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機能性多孔質金属 の基本と応用 技術ハンドブック ポーラス金属 エンジニアのための Technical handbook-Basics and application of Porous metal

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Page 1: エンジニアのための 機能性多孔質金属 ポーラス金属 の基本 …p.07 ポーラス金属の製法は多岐に渡ります。下記に空孔サイズ及び、空孔率による代表的な各製造法を記します。縦軸が空孔サイズ、横軸が空孔率となっており、右上に行くほど空孔の大きな組織の「粗い」ポーラス金属となっています。

機能性多孔質金属の基本と応用技術ハンドブック

ポーラス金属

エンジニアのための

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Page 2: エンジニアのための 機能性多孔質金属 ポーラス金属 の基本 …p.07 ポーラス金属の製法は多岐に渡ります。下記に空孔サイズ及び、空孔率による代表的な各製造法を記します。縦軸が空孔サイズ、横軸が空孔率となっており、右上に行くほど空孔の大きな組織の「粗い」ポーラス金属となっています。

■ 各種ポーラス金属イメージ写真

ロータス金属 μ- ポーラス金属 ポーラスメタルシート

ハニカム構造例:蜂の巣

多孔質構造例:骨組織

多孔質構造例:植物組織

1. 多孔質(ポーラス)金属とは何か?

p.02

ポーラス金属とは内部に空孔の空いたスポンジのような金属材料の総称です。 通常の金属やプラスチックは内部に隙間のない「緻密体」でありますが、自然界に存在するものの多くは内部に多数の気孔が存在する「多孔質体」です。例えば蜂の巣のハニカム構造や、植物組織、生体骨など多孔質体は様々な場所に見ることができ、その複雑構造により多様な性質を持っています。 このセル構造を持った金属を多孔質金属と呼びます。内部に空孔があるため通常の金属と比較すると軽く、多孔質セラミックスよりも延性に優れています。また、金属ならではの高い導電性や熱伝導性を持っています。 軽量性を活かして、アルミやマグネシウム合金の代替材として用いられたり、空孔形状やそれに伴う表面積の大きさを活かして衝撃吸収材や防音材、断熱材、生体医療材等への実用化が研究されています。

多孔質(ポーラス)金属とは

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■ 空孔サイズ毎の最終使用製品のイメージ図

■空孔サイズ多孔質金属中のひとつの空孔のサイズのことを指します。下記の図には多孔質金属における空孔サイズと使用用途先のイメージを表していますが、発泡スチロールのように大きな空孔を持つものから、空孔サイズがミクロンサイズの多孔質金属までサイズは大小さまざまなものが存在します。

■空孔率総体積に対する、空孔の占める割合を指します。例えば空孔率が 50 パーセントであれば総体積の半分は金属が占めていることになり、仮に 90 パーセントであれば金属部分は総体積中の1割しかないことになります。

1. 多孔質(ポーラス)金属とは何か?

p.03

ポーラス金属の分類のポイント ポーラス金属を分類していくにあたっては、空孔のサイズや形状、分布など様々な切り口がありますが、大きく分ける際は空孔のサイズとその密度による分類が一般的です。

ポーラス金属の種類

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1mm製品サイズ

空孔サイズ

1μm

10μm

100μm

1mm

10mm

100mm

1cm 1m

機能性材料

医療電機機器

フィルター

構造部材

緩衝材 建築

車両

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2. 拡大する多孔質金属のニーズ

p.04

多孔質金属が持つ軽量性は特に自動車や建造物の軽量化を目的として、研究・実用化が始まっています。また内部の空孔を利用して、金属には通常持たせ難い断熱性や吸音性といった特性を付加することができ、各業界で実用化に向け研究されています。

上で紹介したように多孔質金属の利用される分野は多岐に渡っています。中でも太盛工業は超精密MIMの技術を応用し、今後社会的に重要となるエネルギー・燃料電池分野での研究開発に力を入れています。現在は特に燃料電池向けの電極について多孔質金属の実用化に向けて研究を進めています。

多孔質金属が使用されている分野

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自動車 ・フィルター ・衝突緩和材

電車 ・構造部材

建築・大型構造物 ・構造部材

産業機械 ・構造部材 ・熱交換器 ・フィルター

医療 ・人工骨 ・インプラント

燃料電池・電気機器 ・熱交換器 ・電極

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3. 多孔質(ポーラス)金属の特性

p.06

エネルギー吸収性

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クローズドセルのポーラス金属は、強度を持ちながらも、軽量であるため、自動車等のエネルギー吸収(衝撃吸収)部材として実用化が研究されています。

遮音性

クローズドセルのポーラス金属は独立した空気層が多数重なっており、優れた遮音性、吸音性を持ちます。 特にアルミポーラス金属が吸音材として用いられています。

通気性

オープンセルのポーラス金属は空孔同士が繋がっており、金属でありながら通気性を持ちます。この通気性を活かして触媒フィルターや不純物ろ過用のフィルター等への応用が研究されています。

熱伝導性

ポーラス金属は空孔が重なっており、オープンセルの場合、被表面積も非常に大きくなります。この表面積の大きさと、金属の熱伝導性の高さを活かして熱交換器等への利用が研究されています。

ポーラス金属は金属由来の性質と、その特殊な構造により様々な特性を持ちます。 特に以下に記す内容は、一部はすでに実用化されており、今後の研究も盛んに行われているポーラス金属の性質です。

自動車 クラッシュボックス向けも研究中 ポーラスアルミニウムの吸音材

ポーラス金属フィルター 熱交換器向けの実用化も研究中

導電性

オープンセル型ポーラス金属は大きな表面積と金属の導電性の高さを併せ持つことになります。この特性から燃料電池の高効率な電極等への利用が研究されています。

燃料電池向けの実用化を研究中

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■ 空孔サイズ及び空孔率による製造法の分類

100mm

10mm

1mm

100µm 空孔サイズ

空孔率(%)

10µm

0 50 100

1µm

4. 多孔質(ポーラス)金属の製法

p.07

ポーラス金属の製法は多岐に渡ります。下記に空孔サイズ及び、空孔率による代表的な各製造法を記します。

縦軸が空孔サイズ、横軸が空孔率となっており、右上に行くほど空孔の大きな組織の「粗い」ポーラス金属となっています。

“Metal forms:A Design Guide”,M.F.Ashby,et.Elsevier Science

Ⅰ- ポーラス金属の各製法

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10mm

1mm

0.1mm

0.01mm

粉末冶金法(P.09)

鋳造法

発泡溶融 (P.08)

金属繊維圧縮接合法

Open cellClosed cell

メッキ法

発泡射出成形法

パウダースペースホルダー法 (PSH)(P.10‐12)

ファイバースペースホルダー法 (FSH)(P.14)

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4. 多孔質(ポーラス)金属の製法

p.08

発泡溶融法では溶融金属(主にアルミニウム)中にガスを導入し、気孔を作ることでポーラス金属を得る方法です。ガスの導入方法としては発泡剤を溶融金属中に添加し、拡販することで均一な分布を得ることができます。気孔のサイズや空孔率を発泡剤の種類や投入量により容易に調整することが可能で、鋳型を用いて溶融金属を成形するため、形状の自由度も高いことが特徴です。

01. 発泡溶融法

MHS 法は金属中空法とも呼ばれ、あらかじめ製造した金属球を焼結、または接着剤等で一体化させることでポーラス金属を得るという手法です。ほぼ同形の空孔を得ることができ、配列等のコントロールも容易であることが特徴です。 金属球の製造にはいくつか手法があり下図に示した製法の概略図では、ポリマー球の周辺に金属粉末をコーティングさせ、後に揮発・除去させることで金属球を得るという手法を取っています。他にはプレスを利用した球形状の製造法等が存在します。

02.MHS(Metal Hollow Sphere)法

Ⅰ- ポーラス金属の各製法

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増 粘 冷 却 発泡体 切断

純 Al 溶湯 1.6%Ca

発 泡

1.6%TiH2

発泡スチレンの 粒子

グリーンボール

(3)Preform成形 (4)焼成 (5)製品(1)発泡スチレンの製造 (2)流動層による粉末金属の コーティング

型 発泡

膨張した 発泡スチレン

熱処理により グリーンボールを

接合

金属の粉末

空気の流れ

グリーンボール

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4. 多孔質(ポーラス)金属の製法

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粉末冶金法によるポーラス金属の製造では、金属粉末と空孔になるスペーサー樹脂を混合させ、圧力を掛けて成形した後に焼結させます。これはオーソドックスな金属粉末冶金法を活用した方法で、スペーサーは焼結の際に気化され、跡に空孔のみが残ります。金属粉末とスペーサー樹脂を用いるため、粒度や空隙率を調節させることができ、多様性に富んだポーラス金属を得ることができます。発泡溶融法等と比較すると、スペーサーが一定であるため空孔サイズが一定であり、金属の種類も数多く対応可能である点が特徴です。次頁のパウダースペースホルダーMIM法と同じくマイクロポーラス金属を作ることができる手法です。

01. 粉末冶金法

Ⅱ- マイクロポーラス金属の各製法

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金属微粉末

混合

圧粉

多孔質金属

加熱 ・金属粉末焼結 ・スペーサー除去

スペーサー粒子

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SUS316L

Ni Al Cu

Ti

10-6m

1㎛ 1mm

10-5m 10-4m 10-3m

4. 多孔質(ポーラス)金属の製法

p.12

マイクロポーラス金属とは、ポーラス金属の中でも特に空孔のサイズがミクロン台のものを指す言葉です。これまでに実用化された各種製法によるポーラス金属は空孔サイズが mm オーダーであり、かつ空孔のサイズが不均一になりがちでした。しかし近年の研究により、空孔サイズがμオーダーのポーラス金属の製造が可能になってきています。先のページで述べたように、空孔サイズは極めて重要でポーラス金属の剛性やエネルギー吸収性など、各種特性に大きく影響します。下図はパウダースペースホルダー法による空孔サイズとその金属による代表的構造を表したものです。

04. パウダースペースホルダー法によるマイクロポーラス金属とは

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■ マイクロポーラス金属の各種サイズと材質による違い

25μm 500μm 300μm 500μm

25μm

3μm

25μm 25μm 100μm

Ⅱ- マイクロポーラス金属の各製法

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4. 多孔質(ポーラス)金属の製法

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吸水ポーラス金属は、金属でありながら水を吸い込む性質を持つ多孔質体です。太盛工業ではマイクロスペースホルダーMIM法を活用した製作のほか、各種製造法を研究しています。微細な空孔を金属内部に作れば、毛細管現象で水を吸うことが出来ますが、空孔体積は非常に小さくなり、また目詰まりも生じ易くなります。

大きな空孔、大きな空孔率でも毛細管現象を発現するような工夫を施していますので、 通気性を保ちながら、水分を吸収し、内部に保持することが可能です。

05. 吸水ポーラス金属の応用事例

Ⅱ-マイクロポーラス金属の各製法

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■ 吸水ポーラス金属の特長

ヒートパイプのウィック 、結露水の吸収など

備考: 吸水率(%)=100*吸水量(体積)/空孔体積例えば、5cm角x厚さ1cmのブロックで、空孔率が80%の場合、最大19ccの水を吸収することが出来ます。内部に取り込んだ水は、ブロックの表面から自然蒸発します。

■ 吸水ポーラス金属の用途例

瞬時の水滴吸収

AI多孔質体の吸水性能100

90

80

70

60

繰り返し吸水試験

吸水率%

金属多孔質体材質:アルミニウム 寸法:φ40×19 気孔率:44%

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20