小・中学校における特別支援教育の校内支援体制に関する研究 ·...

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-1- 小・中学校における特別支援教育の校内支援体制に関する研究 -校内委員会の実際的な役割とその課題について- 研究の概要 平成 19 年度から,特殊学級を利用していた児童生徒を含め,通常の学級に在籍しながらも特別な 教育的支援が必要となる児童生徒を対象とした特別支援教育がすべての小・中学校で実施される。学 校内で特別な教育的支援を必要としている児童生徒とその担任を校内全体で支援するために,その中 心的な役割を果たす組織が校内委員会である。そこで,本研究は特別支援教育の完全実施を前に,小 ・中学校における校内委員会についての現状を明らかにし,今後の特別支援教育の推進と充実に役立 てようとするものである。 キーワード 校内委員会 校内支援体制 教職員の共通理解 子どもの実態把握 児童生徒への支援 主題設定の理由 校内支援体制における校内委員会の位置付け 平成 15 年3月に「今後の特別支援教育の在り方について」(特別支援教育の在り方に関する調査研 究協力者会議 最終報告)が出され,特別支援教育への転換が提起された。この中で特別支援教育に ついて次のように定義している。 「特別支援教育とは,これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく,その対象でなかったLD,AD HD,高機能自閉症も含めて障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育的ニーズを把握し,当 該児童生徒の持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するために,適切な教育や指導を 通じて必要な支援を行うものである。」 このように,特別支援教育ではこれまで対象としていた盲・聾・知的障害・肢体不自由・病弱児な どの障害児だけでなく,新たにLD・ADHD・高機能自閉症児を対象に拡大した。特別支援教育へ の転換は,この新たに加えられた対象児が通常の学級にも在籍していることから,これまで養護学校 や特殊学級といった「特別な場」で指導してきた教育から,障害のある児童生徒一人一人の教育的ニ ーズに応じて適切な教育的支援を行うものである。このことにより,学習障害児等が通常の学級でも 十分な教育的支援を受けることができるように,校内支援体制を整備し支援体制が十分機能するよう なシステムを校内に構築することが求められた。この校内支援体制は学校全体として機能する体制を 整備することであり,全教職員の意識改革が必要なものである。この学校全体に関わる校内支援体制 の中心的な組織であり,特別支援教育の起点となるものが校内委員会である。 校内委員会の現状と課題から 小・中学校の特別支援教育における支援体制づくりについては,平成 15 年度から実施された「特 別支援教育推進体制モデル事業」,及び平成 17 年度から実施されている「特別支援教育体制推進事業」 がある。本事業では,小・中学校が進める支援体制づくりとして,「校内委員会の設置」「特別支援 教育コーディネーターの指名」「個別の指導計画の作成」「個別の教育支援計画の作成」があり,ま

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小・中学校における特別支援教育の校内支援体制に関する研究

-校内委員会の実際的な役割とその課題について-

研究の概要

平成 19 年度から,特殊学級を利用していた児童生徒を含め,通常の学級に在籍しながらも特別な

教育的支援が必要となる児童生徒を対象とした特別支援教育がすべての小・中学校で実施される。学

校内で特別な教育的支援を必要としている児童生徒とその担任を校内全体で支援するために,その中

心的な役割を果たす組織が校内委員会である。そこで,本研究は特別支援教育の完全実施を前に,小

・中学校における校内委員会についての現状を明らかにし,今後の特別支援教育の推進と充実に役立

てようとするものである。

キーワード

校内委員会 校内支援体制 教職員の共通理解 子どもの実態把握 児童生徒への支援

Ⅰ 主題設定の理由

1 校内支援体制における校内委員会の位置付け

平成 15 年3月に「今後の特別支援教育の在り方について」(特別支援教育の在り方に関する調査研

究協力者会議 最終報告)が出され,特別支援教育への転換が提起された。この中で特別支援教育に

ついて次のように定義している。

「特別支援教育とは,これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく,その対象でなかったLD,AD

HD,高機能自閉症も含めて障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育的ニーズを把握し,当

該児童生徒の持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するために,適切な教育や指導を

通じて必要な支援を行うものである。」

このように,特別支援教育ではこれまで対象としていた盲・聾・知的障害・肢体不自由・病弱児な

どの障害児だけでなく,新たにLD・ADHD・高機能自閉症児を対象に拡大した。特別支援教育へ

の転換は,この新たに加えられた対象児が通常の学級にも在籍していることから,これまで養護学校

や特殊学級といった「特別な場」で指導してきた教育から,障害のある児童生徒一人一人の教育的ニ

ーズに応じて適切な教育的支援を行うものである。このことにより,学習障害児等が通常の学級でも

十分な教育的支援を受けることができるように,校内支援体制を整備し支援体制が十分機能するよう

なシステムを校内に構築することが求められた。この校内支援体制は学校全体として機能する体制を

整備することであり,全教職員の意識改革が必要なものである。この学校全体に関わる校内支援体制

の中心的な組織であり,特別支援教育の起点となるものが校内委員会である。

2 校内委員会の現状と課題から

小・中学校の特別支援教育における支援体制づくりについては,平成 15 年度から実施された「特

別支援教育推進体制モデル事業」,及び平成 17 年度から実施されている「特別支援教育体制推進事業」

がある。本事業では,小・中学校が進める支援体制づくりとして,「校内委員会の設置」「特別支援

教育コーディネーターの指名」「個別の指導計画の作成」「個別の教育支援計画の作成」があり,ま

Page 2: 小・中学校における特別支援教育の校内支援体制に関する研究 · 小・中学校の特別支援教育における支援体制づくりについては,平成15

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た,都道府県や市町村からの支援では,「専門家チームの設置」「巡回相談員による指導・助言」等

がある。

このうち,校内委員会の設置に関して,平成 15 年度と平成 17 年度の全国調査を比較すると,校内

委員会を設置済みの小・中学校は 57.4 %から 87.8 %に増加している。山梨県においても,山梨県教

育委員会が実施した「山梨県校内支援体制整備の状況」調査(基準日:各年度9月1日)より,校内

委員会を設置済みの小・中学校は平成 15 年度 36.0 %,平成 16 年度 46.6 %,平成 17 年度 75.4 %と

徐々に増加している。このような支援体制づくりは,全国的には平成 19 年度に全ての小・中学校で

の整備を目指して進められているが,山梨県においては平成 18 年度末までに全ての小・中学校での

整備完了を目指している。したがって,平成 19 年度には山梨県においては,校内委員会はすべての

小・中学校において設置されることとなる。

さて,平成 17 年の 12 月8日に中教審「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答

申)」が出されたのを受けて,学校教育法施行規則の一部が改正され,平成 18 年4月1日より施行さ

れた。これにより今年度から通級による指導の対象にLD,ADHDの児童生徒も含まれ,指導時間

数も弾力化された。また,平成 18 年6月には,学校教育法等の一部が改正され,平成 19 年4月より

施行されることとなった。今回の学校教育法改正により,小・中学校においては,LD・ADHD等

を含む障害のある児童生徒に対して適切な教育を行うことが規定されている。

平成 17 年の 12 月8日に出された,中教審「特別支援教育を推進するための制度の在り方について

(答申)」の「小・中学校における制度的見直しについて」の中で,現行の特殊学級と通級指導教室

を一本化して特別支援教室へ移行する構想について,「『特別支援教室(仮称)』の構想が目指してい

るシステムの実現に向けては,現行の特殊学級等を直ちに廃止することに関して,障害の種類によっ

ては固定式の学級の方が教育上の効果が高いとの意見があることや,重度の障害のある児童生徒が在

籍している場合もあること,さらには特殊学級に在籍する児童生徒の保護者の中には固定式の学級が

有する機能の維持を望む意見があることなどに配慮し,弾力的な運用が可能となる制度とする必要が

ある。」と述べられており,段階を踏んで実現を目指す方向が示されている。

したがって,平成 19 年度から特殊学級は特別支援学級と名称は変わるが,実際的にはこれまでど

おり特別支援学級(これまでの特殊学級)のシステムに変わりはなく,当面はこのシステムの中で,

弾力的な指導体制を考えながら,様々なニーズを持つ児童生徒に対応していくことが求められる。こ

れらの状況において、校内委員会の役割は益々大きなものとならざるを得ない。来年度からは,各学

校で設置された校内委員会が,その機能を十分に発揮できるかどうかが,各学校の課題として出てく

ることが考えられる。

以上のことより,本研究では各学校の校内委員会がどのような取り組みをしているか,その現状を

把握して成果と課題を明らかにすることが,今後の校内委員会の運営に際して貴重な資料になると考

え,この主題を設定した。

Ⅱ 研究の目標

山梨県内の小・中学校において,校内支援体制の一つである校内委員会の現状と課題を詳細に把握

することにより,小・中学校の校内委員会を効果的に機能させる方途をさぐり,教育センターとして

の今後の研修及び各小・中学校への情報提供の基礎資料とする。

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Ⅲ 研究の基本的な考え方

1 校内委員会とは

校内委員会とは,学校内で特別な支援を必要としている児童生徒の実態把握、指導・支援内容の検

討、支援体制の構築等を検討し、児童生徒とその学級担任を校内全体で支援するための中心的な役割

を果たす委員会である。これまでは,特殊学級や通級指導教室という特別な場で担当の教員が専門的

な指導を行うか,通常の学級に特別な支援を必要とする児童生徒がいた場合も,その担任一人の努力

に任されてきたケースが多かった。しかし,これからは障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズ

に応じて適切な教育的支援を行う「特別支援教育」への転換を図り,そのためには校内全体の支援体

制を構築して支援していくことが重要である。

校内委員会は,校長,教頭,教務主任,特別支援教育コーディネーター,学級担任,教育相談担当

等で構成される。そして,校務分掌上に位置付けられることが望ましい。学校の規模,教職員数等,

学校の実情によって色々な形態が考えられるが,新しく設置するか,既存の委員会等に統合する形で

その機能を持たせる方法が考えられる。

校内委員会が組織されたとしても,直ちに位置付けられた機能をすべて果たすことができないこと

も多いと思われる。一つずつ機能を実行していく中で,それぞれの学校に合った形で校内委員会の機

能を拡充していくことが大切である。重要なことは,特別な支援を必要としている児童生徒やその学

級担任が困っているときに,適切な支援を実行できるような体制が存在することであり,対象の児童

生徒への支援について話し合うことができる教職員間の関係を作り上げることが大切である。そのた

めにも,校内委員会の果たすべき役割は大きい。

2 校内委員会の役割について

校内委員会の役割については,平成 16 年1月に文部科学省より出された「小・中学校におけるL

D(学習障害),ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の

整備のためのガイドライン(試案)」の中で,以下のようにまとめている。

校内委員会の役割

○学習面や行動面で特別な教育的支援が必要な児童生徒に早期に気付く。

○特別な教育的支援が必要な児童生徒の実態把握を行い,学級担任の指導への支援方法を具体化

する。

○保護者や関係機関と連携して,特別な教育的支援を必要とする個別の教育支援計画を作成する。

○校内関係者と連携して,特別な教育的支援を必要とする個別の指導計画を作成する。

○特別な教育的支援が必要な児童生徒への指導とその保護者との連携について,全教職員の共通

理解を図る。また,そのための校内研修を推進する。

○専門家チームに判断を求めるかどうかを検討する。なお,LD,ADHD,高機能自閉症の判

断を教員が行うものではないことに十分注意すること。

○保護者の相談窓口になるとともに,理解推進の中心となる。

以上のことから,各学校では校内委員会の役割を決めていく上で,上記の内容を十分に考慮して決

めていくことが大切であると考える。

3 校内委員会の設置・運営について

校内委員会については,各学校の規模等,実情に応じた設置・運営が望まれるが,基本的には次の

ような点に留意すべきであろう。

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○校内委員会の設置については,学校規模や教職員の人数を考慮して,新たに設置するか,既存

の委員会等に特別支援教育の役割を加えるかなどを工夫する。

○校内委員会と校長・特別支援教育コーディネーターとの関係を明らかにし,特別支援教育コー

ディネーターの活動がスムーズに行えるよう支援する。

○校内委員会を定期的に開催することや,ケース会議も含め臨機応変に開催できるシステムとす

る。

○支援の内容や方法について定期的に評価し,関係者(教職員,支援対象の児童生徒の保護者,

連携機関の関係者)に結果を情報として提供する。

○特別な支援を必要としている対象の児童生徒だけでなく,常に全体の児童生徒を視野に入れる。

以上のように,各学校が特別支援教育を推進していく上での校内委員会の状況は様々であるので,

現実にはその実態は学校によって多くの違いがあり,また,各学校が抱えている問題も様々である。

山梨県においては,校内委員会の設置は平成 18 年度末までに 100 %完了し,平成 19 年度からは全

ての学校で本格的に校内委員会が活動することとなる。したがって,今年度の校内委員会の設置,運

営に関する実態と成果,課題を把握することは,来年度からの特別支援教育の本格的な実施に向けて

貴重な資料になると考える。

Ⅳ 研究の内容と方法

1 研究の方法

山梨県内の各小中学校における,特別な教育的支援を必要としている児童生徒への校内支援体制

における校内委員会が果たしている機能の実態調査を行い,校内支援体制の現状と課題を把握する。

本調査は総合教育センター特別支援教育部が合同で実施する「小・中学校における特別支援教育の校

内支援体制(校内委員会・特別支援教育コーディネーター・関係機関との連携)に関する実態把握調

査」の結果を分析して,今後の研究及び研修の基礎資料とするものである。

2 研究の内容

(1)調査対象

県内の公立小学校・中学校

<小学校 206 校 中学校 97 校 合計 303 校(分校を除く)>

(2)調査期間

平成 18 年 11 月中旬から 12 月上旬(平成 18 年 12 月 11 日回答締切り)

(3)調査方法

アンケート依頼(コンピュータによる web 上での回答)

(4)調査内容

①校内委員会の設置について

②校内委員会の設置形態について

③校内委員会の構成メンバーについて

④校内委員会の開催(回数・開催実態)について

⑤校内委員会の役割機能(役割の位置づけ・実態)について

⑥ケース検討会の開催について

⑦校内委員会(ケース会議も含む)の留意点・成果・課題について

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Ⅴ 研究の結果と考察

本調査では,校内支援体制の中心的な組織である校内委員会の実態と成果,課題を把握するため,

主に「校内委員会の設置状況」「校内委員会の構成メンバー」「校内委員会の開催状況」「校内委員会

の機能」「校内委員会の留意点・成果・課題」ついて各校の状況を把握して,今後の特別支援教育体

制のスムーズな推進に役立つように,上記の5つの視点からアンケート結果の考察を試みるものであ

る。

1 校内委員会の設置状況について

校内委員会の設置状況については,図1

-1に示すとおりである。

校内委員会の設置については,小学校が

92.1 %,中学校が 86.4 %で,設置率は小学

校の方が6%程度高くなっている。また,

特殊学級設置校と未設置校で比較すると,

設置率は特殊学級設置校の方が,19 %程度

高くなっている。特に,小学校の特殊学級

設置校では,回答した小学校全てが設置し

てあるという結果であった。この結果より,

小学校の方が全校体制で特別支援教育に対

する取り組みが進んでいることが窺える。

また,特殊学校設置校と未設置校では,設

置校の方が進んでいることが窺える。

特殊学級設置校では,特殊学級に在籍し

ている子どもへの指導や対応について,教

職員間での共通理解が必要となり,これまでも必然的にその必要性があるたびに,校内委員会のよう

な何らかの方法で話し合う場が機能していたと言える。

校内委員会を設置していない学校でも,今年度中には設置する予定である学校は,小学校で 5.2 %,

中学校で 11.1 %であり,今年度中にはほとんどの学校が設置できる状況である。しかし,小学校で 2.6

%,中学校で 1.2 %の学校は今年度中は「設置の予定無」と回答しており,来年度の設置を考えてい

る。

校内委員会の設置形態については,図1-2に示すとおりである。「新たに設置」は,小学校が 63.6

%,中学校が 44.3 %,全体として 58.1 %,「既

存の組織に機能を追加」は,小学校が 34.1 %,

中学校が 55.7 %,全体として 40.2 %であった。

この結果より,小学校は新たに設置した学校

の方が多かったが,中学校は既存の組織に機

能を追加して設置した学校の方が多かった。

「既存の組織に機能を追加」が特に顕著だっ

たのは,中学校の特殊学級未設置校で 65.2 %

(図1-1) 校内委員会の設置

100.0%

71.7%

85.5%

88.5%

95.9%

77.2%

92.1%

86.4%

0.0%

18.9%

12.7%

7.7%

3.6%

15.2%

5.2%

11.1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

小特有

小特無

中特有

中特無

小中特有

小中特無

小学校

中学校

設置している 設置の予定 設置の予定無 無回答

(図1-2)校内委員会の設置形態

63.6%

44.3%

58.1%

34.1%

55.7%

40.2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

小学校

中学校

全 校

新たに設置 既存組織に機能追加

既存組織を整理統合 無回答

Page 6: 小・中学校における特別支援教育の校内支援体制に関する研究 · 小・中学校の特別支援教育における支援体制づくりについては,平成15

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の割合であった。既存の複数の組織を整理統合した学校は,小学校の特殊学級設置校の中で 1.4 %見

られた。

各学校では,これまでにも生徒指導委員会,教育相談に関する委員会,また特殊学級設置校では,

特殊学級運営委員会,校内適正就学指導委員会等を設置していると考えられ,これらの組織に機能を

追加したり,既存の組織と整理統合をして校内委員会の組織にしたものと考えられる。このように既

存の組織を生かせばより無理なく設置することはできるが,委員会としての機能が増えた分,校内委

員会の機能の実効性については疑問が残る。新たに設置すれば校務分掌の負担は大きくなるが,委員

会としての機能がより焦点化でき,構成員の目的意識が明確となることから,特別支援教育をより強

力に推進することが可能になる。したがって,学校が何を目指し,どのような組織なら学校が考える

目的に沿ってできるのか,実状に照らし合わせながら設置することが必要である。

2 校内委員会の構成メンバーについて

図2は校内委員会に常時参加する構成メンバーにどのような教員が加わっているのかを示したもの

である。

校内委員会に常時参加する構成メンバーは,各学校の実情により,いろいろなパターンが見られた。

特に校長,教頭,教務主任,特別支援教育コーディネーターは,小・中学校特殊学級設置・未設置校

に関わらず参加の割合が非常に高くなっている。小学校と中学校で構成メンバーの割合に差が出たの

が,生徒指導主任,学年主任,対象児童生徒担任,特殊学級担任,養護教諭であった。生徒指導主任,

学年主任については,中学校の方が比率が高く,対象児童生徒担任,特殊学級担任,養護教諭につい

ては,小学校の方が比率が高くなっている。学年主任については,単級の小学校にはいないために,

学校の校務分掌的に考えて小学校が少なくなることは当然の結果である。「その他」については,中

学校では教育相談担当,学年副主任,学年生徒指導担当などが挙げられていた。小規模校では,職員

全員が校内委員会の構成メンバーとなっているところも見られた。

校長,教頭,特別支援教育コーディネーターが

常時参加になっていない学校が小学校で6%程度,

中学校で3~4%程度見られるが,これらのメン

バーは校内委員会の内容を十分に把握していなけ

ればならない立場であるので,校内委員会開催の

事前事後には,十分に打ち合わせ,報告等の必要

がある。更に,校内支援体制は全教職員の共通理

解が重要であることから,校内委員会の内容につ

いては,時間を置かずに全職員に周知することも

必要である。

校内委員会に必要に応じて参加する構成メンバ

ーでは,小・中学校ともに対象児童生徒の担任が

最も高い比率であった。これは当然の結果である。

「その他」には,中学校では「スクールカウンセ

ラー」が多く,小学校では「スクールカウンセラ

ー」「不適応加配教員」「TT担当教員」などが散

見された。

(図2)校内委員会構成メンバー(小・中学校比較)

93.2%

93.2%

90.3%

94.3%

54.0%

31.3%

47.2%

66.5%

76.7%

17.6%

97.1%

97.1%

82.9%

95.7%

71.4%

64.3%

30.0%

50.0%

67.1%

14.3%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

校長

教頭

教務主任

特別支援コ

生徒指導主任

学年主任

対象児生担任

特殊学級担任

養護教諭

その他

小学校中学校

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3 校内委員会,ケース検討会議の開催について

図3-1は校内委員会の開催状況,図3-2はケース検討会議(ケース検討会議:関係職員により

特別な教育的支援を必要とする児童生徒の事例について話し合う会)の開催状況を示したものである。

校内委員会の開催状況は,全体では「定期的に開催」が 35.8 %,「必要に応じて開催」が 56.5 %で

あり,「必要に応じて開催」の方が高い割合を示している。小学校では「定期的に開催」と「必要に

応じて開催」の割合はほぼ同じであるが,中学校では「必要に応じて開催」の方が非常に高い割合を

示している。特殊学級設置校と未設置校との比較では,中学校の特殊学級設置校と小・中学校の特殊

学級未設置校では,「必要に応じて開催」が非常に高い割合を示している。中学校では生徒の具体的

な指導対応については学年会議で話し合われることが多いため,全校組織としての校内委員会で話し

合われる事例は少なくなることが考えられる。また,児童生徒の状況把握についても,職員会議等で

継続的に行う学校も多く,校内委員会の定期的開催は学校現場の多忙化の中で,少ない割合になって

いるものと考えられる。しかし,小学校の特殊学級設置校では「定期的に開催」と「必要に応じて開

催」はほぼ同じ比率であり,50.7 %の学校が定期的に開催している。これは,特殊学級に在籍してい

る児童の指導について,関係職員の共通理解が必要となるために,定期的に開催することが求められ

るからであろう。また,特殊学級での実践経験から,特別支援教育に対する教職員の意識の高さも反

映していると言える。

定期的に開催している学校の開催回数につい

て見ると,小学校では各学期に1~2回程度が

最も多く,次いで毎月1回程度という学校が多

かった。中学校では定期的開催の学校は少ない

が,開催回数は毎月1回が多く,中には毎週1

回という学校も数校見られた。必要に応じて開

催している学校では,これまでに1~3回程度

の開催が高い割合を示していた。このことから,

校内委員会を設置している学校の多くは,校内

委員会を何らかの形で少なくとも各学期に1回

は開催していることが窺える。

ケース検討会議については,これまでに開催

した学校は小学校で 68.6 %,中学校で 54.3 %と

小学校の方がやや高い割合を示している。また,

特殊学級設置校は小学校で 76.1 %,中学校で 61.8

%と未設置校より高い割合を示している。具体

的事例の検討は,関係のある教職員でのケース

検討会議の方が機動的であり,忙しい学校現場

の中で状況に応じて臨機応変に対応している実

態が窺える。これまでに,具体的な対応事例が

なくケース検討会議が開催されていない学校で

も,必要に応じて開催する体制はとられている。

(図 3-1)校内委員会の開催(小・中、特殊学級設置校・未設置校比較)

50.7%

23.7%

12.8%

13.0%

44.9%

12.9%

35.8%

46.4%

65.8%

74.5%

65.2%

50.6%

71.4%

56.5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

小特有

小特無

中特有

中特無

小学校

中学校

全 校

定期的開催 必要に応じて 開催してない 無回答

(図 3-2)ケース検討会議の開催

(小・中、特殊学級設置校・未設置校比較)

76.1%

49.1%

61.8%

38.5%

68.6%

54.3%

64.30%

20.3%

50.9%

36.4%

57.7%

28.8%

43.2%

33.10%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

小特有

小特無

中特有

中特無

小学校

中学校

全 校

開催している 今後、必要があれば開催 無回答

Page 8: 小・中学校における特別支援教育の校内支援体制に関する研究 · 小・中学校の特別支援教育における支援体制づくりについては,平成15

- 8 -

4 校内委員会の機能について

図4-1は校内委員会に位置づけられている機能を示したものである。校内委員会に位置付けられ

ている機能については,小・中学校ともに同じ傾向である。「児童生徒への早期の気付き」「児童生

徒の実態把握」「支援方策の検討」「児童生徒の支援についての全教職員の共通理解」「特別支援教育

の研修推進」など,全校レベルでの課題については7割以上の学校が位置付けており高い割合を示し

ている。一方,「個別の指導計画検討・作成」「個別の教育支援計画検討・作成」「保護者との対応」

「LD等専門家チームや巡回相談チームとの連携の必要性の検討」については,他の項目と比較する

と位置付けの割合が低い。これらは,特別な支援を必要とする児童生徒の具体的事例に関する内容で

あり,機動的に柔軟な対応が求められるため,担任か特別支援教育コーディネーターが対応するシス

テムをとっており,校内委員会の機能としては位置付けをしていないものと考えられる。校内委員会

の機能については,特別支援教育コーディネーターとの関わりも重要であり,特別支援教育コーディ

ネーターの役割との関係を整理して,学校の実情にあった機能的なシステムにするよう検討する必要

がある。

図4-2は校内委員会で既に取り組まれた内容を示したものである。既に取り組まれた内容につい

ても,割合の数値は異なるが校内委員会に位置づけられている機能と同じ傾向である。全体として小

学校の方が取り組み状況は高い割合を示している。また,全ての項目で年度当初,位置付けをした学

校の割合よりも低い実施率である。これは,特別な支援を必要とする児童生徒がいなかったために,

実施しなかった場合も考えられるが,学校が多忙であったために年度当初に予定をしていた内容が校

内委員会としては実施できずにいるか,結果として担当の教員に任せられていることも考えられる。

今年度は多くの学校が手探り状態で校内委員会を組織し運営してきているのが現状であり,各学校で

は来年度に向けての改善点を明らかにしておくことが必要である。学校現場の多忙化の中で,校内委

員会が役割をしっかりと果たすためには,実施時期と活動内容を明確にした年間活動計画を作ること

が大切である。

(図4-2)校内委員会で取り組まれた内容(小中学校比較)

70.5%

84.1%

74.4%

31.8%

25.0%

70.5%

42.6%

60.2%

30.1%

1.1%

2.3%

55.7%

70.0%

55.7%

12.9%

10.0%

50.0%

22.9%

42.9%

7.1%

2.9%

7.1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

児童生徒への早期の気づき

児童生徒の実態把握

支援方策の検討

個別の教育指導計画検討・作成等

個別の教育支援計画検討・作成等

全教職員の共通理解

保護者との連携

特別支援教育の研修推進

関係機関との連携の必要性の検討

その他

無回答

小学校

中学校

(図4-1)校内委員会に位置付けられている機能

(小中学校比較)

83.5%

92.0%

87.5%

41.5%

35.2%

81.3%

48.3%

73.3%

52.3%

0.6%

1.7%

71.4%

91.4%

85.7%

37.1%

31.4%

71.4%

44.3%

65.7%

45.7%

0.0%

0.0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

児童生徒への早期の気づき

児童生徒の実態把握

支援方策の検討

個別の教育指導計画検討・作成等

個別の教育支援計画検討・作成等

全教職員の共通理解

保護者との連携

特別支援教育の研修推進

関係機関との連携の必要性の検討

その他

無回答

小学校

中学校

Page 9: 小・中学校における特別支援教育の校内支援体制に関する研究 · 小・中学校の特別支援教育における支援体制づくりについては,平成15

- 9 -

5 校内委員会の留意点・成果・課題について

校内委員会の留意点・成果・課題については,自由記述として回答を求めた。回答内容から,必ず

しも校内委員会の内容に絞って回答したものではなく,特別支援教育全体に関する内容のものも見ら

れたが,回答したものを全て資料として採用した。

(1)留意点について

回答から得られた内容は,表1のように9領域(その他を除く)に分類することができた。各校か

ら出された意見をそれぞれの領域に分類し,どの領域の意見が多いか比較したものが図5である。記

述された意見で高い割合を示したのは,小学校では「教職員の共通理解・連携に関する内容」,中学

校では「子どもの理解・実態把握に関する内容」「教職員の共通理解・連携に関する内容」であった。

小・中学校共に高い割合を示した「教職員の共通理解・

連携に関する内容」は,特殊学級設置校と未設置校間で

比較すると,小学校では特殊学級設置校は 33.3 %,未設

置校は 17.0 %,中学校は特殊学級設置校が 29.1 %,未設

置校が 11.5 %であり,小・中学校共に特殊学級設置校の

方が高い割合を示し、大きな差が見られた。特殊学級設

置校は特殊学級に児童生徒が在籍しているため,「支援

が必要な児童についての共通理解を図り,担任だけでな

く学校全体で見て,支援していこうという意識を持って

もらうことに留意した」「対象児の事例検討会を行い,

全職員で共通理解を持ち支援していく」「対象となる児

童に関わるなるべく大勢の職員で話し合いを持つように

した」等,具体的な支援について教職員の共通理解・連

携の必要性が求められていることの現れであると言える。

(図 5)校内委員会の留意点

9.9%

12.0%

20.4%

8.4%

28.8%

16.8%

5.8%

17.8%

14.7%

4.7%

6.2%

7.4%

17.3%

1.2%

23.5%

25.9%

4.9%

4.9%

12.3%

13.6%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35%

教職員の専門性・研修

保護者との連携

情報

校内支援体制

教職員の共通理解・連携

子どもの理解・実態把握

関係機関との連携

校内委員会の内容

子どもへの具体的支援

その他

小学校全体中学校全体

(表1)校内委員会としての留意点

分 類 領 域 主 な 記 述 内 容

①教職員の専門性・研修 ○全職員に特別支援教育に関わる研修が深められるように、資料の配付など工夫した。○特別支援教育に関する教職員の研修を行い、LD、ADHD、高機能自閉症などについての理解を深めた。

②保護者との連携○取り出し等の指導をする場合は、保護者に連絡し納得のいくなかで実施している。○定期的に保護者と話し合いを持ち、保護者の願いを受け止めるとともに、校内での支援について理解を求める。

③情報○障害をもつ児童の個人情報の扱いについて ○個人情報の保護と守秘義務の徹底○対象となる児童の個人情報保護に十分配慮しながらも、より詳細な状況把握を全教職員で確認する。

④校内支援体制○担任が一人で抱え込まないように、組織としてサポートをしていく姿勢の確認。○困っていることや気になることが気軽に相談できる体制をつくる。○全職員による支援体制の確立。

⑤教職員の共通理解・連携○校内委員会で話し合われた内容については、全職員に報告し情報の共有化が図れるようにしている。○対象児に対してパニックを起こしたときに、全職員が同じように対応していくことについて共通理解を図る。

⑥子どもの理解・実態把握○県教委から出されているハンドブックを基に、客観的視点で実態把握に努めるようにした。○問題行動を起こす生徒について、心の内面を理解していこうと確認。○特別な支援の必要な児童の早期の気づき

⑦関係機関との連携 ○スクールカウンセラーや外部機関などの力を積極的に取り入れるようにした。○コーディネーターを中心に、 外部機関との連携をどう図るか。

⑧校内委員会(内容等) ○会議が多くなる中で計画的に委員会を開催する。○職員会議での情報交換をもとに必要に応じて開催。○機動力のある組織にするため、必要に応じて小委員会を開き問題把握や支援方策の検討を行う。

⑨子どもへの具体的支援 ○該当する生徒の詳細な状況把握と「個別の教育指導計画」「個別の教育支援教育」をしっかり作る。○個に応じた対応方法と全職員で取り組んでいく事柄等の対応の仕方を検討する。

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また,中学校で最も高い割合を示した「子どもの理解・実態把握に関する内容」については,小・

中学校共に特殊学級未設置校の方が高い割合を示している。特に中学校の特殊学級未設置校では,設

置校との差は 13 %と開きが大きかった。具体的な意見としては,「生徒一人一人について,特別に支

援を要するかどうか改めて考えるようにした」「障害の有る無しに関わらず特別支援を必要とする生

徒の実態把握」など,まず児童生徒の実態把握から始めようとしている傾向が窺える。これまでは,

特殊学級設置校の方が全体的に特別支援教育に対する具体的取り組みは推進されており,未設置校は

特別支援教育に対する具体的な実践は必要とされない状況であったが,今後は特別支援教育が全ての

学校で取り組まれることとなり,特別支援教育の考え方が意識され始めたことを窺わせる。

「情報に関する内容」についても,小・中学校共に高い割合を示している。記述内容では,「正確

な情報収集と共有化」「個人情報保護」の2つの内容が見られたが,圧倒的に多かった記述内容は,

「個人情報保護」に関する内容であった。扱う内容が非常に重要な個人情報であること,他機関との

連携が重要視されていることなど,情報に関しては慎重な扱いが求められるだけに大きな問題であり,

各校で神経を使っていることが窺える。

(2)成果について

成果について得られた回答は,表2のように

10 領域(その他を除く)に分類することができ

た。各校から出された意見をそれぞれの領域に

分類し,どの領域の意見が多いか比較したもの

が図6である。

「教職員の共通理解・連携」に関する内容が

小・中学校共に多く,特に小学校では高い割合

を示している。次に小学校では「子どもへの具

体的支援に関する内容」,中学校では「子ども

の理解・実態把握」が高い割合を示している。

「教職員の共通理解・連携」については,留意

点でも最も高い割合を示しており,「児童の実態把握やその対応等の諸課題について全教職員で取り

組み,解決することができた」「職員の共通理解が,職員全体で支援をしていくという雰囲気を作っ

ている」「全員で支援方法についてのアイディアを出し合い,その成果が子どもの様子に見られたこ

と」などの意見に見られるように,学校現場で実践上留意した点が成果として確認できたことが窺え

る。また,「子どもへの具体的支援」についても,「年度始めからの支援対象児童に好ましい変化が

多く見られる。年度途中からの児童について支援や理解の手だてができた」「TTによる指導でその

子に合った指導,つまずきを明らかにした指導が行え,内容の理解が高まっている」「取り出し等の

指導をした結果,子どもの学習意欲や理解力も増した」等,今後の特別支援教育を推進していく上で,

貴重な実践の積み重ねが各校の実践の中から生み出されていることが窺える。「子どもの理解・実態

把握」については,「各教科指導の中から見えてくる生徒の姿を,全校体制の中で確認できた」「実

態を把握し,方策を考えることができた」等,児童生徒の実態把握において多角的な視点の重要性が

確認できたことなど、今後の特別支援体制につながる取り組みができつつあることが分かる。

(図 6)校内委員会の成果

12.6%

5 .2%

2 .1%

12 .6%

34 .0%

12 .6%

5 .8%

2 .1%

5 .2%

21 .5%

2 .6%

8 .6%

6 .2%

4 .9%

6 .2%

23 .5%

21 .0%

7 .4%

1 .2%

3 .7%

13 .6%

9 .9%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35%

教職 員の専門性 ・研修

保護者との連携

情報

校内支 援体制

教職員 の共通理解 ・連携

子ど も の理解・実 態把握

関 係機関との連携

校 内委員会 の内容

教 職員の意 識改革

子ど も への具体 的支援

その他

小学校全体中学校全体

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(3)課題について

課題についての回答は,表3のように 10 領

域(その他を除く)に分類することができた。

各校から出された意見をそれぞれの領域に分

類し,どの領域の意見が多いか比較したもの

が図7である。

小・中学校共に全体としては同じ傾向であ

る。小学校は「校務の多忙化・時間的問題」「保

護者との連携」「子どもへの具体的支援」「校

内委員会の内容」「教職員の配置」に関する内

容が高い割合を示している。中学校は「子ど

もへの具体的支援」が特に高い割合を示し,「保

護者との連携」「校内委員会の内容」も多くな

っている。「子どもへの具体的支援」では,小

・中学校共に個別の指導計画,個別の教育支

援計画作成に関しての意見が多く見受けられ

た。この点については,平成 18 年度末までに,

特殊学級に在籍している子どもについては個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成,通常の学級

に在籍で特別な教育的支援を受けている子どもについては,個別の指導計画の作成をすることとなっ

ており,現場での大きな取り組み課題であると言える。また,「子どもへの具体的支援」について,

「どのような支援を組み立てていけばよいのか」「これまで実践してきた内容でよいのか」等,日々

の実践内容に不安を持っていることも窺え,今後は研修を実施するなどして,更に実践内容の検討を

重ねていくことが必要である。

(図 7)校内委員会の課題

12.6%

8.4%

15.7%

20.9%

4.2%

6.8%

3.1%

5.8%

12.6%

15.7%

7.9%

6.2%

6.2%

11.1%

7.4%

4.9%

3.7%

6.2%

4.9%

16.0%

29.6%

4.9%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35%

教職員の配置

教職員の専門性・研修

保護者との連携

校務多忙化・時間的問題

校内支援体制

教職員の共通理解・連携

子どもの理解・実態把握

関係機関との連携

校内委員会の内容

子どもへの具体的支援

その他

小学校全体中学校全体

(表2)校内委員会としての成果

分 類 領 域 主 な 記 述 内 容

①教職員の専門性・研修 ○研究会の還流や専門家の招聘による学習、校内委員会での子どもへの手だてと成長の見取りの話し合いの中で、一人一人の特別支援教育への理解と認識が深まった。○外部講師による特別支援教育の学習会の開催

②保護者との連携 ○専門家と保護者からの聞き取りをしたことにより、家庭とどのように連携していくか明確になった。○指導体制が整ったことで、保護者の信頼も増したように感じられる。○保護者の指導への理解。

③情報○情報交換を定期的に行うことで、生徒の様子や対応を確認することができた。○情報を共有することによって、授業や授業以外の活動でも指導がスムーズに行えた。

④校内支援体制○学校体制としての支援が効果的にできるようになり、システムとして動けるようになった。○支援が必要な児童に複数の職員が関わることで、多様な支援方法が可能となった。

⑤教職員の共通理解・連携○校内委員会で検討した支援のあり方をもとに、全職員の共通理解を図ることができた。○学級内だけでなく、学校生活のあらゆる場面において、全職員が支援する意識がもてた。

⑥子どもの理解・実態把握 ○特別な教育的支援が必要な生徒について、全職員で実態調査を行い、支援の方向性を共通理解できた。○個々の児童に対する支援方法について議論することで、個々の児童に対して多角的な見方ができた。

⑦関係機関との連携 ○校内だけでは判断がつきにくい事例について、専門機関の助言を頂いて、指導の方向性が見えてきた。○他機関との連携が取れるようになってきた。 ○連携した関係機関での検査の実施ができた。

⑧校内委員会(内容等) ○組織の立ち上げ。 ○校内委員会での協議が活発になり、支援計画を様々な角度から検討できた。

⑨教職員の意識改革○各教職員の特別な支援が必要かどうかという視点から実態を把握する意識が高まった。○全職員が特別支援を行っていこうという基盤はできつつあると思う。○特別支援教育の意識も高まった。

○個別の教育指導・支援計画を作成し、それに即した形で教育活動を展開することができた。⑩子どもへの具体的支援 ○特別教室での指導やTT指導をしたりとケースバイケースだが、児童の実態に応じた指導ができつつある。

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小学校では「校務の多忙化・時間的問題」が最も高い割合を示しており,校内委員会開催の難しさ

が課題として記述されている。「校内委員会の内容」領域においても,この点についての記述が多い。

学校現場ではいろいろな校務がある中で,小・中学校共に校内委員会を開催する時間の確保が難しい

という現状が窺える。また,「一人一人の児童の状況把握や支援方法の検討に非常に多くの時間を要

する」等の意見も見られ,これから各学校で校内委員会を開催する上で,話し合う内容の精選等,効

率的な運営方法を考えていかなければならない。

「保護者との連携に関する内容」については,「特別支援教育が対象と思われる子どもの保護者に,

特別支援教育の意義,大切さの理解をいかに深めるか」等,具体的な取り組み段階になると保護者と

の連携に関することが課題になってくることが窺える。多くの学校が今年度は個別の指導計画や個別

の教育支援計画の作成に取りかかっており,この計画の作成自体が保護者との連携の基に作成される

ものであることからも,保護者との連携は今後の大きな課題である。

「教職員の配置」について,小学校では,「人的保証がない中で,課題を持つ子どもに対しての具

体的な手だてが限られてしまう」「支援したい内容が話し合われても,人的余裕がないので思うよう

に支援できない」等,特別支援教育を行う上での人的面で限界であるという意見が多く見られた。こ

の問題は学校現場での教職員の努力では何ともし難い問題であり,今後の施策に期待したい。

「校内支援体制」「教職員の共通理解・連携」「子どもの理解・実態把握」の領域では,「担任以外

の人的援助をどのようにして組むか」「学級担任による生徒の実態把握に温度差があり,支援を必要

とする生徒の実態把握の共通理解を更に深める必要がある」「コーディネータが連携を持ったとして

も,受け取る教師の意識をどんな形で同じ方向に向かせ協力体制を持たせていくか。教師の温度差が

大きすぎる」等の意見も見られた。上記の項目は校内の支援体制整備を推進していく上で,留意点と

しても成果としても多くの学校が指摘した点であり,教職員の共通理解は非常に大切であり意識改革

が望まれる。

(表3)校内委員会としての課題

分 類 領 域 主 な 記 述 内 容

①教職員数○現場での実際は、対応しきれない場面も見られる。個別での対応も人的な配置に限界がある。○TTによる指導など、これからは、今の職員の数では対応が難しくなるので、職員の増員が必要。

②教職員の専門性・研修○教師の専門的な知識をどう身につけるか、また、教師の力量を向上させることも課題。○発達障害についての専門的な知識や児童理解のさらなる向上を図らなければならない。

③保護者との連携○特別支援が必要な児童について、保護者に同意してもらえるように説得すること。○個人指導計画を作成する際に、保護者からどのように協力や理解を得ていくか。

④校務の多忙化・時間的問題○必要に応じて開催しているが、校務等が多忙の中、時間を確保することが難しい。○一人一人の児童の状況把握や支援方法検討に非常に多くの時間を要すること。

⑤校内支援体制○成果を基に、効果的な支援をどのように構築していくかが課題である。○担任以外の人的援助をどのようにして組むか。

⑥教職員の共通理解・連携○一つの事柄に対して教職員全員の共通理解を図ることは難しい面もある。○指導の中心は学級担任であるため、他の職員がどのように関わればよいのか。

⑦子どもの理解・実態把握○学級担任による生徒の実態把握に温度差があり、支援を必要とする生徒の実態把握のための共通理解をさらに深める必要性がある。

○個別の指導を要する児童について、どこまで対象にしていけばよいのか。

⑧関係機関との連携 ○各専門機関へのアプローチの仕方が、まだ分からない。どの程度でどこへ相談したらいいのか。○適切な関係機関との早期で素早い関わり。 ○外部の機関との連絡調整が難しい面もある。

⑨校内委員会(内容等) ○定期的な開催 ○校内委員会の内容を充実させて開くことが必要である。○本来の校内委員会の役割として位置づけられている事項を早期に実施していくこと。

⑩子どもへの具体的支援 ○個別の指導計画、個別の教育支援計画の検討・作成、見直し、評価。○特別な教育的支援が必要な児童への具体的な支援について、更に考えていきたい。

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Ⅵ 研究のまとめ

1 校内委員会の現状と成果について

山梨県は平成 15 年度から実施されている校内支援体制整備により,年度を追って各学校で校内支

援体制の整備が進められてきた。今回の調査結果では,校内委員会の設置に関しては,小学校で 92.1

%,中学校で 86.4 %,全体では 90.4 %が設置しており,今年度中には設置する予定である学校も含

めると,全体で 97.4 %程度の学校が設置することとなる。来年度から本格的に実施する特別支援教

育に向けて,各学校が手探り状態であるとはいえ,校内委員会の設置を進めている状況が窺える。し

かし,今年度末までにすべての小・中学校での整備を目指していた県の目標には及ばない状況である。

また,設置形態については,全体を通して新たに設置した学校が 58.1 %,既存組織に機能を追加し

て設置した学校が 40.2 %で,殆どの学校がどちらかの形態で設置をしている。どちらの形態でもメ

リットとデメリットは考えられるので,その学校が校内委員会に対して何を目指し,どのような組織

ならその目的を達成できるのかを具体的にする中で設置することが大切であり,各学校の必要性と実

情に合致するものであればよいと言える。

校内委員会の構成メンバーについては,今回の調査では常時参加メンバーの構成パターンは全部で

63 パターン,必要に応じて参加するメンバーの構成パターンも 50 パターン(そのメンバーの中でも

参加する場合と参加しない場合がある)もあり,各学校の実態に応じた多種多様なメンバーで構成さ

れていることが分かった。校内委員会に学校としてどんな役割を期待するかによって,構成メンバー

も決まってくるものと考えられる。構成メンバーの数が多いと色々な分野から多くの情報と知恵が集

まる反面,校内委員会の開催については設定が難しくなるなど,色々な問題も考えられる。構成メン

バーは常時参加のメンバーと内容によって参加する臨時のメンバーに分けるなど,各学校の実情に即

して機動的かつ機能的な組織を考えていくことが大切である。一つ留意する点は,校内委員会に全員

参加していない学校では,校内委員会の活動内容は,確実に校長に報告し,全教職員が参加する場を

利用して全員に報告するなど,全教職員の共通理解を図るシステムにしておくことが重要である。

校内委員会の開催については,定期的に開催している学校は全体で 35.8 %と割合は低いが,これ

までに何らかの形で開催している学校は全体で 92.3 %であった。ケース検討会議を開催している学

校は全体で 64.3 %であった。これまでに校内委員会もケース検討会議も開催していない学校は全体

で 2.2 %見られた。校内委員会を開催する時間確保が難しい現実が多くの意見の中に見られたが,そ

ういう状況の中でも,92.3 %の学校が校内委員会を開催していることで各学校の努力が窺える。

以上のことから、校内委員会の活動状況の概要は,全体として中学校より小学校の方が,特殊学級

未設置校より設置校の方が進んでいることが窺えるが,多くの学校がそれぞれの課題に向けて,一歩

を踏む出したことは大きな前進であると言える。学校により,取り組み状況には大きな差も感じられ

るが,特殊学級設置校では,これまで学級担任に任されていた指導が,全教職員の共通理解のもとに

全校で指導出来る体制が構築できたこと,未設置校でも特別支援教育という視点で,児童生徒の学校

生活をじっくりと見つめ直す姿勢が学校全体にでき上がってきたことを示す意見も見られ,各学校の

確実な実践と成果が見て取れる。来年度からの特別支援教育の本格的実施に向けて、各学校が特別支

援教育の校内体制整備を進めながら支援体制の充実を図り、全教職員の共通理解ができつつある実情

が、今回の調査により把握できたことは、今後の支援体制充実に向けて大きな成果であった。

2 校内委員会の今後の課題

校内委員会は,学校内で特別な教育的支援を必要としている児童生徒とその学級担任を校内全体で

Page 14: 小・中学校における特別支援教育の校内支援体制に関する研究 · 小・中学校の特別支援教育における支援体制づくりについては,平成15

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支援するために中心的な役割を果たす委員会である。特別支援教育が来年度から本格的に始まり,校

内委員会がその役割をしっかりと果たすためには,年間活動計画が必要である。今年度,各学校では

時間的な問題で校内委員会の開催が難しい状況も多く見られたりする中で,年度当初に計画した定期

的開催が出来ない状況が生まれたり,予定した機能が未実施の学校も見られた。特別な教育的支援が

必要な児童生徒がいなくても,校内委員会の機能として重要な内容はあり,何らかの形で実施する必

要がある。学校現場が多忙であるからこそ,年間活動計画(開催時期と内容)をしっかりと立ててお

くことが必要である。校内委員会は,タイムリーに児童生徒の状況や学級の状況を把握して,必要に

応じて具体的な対策を検討することが求められ,出来るなら毎月定期的に開催することが望ましい。

また、学校現場の多忙化の中での実施となるので,効率的に話し合えるように内容を精選し,短時間

で運営できる工夫をする必要がある。このように学校全体の体制を考慮する中で、機能的な組織とな

るよう校内委員会を中心に据え、必要に応じて機動的に対応できるケース検討会議も考慮した校内支

援体制システムを明確にし、全教職員の共通理解を得ておくことが大切である。

教職員の人的配置に関する環境整備も大きな課題として挙げられている。多くの学校で全校体制で

の支援を実践しているが,現状の教職員の人数では具体的支援も限界があり,今後の人的な増員が望

まれる。

特別支援教育の取り組みは,学校による温度差があるとはいえ確実に体制の整備が進んでいる。そ

の中で,「子どもへの具体的支援」「保護者との連携」「関係機関との連携」「教職員の共通理解」「子

どもへの理解・実態把握」等に多くの課題が挙げられている。これらの課題に対しては,基本的には

教職員に対する研修等の実施が必要であると考える。校内委員会の機能として,多くの学校が「特別

支援教育の研修推進」を挙げており,この点で校内委員会の実質的な活動として計画的に研修を推進

していくことが求められる。研修としては校内における特別支援教育体制の整備状況に合わせながら

計画的に行うことが大切である。校内体制の整備に取りかかる段階では,主に特別支援教育全般の内

容,軽度発達障害,各関係機関や保護者との連携,学級作りなどに関する基礎的内容の研修が必要で

あり,体制整備が整い具体的実践段階では,具体的事例を基にすぐ実践に役立つような研修を行うこ

とが必要である。研修の実施に関しては,積極的に外部講師を招聘する,研修の環流報告をするなど,

工夫を凝らした研修を計画することが大切である。

参考文献

・小・中学校におけるLD(学習障害),AD

HD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉

症の児童生徒への教育支援体制の整備のため

のガイドライン(試案)

【平成 16 年1月 文部科学省】

・今後の特別支援教育の在り方について

(最終報告) 【平成 15 年3月 特別支援教育

の在り方に関する調査研究協力者会議】

・特別支援教育を推進するための制度の在り方

について(最終報告)

【平成 17 年 12 月

中央教育審議会特別支援教育特別分科会】

・小・中学校におけるLD,ADHA,高機能

自閉症の子どもへの教育支援

上野一彦 編集 教育開発研究所

・教職研修(2004 6月号)

・教職研修(2006 10 月号)

平成 18 年度 山梨県総合教育センター

執 筆 者 主幹・研修主事 武井 茂光