台湾におけるドラえもん -...
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台湾におけるドラえもん
農学部 3回生 谷 悠一郎
2012年の春、夏と台湾に旅行しに行った。そのときに台湾でのドラえもんの人気っ
ぷりにびっくりした。台湾ではよく見るコンビニ、セブンイレブンにはドラえもんグ
ッズやドラえもんパンがあり、夏に行ったら「誕生日 100 年前」という感じの横断幕
が貼ってあった。日本でも有名なドラえもん、台湾でもそれに負けず劣らずの人気が
あると感じさせる瞬間であった。
ドラえもんが有名なのは日本だけではない。世界中に展開されていることはすでに
さまざまなメディアでも報じられているし、特に日本の近隣諸国では人気であること
もよく知られている。そこで、今回は、2回の台湾旅行を通じて、現地で実際に目にし
たドラえもんや、現地のコミックをもとに、台湾におけるドラえもんについて書いて
みたいと思う。
1. 台湾におけるドラえもんの歴史
台湾において、ドラえもんは「哆啦 A 夢」と表記される。これは、中国語で「ドラ
えもん」と書いたものになる。しかしながら、こうなったものは 1997年の出版物以降
である。では、その前はどのように書かれていたのかというと「小叮噹(シャオティ
ンタン)」という表記であった。「小」とは「~ちゃん」の意、「叮噹」はスズの鳴る音
を表している。
台湾に初めてドラえもんが紹介されたのは 1976年の「機械猫小叮噹」という冊子だ
と言われている。このときにドラえもんが紹介され、当時コロコロコミックなどの誌
上で連載されていた漫画が台湾でも翻訳されて掲載されることとなる。
しかしながら、1983年、台湾ではこの連載のストックがつきることとなる。結果的
に、台湾はドラえもんの自主制作を始めることとなった。1993年までに単行本は 235
巻に達し、挙げ句の果てに 1991年には大長編ドラえもん「大雄的精霊世界(ドラえも
ん のび太の精霊世界)」なるものまでが作られる。それほどまでに当時は台湾に定着
していたといえよう。
一方、これらはあくまでも日本側の出版社である小学館の許可を得て作られたもの
ではない。つまり海賊版であった。小学館は 1992 年より、万国著作権法に基づいて、
正規版のドラえもんを出版した。これが、台湾における「哆啦 A 夢」の新たなる歴史
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の始まりである。
当時、小学館はその著作権を大然出版(大然文化事業股份有限公司)と契約した上
で台湾版ドラえもん「哆啦 A夢」を出版した。最初の「哆啦 A夢」1巻は初版が、民
國 81年(1992年)12 月に出版、その後さらに改版されて、民國 90年(1993年)4
月に再版が出版された。大然出版は当時の台湾において、日本の漫画の翻訳版を多数
取り扱う出版社であった。しかしながら、大然出版は投資の失敗に端を発し、2003年
に倒産してしまう。
その後、ドラえもんの著作権については小学館と青文出版社の間で契約が取り交わ
され、2003年から現在に至るまでドラえもんのコミックスについては青文出版社が発
行する形となっている。
(余談1)
台湾においてはドラえもんの人気は非常に高く、古本屋に行った折には台湾版のド
ラえもんの学習漫画もみた。内容は日本の学習漫画と似通っており、ドラえもんとの
び太が日常の些細な疑問やトラブルから、算数についていろいろと学んでいく形式で
あった。
(余談2)
現在の台湾では、大然出版の「哆啦 A 夢」はまず見かけない。あったとしても古本
屋で 1冊 250元(日本円で 700円近く)となって売られているくらいのプレミアがつ
いている。言うまでもなく、「小叮噹」の海賊版も見つからないし、おそろしいプレミ
アがついているのだろう。お出かけの際に、ひょんなことでこれらの本を見つけたら
すごく幸運なことかもしれない。
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2. 台湾で実際に発売されているドラえもん
現在の台湾では、青文出版より
・哆啦 A夢 1巻~45巻
(日本におけるてんとう虫コミックス版「ドラえもん」に相当)
・哆啦 A夢 PLUS 1巻~5巻
(日本におけるてんとう虫コミックス版「ドラえもんプラス」の翻訳版)
・哆啦 A夢大長篇
(日本におけるてんとう虫コミックス版「大長編ドラえもん」の翻訳版)
・藤子・F・不二雄大全集
(日本における小学館「藤子・F・不二雄大全集」の翻訳版)
が書籍として発売されている。哆啦 A 夢は 1冊 90元。日本円にすると 250 円くらい
であるが、現地の物価水準をかんがえると、現地では日本円にして 900 円くらいに相
当するちょっと高いものである。
写真 1: 青文出版発行の「藤子・F・不二雄大全集 哆啦 A夢①」
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このほか、コンビニ(特に台湾で多くあるセブンイレブン)ではドラえもんグッズ
が多く売られている。
3. 実際にドラえもん第 1巻をみてみよう
本節では台湾で発売されている哆啦 A夢 1巻についてみていくことにする。
今回参考にしたものは「哆啦 A夢 1」(大然出版 初版 民國 81年 12月、再版三刷
民國 90年 4月発行、ISBN 957-25-3370)である。当該の本はすでに絶版となってい
るが、現在は全く同じものが青文出版から発売されている。日本語版は「ドラえもん 第
1巻」(小学館 初版 昭和 49年 8 月 1日、初版第 55刷 昭和 54年 12月 20日発行、
雑誌 45210-01)参考にした。
3.1 概説
台湾においては、それぞれのキャラクタの名前が日本とは異なっている。
表 1: 台湾におけるドラえもんのキャラクタの名前対応表
ちなみに、のび太のママ(野比玉子)は大雄的媽媽と記されている。パパについても
同様。
表紙は次ページのようになっている。右は比較用の日本版のドラえもんである。特徴
としては、小学館のドラえもんにおける 30巻以降の作画が安定したものが表紙に用い
られていることが挙げられる。
ドラえもん - 哆啦 A夢
のび太 - 大雄
静香 - 静香
ジャイアン - 胖虎
スネ夫 - 小夫
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写真 2: 哆啦 A夢 1巻とドラえもん 1巻
3.2 目次
目次からは日本と同じである。ここでは目次を次ページの表 2に引用する。
目次でおもしろいものは、擬音を含む題は基本的に意訳されていると言うことであ
る。当然ながら、日本語の「雪でアッチッチ」が台湾で通じるはずもなく、この場合
「雪變得溫暖了」つまり「雪が暖かくなる」という表現にしている。同様に、頭でか
んがえていることと逆のことをやらせる道具である「コベアベ」は「願倒是非」とい
う「願っていることと反対のことにしてしまう」という意味で題名がつけられている。
ちなみに、このコベアベは作中においては「願倒是非笛」と記されている。
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表 2: 哆啦 A夢 1巻の目次
3.3 内容
内容は日本のものと同じであり、変わった部分はない。基本的に、訳される部分は
吹き出しの中である。そのため、それ以外の部分では基本的に日本のものと同じ表現
が使われる。
写真 3は、第 1作「他來自未来(未来の国からはるばると)」において、セワシがド
ラえもんをのび太のもとにやった理由を説明する部分のコマである。この部分におい
て、セワシは「たとえば、きみが大阪へ行くとする。いろんな乗り物や道すじがある。
だけど、どれを選んでも方角さえ正しければ大阪へつけるんだ。」と説明を行う。台湾
版においては、この部分の台詞が訳されているが、東京と大阪のたとえはそのままで
あり、注釈もとくにつけられていない。
他來自未来 (未来の国からはるばると)
哆啦 A夢的大預言 (ドラえもんの大預言)
變身餅乾 (返信ビスケット)
間諜大作戦 (㊙スパイ大作戦)
願倒是非 (コベアベ)
古董比賽 (古どうぐきょう走)
道歉蟲 (ぺこぺこバッタ)
祖先加油 (ご先祖様 がんばれ)
影子傳奇 (かげがり)
馬屁口紅 (おせじ口べに)
一生一次一百分 (一生に一度は百点を)
浪漫求婚大作戦 (プロポーズ大作戦)
某某人在哪裡做什麼 (○○が××と△△する)
雪變得溫暖了 (雪でアッチッチ)
阿拉丁神燈 (ランプのけむりオバケ)
竹馬快走! (走れ!ウマタケ)
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写真 3: 大阪と東京のたとえ(上が日本語版 下が台湾版)
一方で、擬音は原則的に訳されていない。ただし、一部の例外がある。写真 4は「願
倒是非(コベアベ)」の中の一コマである。これは、静香の家に強盗が入り、のび太が
その強盗に対してコベアベを吹くことで、追い出そうとする場面である。この場面に
おいて、上のコマにおいては笛を吹く擬音である「ペ~」がそのまま載っている。し
かし下のコマでは笛につばがたまり「ズ~」という音が出る。そのため、この部分だ
けが訳されている。
これより、擬音の中で訳されるものはその話の展開において意味を持つものである
ことがわかる。
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写真 4: コベアベにおける擬音の訳し方
ただし、その話の展開において意味を持つものであっても、コマをみたらどのよう
な状況であるかが明らかにわかっているものの場合は訳されていない。写真 5 は「哆
啦 A夢的大預言(ドラえもんの大預言)」からのもので、のび太が車にひかれかけ、竹
刀で頭をたたかれるシーンである。このコマにおいては、明らかにどのようなことが
おこっているかがわかるため、擬音は訳されていない。
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写真 5: ドラえもんの大予言で訳されなかった擬音
以上のように、翻訳版ならではの特徴がみられる。
4. さいごに
今回は台湾にドラえもんについて見ていった。世界では様々な言語に翻訳されたド
ラえもんの単行本が売られている。ここまで読んでいただいた皆様も是非外国に行っ
たときは現地のドラえもんの購入をおすすめする。そこのドラえもんがどのように流
行っていったかはある意味文化の伝播を知ることになる。是非、様々なドラえもんに
触れていただきたいと思う。
最後に、ここまで読んでいただき、ほんとうにありがとうございました!
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5. おまけ
冒頭にも書いたように、台湾のコンビニにいくと、ドラえもんのパンが売られてい
た。ドラえもんのどらやきとかなかなかにおもしろい代物だった。
写真 6: 台湾のコンビニでのドラえもんパン
参考文献
【日記】素晴らしき海賊版ドラえもんの世界 2013年映画ドラえもんを勝手に自作す
るブログより
http://blog.livedoor.jp/doraeiga2012/archives/51800580.html
「ドラえもん学」 横山泰行著、PHP新書、2005
「哆啦 A夢 1」 藤子・F・不二雄著、大然出版、2001
「ドラえもん 第 1巻」 藤子不二雄著、小学館、1979