ヘ ビ ベ ク ベ バ ヒ r r« rÑrÖ rÑ rÖム rÏrÖニ rÏン 場 ラ rÑロ ... · 2020. 6....
TRANSCRIPT
『フランダースの負け犬』
1
フランダ
スの負け犬
作・中屋敷法仁
登場人物
ヒ
ンケル
バラ
ク
ベルニウス
クレ
ゼル
クル
ク
ベ
ム
ビ
ロウ
ヘンチ
『フランダースの負け犬』
2
０
開幕
出演者一同
登場
ヒ
ンケル
役を演じる俳優による前説
ヒ
ンケル フランダ
スの負け犬
という舞台で楽しんでいただ
きたいと思います
皆さま
フランダ
スの犬
という作
品はご存知でし
うか？
テレビアニメ
世界名作劇場
な
どでタイトルは有名ではございますが
この原作が
どのよ
うなものだ
たかについてはあまりご存知ない方も多いよう
ですね
ざ
くりご説明しまし
う
フランダ
スの犬
の主人公はネロ
画家を目指す若き少
年ですが
家は貧しく
村人たちからひどいイジメにあいま
す
相棒である犬のパトラ
シ
と共に
なんやかんやがん
ばるんですが
志むなしく
後には大聖堂にあるル
ベン
スの絵の前で死んでしまいます
ラストシ
ンは有名ですね
ラストシ
ンしか知らない
なんて方も多かろうと思われま
すが
じ
あどんな感じか
ち
とや
てみまし
うか
少年ネロと
ひん死のパトラ
シ
ですね
僕がネロをやる
ので
あなた
バラ
ク
パトラ
シ
お願いします
フランダ
スの犬
のラストシ
ンです
１
フランダ
スの犬
の再現
倒れているバラ
ク
パトラ
シ
に寄り添うヒ
ンケル
ネロ
ヒ
ンケル
パトラ
シ
疲れたのかい
おやすみ
僕も疲れたよ
何だか
とても眠いんだ
パトラ
シ
『フランダースの負け犬』
3
ベ
ム
天使
として登場
ベ
ム
やがて
大聖堂の天井からほのか光がさし込み
天使たちが
ネロとパトラ
シ
を取り囲みました
天使たちはネロと
パトラ
シ
を連れて
空高く舞い上が
て行きました
お母さんやおじいさんのいる遠い国へと旅立
て行
たので
す
もうこれからは
寒い事や悲しい事やお腹の空く事もな
く
みんな一緒に
いつまでも
楽しく暮らすことでし
う
ヒ
ンケル
くだらない
２
ドイツ陸軍宿舎・ヒ
ンケルの部屋
ヒ
ンケルとバラ
ク
ヒ
ンケル
くだらない
ま
たくも
てくだらない
バラ
ク
なんで？
名作だよ
フランダ
スの犬
イギリスじ
あ
みんな読んでるんだ
て
ヒ
ンケル
ハ
イギリス人も随分と腐
た根性してるんだな
バラ
ク
何てこと言うんだよ
感動するだろ
フランダ
スの犬
あ
かわいそうなネロ
かわいそうなパトラ
シ
ヒ
ンケル
これ
返すよ
バラ
ク
また読みたくな
たら言
てね
フランダ
スの犬
ヒ
ンケル
いらないよ
そんな本読む時間があ
たら
軍略の勉強でも
したほうがいい
バラ
ク
へ
君
て
真面目なんだね
ヒ
ンケル
ああ
本気だからね
バラ
ク
本気？
ヒ
ンケル
僕はドイツ一の軍人になる
今でこそ三等兵だが
ゆくゆく
『フランダースの負け犬』
4
は立派な将軍になる
そして
このドイツを世界
強の国家
にする
それが僕
ミヒ
エル・ヒ
ンケルの夢だ
バラ
ク
く
こいい
ヒ
ンケル
ん？
バラ
ク
君
て
すごくか
こいいよ
ヒ
ンケル あ
ああ
ありがとう
バラ
ク
真似して
ありがとう
うわ
すごいな
僕
君
のこと
好きにな
ち
いそうだよ
ヒ
ンケル
やめてくれ
男同士でキモチ悪い
バラ
ク
え
いいじ
ん？ 好かれるのはいいことだよ
ヒ
ンケル
君ね
馴れ馴れしいよ
友達でもないのに
バラ
ク
友達じ
ないか
ね
ミヒ
エル・ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
許可なく呼び捨てで呼ぶな
君なんか
友達じ
ない
バラ
ク
友達じ
ないか
同じ部屋に住んでるし
ヒ
ンケル
それは
たまたまクジ引きで一緒にな
ただけだ
バラ
ク
本も貸したじ
ん
フランダ
スの犬
ヒ
ンケル
それは君が熱心に読んでるから
ち
と気にな
ただけだ
バラ
ク
気にな
たの？
や
ぱり
僕に興味があるんだね
ヒ
ンケル
無いよ
バラ
ク
隠さなくていいよ
分か
てるから
ヒ
ンケル
何も隠してない
だいいち僕
君の名前も知らないんだか
らね
バラ
ク
え
教えたじ
ん
また忘れたの
ヒ
ンケル
ごめんね
覚える気ないからさ
バラ
ク
もう一度言うよ
僕の名前は
バラ
ク
クリスチ
ン・バラ
クさ
ドイツ陸軍
兵士詰所
ベルニウス
登場
ベルニウス
そり
おかしなやつと一緒にな
たもんだ
『フランダースの負け犬』
5
ヒ
ンケル
ヘンに気に入られち
てさ
困
てんだよ
ベルニウス
でもま
悪いやつじ
なさそうだし
仲良くしてやればいいじ
ん
ヒ
ンケル
仲良くなんかできるか
俺は勉強がしたいんだ
ベルニウス 相変わらず真面目だな
お前は
ヒ
ンケル 本気だからな
ベルニウス
本気？
ヒ
ンケル
俺はドイツ一の軍人になる
今でこそ三等兵だが
ゆくゆく
は立派な将軍になる
そして
ベルニウス
世界
強の国家にする
だろ？
もう聞き飽きたよ
優等生
ヒ
ンケル
ふん
ベルニウス
そんなヒ
ンケルとは士官学校時代からの同期
ベルニウス
です
自己紹介
ヒ
ンケル
ベルニウス
ベルニウス
あ
はい
ヒ
ンケル
お前はどうなんだ？
ベルニウス
え？
ヒ
ンケル
部屋
どんなやつと一緒なんだ
ベルニウス
あ
それがさ
やべ
んだ
て
ベルニウスの部屋
クレ
ゼル
登場
ベルニウス
あ
この部屋の人？俺もこの部屋の人
クレ
ゼル
ベルニウス
今日から当分一緒だけど
よろしくね
クレ
ゼル
ベルニウス
お名前なあに？
クレ
ゼル
ベルニウス
あ
ごめん
名前を名乗るなら自分から
俺の名前は
クレ
ゼル
クレ
ゼル
『フランダースの負け犬』
6
ベルニウス
え？
クレ
ゼル
クレ
ゼル
ベルニウス
あ
ク
クレ
ゼル君だね
ありがとう
俺はベルニ
クレ
ゼル
退室
ベルニウス あ
ち
と
兵士詰所
ヒ
ンケルとベルニウス
ベルニウス
超ノリわり
の
なんか
こ
ちニラんでるしさ
ヒ
ンケル
でもま
変なやつじ
なさそうだし
仲良くしてやればいいじ
ん
ベルニウス
無理だよ
絶対仲良くなれない
ヒ
ンケル
がんばれ
て
ベルニウス
無理
絶対ムリ
ヒ
ンケル
安心しろ
俺が
ついてるから
ベルニウス
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
友達だろ
ベルニウス
友達だな
わ
ヒ
ンケル
そうだ
士官学校を卒業し
俺はとうとう軍人にな
たんだ
もう子供じ
ない
ドイツの為に戦う
一人の戦士だ
何も
恐れるな
前進あるのみ
ミヒ
エル・ヒ
ンケルの軍人と
しての歴史は
ここから始まるんだ
イメ
ジ
ン
士官学校の軍事訓練
ヒ
ンケル
とま
こんな感じで
入隊して一
月がた
た
ドイツ陸
軍の中で
俺は常に輝き続けた
馬術
剣術
射撃
何をや
らせても俺が一番
向かうところ敵無しだ
高笑い
『フランダースの負け犬』
7
３
ベ
ム
登場
ベ
ム
いや
ヒ
ンケル君
君はと
ても優秀だね
褒めて
あげるよ
あのね
すご
く褒めてあげるよ
ヒ
ンケル
ありがとうございます
独白
この人はベ
ム将軍
めち
めち
偉い
早くも完全に気に入られてしま
た
ベ
ム
今日君を呼んだのは他でもない
実は
君に会いたが
てお
られるお方がいてね
クル
ク将軍
クル
ク将軍
クル
ク
登場
ヒ
ンケル
独白
クル
ク将軍
ベ
ム将軍もめち
めち
偉い人
だけど
この人はめ
ち
め
ち
め
ち
偉い
クル
ク
クル
クル
クル
？
ベ
ム
いや
クル
ク様
ようこそお越しくださいました
クル
ク
君が
ヒ
ンケル君だね
ベ
ム
はい
この者がミヒ
エル・ヒ
ンケルでございます
クル
ク
ベ
ム君
僕は彼に聞いているのだ
ベ
ム
し
失礼しました
クル
ク
会えて嬉しいよ
アレクサンダ
・クル
クだ
ヒ
ンケル
ミヒ
エル・ヒ
ンケルであります
き
いい面構え
クル
ク
いい面構えだ
ベ
ム
ありがとうございます
き
いい面構え
クル
ク
君じ
ないよベ
ム君
ベ
ム
クル
ク
陸軍上層部はうきうきしているよ
とてつもない男が現れた
んだからね
ヒ
ンケル
身に余る光栄です
き
いい面構え
クル
ク
ミヒ
エル・ヒ
ンケル
『フランダースの負け犬』
8
ヒ
ンケル
は
クル
ク
期待しているぞ
訓練を怠るな
ビ
ロウ
登場
ビ
ロウ やめろ
クル
ク
ベ
ム
この声は
ビ
ロウ将軍
ヒ
ンケル
独白
クル
ク将軍とおんなじくらい偉い
ビ
ロウ
将軍が
一兵卒ごときに
軽々しく声をかけるな
クル
ク
誰に声をかけようと私の勝手だ
ビ
ロウ
監察長官という身分をわきまえろ
クル
ク
頭が固い男は嫌われるぞ
ビ
ロウ
頭の柔らかいお前の方が
俺は嫌いだがな
クル
ク
もうたくさんだ
ヒ
ンケル君
また後でな
ヒ
ンケル
は
ベ
ム
また後でな
ヒ
ンケル
は
クル
ク
ベ
ム
退場
ビ
ロウ
クル
クには気をつけろ
あいつが考えていることは自分の
出世のことだけだ
うかうかしていれば
いいように利用さ
れて
やがて捨てられる
ヒ
ンケル
ビ
ロウ
カ
ル・ビ
ロウだ
困
たことがあ
たら
いつでも俺
のところに来い
ヒ
ンケル
は
ビ
ロウ
あ
それと
困
たことがあ
たら
いつでも俺のところに
来い
ミヒ
エル・ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
『フランダースの負け犬』
9
ベルニウス
登場
ベルニウス
なんてヤツだ
可愛がられてるじ
ん
ベ
ム将軍にも
その上のクル
ク将軍にも
そことタメはるビ
ロウ将軍
にも
可愛がられてるじ
ん
お前—
ヒ
ンケル 自分の可愛さが
怖い
出世街道ま
しぐらだ
ベルニウス
置いてかないでくれよ
同期の俺を置いてかないでくれよ
ヒ
ンケル
何言
てんだベルニウス
一緒に成り上が
ていこうぜ
ベルニウス
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
友達だろ
ベルニウス
友達だな
わ
ど
か行
た
高笑いする
ヒ
ンケル
４
ヒ
ンケルの部屋
バラ
ク
見るからに異常な精神状態で登場
ヒ
ンケル
何や
てんだ
バラ
ク
あ
お帰りなさい
ヒ
ンケル
何や
てんだよ
バラ
ク
あ
これは
フランダ
スの犬
読んでいたら
今ネロが
天使が
パトラ
シ
うんぬん
ヒ
ンケル
独白
うん
関わらないようにしよう
バラ
ク
あれ？
君から話しかけてくるなんて
今日は
いつになく
ご機嫌だね
ヒ
ンケル
そんなことないよ
バラ
ク
訓練の後で
偉い人たちに話しかけられてたからね
それで機嫌がいいのかな
『フランダースの負け犬』
10
ヒ
ンケル
なんで知
てんだ
バラ
ク
訓練で
いつも君のこと
見てるから
ヒ
ンケル
やめてくれ
キモチ悪い
バラ
ク
真似して
やめてくれ
キモチ悪い
本当にか
こいいよね
僕
ますます好きにな
たよ
ヒ
ンケル 僕なんか見てないで真面目に訓練
ん？
おい
君
バラ
ク
君
だなんて水臭いな
名前で呼んでよ
僕の名前はバラ
ク
クリスチ
ン・バラ
クさ
ヒ
ンケル
シカト
君
訓練で僕を見たことがあるのか？
バラ
ク
いつも見てるよ
ヒ
ンケル
おかしいな
僕は訓練中
一度も君の姿を見たことがない
いや
訓練だけじ
ない
廊下でも食堂でも集会でも
前か
ら気にな
ていたんだけど
普段君は何をしているんだ？
バラ
ク
あ
ち
とね
ヒ
ンケル
ち
と？
バラ
ク
ち
とね
ち
と
ヒ
ンケル
ち
と
て何だよ
バラ
ク
僕はいつも
医務室にいるんだ
ヒ
ンケル
医務室？
バラ
ク
そこの窓から
君の事見てるんだよ
ヒ
ンケル
医務室？
医務室
て
どこか悪いのか？
バラ
ク
病気なんだ
ヒ
ンケル
え
バラ
ク
訓練にはほとんど参加してない
せ
かく入隊したのにな
ヒ
ンケル
訓練にも出られないなんて
そんなに重い病気なのか？
バラ
ク
あ
すごく重い
ヒ
ンケル
すごく重い
て
どうせ休んでれば
すぐ治るんだろ？
バラ
ク
首を振る
ヒ
ンケル
何ていう病気なんだ？
バラ
ク
恋の病
だよ
ヒ
ンケル
お？
『フランダースの負け犬』
11
バラ
ク
医務室にすごい美人の看護婦さんがいるんだ
一目見てから
俺はもう訓練どころじ
ない
看護婦さ
ん
絶叫
ヒ
ンケル
は？
バラ
ク
君も一度見てみるといいよ
その看護婦さん
本当に美人な
んだよ
ヒ
ンケル え
ち
と待て待て
つまり君は
その看護婦さんに会い
たいが為に
訓練をサボ
てるのか？
バラ
ク
違うよ
病気だ
てば
ヒ
ンケル
病名は？
バラ
ク
恋の病
ヒ
ンケル
いや
だからさ
バラ
ク
すごいよ
その看護婦さんね
マリエンブルグの生まれらし
くて
肌が絹みたいに真
白なんだ
ヒ
ンケル
そ
そうか
大変なんだな
バラ
ク
君も見たら惚れち
うからね
ライバルだね
ヒ
ンケル
そんなことないよ
バラ
ク
え
本当？じ
あ僕だけ狙
ていいの？
ヒ
ンケル
うん
バラ
ク
じ
あ頑張れ
て言
て
ヒ
ンケル
頑張れ
バラ
ク
頑張るよ
看護婦さ
ん
絶叫
ヒ
ンケル
独白
やばい
やばいやばい
こいつ
ヘンなやつ
なんてレベルじ
ない
完全にダメ軍人だ
５
兵士詰所
ベルニウス
登場
ベルニウス
いるんだね
そういうやつ
『フランダースの負け犬』
12
ヒ
ンケル
いるんだよ
そういうやつ
なんでもそいつ
リヒタ
フ
ルトを卒業しているらしいんだ
ベルニウス
リヒタ
フ
ルト
エリ
トじ
ね
か
ヒ
ンケル
いい学校出てる
てだけで陸軍に入隊できたんだよ
信じら
れない
ベルニウス いや
でもさでもさ
入隊してる
てことは
入隊テストは
合格したんだろ？
ヒ
ンケル
あ
そうか
ベルニウス
それに
あのリヒタ
フ
ルトを卒業するなんて
並大抵の
努力じ
できね
ハズだ
実は
ものすごい能力とか隠し持
てるんじ
ないの？
ヒ
ンケル
それは無い
たとえ能力があ
たとしても
それを使える根
性がない
ダメなやつだよ本当
ベルニウス
能力と言えば
あいつすごいぞ
クレ
ゼル
ヒ
ンケル
え？
誰？
ベルニウス
俺と相部屋のやつだよ
す
ごい無愛想な男
軍事訓練
フ
ンシング
クレ
ゼル
登場
他の俳優達は雑魚として登場
雑魚
クレ
ゼル君
僕たちとひとつ手合わせを頼む
クレ
ゼル
またオマエラか
何度や
ても同じだ
ベ
ム
いやいや
今日の僕らは
この間とはひと味もふた味も違
うぞ
訓練しち
たもんね
かかれ
一同
クレ
ゼルに飛びかか
ていくがふつ
にやられる
ヒ
ンケル
ベルニウス
登場
ヒ
ンケル
お見事
強いな
君
見込みあり
ベルニウス
お
おい
ヒ
ンケル
やめとけ
て
クレ
ゼル
誰だてめ
『フランダースの負け犬』
13
ヒ
ンケル
ミヒ
エル・ヒ
ンケルだ
クレ
ゼル
あ
ど
かで聞いた名前だな
ヒ
ンケル
今のドイツ陸軍で僕のことを知らないやつはもぐりだぞ
クレ
ゼル
存じてますよ
上に可愛がられることしか考えてない
士官
学校上がりのお坊ち
ん
だろ？
ヒ
ンケル 君ね
初対面の相手にそれはないだろう
クレ
ゼル
本当のことを言
ただけだ
たいして強くもね
くせに
ヒ
ンケル
ほう
確かめてみるか？
クレ
ゼル
おもしれ
ベルニウス
止めに入る
やめろやめろやめろ
若く
才能のある
二人が
どうしてこんなことで
ヒ
ンケル
シカト
は
ヒ
ンケル
クレ
ゼル
激しく立ち回り
やがて
ヒ
ンケルの剣がクレ
ゼルの襟元をとらえる
ベルニウス
わ
わ
さすがだな
ヒ
ンケル
あんたが大将
ヒ
ンケル
君
失礼なマネはやめたまえ
ベルニウス
え？
ヒ
ンケル
僕をバカにしているのかい？
クレ
ゼル
何の話だ？
ヒ
ンケル
手加減しただろ
クレ
ゼル
してね
よ
ヒ
ンケル
わざと僕に打たせたね
クレ
ゼル
あんたが強か
たんだ
ヒ
ンケル
どうして僕の右肩を見逃した
君が左によけた時
明らか
に僕の右肩にスキが生まれてしま
た
どうして見逃した？
クレ
ゼル
あんたみたいなエリ
ト
下手に傷つけたりすれば後々厄
介だからな
ヒ
ンケル
僕は別段気にしないよ
クレ
ゼル
周りが気にするんだよ
わか
てね
な
『フランダースの負け犬』
14
ヒ
ンケル
名前は？
クレ
ゼル
クレ
ゼル
ヒ
ンケル
僕はミヒ
エル・ヒ
ンケル
ベルニウスと同じ
ベルリン
士官学校卒業だ
君は
どこの卒業生だい？
クレ
ゼル 士官学校なんて出てね
よ
俺の家はア
ヘンの農家だ
ヒ
ンケル 農家？
ということは
国民兵か？
クレ
ゼル
ロクに勉強もしてね
国民兵上がりよ
あんたらエリ
ト軍
人様とは
住む世界が違う
ヒ
ンケル
ベルニウス
もしかして僕は嫌われてるのかな？
ベルニウス
いや
そんなことはないと思う
クレ
ゼル
俺はよ
士官学校上がりが大嫌いなんだ
俺たち農民出をバ
カにしやがる
ヒ
ンケル
そんなつもりはないよ
君は
剣術では僕より断然上だ
尊
敬している
クレ
ゼル
嘘つけ
部下にしたら使える
くらいにしか思
てね
ん
だろ
ヒ
ンケル
まい
たなあ
僕はただ
仲良くしたいだけなんだ
友達にな
てくれよ
クレ
ゼル
友達だ
？
バカじ
ね
のか
ヒ
ンケル
バカで結構
友達にな
てくれ
ベルニウス
おい
クレ
ゼル
クレ
ゼルに近づく
クレ
ゼル
何だよ
ベルニウス
あのな
こいつは今や
飛ぶ鳥落とす勢いなんだよ
すんげ
ノリにノ
ち
てんの
分かる？
クレ
ゼル
分かるよ
それで？
ベルニウス
仲良くしといて絶対損は無い
てば
クレ
ゼル
どういうことだ？
ベルニウス
だから
友達にな
ておけば
出世に役立つ
て話よ
言わ
せんなよバカ
クレ
ゼル
あのな
俺みたいなやつに出世なんて関係ね
よ
ベルニウス
いや
そう言わずにさ
『フランダースの負け犬』
15
クレ
ゼル
農民が将軍になれるかよ
何度も言うが
住む世界が違うん
だ
ベルニウス
若く
才能のある二人が
どうしてこんな
ヒ
ンケル
クレ
ゼル
でもま
ベルニウス お
と
？
クレ
ゼル
俺の剣術の相手役には
適かもな
ベルニウス
はいはい
それで
クレ
ゼル
別に
いいぞ
ベルニウス
別にいいぞ
？
クレ
ゼル
友達にな
てや
ても
ベルニウス
ツンデレ
なんだよ
お前
ツンデレかよ
俺はじめて
見たよ
こんな分かりやすいツンデレ
ヒ
ンケル
これからもよろしく
握手
ベルニウス
うんうん
一件落着
ヒ
ンケル
しかし
本当に強いな
国民兵というと
軟弱なやつば
か
てイメ
ジがあ
たんだが
クレ
ゼル
俺は
他の連中とは鍛え方が違う
軍役という商売が俺の全
てだ
ヒ
ンケル
おかしなもんだな
君のような男がいるかと思えば
全くそ
の逆もいるんだよな
クレ
ゼル
何の話だ？
ヒ
ンケル
いや
つまりさ
士官学校を卒業しているにも関わらず
さ
ぱりダメな軍人
ていうの？
いるんだよね
そういう
やつもさ
バラ
ク
登場
それ
て僕のこと？
ヒ
ンケル
そう
お前のことだよ
てお前
いつからいたんだ
バラ
ク
クレ
ゼル
ベルニウスを見て
誰
？
お友達？
ヒ
ンケル
そう
彼らは友達だよ
彼らは
ね
バラ
ク
初めまして
ヒ
ンケルがお世話にな
ています
ヒ
ンケ
ルの友達です
『フランダースの負け犬』
16
ヒ
ンケル
こら
友達じ
ない
て
お前なんか
ベルニウス
あ
ヒ
ンケル
これが例の問題児か？
ヒ
ンケル
そうこいつ
こいつが
ええ
と
名前は
バラ
ク
また忘れたの？
僕の名前はバラ
ク
クリスチ
ン・バラ
クさ
クレ
ゼル バラ
ク？
お前がウワサのバラ
クか？
バラ
ク
ウワサ？
ヒ
ンケル
なんだよウワサ
て？
ベルニウス
すごいウワサにな
てるぞ
バラ
ク
ていう男が
入隊し
てから全然訓練に参加してない
て話
クレ
ゼル
皆知
てるぞ
ヒ
ンケル
皆知
てるの？
クル
ク
もちろん私も知
ている
ベ
ム
もれなく私も知
ている
６
クル
ク
ベ
ム
登場
クル
ク
クリスチ
ン・バラ
ク
軍人として非常に問題があるそう
だね
ベ
ム
はい
訓練はサボるわ
メシは人一倍食うわ
まわりの緊張
感は緩めるわ
とにかく問題山積みです
クル
ク
ヒ
ンケル君も同じ部屋で生活して大変だろう
同情するよ
ヒ
ンケル
独白
あれ？
この流れだと
ひ
として部屋を変えて
くれるのかな？
クル
ク
しかし
当分は同じ部屋で生活してくれたまえ
ヒ
ンケル
し
んぼり
ベ
ム
そうですな
ヒ
ンケル君と生活すれば
バラ
クも軍人と
しての自覚が目覚めるでし
う
『フランダースの負け犬』
17
ヒ
ンケル
ベ
ム将軍
勘弁してくださいよ
僕部屋変わりたいんです
ベ
ム
わがまま言うな
バラ
クを教育するには
君が適任なんだ
クル
ク
頑張
てくれよ
ヒ
ンケル
あの
ベ
ム将軍
ベ
ム
どうした？
ヒ
ンケル ひとつ
お聞きしてもよろしいですか？
ベ
ム
なんだね
ヒ
ンケル
どうして
あの男を除隊させないんですか？
あんな男
ク
ビにするのが当然の処置だと思います
このままでは
真面
目に訓練に参加している他の者達に示しがつきません
ベ
ム
あ
正論
ヒ
ンケル君
悪いが
そういうことは
ヒ
ンケル
何故ですか
何故あの男を守ろうとするんです
ベ
ム
それはだな
ヒ
ンケル
何ですか？
ベ
ム
クル
ク
ベ
ム君
もういい
ベ
ム
クル
ク様
クル
ク
ヒ
ンケル君には
話さなければいけないと思
ていた
ベ
ム
しかし
クル
ク
いいんだよ
ヒ
ンケル君
クリスチ
ン・バラ
クが
リヒタ
フ
ルトを卒業しているのは知
ていたか？
ヒ
ンケル
はい
本人から聞きました
クル
ク
実はな
バラ
クは
リヒタ
フ
ルトの卒業試験は不合格
だ
たんだ
ヒ
ンケル
え？
クル
ク
しかし
卒業した
ベ
ム
ついでに言うと
バラ
クは入隊テストも文句なしで不合格
だ
た
それでも
入隊した
ヒ
ンケル
どういうことですか？
クル
ク
非常に言いにくいんだが
バラ
クはな
モルトケ様の遠い
親戚にあたるんだ
『フランダースの負け犬』
18
ヒ
ンケル
モルトケ
参謀総長閣下の
バラ
ク役の俳優が
モルトケとして登場
舞台をかき回す
モルトケ
はいど
も
そうです
私が参謀総長のモルトケです
ド
イツ陸軍で一番偉い男ですよ
どのくらい偉いかと言うと
うんぬん
クルち
ん
バラ
クは私の遠い親戚だ
よ
ろしく頼むぞ
クル
ク
は
モルトケ
退場
クル
ク
だから
ま
そういうことだよ
ヒ
ンケル
どういうことです？
ベ
ム
そういうこと
ヒ
ンケル
コネ
てことですか？
クル
ク
わか
てくれ
ヒ
ンケル
わかりません
参謀総長の親戚？
それが何だ
ていうんで
すか
入隊テストが不合格なのに
どうして入隊させるん
ですか
納得できません
ベ
ム
ヒ
ンケル君
大人には大人の事情
てもんがあるんだよ
ヒ
ンケル
こういうことを繰り返していてはいけません
ドイツ陸軍
を腐らせるおつもりですか
クル
ク
ヒ
ンケル
あ
やべ
し
し
失礼しました
クル
ク
いやいや
いいんだ
君のようなイキのいい若者こそ
わ
がドイツ軍には相応しい
相応し過ぎて蹴飛ばしたくなる
ベ
ム君
ベ
ム
はい
クル
ク
ヒ
ンケル君のこと
蹴
飛ばしてもいいかな？
ベ
ム
あ
それはもちろん結構でございます
兵士達の命はクル
『フランダースの負け犬』
19
ク様のもの
ご遠慮なさることなどございません
クル
ク
ばかやろ
ベ
ムを蹴
飛ばす
ベ
ム
！
クル
ク
この私が
愛する部下を蹴
飛ばすわけないだろ
ベ
ム
たしかに
たしかに
たしかに
ごも
とも
クル
ク
ヒ
ンケル君
君の気持ちはよく分かる
しかし
上に立つ
べき人間は
理想のみを追求してはいけない
組織が円滑に
機能するためには
時には納得のいかないこともやらなけれ
ばいけないのだ
ヒ
ンケル
ですが
クル
ク
バラ
クを軍人にしてや
てくれ
優秀でなくていい
バカ
で結構
参謀総長閣下の顔が立つようにしてくれればいいん
だ
頼んだぞ
ヒ
ンケル
いや
しかし
クル
ク
ヒ
ンケル君
バラ
クの面倒をち
んと見てくれたら
君
の事はもちろん参謀総長閣下にご報告するつもりだ
ヒ
ンケル
え
？
クル
ク
そうすれば
君の出世だ
て
分かるな？
ヒ
ンケル
独白
殺し文句だ
た
そんな言葉に殺された自分に吐き
気がした
俺もかなり腐
ている
あんなバカ
ドイツ軍の
恥だ
しかし
出世
クル
ク
どうするのがいいのか
君ならわか
てるはずだよ
頭のい
い君ならね
ビ
ロウ
登場
ビ
ロウ
何をしている
クル
ク
ビ
ロウ
ビ
ロウ
何をしているんだ
クル
ク
頼むよ
私につきまとわないでくれ
ビ
ロウ
つきまとわれてるのはこいつの方だ
『フランダースの負け犬』
20
ミヒ
エル・ヒ
ンケル
どうした？
ヒ
ンケル
ビ
ロウ
なるほど
やはり
待遇に不満があるんだな
ヒ
ンケル
え？
ビ
ロウ クリスチ
ン・バラ
クと同じ部屋なのが
嫌なんだろう
いつも周囲に不平をもらしていると
そう聞いている
ヒ
ンケル
あ
あの
ビ
ロウ
困
たことがあ
たら
いつでも俺のところに来いと言
た
だろう
二回も言
ただろう
たしかに
部屋を替えてや
る
誰と一緒の部屋がいい？
ヒ
ンケル
クル
ク
余計なマネはするな
ビ
ロウ
余計なものか
彼はバラ
クを嫌
ている
助けてやるんだ
俺の権限で
クル
ク
君の権限？
どれほどのものだ
ビ
ロウ
誰と一緒の部屋がいい？
ヒ
ンケル
ありがとうございます
ビ
ロウ将軍
ですが
今のままで結構です
ビ
ロウ
なに
？
ヒ
ンケル
私は
実は
クリスチ
ン・バラ
クが大好きなのです
彼は僕の友達です
同じ部屋で
とても満足しております
ビ
ロウ
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
今のままで結構です
ヒ
ンケル
独白
我慢しろ
今だけだ
俺はいつか将軍になる
参謀総長になる
陸軍大臣になる
そうしたら
この腐
た
ドイツ軍をキレイにするんだ
そして俺が
このドイツを世
界
強の国家にする
その為に
ヒ
ンケル
今だけは我慢
しろ
『フランダースの負け犬』
21
７
ヒ
ンケルの部屋
バラ
ク
登場
またしても
異様な状態
バラ
ク
パトラ
シ
疲れたのかい
おやすみ
僕も疲れたよ
何
だかと
ても眠いんだ
パトラ
シ
やがて
大聖堂の
天井から
ヒ
ンケル
何してるんだよ
バラ
ク
パトラ
シ
疲れたのかい
おやすみ
僕も疲れたよ
ヒ
ンケル
何してるんだよ
バラ
ク
フランダ
スの犬
ご
こだよ
パトラ
シ
疲れたの
かい
ヒ
ンケル
貸せ
フランダ
スの犬
？
またお前は
こんなく
だらない本を読んでるのか
バラ
ク
返してよ
名作は何回読んでも感動するんだよ
ヒ
ンケル
だめだ
これは当分
俺が預か
ておく
バラ
ク
どうしたの？
何かあ
たの？
ヒ
ンケル
バラ
ク
バラ
ク
初めて名前を呼ばれた
歓喜
ヒ
ンケル
お前さ
みんながお前のこと
カゲで何て呼んでるか知
て
るか？
バラ
ク
え
なんだろ？○○？
ヒ
ンケル
も
とマイナスなことだよ
バラ
ク
○○？
ヒ
ンケル
バカ
だよ
バラ
ク
バカか
なるほどね
ヒ
ンケル
お前
悔しくないのか
バカ
て言われて
悔しくないの
かよ
バラ
ク
だ
て
僕
本当にバカだからさ
し
うがないよ
ヒ
ンケル
努力しようとか
考えないのか？
『フランダースの負け犬』
22
バラ
ク
無理だよ
僕
頭悪いし
ドジば
かりだし
回想のクル
ク
ベ
ムが登場
クル
ク
バラ
クを軍人にしてや
てくれ
ベ
ム
や
てくれ
クル
ク
頼んだぞ
ベ
ム
頼んだぞ
ヒ
ンケル
独白
く
そ
なんとかやる気を出させないと
バラ
ク
バカ
て言われても
全然悔しくないんだ
ヒ
ンケル
俺は悔しいぞ
バラ
ク
え？
ヒ
ンケル
俺は悔しいな
お前が
バカ
呼ばわりされたら
バラ
ク
本当かい
ヒ
ンケル
え
あ
うん
バラ
ク
嬉しい
僕のこと
悔しが
てくれるんだね
や
ぱりヒ
ンケルは友達だよ
ヒ
ンケル
だ
違う違う
友達じ
ないよ
バラ
ク
そ
か
友達じ
ないんだ
べ
こり
ヒ
ンケル
あ？
いや
違うんだ
バラ
ク
違うの？
じ
あ友達？
ヒ
ンケル
違う
それも違う
バラ
ク
どういうこと？
ヒ
ンケル
だから
そのな
え
と
よし
バラ
ク
いいか
バラ
ク
うん
なに？
ヒ
ンケル
俺は
お前と
友達になりたい
バラ
ク
わ
い
や
た
ヒ
ンケル
待て待て
ただし
俺と
お前は
対等か？
バラ
ク
どういうこと？
ヒ
ンケル
お前は
バカ
だな？
『フランダースの負け犬』
23
バラ
ク
うん
バカ
だよ
ヒ
ンケル
俺は？
バラ
ク
天才
？
ヒ
ンケル
たしかにそうだ
天才
だ
その上
ち
とか
こいい
よな
わかるわかる
バラ
ク
それは言
てないけど
ヒ
ンケル
バカ
と
天才
は
対等じ
ない
だから友達にはなれ
ない
バラ
ク
え
ヒ
ンケル
でも
上司
と
部下
の関係なら
全然アリだよね
バラ
ク
うん
それはアリだね
ヒ
ンケル
そういうわけで
今日からお前は俺の部下だ
極めて強
引に
バラ
ク
ん？
あれ？
そうな
ち
うの？
ヒ
ンケル
そうなるよ
なる
て
マジでなる
て
だから
バラ
クは俺の部下だ
いいな
バラ
ク
君の部下か
それもいいな
うん
わか
た
今日から君
の部下になるよ
ヒ
ンケル
よし
よろしく頼む
敬礼
バラ
ク
はい
上官殿
敬礼
ヒ
ンケル
バラ
ク
ヒ
ンケル
バラ
ク
あの
それはそれとして
本
返して
ヒ
ンケル
ん？
バラ
ク
フランダ
スの犬
読みたい
ヒ
ンケル
だめだ
これは当分預か
とく
て言
たろ
バラ
ク
なんで
なんでだよ
返してよ
ヒ
ンケル
バラ
ク
もう一度聞くぞ
俺は何だ？
バラ
ク
え
と
天才
？
ヒ
ンケル
そうだ
天才
だ
そしてち
とか
こいい
うんうん
『フランダースの負け犬』
24
言わなくていいよ
わか
てるから
バラ
ク
言
てない
てば
ヒ
ンケル
その天才の部下が
バカ
じ
だめだろ
バラ
ク
そう
なのかな
？
ヒ
ンケル そういうわけなんで
今日からお前を徹底的にしごいていき
ま
す
バラ
ク
え
ええ
？
ヒ
ンケル
俺がお前を立派な軍人に育て上げる
わか
たな
バラ
ク
ほ
本気で言
てるのかい
ヒ
ンケル
あ
本気だ
ビシバシ鍛えてやるぞ
バラ
ク
僕みたいなやつを鍛えるなんて
正気の沙汰じ
ないよ
ヒ
ンケル
自分で言うな
どうする？
バカ
のまんまじ
あ
俺の
部下にはなれないぞ
バラ
ク
う
ヒ
ンケル
バラ
ク？
バラ
ク
うん
わか
た
僕頑張るよ
ヒ
ンケル
よ
し
よく言
た
じ
あ
この本は預かるぞ
そして
明日から訓練には絶対参加
バラ
ク
え
ヒ
ンケル
そして
くれぐれも
医務室に行
たりしないように
バラ
ク
やだよ
それは許してくれよ
看護婦さんに会いた
い
ヒ
ンケル
子供かお前は
女のことなんか考えるな
バラ
ク
いや
本当に肌白いんだよ
真
白
本当に絹みたいなんだ
てば
白いから
白いから
ヒ
ンケル
白さアピ
ルしてもだめだ
看護婦さんのところにはもう
行くな
バラ
ク
あ
ヒ
ンケル
お前だ
て
若くて健康な体なんだ
鍛えれば
それなり
に強くなれる
バラ
ク
別に
強くなくていいよ
バカ
でいいよ
『フランダースの負け犬』
25
ヒ
ンケル
バカ
じ
だめだろ
そんな部下は役に立たない
バラ
ク
そんなことない
て
バカにもさ
バカなりに使い道
ての
があるんだよ
ヒ
ンケル
使い道？
バラ
ク
そう
バカの使い道だよ
ヒ
ンケル なんだそり
？
８
軍事訓練
サ
カ
ベ
ム
ぴぴ
ホイ
スル
ヒ
ンケル
キ
クオフ
試合が始ま
た
俺たちは軍事訓練の一環とし
てさまざまなスポ
ツもやらなければならない
ラグビ
水
泳フ
ンシング
そして今日はサ
カ
だ
皆
行くぞ
イメ
ジシ
ン
サ
カ
の試合
ベ
ム
ぴぴ
試合終了
クモの子を散らすように一同退場
サ
カ
終了後
ベルニウス
く
そ
負けち
たよ
あと少しで勝てそうだ
たん
だけどな
クレ
ゼル
惜しか
たな
ベルニウス
あいつだよ
負けた原因はあいつだよ
クレ
ゼル
あ
兄貴分に怒られち
てるよ
『フランダースの負け犬』
26
ヒ
ンケル
おい
バラ
ク
何なんだよ
さ
きのプレイは
バラ
ク
ごめんね
ヒ
ンケル
お前のせいだぞ
うちのチ
ムが負けたのは
バラ
ク
ま
たくその通りだ
申し訳ない
ヒ
ンケル ち
んと反省してるのかよ
ていうか
お前
ドリブルの
時
目つぶ
てただろ
バラ
ク
だ
て怖いんだもん
人にぶつか
たら痛いし
ヒ
ンケル
お前
それでも軍人かよ
肩を叩く
バラ
ク
あ
折れた
看護婦さ
ん
脱走
ヒ
ンケル
待て待て待て
クレ
ゼル
ヒ
ンケル
あまりバラ
クばかりいじめるな
ヒ
ンケル
こんなバカに情けは不要だよ
クレ
ゼル
クレ
ゼル
今日のはチ
ムみんなのミスだ
ヒ
ンケル
いいや
チ
ムのミスを引き起こしたのは
こいつのミスだ
クレ
ゼル
勝手にしろよ
退場
ベルニウス
あ
あ
退場
ヒ
ンケル
ち
とクレ
ゼル
ま
たく
お前みたいなのと同じチ
ムになるなんて
俺のクジ運も悪いな
バラ
ク
そうかな
友達と同じチ
ムになれるなんて
ラ
キ
なん
じ
ないか？
ヒ
ンケル
友達？
誰が？
バラ
ク
友達
僕が
ヒ
ンケル
友達だなんてとんでもない
お前は俺の部下だろ
バラ
ク
あ
そうだ
たね
ヒ
ンケル
じ
あ早速
サ
カ
の練習をしよう
バラ
ク
へ？
ヒ
ンケル
明日もサ
カ
あるんだから
連敗だけは避けるんだよ
バラ
ク
そんな
今から練習した
て
使い物にならないよ
ヒ
ンケル
いいから練習
上官の命令だ
『フランダースの負け犬』
27
バラ
ク
は
はい
上官殿
ヒ
ンケル
大体な
蹴
たボ
ルがま
すぐ飛ばない
てのはまずい
ボ
ルを取り出す
ち
と
シ
トしてみろ
バラ
ク
うん
蹴る
ヒ
ンケル
ボ
ルの軌道を目で追うマイム
変な方向に飛ぶ
ヒ
ンケル
さ
ぱりダメだな
ほら
もう一度
バラ
ク
え
い
バラ
ク
手で投げる
ヒ
ンケル
おい
手使
ただろ
違うよ
も
と
腰を落として
バラ
ク
そり
あ
バラ
ク
全然関係ない動き
ヒ
ンケル
ち
と
どいて
俺がや
てみせる
ボ
ル
ていうのは
な
こうや
て蹴るんだよ
いくぞ
うら
蹴る
バラ
ク
わあ
すご
い
ヒ
ンケル
どうだ
ま
ざ
とこんなもんよ
バラ
ク
あれ？
ヒ
ンケル
んんん？
バラ
ク
あの方向は
ヒ
ンケル
やばい
ベ
ム
石像として登場
バラ
ク
あ
あれは
ヒ
ンケル
ベ
ム将軍の石像だ
バラ
ク
ぶつかる
『フランダースの負け犬』
28
石像のベ
ムにボ
ルがぶつかる
ベ
ム
ガラガラガラ
崩れる
ヒ
ンケル ど
わ
や
ち
た
どうしよう
ベ
ム
人間として登場
ベ
ム
おう
みんな
どうした集ま
て
むむむ
何だこれは
ヒ
ンケル
げ
ベ
ム将軍
ベ
ム
私の石像が壊れている
ヒ
ンケル君
これはどうしたこ
とかな
ヒ
ンケル
い
いや
これは
ベ
ム
君がや
たのか
なんてコトをしてくれたのだ
ヒ
ンケル
あ
あのですね
ベ
ム
言い訳など聞きたくない
ヒ
ンケル
も
申し訳ありません
バラ
ク
僕がやりました
ヒ
ンケル
え？
バラ
ク
すみません
それや
たの僕です
ベ
ム
バラ
ク
あ
なるほど
お前か
バラ
ク
すみませ
ん
ボ
ルが飛んじ
て
ベ
ム
バラ
クを殴る
ヒ
ンケル
ベ
ム
ま
たく
ヒ
ンケル君に迷惑をかけるなよ
バラ
ク
は
い
ベ
ム
退場
『フランダースの負け犬』
29
ヒ
ンケル
何でだよ
どうしてお前が
バラ
ク
これがバカの使い道だよ
ヒ
ンケル
え？
バラ
ク
僕バカだからさ
僕
本当にバカだからさ
皆信じてくれる
んだ
もし君が何か失敗とかしたら
全部僕のせいにすれば
いいよ
絶対誰も疑わない
僕
叱られたり
殴られたり
そういうの慣れてるし
僕みたいなヤツは
どうな
た
て
いいけど
君はダメだ
君の経歴に
キズはついち
いけな
い
君はいつでも輝いていないといけない
何かあ
たら
全部
全部僕のせいにしてくれよ
いてて
痛がる
ヒ
ンケル
おい
看護婦さんのところ行
てこいよ
バラ
ク
否
我にサ
カ
を伝授せよ
ヒ
ンケル
よし
し
かりついてこい
バラ
ク
はい
上官殿
二人
わ
軍事訓練
フ
ンシング
ヒ
ンケル
バラ
ク
剣術の訓練だ
どこからでもかか
てこ
い
バラ
ク
どり
みずからヒ
ンケルの剣に刺さりに行く
うわ
ヒ
ンケル
自爆かよ
二人
わ
軍事訓練
馬術
ヒ
ンケル
バラ
ク
馬術の訓練だ
その暴れ馬に乗
てみろ
バラ
ク
お
よしよし
そうか
なるほどね
馬と会話
ヒ
ンケル
乗れよ
二人
わ
軍事訓練・銃器
『フランダースの負け犬』
30
ヒ
ンケル
いいかバラ
ク
軍人たるもの
銃はち
んと使えないとい
けない
よく狙
て撃つんだ
バラ
ク
はい
上官殿
怖が
ている
ヒ
ンケル 構え方がな
てないよ
後ろから支える
バラ
ク
は
時よ止まれ
ヒ
ンケル
何か言
たか？
バラ
ク
上官殿は私のハ
トを撃ち抜くおつもりですか
ヒ
ンケル
うるせ
ち
んと構えて
レバ
を外して
撃つ
バラ
ク
発砲
ヒ
ンケル
やればできんじ
ん
バラ
ク
や
た
ヒ
ンケル
よし
次は語学の授業だ
し
かりついてくるように
バラ
ク
はい
上官殿
二人
わ
ヒ
ンケル
バラ
ク
退場
９
ドイツ陸軍
参謀本部
ヘンチ
登場
ヘンチ
六月二十八日
オ
ストリア・ハンガリ
帝国皇太子夫妻が
セルビア王国サラ
ヴ
で暗殺
犯人はセルビア系ボスニア
人の青年
た
たひとつの銃弾が
ヘンチ
発砲
ヘンチ
お待たせしました
諜報参謀リヒ
ルト・ヘンチ
だ
参謀
『フランダースの負け犬』
31
本部の見解を伝える
オ
ストリア軍がベルグラ
ドに砲撃
を始めたのは聞いてますね
これを機に
ロシアはオ
ス
トリアと国交断絶
セルビア救援の為に軍隊に動員令を発令
ま
ここまでは
当然の流れでし
う
ヘンチ
その直後
イギリスから戦争回避の会談案がフランス
ロシ
ア
イタリア
そして我がドイツに提出された
ま
たく
ふざけてますよね
無論
ドイツは
その案を拒否
同盟
国である以上
オ
ストリアに協力します
ヘンチ
戦争ですよ
遂に
私たちが戦う時がきたんです
敵はセル
ビアだけではない
その背後にいる
ロシアも敵になるでし
う
そしてフランス
イギリス
オランダの態度も気に
入りません
我がドイツ民族の偉大さを全世界に知らしめて
やりまし
う
ヘンチ
アレクサンダ
・クル
ク
クル
ク
登場
ヘンチ
カ
ル・ビ
ロウ
ビ
ロウ
登場
ヘンチ
西部戦線を組織しなさい
ドイツの領土を西へ西へと拡大す
るんです
すなわち
シ
リ
フ
ンプランの遂行
ロシア
は鉄道が不足しています
ここまで来るには二
月はかかる
でし
う
その間にフランス野戦軍を包囲殲滅
終目標は
首都パリの占領
その為に
全軍の八分の七を西へ集結
全作戦の完了期間は四十九日
ヘンチ
退場
ビ
ロウ
まさか
お前と組むことになるとはな
クル
ク
イヤな予感はしてたよ
『フランダースの負け犬』
32
ビ
ロウ
正直
今回の作戦
どう思う？
シ
リ
フ
ンプラン
クル
ク
完璧だ
ロシアとフランス
軍隊の動員スピ
ドの差に目を
つけるとは
この作戦はうまく行く
ビ
ロウ
そうだろうか
俺は不安だ
この作戦を成功させるために
は
こちらも恐ろしいスピ
ドで軍を動かさなければならな
い
そんなことが可能なのか？
一日二日なら問題ない
し
かし
一
月以上となると
クル
ク
貴様
参謀本部の方針に意見する気か
ビ
ロウ
何が悪い
俺は思
たことを正直に言
ているまでだ
クル
ク
君が何を思
ていようが
作戦は遂行する
全力を尽くし
たまえ
ビ
ロウ
偉そうな事を
俺はお前の部下じ
ない
クル
ク
ビ
ロウ
私は第一軍の司令官
君は第二軍の司令官
私
のケツを追いかけるだけだ
実質的に
私は西部戦線
高司
令官なんだよ
ビ
ロウ
寝言を言うな
高司令官は
参謀総長モルトケ将軍だ
クル
ク
もちろんそうさ
しかし
実際の戦場では
第一司令官であ
る私が
も強い権限をもつ
そこを忘れるな
ヘンチ
登場
ヘンチ
私のことも忘れないで
クル
ク
諜報参謀閣下
ヘンチ
モルトケ様からのご指名です
私も一緒に行きます
クル
ク
え
？
ビ
ロウ
理由をお聞かせ願いたい
ヘンチ
君たちが仲良くや
ているかの監視役です
文句ある？
ビ
ロウ
ございません諜報参謀閣下
ヘンチ
仲良くしなさいね
ビ
ロウ
は
クル
ク
『フランダースの負け犬』
33
ヘンチ
クル
ク
返事が遅い
クル
ク
あ
はい
ヘンチ
ば
ん
発砲
戦場じ
撃たれてますよ
ね
？
クル
ク
ヘンチ
なにその顔
おまぬけ
クル
ク
おまぬけ
な私には是非
有能な部下をつけていただきたい
ものですな
ヘンチ
は？
クル
ク
我が部隊にはミヒ
エル・ヒ
ンケルをいただきたい
ヘンチ
ミヒ
エル・ヒ
ンケル？
誰だそれは
ビ
ロウ
勝手なことを言うな
クル
ク
クル
ク
ミヒ
エル・ヒ
ンケルを我が第一軍の司令官に任命する
ヘンチ
誰だそれは
ビ
ロウ
だめだ
ミヒ
エル・ヒ
ンケルは俺の部隊だ
ヘンチ
誰だそれは
クル
ク
人のものを取るんじ
ない
ビ
ロウ
ヒ
ンケルはお前のものじ
ない
クル
ク
誰のものだ
ビ
ロウ
俺たち
ドイツ軍
全員の宝だ
クル
ク
ドイツ軍の宝を君なんぞに任せられるか
ビ
ロウ
実戦経験のないひよ
こだ
前線には送れない
クル
ク
あんな有能な男を後ろにおいてはそれこそ宝の持ち腐れ
ヘンチ
誰よミヒ
エル・ヒ
ンケル
て
も
知らない
ミヒ
エ
ル・ヒ
ンケル？
あなたたちで勝手に決めなさい
退場
クル
ク
本人の希望を聞こうじ
ないか
ヒ
ンケル
登場
ヒ
ンケル
クル
ク将軍の第一軍への配属を希望します
ビ
ロウ
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
私は
前線に行きたいのです
『フランダースの負け犬』
34
ビ
ロウ
俺とは
戦
てくれないのか
ヒ
ンケル
独白
ビ
ロウ将軍
あなたはいい方だ
ビ
ロウ
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
しかしあなたには残念ながら
野心あふれる男の魅力が
ま
るでない
ビ
ロウ アイツのことは任せた
無事を祈る
ビ
ロウ
退場
１０
クル
クの部屋
ヒ
ンケルとクル
ク
ベ
ム
クル
ク
怖くはないかい？
ヒ
ンケル
いえ
戦場こそ
軍人の身をおくべき場所
死など恐ろし
くありません
クル
ク
よく言
てくれた
ベ
ム
クル
ク将軍は君の能力を高くか
ておいでだぞ
ヒ
ンケル
言われなくてもわか
ています
ベ
ム
あ
すみません
クル
ク
ドイツは今週末には正式に宣戦布告するだろう
早急に部隊
を再編成せねばならん
クル
ク
君には
第三部隊の司令官にな
てもらう
ヒ
ンケル
司令官？
私に
一軍を任せていただけるのですか
クル
ク
頼りにしているぞ
ヒ
ンケル将軍
ヒ
ンケル
はは
ベ
ム
頼りにされてるぞ
ヒ
ンケル将軍
ヒ
ンケル
振り払う
クル
ク
早速だが
これが第三部隊の詳細だ
隊員の名簿も載
てい
『フランダースの負け犬』
35
る
ベ
ム
君の部隊には優秀な者をたくさんつけておいた
安心したま
え
ヒ
ンケル
名簿をめくる
ヒ
ンケル
ベルニウス
ベルニウス
登場
よろしくな
ヒ
ンケル
クレ
ゼル
クレ
ゼル
登場
ベ
ム
どうだ
どいつもこいつも
立派な軍人たちだろう
ヒ
ンケル
あの
ベ
ム
どうした？要望があるのなら
今のうちに言いたまえ
ヒ
ンケル
一人
どうしても連れて行きたい男がおります
ベ
ム
誰だねそれは
ヒ
ンケル
クリスチ
ン・バラ
クです
ベ
ム
バラ
ク？
クル
ク
ヒ
ンケル君
これは戦争だ
もう
彼の面倒は見なくてい
いんだよ
君は本当によくや
てくれた
ヒ
ンケル
バラ
クは
どこの部隊なのでし
うか？
ベ
ム
どこにも所属しとらんよ
将軍たちは皆
ヤツを引き受ける
のを拒否したからな
ヒ
ンケル
ならば
私の部隊にいただけないでし
うか？
ベ
ム
あんな男
何の役にも立つまい
足手まといになるだけだぞ
ヒ
ンケル
いただけないでし
うか
ベ
ム
え
え
と
クル
ク
ベ
ム君？
ベ
ム
あ
いや
全く問題ありません
ヒ
ンケル将軍が望まれる
のであれば
ヒ
ンケル
ありがとうございます
ベ
ム
とんでもない
『フランダースの負け犬』
36
ヒ
ンケル
あ
それとですね
ベ
ム
まだあるのかね
ヒ
ンケル
医務室にいる
絹のように白い肌をもつ看護婦さんを是非私
の部隊に
ベ
ム
は？
看護婦さん？
クル
ク
好きにしたまえ
１１
ヒ
ンケルの部屋
ヒ
ンケルと
バラ
ク
ヒ
ンケル
バラ
ク
バラ
ク
バラ
ク
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
あ
探したよ
君に伝えたいことがあるんだ
バラ
ク
僕も
君に言いたいことがある
ヒ
ンケル
俺が先だ
バラ
ク
いや
先に言わせてくれ
聞いたぞ
君とうとう
司令官に
任命されたそうじ
ないか
おめでとう
君ならなれると思
てたよ
クレ
ゼルもベルニウスも喜んでた
ヒ
ンケル
あ
ありがとう
バラ
ク
しかし
残念だな
僕みたいなやつは
き
と国内で待機だ
君と一緒に戦えないなんて
部下失格だな
ヒ
ンケル
それが違うんだよ
クリスチ
ン・バラ
ク
第三部隊の隊
員として名簿に名前がある
バラ
ク
え？
第三部隊だ
て
ヒ
ンケル
俺の部隊だよ
俺と一緒に
戦争に行けるんだ
バラ
ク
ほ
本当かい？
でも
どうして僕なんか
ヒ
ンケル
クル
ク将軍も
近のお前の頑張りをち
んと見てたんだ
よ
評価してくれたんだ
『フランダースの負け犬』
37
バラ
ク
僕嬉しいよ
しかも
第三部隊なんて
これで正式に
君の
部下になれるんだね
ヒ
ンケル
部下だなんてとんでもない
お前は
俺の友達だろ
バラ
ク
友達
君の友達なのか
ヒ
ンケル 友達だ
バラ
ク
バラ
ク
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
あ
それと
ラ
キ
だ
たな
あの看護婦さん
第三部隊
に転属にな
たぞ
バラ
ク
えええ
そうなの
ヒ
ンケル
本当にお前は運がいいな
バラ
ク
ああ
なんだか
やる気出てきたよ
ヒ
ンケル
ほら
これ返すよ
バラ
ク
フランダ
スの犬
ヒ
ンケル
ず
と預か
てて悪か
たな
これからは思う存分
読めば
いい
バラ
ク
ありがとう
でも
こんな本
僕にはもういらないよ
ヒ
ンケル
バラ
ク
バラ
ク
一人前の軍人にな
たんだ
こんな本で
めそめそなんてし
てられない
ベルニウス
クレ
ゼル
登場
クレ
ゼル
ヒ
ンケル
準備はできているぞ
早くこ
ちに来てくれ
ヒ
ンケル
あ
分か
た
バラ
ク
準備？
準備
て？
クレ
ゼル
結成式だよ
司令官として
ヒ
ンケルの口から隊員達に訓
示をするんだ
第三部隊
結成式
ベルニウス
おい
いいかお前ら
ヒ
ンケル将軍がするぞ
訓示を
『フランダースの負け犬』
38
うんぬんかんぬん
よく聞け
ヒ
ンケル
第三部隊隊員諸君
ミヒ
エル・ヒ
ンケルである
君達
のようなすばらしい軍人とともに戦えること
大変名誉に思
う
さて
フランダ
スの犬
という作品を知
ているか
な？ そう
我が国でも多く読まれているというイギリスの
文学作品だ
フランダ
スの犬のラストシ
ンの再現
ヒ
ンケル
パトラ
シ
疲れたのかい
おやすみ
僕も疲れたよ
何だか
とても眠いんだ
パトラ
シ
ベ
ム
やがて
大聖堂の天井からほのか光がさし込み
天使たちが
ネロとパトラ
シ
を取り囲みました
天使たちはネロと
パトラ
シ
を連れて
空高く舞い上が
て行きました
お母さんやおじいさんのいる遠い国へと旅立
て行
たので
す
もうこれからは
寒い事や悲しい事やお腹の空く事もな
く
みんな一緒に
いつまでも
楽しく暮らすことでし
う
ヒ
ンケル
くだらない
第三部隊
結成式
ヒ
ンケル
ま
たくも
てくだらない
これが
フランダ
スの犬
のラストシ
ンだ
諸君らはこの場面を見て一体何を感じ
る？
もし
目に涙を浮かべたり感傷的な気分に浸
てしま
うような者がいるならば
今すぐ除隊したまえ
軍人たるも
の
こんな陳腐な話に心をよせてはならない
私はネロが嫌
いだ
こんな軟弱な男
見ているだけで吐き気がする
もし
『フランダースの負け犬』
39
私がネロだ
たら
間違いなくパトラ
シ
を殺す
パトラ
シ
を叩き殺し
その生肉を喰らい
何としてでも生き延
びるだろう
自らの理想の為に
ドイツ国家の繁栄の為に
ネロには根性がない
生への執着がない
私は違う
軍人と
して
ネロのような死に方だけはしない
どのような手段に
訴えてでも生き延び
ドイツの為に死にたいと考えている
諸君らも
そのような鋼の精神を持
て私についてきて欲し
い
以上
ベルニウス
決ま
たぜ
バラ
ク
すごいよ
ヒ
ンケル
や
ぱり君は軍人の鑑だ
僕には
君ほどの勇気はないけれど
君の為なら
俺やるぜ
怪我な
んて怖くないさ
大丈夫
絹のように白い肌の
看護婦さん
がいるからな
１２
兵舎
クレ
ゼル
登場
それを追うベルニウス
クレ
ゼル
どけ
邪魔だ
ベルニウス
クレ
ゼル
頭冷やせよ
何そんなに怒
てんだよ
クレ
ゼル
別に怒
てなんかいね
よ
ベルニウス
怖いのか？
戦争が
前線に送られることが
クレ
ゼル
フランス人なんか怖いわけね
だろ
ベルニウス
じ
あ何だよ
何が不満なんだ
ヒ
ンケル
登場
ヒ
ンケル
騒がしいな
どうした
ベルニウス
ベルニウス
いや
クレ
ゼルが
『フランダースの負け犬』
40
クレ
ゼル
今から
ベ
ム将軍に掛け合
てくる
ヒ
ンケル
何だと？
クレ
ゼル
俺を
違う部隊に変えてくれ
てな
ベルニウス
おい
違うんだよ
これは
ヒ
ンケル 俺の下では戦えないというのか
クレ
ゼル あ
そうだよ
ヒ
ンケル
クレ
ゼル
力を貸してくれよ
友達だろ
クレ
ゼル
パトラ
シ
だ
て友達だろ？
ヒ
ンケル
え
？
クレ
ゼル
パトラ
シ
はただの犬じ
ね
ネロにと
ては友達なん
だ
化けの皮が剥がれたな
あんたは
理想の為には平気で
友達を殺すんだ
それがあんたの正体だ
ヒ
ンケル
そんなこと
クレ
ゼル
無いと言えんのか？
ヒ
ンケル
それがドイツの為になるなら
たしかに友達を殺すかもしれ
ないな
クレ
ゼル
短い付き合いだ
たな
ヒ
ンケル
待て
クレ
ゼル
バラ
クにもよろしく言
ておいてくれ
ヒ
ンケル
待て
仕方ないだろ
俺たちは
国家の為に戦
ているん
だ
くだらない私情は捨てなければ
崇高な目的は達成でき
ない
クレ
ゼル
全然理解できね
な
ヒ
ンケル
じ
あ
お前は何だ？
お前は
何のために戦
ている
クレ
ゼル
田舎に
オフクロがいるんだよ
ヒ
ンケル
クレ
ゼル
俺の家は農家だが
借金でほとんど畑取られちま
てるんだ
オフクロは俺の稼ぎで
何とか生活できてるんだよ
ヒ
ンケル
そうか
金か？
金が目的か
クレ
ゼル
何が悪い
オフクロに楽させてやりて
んだ
アンタラより
ず
と立派な目的だと思うがな
ドイツだと？
国家だと？
『フランダースの負け犬』
41
そんなもんの為に死ねるかよ
掴みかかる
ヒ
ンケル
触るな
泥がつくだろ
どん百姓
クレ
ゼル
ヒ
ンケル
ベ
ム将軍には俺から話しておく
俺に逆ら
たんだ
第
一軍にはいられないぞ
ビ
ロウ将軍の
第二軍への配属
となるだろう
クレ
ゼル
クレ
ゼル
退場
ベルニウス
独白
若く
才能のある二人が
どうしてこんなにもすれ
違
てしまうんだ
ヒ
ンケル
ベルニウス
ベルニウス
え
何だよ？
ヒ
ンケル
お前
クレ
ゼルと一緒にビ
ロウ将軍のところに行け
ベルニウス
え
ええ
何でだよ
俺はお前の下がいいよ
ヒ
ンケル
頼んだぞ
ベルニウス
何でだよ
ヒ
ンケル
頼んだぞ
ベルニウス
何でだよ
ヒ
ンケル
抱きしめる
友達だろ
ベルニウス
友達だな
ヒ
ンケル
頼んだぞ
ベルニウス
わか
た
うお
ど
か行
た
１３
ヘンチ
登場
ヘンチ
八月二日
ドイツはイタリア・トルコと秘密同盟を結成
さ
『フランダースの負け犬』
42
らに
ルクセンブルクに侵入
同時に
フランス軍との直接
対決の為
ベルギ
に領内通過要求を提出
ベルギ
はこれ
を却下
軍議
クル
ク
ビ
ロウ
登場
クル
ク
構うものか
ビ
ロウ
落ち着け
クル
ク
クル
ク
ベルギ
ごとき
叩き潰してくれる
ビ
ロウ
ベルギ
は中立国宣言をしている
中立侵犯は
国際世論を
敵にまわしてしまう
ヘンチ
国際世論？
ビ
ロウ
国際世論です
ヘンチ
軍人のくせに政治の話？
ビ
ロウ
軍人のくせに政治の話です
ヘンチ
笑わせないでください
ビ
ロウ
しかし
イギリスに参戦の大義名分を与えてしまいます
ヘンチ
あげち
え
あげち
え
ビ
ロウ
無益な戦いは避けるべきです
ヘンチ
負ければ無益
だが勝てば有益
クル
ク
勝てばいいんだビ
ロウ
これは戦争だ
勝者だけが正義
だ
ヘンチ
勇ましいですね
クル
ク
お手並み拝見
クル
ク
は
ビ
ロウ
作戦にはもちろん従う
だが
クル
ク
ひとつだけ約束
してくれ
俺の部隊から離れるな
クル
ク
なんだ
ひとりぼ
ちが淋しいのか
ビ
ロウ
ひとりぼ
ちになるのはお前だ
前線のお前は
俺から少
しでも離れたら孤立するんだぞ
クル
ク
うんざりだ
『フランダースの負け犬』
43
ビ
ロウ
クル
ク
クル
ク
ヒ
ンケル将軍の第三部隊に出撃命令
ヒ
ンケル
登場
クル
ク
ベルギ
のリエ
ジ
要塞を攻略しろ
フランダ
ス地方へ
侵略する足がかりとするのだ
ヒ
ンケル
これは俺にと
ての初戦
負けるわけにはいかない
ベルニウス
クレ
ゼル
登場
ビ
ロウ
第一軍からの転属兵とは君たちか
ベルニウス
は
ビ
ロウ
ミヒ
エル・ヒ
ンケルは知
ているか
クレ
ゼル
ヒ
ンケル？
ベルニウス
友達です
いや
親友です
クレ
ゼル
そんな男は知りません
ヒ
ンケル
突撃
リエ
ジ
砦攻略戦
戦争のイメ
ジシ
ン
ヘンチ
ドイツ西部戦線は快進撃を続けています
ロレ
ヌではフラ
ンス軍を撃破
一週間後には
ベルギ
の首都ブリ
セル
を占領
ドイツは
フランダ
スまで進軍
クル
クの兵舎
クル
クとベ
ム
ベ
ム
いや
ドイツ軍はもはや敵なしですな
『フランダースの負け犬』
44
クル
ク
ま
たくだ
もう少し手ごたえがあ
たほうが面白いのだが
な
ベ
ム
このままの調子で行けば
クル
ク将軍の参謀本部入りは間
違い無しですな
クル
ク
まだだ
まだ手柄が足りない
リエ
ジ
の攻防戦では
ビ
ロウに先を越されてしま
た
ベ
ム
た
たしかに
たしかに
たしかに
ごも
とも
クル
ク
よし
夜明けとともに
さらに南に進むぞ
ベ
ム
南？
パリには攻め込まないのですか？
クル
ク
そんなことはいつでもできる
今は
フランス本隊を追い詰
めるのだ
やつらは敗走している
その背後から
一気に攻
め滅ぼす
ベ
ム
なるほど
それはようございますな
早速
全軍に伝えまし
う
ヒ
ンケル
登場
ヒ
ンケル
お待ちください
クル
ク将軍
ベ
ム
ヒ
ヒ
ンケル将軍
どうしたのだ？
ヒ
ンケル
今
軍を南下させるのは危険です
ベ
ム
何だと
ヒ
ンケル
ビ
ロウ将軍率いる第二軍との距離をお考えください
間
隔が開き過ぎです
ここで動けば我々は
孤立してしまいま
す
ベ
ム
孤立してよいのだ
その分
ビ
ロウに邪魔されずに手柄
を独占できる
ヒ
ンケル
パリにいる守備部隊も気にかかります
南に進めば
我が軍
はパリに脇腹を見せることになります
そこを攻め込まれで
もしたら
ベ
ム
パリのフランス軍は守備部隊だぞ
パリを守ることしか考え
ていない
攻めてくるわけが無いだろう
『フランダースの負け犬』
45
ヒ
ンケル
いや
分かりません
パリ軍事総督ヨゼフ・ガリエニは
フ
ランス軍一の策士です
どんな手を使
てくるか
ベ
ム
君は何も知らんな
ガリエニは今
病をわずら
ている
病
人に何ができる
ヒ
ンケル それに第一
兵は皆疲れております
ベ
ム
あ？
ヒ
ンケル
ここは一旦
休息をとるべきです
ベ
ム
何を甘いことを言
ている
ドイツ人なら
まだまだ戦える
はずだ
ヒ
ンケル
一日四十キロの移動
睡眠時間は五時間もありません
本当
に戦えると思
ているんですか
クル
ク
安心したまえ
敵は敗走しているのだ
逃げるウサギを狩る
ようなもの
楽な仕事だよ
ヒ
ンケル
本当にフランス軍は逃げているのでし
うか
私には
秩
序だ
た戦略的撤退をしているようにしか見えません
ベ
ム
何？
クル
ク
どういうことだ？
ヒ
ンケル
連中は
我々を誘い込もうとしているのでは
ベ
ム
一体どこに？
ヒ
ンケル
グランモラン川です
川の向こうにはイギリス遠征軍が待機
しています
もしイギリスが動けば
我々は挟み撃ちにあい
ます
ベ
ム
イギリスだと？
ヒ
ンケル
何を言い出すのだ
イギリス
は
フランスの為に血を流すような連中ではない
動かんよ
ヒ
ンケル
しかし
ベ
ム
ルカト
でも散々脅してや
たからな
近いうちに
本国に
帰
ち
うんじ
ないか？
ヒ
ンケル
しかし
もし動いたら
動いた場合は
どうなさるおつもり
ですか
クル
ク
動かないと言
ている
ヒ
ンケル
『フランダースの負け犬』
46
クル
ク
臆病風に吹かれお
て
ロレ
ヌでも
アルデンヌでも
シ
ルルロアでも
ドイツは勝ち続けているのだ
何を恐れる
ことがある
ベ
ム
これまでのフランス軍の被害は？
ベ
ム
死者は二十五万
怪我人はその三倍かと
ヒ
ンケル
クル
ク
二十五万だぞ
ドイツ軍は
フランス人を二十五万人も殺し
たのだ
強だ
負ける理由がない
ヒ
ンケル
ですが
クル
ク
くどい
ヒ
ンケル
クル
ク
一軍を任せただけで図に乗るな
明日の準備を急ぎたまえ
ベ
ム
は
ベ
ム
退場
ヒ
ンケルとクル
ク
二人きりに
ヒ
ンケル
クル
ク
ヒ
ンケル
あまり失望させないでくれ
どうして僕が
あの男から離れられたかわかるか
ヒ
ンケル
え？
クル
ク
君がそばにいてくれるからだよ
君のような男がそばにいて
くれるから
私はどこまでも先に行けるのだ
それに
今回の進軍は
非公式ではあるが
諜報参謀閣下の許可を得
ている
ヒ
ンケル
ええ
クル
ク
私の時代が来るのだ
し
かりとついてきなさい
クル
ク
退場
ヒ
ンケル
この進軍はどう考えても危険だ
それを許可するなんて
諜報参謀閣下はどのようにお考えなんだ
『フランダースの負け犬』
47
１４
ヘンチ
登場
ヘンチ
どう思います？
ヒ
ンケル
逆に聞かれた？
ヘンチ
会いたか
た
敬礼はどうした
諜報参謀リヒ
ルト・ヘンチ
だ
ヒ
ンケル
ミヒ
エル・ヒ
ンケルです
ヘンチ
正直に言
てください
今回の作戦
どう思います？
クル
クの進軍
ヒ
ンケル
正直
今回の作戦は
失敗してしまうような気がします
ヘンチ
失敗？
やれやれ
考えが浅すぎますよ
これは
失敗
ではなく
大
失敗です
ヒ
ンケル
え？
ヘンチ
今の作戦通りに戦えばドイツは負けます
ヒ
ンケル
いや
しかし
諜報参謀閣下のことです
き
と深いお考えがお
ありなのでし
う
お聞かせください
クル
ク将軍に
あえて負
ける作戦を提出なさる
その真意とは
ヘンチ
クル
クには
負け犬にな
てもらいたいんです
ヒ
ンケル
は
ヘンチ
負け犬ですよ
わんわん
ヒ
ンケル
お
お
し
ている意味が
わかりませんが
どうしてわざわ
ざ負けなければいけないのです
勝てばよいではないですか
見事
大勝利を収めれば
ヘンチ
か
こいい
でも
もう勝て
こないんです
ロシアの動員が完了し
たんです
ヒ
ンケル
は
？
参謀本部の見解では
ロシアが来るには
二
月は
かかると聞きましたが
ヘンチ
間違えち
ち
これによりシ
リ
フ
ンプランは崩壊しま
した
西部戦線のこれ以上の華々しい戦果は期待できません
いま考えなければいけないことは
どう負けるか
そして負
『フランダースの負け犬』
48
けた後のドイツをどうするか
です
ヒ
ンケル
ヘンチ
安心しなさい
戦争は東でも行われています
東部戦線ではヒンデ
ンブルク将軍がロシア軍を２０万人殺したそうです
素晴らしい
彼にはドイツの英雄にな
てもらいまし
う
その為にも
クル
クにはち
あんと負けてもらいまし
う
ね
ち
と
聞いて
る？ 私の話
ヒ
ンケル
負けるとわか
ているのに
戦うのですか？
ヘンチ
負ける為に戦うんです
ヒ
ンケル
何万人もの兵士たちが巻き添えになるのですよ
何千人もが死ぬん
ですよ
ヘンチ
やむを得ません
ヒ
ンケル
あんた
何様のつもりだ
ヘンチ
天才ですよ
君とおんなじ
ヒ
ンケル
ヘンチ
長い目で見れば
とても有意義な敗戦になるでし
う
ヒ
ンケル
諜報参謀閣下
負ければあなただ
てタダではすみませんよ
軍
を敗戦に追い込んだ責任を問われ
ヘンチ
大丈夫
クル
クがち
あんと負ければ
モルトケ様は参謀総長を
辞任させられる
後任はき
とフ
ルケンハイン閣下
私
すごい
可愛が
てもら
てるの
ヒ
ンケル
あんた狂
てるよ
ヘンチ
ヒ
ンケル君
私がどうしてこんな話を
君に話しているのか
お
わかりですか？
ヒ
ンケル
え
ヘンチ
君のことが好きだからです
君は優秀だ
ヒ
ンケル
ヘンチ
今夜は戻らなくていい
君はこ
そり
前線を離れ
私のそばに残りな
さい
負け犬になる必要は無い
ヒ
ンケル
私は軍人です
作戦には
従います
ヘンチ
え？
『フランダースの負け犬』
49
ヒ
ンケル
作戦を無視し一人で離脱することなどできません
すぐに前線に戻
り戦います
作戦通りに
ヘンチ
何を言
てるんです
負けるんですよ
ヒ
ンケル
え
もし
それがいやでしたら
作戦の撤回を
ヘンチ
君
ずるい
自分を人質に脅迫するんですね
ヒ
ンケル お願いです
こんな愚かなことはおやめください
ヘンチ
作戦は変えません
変わるのはあなたですよ司令官
ここに残りなさい
ヒ
ンケル
命令には絶対服従です
ヘンチ
ヒ
ンケル君
西部戦線はぐち
ぐち
ドイツの軍部もぐち
ぐち
一度す
きり
掃除しなければいけません
ヒ
ンケル
なるほど
では
このミヒ
エル・ヒ
ンケルごと
掃除してもらいま
し
う
ヘンチ
私の見込み違いだ
たか
君ならわか
てくれると思
たのに
ヒ
ンケル
作戦の撤回を
作戦の撤回を
さもなくば
私は死んでしまいます
ヘンチ
ラストチ
ンスです
ここに残れ
ヒ
ンケル
失礼します
ヘンチ
そんなに
クル
クが好き？
ヒ
ンケル
いいえ
私が好きなのは
絹のように白い肌をもつ看護婦さんです
ヘンチ
？
ヒ
ンケル
負けませんよ
私たちは
１５
ヒ
ンケルの兵舎
バラ
ク
登場
バラ
ク
ヒ
ンケル
明日も戦いだそうだな
ヒ
ンケル
あ
バラ
ク
どうしたんだ？
ヒ
ンケル
『フランダースの負け犬』
50
バラ
ク
やめろよそんな顔
どうしたんだよ？
ヒ
ンケル
明日は
負ける気がする
バラ
ク
そうなのか
それは
いやだな
ヒ
ンケル
うん
いやだよ
バラ
ク
怪我するかな
ヒ
ンケル もしかしたらな
バラ
ク
死んだりはしないよな
ヒ
ンケル
バラ
ク
ヒ
ンケル
バラ
ク
あ
あのさ
一つ
頼みごと聞いてくれないか
ヒ
ンケル
え？
バラ
ク
ず
と考えてたんだけどさ
もし僕がさ
弾とか当た
て
血が出るだろ
たくさんたくさん
血が出るだろ
そしたさ
ヒ
ンケル
やめろ
お前は大丈夫だ
お前は強くな
た
弾なんて
当たらないよ
バラ
ク
いいから聞いてくれ
血がたくさん出て
血が足りなくな
たらさ
僕に血くれないか？
ヒ
ンケル
バラ
ク
僕
君の血がいい
君の血を分けてくれよ
僕に
血をくれ
よ
ヒ
ンケル
うん
なんていうか
血液型違うだろ？
バラ
ク
別にいいよ
ヒ
ンケル
いや
よくないだろ
バラ
ク
いいんだよ
ヒ
ンケル
バラ
ク
いいんだよ
君の血なら
ヒ
ンケル
お前になら
喜んでくれてやるよ
好きなだけも
ていけ
バラ
ク
じ
あ
５リ
トルほど
ヒ
ンケル
俺死んじ
うよ
『フランダースの負け犬』
51
１６
ビ
ロウの兵舎
ビ
ロウのもとに
ベルニウス
クレ
ゼル
登場
ビ
ロウ
何
クル
クが南下しただと
ベルニウス
は
はい
先ほど
そのような報告が入りました
今頃は
クレ
ゼル
グランモラン川に到達しているでし
う
ベルニウス
よく言
た
ビ
ロウ
あのバカ
あの周辺は完全なくぼ地だ
ヘンチ
正気の沙汰とは思えませんね
クレ
ゼル
我々も
動いた方が良いのでし
うか？
ビ
ロウ
だめだ
遠い
我が軍との距離は絶望的に遠い
もう間に
合わない
何が起こ
ても
我々は助けることができない
ヘンチ
登場
ヘンチ
じ
あ
助けなくていいよ
ビ
ロウ
諜報参謀閣下
ヘンチ
僕らだけで
帰りまし
う
ビ
ロウ
私をベルリンに連
れて帰
て
ビ
ロウ
いえ
私は
ヘンチ
ナニ？
クル
クを助けに行きたいの？
もう無駄だ
てわ
か
てるのに？
ビ
ロウ
ヘンチ
あなたを置いて
ち
た男よ
仕返しよ
こ
ちも置いて
ち
え
ビ
ロウ
ヘンチ
判断が遅いぞカ
ル・ビ
ロウ
イギリス遠征部隊が動
いたら
壊滅的な打撃を受けるのは明白
迅速かつ的確な判
『フランダースの負け犬』
52
断を
ビ
ロウ
撤退
ヘンチ
大きな声でもう一度
ビ
ロウ
撤退
すぐさま撤退し
本隊との合流を図る
第一軍
激しい銃声が響く
ヒ
ンケル
どうした
何が起こ
た
ベ
ム
イギリス遠征軍が攻めてきた
ヒ
ンケル
何だと
ベ
ム
西にパリの守備部隊が現れた
ヒ
ンケル
ガリエニが動いたか
ベ
ム
ヒ
ンケル
ガリエニが動いたのか
掴みかかる
ベ
ム
退路を絶たれました
どうします
ヒ
ンケル
隊列を乱すな
撤退だ
マルヌ川まで撤退しろ
ベ
ム
撤退だ
ヒ
ンケル様の言う通り
撤退戦のイメ
ジシ
ン
やがてバラ
クが撃たれてしまう
ヒ
ンケル
バラ
ク
バラ
ク
し
かりしろ
バラ
ク
ヒ
ンケル
痛いよ
足をやられた
ヒ
ンケル
立てるか？
バラ
ク
肩を貸してくれないか
一人じ
歩けない
ヒ
ンケル
逃げるぞ
急げ
生き延びるんだよ
早く
バラ
ク
ヒ
ンケル
ビ
ロウ軍
撤退戦
ベルニウス
登場
『フランダースの負け犬』
53
ベルニウス
う
い
撤退う
い
クレ
ゼル
登場
ベルニウス ク
クレ
ゼル
クレ
ゼル
無事か
ベルニウス
ベルニウス
あ
なんとか大丈夫だ
クレ
ゼル
よし
じ
あ
行くぞ
ベルニウス
え
ち
と
どこ行くんだよ
クレ
ゼル
決ま
てるだろ
マルヌ川だ
ベルニウス
マルヌ川？
クレ
ゼル
第一軍は
多分そこにいる
俺たちも行くぞ
ベルニウス
う
い
撤退う
い
本国まで逃げるんだよ
クレ
ゼル
そんなことができるか
助けに行くんだよ
ベルニウス
は？
クレ
ゼル
ヒ
ンケルとバラ
クを見殺しにする気か
ベルニウス
お前
クレ
ゼル
友達だろ
何があ
ても
助けに行くんだ
ベルニウス
無茶だ
俺たちだけで何ができるんだよ
クレ
ゼル
そんなこと知るか
とにかく行くんだよ
ベルニウス
クレ
ゼル
落ち着け
て
う
い
撤退う
い
クレ
ゼル
もういい
俺一人で行く
遠くから銃声
伏せる二人
ベルニウス
やばい
て
敵はもうそこまで来てる
クレ
ゼル
畜生
こんな時に
弾が切れやが
た
ベルニウス
弾が切れやが
たか
もう諦めろよ
な？
弾が無くち
あ
何もできないだろ
クレ
ゼル
ベルニウス
お前は
弾持
てるのか？
『フランダースの負け犬』
54
ベルニウス
いや
俺もこれ
銃
に少し残
てるだけだ
クレ
ゼル
よし
俺に分けてくれ
ベルニウス
わか
た
お前の頼みなら
ひ
ふ
み
よ
てコラ
ふざけんなバカ
こんなトコで弾が無か
たら
やられちま
うだろ
クレ
ゼル いいからよこせ
早く
ベルニウス
勘弁してくれよ
弾はやれない
クレ
ゼル
早くよこせ
早くしね
と
早くしね
と
ヒ
ンケルが
やられちまう
バラ
クがやられちまう
友達だろ
ベルニウス
友達
クレ
ゼル
助けに行かなき
ダメなんだよ
ベルニウス
引き金を引く
倒れるクレ
ゼル
クレ
ゼル
え？
ベルニウス
その場から立ち去ろうとする
ベルニウス
クレ
ゼル
オフクロ
ベルニウス
再び発砲
クレ
ゼルの身体が翻る
クレ
ゼル
オフクロ
ベルニウス
再び発砲
クレ
ゼル
動かなくなる
ベルニウス
撤退
撤退
撤退
撤退
ベルニウス
闇に消える
『フランダースの負け犬』
55
１７
敗戦後の本陣
クル
クのもとに
ベ
ム
登場
ベ
ム
クル
ク将軍
ヒ
ンケルが
生還してきました
バラ
クも一緒です
クル
ク
頷く
ヒ
ンケル
登場
ヒ
ンケル
それみろ
俺の言
たとおりだろ
クル
ク
ヒ
ンケル
イギリスが動いたじ
ね
か
ガリエニがパリから出てきた
じ
ね
か
俺たち全員
死にに行
たようなもんじ
ね
かよ
おい
クル
ク将軍様
どんな気分だ
たんだ
弾の当たらないとこでさ
何千何万
ていう味方が死んで
いくの見んのはさ
どんな気分だ
たんだよ
え？ どん
な気分だ
たんだよ
ベ
ム
控えろヒ
ンケル
クル
ク将軍は西部戦線
高司令官にあ
られるぞ
ヒ
ンケル
へ
高司令官殿
てのは味方を犬死にさせるのが任務な
のですか
それはすごい
俺も早くそんな立派な軍人になり
たいもんだな
クル
ク
ヒ
ンケル
逃げるぞ
今ならまだ間に合う
土地も名誉もいらない
本国まで撤退だ
次に襲われたら
今度こそ全滅だ
クル
ク
ベルリンにいた頃
君は隊員達の前で演説をしていたね
フランダ
スの犬
について
とても興味深か
た
ヒ
ンケル
あ？
『フランダースの負け犬』
56
クル
ク
しかし
どうなのだろう
君は本当に
パトラ
シ
が殺せ
るのか？
ヒ
ンケル
何言
てんだよ
ベ
ム
今回の敗戦は
すでに皇帝陛下の耳にも入
ている
このま
ま本国へ帰
ても
我々に未来はない
責任を問われ
よく
て陸軍を除隊
悪ければ
銃口を突きつける
クル
ク
我々全員な
ヒ
ンケル
ふざけんな
そんなこと
てあるか
ベ
ム
皇帝陛下を納得させるためには
参謀本部はどんな手でも使
う
ヒ
ンケル
俺は反対した
クル
ク
連帯責任だ
結果として君は作戦に参加した
ヒ
ンケル
クル
ク
ま
聞いてくれ
責任を免れる方法が
一つだけあるんだ
ヒ
ンケル
クル
ク
簡単さ
他の者に
責任を転嫁する
ヒ
ンケル
何だと
そんなこと
クル
ク
ベ
ム
ベ
ム
我々はイギリス遠征軍及びパリ駐屯軍の存在には十分注意を
払
ていた
ところが偵察から突如
イギリス軍はセ
ヌ川
下流まで
撤退
したとの報告が入
た
我々はそれを聞き
安心してフランス軍を追撃した
しかし
実際は
イギリス
軍は軍の陣形を立て直していただけで
全く移動していなか
た
その結果
挟み撃ちに合い
撤退を余儀なくされた
ヒ
ンケル
なんだそり
？
クル
ク
作戦のミスではなく
偵察のミスということにする
ベ
ム
我々への処罰も
軽くなるだろう
ヒ
ンケル
バカか？
陣形の立て直しを撤退と報告するなんて
そん
なバカなミスありえない
戦場だぞ
戦場で
そんなバカみ
たいな
ベ
ム
それが
そうでもないんだ
『フランダースの負け犬』
57
クル
ク
いるんだよ
そういう
とてつもないバカをやりそうな人間
が
ヒ
ンケル
ベ
ム
しかし
計算外だ
た
生きて帰
てくるとはな
クル
ク
もう一度聞こう
君に
パトラ
シ
が殺せるか？
ヒ
ンケル できるわけないだろ
クル
ク
ならば君が死ぬか
ヒ
ンケル
あ？
クル
ク
我々の情けがわからんのか
ベ
ム
我々は当初
君を殺す予定だ
たのだ
クル
ク
君を殺し
全ての罪を君に着せるつもりだ
た
ベ
ム
しかし
やらなか
た
クル
ク
何故だか分かるか
ベ
ム
君は優秀だからだ
クル
ク
殺すには惜しいからだ
ベ
ム
しかし
あの男なら
クル
ク
死んでもいいだろ
ベ
ム
役立たずだ
クル
ク
役立たずだ
ベ
ム
君はダメだ
クル
ク
役に立つからだ
ベ
ム
死んではいけない
クル
ク
代わりに殺せ
ベ
ム
自分の代わりに殺せ
クル
ク
殺せば助かる
ベ
ム
生きていける
クル
ク
ドイツの為に戦えるぞ
ベ
ム
ドイツの為に戦えるぞ
クル
ク
君はこんなところで死んではいけない
ベ
ム
ドイツの為に生き延びろ
クル
ク
生きるんだ
『フランダースの負け犬』
58
ベ
ム
生きるんだ
クル
ク
もう一度聞こう
君にパトラ
シ
が殺せるか
１８
野営地
ヒ
ンケルとバラ
ク
バラ
ク
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
バラ
ク
大変なんだ
血が
全然止まらない
ヒ
ンケル
バラ
ク
ヒ
ンケル？
ヒ
ンケル
バラ
ク
分けてくれるよね
約束したもんね
ヒ
ンケル
え？
バラ
ク
約束だろ
血を分けに来てくれたんだろ
ね
ヒ
ンケル
いや
逆だ
ヒ
ンケル
バラ
クに銃口を突きつける
バラ
ク
ヒ
ンケル
き
と戦争なんだ
敵は
外だけじ
ないんだ
バラ
ク
ヒ
ンケル
ヒ
ンケル
俺は生きるぞ
今回の敗戦
悪いのはお前だ
全部お前が悪
いんだ
俺は悪くない
バラ
ク
ヒ
ンケル
俺のかわりに死ねよ
バラ
ク
よか
た
ヒ
ンケル
え？
『フランダースの負け犬』
59
バラ
ク
よか
た
僕
君の役に立てるんだね
ヒ
ンケル
バラ
ク
撃てよ
撃て
て
全部僕が悪いんだよね
そうだよ
それ
でいいんだ
それがバカの使い道だよ
僕す
ごいバカだか
らさ
き
と誰も疑わないよ
あのバカ
またヘマをや
た
んだな
て
皆信じるよ
僕
バカだからさ
僕がここで死
んでも
みんな納得だよ
バカだから
敵の弾をよけられな
か
たんだろう
て
笑うやつもいるかもしれない
バカだ
な
本当に
バカだな
て
ヒ
ンケル
バラ
ク
撃てよ
撃つんだ
撃
て
君は生きろ
ヒ
ンケル
生きる
てのは
か
こ悪いんだな
バラ
ク
ううん
すてきなことだよ
君は優秀だからさ
き
と生き
て
人の役に立てるんだろうな
僕はダメだよ
バカだから
生きてても人の役になんか立てない
よか
た
君の為に死
ねるんだからね
本当によか
た
こんなバカでも
役に立
てたね
僕を部下にして
よか
たね
撃てよ
ヒ
ンケル
バラ
ク
どうしたんだい？
何人も殺してきただろ
こんなバカ一人
殺すのなんて
わけないだろ
あ
そうか
僕が君の目を
見てるのが悪いんだね
分か
たよ
目を閉じるよ
これで
どうだい
こうすれば
殺し易いだろ
ヒ
ンケル
バラ
クに近づく
ヒ
ンケル
震えてんじ
ね
かよ
バラ
ク
ヒ
ンケル
怖いんだろ？
死ぬのが怖いんだろ？
バラ
ク
ヒ
ンケル
本当は
死にたくね
んだろ
じ
あ命乞いしろよ
助けて
ください
死にたくありません
て
命乞いするんだよ
『フランダースの負け犬』
60
バラ
ク
クビを振る
ヒ
ンケル
いいから
命乞いしろよ
お前のこと
死んで欲しくない
て思
てるやつ
いるんだぞ
そいつの為に
命乞いしろ
よ
死にたくない
て言えよ
バラ
ク
クビを振る
ヒ
ンケル できない
できない
できない
できない
バラ
ク
バカ野郎
引き金を引くんだ
ドイツを
強の国家にするん
だろ
その為に
手段なんか選んじ
いけないんだろ
君は
将軍じ
ないか
将軍が
そんな弱気でどうするんだよ
ヒ
ンケル
将軍だと
お前みたいなバカ一人の命も助けられないで
何が将軍だ
何が国家だ
バラ
ク
静かになる
ヒ
ンケル
バラ
ク
疲れたのかい
おやすみ
僕も疲れたよ
何だ
か
とても眠いんだ
バラ
ク
ヒ
ンケル
バラ
クを抱きしめる
出演者一同
登場
二人を取り囲む
救いの笑顔
ヒ
ンケルとバラ
クの側にベ
ム
天使
が寄り添う
ベ
ム
やがて
大聖堂の天井からほのか光がさし込み
天使たちが
ネロとパトラ
シ
を取り囲みました
天使たちはネロと
パトラ
シ
を連れて
空高く舞い上が
て行きました
お母さんやおじいさんのいる遠い国へと旅立
て行
たので
す
もうこれからは
寒い事や悲しい事やお腹の空く事もな
く
みんな一緒に
いつまでも
楽しく暮らすことでし
う
ベルリン
ドイツ軍参謀本部
クル
ク
今回の敗戦は
第三部隊の単独行動が原因であります
連中
『フランダースの負け犬』
61
がも
と慎重に動いていれば
こんなことにはなりませんで
した
ヘンチ
司令官はどうした？
クル
ク
はい？
ヘンチ
第三部隊の司令官
ミヒ
エル・ヒ
ンケル
ビ
ロウ
お前の親友だ
たな
ベルニウス
ヒ
ンケル？
そんな男は知りません
ヘンチ
司令官はどうした？
クル
ク
司令官ですか？
司令官のミヒ
エル・ヒ
ンケルは
フラ
ンダ
スで戦死いたしました
ベ
ム
銃を取り出し
ヒ
ンケルを射殺
ヒ
ンケルの身体が
バラ
クから引き離される
了
※
上演を希望する際は
有料・無料に関わらず
必ず劇団までご連絡いただき
戯曲使用の許諾をお受けください