図工・美術学習指導研究委員会...- 図工・美術2 - 四 研究の内容...
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- 図工・美術 1 -
図工・美術学習指導研究委員会
一 研究テーマ
感性をはたらかせ、自分らしい表現を追求していく図工美術の指導のあり方はどうあったらよいか
二 テーマ設定の理由
「自分らしい」とは、流動的で曖昧な観点であり、大人であっても自身の「自分らしさ」を明確
に伝えるのは難しいのではないでしょうか。それは「個性」と言い換えられるのかもしれませんが、
どちらにしても他者との比較から成るという点については異論ないかと思われます。
多くの子ども達が思うだろう「上手に描きたい」の“上手”や「綺麗につくりたい」の“綺麗”
などは、もちろんその子ども達の価値観からなる素直な評価でしょう。しかしその価値観は、関わ
りの中で育つ子ども達、家族や友だち、教師など周囲の価値観や評価に大きく影響されても不思議
ではないですし、もちろん否定できるものではありません。大人の表現者であっても、時代の先を
行くごく一部の表現者を除いては、幅を持って一般化された社会の価値観に、個人差はあっても少
なからず影響を受けているはずであり、そうでなければ、評価される喜びはもちろん、表現を通じ
ての他者との関わりも失われてしまうのではないでしょうか。言うまでもなく、学校教育における
図工・美術は、前述の突出した才能を持つ表現者を育てるわけではなく、その他の教科や教育活動
が持つ役割と作用し合いながら、子ども達の人間性や社会性を培う一端を担う教科であり、図工・
美術におけるその役割は“情操教育”と端的に示されてきました。
それでは、子ども達が、家族や友だち、先生など周囲の価値観や評価に影響されていることを前
提として、どのようにして子ども達に「自分らしい」表現を追求させれば良いのでしょうか。図工
・美術に携わる教師は、製作・制作の結果として「自分らしい」表現となることを理解しながら、
子ども達が夢中になり、没頭して取り組む姿を大事にしたいと日々考えていることと思われます。
そこで図工・美術学習指導研究委員会では、夢中になり没頭している姿を「感性をはたらかせ」
ている状態と捉え、題材設定と展開、指導法の工夫によりその姿に迫らせたいと願って本テーマを
設定し、作品を含む実践を持ち寄りながら研究を深める形としました。
三 研究の経過
第1回委員会 5月12日(火) 研究の方向について
第2回委員会 6月25日(木) 実践研究会
第3回委員会 8月25日(火) 教育課程研究協議会 午後の実践発表会の打ち合わせ
第4回委員会 9月 2日(水) 教育課程研究協議会 午後の研究協議・実践発表会
第5回委員会 11月24日(火) 総委員会(まとめの方向)
第6回委員会 12月21日(月) 研究の綴、報告書の確認
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四 研究の内容
・各委員が作品やレポートを持ち寄り、意見交換しながら研究を進める。
・教育課程(午後の研究協議)と研究発表会で実践発表し、委員以外の先生から意見をいただく。
・各委員の実践による成果と課題をまとめ、広く先生方に役立てていただける形にする。
〈各実践の掲載ページと概要〉
1 造形遊び「ちらしぼうの世界」(小2)・・・P3~4 ( 気賀沢 宜志 先生 北小学校 )
作品重視の活動から、造形活動を楽しむ中でその面白さや造形的な美しさを感じ取る活動への
変換を狙った「ちらし棒」による実践。魅力的な素材との出会いが主体的な活動につながった。
2 絵画「描いてみよう 墨の世界」(小6)・・・P5~7 ( 原田 真帆 先生 中塩田小学校 )
多様な水墨画の技法を体験し、自分なりの表現を見つけることで表現する喜びを感じ取っていく
実践。墨による表現の魅力を体感することを通して、自分なりのイメージを広げていった。
3 彫塑「12 年後のわたし」(小6)・・・P8 ~ 10 ( 田中 綾子 先生 南小学校 )
思いや願いを持ち、イメージをふくらませて表現に向かえるような題材設定を思索した実践。自分
の将来に思いめぐらしながら、動きや場面設定を考え、可塑性のある粘土による追求を深めた。
4 鑑賞「心の中の美術館」(小6)・・・P11 ~ 15 ( 大嵩崎 眞一 先生 神川小学校 )
画家の作品からインスピレーションを得て,思うがままに印象を自分の色や形で表す鑑賞を基に
した実践。自分なりに作家の表現のよさや美しさを感じ取り、自己の表現をも追求していった。
5 絵画「光と影の自画像」(中3)・・・P16 ~ 17 ( 大月 香世子 先生 東御市立東部中学校 )
自分の顔を観察し、凹凸や明暗を線の方向や量で表現するといった描画の基礎的な力を養う実践。
観察を基にした様々な気づきが、「自分らしさ」を表現することにつながった。
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事例1 「ちらしぼうの世界」(2学年) 北小学校 気賀沢宜志
1 題材名 「ちらしぼうの世界」(2学年1時間)A 表現(1)材料を基に造形遊びをする
2 題材設定の理由
2年生になって、「春休みの思いで」や、学級目標を飾るための「自分の顔」を描いてきた子ども
たち。描くことに喜びをもって意欲的な姿を見せる子どもたちではあるものの、「何を描けばいい
の?」「これでいいの?」と指示や判断を求めたり、それがないと安心して取り組めない姿も見られ
た。どちらの単元も、教師側からやることを提示して、教師の定めた枠の中での子どもたちの活動
となっていた。作品の仕上がりを重視しすぎる教師自身のかまえによって、主体的に取り組みきれ
ない子どもの姿が生まれてきているのであろうと考えた。子どもたちが材料を目の前にして、遊び
心を刺激させながら造形活動に取り組めるようにしたいと願った。
そんな願いにもとづいて、造形遊びとして取り組んだ「新聞紙で楽しもう」では、子どもたちが
主体的に造形活動に取り組む姿は見られたものの、自分の表したいものを作る工作の意味合いが強
く出てしまった。表現の中に造形遊びが位置付いている意味をしっかりと把握できていない自分自
身に気づかされた。今まで、いかに作品を仕上げることにこだわってきたか、痛感した。
そこで、自らの学び直しの意味も含めて、子どもたちが、積んだり並べたりしながら、見立てる
面白さや造形的な美しさを感じていくことを願い「ちらし棒」を材料とする造形遊びを取り入れた。
材料の「ちらし棒」は新聞広告を補足巻き上げて作ったものである。割り箸を材料にしても同じ
ような活動はできるが、色や模様が均一でない面白さが「ちらし棒」にはある。そうした材料の面
白さを活動の中で感じられるのではないかと考えた。また、見立ての幅を広げるために、ちらし棒
以外に輪ゴムを用意し、結わえて組み上げることができるようにした。
材料そのものの面白さを感じながら、積んだり並べたり組み上げたりしたものを見立てて楽しん
だり造形的な美しさを感じたりすることを通して、造形活動により主体的に取り組み、表現してい
こうとする子どもの姿につながっていくことを願い、本題材を設定した。
3 題材の目標
チラシで作られた棒を、輪ゴムで結わえたり、並べたり、積んだりすることから形作られた模様
や形を楽しむ。
4 題材の評価基準
①関心・意欲・態度
・チラシ棒を輪ゴムで結わえたり、並べたり,積んだりすることから生まれる形のおもしろさや
楽しさを味わおうとしている。
②発想や構想の能力
・チラシ棒をいじくりながら、気に入った模様や形を思いついて作る。
③創造的な技能
・様々な方法を試しながら、自分の気に入る形や模様になるように、輪ゴムで結わえたり,並べ
たり、積んだりして作っている。
④観賞の能力
・自他の活動の様子から、チラシ棒で形作られた模様や形の面白さ、楽しさに気づいている。
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5 展開の大要
(1).チラシ棒との出会い
(2).チラシ棒を使って楽しむ
(3).友だちの活動を見合う
6 児童・生徒の様子
7 成果と課題
・素材との出会いの場面では、ダンボールをひっくり返して 500 本強のチラシ棒をばらまいたと
ころ、「わー!」と歓声を上げて素材に飛びついていく姿があった。素材の与え方によっても興
味の持ち方は変わるようだということがつかめた。
・楽しむ場面では、輪ゴムを与えたことによって、結わえて立体的に建てる姿が多くあった。そ
こからなかなか広がらない姿があったので、教師も活動に混ざって、キャンプファイヤーのよ
うに積んだり、平面に並べて模様を作ったりして楽しむ様子を見せた。それをおもしろがって
まねし始める子どもの姿もあったが、教師の出としてよかったのかどうなのか…
・同じように形作ったものを見ても、「ブランコ」「すだれ」や「家」「タワー」など、それぞれの
見立てが出てくるところは子どもたちもおもしろがっていた。また、様々な見方が全て受けと
められていくところは、自分の表現に満足しより主体的に表現していこうという素地につなが
る。
・積んだり並べたり組み上げたりする中でどんな工夫をしたかということは、子どもたちにとっ
ては求めるところではなかったが、教師はそこも表現のよさとして取り上げようとしてしまっ
た。取り組みの工夫を取り上げていくより、どう見立てたかを伝え合っていくことに主をおく
べきであった。1時間の見通しをどうもつか、また、終末の場面に子どもに気づかせたいこと
は何かを見極めることが、課題として残る。
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事例2 「描いてみよう 墨の世界」(6学年) 中塩田小学校 原田 真帆
1 題材設定の理由
6 年生になり、仲良くなった友達と遊んだり、男女関わらず一緒に遊んだりする姿がある。子
どもたちは活動の見通しが持てた時に黙々と取り組む姿があるが、独自のアイディアやイメー
ジを表現することには消極的な面もある。
そこで児童が表現したいことを見つけ、作品にする題材を考えた。本題材は水墨画の技法を
新たに知ったり体験したりすることで自分が表現したい題材を見つけ描く活動である。社会科
で学習した水墨画の体験は子どもたちにとっても興味を持ちやすいと考えた。また、体を動か
して描いたり、筆の使い方を工夫したりすることによって表現を変えられる水墨画は、「上手に
描こう」という固定概念にとらわれず表現を楽しむことができると考えた。表現を発見した児
童の姿を認めたり、児童の表現のよさを共有したりすることで、さらに楽しむことができると
考えた。水墨画を通して表現する喜びを味わってほしいと考える。
水墨画の技法を体験したり、そこからイメージを膨らませて自分なりの表現を見つけていっ
たりすることで表現する喜びや、水墨画が持つ表現のよさを味わうことができると考え、本題
材を設定した。
2 目標
水墨画の技法を体験したり、新しい描き方を見つけたりすることを通して、水墨画の表現の
面白さを味わい、水墨画の技法を使って自分の表したい表現を見つけて、墨の濃淡や筆の動か
し方を工夫して描くことができる。
3 評価規準
(ア)水墨画の技法や表現に興味を持ち、自分が表現したいものを絵に表そうとしている。
(造形への関心・意欲・態度)
(イ)主題がよく表れるような技法を用いて描いている。(発想や構想の能力)
(ウ)描きたい表現に合わせて技法を組み合わせたり、筆の動かし方や墨の濃さを工夫したりして
描いている。(創造的な技能)
(エ)友だちと作品を見合い、表現方法の工夫のよさを感じている。(鑑賞の能力)
4.指導上の留意点
(1)技法を何度でも試すことができるように十分な量の和紙を準備する。
(2)表現の幅を広げられるように、大きな和紙や、太さの違う筆、刷毛を用意する。
(3)描きたいものが見つからないときは図書館などで資料を集める。
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5.展開の大要
時間 ○学習内容 ・児童の反応 □指導 評価の観点
1 ○水墨画作品を鑑賞する。 作品を鑑賞し、水
・墨だけで描いているように見えない。 墨画の表現に興味
・どうやって描くのだろう。 を持ち、絵に表そ
・よく見ると筆の動きがわかる。 うとする見通しや
□社会科で学習した雪舟の作品や、筆の使い方の工夫が表現されている絵 意欲を持つことが
を鑑賞し、興味を高めるようにする。 できる。(ア)
○作品例を見て表現の仕方で気づいたことを発表する。
・色の濃いところと薄いところがあってきれい。
・細い線や太い線など、描くものによってちがう表現をしている。
□作品の一部をズームアップして表現の仕方に注目できるようにする。
2~ ○水墨画の技法を体験する。 技法を試しなが
3 ・点を打つ。 ら、自分が表現し
・薄い→濃い のグラデーションを描く。 たいものに合わせ
・筆の先に濃墨を付けて描く。 て表現を工夫する
・筆の勢いで描く。 ことができる。
□筆の中で濃淡を変えて描く方法や、筆の動きで表現する方法を伝え、と (イ)
もに描く。
○技法を見つける。
・墨を飛ばす。
・描いたところの上から薄い墨で重ねたらきれい。
・点を重ねるとおもしろい模様ができる。
□見つけた技法を紹介し、よさを共有することで、さらに工夫する意欲に
つなげる。
4 ○技法を使って表現したいものを描く。 主題がよく表れる
・薄い線と濃い点を組み合わせると雨に見えた。 ような技法を用い
・勢いを付けて描いたら生き物のように見えた。 て描いている。
・やさしい雰囲気を薄い墨で出せないかな。 (ウ)
□技法を使って描いたものを友達同士で見合い、感じたことを伝え合う
活動を入れることで児童が作品づくりのイメージを持てるようにする。
□児童が感じた水墨画の表現の良さを引き出すように声かけをする。
5 ○鑑賞する。 友だちの作品と、
・同じ描き方をしたけれど、○○さんのようなとらえ方が面白いと思った。作品カードを見て
□感じたことを記入できるように鑑賞カードを用意する。 表現方法の工夫の
良さを見つけるこ
とができる。(エ)
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6.児童の様子
技法の体験を通して作品のイメージをふくらませた児童の姿があった。
【児童 A】
【児童 B】
7.成果と課題
○社会科で学習した水墨画の技法を体験できた。
○技法を体験する時間では、体を動かして描き、偶然できた絵を見立てて作品づくりに生かす姿が
あった。
○技法の練習や、体験の時間を通して濃い墨と薄い墨による表現のよさや筆の動きからなる表現の
ちがいを味わう姿があった。
●やり直しがしにくいため、技法に慣れないうちは失敗を恐れたり、苦手意識を持ったりする姿が
あった。
●技法から表したいものを見つけることに難しさを感じる児童の姿もあった。
8.準備品
墨汁 水 和紙 筆 刷毛 ぞうきん
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事例3 立体「12年後のわたし」 (6学年) 南小学校 田中 綾子
1 題材名 「12年後のわたし」(9時間)
2 題材設定の理由
図工は子ども達が楽しみにしている教科の一つである。私が担任をしているクラスの子も、前日の
連絡の時間に次の日図工があることを知るとワーと歓声があがるほど楽しみにしている。しかし一方
で、図工の時間が始まり、今日やることがはっきりしてくると、浮かない表情をしている子が少なく
ない。子ども達の声を聞いてみると「何を作ればいいか思い浮かばない」「イメージは浮かんでも自
分の作りたい感じにならない」という声が聞こえてくる。また高学年になり「自分は描いたり作った
りするのが下手」と自信をなくしている子が増えてきている感じを受ける。
そこで、子ども達一人一人が思いや願いをもち、イメージをふくらませて表現に向かうエネルギー
を育てるにはどうしたらよいか、そして学習指導委員会のテーマでもある、感性をはたらかせ、自分
らしい表現を追究していくためにはどんな支援や環境作りが必要か考えることにした。それにはまず、
子ども達一人一人が思いや願いをもち、イメージをふくらませて表現に向かえるような「題材設定」
をしてみようと思った。今回、題材として設定したのは「12年後のわたし」を立体に表すことであ
る。小学校卒業を間近に控え将来への希望に胸をふくらませているこの時期、12年後の自分と限定
することでイメージがもちやすいのではないかと考えた。そうすることで、技能面に目を向けるだけ
でなく、表現の多様性や各自の工夫を広げることにつなげたい。そして、それが子ども達の表現に向
かうエネルギーになってほしいと願い、本題材を設定した。
将来の夢ややってみたいことは、これまで文や絵など平面の世界で描かれることが多かった。芯材
を用いた立体で将来の自分の姿を表現することは、初めての経験である。芯材を使うことによってい
ろいろな動きやポーズを表現できることを大いに楽しんでもらいたいと考えた。
3 題材の目標・評価規準
○題材の目標
将来の自分を想像し、その内容がわかるように針金や紙粘土などの材料を使って動きをつけ工夫し
て立体に表す。
○評価規準
A(造形への関心・意欲・態度)
将来の自分について想像することを楽しみ、それを立体に表すことに取り組もうとしている。
B(発想や構想の能力)
なりたい職業や仕事について思いをめぐらせ、その様子を表し、動きをつけるために形や色、材料
の使い方を考えている。
C(創造的な技能)
表したいことの様子がわかるように、体の姿勢にあった芯材の形や材料の使い方などを考え、表し
方を工夫している。
D(鑑賞の能力)
お互いの作品を見せ合い、友達と話し合いながら、表現のよさや面白さをとらえている。
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4.題材展開
児 童 の 活 動 教 師 の 支 援 評価
○12年後の自分をイメージする。 ・動きのあるポーズになるように何を
であい ・12年後の自分はどんな職業や仕 している場面か具体的にイメージす
(導入) 事に就いているか考える。 るよう助言する。
・将来の自分の姿を針金の芯材と紙 ・自分がイメージした職業や仕事から A
45分 粘土で表すことを理解し、計画表 どんな場面が思い浮かぶか友達から
に簡単な絵や文で表す。 もアドバイスしてもらうようにする。
ひろがり ○針金と紙粘土を使って動きのある ・場面の様子がよく伝わるように動き
(展開) ポーズをつくる。 のある工夫したポーズにさせる。
・何をしている場面かを考えて針金
315分 で体の芯をつくり、土台に固定さ C
せる。
・紙粘土で肉付けをする。
○つくるものに合わせて材料を選び、・季節や場面の特徴をよく表せる材料 B
工夫して作品を仕上げる。 を選ぶことができるよう助言する。
・絵の具で色をつけたり、布などで
洋服を着せたりする。
・他の登場人物、季節、背景などを
材料を選んで周囲の様子などもつ
くる。
ふりかえり ○自分や友達の作品について、表し ・友達と作品について発表したり話し
45分 たい内容や工夫などを話し合い、 合ったりする場を設ける。
表し方のよさをとらえる。 ・人のポーズ、場面の様子、材料の使
い方の工夫などに着目させる。 D
5.子どもの様子
(1)であい
授業は、まず、12年後の自分はどんな職業や仕事に就いているか考えるところから始めた。将来
の夢がはっきりしている子とそうでない子がいるので、いろいろな職業や仕事を出し合うことで幅が
広がるようにした。それが決まったら、何をしている場面か具体的に考えさせることで動きのあるポ
ーズになるようにさせた。何をしている場面か思いつかない子に対する手立てとして友達からもその
職業や仕事から思い浮かぶ場面のアドバイスを受けながら考えていったので、イメージしやすいよう
だった。
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(2)ひろがり
次に何をしている場面かを意識しながら針金の芯材で体の芯をつくり、土台に固定した。
うまく動きがつかなかったり、動きが何をし
ているのかよくわからない場合は、動きを写
真に撮って見たり、友達と動きを見せ合った
りした。自由自在に動かせる芯材を楽しみな
がら表現していた。
芯材で動きのあるポーズが決まると、さらに場面を構成しながら、紙
粘土で肉付けをしていった。
紙粘土のつけ方が足りず平面的にな
らないように
気をつける。
最後の作業は絵の具による色つけである。また洋服には布を使ったり、周囲の様子をつくるために
材料を選んだりして、工夫して作品を仕上げるようにした。特に保育園の先生やパティシエのように
特徴的な動きのあまりないものは季節感を出したり周囲の様子がわかるようにしたりするために材料
を工夫させた。
(3)ふりかえり
作品を通して自分の将来の夢を伝え合ったり、作品のポーズや材料の使い方の工夫などを話し合っ
たりして、作品のよさを感じるようにした。
6.成果と課題
将来の自分をテーマにすることで、いつも何を描いたらよいか何をつくったらよいか表現に悩む子
がすぐに取りかかることができた。針金による芯材も何度もやり直しがきいて安心して取り組むこと
ができたようだ。
自分で選んだ材料の接着やペンチの使い方に苦労している姿が見られたので、接着の仕方や用具の
使い方をていねいに扱う必要があった。これも自分がイメージしたことに少しでも近づく大切な方法
の一つであると感じた。
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事例4 題材名 「心の中の美術館」 (6 学年) 神川小学校 大嵩崎 眞一
1 題材名・時数・表現分野
題材名 「心の中の美術館」(2~3時間) B鑑賞 → A表したいことを絵や立体に表す。
2 題材設定の理由
本校の児童にとって,画家の作品は馴染みの薄いものである。なかなか作品を鑑賞する機会も
ない。また,かしこまった鑑賞になると何か良いことを言わなければならないのではないか,と
いう気持ちにもさせられる。
そこで,何枚かの画家の作品を展示しそのなかからインスピレーションを得て,思うがままに
印象を自分の色や形で表す活動を設定した。そうすることで,画家に親しみを覚えたり,美術を
楽しもうという心を持てたり,素直に楽しんでほしいと考え本題材を設定した。
3 題材の目標
親しみのある絵画などの美術作品を見て,感じ取った印象や感想を,自分なりの形や色で絵に
表すことができる。
(関)画家のかいた作品などを見て,印象を形や色で表すことに興味関心をもって取り組もうと
している。
(想)感じた印象や感想などのイメージが表れるように,形や色を自分なりに思い浮かべたり
考えたりしている。
(技)表したいイメージに合わせて形や色などを考え,試行錯誤しながら表し方を工夫している。
(鑑)友人が表した作品を見て,どのように印象を受けたのか想像し,よさや工夫などを感じ取
っている。
4 授業展開
時 間 学 習 活 動 教師の役割
で 15’ ○親しみある美術作品を見て様々な ○児童に出会わせたい作品などの提示資料を用
あ 印象や感想をもつ。 意し掲示する。
い ・「この絵知ってる。」「落書きみた ・A4大の大きさの作品を多くそろえた。
(導 い。」など,素直な感想をもつ。
入) ○印象を形や色で絵に表すことを考 ○作品を見て,感じた印象を絵に表すことを提
える。 案する。
・「どんな印象をもったか,自由に絵で表して
みましょう。」
ひ 1 1 0 ○印象や感想などのイメージを,自 ○表すことに抵抗を示す児童には,「こんな感
ろ ’ 分の形や色で表す。 じかな。」という軽い気持ちで表していけば
が 「ムンクの叫びの夕日から夕焼けを いいと助言し,思うままに描き始めさせる。
り イメージしよう。」
美術作品を見て,表されている形や色から,自分なりのイメージをもつ。
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(展 「岡本太郎の雷神は面白いなぁ。」 ・用紙は,8 つ切りにし,大作に挑むのではな
開) ・油絵みたいにごてごてかいたらい く気楽に表せばいい雰囲気にする。
いかな。」 ・どの作品を見てどんな感じにかきたいか,な
ど聞きながら称賛して回る。
ふ 10’ ○自他の作品を見て,よさや工夫を ○作品を見合わせ,感想を聞きあう。
り 感じ取ったり,表そうとした印象 ・印象をその友らしく描いているところを見つ
か や感想などのイメージを読み取っ け合う。
え たりする。 ・色や形の工夫を探しあう。
り ・「草原のさわやかな感じがうまく
出ている。」・「雷神が,キャラク
ターになっていて面白い。」
5 成果○と課題●
形や色などを工夫して,美術作品の印象を絵に表す。
作品を見合い,印象の受け止め方や表現についてのよさや面白さを感じ取り合う。
1回目は,外国の作家を中心に現代アートのような,「これでも芸術なの。」というような作品を多く用
意した。このことにより,気楽に鑑賞できるのではないかと考えた。 2回目は,有名な日本の作家や長野県にゆかりある作家を集めた。
○成果
・数多くの作家の作品を見ることができたのは,
楽しかったようだ。 ・印象を自由に表現できることで,楽しく描く
ことができた。 ・今まで使った歯ブラシでぼかしをいれたり,
厚く色を重ねたりするなど,様々な工夫が見
られてよかった。 ・日本の作家の大胆な色遣いに勇気をもって富
士山が描けたようだ。 ・季節ごとに俳句を詠むように,はがき大程度
の用紙に,季節に合った作品を鑑賞して印象
をかくような試みをしても面白いと思った。
●課題
・作品を展示する方法は,教師側の思惑が出てい
しまう。図書館や図工室などの作品集・画集を
自由に鑑賞し,その中から自分の気に入った作
品について描くのも良いかもしれない。 (いくつかの作品が並ぶことによって,複合的に
印象を描くこともできた。) ・富士山は,心も惹かれ描きやすいことで多くの
子が選ぶ結果となってしまった。絵の精選が難
しいと感じた。
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- 図工・美術 14 -
- 図工・美術 15 -
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事例5 「光と影の自画像」(3学年) 東御市立東部中学校 大月 香世子
1 題材名・時数・指導事項
「光と影の自画像」(14時間)A表現(3)ア 意図に応じて材料や用具を生かし、創意工夫して表現する技能
2 題材設定の理由
東部中学校の3年生は、美術の授業を通して、自分の思いを色や形で表現することに重点を置
いて学んできた。そうした学習の中で、主題をもとに色や形を吟味しながら、満足できるまで制
作を行なう姿が見られた。しかしその反面、対象の形や明暗を描くことが難しく、主題を思った
ように表現できない生徒の姿も見られ、描画の基礎的な力を養う必要性も改めて感じられた。
そのような生徒の姿を受け、3年次の最初に、スクラッチボードをニードルで削って制作する
自画像の題材を設定した。この題材は、鏡を介して自分の顔を観察し、顔の凹凸や光の明暗を線
の方向や量で表現するものである。使い慣れた絵の具とは異なるため難しいと感じる生徒も多い
と考えられるが、純粋に線のみで形や光を追うことを重視した。
写実的表現をすべての生徒に求めるのではなく、あくまで自分をじっくりと観察しながら制作
する姿勢を重視することを通して、生徒が普段見慣れた対象から新たな発見を得てより豊かな表
現ができることをねがい、本題材を設定した。
3 題材の目標
自分の顔を観察して描くことを通して、顔の凹凸や光の明暗に気づきながら、それらを線の方
向や線の量で表現することができる。
4 評価規準
(1)ア…関心・意欲・態度 ・鏡をよく見て、自分なりに観察して前向きに表現しようとしている。
(2)イ…発想・構想の能力 ・自分を見つめて感じたことを基に、表情、構図などを工夫することが
できる。
(3)ウ…創造的な技能 ①ニードルを正しく持ち、適度な力加減で削ることができる。
②顔の凹凸や光の明暗を表現するために、線の方向や線の量を工夫して
削ることができる。
(4)エ…鑑賞の能力 ・自分の作品に込めた思いや友人の作品のよさを学習シートに記入する
ことができる
5 題材展開と評価計画
時間 学習活動 評価
2 顔のスケッチを通してパーツの位置を理解し、表情や構図を考える。 ア、イ
2 クロスハッチングの練習を通して、形の凹凸や明暗は削る線の方向や線 ウ-①・②
の量で表現できることを理解する。
4 スクラッチボードに下書きをする。 ア
5 顔の凹凸や光を意識して削る。 ア、ウ-①・②
1 自他の作品を鑑賞し、作品に込めた思いや友人の作品のよさを学習シー エ
トに記入する。
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6 成果と課題
○成果
・鏡を通した観察や直接顔を触ることを通して、頬には頬骨による膨らみがあったり、黒目は黒一
色ではなく様々な明暗があったりするなど、普段意識しない点に気づくことができた。(図1)
・本題材は写実的な表現を追求するのではなく、自分なりに観察して描くことを重視したが、その
結果鑑賞の際に「○○さんらしいね」という言葉が飛び交い、生徒一人一人の持ち味がにじみ出
る作品となった。
●課題
・主題をもとに絵の構成に重点を置き、作品としてはユニークになったが顔の観察が充分に行われ
なかった生徒もいたため、この題材では何を重視するかを明確に伝える必要があった。(図2)
・削りすぎてしまい、全体的に白っぽくなってしまう生徒が見られた。後からボールペン等で描き
足しを行なったが、能力を養うためにより適した材料について教材研究を進めていく必要がある。
・今回の題材では観察を重視したため、指導が技能に偏りがちであった。今後は、生徒が自分の表
したい主題と、技能の両方を生かして豊かに表現できる授業を目指して取り組んでいきたい。
図1 図2
戸惑いながらの制作であったが、粘り強 常に誰かから見られている自分と、それ
く観察することを通して複雑な凹凸や明 に合わせて色々な顔をする自分を表現し
暗を表現することができた。今後は表情 た。主題が画面に表れたユニークな作品
や構図からより主題が感じられる表現を であるが、顔のさらなる観察が望まれる。
目指したい。
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五 研究のまとめと課題
持ち寄られた実践から、各委員が、どのようにしたら子ども達が夢中になり、没頭して取り組むこ
とができるか、感性をはたらかせて製作・制作できるのか、子ども達の「自分らしさ」を引き出すこ
とができるよう、日々題材設定とその展開や指導法に向かい合っている姿が見えてきました。そして、
委員同士がそれぞれの実践から刺激を受け、自分も「やってみたい」「やってみよう」と思えたこと
は大切な収穫であったと思います。
また、今回の実践の中に、体験や鑑賞が軸となっている実践が多くありました。自分らしい表現の
きっかけが自分の経験の中にあることが示されているものと思います。いかに物を見て、何を感じ取
るのか。それこそが「自分らしさ」の追求の始まりなのかもしれません。
今後、わたくしたちの実践も、最初は見よう見まねから入ったとしても、一つの実践を参考に他の
ひとが取り組めば、そのひとの経験やアイディアが反映されるはずであり、題材が新しい魅力を得て
成長することと思います。その題材の成長が、結果的にその「先生らしさ」が感じられる実践となっ
て子ども達に広がることに、図工・美術学習指導研究委員会の意義があるのかもしれません。
どのようにすれば研究委員会の内容が、少しでも広く先生方に知ってもらえるかが課題となります。
特に小学校では、図工科の指導に苦手意識を持つ先生方が少なくないように思われます。この研究綴
が多くの先生方の目に留まり、学習指導のお役に立てれば幸いです。
図工美術学習指導研究委員
青木 勇治 校長先生(塩川小) 大月香世子 先生(東部中)
堀込 太 先生(一中) 大嵩崎眞一 先生(神川小)
原田 真帆 先生(中塩田小) 田中 綾子 先生(南小)
気賀沢宜志 先生(北小) 栁町 洋 (五中)