少量のβ遮断薬は認容性があれば使用する)

4)ハイリスクグループ

 ハイリスクのHCM(表5)では突然死の予防のため,症状の有無にかかわらず,積極的に治療をおこなうべきである.非持続性あるいは持続性心室性頻拍症に対してはアミオダロンや ICDが適応となる.

ClassⅠ :   アミオダロン,β遮断薬,ICD

5)不整脈

ClassⅠ :β遮断薬,ベラパミル,ジルチアゼム,Ia群,Ic

群の抗不整脈薬,アミオダロン心房細動例ではワーファリンの投与

(*) 失神や著しいQOLの低下を伴う薬物療法抵抗性の頻脈性心房細動,Ⅰ型心房粗動,発作性上室性頻拍,持続性心室頻拍などはカテーテルアブレーションの適応となり得る.(「不整脈の非薬物療法ガイドライン」参照)

肥大型心筋症に合併する不整脈の薬物療法の適応ClassⅠ : 1.心拍数が速く,血行動態に影響する心房細動,心

房粗動 2.発作性上室性頻拍 3.症状のある突然死の危険因子を持った非持続性心

室頻拍 4.持続性心室頻拍 5.心室細動

ClassⅡ : 1.症状のある上室性あるいは心室性期外収縮 2.無症状あるいは血行動態の安定した非持続性心室

頻拍

ClassⅢ : 1.無症状の上室性あるいは心室性期外収縮 2.無症状の徐脈肥大型心筋症における植え込み型除細動器(ICD)の適応ClassⅠ : 1.心室細動 2.薬物療法抵抗性の持続性心室頻拍

ClassⅡ :(*) 1.突然死の家族歴があり,失神発作のある非持続性

心室頻拍あるいは連発数が多いまたは頻回に繰り返す非持続性頻拍で,いずれも電気生理学的検査で誘発される場合

   「(*)ClassⅡではあるが,ClassⅡa相当ないしClassⅠに準ずる」

肥大型心筋症の突然死の予防に関する諸治療の位置付けClassⅠ : 1.心停止蘇生例に対する ICD植え込み術

ClassⅡ : 1.突然死の一次予防目的の ICD植え込み術ないしア

ミオダロンの投与

ClassⅢ : 1.突然死の一次予防目的のβ遮断薬,カルシウム拮

抗薬を始めとする薬物治療

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14 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告)

Ⅲ-3 非薬物療法

Ⅲ-3-1 手 術(心筋切開術,心筋切除術,僧帽弁手術)

 非薬物療法のうち,手術は最も歴史が古く,治療成績が確立している.一方,経験症例数の豊富な施設は少ない.

肥大型心筋症の外科治療の適応

ClassⅠ : 1.NYHAⅢ度以上の症状を有し,薬剤抵抗性で,安

静時に50 mmHg以上の左室流出路圧較差を認めるHOCM

 2.意識消失発作から回復し,安静時ないし薬物負荷時に50 mmHg以上の左室流出路圧較差を認め,薬物抵抗性のHOCM

ClassⅡ : 1.心症状は軽度ないし認めないが,薬剤抵抗性の,

安静時に50 mmHg以上の左室流出路圧較差を認めるHOCM

ClassⅢ : 1.無症状ないし薬物療法にてコントロール可能な

HOCM

 2.症状はあるが運動あるいは薬物負荷試験にても左室流出路圧較差のない肥大型心筋症

Ⅲ-3-2 ペースメーカー植え込み術 手術適応のHOCMのうちで手術を希望しない,あるいは手術が不適当な患者が本法の対象となりうる.

Ⅲ-3-3 経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA) 近年,PTSMAは臨床に適応され多数例に実施されており,治療法として確立されたものとなってきている.しかしながら,現時点でのPTSMAの長期予後は十分に明らかではなく,今後エビデンスの蓄積が待たれる. 2005年4月より,本法は医療保険に収載されている.

肥大型心筋症におけるPTSMAの適応

ClassⅠ :   なし

ClassⅡ :(*) 1)NYHAⅢ度以上の症状を有し,薬剤抵抗性で,安

静時ないし薬剤負荷時に30 mmHg以上の左室内圧較差を認めるHOCM

 2)左室内圧較差を原因とする意識消失発作を有し ,安静時ないし薬物負荷時に30 mmHg以上の圧較差を認めるHOCM

 3)左室内圧較差(30 mmHg以上)が関与する薬物治療抵抗性の発作性心房細動

ClassⅢ : 1)無症状ないし薬物療法にてコントロール可能な

HOCM

 2)症状はあるが左室流出路圧較差のないHNCM

   「(*)PTSMAの適応については,現時点でClass

Ⅰにするにはエビデンスが未だ少なく,ClassⅡまたはⅡaに相当とする.今後のエビデンスの蓄積が待たれる」

Ⅲ-4 小児における肥大型心筋症の管理と治療

Ⅲ-4-1 突然死の予防と管理 日本学校保健会の作成した学校生活管理指導表(平成14年度版)(表7)に基づきハイリスク児ではほとんどの運動やスポーツ競技は禁止し,有症状児および閉塞型の症例では中等度および強い運動は禁止する(図5).

Ⅲ-4-2 薬物療法の適応 (表8:Rapid Access Guide).

Ⅲ-4-3 非薬物療法

1)手 術

 中隔心筋切除術(septal myotomy-myectomy: Morrow

procedure)の小児での経験はきわめて少なく長期的な成績も不明である.

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15Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン

表7

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16 Circulation Journal Vol. 71, Suppl. IV, 2007

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 年度合同研究班報告)

2)ペースメーカー植え込み術Permanent dual-chamber pacing(DDD)

 小児における適応や効果についてはデータがないので適応は慎重に考慮すべきである .

3)中隔枝塞栓術(PTSMA)

 小児では心筋壊死後の瘢痕による不整脈や突然死のリスク増加なども予測され,現時点では推奨できない.

表8 小児の肥大型心筋症の治療:RAPID ACCESS GUIDE

病    態 Class Ⅰ Class Ⅱ Class Ⅲ

無症状例一般に薬剤は用いないが症例によってはβ遮断薬,カルシウム拮抗薬を用いる

ジゴキシン,陽性変力作用薬は禁忌強い運動*は禁止

拡張機能低下例 β遮断薬カルシウム拮抗薬

ジゴキシン,陽性変力作用薬は禁忌強い運動*は禁止

有症状および閉塞性肥大型心筋症

β遮断薬カルシウム拮抗薬

ジソピラミド中隔心筋切除術

ジゴキシン,陽性変力作用薬は禁忌強い運動*は禁止

突然死のハイリスク群**

β遮断薬カルシウム拮抗薬 植え込み型除細動器 ジゴキシン,陽性変力作用薬は禁忌

強い運動*は禁止乳幼児例(心不全をしばしば伴う)

ジゴキシン,利尿薬血管拡張薬 β遮断薬 ジゴキシン,陽性変力作用薬は禁忌

強い運動*は禁止拡張相肥大型心筋症

ジゴキシン,利尿薬血管拡張薬 β遮断薬 心移植 ジゴキシン,陽性変力作用薬は禁忌

強い運動*は禁止

不整脈合併例アミオダロンβ遮断薬カルシウム拮抗薬

心筋切除術 ジゴキシン,陽性変力作用薬は禁忌強い運動*は禁止

* 日本学校保健会による学校生活管理指導表(中学,高校生用)に準ずる.**心停止あるいは持続性心室頻拍の既往,肥大型心筋症による突然死の家族歴,運動中の失神.

図5

不整脈あり 心房性 心室性

運動制限(BCランク)抗不整脈薬(ジソピラミド,アミオダロン)抗血栓療法

症状なし不整脈なし心機能正常遺伝子異常

運動制限(Dランク)無投薬?β遮断薬?

自覚症状あり 胸痛 失神有意の閉塞

運動制限(BCランク)β遮断薬カルシウム拮抗薬?ジソピラミド?

心不全

運動制限(BCランク)心不全治療β遮断薬?

肥大型心筋症