excelに よる応答曲面法(rsm)の 解析(ii) - j-stage
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技 術 臨 床化 学37:308―316,2008
Excelに よる応答 曲面 法(RSM)の 解 析(II)
平野 哲夫*岩 崎 学**
Keywords:応 答 曲面 解 析,LD活 性,至 適 条 件
は じめに
医療 の分 野 で はEBM(Evidence-Based
Medicine)が 叫ばれ,科 学的根拠 に基づ く治療
が求められている。当然 のことながら「科学 的
根拠 に基づ く」とは医療 に限 らず 自然科学 にお
ける共通 問題 である。ある科学的事象 の解 明
は理論的合理性 に基づい た適切な実験計 画に
よって収集 したデータに対 し統計的手法 を用 い
定量的判断 を客観的に行 うことで達成 され る。
現代は各分野が さらに専 門化 されてきてはいる
が,い ずれの分野 においても実験は欠かせ ない
研 究手段 であり分野横 断型共通項 である。正
しい結論 は適切 な実験 により導かれる。どのよ
うな有 能なコンピュータを用 いてデータを処 理
しても実験 計画そのものが確 かなものでなくて
は時として誤 った結論 を導 くおそれがある。現
代科学者には,そ の分野 における専門的知識は
もちろん,適 切 な実験計画 ・数理統計理論 に基
づいたデータ解析技術 を持 ち合わせることが要
求される時代 になった。
実 験 計 画 法 の 一 つ で あ る 応 答 曲 面 法
(ResponseSurfaceMethodology:RSM)はBox
andWilson(1951)1)か ら始 まり数多くの研究がな
され優れた方法論 として認知 されている2-6)。
従来,応 答 曲面法の解析 には大規模 なソフト
ウェアとコンピュータが必要であった7)。近年日
本 においてもRSMが 各分野 で注 目されつつあ
り,い くつかのメーカーが市販のソフトを売 り出
しているが,一 般 に広 く用いられ るには至 って
い ない 。このRSMの 複 雑 な演 算お よび等 高
線 ・3次元 グ ラフ表示 について はMicrosoft
Excel(以 下Excelと 略)に 付属 している分析 ツー
ルを用いて簡単 に扱 える方法を紹介 した8)。
今 回,乳 酸脱水素酵素(LD)活 性測定勧告法
[乳酸(L)→ ピルビン酸(P)反 応]9)に おける乳
酸お よびNAD+濃 度の至適条件実験結 果 を例
にとりRSMの 適用 を試みた。回帰モデル適合
検定の指標 として,従 来 から用いられている統
計量 の ほかに,残 差 分析 としてPRESS残 差,
Studentized残 差(ri),R-student(ti)の 各残差,
影響度診断として効果点(hii),Cookの 標準距離
(Di値),な らびにモデル適合の指標 として重相
関係 数R,決 定係 数R2に 加 えCp統 計量4),予
測 に対するR2prediction,調整R2adjお よび説明変数
選択基準(Ru)10)を 付 け加 えた。重回帰分析結
果 を解釈する上で参考 となる基準 として有益 な
情報 と成 りうる応答 曲面解析 の一手法 として紹
介 したい。
材料および方法
1.LD活 性測定
・試薬:ジ エ タノールアミン(DEA)は 関東化学
(鹿特 級),L(+)-乳 酸 リチウムは シグマ社,
NAD+(ク リスタル)は オリエ ンタル酵母社 を使
用 した。その他 の試薬 は市販 の特級品 を使用
した。LD3は ヒト赤血球から精製 された シグマ
社 の標 品を用いた。
・LD活 性測定条件:LD活 性 はROTOCHEM
IIa(AMINCO社)に より測定した。測 定条件 は
*東京警察病院臨床検査第1部
**成蹊大学理工学部情報科学科
308
表1 Factorial Design Used for 13 RSM Experiments
aConcentration(mmol/ l )
Lagtime30sec,samplingintervals10sec(9
ポ イ ン ト),conversionfactorは2412と した 。
2.実 験デザインおよび回帰モデル
・実験デザイン:32-型 要因計画に中心点での実
験 を追加 した2次 の応答 曲面計画 を用いた。32.
型要因計 画は最 も標準 的な応答曲面計 画であ
り,中心点での実験 を付 け加 えることにより,回
転可能性(rotatability)と いう統計的に望 ましい
性質 を持 たせることができる3,4)。また,実 験点
の追加 により当てはまりの悪 さ(lackoffit)の
評価 も可 能 となる。変 数1を 乳 酸,変 数2を
NAD+と し,そ れぞれ3濃 度 について実験 した。
表1に 示すように,実 験点 として9通 りの組合せ
がある。各試薬 の組合せでLD活 性 を測定 した。
中心点(全 ての因子 の水準が0)は 文献的に用い
られている近傍濃度9,11,12)から乳酸55mmol/l,
NAD+10mmol/lと した。
ここ で,cubic2はcubicに お け る 説 明 力 が 弱
い 項 β112x12x2が 除 か れ た もの で,結 果 として本
稿 で 最 もよ い モ デ ル と評 価 され た もの で あ る。
な お,以 下 で は モ デ ル に お け る誤 差 εはE[ε]
=0 .V[ε]=σ2で あ り,互 い に独 立 とす る 。
・コー ド化:本 研 究 で 用 い たX1 ,X2の コ ー ド化
は次の通 りである。
x1=([乳 酸 濃 度]-55)/50
x2=([NAD+濃 度]-10)/9
乳酸濃度 の中央値 は55mmol/l,NAD+濃 度
は10mmol/l,実 験 幅 は それぞ れ50お よび
9mmol/lで ある(表1)。
臨床化学 第37巻第3号2008年7月309
3.解 析方法
・モデル適合検定の指標:重 相関係数 瓦 決定
係数R2,な らびに回帰式 による予測値,お よび
下 記の(1)~(8)に 示 す指標 を追加 した。
各指標の計算式 とその特徴 を以下に示す4)。応
答 曲面法は回帰モ デルの枠組みで推 定 され る
ので,以 下では回帰分析の用語 を用いる。
総実験 回数 をηとし,回 帰モデル における説
明 変 数 の個 数 をρとす る(上 述 の2要 因 の
Quadraticモ デルでは 、p=5で ある)。n回 の実
験 によって得 られる観測値 からなる π次列ベク
トルをyと し,回 帰式の説明変数からなるn×
(p+1)行 列 をXと する。Xは デザイン行列とも
呼ばれ,図1① がその具体例である。 このとき
回帰 係数 ベ クトル βの最小 二乗 推定 値 はb=
(X'X)-1X'yで 与 えられ(プ ライムは行列の転置を
表す),特 性値 の予測値は y=X(X'X)-1X'y=
Hyと なる。 ここで,H={hij}=X(X'X)-1X'は 観
①行列X
②行列X'
③行列X'X
④ 逆 行 列(X'X)-1
⑤ 行 列H=X(X'X)-1X'
⑥各統計量計算結果
図1Quadraticモ デルの計算例=行 列H=X(X-X)-1X'計 算過程(① ~⑤)お よび各統計量計算結果(⑥)
310
測値yか ら予測値yを 与 える行列で,yに ハ ッ
トをつけてyと することからハ ット行列 とも呼 ば
れる。 また,残 差 はe=y-y=(I-H)yと 表 わ
される(Iは単位行列)。HもI-Hも 対称行列で
あり,べ き等性H2=H,(I-H)2=I-Hを 満足
する。予測値お よび残差 の分散共分散行 列は
それぞれV[y]=σ2H,V[e]=σ2(I-H)で 与 え
られる。
特性値yお よび予測値yの 偏差平方和 をそ
れぞれSSTお よびSSMと し,残 差平方和 をSSE
とすると,等 式SST=SSM+SSEが 成 り立つ。
また,そ れ らを各自由度で割 った平均平方 をそ
れぞれMST=SST/(n-1),MSM=SSM/p,
MSE=SSE/(n-p-1)と する。これ らの記号 を
用いると,決 定係数(重 相関係数の2乗)はR2
=SSM/SST=1-SSE/SSTと なり,誤 差分散 σ2
の推定値 は通常 σ2=MSEで 与えられる。
I.残 差分析
モデルの当てはまりのよさを評価する最 も有
力 な手法 は残差分析 である。第i番 目の残差
ei=yi-yi(i=1,2,...,n)の 値そのものを評
価するより,そ れを基準化 した残差 を用いるほ
うが有用であることが多い。eiを誤差の標準偏
差(RMSerror)σ=√MSEで 割 ったdi=ei/σ
を標準化残差(standardizedresidual)と いい,
4は 近似 的に分散1と なる。それ以外 に以下の
ような基準化残差が提案 されている。
・Studentized残 差:ri=ei/√
δ2(1-hH),i=1,2,…,n(1)
V[e]=σ2(I-H)よ り,hiiをハット行列Hの 第
i対 角要素 とすると(図1⑤),第i番 目の残差ei
の分散はVar[ei]=σ2(1-hii)で ある。 よって,
eiを その標 準 誤差(の 推定 値)√ σ2(1-hii)で
割ったriは 分散1に 基準化 される。通常,説 明
変数xの 空間の中心から遠い実験点に対応 し
た残差は中央部の実験点 における残差よりも分
散が小 さくなる(下の効果点の項参照)。 モデル
からのずれ は中央部から遠い実験点で起 こりが
ちであるので,そ れを考慮 した残差の基準化が
望 まれる。Studentized残 差 は,そ のような実験
点の位置 に無 関係のバラツキを持 つことか ら,
モデルへ の不適合が検 出しやすいという利点 を
持つ。
・PRESS残 差:e(i)=y(i)―y(i),i=1,2,...,n
第i番 目の 観 測 値yiの 予 測 値 をそ の 観 測 値 を
除 い たn-1組 の 観 測 値 か ら求 め た 回 帰 式 に よ
り得 る とし,そ れ をy(i)と す る。 そ して そ の とき
の 残 差e(i)をPRESS残 差 とい う(下 付 き添 え 字
の 括 弧 は,括 弧 内 の 観 測 値 を 除 くこ とを 意 味 す
る)。PRESSはPredictionErrorSumof
Squaresの 略 で,
PRESS=n∑i=1e(i)2=nΣi=1(ei/1-hii)2(2)
により定義 され4),後 述する(6)式 のようにモデ
ル選択で用いられる。第i観 測値の予測値 をそ
の観測値 を除いた残 りのデータから予測するた
め,第i観 測値が回帰係数の推定 に大 きな影響
を持つ場合,そ れが検 出しやすいという利点 を
持 つ 。 誤 差 分 散 をMPsEに より推 定 す ると
PRESS残 差 はStudentized残 差 に一致すること
が 示 され る が,PRESS残 差 の 定 式 化 は
Studentized残 差のひとつの意味付 けとしても重
要である。
・R-student: ti=ei√
S2(i)(1-hii)
,i=1,2,...,n(3)
により定義 される。ここで
S2(i)=(n-P)MSE-e2i/(1-hii)/n-p-1)
であり,これはStudentized残 差における誤差分
散 σ2の 推定値を,PRESS残 差の場合 と同様の
考 えにより第i番 目の観測値 を除いて求 めたも
のである。 もし第i番 目の観測値が外 れ値 で
あった場合,そ れを除いて求めた分散の推定値
はMSEよ りも小 さくなるので(3)の 分母 は小 さ
くなり,結 果 としてR-studenttiは 大 きな値 とな
ることか ら,Studentized残 差 に比べ外れ値の検
出力が高 まる。
II.影 響度診断
・効 果 点(hii):hiiは ハ ット行 列H=X(X'X)―1X'
臨床化学 第37巻第3号2008年7月311
の第i対 角要素である(図1⑤)。Var[yi]=σ2
hiiであるので,hiiは 予測値の分散の大 きさを規
定する値である。 また,Var[ei]= σ2(1-hii)よ
り,このときの残差の変動は小 さい。すなわち
hiiが大きい場合,応 答曲面は第i観 測値の影響
を大きく受け,そ れに合わせ ようとする。よって,
hiiの大きな実験 点は応答 曲面 の推定 に大 きな
影響を持つことになる。効果点hiiは 実験領域
における実験 点 の大 まかな位 置 を表 していて,
hiiの 大きな実 験点は実験領域の中心か ら離れ
ていることを示す。実験領域の周辺部にある実
験点は応答曲面の推定に大 きな影響 を持 ち,そ
れがhiiに より示 されるのである。
・Cookの標準距離:
(4)
効果点hiiは 主 として実験点の位置 を表す指
標であるのに対 し,Diは 特性値 の影響 も加味 し
た尺度 であ る。 この ことは,(4)の 第2式 が
Studentized残 差riと 効果点の単調関数hii/(1-h
ii)との積か らなることからも見て取れる。Di
の大 きなデータは応答曲面の推定 に大 きな影響
を持ち,通 常 はDi>1が 影響 を与えやすい点
と考える。
III.モデル選択 の指標
・Cp統計量: (5)
モデル式 の 当 てはまりが よくて残差平 方和
SSEが 誤差分散 の推定値32に 比較 して小 さく,
モデル式が簡単で式中のパラメータ数pが 少な
いほど,Cpは 小 さな値 となる。 よって,単 純 で
しかも当てはまりのよいモデルを選択できると
い う意味で,Cp統 計量は異 なるモデル間の比
較 に用いられ る。モデル選択 では,Cp値 が最
小 となるモデルが望ましいと評価 される。
・予測に対する (6)
決定係数R2=1-SSE/SSTの 残差平方和
SSEを(2)のPRESSに 置 き換えたもので,決 定
係 数 に予 測 の 観 点 を加 え た 指 標 で あ る 。
R2predictionは回帰モデルの予測能力 を表 し,モ デ
ルと新 しい観 測の予測変動 を評価 する指標 で
ある。
・調整R2adj
(7)
説明変数 を追加すると通常の決定係数R2は
常に増加するが,特 性値に与える影響力が小 さ
い説明変数 を加 えると調整R2adjは 逆に減少す
る。調整R2adjの 評価 によりR2の みによる誤 っ
た判断を回避することができる。
・説明変数選択基準(Ru):
(8)
Ruは 説 明変数 をいくつ取 り入れた場合の式
が望ましいのか を判断する基準 であり,(7)の 調
整R2adjにさらにパラメータ数pの 影響 を加味 し
た指標 である。Ru値 が最大 となるモデルを選
択するという方策が考えられる。
一連の解析作業はMicrosoft Office2000が イ
ンス トー ル さ れ た パ ソ コ ン(エ プ ソ ン-
HPCPC500)に より表計算 ソフトExcelを 用いて
行 った8)。等高線 ・3次元 グラフ表示はExcelグ
ラフウィザ ードおよび各モデルの回帰係数計算
はExcel分 析 ツールの重回帰分析 を用いた8)。
4.各 統計量計算手順
式(1)~(8)の 統計量 は以下 に示す計算手順
に従い算 出した。 ここではQuadraticの 回帰式
の計算 を例 にとり説明する。
1.行 列Xお よびX'の 数値 テーブルリストを作
成する(図1① ②)。
2.行 列Xお よびX'の 積X'XはMMULT関 数 と
INDEX関 数 を用い次のように計算する。X'Xは
INDEX(MMULT(X'行 列範囲,X行 列範囲),
1,1)よ り算 出する(図1③)。
3.逆 行列(X'X)-1はINDEX(MINVERSE(行
列X'X範 囲),1,1)よ り算出する(図1④)。
312
4.効 果 点hiiは 行 列H=X(X'X)-1X'の 対 角 要
素 で あ る 。H=X(X'X)-1X'は 図1の 行 列 ① ×④
に よりX(X'X)-1を 求 め,X(X'X)-1× ② より算
出 され る(図1⑤)。
5.SSEは 実 測 値yiと 回 帰 計 算 値yiの 差 の平 方
和 で 求 まる。
6.σ2は 式 σ2=SSE/(n-p-1)よ り求 め られ る 。
7.SSTは 実 測 値yiと 実 測 値 の 平 均 値,と の 差
の平 方 和 で 求 まる 。
8.式(1)~(8)の 統 計 量 。4~7の 結 果 を式(1)~
(8)に 代 入 しExcelの 表 で 計 算 させ る(図1⑥,
表3)。
結果および考察
応答曲面法は連続 的な値 を取 りうる量的因子
が実験者 によって正確にコントロールできること,
ならびに対象 となる応答が十分 な精度で観測可
能な事象 について主 に適用 される。因子 と応
答の間の関数関係 は数式 として表現 される。重
回帰分析 によりこの式 を求め,得 られた関数の
妥当性 を分散分析表,重 相関係数R,決 定係数
R2,な らびに回帰式 による予測値,残 差 により評
価する方法が一般的である。
今 回,LDのH(心 筋)サ ブユニットとM(骨 格筋)
サブユニットを等量含むLD3を 用いLD活 性測定
勧告法 における乳酸お よびNAD+濃 度 の至 適
条件実験結果 を例にとりRSMの 適用を試みた。
新 しい統計 的手法4,10)を取 り入れモデル適合検
定の指標 として各種統計量を算出した。
表1に は2変 数乳酸 およびNAD+の 各組合 せ
での実験 デザインとLD活 性測定結果を示 した。
表2に はLinear(線 形),Quadratic(2次),
cubic(立 方),cubic2(立 方2)の 各回帰 により
表2Equations for ResPonse Surface Models
表3Summary of Statistics
SS: sum of squares, MS: mean of square. R2:R-Squared.R2adj :Adjusted R-Squared, R2prediction:Predicted R-Squared,
PRESS : prediction error sum of squares. Cp: measure of the total mean squared error for p-term regression model,
Ru:説 明変数選択基準
臨床 化 学 第37巻 第3号2008年7月 313
A B
図2乳 酸 ・NAD+濃 度 に対 しLD活 性%で 表 したCubic2モ デル の3次 元(A)お よび等高線 グラフ(B)
各模様 の表示活性%:
●:停 留 点 よ り算 出 した至 適 乳 酸 お よ びNAD+濃 度 を示 す.
△:勧 告 法9)で 定 め た 乳酸 濃 度(60mrnol/l)・NAD+濃 度(6mmol/l)
Lactate(mmol/l)
NAD+(mmol/l)
図3乳 酸 ・NAD+濃 度に対 しLD活 性%で 表 した
Cubic2モ デルの シ ミュ レーシ ョングラフ
A:乳 酸-LD活 性 曲線
B:NAD+-LD活 性 曲線
求 め られ た 回 帰 係 数 お よび 標 準 誤 差 を 示 した 。
表3に は モ デ ル 適 合 検 定 の 指 標 を 示 した 。 最 適
モ デ ル の 選 択 基 準 は 最 小 残 差 不 偏 分 散(MS
Residual),最 小PRESS値,最 小 ら 値 お よびR2,
R2adj,R2prediction,Ruが 最 大 を示 す 組 合 せ で あ
る。 ここ で は 表3のCubic2が 最 も適 して い る こ
とを示 して い る。Cubicで はR2adj値 は0.9809か
ら0.9771に 減 少 して い る 。 ま た,R2predictionは
0.9707か ら0.9103と 減 少 して い る 。 これ は 影 響
力 の 小 さい 項(x12x2)が モ デ ル に追 加 さ れ た
た め と判 断 で きる。
表4に は 最 適 モ デ ル と思 わ れ るCubic2の 回 帰
診 断 結 果 を まとめ た 。 各 測 定 点 に つ い て 残 差,
hii,Studentized残 差(ri),RStudent(ti),Di
値 が 示 され て い る 。Studentized残 差(ri)お
よびR-student値(ri)は ともに ハ ズ レ値 の 診 断
に有 効 で あ る。
図2に は 適 合 性 の よ いCubic2モ デ ル の 応 答 曲
面 を3次 元 ・等 高 線 プ ロット,図3に は 乳 酸LD
活 性 曲 線 お よびNAD+.LD活 性 曲 線 の シ ミュ
レー シ ョング ラ フを活 性 パ ー セ ントで 示 した 。 い
ず れ の 回 帰 もLD活 性90%以 上 を得 る 範 囲 は 乳
酸-NAD+濃 度 に 対 し平 坦 で あ る 。 図2の △ は
314
表4ANOVA for Response Surrace Cubic2Model
勧 告 法9)で定め た乳酸濃度(60mmol/l)・
NAD+濃 度(6mmol/l)で あり,い ず れの回帰
結果 もLD活 性90%以 上 を示 している。至適化
の2次 回帰式 より求められる停留点か ら算出さ
れ る 至 適 乳 酸 ・NAD+濃 度 は そ れ ぞ れ
70.6mmol/l,11.5mmol/l(図2B●)で ある。
LD活 性測定の乳酸 ・NAD+と もに高濃度では活
性 阻害や阻害剤の生成13)等が心配 され るため,
勧告法では乳酸濃度(60mmol/l)・NAD+濃
度(6mmol/l)と されている11)。
応答 曲面法 は合理的計画から得 られる数少
ないデータから因子間相互作用 を含 め多 くの情
報が得 られる。その他応答 曲面モデル適合の
妥 当性 を評価する指標 として得 られる各種統計
量(表2~4)は,結 果 を解釈する上で参考 とな
る基準として用いられる有益な情報 と成 りうる。
当てはめた回帰式 の妥当性 の検証 のために
は,本 論文で用 いたような多 くの統計 量が提案
されている。 これ らの統計量はそれぞ れが固
有 の役割を持つものであるが,ど れが適切 であ
るかの選択 に迷 う恐れがある。実務家 にとって
の選択の指針 として,第 一 に考慮すべ きはR2adj
値であろう。 これはExcelで も標準 的に出力 さ
れるものであり,R2adj値 が大 きなモデルがよい
モデルといえよう。モデル選択 の観点からはCp
値 も手助けとなる。残差の検討はモデルの適合
を評価する上で欠かせ ないプロセスであるが,
特 にモデルに適合 しないハズ レ値 の検出には
Studentized残 差(ri)お よびR-student値(ti)
が有効である。その他の統計量 にも,近 年の統
計解析 ソフトでは標準的に出力 されるものがあ
る。可能で あれば,複 数の統計量 間の整合性
をチェックするという方策も正しい結論を導くた
めには有用である。
今 回,LD活 性測定勧告法 を例 にとりRSMを
適用 し新 しい統計的手法 を取 り入れ解析 した。
これらの指標が適合 モデル妥当性 のより客観的
評価法として有効 であり,測定法 の開発研究 に
利用できることを確認 した。
RSMは 試薬の無駄 を最小限 に留 め,多 変数
の 因子 を同時 に変化 させることにより,効 率の
良い実験で至適条件の領域 を推定することがで
きる。従来は設備 の整 った研 究室 あるい は専
門的施設でのみにデータ処理 は制 限 されてい
臨床 化学 第37巻 第3号2008年7月 315
たが,現 在ではパ ソコンのアプリケーションソフ
トも充実 し,か なり高度 な演算やグラフ処理が
可能 になり8,10),日常業務 で オンライン処理 ・事
務処理等 に用 いられている表計算 ソフト・グラ
フ処理 ソフトを駆使することで比較的簡単 に扱
えるようになった。
■文 献1) Box GEP and Wilson KB: On the experimental
attainment of optimum conditions. Journal of the
Royal Statistical Society, Series B, 13: 1-45, 1951.
2) Myers RH: Response Surface Methodology, pp.
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廣 子:乳 酸 デ ヒドロゲ ナ ー ゼ 活 性 測 定 法 の 検 討.臨
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A search for the best buffer to use in assaying
human lactat dehydrogenase with the lactate-to-
pyruvate reaction. Clin Chem, 22:1872-1875, 1976.13)松 崎 廣子,平 野哲 夫,三 浦雅 一:市 販 β-NAD+標
品 中不 純物 によるLDア イソザイムの サ ブバ ンド形
成.生 物理化学,30:207-214,1986.
受付 日:2007年8月30日
受理 日:2008年6月20日
Analysis of response surface methodology using
Excel (II)
Tetsuo Hirano*, Manabu Iwasaki** *First Division of Clinical Laboratory , Tokyo
Metropolitan Police Hospital **Department of Computer and Information
Science, Faculty of Science and Technology,
Seikei University
*Corresponding author:
Tetsuo Hirano. First Division of Clinical Laboratory,
Tokyo Metropolitan Police Hospital. 2-10-41 Fujimi
Chiyoda-ku, Tokyo 102, Japan
E-mail: [email protected]