障害者虐待防止の研修のための ガイドブック(暫定版) ·...
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障害者虐待防止の研修のための
ガイドブック(暫定版)
平成 25年3月
社会福祉法人 全国社会福祉協議会
目次
Ⅰ 障害者福祉施設における虐待防止の取り組みの必要性 ------------------------ 1
◆障害者虐待防止にかかる制度の変遷
◆障害者福祉施設等における利用者への虐待防止の必要性
◆障害者福祉施設等の経営者・施設長に求められる視点
Ⅱ 障害者虐待防止研修プログラムに取り組むにあたって ------------------------ 3
◆「障害者虐待防止研修プログラム」の概要・目的
◆「障害者虐待防止研修プログラム」の基本的な進め方
◆研修を進めるうえでの留意点
Ⅲ 障害者虐待防止研修プログラムの全体像 ------------------------------------------ 4
Ⅳ 障害者虐待防止研修プログラム
1.障害者虐待の基礎的な理解 ----------------------------------------------------------- 6
(1)障害者虐待とは何か ----------------------------------------------------------- 6
(2)障害者虐待の実態 ------------------------------------------------------------- 10
2.虐待防止のための取り組みを学ぶ ------------------------------------------------- 15
(1)虐待防止の体制や取り組みを学ぶ ---------------------------------------- 15
(2)日常の支援における虐待行為を検証する ------------------------------- 17
(3)虐待防止の取り組みを事例から学ぶ ------------------------------------- 19
3.虐待の早期発見、発生時の対応 ---------------------------------------------------- 25
(1)虐待の早期発見 ---------------------------------------------------------------- 25
(2) 虐待発生時の対応 ------------------------------------------------------------- 28
4.まとめ -------------------------------------------------------------------------------------- 30
(1)障害者福祉施設等の取り組みの改善点について検討する ---------- 30
(2)自らの取り組みについてまとめる ---------------------------------------- 32
(3)地域のネットワークを生かした取り組みに広げる ------------------- 34
参考資料 ------------------------------------------------------------------------------------------ 37
◇障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律の概要
(厚生労働省作成) -------------------------------------------------------------------- 38
◇障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律
(平成 23年法律第 79号) ----------------------------------------------------------- 39
◇障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律施行令
(平成 24年政令第 244号)---------------------------------------------------------- 50
◇障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律施行規則
(平成 24年厚生労働省令第 132号) --------------------------------------------- 52
◇障害者虐待防止法に関するQ&Aについて
(平成 24年 11月 21 日付事務連絡/厚生労働省 障害福祉課 地域移行・
障害児支援室) ----------------------------------------------------------------------- 57
◇相談・通報・届出への対応(市町村)
(「市町村・都道府県における障害者虐待の防止と対応」平成 24 年 12 月・
厚生労働省 障害福祉課 地域移行・障害児支援室 P76~P90)-------- 68
◇自立支援協議会の設置運営について
(平成 24年3月 30日・障発 0330第 25号) ---------------------------------- 83
◇自立支援協議会の設置運営に当たっての留意事項について
(平成 24年3月 30日・障発 0330第8号) ----------------------------------- 87
障害者虐待防止研修プログラム等開発 作業委員会 委員名簿 ------------------- 90
障害者虐待防止の研修のためのガイドブック(暫定版)へのご意見 ----------- 91
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◆障害者虐待防止にかかる制度の変遷
障害者の人権の尊重や権利擁護の具体化を考えるうえで、虐待防止は欠かすことのできな
い取り組みです。一方で、これまでに家庭内や施設などにおいて、障害者への虐待行為を伴
う事件が発生し、障害者への虐待防止に関する法整備の必要性が指摘されていました。
虐待防止に関する法律については、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」
〔平成 12年 5月成立〕、「配偶者からの暴力の防止及び保護に関する法律(DV防止法)」〔平
成 13年 4月成立〕、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高
齢者虐待防止法)」〔平成 17年 11月成立〕が施行されています。また、平成 23年6月に、障
害者虐待の防止や養護者に対する支援等に関する施策を推進するため、「障害者虐待の防
止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)」が議員立法によっ
て可決・成立し、平成 24年 10月に施行されました。
また、平成 18年には、第 61回国連総会において障害者権利条約(障害者の権利に関する
条約)が採択されました(翌年、日本政府が署名)。障害者権利条約は、すべての障害者の人
権及び、基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、また、保護・確保すること、さらに障害
者の固有の尊厳を尊重すること等を目的としています。そして、この目的等を前提としながら、
「搾取、暴力及び虐待からの自由(16条)」とともに、「身体の自由及び安全(14条)」、「拷問又
は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由(15条)」を障
害者の権利として明記し、虐待防止や権利擁護に関する取り組みを要請しています。
現在、日本では、障害者権利条約の批准に向けた国内法制度の整備等を踏まえた議論が
進められています。そのなかで、障害者の人権の尊重や権利擁護の具体化に対する、社会全
体の意識も高まってきています。
◆障害者福祉施設等における利用者への虐待防止の必要性
障害者が安心・安全に福祉サービスを利用していくために、またサービスの質の向上という
視点からも、障害者福祉施設等にとって、利用者への虐待防止の取り組みは必要不可欠なも
のとなっています。
障害者虐待防止法には、「障害者福祉施設の設置者又は障害福祉サービス事業等を行う者
は、障害者福祉施設従事者等の研修の実施、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障
害者福祉施設を利用し、又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける
障害者及びその家族からの苦情の処理の体制の整備その他の障害者福祉施設従事者等によ
る障害者虐待の防止等のための措置を講ずるものとする」(第 15条)と障害者福祉施設等
の責務が定められています。
この責務を果たすためには、障害者福祉施設等が、組織的に障害者の権利や虐待防止
の重要性を確認するとともに、虐待防止に向けた具体的な実践を着実に進めることが求
められているのです。
Ⅰ 障害者福祉施設における虐待防止の取り組みの必要性
- 2 -
◆障害者福祉施設等の経営者・施設長に求められる視点
経営者・施設長は、虐待防止に向けた強い意志と対応を具体化するリーダーシップが
求められています。とくに「自分の施設では虐待は発生しない」という発想でなく、「ど
の施設でも発生する可能性がある」という視点をもつことが重要です。そのうえで、常
に虐待防止に向けた取り組みや仕組みづくりを行う必要があります。障害者福祉施設等
が組織的に権利擁護システムを機能させる上で重要な点は、経営者・施設長が障害者虐
待の定義や実態を正確に理解し、利用者への権利擁護意識を高く持つことはもちろん、
虐待防止に向けた組織的取り組みを率先して実践する役割を担うことです。
具体的な役割としては、法人としての理念、倫理綱領、行動規範、虐待防止指針の策
定や周知徹底、虐待の早期発見の仕組みづくり、権利擁護システムの組織化、職員への
権利擁護教育、関係機関と地域との連携体制づくりなどがあり、それらすべてにおいて
中心的な関わりと共にリーダーシップが期待されています。
虐待防止へ向けた体制作りには障害者福祉施設等のみの対応では限界があります。地
域の関係機関と連携して体制づくりを行うことも重要になります。虐待の早期発見のた
めには、地域のさまざまな関係者からの情報提供も必要になります。また、利用者への
対応においては、施設外での生活場面を考えると、地域住民やさまざまな機関との協力
は欠かせないものとなり、他機関との日常的な意見交換や研修機会の共有化などを図り
ながら、地域におけるネットワークを構築していくことも重要です。
経営者・施設長の役割としては、前述のとおり、システム化に向けた組織体制づくり
はもちろん、効果的な研修体制の整備も必要不可欠です。さらに職員のストレスを軽減
できるよう環境的配慮や労務管理上の人的配置や勤務体制づくりも大事になってきま
す。
また、障害者福祉施設等で提供するサービスが利用者のためになされず、福祉の専門
性が欠如したものとなっていることが、虐待発生の大きな要因となっていることも考え
られます。日頃から支援技術の向上に取り組むと同時に、福祉サービス第三者評価の受
審を積極的に行うことにより客観的に支援の内容を検証し、外部との関わりにより緊張
感をもった環境形成を行うなど、常にサービスの質の向上に努めていくことが経営者・
施設長の重要な役割といえるでしょう。
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◆「障害者虐待防止研修プログラム」の概要・目的
本ガイドブックで紹介する「障害者虐待防止研修プログラム」は、全国社会福祉協議
会が発行している「障害者虐待防止の手引き(チェックリスト)」を活用しながら、障
害者福祉施設等において取り組む研修プログラムとなっています。本ガイドブックは、
障害者福祉施設等の経営者・施設長や、研修会を企画する方、研修講師の方を対象にし
た説明となっています。
プログラムは次の4つの章で構成されています。
1.障害者虐待の基礎的な理解
障害者虐待とは何か、また障害者虐待の実態について学びます。
2.虐待防止のための取り組みを学ぶ
チェックリストを活用して、虐待防止の体制づくりや日常の支援について検
証します。また、事例を基に虐待防止に向けた具体的な取り組みを考えます。
3.虐待の早期発見、発生時の対応
虐待の早期発見の必要性を理解するとともに、発生時にとるべき対応につい
て学びます。
4.まとめ
チェックリストを活用して、虐待防止に向けた取り組みを再検証します。ま
た、地域のネットワークによる虐待防止の取り組みについて理解を深めます。
それぞれの章は、2~3つのセクションに分かれており、それぞれ 30~120分に区
切って研修に取り組むことができるようになっています。
各プログラムは講義形式だけでなく、チェックリストの回答結果や支援場面の事例を
基にしたグループ討議などの演習形式を組み合わせています。指導講師については、外
部の有識者だけでなく、施設における虐待防止推進の担当者も担うように示しています。
それぞれの障害者福祉施設等で着実かつ実践的に研修に取り組むようにしてください。
◆「障害者虐待防止研修プログラム」の基本的な進め方
各章のセクションごとに、プログラムを実施するにあたって指導講師が留意する点や、
基本的な研修会の流れ、研修を行ううえでのポイント等を説明しています。また、演習
での活用を想定した例示・事例なども掲載しましたので、活用してください。
プログラムに示された内容を参考にしながら、障害者福祉施設等の規模や状況に応じ
て研修を進めていただきたいと思います。
◆研修を進めるうえでの留意点
プログラムを進めるうえで、とくに指導講師が留意していたい点、研修で伝えてほし
い点などについては、各セクションの最後に留意点としてまとめています。留意点に示
された事項を踏まえながら、研修に取り組んでください。
Ⅱ 障害者虐待防止研修プログラムに取り組むにあたって
Ⅲ 障害者虐待防止研修プログラムの全体像
セクション 研修の内容
1.障害者虐待の基礎的な理解
(1)障害者虐待とは何かについて学ぶ
・虐待とはどのような行為なのかについて、法律上の定義などについて理解を深める。・法令で定められた対応の基本的な内容を理解する。・施設全体で利用者の虐待防止に取り組む必要性について理解する。・高齢者虐待や児童虐待など、関連領域の虐待防止法等について知識を深める。
(2)障害者虐待の実態を学ぶ
・事例やマスコミ報道された内容などをとおして、障害者虐待の実態を知る。・「虐待は特別な場面や環境で起こるのではなく、どこでも起こり得る」ということを理解する。・施設全体で利用者の虐待防止に取り組む必要性について理解する。
2.虐待防止のための取り組みを学ぶ
(1)虐待防止の体制や取り組みを学ぶ
・虐待防止に向けての体制づくりの必要性について理解する。・体制づくりのために何が必要か、具体的な対応について学ぶ。・虐待防止に向けて、自分の施設の現在の体制や取り組みを知る。
(2)日常の支援における虐待行為を検証する
・日常の支援で、虐待となる行為、虐待につながる行為について確認し、改善が必要な点について確認・共有する。・具体的な改善策について考える。
(3)虐待防止の取り組みを事例から学ぶ
・入所、通所、訪問などの場面ごとに他施設における取り組み事例から虐待防止の体制づくりや取り組みについて学ぶ。
3.虐待の早期発見、発生時の対応
(1)虐待の早期発見
・虐待の早期発見の必要性を理解する。(早期発見できない場合の影響、法律上の責務、等)・虐待の早期発見のために必要な取り組みは何か、施設内での対応のほか、地域のネットワーク等も生かした対応等を考える。・虐待の早期発見のためのチェック項目などについて理解する。
(2)虐待発生時の対応・虐待が発生した際の通報の必要性について学ぶ・虐待行われた場合の施設での対応について、それぞれの役職等による役割や対応の手順などについて共通理解をすすめる。
4.まとめ
(1)障害者福祉施設等の取り組みの改善点について検討する
・障害者福祉施設等の虐待防止の取り組みについて、さらに改善できる可能性について検討・提案する。・障害者福祉施設等における虐待防止の推進の体制づくりや役割等について考える。
(2)自らの取り組みについてまとめる
・研修をとおして学んだことを中心として、虐待防止において自ら取り組むべきことを確認する。
(3)地域のネットワークを生かした取り組みに広げる
・地域のネットワークを生かした虐待防止の取り組みの必要性を理解する。・地域のネットワークをいかに構築し、機能させていくか、具体的方策について検討・提案する。
研修の方法 講師・指導者 研修時間
講義形式 30分
講義+演習形式(グループワーク) 60分
演習形式(個人ワーク、グループワーク) 90分
演習形式(個人ワーク、グループワーク) 90分
演習形式(グループワーク) 90分
演習形式(個人ワーク、グループワーク)
60分
演習形式(個人ワーク、グループワーク)
60分
演習形式(個人ワーク、グループワーク)
90分
演習形式(個人ワーク、グループワーク)
60分
演習形式(グループワーク)
・施設長・管理者・サービス管理者 など
90分
・虐待防止推進担当者・サービス管理者・チームリーダー など
・虐待防止推進担当者・サービス管理者・チームリーダー など
・第三者委員・虐待問題に詳しい法律家など
・虐待防止推進担当者・サービス管理者・チームリーダー など
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セクション(1)障害者虐待とは何か (研修時間:30分)
【研修のねらい】
①虐待とはどのような行為なのかについて、法律上の定義などについて理解を深めます。
◆障害者虐待防止法上の定義
障害者虐待防止法では第 2条(定義)において、「この法律において『障害者虐待』」とは、
養護者による障害者虐待、障害者福祉施設従事者等による障害者虐待及び使用者による障
害者虐待をいう。」(第 2項)と定義しています。すなわち、「虐待」という行為を行った者を特定
して、法律が対象とする虐待の範囲を示しています。
今、障害者(児)に対する虐待とは、「障害者に対する不適切な言動や障害者自身の心を傷
つけるものから傷害罪等の犯罪となるものまで幅広いもの」といった捉え方が一般的になって
います。新聞報道などで「虐待」というと、激しい暴行を加えた、年金を横領したなど、「犯罪」レ
ベルの厳しい行為が注目されがちです。しかし、「無視した」「落ち着かないからと部屋に閉じ
込めた」など、「不適切な言動」も虐待と明確に位置付けられたことは重要です。
「虐待」は英語では、“abuse”です。“normal”(通常の)に対する“abnormal”(異常な)など、「不
適切な」という意味の”ab”に、“use”(使う、用いる)が付いたものです。つまり、「不適切な権力
の使い方」という意味です。本来なら、障害者を守る立場にある家族や施設職員、雇用主など
が、権力を乱用し、厳しい状況に追いやることが「虐待(abuse)」なのです。
したがって、いじめや体罰も同じですが、虐待をした側の意図は問題ではありません。しつ
けや指導のつもりで行ったことであっても、それで本人が傷ついたり、追い込まれたりしたなら
ば、それは「虐待」なのです。障害者を支援する側の力量不足が、結果として「虐待」を招いて
しまうのです。しかし、そうした痛みや心の傷を、「不当なこと」として訴えることができないのが
多くの障害者です。こうした力関係の違いから虐待が生じるということを、特に施設や職場で支
援にあたる者は、肝に銘じておくことが必要です。
◆虐待の行為者
障害者虐待防止法の第 2条では、「虐待」者として、①養護者(第 4項)、②福祉施設等従
事者(第 4項)、③使用者(第 5項)の三者を位置づけています。
「養護者」とは、家族や親族、同居人など、家庭で障害者を守る立場の人です。「福祉施設
等従事者」とは、障害者自立支援法(平成 25年4月から障害者総合支援法に改正)に定める
障害者施設の職員や、身体介護や移動支援などのサービスに関わるサービス事業者、地域
のさまざまな相談に応じる相談支援事業者などです。そして「使用者」とは、障害者を雇用する
事業主などです。
ここで、障害者虐待の場としてしばしば指摘される学校や病院、保育所などの関係者が入
っていないことが注目されます。特別支援学校や精神科病院など、外部の目が届かない「密
1.障害者虐待の基礎的な理解
Ⅳ 障害者虐待防止研修プログラム
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室」で障害者(児)虐待が起こりがちなことは周知のとおりです。しかし、今回の法制定では、学
校や病院などについては定義には位置付けられませんでした。学校長(第 29条)、保育所長
(第 30条)、病院長(第 31条)などの管理者の責務は示されていますが、今後の大きな課題が
あり、附則で法施行後3年の見直し時に、検討することとされています。
◆施設内虐待、使用者の虐待、家庭内虐待、経済的虐待、人格的虐待に関する特徴
虐待の種類は、高齢者虐待防止法と同じ 5 類型となっています。すなわち、①身体的虐待、
②性的虐待、③心理的虐待、④ネグレクト、⑤経済的虐待です。この 5種類の虐待について、
養護者による虐待(第 2条第 6項)、施設職員等による虐待(第 2条第 7項)、使用者による虐
待(第 2条第 8項)に分けて、それぞれに特徴的な虐待の内容が規定されています。
高齢者虐待防止法などと異なる点として、「身体的虐待」の中に「正当な理由なく身体を拘
束すること」という身体拘束について明記されたことが注目されます。落ちてケガをしないように
と、ベッドや車いすに縛り付けることは「虐待」なのです。また、オムツを取ってしまわないように
と、「つなぎ服」などの拘束衣を着せることも原則、虐待です。こうしたことをしなくても障害者の
安全が保てる支援はどうあるべきか、支援者の力量が問われています。
このように、身体拘束などの尊厳を傷つける行為をしてはならない、プライバシー侵害をして
はならないといった内容を、「虐待防止」として位置づけたことから、「人格的虐待」という言葉
が新たに注目されています。虐待とは、広い意味で全て「尊厳を傷つけること」であるので、5
類型とも広義には「人格的虐待」であるとも言われます。こうした視点を強調しているところも、
障害者虐待防止法の新たな注目点です。
②法令で定められた対応の基本的な内容を理解します。
◆障害者虐待防止法において求められている事項
・障害者に対する虐待の禁止
第 3条では、「何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない」と定めています。どのような立
場の者であれ、また、どのような理由があろうとも、虐待はしてはならないのです。指導のためと
称する体罰などが話題となりますが、親でも教師でも決して許されはしないのです。本人が傷
つき、自らの存在を否定することにさえなる行為は、すべて許されはしないのです。
・障害者虐待の早期発見
第 6条は、「障害者虐待の早期発見」です。①国及び地方公共団体(第 1項)、②障害者福
祉施設、学校、医療機関、保健所などや、そこで働く者を「障害者虐待を発見しやすい立場」
にある者(第 2項)として、「障害者虐待の発見に努めなければならない」と定めています。
・通報義務、通報への対応の基本的な流れ
障害者虐待防止法は、誰が虐待を行ったかで通報義務や対応の流れを整理しています。
養護者による虐待を「発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない」
(第 7条)義務があり、市町村は届出を受けたら障害者の安全を確保し、措置を講じなければ
なりません(第 9条)。市町村はどのような対応が必要かを判断し、居室を確保したり(第 10条)、
立入調査をしたり(第 11条)、警察の協力を求めたりします(第 12条)。ここで重要なのは「養
⇒「障害者虐待防止の手引き」P1~6参照
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護者の支援」(第 14条)です。家族が障害者に虐待をしてしまうのは、多くは家族に大きな負
担がかかってしまうからです。そうした負担を軽減し、相談や助言をすることが明記されていま
す。
同様に、福祉施設従事者等による虐待の通報義務(第 16条)が定められています。通報先
は身近な市町村となっており、通報を受け、市町村長や都道府県知事が、関係する法律にの
っとって、権限を行使することとなっています(第 19条)。
また、使用者による虐待の通報義務(第22条)が定められており、市町村または都道府県が
通報先となっています。通報を受け、都道府県労働局長や労働基準監督署長、公共職業安
定所長が、権限を行使することとなっています(第 26条)。
・市町村障害者虐待防止センター、都道府県障害者権利擁護センターの役割
市町村には、行政の障害者福祉担当部署か施設に市町村障害者虐待防止センターを設
置することが求められています。また、都道府県には同様に都道府県障害者権利擁護センタ
ーの設置が求められています。これらのセンターが、虐待に関する通報を受け、その後に適切
な措置を講じていく役割を担うことになります。
③施設全体で利用者の虐待防止に取り組む必要性について理解します。
◆障害者虐待防止法で規定されている事業者の責務
・障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止等のための措置
障害者福祉施設の設置者やサービス事業の管理者には、職員の研修を実施し、利用者や
家族からの苦情解決体制を整備し、虐待防止のための措置を講ずることが求められています
(第 15条)。行政の役割などとは別に、支援を提供する立場の責務として、虐待防止が機能す
るような内部システムの確立が求められています。
◆関連通知で求められている事項
障害者虐待防止法が成立する前から、障害者(児)施設で厳しい虐待が起こる度に、厚生
労働省は通知などを出して、施設での支援について注意を喚起しています。
「障害者(児)施設における虐待の防止について」(平成 17年 10月 20日)では、虐待が起
こりやすい施設の構造について指摘しています。①虐待は密室の環境下で起こる、②虐待は
エスカレートする、③職員に行動障害などに対する専門的な知識や技術がない場合に起こり
やすい、という 3点を挙げています。特に 3番目の力量不足については、日々の支援の中で
常に反復する姿勢が求められます。
そして、虐待を防止するための留意点について言及しています。①虐待を未然に防止する、
②早期に発見して迅速に対応する、③再発防止の観点から支援や指導をきめ細かく行う、の
3点です。そのために施設全体で取り組むべき課題を整理し、具体的な方策を示しています。
この中で、職員が自らの行動を虐待と認識しないことも多いため、掲示物で自らを戒めること
なども提案しています。具体例として示された次の言葉は、虐待の本質と職員の在り方を見事
に言い当てているのではないでしょうか。「自分がされたら嫌なことを障害者(児)にしていませ
⇒「障害者虐待防止の手引き」P1、6~8参照
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んか。常に相手の立場で、適切な支援を心がけましょう」。 虐待が、それを受けた人の尊厳を
傷つけ、存在を否定することにもなるということを、改めて心に刻み付けることが必要です。
◆施設全体で取り組みを徹底することの必要性
福祉施設等で障害者虐待が起こると、人権意識の低い職員がたまたまこの施設で働いてい
たからだ、と個人の責任に帰す捉え方がされがちです。しかし、どのような理念で支援を行っ
ていたか、虐待につながらない日頃の支援の在り方や人権研修などが確実に行われていたか
など、組織の在り方こそが問われなくてはならないのです。また、特定の部署に負担が大きい
ときにそこで虐待が起こることが多くあり、組織全体の支援を見直すことが求められます。常に
質の高い支援を追求することが、結果として虐待を防止することになるといった視点からも、施
設全体で虐待防止に取り組むことが必要です。
④高齢者虐待など、関連領域の虐待防止法等との違いと対応について知識を深めます。
◆高齢者虐待防止法などの関連法令と障害者虐待防止法の相違点
平成 12年の児童虐待防止法、平成 13年のDV防止法、平成 17年の高齢者虐待防止法、
平成 22年の障害者虐待防止法と、確実に虐待防止法も「進化」してきたと考えられます。
法律の専門家として、平田厚弁護士は障害者虐待の新しい点を 3点に整理しています。第
1に、使用者による虐待も対象としていること、第 2に、正当な理由のない身体拘束が身体的
虐待の定義に含まれていること、第 3に、虐待予防の対応システムとして、市町村に虐待防止
センター、都道府県に障害者権利擁護センターの設置が求められていることです。
さらに、障害者虐待防止法を運用するにあたっての留意点も指摘しています。第1に、障害
特性に応じた対応です。現実に障害の種類によって虐待の起こり方が違ってくるのは歴史が
物語ってもいます。特に、知的障害の人に対しては、本人が気づかないようなかたちで人格を
無視する行為が行われることを強調しています。第2に、使用者による虐待が位置付けられた
ことを評価しながらも、賃金差別や職場での無視など、さまざまなかたちで虐待が起こることへ
の確実な対応を求めています。第3に、身体拘束を物理的な身体的虐待とのみ捉えるのでは
なく、支援者の都合で人格を否定する行為であることについて注意を喚起しています。まさに、
虐待を受けた側に立つことの重要性です。第4に、こうした障害者の視点に立って虐待対応を
するためにも、相談支援の重要性を強調しています。障害者虐待防止センターが地域の基幹
相談支援センターなどと連携し、地域のネットワークのなかで虐待対応を進めていくことがます
ます求められてくるといえるでしょう。
【研修の方法】(例示)
〔形式〕講義形式
〔講師・指導者〕第三者委員、虐待問題に詳しい法律家、研究者など
【研修を進めるうえでの留意点】
◇研修会実施前に、参加者に「障害者虐待防止の手引き(チェックリスト)」の第1
章~第3章を熟読しておくように伝えると、当日の進行がスムーズになります。
◇講義を機に、自分の施設等での支援を虐待防止の視点から振り返ってみましょう。
⇒「障害者虐待防止の手引き」P6~7参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P1参照
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セクション(2)障害者虐待の実態 (研修時間:60分)
【研修のねらい】
①事例や事件報道された内容などをとおして、障害者虐待の実態を把握します。
◆統計・調査結果データや、事件報道等の紹介
<ポイント>
現場で何が起こっているのか、その実態を学びます。その際に、セクション1で説明した障害
者虐待の定義や特徴などと照らし合わせて考えられるよう提示します。経済的虐待と心理的虐
待など、複合的に虐待を受けている事例、虐待者や被虐待者が虐待として認識できていない
事例が多く存在していることにも触れます。
②虐待は特別な場面や環境で起こるのではなく、「どこでも起こり得る」ということを
理解します。
◆例示(日常起こり得る行為)による虐待行為の考察
◆グループワークによる課題の共有
<ポイント>
どこまでが不適切なケアでどこからが虐待なのか判断がつかないという声が多く聞かれます
が、そもそも不適切なケアそのものもなくしていく必要がありますし、その延長線上に虐待が起
こりうる可能性は否定できません。自分たちの日常の実践を虐待防止という視点で意識化する
ことが重要です。
③施設全体で利用者の虐待防止に取り組む必要性について理解します。
◆グループワークの結果の全体共有
◆セクション1で学んだ虐待の定義や特徴の再確認
<ポイント>
虐待は日常の実践のさまざまな場面で起こる可能性があり、それゆえに、虐待とは何かという
ことを十分に理解しておくことが防止の第一歩です。日々の実践を振り返り、虐待に関する感
受性を高めることがこのセクションの目的でもあります。
【研修の方法】(例示)
〔形式〕講義+演習形式
〔講師・指導者〕第三者委員、虐待問題に詳しい法律家、研究者 など
〔研修にあたっての準備〕
◇セクション1での講義を踏まえ、講師より障害者虐待の全体像を把握するため、講
師は参考となる障害者虐待に関する統計データや虐待に関する報道記事を用意し
ます。
⇒「障害者虐待防止の手引き」P4~5参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P1~3参照
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(参考例)
① 統計データ
・「家庭内における障害者虐待に関する事例調査」(平成 19年 11月・滋賀県社会福
祉協議会)
http://www.shigashakyo.jp/tiiki/kenri/071217/text.pdf
・「障害者の権利擁護及び虐待防止に向けた相談支援等のあり方に関する調査研究
事」業報告書 (平成 21年度障害保健福祉推進事業 社団法人日本社会福祉士
会 調査研究委員会)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/cyousajigyou/jiritsushien_proj
ect/seika/research_09/dl/result/01-10a.pdf
・愛媛県「障害者虐待に関するアンケート調査」(平成 23年2月実施)
http://www.pref.ehime.jp/h20700/1195586_1958.html
② 障害者虐待に関する代表的な事件
(1)入所施設における事件
・富士聖ヨハネ学園事件(1996年):山梨県の知的障害者更生施設において、食事介
助等の放棄や暴力の末の死亡、性的虐待を受けたと報じられた事件。
・白河育成園事件(1997年):福島県の知的障害者更生施設において、日常的に暴力
を加えられ、多量の睡眠薬を飲ませられるなどの虐待を受けた事件。
・カリタスの家事件(2006年):福岡県にあるカリタスの家において、職員が入所者
に熱いコーヒーを飲ませて火傷を負わせた、消毒用の木酢液を顔にかけた等の身体
的虐待が明るみに出た事件
(2)雇用者による事件
・水戸事件(1995年):水戸市の段ボール加工会社「アカス紙器」は多くの知的障害
者を雇用し、寮生活をさせていたが、社長による経済的搾取、暴力、女性社員に対
する性的暴行などが問題となった事件。
・サン・グループ事件(1996年):滋賀のサン・グループにおいて、身体的虐待と経
済的搾取が日常的に行われていることが提訴された事件
◇少人数のグループに分けられるよう、参加者のグループ編成を行います。
◇また、グループワークの際の記入用に、メモ用紙をグループ分用意します。
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〔研修の標準的な進め方〕
①調査結果や報道等でみられる障害者虐待の実態 (5分)
講師が用意した障害者虐待に関する統計データや虐待に関する報道記事を紹介しま
す。
②グループワーク (30分)
4~5人の小グループに分かれて、本ガイドブック(12~14頁)にある例示をもとに、
各項目の何が虐待行為に該当するか、あるいは虐待行為につながる恐れがあるか、につ
いて討議します。
③全体討議 (15分)
討議結果を全体会で共有します。
(発表を踏まえて、全体での質疑応答や意見交換を行います。)
④まとめ (10分)
障害者虐待の定義や特徴などを確認しながら、全体討議を総括し、セクションを終了
します。
【研修を進めるうえでの留意点】
このセクションは基本的なことに関して学んでもらうものであり、事例の詳細にこだ
わって検討することを目的としているわけではありません。事例から、本質的な事柄に
関して意識を働かせてもらうという意味で提示してあります。その意図をよく理解して、
検討を行ってください。
【グループワークで活用する例示(例)】
① Aさんは下肢に障害がある 26歳の男性です。車いすを使用していますが、自走もで
き、空き缶回収の仕事では、みんなと一緒にでかけたりもしています。ある日、回
収が遅れて、急いで帰らないと送迎に間に合わないからと、職員がAさんの車いす
を押して走り出しました。次の空き缶回収の時に、いつものようにAさんに声をか
けたのですが、「行かない」というのです。
<討議のポイント①>
Aさんが「行かない」といった理由を考えてみましょう。ひとつは、いつも自走して
いるのに、車いすを押されたことで自尊心が傷ついたことが考えられます。また、急い
でいる職員に押されたことで、不安や恐怖を感じたのかもしれません。職員の都合に利
用者を合わせてしまうことが不適切なケアであることは間違いありません。車いすなど
の操作で、坂道などでスピードが出すぎたり、急に旋回されたりして苦痛や恐怖を感じ
させたことが虐待にあたると考える人もいます。この事例の場合、どう考えればいいで
しょう。
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②Bさん(58歳・男性)は軽度の知的障害があり、以前は企業に雇用されていました
が、景気の悪化と年齢的にも肉体労働が厳しくなってきたということで、就労継続支
援事業B型に通所しています。障害年金とこれまでの貯金がありますが、同居してい
る兄嫁がずっと管理しており、1日 500円の小遣いしかもらってないようです。お昼
代にも事欠くような状況ですが、Bさんは兄嫁に頭が上がらないので、増額を申し出
ることができないでいます。
<討議のポイント②>
年金と貯金が誰のものかというと、Bさんのものです。しかしながら、家族は渡すと
浪費してしまうかもしれないといった不安から、まとまったお金を渡すことを躊躇した
り、金額を低く抑えようとすることもあります。
また、一緒に生活しているのだから、Bさんのお金は家族のものと考える人もいます。
しかし、皆さんがBさんの立場におかれたらどう判断しますか。
③Cさんは 43 歳の統合失調症の女性です。最近、スーパーでパートとして働くことと
なりました。障害があることは伝えてあるのですが、教えてもらおうとして話しかけ
ても無視されたり、並べた商品を黙って並び替えられたりしてしまいます。店長に相
談しても取り合ってくれません。職場で孤立してしまったCさんは精神的にも追いつ
められ、調子を崩してしまいました。
<討議のポイント③>
Cさんの場合、暴力や暴言ではありませんが、無視される、仕事を教えてもらえず、
やった仕事をやり直されるということで、ネグレクトされていたり、心理的な苦痛を与
えられたりしています。そのことを訴えても対処してくれない雇用者は、そこに加担し
ているということになります。精神障害者の場合、人間関係がうまくいかず、調子を崩
すことが多いのですが、具合が悪くなると原因を問わず、やっぱり病気だからだめだと
いう評価を受けがちです。こうした虐待を防ぐには、起こったことへの支援だけでなく、
病気や障害を理解してもらえるよう啓発していくことも重要です。
④Dさんは 22歳の女性です。脳性マヒによる体幹機能の障害と重度の知的障害があり、
常に介助を必要とする状態です。入浴時に、いつもなら女性の職員が手伝うことにな
っているのですが、職員の休暇が重なり、どうしても男性職員が1名入るシフトにな
ってしまいました。Dさん自身、自分の意思を明確に表現することは難しいのですが、
はたしてこのままでいいのでしょうか。
<討議のポイント④>
「Dさんの理解が十分ではないから、構わないだろう」、「異性の入浴や排せつ介助は
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嫌だとはっきり意思表示できない人なら、大丈夫」というような考え方は、障害のある
人たちの尊厳を損ねることにつながります。また、行き過ぎた介助は性的虐待と受け止
められるリスクもあります。こうした問題は現場の管理者の考え方や裁量、現場職員の
気づきのなさ等によって引き起こされるのです。
⑤自閉症のEさんは男性で体も大きく、パニックになった時、自分の安全を守ることが
できません。先日、施設の利用者、職員と施設の周りを散歩していたとき、Eさんは
ちょっとしたコースの違いが納得できずに、その場から走り出し、大きな道路に飛び
出そうとしてしまいました。やむを得ず2名の男性職員で羽交い絞めにして連れ帰り
ました。次の日、市の虐待防止の担当から電話が入りました。昨日の様子を目撃した
市民の人が通報してきたというのです。
<討議のポイント⑤>
身体拘束は許されることではありませんが、3要件(切迫性、非代替性、一時性)が
満たされることによって消極的に容認されるものです。しかし、通行人等が往来する場
所でパニックになった場合、周囲の人には状況は理解されず、虐待と受け止められても
仕方のない場合があります。かといって、外出させなければ、世間に知られることもな
く、Eさんへの刺激も少ないから安心だといった考えは異なる虐待を引き起こす可能性
があります。職員がよくジレンマに陥るのは、このような状況ではないでしょうか。
やむを得ず拘束を行う場合は、その状況を説明する責任がありますから、管理者、家
族への報告、記録への記載が必要です。また、本人のケアも忘れてはなりません。
⑥地域活動支援センターを利用している統合失調症のFさん(35 歳・女性)が、スポ
ーツのプログラムで着替えをしている際に、女性職員が腿に青いあざを複数みつけま
した。Fさんに「どうしたの?」と聞くと、「転んだ」という返答でした。しかし、
腿の内側にもあざがあったため、「ここには転んであざはなかなかできないよ」とい
うと、急に泣き出してしまいました。同じ病気を持つ兄と二人で暮らしていますが、
調子が悪くなると暴力をふるうということでした。
<討議のポイント⑥>
虐待の問題は、虐待している人にも多くの困難(貧困、病気、障害等)がある場合が
多いことが指摘されています。しかし、虐待は虐待ですから、その現実を Fさん、兄と
もに理解してもらうことが大切です。その上で、被虐待者、虐待者に対してどういう支
援があり、どういう支援が有効だと考えるのか、わかりやすく伝え、支援システムを構
築していくことが防止につながるのではないでしょうか。
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セクション(1)虐待防止の体制や取り組みを学ぶ (研修時間:90分)
【研修のねらい】
①虐待防止に向けての体制づくりの必要性について理解します。
◆組織的な対応の必要性の理解
②体制づくりのために何が必要か、具体的な対応について学びます。
◆「A:体制整備チェックリスト」に示された取り組みの概要の理解
◆「B:虐待防止に関する取り組みの推進・改善シート」を活用した課題への対応策の検討
③虐待防止に向けて、自分の施設の現在の体制や取り組みへの理解を深めます。
◆グループワークの結果(自施設における体制状況、課題、今後の対応等)の全体共有
【研修の方法】(例示)
〔形式〕演習形式
〔講師・指導者〕虐待防止推進担当者、サービス管理者、チームリーダー など
〔研修にあたっての準備〕
◇少人数のグループに分けられるように、参加者のグループ編成を行います。
◇事前課題として「A:体制チェックリスト」への記入しておくように伝えると、当日の
演習がスムーズに進行しやすくなります。
◇グループワークの際の記入用に、「B:改善シート」をグループ分用意します。
〔研修の標準的な進め方〕
①オリエンテーション (10分)
虐待防止に向けた組織的な対応の必要性(個人での対応の限界、組織として課題を共
有することの必要性、等)について説明するとともに、このあとの演習の進め方を伝え
ます。
②個人ワーク(「A:体制チェックリスト」への記入) (10分)
各自で「A:体制チェックリスト」の項目に記入します(事前課題として行うことも
可能)。
③グループワーク (40分)
少人数のグループに分かれて、体制として整備されていること、いないことについて
確認をするとともに、「B:改善シート」を使って、「2(解決・改善を要する事項や対
応困難な事項)」と「3(解決・改善に向けた対応、目標)」について討議します。
2.虐待防止のための取り組みを学ぶ
⇒「障害者虐待防止の手引き」P8~10参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P15~20参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P15~20参照
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討議の進行役、書記を選出。書記はグループ用に配付した改善シートBに意見を記入
します。
③全体討議 (15分)
討議結果を全体会で発表します(3グループ×各3分程度)。
発表を踏まえて、全体での質疑応答や意見交換を行います。
④まとめ (15分)
全体討議を総括しながら、施設としての今後の取り組みの方向性(とくに強化してい
きたい点、等)を示して全体で共有し、セクションを終了します。
【研修を進めるうえでの留意点】
◇このセクションでは、現在の施設における虐待防止に対する体制、すなわち、虐待防
止に対する認識を共有する機会となります。終了時、参加した職員の皆さんに対し、
自分は障害者福祉施設等の職員であるという自覚と責任を感じたか、利用者の人権へ
の意識が高まったかなどを確認してみてください。
◇規定や対応マニュアル、外部評価といったものは、備えていれば、あるいは受けてい
ればよいというものではありません。それらは、正しく使うことによってはじめて意
味を持ちます。それらを備える、受けるということをスタート地点とし、自らの取り
組みによって、自分たちの施設の支援の質をさらに高めていこうとすることこそが、
虐待を遠ざけるための一つの方法だと考えます。
◇虐待防止の取り組みを進めていくためには、利用者一人ひとりの意向を尊重し、支援
のニーズに基づきながら、よりよい個別支援計画を策定していくことが必要です。ま
た、こうした取り組みが、日常の支援の質を高めていくこととなります。
個別支援計画は、作成すればよいのではなく、その計画書に沿って適切な支援に結
び付けていくことこそが重要です。利用者一人ひとりに真正面から向き合い、その方
がたの人生を真剣に考え、思いをくみ取る作業が個別支援計画作成の本筋です。こう
して作成された個別支援計画も、実際の支援に活かされなければ意味を成しません。
虐待防止の体制整備を進めていくうえでも、それらをいかに虐待防止の徹底に活か
していくかということを念頭に置きながら、施設のシステムとして位置付けていくこ
とが必要不可欠です。こうした視点について、全体のまとめなどで触れてみてくださ
い。
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セクション(2)日常の支援における虐待行為を検証する(研修時間:90 分)
【研修のねらい】
①日常の支援で、虐待となる行為、虐待につながる行為について確認し、改善が必要な
点について確認・共有します。
◆日常の支援のなかで全職員が虐待防止の意識を高める必要性の理解
◆「C:セルフチェックリスト」のチェック項目、および項目間の相関関係の理解
②具体的な改善策について考察します。
◆「C:セルフチェックリスト」を活用した現在の虐待への認識の把握
◆グループワークや全体討議をとおした虐待への気づき、原因の考察、課題の抽出、改善
に向けた検討
【研修の方法】(例示)
〔形式〕演習形式
〔講師・指導者〕虐待防止推進担当者、サービス管理者、チームリーダー など
〔研修にあたっての準備〕
◇少人数のグループに分けられるよう、参加者のグループ編成を行います。
◇また、グループワークの際の記入用に、メモ用紙をグループ分用意します。
◇事前課題として「C:セルフチェックリスト」への記入しておくように伝えると、当日
の演習がスムーズに進行しやすくなります。
〔研修の標準的な進め方〕
①オリエンテーション (5分)
虐待防止に向けて職員一人ひとりが虐待防止への意識を高める必要性について説明
するとともに、このあとの演習の進め方を伝えます。
②個人ワーク(「C:セルフチェックリスト」への記入) (5分)
各自で「C:セルフチェックリスト」の項目に記入します(事前課題として行うこと
も可能)。
③グループワーク (50分)
4~5人の小グループに分かれて、チェック項目の回答について確認しながら、なぜ
できている/できていない、はい・いいえと回答したか、について討議をします。
そのなかで、グループとしてとくにできていないことや、討議のなかで新たに虐待に
つながるのではと気付いた点などについて、メモしていきます。
⇒「障害者虐待防止の手引き」P9、P16、P21~20参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P15~16、P21~22参照
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④全体討議 (15分)
討議結果を全体会で発表します(3グループ×各3分程度)。
発表を踏まえて、全体での質疑応答や意見交換を行います。
⑤まとめ (15分)
全体討議を総括しながら、施設全体でとくに留意していくことや今後の取り組み等を
示して全体で共有し、セクションを終了します。
⇒時間があれば、各自が再度、「C:セルフチェックリスト」に取り組み、その結果
について、討議の前と変化があった点などを紹介し合い、虐待に対する意識の「気
づき」を把握することも効果的です。
【研修を進めるうえでの留意点】
◇討議を行う前に、「虐待」を自分の言葉で言い換えるとしたら、どんな表現になる
か書いてもらう方法があります。自分の言葉で表現することで、自分にとっての虐
待のイメージを明確にしてもらいます。
言葉にすることで、「なんとなくわかっている」というような曖昧な理解では不
十分であり、明確にさせておくことが大切であることを理解するきっかけとなりま
す。「なんとなくわかっている」だけでは、わかっていないことと同じであり、ま
だ気づいていない「虐待」あるいは虐待につながる行為が、その後の支援のなかで
も繰り返し行われることとなります。
「C:セルフチェックリスト」の結果と、自分の表現した虐待とをつなぎ合わせ
てみると、今の自分の虐待に対する認識が見えてくるかもしれません。
◇チェックをした結果、職員によって、できている・できていないのチェックが分か
れる項目も出てくるでしょう。とくに、できていないという結果については、
・「どんな時にできていないのか」
・「どんな場面でできないのか」
・「誰に対してできないのか」
・「できるためには、何が必要だと思うか」
・「どうすればできるか」
などについて具体的な提案を出し合い、積み上げていくことが大切です。
抽象的な言葉で済ませてしまうと、改善につながらず、研修全体が無意味なもの
になってしまいます。せっかくの貴重な研修の機会を無駄にしないよう、お互いに
忌憚のない意見を出し合うことができるように、セクションを進めてください。そ
のことが、「できている」と回答した職員にとっても、虐待への新たな「気づき」
につながることになります。
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セクション(3)虐待防止の取り組みを事例から学ぶ(研修時間:90分)
【研修のねらい】
①入所、通所、訪問などの場面ごとに他施設における取り組み事例から虐待防止の体制
づくりや取り組みについて学びます。
◆具体的な支援場面を基にした虐待防止への意識の向上、課題の共有
◆グループワークや全体討議をとおした原因の考察、課題の抽出、改善に向けた検討
【研修の方法】(例示)
〔形式〕演習形式
〔講師・指導者〕虐待防止推進担当者、サービス管理者、チームリーダー など
〔研修にあたっての準備〕
◇少人数の小グループに分けられるよう、参加者のグループ編成を行います。
◇また、グループワークの際の記入用に、メモ用紙をグループ分用意します。
◇事前課題としてグループワークで扱う事例を示しておくと、当日の演習での議論をより深
めていくことが期待できます。
〔研修の標準的な進め方〕
①オリエンテーション (5分)
セクション(1)(2)で学んだことを踏まえ、事例を使った演習を行うことや、演
習の進め方を伝えます。
②グループワーク (50分)
本ガイドブック 20~24頁にある事例のなかから、障害者福祉施設等の課題と思われ
る事例をひとつ選び、
(1)職員の対応として、どのような課題があるか
(2)自分たちの障害者福祉施設等で同様の実態はないか
(3)今後、職員の対応をどのように改善すべきか、改善にあたってどのような取り組
みが必要か(自分たちの障害者福祉施設等に置き換えて検討する)
について、討議を行います。
・討議は、進行役を1名、書記を1名選出。書記は配付したメモ用紙に意見を記入。
③全体討議 (15分)
討議結果を全体会で発表する(3グループ×各3分程度)。
発表を踏まえて、全体での質疑応答や意見交換を行います。
④まとめ (20分)
全体討議を総括し、セクション(1)(2)で確認した施設の方針等も確認しながら、
事例から学んだ留意点や今後の取り組み等を示して全体で共有し、セクションを終了し
ます。
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【研修を進めるうえでの留意点】
◇事例には、詳細について、あえて紹介をしていない部分もあります。こうした部分に
気づき、虐待防止の意識の向上につなげていくことも、このセクションのねらいに含
まれています。講師・指導者は、各事例のなかで、個々の状況についてわからない部
分については、各事例のポイントに示されている部分の紹介に止め、それ以外の事項
については、各施設の状況等を踏まえて設定しながら、討議を深めていくようにして
ください。
◇事例のなかでわからない部分について、新たに状況設定をする場合には、講師・指導
者はできるだけ全体で共有するよう配慮してください。状況設定に関して、グループ
ワークの途中で各グループから出された質問等に対して、質問等のあったグループに
だけ回答するのでなく、全体にも伝え、新たに設定した状況を共有するようにしてく
ださい。共通の状況設定としておくことで、全体発表のなかで各グループの「違い」
が比較しやすくなりますし、虐待への「気づき」も深まることにつながります。
【グループワークの事例】
<事例①>(知的障害のある利用者について入所施設での生活支援の事例)
入所施設を利用されているAさん(女性 42歳)は重度の知的障害がある。常に指を
しゃぶる行動が見られるため、指が赤くただれ、それを放置すると骨が見えるほどの状
態になったことがある。そこでそれを防止するため、手にミトンをつけることになった。
すると、その状態は改善されたが、常にミトンを付けた状態であることから時々自発的
に見られていた食事の際、スプーンを持ったり、茶碗を持ったりしていた行動が見られ
なくなった。また、施設に実習に来ていた学生からも人権侵害ではないかとの指摘もあ
った。
<討議のポイント①>
3要件(切迫性、非代替性、一時性)を満たしているか、ミトン着用の記録はとられ
ているか、個別支援計画はどのようになっているか、家族の意向確認はとれているか、
外部関係者(担当医、法律家等)の意見は聞いているかなど基本的な法制度上の取り扱
いについての確認を行うとともに人権と安全の両面をどのように担保するのかなどに
ついて議論してみましょう。
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<事例②>(グループホームなど支援者が限られている事業所での事例)
グループホーム利用中のBさん(男性 36歳)は、人懐っこい性格でいつもニコニコ
と笑顔の絶えない方である。Bさんはこのグループホームに入る前は、同系列法人の児
童施設に 5歳から入所していた。幼児期から施設に入所していることもあり、Bさんの
呼称を「ちゃん」付けで呼ぶことが多く、グループホームに移ってからも「ちゃん」付
けで呼ぶ職員が数多くいるのが現状である。Bさんは言葉が十分に話せず、意思表示も
苦手なことから「ちゃん」付けで呼ばれていることをどのように感じているかはわから
ないが、最近グループホームにボランティアとして来られた近所の方から、成人になる
Bさんに対して人権的配慮に欠けるのではないかとの指摘があり、ケース会議で話し合
うことになった。
<討議のポイント②>
年齢相応の呼び方とはどのようなものか、利用者の意向・家族の意向はどうなのか、
呼称に限らず日頃から子ども扱いしていないかなど、これら呼称を含め権利擁護、人権
的配慮などについてどのように施設内(職員間)で議論されているか考察してみましょ
う。
<事例③>(精神障害のある利用者への支援の事例)
救護施設に入所しているCさん(男性・50歳)は、統合失調症等により仕事が長続
きせず、運送関係の仕事を転々として暮らしていた。D運送会社で勤務中に荷物が足に
落ち、怪我をして入院した時、糖尿病であることが判明。この時、会社を辞め、生活保
護を申請し保護開始となる。しばらくは自宅で単身生活をしていたが、糖尿病が悪化し、
併せて腎不全も起こし、精神的にも不安定になったことから救護施設に入所した。入所
後は、治療食を提供し、程よい運動と規則正しい生活で体調も改善してきた。
ある日、Cさんから、「もう元気になったから、自宅に帰って自立生活をしたい。そ
のために練習で週末自宅に帰らせてほしい」という希望があった。そこで自宅への外泊
体験をしてみたところ、食生活に乱れが生じ、服薬もできていなかった。そのことがあ
ってから、担当職員はCさんから自宅に帰りたいという申し出があるたびに、「食事や
服薬の管理ができないのでは帰ることはできません」と答え続けている。
<討議のポイント③>
一度の失敗で、本人の自立への思いを奪い取ってもよいのか、失敗する権利もあるの
ではないか、という視点からも考察してみましょう。また、個別支援計画では、服薬や
食事はどうなっているのか、徹底した説明の下に本人も納得した計画づくりを行ってい
るのか、という点についても考察してみましょう。
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<事例④>(入所者の金銭管理にかかる事例)
知的障害のあるEさん(男性・30 歳)は、働きながら母親と二人暮らしをしていた
が、母親が認知症となり、高齢者施設に入所したため、利用していた相談支援事業所の
勧めがあり、グループホームに入所することになった。
グループホーム入所後、Eさんは活動の幅が広がるなかで、友だちも増え、交際費も
増えるようになった。そこで、Eさんが金銭管理(お金の出し入れ)を依頼している相
談支援事業所に、小遣いの増額の相談をしたところ、週5千円までという約束であった
ためできない、と回答された。そのため、グループホームの職員に、相談支援事業所が
増額を認めてくれないと相談があった。
<討議のポイント④>
金銭管理により使途制限をしたことが、Eさんの活動を制限することにつながってい
ます。Eさんの小遣いは、自分の給料が基となっているものです。使途制限は何のため
にあるのか、どのような視点から金銭管理が行われるべきなのか、などについて考察し
てください。
<事例⑤>(就労支援にかかる事例)
知的障害(療育手帳B1)のあるFさん(男性・30 歳)は、身辺処理は自立、コミ
ュニケーションもとれるが、理解力が低い部分が見られ、繰り返し説明などを必要とす
るところがある。就労継続支援B型事業を利用し、一般就労に向けて作業訓練を行って
いるが、作業において注意されたことを繰り返してしまうことが見られる。
作業の間違いについてFさんと話す中で、自分の都合のよいように言い訳をしたり、
素直に注意を聞き入れないなどの態度が見られたため、職員がFさんに仕事から離れる
よう指示した。結果として、Fさんは仕事をせず、しばらくの間、その場所に立ったま
まの状態で過ごすことになってしまった。
就労を目指しているFさんに対して、就労と同じ環境を意識できるよう、仕事の確実
性に重点を置いて支援をしているが、注意をしたことに対しては、一度は改善するもの
の、しばらくすると気の緩みなどから、また間違いを繰り返してしまうため、結果とし
てAさんを仕事から離すことになっている。
<討議のポイント⑤>
職場の責任者である職員が、特定の利用者へ繰り返し虐待と思われる行為を行ってい
ても、現場の職員、利用者から声があがらないことがあります。職員の行為に疑問があ
っても、虐待を受けている本人はもちろんのこと、他の職員や利用者はなかなかそのこ
とを虐待としてとらえることができない場合があります。
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相手が上司であっても、おかしいことがあれば、そのままにしておくわけにはいきま
せん。施設内での連絡・相談体制をきちんとするために、虐待防止委員会の必要性につ
いても検討してください。
また、Fさんの障害特性や間違いを繰り返す原因などをよく考慮したうえでの支援が
できていたのか、職員間でよく支援方法を検討し、統一した支援のもとで進めていく必
要性などの観点からも、これからとるべき対応について考察してみてください。
<事例⑥>(家庭など施設外で虐待を受けていることが疑われる事例)
特別支援学校高等部2年生のGさんは、冬休みになり、母親の友人が放課後等デイサ
ービスへの送迎を行っていた。ある日の朝の送迎時、母親の友人から、放課後等デイサ
ービスの職員に対し、車に乗せたときに手の甲に二か所傷があり、傷の形状は二か所と
も同じく傷の周りは赤く腫れていると話があった。母親の友人は送迎前から傷があった
ことも施設職員へ報告した。
職員から報告があり、児童発達支援管理責任者がGさんの手の甲を確認した後、管理
者とともに本人に直接確認をしようとしたが、手の甲を隠してしまったため確認がとれ
なかった(いつもは傷などできるとすぐに職員に教えてくれる)。そこで、特別支援学
校に相談し、夕方の送迎時に母親から話を聞くなどの対応をとった。母親はわからない
とこたえ、虐待があるとは判断できなった。
その後、何度か母親と話をし、傷の原因を検証したが傷ができた要因が不明のまま2
週間が経過し、原因追究のために市福祉事務所へ相談連絡を行った。
<討議のポイント⑥>
家庭内での出来事であるため、施設の職員が入りこむことができないケースです。速
やかな通報・対応が必要であるにもかかわらず、母親への遠慮もあり、原因不明のまま、
通報することができず、福祉事務所への通報までに2週間がかかってしまっています。
速やかな対応を行うためには、どのような手順で進めるべきか、手順や体制を検討し
てください。
<事例⑦>(身体拘束の事例)
Hさん(40歳・女性)は脳性小児麻痺による四肢体幹機能障害で、障害児施設から
18歳の時当障害者支援施設に入所、入所当初より、四肢・体幹の麻痺や筋緊張が強く、
ベッドに寝ている時も手足やお腹に砂袋の重石等を乗せていないと、体を安定できない。
また、車いすに乗る時は、2~3人で車いすに乗せ、体幹・四肢を車いすに拘束させな
いと姿勢が保てず乗れない状態である。前の施設からの申し送りも本人の意思もそのよ
うにしてもらいたいとの希望があり、また、家族についても特に意見もなかった。本人
は明るい性格で前向きであり、3年後には、電動車いすに挑戦しあごでコントロールし
て自力移動までできるようになった。入所から 22年経った現在、体の成長等により、
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さらに麻痺や筋緊張が強くなり、電動車いすには乗れなくなったが、車いすやベッドで
は現在も拘束をしながら生活をしている。
<討議のポイント⑦>
Hさんは意思決定ができるため、本人の希望を優先しながら支援を行っています。し
かし、サービスを提供する側とすると、どのようなことに注意をして支援をしていくか。
また、個別支援計画はどのように策定するか、家族との対応はどのようにしていくか、
についても考察しましょう。
<事例⑧>(異性介護の事例)
Iさん(58歳・女性)は脳血管障害による右上下肢機能障害と高次脳機能障害があ
る。障害者支援施設入所から 15年が経つ。言語障害等があり、時々職員とのコミュニ
ケーションが上手くいかずトラブルが生じているが、その都度解決して、最近は職員と
の信頼関係も構築できてきている。当施設では、男性利用者が多く女性職員が多いため、
同性介護はできず、男性利用者は、女性職員の介護となっている。女性利用者に対して
は、本人の希望を優先すると共に、施設側の配慮として女性職員が介護している。ある
時、男性J職員がトイレ介助に行くとIさんだったため、女性職員を呼びますから少し
お待ちくださいと言うと、J職員でよいと本人が言ったので、J職員はトイレ介助した。
その後もIさんはJ職員にトイレ介助を時々頼んでいる。しかし、他の男性職員には介
助を頼んでいない。
<討議のポイント⑧>
IさんはなぜJ職員にはトイレ介助をさせるのか、また、Iさんの個別支援計画等は
どのようになっているか、さらに本人の希望を優先するのか、施設側の配慮を優先する
のか等を話し合いましょう。また、あなたがJ職員の立場だったらどのようにしていた
か等についても考察しましょう。
- 25 -
セクション(1)虐待の早期発見 (研修時間:60分)
【研修のねらい】
①虐待の早期発見の必要性を理解します。
◆障害者虐待防止法に規定された早期発見義務の理解
◆早期発見できない場合に及ぶ影響等、障害者福祉施設等全体で取り組む必要性の
理解
<ポイント>
障害者虐待防止法第6条では、各種の機関は、障害者虐待を早期発見するよう努め
なければならないと定めています。
同条第 1項では、国および地方公共団体の障害者の福祉に関する事務を所掌する部
局その他の関係機関は、障害者虐待を発見しやすい立場にあることを鑑み、相互に緊
密な連携を図りつつ、障害者虐待の早期発見に努めなければならない、とされていま
す。
また、同第2条では、障害者福祉施設、学校、医療機関、保健所その他の障害者の
福祉に業務上関係ある団体ならびに障害者福祉施設従事者等、学校の教職員、医師、
歯科医師、保健婦、弁護士、その他障害者の福祉に職務上関係のある者および使用者
は、障害者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、障害者虐待の早期発見に努
めなければならない、とされています。
虐待事案については、大きな問題に至らないと思われるような出来事から、次第に
深刻な虐待に発展していく危険性を有しています。日頃からささいな変化にも留意す
るとともに、関係者のコミュニケーションを図り、虐待事案の予兆を素早く察知する
早期発見、対応への心構えと、具体的な体制の構築が求められます。
②虐待の早期発見のために必要な取り組みは何か、施設内での対応のほか、地域のネッ
トワーク等も生かした対応等を考えます。
◆「A:体制整備チェックリスト」のチェック項目や施設の対応マニュアル等にある
施設・地域における具体的な体制・対応等の理解
◆グループワークや全体討議を通した早期発見に向けた対応の検討
<ポイント>
「A:体制整備チェックリスト」は、「障害者福祉施設等内」と「地域」の双方に
おける虐待防止と、その早期発見・対応等を進める障害者福祉施設等の体制整備を促
進する観点から、施設長・管理者を中心に活用いただくチェックリストです。
施設長・管理者が中心に実施し、体制の点検や実践課題等の抽出等に用いることや
サービス提供職員等のより多くの職員がそれぞれの立場や視点で記入し、その後の取
3.虐待の早期発見、発生時の対応
⇒「障害者虐待防止の手引き」P10~11参照
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り組みに活用することなどが考えられます。なお、虐待防止の体制については、定期
的に点検を行い、継続的な改善に努めることが重要であり、適宜、再度の研修の実施
やマニュアル等の見直しを含め、体制の充実・向上を図ってください。
③虐待の早期発見のためのチェック項目などについて理解します。
◆「D:早期発見チェックリスト」のチェック項目の理解
<ポイント>
地域生活を送る障害者について、家族が虐待を行っているような場合、家族自身が
虐待の認識がないこと、さらには、虐待を受けている障害者自身が家族をかばう傾向
や、虐待されていると認識していないケースがあることが、高齢者や児童における被
虐待状況を見ても明らかになっています。
そのような場合には、当事者間が自覚しているか否かを問わず、客観的に違和感が
ある、または、権利侵害が明らかであるような場合には、虐待事案として受け止め、
行政への通報を含めて迅速な介入を行うことが求められます。
なお、施設及び、居宅サービスや通所サービス利用者に対する日々の観察力を高め、
虐待を早期に発見する目を養うために、「D:早期発見チェックリスト」等を活用し
てください。
【研修の方法】(例示)
〔形式〕演習形式
〔講師・指導者〕虐待防止推進担当者、サービス管理者、チームリーダー など
〔研修にあたっての準備〕
◇少人数のグループに分けられるよう、参加者のグループ編成を行います。
◇また、グループワークの際の記入用に、メモ用紙をグループ分用意します。
〔研修の標準的な進め方〕
①オリエンテーション (10分)
「障害者虐待防止の手引き」P10~11を基に、法律上の責務や早期発見できなかっ
た際の影響等について説明します。そのうえで、演習の流れについて説明します。
②グループワーク (20分)
少人数のグループに分かれて、虐待の早期発見という視点から、前回の研修などを踏
まえて、
・障害者福祉施設等に必要な体制
・各職員に求められる対応
などについて、グループ討議を行います。
討議を行うにあたり、ファシリテーター(進行役)を選出します。
⇒「障害者虐待防止の手引き」P17~19参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P15~16、P23~25参照
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また、各自で討議のなかで新たに気づいた点などについてメモをとりますが、書記を
選出し、主な意見や討議結果等をまとめます。
③全体討議 (15分)
討議結果を全体会で発表します。
発表を踏まえて、全体での質疑応答や意見交換を行います。
④まとめ (15分)
全体討議を総括しながら、早期発見を徹底するために、施設全体でとくに留意してい
くことや今後の取り組み等を確認します。
そのうえで、「D:早期発見チェックリスト」について説明して全体で共有し、セク
ションを終了します。
【研修を進めるうえでの留意点】
グループ討議を効果的に進め、早期発見に対する理解を深めていくために、各グル
ープのファシリテーター(進行役)の役割が重要になります。
ファシリテーター(進行役)は、以下の点に留意しながら討議を進めてください。
①虐待の早期発見の必要性を理解
②虐待の早期発見のために必要な取り組みは何か、施設内での対応のほか、地域
のネットワーク等も生かした対応等
③虐待の早期発見のためのチェック項目などについて理解
上記の内容、ポイントに沿ってグループのメンバー全員が、内容を正しく理解し、
実行しなくてはならないことを確認していきます。
また、職員間で共通理解が得られにくいような曖昧な対応や、利用者の人権侵害に
つながるような対応をとろうとするなど、グループが間違った方向へ討議が進んでい
くことのないよう、適宜アドバイスをしながら進めていくことが重要です。
- 28 -
セクション(2)虐待発生時の対応 (研修時間:60分)
【研修のねらい】
①虐待が発生した際の通報の必要性について学ぶ
◆障害者虐待防止法に規定された通報義務の理解
◆発生時に適切な対応を行う必要性の理解(適切な対応がとれなかった場合の利用者、
障害者福祉施設等に及ぶ影響、等)
<ポイント>
障害者虐待防止法は、障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やか
に、これを市町村に通報しなければならない、と定めています(同法第7条第 1項、第
16条第 1項、第 22条第 1項)。
障害者福祉施設等において虐待もしくは虐待が疑われる事案を発見した場合には、速
やかに、組織的な対応をはかること、また、行政に通報・相談することが求められます。
②虐待が発生した場合の障害者福祉施設等での対応について、それぞれの役職等による
役割や対応の手順などについて共通理解をすすめる。
◆虐待発生時に適切に対応するための体制の検討
◆虐待発生時の利用者への対応の確認
◆虐待発生時の対応の共通理解
<ポイント>
障害者福祉施設等内で虐待が起こった場合には、十分なケアを行うとともに、速や
かに誠意ある対応や説明を行う等、利用者や家族に十分に配慮すること、また、被害
者のプライバシー保護を大前提としながらも、対外的な説明責任を果たすこと等も必
要となります。さらに、発生要因を十分に調査・分析するとともに、再発防止に向け
て、組織体制の強化、職員の意識啓発等について、一層の徹底を図ることが不可欠と
なります。
地域における虐待事案の場合には、行政への連絡・通報の方法や手順を定め、職員
等に周知徹底を図ることが、迅速な対応を可能とします。また、被害者の生命と身体
の安全を第一に考え、行政や相談支援事業者と十分に連携を図りつつ、発生時の連絡
ルート、被害者の緊急的な保護を含めた対応方法等について、日頃から連絡・調整を
行い、あらかじめ定めておくことも有効な手段です。
【研修の方法】(例示)
〔形式〕演習形式
〔講師・指導者〕虐待防止推進担当者、サービス管理者、チームリーダー など
〔研修にあたっての準備〕
◇少人数のグループに分けられるよう、参加者のグループ編成を行います。
⇒「障害者虐待防止の手引き」P12参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P12参照
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◇また、グループワークの際の記入用に、メモ用紙をグループ分用意します。
〔研修の標準的な進め方〕
①オリエンテーション (10分)
「手引き」P11~12を基に、発生時・発生後の対応や法律上の責務など、基本的事
項について説明します。そのうえで、演習の流れについて説明します。
②グループワーク (20分)
少人数のグループに分かれて、虐待発生時の対応について、今回の講義や「2.虐待
防止のための取り組みを学ぶ」のセクション(3)「虐待防止の取り組みを事例から学
ぶ」、前回行った「3.虐待の早期発見、発生時の対応」のセクション(1)「虐待の早
期発見」などを踏まえて、
・実際の対応の手順
・各職員の役割
などについて、グループ討議を行い、基本的な流れや各職員役割事項をまとめます。
討議を行うにあたり、ファシリテーター(進行役)を選出します。また、書記を選出
し、討議結果についてまとめます。
③全体討議 (15分)
討議結果を全体会で発表します。
発表を踏まえて、全体での質疑応答や意見交換を行います。
④まとめ (15分)
全体討議を総括しながら、発生時の対応を徹底するために、施設マニュアル等で定め
られている施設としての基本的な流れ・役割を説明します。
そのうえで、全体討議の結果を踏まえた課題や今後の改善策等について全体で共有し、
セクションを終了します。
【研修を進めるうえでの留意点】
<ポイント>の繰り返しになりますが、第一は、虐待を受けた障害者へのケアと誠意
ある対応や説明をきちんと行うことです。また、速やかに行政への連絡・通報を行うこ
となど、あらかじめ手順を定めておくことなどが重要であり、研修のポイントです。
虐待の発生後は、「虐待を受けた障害者」、「虐待を行った者」、「通報者(気づいて虐
待を通報した人)」への配慮の視点をもって対応することが必要です。
ファシリテーター(進行役)は、あらかじめ<ポイント>を確認しておき、グループ
討議によって、虐待発見時の対応、虐待発生後の対応を誰もが速やかにきちんと対応で
きるように進めてください。
最終的には、「職員一人ひとりの適切な対応によって、早期発見が可能となること」、
「もし虐待行為を発見したら、すみやかに施設の責任者に報告し、迅速かつ適切な対応
を図ることが、虐待受けている障害者の命や安全を守ること」について、理解を深めて
ください。
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セクション(1)障害者福祉施設等の取り組みの改善点について検討する
(研修時間:90分)
【研修のねらい】
①障害者福祉施設等の虐待防止の取り組みについて、さらに改善できる可能性について
検討・提案します。
◆「A:体制チェックリスト」のチェック項目の取り組み状況の再確認
◆取り組み後の成果や課題、虐待防止に向けた意識の変化の確認
・半年から1年の期間を空けて、「A:体制チェックリスト」を再度記入しグルー
プ討議を行います。そして「B:改善シート」を活用して、取り組み後の成果や
課題、意識の変化等を確認します。
②障害者福祉施設等における虐待防止の推進の体制作りや役割について考えます。
◆障害者福祉施設等の役職員等の役割や協力体制等の理解
・施設長・管理者の役割
・担当者(スーパーバイズ的な役割を担う職員)等の役割
・職員の協力体制 など
◆さらなる虐待防止の徹底、継続的な取り組みの必要性の理解
・「障害者福祉設・事業所における障害者が虐待の防止と対応の手引き」(平成 24
年9月)や「平成 24年度 障害者虐待防止・権利擁護指導者研修」等の資料も
参考に、再度確認します。
【研修の方法】
〔形式〕演習形式
〔講師・指導者〕虐待防止推進担当者、サービス管理者、チームリーダー など
〔研修にあたっての準備〕
◇4~5人の小グループに分けられるよう、参加者のグループ編成を行います。
◇事前課題として「A:体制チェックリスト」への記入しておくように伝えると、当日の
演習がスムーズに進行しやすくなります。
◇グループワークの際の記入用に、「B:改善シート」をグループ分用意します。
〔研修の標準的な進め方〕
①オリエンテーション (10分)
虐待防止に向けた組織的な対応の必要性(個人での対応の限界、組織として課題を共
有することの必要性、等)について説明するとともに、演習の進め方を伝えます。
②個人ワーク(「A:体制チェックリスト」への記入) (10分)
各自で「A:体制チェックリスト」の項目に記入します(事前課題として行うことも
可能)。
4.まとめ
⇒「障害者虐待防止の手引き」P15~20参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P15~20参照
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③グループワーク (40分)
4~5人の小グループに分かれて、体制として整備されていること、いないことにつ
いて確認をするとともに、「B:改善シート」を使って、「4(評価)」について討議
します。
・討議は、進行役を1名、書記を1名選出。書記はグループ用に配付した「B:改善
シート」に意見を記入します。
・「B:改善シート」の「2(解決・改善を要する事項や対応困難な事項)」と「3(解
決・改善に向けた対応、目標)」は、「2.虐待防止のための取り組みを学ぶ」のセ
クション(1)「虐待防止の体制や取り組みを学ぶ」のときに検討した事項を記入
してください。
③全体討議 (15分)
討議結果を全体会で発表します(3グループ×各3分程度)。
発表を踏まえて、全体での質疑応答や意見交換を行います。
④セクションのまとめ (15分)
全体討議を総括しながら、施設としての今後の取り組みの方向性(とくに強化してい
きたい点、等)を示して全体で共有し、セクションを終了します。
【研修を進めるうえでの留意点】
◇講師・指導者は、下記の点を確認しながら、研修を進めてください。
〈確認するポイント〉
①倫理綱領等、事業所としての規程等が整備されているか。確認を含めてその規定の
理解をする。
②施設の虐待防止マニュアルの整備状況のチェックとその理解をする。
③施設における苦情解決の仕組みやリスクマネジメントの仕組みを理解する。
④設問 30.31.32.ができていないと回答した理由を具体的に考察する(どうして
意見や要望を聞く機会や環境を整備していないのか、また、どの様にしたら、機会
や環境を整備できるのか考察する)
⑤外部からのチェックや成年後見制度・オンブズマン、地域の他の事業所及び行政と
の連携など仕組みの理解と必要性を理解する。
(施設の職員は普段の業務では必要としないと思っている場合が多いため、あらた
めて必要性を考察する必要がある。)
以上のポイントを整理・考察した上で、グループ討議を行うことが効果的です。
◇さらに、「B:改善シート」の「4(評価)」を踏まえ、研修のまとめでは、指導者か
ら、PDCAサイクルとして継続的な取り組みとしていくことを、今後の方向性とし
て示すことができるとよいと思います。
◇「A:体制チェックリスト」と「C:セルフチェックリスト」を一緒に行うことによ
って、相乗効果が期待されます。研修の方法として、次のセクションとあわせて行う
ことも有効です。
- 32 -
セクション(2)自らの取り組みについてまとめる (研修時間:60分)
【研修のねらい】
①研修をとおして学んだことを中心として、虐待防止において自ら取り組むべきことを
確認します。
◆「C:セルフチェックリスト」のチェック項目の取り組み状況の再確認
◆取り組み後の虐待に対する意識の変化の確認
・半年から1年の期間を空けて、「C:セルフチェックリスト」を再度記入しグル
ープ討議を行います。そして取り組み後の意識の変化等を確認する。
◆さらなる虐待防止の徹底、継続的な取り組みの必要性の理解
・「障害者福祉設・事業所における障害者が虐待の防止と対応の手引き」(平成 24
年9月)や「平成24年度 障害者虐待防止・権利擁護指導者研修」等の資料も
参考に、再度確認します。
【研修の方法】
〔形式〕演習形式
〔講師・指導者〕虐待防止推進担当者、サービス管理者、チームリーダー など
〔研修にあたっての準備〕
◇4~5人の小グループに分けられるよう、参加者のグループ編成を行います。
◇また、グループワークの際の記入用に、メモ用紙をグループ分用意します。
◇事前課題として「C:セルフチェックリスト」への記入しておくように伝えると、当日
の演習がスムーズに進行しやすくなります。
〔研修の標準的な進め方〕
①オリエンテーション (5分)
虐待防止に向けて職員一人ひとりが虐待防止への意識を高める必要性について説明
するとともに、このあとの演習の進め方を伝えます。
②個人ワーク(「C:セルフチェックリスト」への記入) (5分)
各自で「C:セルフチェックリスト」の項目に記入します(事前課題として行うこと
も可能)。
③グループワーク (30分)
4~5人の小グループに分かれて、チェック項目の回答について確認しながら、前回
のチェックから回答が変わった点は何か、なぜ変わったのか等を討議します。
また、この間の虐待に対する意識の変化や、新たに見えてきた課題などについて討議
し、メモしていきます。
ファシリテーター(進行役)を1名、書記を1名選出。書記は配付したメモ用紙に意
⇒「障害者虐待防止の手引き」P15~16、P21~22参照
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見を記入します。
④全体討議 (10分)
討議結果を全体会で発表します(3グループ×各3分程度)。
発表を踏まえて、全体での質疑応答や意見交換を行います。
⑤セクションのまとめ (10分)
全体討議を総括しながら、施設全体でとくに留意していくことや今後の取り組み等を
示して全体で共有し、セクションを終了します。
【研修を進めるうえでの留意点】
◇講師・指導者は、下記の点を確認しながら、研修を進めてください。
〈確認するポイント〉
①以前行ったチェックリストできていなかったことが、できているようになった項目
を整理し、できているようになったことについて考察する。また、今回もできてい
ないと回答した場合は、なぜできていないかを考察する。
②設問 11、12ついて、いいえと回答した場合、具体的に考察する。
(特定の者とは誰か、具体的にどのような態度・受答えか)
③設問 13、16、17ついて、はいと回答した場合、具体的に考察する。(問題ある対応
とはどのような対応か、どのような場面で発生していたか、等)
④設問 14、15については、はい・いいえに回答した理由を、具体的に考察する(上
司や職員同士でのコミュニケーションのあり方を考える)。
⑤設問 18、19、20について、はいと答えた理由を、具体的に考察する。(どのような
サービスに悩みがあるか、どのようなことでやる気を感じないか、体調がすぐれな
い原因は何か、等を考察)
以上のポイントを整理・考察した上で、グループ討議を行うことが効果的です。
◇また、施設職員全体でのチェックリストの結果については、前回の結果や今回の結果
等の考察を全体で共有することがもっとも大切です。
◇そして、その結果を基に、次の課題や目標を設定し、具体的に職員全員で取り組むこ
とが大切です。また、この取り組みをPDCAサイクルで行うことも重要ですので、
まとめのなかで今後の方向性として示すことができるとよいと思います。
- 34 -
セクション(3)地域のネットワークを生かした取り組みに広げる
(研修時間:90分)
【研修のねらい】
福祉サービスはもともと社会資源
①地域のネットワークを生かした虐待防止の取り組みの必要性を理解します。
◆地域のネットワークによる取り組みの利点や必要性の理解
◆関係施設・機関や自立支援協議会、虐待防止センターの役割・機能の基本理解
②地域のネットワークを生かした取り組みとしていくために、施設としてどのような対
応等が必要か、グループ討議等をとおして考えます。
◆障害者虐待防止にかかる現在の地域のネットワークの状況の理解
・自地域における各関係機関の役割や関係性などを理解します。
◆地域のネットワークにおける自分たちの障害者福祉施設等の役割の理解
◆地域のネットワークが有効に機能していくために必要な取り組み等の検討
◆個人情報として共有すべき事項についての理解
【研修の方法】(例示)
〔形式〕講義+演習形式
〔講師・指導者〕施設長、管理者、サービス管理責任者
〔研修にあたっての準備〕
◇自法人の地域における関係機関の状況
虐待防止の取り組みを進めるうえで、地域にどのような社会資源があるのか、事前
に調べておくことを事前課題とすると、スムーズです。
〔研修の標準的な進め方〕
①基本講義(20分)
なぜ虐待防止に向けてネットワークが必要なのかを話します。
⇒早期発見の観点、外部のチェックを入れる必要性、密室性の高い施設での虐待防
止の観点など
虐待防止センターが求められているものは何かを話します。
⇒地域の中での役割・位置づけ、ネッワーク形成、研修機能、啓発活動
②演習オリエンテーション(5分)
演習の流れや話し合う内容について説明します。
③グループワーク(40分)
このあとの演習の進め方を伝えます。
⇒「障害者虐待防止の手引き」P13~14参照
⇒「障害者虐待防止の手引き」P13~14、P19参照
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虐待防止を行う上で有効なネットワークのあり方について討議します。
討議の際、以下のポイントを踏まえて討議します。
・地域の特性や社会資源の状況はどうなっているか。
・虐待防止センターの位置づけ、運営形態はどうなっているか。
・地域自立支援協議会の状況はどうなっているのか。
・現在の福祉・医療・保健の各機関の連携状況はどうなっているのか。
・各施設間のネットワーク体制はどうなっているのか。
・専門職(マンパワー)の状況はどうなっているか。
・弁護士会等法律関係機関との関係はどうか。
・虐待防止を推進するための自法人のある地域での理想的なネットワーク体制はどう
あるべきか。また、どのような役割が果たせるか。
⇒協議のなかで明らかになった、現在の地域における虐待防止に関する社会資源やネ
ットワーク等について、エコマップを作成し、可視化していくと状況を把握しやす
くなります。
さらに、今後のあるべき姿について書き加えていくことで、今後のめざすべき方
向性を確認することができます。
④全体討議(15分)
討議結果を発表します。
また、今後のあるべき地域ネットワークの姿などについても意見交換をします。
⑤まとめ(10分)
全体討議を総括し、虐待防止を図る上での地域ネットワークの必要性を感じてもらい、
方向性を示していきます。
【研修を進めるうえでの留意点】
◇虐待と思われるケースが確認された場合、通報義務が課せられています。重篤な状態
にならないためにも速やかな対応が求められています。
そのために地域の関係機関、事業所を含めたネットワークがどのように機能できるの
か考察してみてください。
◇なお、この場合、個人情報保護法の適用除外にあたること等、基本的な法的理解が求
められています。
◇「A:体制チェックリスト」と「C:セルフチェックリスト」を一緒に行うことによ
って、相乗効果が期待されます。研修の方法として、前のセクションとあわせて行う
ことも有効です。
- 37 -
参 考 資 料
(略)
- 90 -
全国社会福祉協議会・障害者虐待防止研修プログラム等開発 作業委員会
委員等名簿
委員長 石渡 和実 東洋英和女学院大学 教授
委 員 久木元 司 全国社会福祉施設経営者協議会・全国青年経営者会 会長/
(福)常盤会 理事長
〃 守家 敬子 全国救護施設協議会 調査・研究・研修委員長/
萬象園 施設長
〃 阿由葉 寛 全国社会就労センター協議会 副委員長/
(福)足利むつみ会 理事長
〃 眞下 宗司 全国身体障害者施設協議会 副会長/
誠光荘 施設長
〃 岩崎 香 早稲田大学 准教授
(敬称略・平成 25年 3月現在)
- 91 -
○本ガイドブック(暫定版)は、これまでの障害者の虐待防止に関する実践や各法人・
施設、種別協議会における研修等の取り組みを参考にとりまとめを行いました。今後
のさらなる充実に向けて、ご活用いただいたうえでのご意見・提案をお寄せください。
【本アンケートの提出締切】平成 26年1月末日
【提出先】社会福祉法人全国社会福祉協議会 高年・障害福祉部
〒100-8980 東京都千代田区霞が関 3-3-2 新霞が関ビル / FAX 03-3581-2428
Eメール:[email protected]
1.ご回答者
都道府県
施設名(施設種別)
( )
回答者
連絡先 TEL
FAX
メールアドレス
※本アンケートの集計及びの内容を確認させていただく場合にのみ利用させていただきます。
2.障害者虐待防止研修プログラムについてのご意見・提案
セクション 研修を実施した感想・ご意見 改善を要する点、プログラムの修正案
1.障害者虐待の基
礎的な理解
(1)障害者虐待とは
何かを学ぶ
(2)障害者虐待の
実態
2.虐待防止のため
の取り組みを学ぶ
(1)虐待防止の体制
や取り組みを学ぶ
(2)日常の支援にお
ける虐待行為を検
証する
「障害者虐待防止の研修のためのガイドブック(暫定版)へのご意見』
-93-
3.貴法人・施設における虐待防止にかかる研修等の取り組みについてご紹介
ください。また、本ガイドブックに対するご意見等をお寄せください。
セクション 研修を実施した感想・ご意見 改善を要する点、プログラムの修正案
2.虐待防止のため
の取り組みを学ぶ
(3)虐待防止の取り組
みを事例から学ぶ
3.虐待の早期発
見、発生時の対応
(1)虐待の早期発見
(2)虐待発生時の
対応
4.まとめ
(1)障害者福祉施設
等の取り組みの改善
点について検証する
(2)自らの取り組み
についてまとめる
(3)地域のネットワ
ークを生かした取り
組みに広げる
ご協力ありがとうございました。
障害者虐待防止の研修のための
ガイドブック(暫定版)
社会福祉法人 全国社会福祉協議会
障害者虐待防止研修プログラム等開発 作業委員会
〒100-8980 東京都千代田区霞が関 3-3-2 新霞が関ビル
全国社会福祉協議会 高年・障害福祉部内
TEL 03-3581-6502 / FAX 03-3581-2428