各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定...

25
各国別リスク事象一覧 中小企業のリスク認識と想定事例 日本国内との比較において 留意すべき事項 想定事例 1 インフラの未整備 C B B B C C D D C A D D 電気・ガス・水道・通信等のサービスが高品質・安定的に供給される保証が無い。また、交通 機関も定時運行が確保されているケースは少ない。 工業団地に入居し、操業開始したところ、電力供給に問題が無いとの説明を受けていたにも関わらず、実際には電力供給が安定せ ず、しばしば瞬停(瞬時電圧低下)や停電が発生した。このため、製造中の商品が不具合品となり、破棄処分せざるを得ず、また、 製造設備の傷みも早く、耐用年数も経過しないうちに設備を更新することとなった。 2 現地パートナー・提 携先とのトラブル C B B B B B C C B B C C 契約未締結のまま事業を開始することで、提携先・パートナーから急遽取引条件の変更を要 求される場合がある。また、契約で取り決めていたとしても、性能や納期が遵守されないケース がある。 事業開始を急ぐあまり、現地の合弁パートナーとの間で、細部まで条件を詰め切れないまま契約を締結した。後に経営方針を巡りト ラブルとなったが、契約において紛争解決方法を定めていなかったため、現地裁判所に訴訟を提起され、自社の主張が十分に反映さ れない条件で和解することとなった。 3 資金調達上の障害 C B B B B B C B B B D C 為替管理制度の変更、通貨の急落等の為替変動により計画していた採算の確保が難しくな る。また、現地からの外貨送金や親子ローンを含めた海外からの資金調達に制限があり、自 由な資金移動が難しい。 現地法人の事業拡大に伴い運転資金の借入れが必要となったが、日本本社からの借入れが事実上制限され、金融機関からの借 入れも容易ではないことが判明した。必要な資金の調達が困難となり、事業計画の変更を余儀なくされた。 4 技術流出・情報漏 えい C B B C B C C B B B C C 企業へのロイヤルティ(忠誠心)や機密保持に対する意識の低さなどから、性善説を前提と した対策では効果を発揮しない。 現地企業に製造を委託し、必要な技術を供与していたが、現地での特許出願はしていなかった。ところが、製造委託先のメーカーは 無断で当該技術を自国内で特許出願し、登録が認められるや、製造委託契約を解除し、今後は自社単独で当該製品を製造販 売すると通告してきた。 5 施設・設備に関する 事故・故障 C B B B C C C C B B C C 安全意識のレベルにばらつきがあることなどから、日々の運用、点検・整備において精度が低 く、不具合の発生頻度が高い。 進出先の工場に、日本から持ち込んだ製造設備を使用し、日本国内のメンテナンスマニュアルを使って、管理を行っていた。現地の高 温多湿な気候を十分に考慮しておらず、また従業員の教育不足から定期点検がしっかり行われていなかったため、設備が故障し、長 期間操業不能となった。 6 製品・サービスの品 質不良 C B B B C C C C C B D C 現地サプライヤーの品質レベル・製品安全に対する意識が劣り、不良率が高くなる。 現地で部品を調達していたが、取引先が指定した仕様を無視し、コスト削減のために使用する原材料を変更していた。自社での製 品検査も不十分であったため、原材料変更による強度の低下を把握できないまま、製品を出荷した。販売後、強度不足による事故 が頻発し、大規模な製品回収を実施することとなった。 7 環境汚染 発生 C B B B B B C B B A C C 環境保護の意識のレベルにばらつきがあること等から、日々の運用、点検・整備において精度 が劣り、不具合の発生頻度が高い。 一度顕在化すれば、地域住民の猛反発を受け、現地での雇用・操業にも支障をきたす。 製造工程で発生する一部の廃棄物を自社の敷地内に埋め立てて処理していた。しかし、ずさんな管理により法令で認められないも のまで埋め立てていたことが、当局の立ち入り検査で発覚した。廃棄物を掘り返して適正に処理するために、想定外の費用を支出す ることとなった。 8 顧客とのトラブル C B B B B B C B B B B C 契約よりも現地の商慣習を重視する傾向が強く、契約上で想定していないトラブルが発生し やすい。また、正確な企業情報(与信情報)の入手が困難である。 新たに現地企業と取引を開始したが、契約において品質に関する詳細な条件を合意していなかった。商品納品後に品質に関して難 癖ともいえるクレームをつけられ、代金の支払いを拒否された。長期間の交渉により、代金の半分を回収することでの決着を余儀なくさ れ、多額の損失を発生させることとなった。 9 商慣習・風俗・宗教 に関するトラブル C B B C C B D C C B C D 多数の民族・宗教が入り混じった国も多く、その多様性への配慮が不可欠である。 現地での営業用に商品パンフレットを作成したが、日本国内用のパンフレットのデザインそのままで現地語に翻訳しただけのものだっ た。パンフレットに使用していた写真が宗教の戒律上不適切であると指摘され、現地法人の役員が現地警察に身柄を拘束された。 10 取引に関する法令 違反 C B B B B B C B B B C C 日本からの貨物や技術(情報)の持出しが厳しく制限されている国・地域がある。 高級ブランド化を目指して、高価格による定価販売を戦略としていたところ、販売する製品の価格維持を目的に販売店に圧力をか けたとされ、独占禁止法違反にあたるとして罰金の処分を受けた。 11 贈収賄 ・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い C B B B B C D C B A C C 行政手続きに際して、日本では考えにくい金銭の支払いを要求されることが常態化している 国もある一方、法整備や取締りを強化している国もあり、違反を問われる可能性は高まりつ つある。 現地政府の幹部に対して多額の金銭を提供したとして、現地法人の役員が摘発された。事業運営上やむを得ず行政手続き等を円 滑に行ってもらうため小額の支払いを行ったものであると主張したが、特定の人物に繰り返し支払っていること、合計金額が高額である ことから、贈賄と認定された。 12 知的財産に関するト ラブル D B B C B B C C B A C C 知的財産に関する法制度の不備、または知的財産保護に対する意識の低さなどから、模倣 が横行しやすい。 現地法人で生産した製品を日本で使用しているブランドで現地販売しようとしたところ、商標がすでに不正登録されていることが判明 した。このため不正登録の裁定取り消し請求を申し立てたが、商標取り消しまでに長期間を要し、新たなブランドによる販売を余儀な くされた。 13 税務手続きに関する トラブル C B B B B C D C B B D C 現地独特の複雑な税務処理ルールにより意図しない申告誤りが発生する場合や、運用の曖 昧さにより追徴課税を受ける場合がある。 実際に営業活動をおこなっていない駐在員事務所であったにもかかわらず、税務当局から、従業員が多いため実質的に営業活動を 行っているPE(Permanent Establishment:恒久的施設)と認定され、課税された。 14 従業員等による不 正行為 C B B B B B C C B A B C 従業員、または従業員の手引きによる外部者による盗難の頻度が高い。また帳簿またはその チェックなど内部牽制の仕組みが不十分なことによる不正も生じやすい。 日本語による意思疎通のしやすさを重視して、日本に留学経験のある現地人を合弁企業の経理責任者に任命し経理業務を一任 した。長期間にわたり一向に現地の赤字状態が改善しないため、内部監査を実施したところ、経理責任者が二重帳簿を作成し、売 り上げの一部を横領していたことが判明した。 15 人材確保の障害 C C B C C C C B C B C C 有能な人材が限られる中で求人が多いため、全般的な雇用情勢(求人倍率)に関係な く、採用が難しく、高い待遇の提示が必要である。 現地法人で中堅社員が続々と退職を申し出て、人材の補充がスムーズに行えず、業務運営にも支障が生じることとなった。近隣に 大規模な生産拠点を持つ企業が、開発拠点としての機能を拡充するため、好条件での引き抜きを行っていることが判明した。 16 労使間のトラブル C B B B B B C C B A B C 最低賃金の上昇、労働者の権利意識の向上などに伴い、労使交渉を巡る不適切な対応が 過激なストライキやサボタージュなどを誘発する可能性が高まっている。 現地法人の従業員が待遇改善を求めて、会社に対する抗議集会を開いた。一部が暴徒化し、製造設備を破壊し、建物に放火す るなどの騒動となった。日頃から労使間のコミュニケーションが悪く、日本人幹部による従業員への高圧的な態度などが発端であった。 17 治安・政情の悪化 C B B B D B D C B A C C 政情が不安定、また表面上は安定していても、社会的な不満が鬱積し、何かの機会に乗じ て過激な暴動・デモなどの形で表面化する。 日本と進出先の国との関係悪化により、現地の日系企業の工場や商店が破壊・放火・略奪され、日本人が暴行される事件が相次 いだ。治安悪化により工場の操業を停止し、従業員を自宅待機とさせた。これにより製品供給が滞ることとなった。 18 盗難・強盗・誘拐 C B B B C B C C C A B C 「日本人は裕福である」とみられがちであること、日本に比べ治安が悪いことなどから、軽犯罪 から殺人・誘拐等の重大犯罪まで発生確率が高い。 工場の倉庫から高価な原材料が大量に盗み出された。警察の捜査により警備員と犯罪組織が結託し、休日を狙って計画的に原材 料を持ち出し、闇マーケットで売却していたことが判明した。 19 法規制の変更・不 透明な運用 ブル等) D B B B C C D C B A D D 各種規制(行政指導を含む)の運用や裁判制度が安定しておらず、その内容を予見する ことが難しい。(理屈に関係なく現地企業に有利な結果となる可能性が高い) 政府が予告なく特定の部品に関する輸入規制を発表し、各企業に割当枠を通知した。突然の規制により、製造に必要な量の部品 を確保できなくなり、従業員の一時帰休や操業停止を余儀なくされた。 20 自然災害 B B B B C B C C B A D C 防災インフラは脆弱であり、自然災害による被害が甚大化する傾向にある。 台風による豪雨で河川が氾濫し、工業団地の浸水により、取引先の多くが操業停止に追い込まれた。現地法人は洪水の直接的被 害はなかったが、部品供給や物流が途絶したため、減産等を余儀なくされた。 21 感染症・衛生 C B B C C C C C C B D D 衛生・医療環境が整っておらず、予防・感染拡大防止に関する正しい知識の不足により、感 染が急速に拡大しやすい。 従業員に新型インフルエンザの感染者が発生した。感染拡大を防止するための対策を徹底できなかったため、工場内で急速に感染 が拡大し、通常の操業が困難となり、製品の出荷遅延を余儀なくされた。 中小企業のリスク認識 カテゴリー リスク項目 調 ※本ツールに掲載されたリスク認識は、2015年度に(独)中小企業基盤整備機構が実施した「海外リスクマネジメント実態調査」に おいて、中小企業に回答いただいたアンケート結果を単純集計したものです。 各リスク項目を以下の4段階で評価し、その平均値によるA~Dの区分で表示しています。 4 日本国内と比較して格段にリスク(発生頻度、影響度)が高い 3 日本国内と比較してリスクが高い 2 日本国内と同レベルである 1 日本国内と比較してリスクが低い、ほとんど想定されない D A C B リスク高 リスク低 3.0以上 D A C B 2.0未満 2.0以上~2.5未満 2.5以上~3.0未満

Upload: others

Post on 19-May-2020

7 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 中小企業のリスク認識と想定事例

ド 日本国内との比較において

留意すべき事項想定事例

1 インフラの未整備 C B B B C C D D C A D D電気・ガス・水道・通信等のサービスが高品質・安定的に供給される保証が無い。また、交通

機関も定時運行が確保されているケースは少ない。

工業団地に入居し、操業開始したところ、電力供給に問題が無いとの説明を受けていたにも関わらず、実際には電力供給が安定せ

ず、しばしば瞬停(瞬時電圧低下)や停電が発生した。このため、製造中の商品が不具合品となり、破棄処分せざるを得ず、また、

製造設備の傷みも早く、耐用年数も経過しないうちに設備を更新することとなった。

2現地パートナー・提

携先とのトラブルC B B B B B C C B B C C

契約未締結のまま事業を開始することで、提携先・パートナーから急遽取引条件の変更を要

求される場合がある。また、契約で取り決めていたとしても、性能や納期が遵守されないケース

がある。

事業開始を急ぐあまり、現地の合弁パートナーとの間で、細部まで条件を詰め切れないまま契約を締結した。後に経営方針を巡りト

ラブルとなったが、契約において紛争解決方法を定めていなかったため、現地裁判所に訴訟を提起され、自社の主張が十分に反映さ

れない条件で和解することとなった。

3 資金調達上の障害 C B B B B B C B B B D C為替管理制度の変更、通貨の急落等の為替変動により計画していた採算の確保が難しくな

る。また、現地からの外貨送金や親子ローンを含めた海外からの資金調達に制限があり、自

由な資金移動が難しい。

現地法人の事業拡大に伴い運転資金の借入れが必要となったが、日本本社からの借入れが事実上制限され、金融機関からの借

入れも容易ではないことが判明した。必要な資金の調達が困難となり、事業計画の変更を余儀なくされた。

4技術流出・情報漏

えいC B B C B C C B B B C C

企業へのロイヤルティ(忠誠心)や機密保持に対する意識の低さなどから、性善説を前提と

した対策では効果を発揮しない。

現地企業に製造を委託し、必要な技術を供与していたが、現地での特許出願はしていなかった。ところが、製造委託先のメーカーは

無断で当該技術を自国内で特許出願し、登録が認められるや、製造委託契約を解除し、今後は自社単独で当該製品を製造販

売すると通告してきた。

5施設・設備に関する

事故・故障C B B B C C C C B B C C

安全意識のレベルにばらつきがあることなどから、日々の運用、点検・整備において精度が低

く、不具合の発生頻度が高い。

進出先の工場に、日本から持ち込んだ製造設備を使用し、日本国内のメンテナンスマニュアルを使って、管理を行っていた。現地の高

温多湿な気候を十分に考慮しておらず、また従業員の教育不足から定期点検がしっかり行われていなかったため、設備が故障し、長

期間操業不能となった。

6製品・サービスの品

質不良C B B B C C C C C B D C 現地サプライヤーの品質レベル・製品安全に対する意識が劣り、不良率が高くなる。

現地で部品を調達していたが、取引先が指定した仕様を無視し、コスト削減のために使用する原材料を変更していた。自社での製

品検査も不十分であったため、原材料変更による強度の低下を把握できないまま、製品を出荷した。販売後、強度不足による事故

が頻発し、大規模な製品回収を実施することとなった。

7 環境汚染

発生

C B B B B B C B B A C C環境保護の意識のレベルにばらつきがあること等から、日々の運用、点検・整備において精度

が劣り、不具合の発生頻度が高い。

一度顕在化すれば、地域住民の猛反発を受け、現地での雇用・操業にも支障をきたす。

製造工程で発生する一部の廃棄物を自社の敷地内に埋め立てて処理していた。しかし、ずさんな管理により法令で認められないも

のまで埋め立てていたことが、当局の立ち入り検査で発覚した。廃棄物を掘り返して適正に処理するために、想定外の費用を支出す

ることとなった。

8 顧客とのトラブル C B B B B B C B B B B C契約よりも現地の商慣習を重視する傾向が強く、契約上で想定していないトラブルが発生し

やすい。また、正確な企業情報(与信情報)の入手が困難である。

新たに現地企業と取引を開始したが、契約において品質に関する詳細な条件を合意していなかった。商品納品後に品質に関して難

癖ともいえるクレームをつけられ、代金の支払いを拒否された。長期間の交渉により、代金の半分を回収することでの決着を余儀なくさ

れ、多額の損失を発生させることとなった。

9商慣習・風俗・宗教

に関するトラブルC B B C C B D C C B C D 多数の民族・宗教が入り混じった国も多く、その多様性への配慮が不可欠である。

現地での営業用に商品パンフレットを作成したが、日本国内用のパンフレットのデザインそのままで現地語に翻訳しただけのものだっ

た。パンフレットに使用していた写真が宗教の戒律上不適切であると指摘され、現地法人の役員が現地警察に身柄を拘束された。

10取引に関する法令

違反C B B B B B C B B B C C 日本からの貨物や技術(情報)の持出しが厳しく制限されている国・地域がある。

高級ブランド化を目指して、高価格による定価販売を戦略としていたところ、販売する製品の価格維持を目的に販売店に圧力をか

けたとされ、独占禁止法違反にあたるとして罰金の処分を受けた。

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

C B B B B C D C B A C C行政手続きに際して、日本では考えにくい金銭の支払いを要求されることが常態化している

国もある一方、法整備や取締りを強化している国もあり、違反を問われる可能性は高まりつ

つある。

現地政府の幹部に対して多額の金銭を提供したとして、現地法人の役員が摘発された。事業運営上やむを得ず行政手続き等を円

滑に行ってもらうため小額の支払いを行ったものであると主張したが、特定の人物に繰り返し支払っていること、合計金額が高額である

ことから、贈賄と認定された。

12知的財産に関するト

ラブルD B B C B B C C B A C C

知的財産に関する法制度の不備、または知的財産保護に対する意識の低さなどから、模倣

が横行しやすい。

現地法人で生産した製品を日本で使用しているブランドで現地販売しようとしたところ、商標がすでに不正登録されていることが判明

した。このため不正登録の裁定取り消し請求を申し立てたが、商標取り消しまでに長期間を要し、新たなブランドによる販売を余儀な

くされた。

13税務手続きに関する

トラブルC B B B B C D C B B D C

現地独特の複雑な税務処理ルールにより意図しない申告誤りが発生する場合や、運用の曖

昧さにより追徴課税を受ける場合がある。

実際に営業活動をおこなっていない駐在員事務所であったにもかかわらず、税務当局から、従業員が多いため実質的に営業活動を

行っているPE(Permanent Establishment:恒久的施設)と認定され、課税された。

14従業員等による不

正行為C B B B B B C C B A B C

従業員、または従業員の手引きによる外部者による盗難の頻度が高い。また帳簿またはその

チェックなど内部牽制の仕組みが不十分なことによる不正も生じやすい。

日本語による意思疎通のしやすさを重視して、日本に留学経験のある現地人を合弁企業の経理責任者に任命し経理業務を一任

した。長期間にわたり一向に現地の赤字状態が改善しないため、内部監査を実施したところ、経理責任者が二重帳簿を作成し、売

り上げの一部を横領していたことが判明した。

15 人材確保の障害 C C B C C C C B C B C C有能な人材が限られる中で求人が多いため、全般的な雇用情勢(求人倍率)に関係な

く、採用が難しく、高い待遇の提示が必要である。

現地法人で中堅社員が続々と退職を申し出て、人材の補充がスムーズに行えず、業務運営にも支障が生じることとなった。近隣に

大規模な生産拠点を持つ企業が、開発拠点としての機能を拡充するため、好条件での引き抜きを行っていることが判明した。

16 労使間のトラブル C B B B B B C C B A B C最低賃金の上昇、労働者の権利意識の向上などに伴い、労使交渉を巡る不適切な対応が

過激なストライキやサボタージュなどを誘発する可能性が高まっている。

現地法人の従業員が待遇改善を求めて、会社に対する抗議集会を開いた。一部が暴徒化し、製造設備を破壊し、建物に放火す

るなどの騒動となった。日頃から労使間のコミュニケーションが悪く、日本人幹部による従業員への高圧的な態度などが発端であった。

17 治安・政情の悪化 C B B B D B D C B A C C政情が不安定、また表面上は安定していても、社会的な不満が鬱積し、何かの機会に乗じ

て過激な暴動・デモなどの形で表面化する。

日本と進出先の国との関係悪化により、現地の日系企業の工場や商店が破壊・放火・略奪され、日本人が暴行される事件が相次

いだ。治安悪化により工場の操業を停止し、従業員を自宅待機とさせた。これにより製品供給が滞ることとなった。

18 盗難・強盗・誘拐 C B B B C B C C C A B C「日本人は裕福である」とみられがちであること、日本に比べ治安が悪いことなどから、軽犯罪

から殺人・誘拐等の重大犯罪まで発生確率が高い。

工場の倉庫から高価な原材料が大量に盗み出された。警察の捜査により警備員と犯罪組織が結託し、休日を狙って計画的に原材

料を持ち出し、闇マーケットで売却していたことが判明した。

19法規制の変更・不

透明な運用ブル等) D B B B C C D C B A D D

各種規制(行政指導を含む)の運用や裁判制度が安定しておらず、その内容を予見する

ことが難しい。(理屈に関係なく現地企業に有利な結果となる可能性が高い)

政府が予告なく特定の部品に関する輸入規制を発表し、各企業に割当枠を通知した。突然の規制により、製造に必要な量の部品

を確保できなくなり、従業員の一時帰休や操業停止を余儀なくされた。

20 自然災害 B B B B C B C C B A D C 防災インフラは脆弱であり、自然災害による被害が甚大化する傾向にある。台風による豪雨で河川が氾濫し、工業団地の浸水により、取引先の多くが操業停止に追い込まれた。現地法人は洪水の直接的被

害はなかったが、部品供給や物流が途絶したため、減産等を余儀なくされた。

21 感染症・衛生 C B B C C C C C C B D D衛生・医療環境が整っておらず、予防・感染拡大防止に関する正しい知識の不足により、感

染が急速に拡大しやすい。

従業員に新型インフルエンザの感染者が発生した。感染拡大を防止するための対策を徹底できなかったため、工場内で急速に感染

が拡大し、通常の操業が困難となり、製品の出荷遅延を余儀なくされた。

中小企業のリスク認識

カテゴリー リスク項目

調

※本ツールに掲載されたリスク認識は、2015年度に(独)中小企業基盤整備機構が実施した「海外リスクマネジメント実態調査」に おいて、中小企業に回答いただいたアンケート結果を単純集計したものです。 各リスク項目を以下の4段階で評価し、その平均値によるA~Dの区分で表示しています。 4 日本国内と比較して格段にリスク(発生頻度、影響度)が高い 3 日本国内と比較してリスクが高い 2 日本国内と同レベルである 1 日本国内と比較してリスクが低い、ほとんど想定されない D A C B リスク高 リスク低

3.0以上 D

A

C

B

2.0未満

2.0以上~2.5未満

2.5以上~3.0未満

Page 2: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:中国)

例 中国における留意事項

1 インフラの未整備

発電設備容量の不足による電力不足は基本的には解消されているが、過去には大雪による石炭輸送の停滞、不採算に

よる発電控え等、容量不足によらない電力不足が発生したこともある。物流に関しては、高速道路や港湾・空港設備の拡

充によりハード面は充実しつつあるが、航空路線の急増などにより、多くの空港で航空機の出発遅延が常態化している。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

詳細な契約条件を契約書に盛り込んでいない場合、不当な言い掛かりをつけられ、契約の履行を拒否される可能性があ

る。一般的に権利意識が高く、トラブル時に「誠実に協議する」といった条項は通用しない。法的トラブルに発展した場合に

備えて、紛争解決手段に関する条項を盛り込むことも重要である。

3 資金調達上の障害総量規制や預貸率による制限の為、中国の金融機関からは融資が受けにくい。また、国外からの借入れについては、借入

枠など当局による規制があり、親子ローンの際には注意が必要である。

4 技術流出・情報漏えい

営業秘密の流出としては、以下の類型が良く見られる。

①技術ライセンス先中国企業からの流出

②技術ライセンス先中国企業による冒認出願(権利者に無断で自己の特許として登録出願する)

③現地法人の従業員の転職に際しての持ち出し(流出)

個人情報保護に関する体系的な法規制はなく、個人情報漏えい防止に関する意識も一般には低い。

5施設・設備に関する事

故・故障

概して安全よりもコストを重視する風潮があり、防火や危険物管理に関する役員・従業員のルール遵守意識やリスク感性が

不十分なため、ルールから逸脱した運営が行われやすく、大規模な火災・爆発事故に至る場合がある。

6製品・サービスの品質不

発注者が指定した原材料を、製造委託先などの取引先がコスト削減などの目的で勝手に変更し、納品される製品のスペッ

クが変わってしまうケースがしばしば発生している。

7 環境汚染

発生

日本国内の基準では許容されない水質汚染、大気汚染が常態化しており、健康管理面での留意が必要である。一方で

自社が環境汚染の原因となった場合、厳しい非難を浴びる。現地だけに条件を緩和した基準の適用は大きな問題となりか

ねない。(品質や安全に関する二重基準は最もやり玉に挙げられる)

8 顧客とのトラブル中国では、手形など企業間の信用取引市場が十分に整備されておらず、また流動資金を調達する手段が限られるため、

「顧客から代金を受領する前に、その商品の仕入費用は払わない」といった対応をする企業もある。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

一般的に中国政府はSNSなどインターネット上のやりとりの検閲を実行していると認識されており、検閲を前提としたコミュニ

ケーションであることを認識する必要がある。

10 取引に関する法令違反

近年、独占禁止法違反の摘発が強化されており、日本企業も多く摘発されている。業種によっては外資が高いシェアを占

め、外資が高い価格を維持しているとの批判があり、ターゲットになりやすい。一方で価格カルテルの存在が明らかな業界でも

調査対象になっていないなど、恣意的な運用がなされているとの指摘がある。

リスク項目カテゴリー

調

Page 3: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:中国)

例 中国における留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

賄賂を提供する相手が公務員である場合に限らず、民間企業やその従業員に対する商業賄賂も禁止されている。現政権

下では共産党員や公務員の規律を厳格化し、過去の不正行為を厳しく追及している。

12知的財産に関するトラ

ブル

政府による法整備や摘発キャンペーンにも関わらず、依然として他国と比べ模倣品被害が多い。日本企業が国内で使用し

ている商標なども、中国国内で現地企業が先に登録しており使用できない、権利譲渡に多額の補償を要求されるといった

ケースがある。

13税務手続きに関するト

ラブル

税務の実務に曖昧さが残る上に、変更が頻繁にあり、また地域や担当者によっても運用が異なる場合がある。口頭で確認

した内容が担当者が変わると覆ってしまうリスクがあるが、文書による確認が難しい場面もある。

14従業員等による不正行

中国では経済犯罪が増加しており、担当者が取引先からキックバックを受け取るなどの社内不正も後を絶たない。従業員の

コンプライアンス意識の欠落や社内の監視・牽制機能が十分に機能していないことが主な原因と考えられる。

15 人材確保の障害

急速な経済発展と労働者保護の法整備の進展に伴い人件費が高騰し、より高い処遇を求めた転職は珍しくなく、人材の

確保が困難となっている。コスト増による事業採算の悪化に加えて、キーマンの離職により業務継続に影響が出るケースもあ

る。

16 労使間のトラブル

中国では近年の労働契約法などの労働関連法令の施行後、解雇に伴うトラブルや賃上げ要求、残業代の支払い、労災

待遇、社会保険料、福利厚生など様々な問題に起因して労働争議が発生しており、1件の労働争議に関わる従業員の

数も増加傾向にある。

17 治安・政情の悪化

長年行われてきた愛国教育により国民に反日意識が潜在化しており、歴史的な記念日や日中の外交関係で問題が発生

した際には、日本企業をターゲットにしたデモや暴動が発生する場合がある。また、チベット地区やウイグル地区などでは長年

にわたり紛争が続いており、爆弾テロ事件も散発している。

18 盗難・強盗・誘拐

繁華街やレストラン、空港などにおけるスリ・置き引き・ぼったくりなどの軽犯罪は日常的に発生しており、日本人も多数被害

に遭っている。刃物などを使った凶悪な強盗事件もしばしば発生している。外国人を狙った誘拐事件は多くなく、狙われる対

象は主に富裕層の中国人である。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

2001年のWTO加盟に合わせて多くの法律と行政法規を改廃・制定してきた。また近年でも、政策や規制などの効果が不

十分と判断された場合には、機動的に追加の規定が公布されたり、運用が強化されるということがしばしば起きている。

また、政策・規制の運用については地域差が大きい。

裁判では、特に地方において国内企業に有利な判決が多く、外国企業の懸念事項である。

20 自然災害

国土が広大であり地域により想定される災害は異なるが、地震は西北・西南エリア(内陸部)・華北エリア(北京市・天

津市周辺)で発生している。また、台風の上陸頻度は日本の倍以上で、排水設備等の問題もあり沿岸部で大規模な水

害をもたらす場合がある。

21 感染症・衛生

北京や上海等の大都市では医療設備も充実し、衛生環境も比較的良好だが、地方都市では十分な医療サービスが受け

られなかったり、衛生環境がいいとは言えないエリアもある。救急車が有料であるなど、日本とは医療サービスの仕組みも異な

る。鳥インフルエンザA(H7N9)や狂犬病などの動物由来の感染症が各地で発生しているほか、南部では毎年多数のデ

ング熱患者が出ており注意が必要。

リスク項目

カテゴリー

Page 4: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:香港)

例 香港における留意事項

1 インフラの未整備世界で最も進んだビジネスインフラを持つ地域の一つである。交通機関は発達しており、海運・空運施設、通信環境も優れ

ている。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

法制度は中国へ返還後も中国法と異なり判例法(コモン・ロー)制度が維持されており、香港の裁判所の過去の判決が

先例として重視される他、イギリス等他のコモンロー制度国の判例も参考にされる。また香港の立法評議会が制定する成文

法(条例)も重要であり、取引先等と法律上のトラブルが生じた場合は、両方を確認しながら対応する必要がある。

3 資金調達上の障害 原則として為替管理や資金調達についての規制はなく、海外からの送金や海外への送金も自由に行える。

4 技術流出・情報漏えい日本と比較し、より高い処遇を求め転職を厭わない傾向が強い為、転職時の技術流出・情報持ち出しに注意する必要が

ある。

5施設・設備に関する事

故・故障

亜熱帯気候による高湿度と大気中塩分が建物の老朽化を早め、様々な社会問題にもなっている。電気系統のトラブルが

発生しやすく、電圧が240Vと高いこともあり、電気設備・製品の耐用年数が短く、故障も発生し易い。

6製品・サービスの品質不

製品の品質問題が国民の関心となることは少なく、大きな問題にはなりにくい。

消費者用製品に安全上の警告・注意を記載する場合、法令により英語と中国語の両言語で併記する義務がある。

7 環境汚染

発生

香港地域内の原因に加えて中国大陸からの工場煤煙の影響で大気汚染が深刻化している。この為住民の心臓病や呼吸

器疾患等の健康被害も拡大している。

8 顧客とのトラブル金融面での自由度が高く、香港所在の多くの金融機関ではマルチカレンシー(他通貨)口座を提供している等代金決済

などの面での問題は無い。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

対日感情は一般的に良好である。但し、第二次世界大戦時に旧日本軍が占領しその軍政下におかれた歴史があり、戦争

で直接痛みを受けた人やその関係者がいるため、そのような歴史を念頭において言動に注意することが必要である。

10 取引に関する法令違反伝統的にビジネス取引においては自由放任的であったが、2012年に競争法(the Competition Ordinance)が制定

され、2015年にガイドラインが施行された。

カテゴリー リスク項目

調

Page 5: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:香港)

例 香港における留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

腐敗問題の抑止に関しては、欧米主要国と同程度に高い水準にあり、取締機関である独立汚職調査委員会は贈収賄

事件の調査・訴追に積極的である。

12知的財産に関するトラ

ブル

知的財産権保護に関する総合的な制度(条例)が存在し、厚く保護されている。商標、特許及び意匠は登録することが

保護の前提となるが、未登録の商標等であっても、混同を防止する目的で「詐称通用(passing off)」というコモン・ロー上

の訴えを起し保護を求めることが出来る。

13税務手続きに関するト

ラブル税率が低く、株式譲渡や配当においても各種税金が低く抑えられており、香港域内の取引から生じる税務リスクは少ない。

14従業員等による不正行

横領着服や粉飾決算などが発生するケースがある。役員が関与しているケースにおいては、内部統制が無効化されてしまう

ため、発見が困難である。

15 人材確保の障害一般的に勤勉で適応力が高く、比較的有能な人材を確保しやすい。他方で、自らのキャリアアップのために若年層を中心に

転職が盛んに行われる。賃上げ圧力については、他のアジア諸国と比較すれば比較的緩やかである。

16 労使間のトラブル団体交渉権、標準労働時間等が法制化されていない。また、労働条件は個別契約により決定するため、賃上げを要求す

るより転職する傾向がある。労働争議等は事実上殆ど発生していない。

17 治安・政情の悪化テロ・暴動が発生する危険性は低い。しかし、過去には反政府デモ(雨傘革命)の発生により市街地で公共交通機関が

麻痺する等大きな影響が出たことがあり、今後も注意が必要である。

18 盗難・強盗・誘拐繁華街や鉄道・フェリーの主要ターミナル周辺では、パスポートや貴重品を狙った盗難事件が多く発生している。また、路上で

偽ブランド品の購入を勧められ、興味を示すと雑居ビル等に連れ込まれて購入を強要されるトラブルも発生している。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

法改正は少ないが、税額控除などは毎年見直されている。税務条例上、税務当局は7年間遡って課税する権限を持ち、

時効数か月前に税務調査が行われるケースが近年頻発している。

20 自然災害

大きな地震は過去発生していない。夏期に台風や豪雨等の被害を受ける可能性がある。台風については、事前に現地当

局より警告が出され、警戒レベルはシグナル1、3、8、9、10の5段階があり、「シグナル8」が出されると公的機関は閉鎖され

る。

21 感染症・衛生

医療水準は先進国と変わらないものの、日本語での意思疎通が図れる病院は限られる。衛生状況、感染症については

SARS、新型インフルエンザが発生する可能性に留意。その他、デング熱、日本脳炎、ダニ感染症、麻疹、手足口病等に感

染するリスクは日本国内より高いため、予防接種は受けた上で渡航することが望ましい。

カテゴリー リスク項目

Page 6: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:台湾)

例 台湾における留意事項

1 インフラの未整備電力・水道をはじめエネルギー関連のインフラ設備は充実しており、供給に問題は無い。交通の面でも、空港・港湾設備、

道路・鉄道網も整備されている。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

契約締結において、台湾人は用語・表現の正確性に対する要求が日本人ほど高くない。もっとも、後に争いとなる可能性が

ある為、職業翻訳者に依頼し、用語・表現を明確にしておくことが望ましい。

3 資金調達上の障害

台湾会社法により設立された会社の資金調達に関しては、株式の保有者が外国の法人や外国人であっても取り扱いに違

いは無い。外貨取引については、一定金額を超える場合には規制措置が設けられ、届け出や申告等の手続きが義務付け

られている。

4 技術流出・情報漏えい日本と比較して、より高い処遇を求め転職を厭わない傾向が強い。転職先へのアピールとして、ノウハウや情報を持ち出す可

能性があるため、転職時の技術流出・情報持ち出しに注意する必要がある。

5施設・設備に関する事

故・故障

北部は亜熱帯、南部は熱帯気候に属しており、建物・設備は高温・多湿に対応する必要がある。また、台風等の影響によ

り降水量が多く、立地によっては浸水被害に留意する必要がある。

6製品・サービスの品質不

製造物責任に関しては、消費者保護法及び民法で定められている。消費者保護法での請求主体は個人を想定していた

が、企業にも拡大する傾向にある。また、政府が定める食品の製造業者・輸入業者は製造物責任保険(PL保険)への

加入が義務付けられている。

7 環境汚染

発生

水質汚染が深刻である。水源が限られているため、水源涵養の目的で水源に近いエリアに立地する工場や工業団地では、

排水処理規制が強化される方向で政策が検討されている。

8 顧客とのトラブル即答することを美徳とする傾向が強くあり、対応が早い反面内容が正しくない場合がある。また、人材の流動性が高いため、

取引先の担当窓口が頻繁に変わることが多く、変更の際は文書で通知するよう取り決めることが望ましい。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

一般的には親日的と言われる一方で、過去の歴史認識や尖閣諸島等に関して様々な考えを持つ人もいる。日本語を理

解する人も多く、公の場での発言には注意するなど「礼節ある行動」に努める必要がある。

10 取引に関する法令違反台湾の競争法(公平公益法)は1992年より施行され、競争制限行為の規制、不公正競争行為規制の規定が設けら

れている。日本の独占禁止法より規制対象が広く、不正競争行為やマルチ商法もその範囲に取り込まれている。

カテゴリー リスク項目

調

Page 7: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:台湾)

例 台湾における留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

腐敗行為が蔓延している状況ではないが、過去には高額の金銭が関係する贈収賄事件が発生しているため、注意は必要

である。

12知的財産に関するトラ

ブル

知的財産権の保護強化に向けた取り組みを進行中である。知的財産裁判所が設立され紛争解決のための制度が整備さ

れるとともに、取引秘密法が改正され営業機密の盗用罪の刑罰が重くなっている。

13税務手続きに関するト

ラブル

これまで日本との間で租税条約が締結されておらず、二重課税を回避する手段が無かったが、2015年に日台租税協定が

締結され、日台双方の議会承認などを経た後に発効する見込みである。

14従業員等による不正行

横領着服や粉飾決算などが発生するケースがある。役員が関与しているケースにおいては、内部統制が機能しないため、発

見が困難である。また、廃棄処分するはずだった部品を転売するなどの事例が発生している。

15 人材確保の障害

欧米のように成果主義の傾向が強く、より高い処遇を求めて転職することは珍しくない。特に、日本式の横並び人事考課へ

の不満が転職の契機となるケースがある。国民性としては親日派が多く、日本語を話せる人も多く、労使間のコミュニケーショ

ンはとり易い。

16 労使間のトラブル2011年に施行された改正労働三法により、ストライキ・労働争議の手続きが簡素化されるなど、トラブルが紛争に発展する

リスクが高まっている。ストライキは減少し、個別労使紛争が増加する傾向にある。

17 治安・政情の悪化テロ・暴動が発生する危険性は高いとはいえないものの、過去には大規模なデモが発生し学生と市民が立法院(日本の国

会に相当)を占拠するという出来事が発生しており、警戒が必要である。

18 盗難・強盗・誘拐

親日国で治安も良いといわれているものの犯罪件数は日本を大きく上回っており、軽犯罪のみならず暴力犯罪(殺人、誘

拐、強盗、ひったくり、重傷害、脅迫及び強姦)も多数発生しているため警戒が必要である。また、子供を狙った誘拐事件

も発生しており、帯同家族も注意が必要である。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

経済の低迷、高齢化による労働人口の減少、および法人減税などによる深刻な税収不足が指摘されており、これを補うた

め、近年国税当局による税務調査が非常に強硬なものとなってきている。特に移転価格に関しては注意が必要である。

20 自然災害日本と同様、地殻プレートの衝突帯上に位置するため定期的に大きな地震に見舞われている。近年では1999年にM7.6

の巨大地震が発生した。また夏から秋は日本と同様、台風に見舞われる可能性が高く、風水災にも注意が必要である。

21 感染症・衛生

医療水準は先進国と比べ遜色ないレベルである。A型肝炎、デング熱、日本脳炎、狂犬病などに注意が必要で、可能な限

り予防接種を受けることが望ましい。衛生レベルは日本より劣るため、生水を飲まない、不衛生な店で飲食しない等の注意

は必要である。

カテゴリー リスク項目

Page 8: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:韓国)

例 韓国における留意事項

1 インフラの未整備電力は過去に供給不足で計画停電を行った時期があるが、恒常的な供給不足状態は解消されている。交通の面でも、空

港・港湾設備、道路・鉄道網も整備されている。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

韓国企業はトップダウンの傾向が強く、日本企業に比べ意思決定が早いという利点がある反面、時に権限委譲がなされず

管理職が機能しないといった弊害もある。相手方の早いペースに乗って自社の主張を十分に出来ないまま契約締結とならな

いよう注意する必要がある。

3 資金調達上の障害政府が金融政策上、外貨流動性確保とウォン為替の安定を重視していることから、国内で外貨資金を借り入れる場合、資

金使途が制限され海外決済に限定されている。

4 技術流出・情報漏えい日本企業から技術者を引き抜き、不正に機密情報を入手したとして、争いとなった例があり、情報管理や退職後の秘密保

持について注意が必要である。

5施設・設備に関する事

故・故障

火災警報システムや消火設備、避難経路など日本国内では当り前のように確保されている条件が確保されていない場合が

ある。この為既存の建物・設備を使用する場合でも新規に建設・取得する場合でも、事前に施設の安全面に十分配慮す

ることが必要である。

6製品・サービスの品質不

製品事故に関する法令では、ほぼ日本と同様の製造物責任法が制定されている。また、2011年に施行された製品安全

基本法により、重大な欠陥のある製品の強制リコールが定められるなど政府による規制が強化されている。

7 環境汚染

発生

高い人口密度・都市化率の中、経済成長を遂げた結果、大気汚染・水質汚染を中心とした環境汚染が深刻化している。

世界的にもまれな多種多様な賦課金があり、環境保護を達成する目的の一方で行政機関の貴重な財源となっており、注

意が必要である。

8 顧客とのトラブル

国際通貨ではないウォンは急激な為替変動に弱く、韓国側のウォンから円への換算後の支払い額が膨らみ支払いが遅延す

るケースが散見される。こうした事態に備え、契約時に支払い条件や取引通貨などの条件を契約条項の中で明確にしておく

ことが必要である。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

日本語の「チョウセン」は韓国人の間で不快感をもって受け止められ無用なトラブルを生む可能性がある。韓国の人名、地

名などはできるだけ韓国語の発音を用いることが望まれる。また、儒教思想の影響で日本以上に長幼、先輩・後輩、目上・

目下の区別が明確で目上や年上の人に対して敬意が払われる点に注意すべきである。

10 取引に関する法令違反

韓国の独占禁止法は「公正取引法」と呼ばれ、1980年に制定、 翌年より施行された。特徴は、制度面では経済力集中

を抑制し財閥の活動を規制していること、運用面では、2001年からの1年間で警告以上の処理件数が6,333件にも及

び、かつ法的措置が多いことから、積極的な運用がなされている。

カテゴリー リスク項目

調

Page 9: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:韓国)

例 韓国における留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

韓国では、2001年に腐敗防止法が制定され、独立性を持つ腐敗防止委員会が設置されるなど法整備が進められてい

る。一方で、情に応えることを大切にする国民性などもあり、一般的に日本よりも贈収賄が多いとされている。

12知的財産に関するトラ

ブル

1995年頃より工業所有権に関する法律の改正等の関連法令が整備され、知的財産権の保護強化が図られている。一

方で、現地企業にサンプルを提供する際に秘密保持契約の締結を拒否される、人材流出により営業秘密が漏えいするなど

の問題が報告されている。

13税務手続きに関するト

ラブル

韓国政府は、増税のない税収確保を掲げており、税収確保のために、税務調査が厳格化する可能性がある。また、タックス

ヘイブン(低課税国)と租税情報交換協定を締結し、海外脱税行為の遮断のための税務調査を強化している。

14従業員等による不正行

横領着服や粉飾決算などが発生するケースがある。役員が関与しているケースにおいては、内部統制が機能しないため、発

見が困難である。

15 人材確保の障害

韓国では学歴が重視され、大手企業のホワイトカラーを志向する学生が多いにもかかわらず、それを吸収するだけの雇用が

ないため、高学歴者の採用は、他の新興国と比較すれば容易とも言える。他方で、中小企業やブルーカラーについては慢性

的に志望者が不足しており、採用が困難である。また、労働争議が数多く起きており、賃上げ圧力が強い。

16 労使間のトラブル1987年の民主化運動が盛んだった頃と比較すると労働争議の数は相当減少しているものの、100人未満の事業者におけ

る労働争議が増加している。非正規雇用者の増加などの社会問題を受け、労働問題は多様化している。

17 治安・政情の悪化

1986年の金浦空港爆破事件以来、28年以上にわたりテロ事件は発生していないものの、アフガニスタン、イラクといった不

安定な地域に軍隊を派遣しており、イスラム過激派組織のテロ対象となる可能性は否定できない。また、北朝鮮とは近年

戦闘状態に陥ったこともあり、注意が必要である。

18 盗難・強盗・誘拐特に治安が悪いという事はないが、各種軽犯罪(窃盗、わいせつ、強盗、暴行傷害、詐欺、違法タクシー等)の被害が報

告されており、注意が必要である。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

韓国の法制度は、その多くが日本の植民地時代に整備されたため、日本の法制度と非常に類似し、日本企業にとって事業

を展開しやすい。他方で、人権や弱者保護に敏感であり、国民の利便性確保にも非常に関心が高いため、法律の新設や

改正、運用の変更が速やかに行われる傾向にある。

20 自然災害大きな地震は過去発生していない。

日本と同様、夏から秋にかけては台風シーズンとなるため、風水災に警戒が必要である。

21 感染症・衛生

高い水準の医療施設が充実しており、一流病院であれば日本語での受診も可能である。日常生活の中では屋台などで、

A型肝炎、細菌性赤痢、腸チフスなどが発生することがある。また、中東呼吸器症候群( MERS )の感染が拡大したこと

もあり、感染症への注意も必要である。

カテゴリー リスク項目

Page 10: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:タイ)

例 タイにおける留意事項

1 インフラの未整備

インフラは全般的に整備が進んでいる。電気・ガスの供給、通信に大きな問題はない。道路は全国的に整備されているが、

バンコク周辺は渋滞が激しい。鉄道は殆どが単線区間で、発着時刻が頻繁に遅れるなど問題が多い。水道については、干

ばつの影響で供給不足となる場合がある。

また、雨水排水能力の問題により特にバンコク都内では大雨により度々内水氾濫が起こる。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

業種によっては独資が外国人事業法の規制に抵触するため、合弁で進出せざるを得ないケースがある。合弁契約書を弁護

士を介さずに当事者間のみで作成し、合弁先に有利な内容で登録されてしまったなどのケースがあり、パートナー選びや交渉

には慎重な対応が必要。

3 資金調達上の障害親子ローンで資金調達する場合は為替リスクと金利リスクが伴う。現地の金融機関は、外資である日系企業に対しては長

期貸出しを避ける傾向にある。

4 技術流出・情報漏えい

2002年に制定された営業秘密法により、営業秘密保有者の同意なく、営業秘密を開示、持ち出しまたは使用する行為

は禁じられている。しかしながら、人材の流動性が高いため、退職した現地スタッフを通じて技術・情報が流出する可能性が

ある。雇用契約における退職後の秘密保持に関しても、期間制限や地域制限が設けられるケースもある。

5施設・設備に関する事

故・故障

安全管理基準は日本に比べて概ね緩い。また、高温・多湿のため、機械設備の劣化速度が速く、定期メンテナンスを実施

していても故障・火災が発生する場合がある。また、売電電圧も不安定になることがあり、漏電・短絡等により故障・火災の

発生率が高い。

6製品・サービスの品質不

サプライチェーンが整備され産業集積が進んでいる自動車産業においても、ローカルサプライヤーの能力は外資系に劣る場合

があり、品質向上の余地がある。製品品質に関する法制度は、リコールの命令権限は行政には無く裁判所が有し、PL法で

は懲罰的賠償金についても定められている。

7 環境汚染

発生

バンコク首都圏地域を中心に生活排水や工業廃水を原因とした河川等の水質汚濁、自動車排気ガス等による大気汚染

が深刻化している。また有害廃棄物の増加に処理施設の整備が追い付かず、不法投棄等の問題が発生している。

8 顧客とのトラブル

企業が振り出す小切手は何度不渡りを出しても、日本のように銀行取引停止にはならない為、小切手での取引は回収不

能となる恐れがある。この為銀行が保証する預金小切手の利用やCOD(Cash On Delivery:受渡し時現金)とする、

できるだけ銀行振り込みとする等の対策が必要である。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

王室に対する崇拝が強く、配慮を欠く対応を行った場合重大な問題となるおそれがある。宗教は大半が仏教徒であるが、よ

り戒律遵守を重んじる上座部仏教が主流であり、一般男性が一定期間出家することも珍しくないため、休暇取得などの面

で従業員への配慮が必要である。

10 取引に関する法令違反包括的な競争法として1999年に取引競争法が制定されたが、同法を積極的に運用するかが不明確であり、これまで実際

に適用された例はかなり少ない。

カテゴリー リスク項目

調

Page 11: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:タイ)

例 タイにおける留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

タイの汚職度合は他のアジア諸国と同程度と考えられ、少額でも長期に亘り繰り返し発生するケース、中小規模の会社で

発生するケース、複数の承認者が結託するケースが多いなどの特徴がみられる。また、公務員が社会的儀礼・慣習として利

益を受領することが許容される場合があり、年末に監督官庁へバスケット(日本の歳暮に相当する詰め合わせの品)を贈

る習慣が残っている。

12知的財産に関するトラ

ブル

長年模倣品が横行しており、政府が知的財産法改正や知的財産権行使の強化、特許登録の簡素化を目標に掲げてい

るが、改革は途上である。

13税務手続きに関するト

ラブル

タイにおける納税方式は、手続上は申告納税方式であるが、実態は税務調査が完了して確定する賦課課税方式に近い。

当局に過少申告あるいは申告漏れと判定され、内国歳入法に規定する高率のペナルティやサーチャージが賦課されることも

ある。

14従業員等による不正行

事業を小規模からスタートする場合、複数担当によるチェック・けん制が出来ず、従業員による現金の着服、仕入れ業者か

らのリベート受領等の不正が行われる場合がある。日本の感覚では不正と考えられることもタイでは不正と認識されない場合

もあり、業者選定や金銭支出は日本人が最終決定を行う等の対応が必要である。

15 人材確保の障害

外国からの投資と産業集積に伴う労働需要の高まりに加え、就業者全体の約4割を占める農業従事者が非流動化し、慢

性的な労働力不足の状態となっている。加えて最低賃金の引上げ、公務員給与の引上げ等の政策的要因も加わり賃金

が大幅に上昇している。

16 労使間のトラブル従来から自動車産業集積エリアの米系企業等の一部に扇動的な労働組合運動が見られ、労働争議も発生している。要

求の多くは賃上げで比較的穏健ではあるものの、最低賃金の引き上げに伴い、賃上げ要求が一段と高まるおそれがある。

17 治安・政情の悪化

これまでクーデター・政変が繰り返されており、デモや抗議活動に伴い爆発・発砲事件等死傷者を伴う衝突が発生する場合

がある。

また、南部4県では独立運動組織によるテロが頻発している。

18 盗難・強盗・誘拐タイにおいて日本人が巻き込まれる被害の圧倒的大多数は窃盗、詐欺等であるが、凶悪事件発生率は日本と比べて非常

に高く、日本人が殺人事件などの凶悪事件に巻き込まれた事例もある。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

政治的混乱の中でも経済政策は機能しているが、不安定な状況が続くと行政の運用等に混乱が生じることが懸念される。

税関手続きにおいて、税関担当官により判断が異なるケース、不適切に高い関税を徴収されるケースが見られる。

20 自然災害

タイで頻繁に生じる自然災害は洪水、干ばつ、熱帯性暴風雨である。2011年の歴史的大洪水では、アユタヤ地区の日系

企業も甚大な被害を受けた。タイ政府はチャオプラヤ川の氾濫に対して灌漑工事を進めているが、対策として十分といえな

い。

また、全国的に雨水排水能力による内水氾濫が頻発している。

21 感染症・衛生

国土大部分が熱帯モンスーン気候に属し、雨季には食中毒の危険が高まる。また感染性腸炎や出血性結膜炎、デング

熱、マラリア、鳥インフルエンザ等の罹患者も多い。医療水準は、主要都市の公立基幹病院や代表的な私立病院では概

ね良好である。

カテゴリー リスク項目

Page 12: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:ベトナム)

例 ベトナムにおける留意事項

1 インフラの未整備電力料金は安いが供給が十分ではない。物流面では、港湾は北部の主要港ハイフォン港が河川港で大型船が入港できな

い難点があり、日本のODAでラックフェン港を整備中である。鉄道・道路についても、整備・強化が遅れている。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

法務局等で法人に関する登記内容を確認することが出来ず、全国レベルで信用情報を提供する会社も存在しないため、

提携先候補の登記・信用情報の入手が難しい。

3 資金調達上の障害

通貨ドンは国内市場のみで流通し、市場規模が小さい。そのため流動性に乏しく、金利水準が安定しない。また対米ドル取

引相場が管理されており、管理相場と実勢相場がかい離すると米ドルへの交換が困難となる。また、国外からの借入れにつ

いては、借入枠など当局による規制があり、親子ローンの際には注意が必要である。

4 技術流出・情報漏えい

従業員が退職時に担当者がソフトウェアや経理データ等の機密情報を持ち出し、会社を脅迫する等の事例が発生してい

る。2013年に改正された労働法において、秘密保持に関して従業員と雇用者間で秘密情報の取扱い等を合意することに

ついての規定が設けられたものの、運用が定まっていない部分も多い。

5施設・設備に関する事

故・故障

現地の高温多湿の気候に合わせた建物・設備の仕様でない場合、暑さによる温度上昇や豪雨による水濡れを招き設備事

故に繋がる恐れがある。

6製品・サービスの品質不

一般にベトナム人は勤勉で手先が器用であると評価されている。

消費者用製品に欠陥があった場合のリコール法では協定的なリコールに加え、企業の自主的なリコールについても定めてい

る。

7 環境汚染

発生

内陸水(河川水および湖沼水)環境は、主要都市圏を中心に生活排水や工場排水により汚染が進んでおり、政府によ

る規制も強まっている。この為、環境問題が絡む新規事業についてはライセンス取得に時間を要する可能性がある。

8 顧客とのトラブルベトナムでの商取引は現金決済が基本で、できれば銀行の保証を取り付ける、社長の個人保証を取り付ける等、担保を設

定することが望ましい。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

ベトナムは贈答社会といわれ、人や仕事を紹介した場合、必ずお礼をする習慣がある。仲介者・紹介者へのキックバックや

マージン等の手数料が発生する場合がある点に注意が必要である。

10 取引に関する法令違反2005年ベトナム競争法が施行され、審査機関であるベトナム競争庁は積極的に受付・審査を行っている。これまでの違反

事件の中では、不公正競争を目的とする広告や、違法なマルチ商法、他の事業者を誹謗する行為等が多い。

カテゴリー リスク項目

調

Page 13: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:ベトナム)

例 ベトナムにおける留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

公務員給与と民間給与の格差等を背景として、汚職問題が深刻である。

12知的財産に関するトラ

ブル

2006年に知的財産に関する法律が発効したものの、コピー製品の製造・販売など、知的財産の侵害が横行している国の

一つである。知的財産保護に向けた取組みは始まったばかりである。

13税務手続きに関するト

ラブル

ベトナムの税務規定は、不明確な部分や税務担当官の裁量の余地が大きい部分があり、更に施行規則等の改正が頻繁

に行われるため、最新の税務規定を把握し申告納税を実施していく為には一定の管理コストがかかる。

14従業員等による不正行

ベトナムでは紹介者に手数料を支払うのが常識となっていることもあり、物品購買時に従業員が実際よりも高い単価や少な

い数量で購入し差額を販売店と山分けする、営業担当者が顧客に大幅に値引き販売しバックマージンを得る等の不正行

為が発生する余地がある。

15 人材確保の障害毎年の最低賃金改定で15~20%程度の引き上げを行っており、低賃金での採用が徐々に難しくなっている。近代工業化

が1986年のドイモイ以降と歴史が浅いため、特にエンジニア・中間管理職は人材が不足している。

16 労使間のトラブル2005年末、外資系企業の賃金引上げを巡り発生した大規模ストライキで政府が労働者側に立った介入を行ったこと、携

帯電話などの普及により賃上げ等の情報伝達が早まったことにより、労働争議やストライキが増加傾向にある。

17 治安・政情の悪化

治安当局はこれまで国内にテロ組織や反政府組織は存在しないとしているが、ベトナム人海外移住者(以下「越僑」)を

主体とする反政府活動に対しては警戒を強めている。但し、政情は安定しており、既に世界経済に組み込まれていることも

あり、政権交代による会社資産の没収は想定しづらい。

18 盗難・強盗・誘拐

歩行者が後方から走り寄ったバイクの人物にバッグ等をひったくられる例や、繁華街、空港、レストラン、長距離バス・列車の

車内等において、スリや置き引き被害に遭う例が目立つ。また、ナイフ等の凶器を使用した強盗も各地で発生している。身

代金目的の誘拐も散見されるが、外国人を狙ったものは多くない。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

1992年の現行憲法の制定をはじめ、法体系自体が1990年代以降になって整備されつつあるが、未だ十分ではない。ま

た、頻繁に制度が変更される。

20 自然災害地震は少ないが、台風は毎年中部・北部に上陸する傾向にあり、台風に伴う集中豪雨により毎年のように洪水被害が頻

発する。

21 感染症・衛生

医療機関は都市部と地方部、公立医療機関と私立医療機関で大きく異なり、ハノイやホーチミンの一部の私立クリニック以

外は日本人が満足しうる水準とはいえない。高温多湿な気候に加え、衛生環境も悪く食中毒のリスクが高い。また、デング

熱も全土で発生している他、狂犬病や鳥インフルエンザなどの動物由来の感染症にも留意が必要である。

カテゴリー リスク項目

Page 14: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:インドネシア)

例 インドネシアにおける留意事項

1 インフラの未整備

旅客・貨物輸送の約9割を担う道路については、大都市特にジャカルタ首都圏の交通渋滞が深刻である。空港・港湾につ

いても、ジャカルタのスカルノ・ハッタ空港、タンジュンプリオク港のキャパシティは限界に近い。また電力も需要の増加に伴い供

給が逼迫し、しばしば停電も発生している。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

法律により、インドネシア企業を当事者とする一定の契約について、インドネシア語を使用することを要求している。実際に同

法違反を理由としてローン契約が無効とされた判例もあり、後のトラブル回避のためには現地企業との契約はインドネシア語

を使用することが望ましい。

3 資金調達上の障害

2011年に制定された通貨法により現金決済はルピアの使用が義務付けられている。2015年からは対象が非現金決済に

も拡大され、取引がルピアの為替変動の影響を受ける。国外からの負債には、ヘッジ率規制、流動性規制、格付け取得義

務が課せられる。また、適用の例外規定もあり、実務においては当局の運用実態にも留意する必要がある。

4 技術流出・情報漏えい日本と比較し、より高い処遇を求め転職を厭わない傾向が強いため、転職時の技術流出・情報持ち出しに注意する必要が

ある。

5施設・設備に関する事

故・故障

火災警報システムや消火設備、避難経路など日本国内では通常設けられている設備が確保されていない場合がある。この

為、既存の建物・設備を使用する場合でも、新規に建設・取得する場合でも、事前に施設の安全面に十分配慮することが

必要である。

6製品・サービスの品質不

製品事故に関する法令として消費者保護法があるが、消費者の権利と事業者の義務について規定するのみで、欠陥の定

義などは定められていない。尚、消費者に代って消費者団体が製品製造業者を提訴する権利が認められている。

7 環境汚染

発生

ジャカルタをはじめとする都市への人口集中と経済活動の活発化を原因とする水質汚染や自動車等による大気汚染、廃

棄物の増大が問題となっている。また、上下水道等の生活インフラ整備の立ち遅れに伴う衛生問題も課題となっている。

8 顧客とのトラブル決済は小切手の利用が一般的であるが、遠隔地取引では資金化までの所要日数に注意が必要である。日本と異なり、形

式に不備があっても不渡りとしてみなされず、訂正・再発行により再度入金・支払いが可能である。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

国民の大部分(約90%)がイスラム教徒であり、アルコール類や豚肉を口にしない。不浄とされる左手での物の受け渡しを

避ける、椅子に座る際に足の裏を見せる等の動作が相手に不快感を与える場合がある。また、相手を人前で怒ったり、軽

蔑するような態度をとったりすることは、日本では考えられないほどの恨みを買うことになり、避けるべきである。

10 取引に関する法令違反1999年に制定されたインドネシア競争法が市場における公正で自由な競争の実現に向け、各種規制を定めている。同法

に基づき設立された事業競争監視委員会(KKPU)が規制を担っており、活発な活動を行っている。

カテゴリー リスク項目

調

Page 15: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:インドネシア)

例 インドネシアにおける留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

腐敗度合いは東南アジアの中で高いとされている。独立執行機関である汚職行為撲滅委員会(KPK)は一定要件を

満たした犯罪についてのみ捜査権限を有し、資金や要員は限られている。贈賄事件のほとんどは公務員に対するものであ

り、民間人に対する贈賄行為が犯罪として立件されるケースは極めて少数である。

12知的財産に関するトラ

ブル

様々な知的財産権侵害品が広く出回っており、違反行為が横行している。国民の多くは、価格を優先して模造品を購入す

る傾向があり、模倣品市場の形成を助長している。インドネシア政府によって侵害撲滅のため、2011 年に知財権侵害撲

滅国家チームを設置するなど、取組を強化している。

13税務手続きに関するト

ラブル

法人税予納制度による実績確定後の還付請求の際、必ず税務調査が実施され、結果的に還付を認められないケースが

多い。また、税務調査において、親会社の提供する経営指導や債務保証に対する対価をすべて配当とみなす、ロイヤリ

ティー・ブランドフィーを否認するなどの運用が明確な根拠なくなされる場合がある。

14従業員等による不正行

納品量のごまかし、会社備品や換金可能な資源ゴミの持ち出し、架空伝票の計上による金品着服などの社内不正が発生

している。ごみの持出については、そもそも「どうせ捨てるのだから、持っていってもいい」など、違法意識が希薄であるケースがあ

る。

15 人材確保の障害

2010年を基準として、現地通貨ルピア建てで、5年間で3倍以上人件費が高騰しており、アジア諸国で最も賃上げ圧力が

強い国といえる。また、イスラム教における断食月明けの大祭時に支給するTHR(レバラン(イスラム正月)の手当て)という

法定の賞与が義務付けらている。

16 労使間のトラブル

同国労働法は労働者保護の傾向が強く、正社員の解雇の条件は厳しい。例えば、雇用契約、就業規則又は労働協約の

違反が原因であっても、即時解雇はできず、3回の警告書の交付が必要となる。労働者はストライキだけでなくデモを行うこ

とも多い。「最低賃金の算定方法の見直し(賃金引上げ)」、「アウトソーシングの廃止」、「契約社員の正社員化」が主な

要求事項である。

17 治安・政情の悪化

イスラム過激派組織(ジュマ・イスラミーヤ、ジャマ・アンショルト・タウヒー等)が活動していることに加え、構成員が訓練を受

けるためにイスラム国(IS)と合流している、という情報もある。

2016年1月に発生した爆発テロ事件はISに関連するとの見方があり、今後テロ活動が活発化する可能性もあることから注

意が必要である。

18 盗難・強盗・誘拐・役職員の誘拐

窃盗、銃器を使用した強盗が増加傾向にある。運転している自動車に釘などを踏ませ、車をパンクさせたうえで乗客の貴重

品を奪う「パンク強盗」といった手口もあり、自身での運転などは避けるべきである。その他、偽警官による金品の強奪、乗客

を狙ったタクシー強盗などが発生している。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

他のアジア諸国に比して法規制の不透明かつ不合理な運用のリスクが大きい。

具体的には、税関担当者により異なる通関手続き、関税区分・関税評価の不統一、輸入ライセンス制度の変更による手

続きの煩雑、輸入許可要件としての現地製造拠点設置要求、鉄鋼製品に対するアンチダンピング措置の濫用、強制的な

輸入通関停止、輸入者に一切の説明なく開始されるセーフガード措置などが挙げられる。

20 自然災害

2004年のスマトラ島沖地震はM9.1の巨大地震で、津波によって甚大な被害が発生した。日本と同様、地震・津波に加え

て火山の噴火も注意が必要である。

雨季(11月~4月)を中心に集中豪雨による洪水発生の危険性が高まる。

21 感染症・衛生

医療水準は高くないが、外国人が利用する私立病院の水準については、十分な水準が保たれている。熱帯に位置すること

から、デング熱、マラリア等は年中罹患する危険性がある。また、狂犬病、鳥インフルエンザ等の感染予防のためにも野良犬

や野生動物と接触しないように留意すべきである。

カテゴリー リスク項目

Page 16: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:ミャンマー)

例 ミャンマーにおける留意事項

1 インフラの未整備

2011年3月に軍事政権から民政化して以降、経済改革を推進しているが、インフラは全般に未整備である。道路・鉄道な

どは整備途上である。電力は絶対的な発電量が不足しており、特に河川水量が低下する乾季終わり頃(4~5月)は停

電が頻発する。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

紛争となった場合、仲裁に関する国内法はあるものの、ニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認および執行についての条

約)に加盟していないため、契約上の国外仲裁指定に実効性が無い。

3 資金調達上の障害

2012年より管理変動相場制へ移行した。不動産担保金融をメインとする現地銀行からの資金調達は困難な状況にあ

る。親子ローンについては、ミャンマー投資委員会および中央銀行の承認が必要だが、元利金の送金実務において難易度

が高い。

4 技術流出・情報漏えい日本と比較し、より高い処遇を求め転職を厭わない傾向が強い為、転職時の技術流出・情報持ち出しに注意する必要が

ある。

5施設・設備に関する事

故・故障

火災警報システムや消火設備、避難経路など日本国内では当り前の設備が確保されていない場合がある。この為、既存の

建物・設備を使用する場合でも新規に建設・取得する場合でも、事前に施設の安全面に十分配慮することが必要である。

6製品・サービスの品質不

ミャンマーでは、製品事故に関する責任を定めた明確な法律は無く、不法行為責任・物品販売法に基づき判断されると考

えられる。

7 環境汚染

発生

2011年以降急速な経済発展、工業化が進展し、さまざまな環境問題が課題となりつつある。主なものは、自動車や工場

からの排気ガスによる大気汚染と産業及び生活排水による水質汚染となっている。今後法制度が整備され規制が強化され

ることが考えられる。

8 顧客とのトラブル原則として国内での代金決済は現地通貨チャット建である。国内の決済システムの電子化は殆ど進んでいない為、現金決

済が主流であるが、小切手の使用や口座振り込みも可能である。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

約半世紀の軍政下でメディアの政権批判が禁止され、検閲が行われたが、2012年に事前検閲が廃止され、2014年報道

の自由を保障するメディア法が成立する等自由化が進展している。一方で社会不安をあおる新聞記事の差し止めを認める

法律も定められるなど、自由化の途上段階といえる。

10 取引に関する法令違反ミャンマーの競争法は2015年に発効し、施行細則が決定次第運用が開始される。しかし各種統計が未整備であり、特定

製品の市場動向の把握が困難であることから、実際の運用には課題が残る。

カテゴリー リスク項目

調

Page 17: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:ミャンマー)

例 ミャンマーにおける留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

2013年に汚職行為防止法が制定され、今後徐々に啓発や執行体制等が進められる予定である。

12知的財産に関するトラ

ブル

知的財産権関連法規は未整備である。特許権・意匠権を保護する制度は無く、工業デザインは著作権法の適用対象外

である。

13税務手続きに関するト

ラブル

付加価値税は、他国と同様、売上税額から仕入税額を控除する仕組みである。しかし、控除できる要件や還付手続きが

不明確である。また、商慣習上、契約書や請求書のない簿外取引が依然として多く、税務・財務管理体制の構築が重要

である。

14従業員等による不正行

為会社資産の持ち出しが発生している。仲間内の不正やミスをかばい合い、隠すケースもあるため注意が必要。

15 人材確保の障害

人口の大半が40歳以下の若年層であり労働コストの競争力は高いものの、軍政時代の影響で高等教育の水準が低く、

一定の教育水準を持った人材の確保は困難である。外資が特に期待する製造業の一般工から中間管理職に至る人材は

豊富とはいえない。

16 労使間のトラブル 2011年に労働組合法が成立し、軍事政権下では認められていなかった労働組織の結成が可能となった。近年では工業

団地内の工場などで、賃金の値上げなどを求めるストライキが増加している。

17 治安・政情の悪化

建国以来、ビルマ族以外の少数民族が統治上の課題とされてきたが、和平交渉協議が進み、2015年に全土で停戦する

運びとなった。しかし、依然として小規模な衝突が各地で発生している。また民主化の進展が民族問題に悪影響を与える恐

れがある。

18 盗難・強盗・誘拐ヤンゴン市内で一般犯罪(スリ・置き引き・強盗など)は少ない。国内全体では、殺人・強盗・強姦が増加傾向にある。ま

た、近年タクシードライバーによる殺人・強盗事件が増加しており、一人での乗車は避ける等の注意が必要である。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

外資参入規制が厳しく、参入禁止業種や出資比率規制なども存在し、その手続き面の判断根拠などが不明瞭である。ま

た、自動車・携帯電話・不動産の購入が外国人名義ではできないなどの規制が依然として存在している。

20 自然災害毎年 5月下旬から11月中旬にかけての雨季はサイクロンの発生頻度が上がり、大雨による洪水被害が各地で発生する。

ライフラインが脆弱であり、復旧に時間がかかるため非常用備蓄品を用意するなどの備えが必要である。

21 感染症・衛生雨季は高温多湿となるため、食中毒を含む細菌・ウィルス・寄生虫などによる胃腸炎が多く発生する。狂犬病のリスクも高い

ため、野生動物との接触は避ける必要がある。また、森林地帯などに行く場合はマラリアにも警戒すべきである。

カテゴリー リスク項目

Page 18: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:インド)

例 インドにおける留意事項

1 インフラの未整備

インフラは全体的に脆弱である。慢性的な電力不足は緩和されつつあるが、送電ロス・盗電等の問題は依然として残る。水

道も、十分な上下水道が完備していることは稀である。物流も未整備で、道路は舗装率が低く、鉄道は全土に拡がっている

ものの遅延が多い。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

伝統的に家族・血族を大切にする社会であることなどから、インド企業の多くを同族経営企業が占める。この為コーポレート

ガバナンスが脆弱である場合もあり、現地パートナー選定や交渉に際しては注意が必要である。

3 資金調達上の障害国内では全ての取引がインドルピー決済で、資金調達も原則としてルピーのみであり、金利コスト負担が重い。国外での外

貨借入は許容されるが、対外商業借入規制(External Commercial Borrowing:ECB)を遵守する必要がある。

4 技術流出・情報漏えいインドでは従業員の関連する不正行為が多いとされる。従業員がロゴ商標に関するデータを持ち出して退職し、後に悪用す

るケース等がある。

5施設・設備に関する事

故・故障

火災警報システムや消火設備、避難経路など日本国内では通常設けられている設備が確保されていない場合がある。ま

た、エレベーター等昇降設備の整備が十分でない場合がある。この為、既存の建物・設備を使用する場合でも新規に建

設・取得する場合でも、事前に施設の安全面に十分配慮することが必要である。

6製品・サービスの品質不

製造物責任固有の法令は無く、製品事故に関する法律上の責任は、不法行為法、消費者保護法等に基づく。

製品に欠陥がある場合、消費者保護法により設置された消費者紛争救済機関へ請求する制度となっている。

7 環境汚染

発生

石炭火力発電等の化石燃料への依存が高いことや、増加する自動車の排気ガス(特にディーゼル車や旧型車)等を原

因として、都市部での大気汚染が深刻で、呼吸器系疾患、循環器系疾患等の健康被害が大きな問題となっている。

8 顧客とのトラブル

決済は、小切手が主流であるが、電子決済や銀行間送金も増加している。代金回収トラブルが訴訟に発展する例が多く、

リスクを最小限化する回収方法の設定(銀行保証、現金前払い決済など)と、徹底した信用状況の把握が不可欠であ

る。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

多民族多宗教国家であり、それぞれの所属に対する帰属意識が非常に強い為、特定の民族や宗教に関する言動は慎重

にすべきである。女性はあまり肌を見せない習慣があり、タンクトップ、ミニスカートや派手な色彩の服装は避けるのが望まし

い。また、左手を不浄視する習慣があり、物の授受等は左手を使わない等注意する必要がある。

10 取引に関する法令違反

公正な競争を規律する法律として「2002年競争法」があり、インド競争委員会が執行する。

同法は①反競争的協定の禁止、②支配的地位の濫用の禁止、③企業結合規制の3つからなる。競争委員会は①の取

締りについて積極的といわれ、また②に関しても高額の課徴金を課した例があり、注意が必要である。

カテゴリー リスク項目

調

Page 19: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:インド)

例 インドにおける留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

贈収賄行為に対しては従来は必ずしも厳しい取締りは行われていなかった。政府は近年取締りを強化するのみならず、法

整備も進めており、2014年に施行されたロクパル法により、政府から独立した機関(ロクパル)に調査権限が与えられてい

る。

12知的財産に関するトラ

ブル

インドは、知的財産に関する国際条約であるTRIPS 協定に沿って知財関連法を整備しているが、特に特許権侵害や刑事

での商標・著作権侵害摘発が十分に行われていないのが現状である。このため違反行為が依然として後を絶たず、知的財

産保護・執行が十分でない国として、米国通商代表部の優先監視国リストに記載されている。

13税務手続きに関するト

ラブル

中央税・州税ともに複雑で種類が多いうえに州により税制が異なる、相殺・還付手続きが複雑である、移転価格税制の判

断基準が明確でない、税法上長期出張者の取り扱いが不透明であるなどの問題があるため、他のアジア諸国と比較して税

務手続きに関するトラブルが発生しやすい。

14従業員等による不正行

在庫品等の盗難や財務不正などの不正行為が発生している。また、日本と比較して内部統制が脆弱な傾向があり、税務

対策や贈収賄の隠蔽のために二重帳簿を作成しているケースがある。

15 人材確保の障害人口・生産年齢人口共に多く、かつ増加しているが、教育水準の高い層は一部に限られ、国全体の識字率は7割を下回

る。この為、一定の教育水準を持った労働力を確保するのは容易ではない。

16 労使間のトラブル

同国の労働法は労働者保護色が過度に強い。改正が検討されているものの、国民の抵抗もあり進んでいない。

労働争議やストライキは件数自体は減少傾向にあるものの、参加人数や逮捕者は増加する傾向にある。また、身分の違い

による差別・逆差別が原因でトラブルが生じることがある。

17 治安・政情の悪化

都市部においてイスラム過激派によるテロが散発しており、テロの動向には注意が必要である。2008年には、ムンバイにて日

本人1人を含む165人が死亡する同時多発テロが発生している。イスラム過激派以外にも、極左過激派、独立主義過激

派等の活動にも注意が必要である。

18 盗難・強盗・誘拐

詐欺・窃盗・強盗・強姦等の犯罪が多発しており、特に女性が性犯罪に巻き込まれるリスクが高く、徒歩での夜間外出等は

避けるべきである。交通事情が劣悪であることから、交通事故リスクも高い。また、外国人を対象とした誘拐事件も多数発

生している。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

地方分権が進んでいる弊害として、中央政府と地方政府で与党が異なる場合、地方政府の権限が大きい領域などでは中

央政府主導のプロジェクトが進まないといった事例も見られる。

20 自然災害地理気候的に自然災害に見舞われやすく、地震、津波、洪水、サイクロン、干ばつ、地滑り・斜面崩壊、雪崩、熱波などさ

まざまな自然災害が発生している。ライフラインの脆弱さ等から、発生する被害も甚大となる傾向がある。

21 感染症・衛生

私立病院の一部ではある程度の医療を受けられるが、衛生レベルの劣る医療機関が多い。また、地域によって医療事情が

大きく異なる。

腸チフス・パラチフス・細菌性赤痢・アメーバ赤痢・コレラ・A型肝炎・E型肝炎・マラリア・デング熱などは年間を通じて注意が

必要である。また、狂犬病の患者数が世界一といわれ、野犬などには注意が必要である。

カテゴリー リスク項目

Page 20: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:フィリピン)

例 フィリピンにおける留意事項

1 インフラの未整備地域により計画停電が深刻化しているものの、マニラ近郊では電力の供給は安定している。主要道路での渋滞が深刻で、

また冠水が頻発している。空港は整備が遅れており、港湾も処理能力の低さによる出港遅延等が問題視されている。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル汚職・腐敗が蔓延しており、公務員だけでなく、地場企業との取引でも賄賂を求められる場合がある。

3 資金調達上の障害

外資系企業は、フィリピン国内での借入れにおいて資本金との関係で上限が設定される。親子ローンによる調達規制はない

が、ペソでの借入れは取扱できない、外貨借入れの返済原資がペソの場合は中央銀行への登録が義務づけられるという規

制がある。

4 技術流出・情報漏えい日本と比較し、より高い処遇を求め転職を厭わない傾向が強いため、転職時の技術流出・情報持ち出しに注意する必要が

ある。

5施設・設備に関する事

故・故障

6月から11月にかけての雨季には、台風の接近や長雨の影響により建物や屋外設備などの破損、低地では道路や施設の

冠水により操業に影響を与える場合がある。

6製品・サービスの品質不

製品事故に関する法律として、1992年に消費者法が制定され、消費者用製品については厳格責任が適用される為、日

本と同様に製品の欠陥が立証された場合、賠償責任が生じる。

7 環境汚染

発生

マニラ首都圏を中心とする大気汚染、都市部での河川・湖沼の水質汚濁、廃棄物排出量の増大とその処分に伴う環境汚

染が深刻化している。特に河川や湖沼の水質汚染は深刻であり、マニラ首都圏地区の主要河川は、工場排水及び生活

排水、農業排水による農薬、重金属、有害物質などによる汚染が進んでいる

8 顧客とのトラブル

小切手決済が主流で、不渡りへの罰則規定がなく、先日付小切手の取扱いに注意が必要である。代金回収方法の1つと

してコレクションエージェントと呼ばれる代金回収業者があり、利用頻度が高い。不渡りになった場合の対応として、法人の場

合は訴訟に持ち込むケースが多い。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

面子を重要視するため、公衆の面前で誰かを罵倒するような行為は避けるべきである。

しつけのつもりが、家庭内暴力・幼児虐待・暴行事件などとして警察に通報され,逮捕される例もある。

10 取引に関する法令違反フィリピン競争法は2015年に制定された。同法で公正取引委員会に相当するフィリピン競争委員会の設立を規定し、競争

制限的協定の禁止、支配的な地位の乱用の禁止、企業結合規制等を定めている。

カテゴリー リスク項目

調

Page 21: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:フィリピン)

例 フィリピンにおける留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

2010年に誕生したアキノ政権は、汚職・腐敗行為取締り強化を主要政策課題の一つとして取り組みを進めているが、汚

職・腐敗はいまだに改善していない。空港や税関、地場企業との取引でも金銭を要求される場合がある。

12知的財産に関するトラ

ブル

大型デパートやショッピングモールから小規模な店舗、路上の屋台に至るまで、様々な模倣品・海賊版が販売されている。こ

のため、同国は、知的財産保護・執行が十分でない国として、米国通商代表部の監視国リストに記載されている。

13税務手続きに関するト

ラブル

徴税額が目標額を下回る状況が続いており、税務担当官も税務調査に非常に厳しい態度で臨む傾向にある。税務調査

での指摘事項は根拠の薄いケースもあるが、納税者が反証しない限り、納税義務が生じる。また、税務調査を早く切り上げ

たり、納税額引き下げに応じる見返りとして、賄賂を要求されるケースなどもある。

14従業員等による不正行

商品の横流しや現金・会社備品の持ち出し、領収書の偽造などが発生している。経費の使い込みや水増し請求などの不

正行為にも注意が必要。

15 人材確保の障害

出稼ぎ労働を厭わない国民性もあって、都市部での従業員確保は他のアジア諸国と比較して容易である。また、今後につ

いては不透明だが、これまでの賃金上昇はわずかなものにとどまっている。親日性も高く、英語やコンピューターを得意とする人

も多いため、比較的有能な人材を確保しやすい。

16 労使間のトラブル最低賃金が生活を維持できる水準でないという理由から、労使交渉において最低賃金や消費者物価上昇率を大幅に超

える要求が提出され、紛争に発展する例が散見される。ただし、ストライキ等の争議行為にまで発展する事例は少ない。

17 治安・政情の悪化国内にはイスラム系反政府組織などのテロ組織が複数存在しており、政府関連施設を狙ったテロや、富裕層をターゲットにし

た身代金誘拐などが発生している。近年も外国人を拉致し、身代金を要求する事件が発生している。

18 盗難・強盗・誘拐

銃器が広く流通していることもあり、銃器等の凶器を使用した強盗や身代金目的の誘拐が多い。強盗では、レストランなどで

睡眠薬を混入させられ物品を盗まれる「睡眠薬強盗」や運転中の車両を停止させて物品を強奪する「車両強盗」、子供な

どによる集団スリ、偽警官による物品の強奪などが発生している。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

フィリピン経済区庁への登録により免税措置を受けている企業に対し、当局の方針転換により、免税措置期間後の特別税

の対象となる総所得の査定が厳格化していることが指摘されている。また、2013年に出された移転価格税制にかかる通達

により、税務調査の強化が想定される。

20 自然災害

新興国中でも自然災害リスクが高い。近年も大型台風の直撃により甚大な被害が発生した。また、日本同様大きな地震

や噴火も多い。その上、これらの自然災害が発生した際の救出能力やライフライン復旧能力、支援物資の輸送能力などは

低い。

21 感染症・衛生

都市部では高い水準の医療を受けられる施設があるものの、それ以外の地域では十分な医療を受けられれない可能性が

高い。感染症については、デング熱が流行する傾向がある。その他、腸チフス、アメーバ赤痢、細菌性赤痢、A型肝炎、狂犬

病などに罹患する危険が高い。

カテゴリー リスク項目

Page 22: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:マレーシア)

例 マレーシアにおける留意事項

1 インフラの未整備

電力の供給は安定しており、ガス・水道も充実している。但し、東マレーシアは電力の供給は必要十分とはいえず、数時間

にわたり停電が発生したことがある。また、地域によっては乾季にダムの貯水量が減り、給水制限が発生している。

道路網、港湾、空港は整備されている。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

マレーシアには支払手形が無く、銀行取引停止のシステムも無い。このため、期日内に支払う習慣が浸透しておらず、支払

いにルーズな会社が多い。

マレー人を優遇するブミプトラ政策が色濃く残り、投資に際してマレー系パートナーが必要となるケースがある。

3 資金調達上の障害

外資系企業が国内金融機関から借入れを行う際、当局の許可が必要となる場合がある。また、一定の割合でマレーシアに

て設立された金融機関からの借入義務がある。海外から外貨借入れを行う場合は、一定金額以上の場合、事前に管理

当局の許可が必要である。

4 技術流出・情報漏えい日本と比較し、より高い処遇を求めて転職を厭わない傾向が強いため、転職時の技術流出・情報持ち出しに注意する必要

がある。

5施設・設備に関する事

故・故障

消防法は一定整備されているが、施設によっては火災警報システムや消火設備、避難経路など日本国内では通常設けら

れている設備が確保されていない場合がある。この為、既存の建物・設備を使用する場合でも新規に建設・取得する場合

でも、事前に施設の安全面に十分配慮することが必要である。

6製品・サービスの品質不

製品事故に関しては、2000年に施行された消費者保護法で、厳格責任を採用し、製品欠陥が認められれば賠償責任が

生じる。一般に消費者の権利意識はまだ高まっていないが、一部の消費者団体等の権利主張傾向は高まっている。

7 環境汚染

発生

公害問題が、スズ鉱山、パーム油製造、天然ゴム製造の3 つの主要産業において注目されたことから、環境行政における

水質汚染問題の優先度は高く、基準は日本より厳しい。また、廃棄物処理に関しては、最終処分場が不足していることか

ら処理費用が高額であり、産業発展の制約となっている。

8 顧客とのトラブル小切手は即日決済が可能で、入金までの期間は2日である。1か月程度の信用を供与する取引慣行があり、売掛金、買

掛金の管理が必要である。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

憲法上イスラム教が国教と定められ、人口の半分以上がイスラム教徒である。不浄とされる左手での物の受け渡しは避け

る、椅子に座る際に足の裏を見せる等の動作が相手に不快感を与える場合があり、注意が必要である。また、相手を人前

で怒ったり,軽蔑するような態度をとったりすることは日本では考えられないほどの恨みを買うことになり、避けるべきである。

10 取引に関する法令違反

競争法に関する一般法は2010年制定の「マレーシア競争法」と規制当局について定める「競争委員会法」で、多くの分野

別の法律と共に規制する形態である。規制当局は調査および執行の双方を実施し、積極的な執行を行っている。またガイ

ドラインや指導等の制定を行う権限も持つ。

カテゴリー リスク項目

調

Page 23: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:マレーシア)

例 マレーシアにおける留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

汚職防止に関する法律としては、2009年にMACC(マレーシア汚職行為防止委員会)法が施行された。

執行機関のMACCは与党に直接支配されることから、執行に関して与党の影響を指摘する意見もある。

12知的財産に関するトラ

ブル

長年にわたり、著作権侵害品や模倣品が広く出回っている。特に海賊版光ディスクは、国内でも大きな社会問題となってお

り、政府も取締りを強化している。このような現状を踏まえ、海賊版の保管、販売又は流通に使用することを許可した建物

所有者も処罰の対象とするよう著作権法の改正が検討されている。

13税務手続きに関するト

ラブル

源泉税額等について還付請求を行う場合に、当局による監査が行われ、かつ複数年度に及ぶことがあるため、非常に大き

な負荷となる可能性がある。

14従業員等による不正行

従業員による商品の横流しや現金、会社資産の持出しが発生している。役員が関与した領収書の不正発行も発生してい

る。

15 人材確保の障害

他のアジア諸国と比べて人口が少なく(2800万人)、現地製造業では労働力が逼迫している状況といえる。マレーシアに

おいても最低賃金制度が2013年に導入され、今後の人件費高騰も懸念される。英語が話せる人が多く、専門知識や技

能を有する人材は比較的採用しやすい環境にある。

16 労使間のトラブル

労働者が比較的頻繁に離転職を行う一方で、使用者が労働者を解雇することは容易ではない。解雇を巡る紛争の件数

が多いことから未処理案件が蓄積し、紛争処理に時間がかかる。労働組合の組織率の低さ、スト実施手続の煩雑さ等によ

り、ストライキの件数は少ない。

17 治安・政情の悪化

国内ではテロ組織の活動は確認されていないが、近年ではISに合流しようとしたとして複数人が逮捕される等の事件が発生

しており、今後は注意が必要である。

与野党間の政権争いが国内騒乱に発展することもある。クアラルンプールでは華人系と不和があるマレー系市民による大規

模な民族デモが発生し、機動隊と衝突したケースもある。

18 盗難・強盗・誘拐

殺人,強盗,強姦,傷害,窃盗等の犯罪が頻発している。レストランで席を離れた隙に料理に睡眠薬を入れ、眠くなった

ところを狙われる「昏睡強盗」、わざと車両をぶつけ、事故対応のために降車したところを集団で襲う「車両強盗」などが発生

している。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

英国法に起源を有し、一定程度の法整備が進んでいる。近年では、独占禁止法や個人情報保護法が施行されているが、

法律に基づかないガイドラインや省庁の裁量による規制が残るなど、法制度の動向については常に留意する必要がある。外

資規制も比較的厳格である。

20 自然災害

活発に活動している断層地帯の外側に位置しており、一定規模の地震が発生している。インドネシア・スマトラ島沖地震の

際には津波被害も発生しており、地震・津波リスクに注意が必要である。

集中豪雨により都市部でも一時的な氾濫が生じる場合があり、東海岸では近年、大型の洪水が続いている。

21 感染症・衛生大きな私立病院であれば、十分な水準の医療を受けられる。熱帯雨林気候に属し、デング熱が流行し易い。A型肝炎、腸

チフス等を罹患するのを避けるため、不衛生な店での飲食や生もの・生水を口にすることは避けるべきである。

カテゴリー リスク項目

Page 24: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:シンガポール)

例 シンガポールにおける留意事項

1 インフラの未整備インフラはエネルギ-・物流共に問題ない。水深が確保された港・24時間稼働の空港を持ち、港湾・空港周辺の免税貿易

特区、IT化された荷物管理システム等により、グローバルなサプライチェーンを支える物流サービスを提供している。

2現地パートナー・提携先

とのトラブル

シンガポールの法制度は整備されており、国際的にも高く評価されている。法律に則った契約・取引を行う限り、トラブルに巻

き込まれる可能性は低いと考えられる。

3 資金調達上の障害 原則として為替取引や資金取引は自由であり、資金調達面の制度上の規制はない。

4 技術流出・情報漏えい日本と比較し、より高い処遇を求め転職を厭わない傾向が強いため、転職時の技術流出・情報持ち出しに注意する必要が

ある。

5施設・設備に関する事

故・故障高温多湿という気候特性から、電気設備や配管のトラブルに留意する必要がある。

6製品・サービスの品質不

製品事故に関する固有の法令は無く、製品事故に関する賠償責任は不法行為責任・契約責任に基づく。消費者用製品

については、消費者を不利にする免責条項は認められない等、消費者の権利を保護する法制となっている。

7 環境汚染

発生

インドネシアの焼畑農業で発生する煙害であるヘイズが毎年のように発生し、心臓病や呼吸器系疾患に影響を与えている。

8 顧客とのトラブル 商慣行・商取引上の大きな問題は見られない。現地での小売の場合、スペース利用料や卸売・小売の中間コストが高い。

9商慣習・風俗・宗教に

関するトラブル

主な宗教は仏教・道教・イスラム教・キリスト教・ヒンズー教である。国民の多くが厚い信仰心を持っており、宗教上の戒律や

習慣に配慮しない言動がトラブルを招くこともあるので注意が必要である。

10 取引に関する法令違反

シンガポール競争法(The Competition Act)は2007年に完全施行され、シンガポール公正取引委員会(CCS)が

執行と強制を担う。現地企業・外国企業を問わず対象としており、競争制限的合意、支配的地位の濫用、競争を減少さ

せる企業結合を禁止している。

カテゴリー リスク項目

調

Page 25: 各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定 …各国別リスク事象一覧中小企業のリスク認識と想定事例 例 中 国 香 港 台 湾 韓

各国別リスク事象一覧 (国・地域名:シンガポール)

例 シンガポールにおける留意事項

11 贈収賄・現地公務員からの不当要求による金銭の支払い

世界的に汚職・腐敗が少ない国として知られている。これは、取締当局が長年にわたり汚職撲滅の政府方針に基づき摘発

に力を入れたためである。

12知的財産に関するトラ

ブル

知識ベース経済の促進・発展を目指す政府の方針に基づき、バイオテクノロジーやIT分野における研究開発等、知的財産

の形成や発展に対する投資が加速している。これを支えるため、政府の取締当局と民間の知財権所有者による協力を組み

合わせた手法による高レベルの知的財産保護を目指している。

13税務手続きに関するト

ラブル

税率が低いため、日本のタックスヘイブン対策税制(現地法人の所得を日本親会社の所得に合算して課税する制度)の

適用を受ける可能性がある。低課税を期待して進出したにもかかわらず、同税制の適用除外基準の判断誤りなどにより、

後々高額な税負担となるケースがある。

14従業員等による不正行

横領着服や粉飾決算などが発生するケースがある。役員が関与している場合、内部統制が機能しないため、不正の早期

発見が困難である。

15 人材確保の障害大卒者が多く、有能な人材を採用することは比較的容易であるが、アジア諸国の中では最も人件費が高く、さらにより高い

処遇を求めて転職するケースが多い。

16 労使間のトラブル組合が結成されている企業が少なく、労働争議は非常に少ない。解雇に正当な理由が不要であり、労使関係は雇用側に

有利である。

17 治安・政情の悪化テロ・暴動のリスクは低いが、近年外国人街で大規模な暴動が発生していること、東南アジア一帯でイスラム系過激組織が

活動していることから、ISの動向等も踏まえ、一定の注意が必要である。

18 盗難・強盗・誘拐 治安は良好であり、一定のスリ・盗難事件が発生している程度である。

19法規制の変更・不透明

な運用ル等)

他のアジア諸国と比較して法制度は安定的であり、ビジネスを行う上で不都合はない。一方で、日常生活に関して、タバコ

のポイ捨て、地下鉄での飲食、蚊の発生を防止する措置を怠るなどの行為が処罰対象になり、厳しく取り締まられることなど

には注意が必要である。

20 自然災害地震や台風が少ないことで知られるが、2010年には大型の洪水が発生しており、豪雨により市街地が冠水することもしばし

ばある。

21 感染症・衛生医療水準は世界的に見ても高い水準であり、信頼できる。熱帯気候であり、デング熱が流行する可能性がある。その他、A

型肝炎、腸炎ビブリオといった感染症には注意が必要である。

カテゴリー リスク項目