説かれた因縁や、その功徳と読諦法が述べられてい...

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「仏頂尊勝陀羅尼」は「浄除一切悪道仏頂尊勝陀羅尼」とも言われる。臨済宗でも常用経典の一つとして広く

知られ、鎮守火徳調経や大般若祈祷の際に用いられている「陀羅尼」である。ただ、この「陀羅尼」は中国禅門

では積極的に使用された形跡はなく、語録や清規類にその名前は見えていない。もともと天台宗や真言宗といっ

た密教系の宗派で頻繁に読諏されていたものであり、その影響の下、日本の禅門が独自に採用したものであろ

う。この「仏頂尊勝陀羅尼」が日本で一般に良く知られたものであったことは、この「陀羅尼」によって面鬼夜

行から救われたという話が、『大鏡』巻中(八一一)や『今昔物語』巻一四(四二)などに見えていることことからも窺

えるし、国史大系本『吾妻鏡』嘉禄元年〈一一一一一五)五月一日条にもあるように写経も盛んに行われていたようで

その「仏頂尊勝陀羅尼」が載せられた経典が、今回取り上げた『仏頂尊勝陀羅尼経巨巻であり、「陀羅尼」が

説かれた因縁や、その功徳と読諦法が述べられている。

ある。

「仏頂尊勝陀羅尼」の効能

l仏陀波利訳『仏頂尊勝陀羅尼経』・訳注I

はしがき

(剛山.玄・徳爪寛道・並木優記・野Ⅱ沸敬・欠多弘聴(あいうえお噸))

教学研究委員会編

91

今回、仏陀波利訳の『仏頂尊勝陀羅尼経』の訳注に当たって底本として用いたのは、聖武天皇が僧玄防の病

気治癒を祈願するために写させた勅願経である。高野山正智院に所蔵されているこの写経は、昭和十二年に国

宝に指定されているが、奥書には「天平十一年五月四日奉勅為玄防僧正疹疾敬写此経一千巻」とあり、西暦

七三九年のものであることが知られる。経末に「同本別翻」として別訳の「陀羅尼」が付載されており、これは

所載の「陀羅尼」そのものについては、諸本の間に文字の異同増減が多く、「この陀羅尼には全部で九種類の

本がある(此陀羅尼、凡有九本)」(東寺三密蔵古写本「仏頂尊勝陀羅尼」・建久二年奥書・『ご’四$C)と言われ、臨済宗で現

用されているものは右記の五訳の経典所載の何れの「陀羅尼」とも異なっている。また「陀羅尼」そのものの梵

語としての意味内容については優れた先論もあり、今回は訳注作業から除外し、口語訳については竹中智泰氏

の訳文(木村俊彦・竹中智泰共著『禅宗の陀羅尼』・大東出版社二九九八、所載)を、御厚意で転載させて頂いた。但し、

禅門で現用されている「仏頂尊勝陀維尼」の口語訳であり、仏陀波利訳の「陀羅尼」の直訳ではないことに注意

が必要だが、その内容の大枠は変わらないと思われるし、逆に現用のものの口語訳の方が布教などに役立つか

が必要だが、

も知れない。

板行)がある。

同経の漢訳としては、儀鳳四年(六七九)の杜行顎訳(弓一℃‐Z。・・患)、永淳元年(六八一一)の地婆訶羅(Ⅱ日照一一一蔵法

師)訳(弓]の‐zC.①g、仏頂最勝陀羅尼経)、永淳二年(六八三)の仏陀波利訳(弓一℃‐Z。.①臼)、景龍四年(七一○)の義浄

訳(己①「三・・℃。、仏説仏頂尊勝陀羅尼経)があり、その他、地婆訶羅の別訳に『最勝佛頂陀羅尼浄除業障呪経』(弓ご‐

zC・弓●)がある。この中で、最も著名で広く読まれたものが仏陀波利訳である。その訳出された経緯については、

この訳注の「仏頂尊勝陀羅尼経序」に詳しいので参照されたい。末釈として、中国では唐の法崇撰『仏頂尊勝陀

羅尼経教跡義記』二巻(弓]@‐zc」、g)があり、日本では亮汰撰『科註尊勝陀羅尼経』三巻(延宝二年・前川茂右衛門

92

○原文の文字の校勘には、磧砂蔵本(『宋版磧砂大蔵経』第二冊・新文豊出版、原本影印)及び高麗蔵本に拠っ

ている大正大蔵経本(第一九冊)を用い、【校注】を原文の末尾に附録した。

○原文は当用漢字を用い、書き下し文は現代かな使いとした。

○底本には聖武天皇の発願にかかる国宝の天平十一年写本(昭和十二年・荻野仲三郎発行・コロタイプ複製本)

《凡例》

杜行顕訳『仏頂尊勝陀羅尼経』(弓一の‐閾⑭?覇」色)所掲のものと、割り注を含めてほぼ同様であるが、磧砂蔵本等

には付載されていないため、訳注の際には削除した。

経典の具体的な内容については、本文を読んで頂ければ分かるが、その主題は、七日後に死んで畜生悪道の

身を七返受けるはずであった善住天子を救済するために、釈尊が「陀羅尼」を教示するという内容であり、そ

のために説かれた「仏頂尊勝陀羅尼」は地獄・畜生といった悪道から救われる利益があるとされ、また更に悪

病治癒の効能も調われている。土をつかんで陀羅尼を唱え、その士を亡者の遺骨に振りかければ、亡者は天に

生ずることができると述べた一段などは、追善供養の代表的なものであろう。よって、内容的に火徳鎮守調経

にこの経を用いることは必ずしも相応しくなく、疑問が存することになる。これについては今後の研究課題と

したい。

を使用した。

(野口善敬)

93

○陀羅尼の部分については、訳注作業から除外し、口語訳部分は木村俊彦・竹中智泰著『禅宗の陀羅尼』(大東

出版社二九九八)から転載させて頂いた。

○現代語訳は直訳を心掛けたが、必要と思われる場合は〔〕で適宜ことばを補った。

○注に引用した書籍については、その初出の箇所に版本等を明記した。また大正大蔵経・大日本続蔵経煎続蔵)

についてはそれぞれ「T」「Z」の略号を用いた。その他の略号は次の通り。

『中村』Ⅱ中村元『仏教語大辞典』(東京書籍)

『広説』Ⅱ同『広説仏教語大辞典』同前)

『望月』Ⅱ望月信亨『仏教大辞典』(世界聖典刊行協会)

『禅学』Ⅱ駒沢大学『新版禅学大辞典』天修飾君店)

『仏光』Ⅱ『仏光大辞典』(台湾仏光出版社)

『織田』Ⅱ織田得能『仏教大辞典』(大倉書店・大蔵出版)

『岩波』Ⅱ中村元等編『仏教辞典』(岩波書店)

『大漢和』Ⅱ諸橋轍次『大漢和辞典筥大修館書店)

○読書会に参加して原稿を作成した担当者は次の五名である。(会にはオブザーバーとして玄侑宗久師も参加ざ

れたこ

朝山一玄・徳重寛道・並木優記・野口善敬・矢多弘範(あいうえお順)

94

【原文】

(一)

仏頂尊勝陀羅尼経序

仏頂尊勝陀羅尼経者、婆羅門僧仏陀波利、

〈守一)

儀鳳元年従西国来至此士、到五臺山次、遂五

体投地、向山頂礼日、如来滅後、衆聖潜霊。

唯有大士文殊師利、於此山中、汲引蒼生、教

諸菩薩。波利所恨、生逢八難、不韻聖容。遠

渉流沙、故来敬謁。伏乞大慈大悲普覆令見尊(エーー)

儀。一一一一口己、悲泣雨涙、向山頂礼。礼已挙頭、

忽見一老人従山中出来。遂作婆羅門語調僧日、

(川)

法師情在慕道、追訪聖蹴。不徽励労、遠尋遺跡。

然漢地衆生多造罪業、出家之輩亦多犯戒律。

(五)

唯有仏頂尊勝陀羅尼経、能滅除悪業。未知法

(ルハ)

師頗将此経来不。僧日、貧道直来礼謁、不将

(七)

(八)

経来。老人曰、既不将経、空来何益。縦見文殊、

(几)

(○)

(一一)

亦何必識。師可倒向西国、取此経来、流伝漢土、

〔1〕序

【書き下し】

仏頂尊勝陀羅尼経の序

(1)

仏頂尊勝陀羅尼経は、婆羅門僧の仏陀波利、儀鳳元年に西

おり

国より此土に来至し、五臺山に到りし次、遂に五体投地して、

山に向かって頂礼して曰く、「如来減して後、衆聖、霊を潜

む。唯だ大士文殊師利有って、此の山中に於いて蒼生を汲引

し、諸もるの菩薩を教う。波利、恨む所は、生まれて八難に

わたことさ

逢い、聖容を観ざることを。遠く流沙を渉って、故らに来たっ

て敬謁す。伏して乞うらくは大慈大悲、普く覆いて尊儀を見

せしめんことを」と。一一一一口い己わりて、悲泣して涙を雨ふらし、

山に向かって頂礼す。礼し己わって頭を挙ぐるに、忽ち一老

人の山中より出で来ろを見る。遂に婆羅門の語を作し僧に謂

一」ころ

いて曰く、「法師は情、道を幕いて聖跳を追訪するに在り。勒

労を樟らず、遠く遺跡を尋ぬ。然れども漢地の衆生は多く罪

業を造り、出家の輩も亦た多く戒律を犯す。唯だ仏頂尊勝陀

羅尼経有って、能く悪業を滅除す。未だ知らず、法師、頗く

95

(・一君)

即是遍奉衆聖、広利群生、挺済幽明、報諸仏

恩也。師取経来至此、弟子当示師文殊師利

菩薩所在。僧聞此語、不勝喜躍。遂裁抑悲涙、

至心敬礼。挙頭之頃、忽不兇老人。其僧驚樗

倍、更虐心繋念傾誠。廻還西国、取仏頂尊勝

陀羅尼経、至永淳二年廻至西京、具以上事間

奏大帝。大帝遂将其本入内、請日照三蔵法師、

(・一一一)

及勅司賓寺典客令杜行顎等、辻〈訳此経。施僧

〈・川)

絹一二十匹、其経本禁在内不出。其僧悲泣奏日、

貧道揖躯委命遠取経来、情望普済群生救抜苦

難。不以財宝為念、不以名利関懐。請還経本

流行、庶望含霊同益。帝遂留翻得之経、還僧

(一江}

梵本。其僧得梵本将向西明寺、訪得善梵葬叩漢

僧順貞、奏共翻訳。帝随其請。僧遂対諸大徳

(◇』ハ)

(一酢〕)

共貞翻訳詑。僧将梵本向五臺山、入山於今不

(八}

出・今前後所翻両本並流行於代。小小麺叩有不

同者、幸勿怪焉。至垂拱三年、定覺寺主僧志

静、因停在神都魏国東寺、親見日照三蔵法師、

問其逗留、一如上説。志静遂就三蔵法師諮受

もいへ』

此の経を将ち来るや不や」と。僧日/、、「貧道直に来って礼謁

もも

せんとせば、経を将ち来らず」と。老人曰く、「既に経を将た

まみ

ずして空しく来れば、何の益かあらん。縦い文殊に兇ゆるjU、

亦た何ぞ必ずしも識らん。師、西国に倒向し、此の経を取り

来って漢土に流伝す可くんば、即ち是れ遍く衆聖を奉じて広

く群生を利し、幽明を擁済して諸仏の恩に報ずるなり。師、

)」←」

経を取りて此に来至せば、弟子当に師に文殊師利菩薩の所在

を示すべし」と。僧、此の語を間きて喜躍に勝えず。遂に悲

あいま

涙を裁抑して至心に敬礼す。頭を挙ハ、るの頃に、忽ち老人を

つつし

見ず。其の僧驚傍する一」と倍し、更に心を度み、念を繋け誠

を傾く。西国に過還して仏頂尊勝陀羅尼経を取り、永淳二年

に至って西京に廻至し、具に上事を以て大帝に間奏す。大帝

もつ

(2)

遂に其の本を将て入内せしめ、口H照一一一蔵法師に請じ、及び司

(3)

賓寺典客令の杜行顎等に勅して、共に此の経を訳せIしむ。僧

孕勾

に絹一一一十匹を施し、其の経本は禁じて内に在きて出さしめず。

すす

其の僧悲泣,して奏して曰く、「貧道、躯を損て命を委てて遠く

》」》』}つ

ずく

経を取肘ソ来ろは、情に普く群生を済い苦難より救抜せんこと

を望む。財宝を以て念と為さず、名利を以て懐に関らしめず。

とも

請うらくは経本を還して流行せしめ、庶わくは含霊同に益せ

96

神呪。法師於是口宣梵音、経二七日、句句委

授、具足梵音、一無差失。佃更取旧翻梵本勘

校、所有脱錯悉皆改定。其呪初注云最後別翻

者是也。其呪句梢異於杜令所翻者。其新呪改

定不錯井注其音詑。後有学者、幸詳此焉。至

永昌元年八月、於大敬愛寺見西明寺上座澄法

(一九)

師、問其逗留、亦如前説。其翻経僧順貞現在

住西明寺。此経救抜幽顕爪脇議、藤学者不知

故、具録委曲以伝未悟。

やく

られんことを望む」と。帝遂に翻し得たブC経を留めて、僧に

もつ

(4)

梵本を還す。其の僧、梵本を得て、将て西明寺に向かい、梵

語を善くせる漢僧の順貞を訪ね得て、奏して共に翻訳せんと

す。帝、其の請に随う。僧遂に諸大徳に対して貞と共に翻訳

おもつ

し詑わる。僧、梵本を将て五臺山に向かい、山に入りて今に

いで

やく

於けプDまで出ず。今、前後翻する所の両本並びに代に流行す。

ねが

小小の語に同じからざる者有るJb、幸わくは怪しむこと勿か

つひ)

れ。垂拱一二年に至って、定覚寺の主僧の志静、神都の魏国東

(6)

まみ

寺に停在するに因りて、親しく日照一一一蔵法師に見え、拭くの逗

留を問うに、一に上に説くが如し。志静遂に三蔵法師に就き

て神呪を諮受す。法師、是こに於いて梵音を口宣し、二七日

つぶ

を経て、句句委さに授くれば、梵音を具足して、一山o差失無し。

なあらゆる

価お更に旧翻の梵本を取肘ソて勘校し、所有脱錯、悉く皆な改

やく

定す。其の呪の初めに注して「最後に別に翻す」L」云う者是

(7)

やややく

れなハリ。其の呪の句、梢杜令翻する所の者に異なるも、其の

新呪は改定して錆らず、井ぴに趣くの音を注し詑われhソ。後に

ねが

学者有らば、幸わくは此れを詳かにせよ。永曰曰元年八月に至っ

(8)

まみ

て、大敬愛寺に於いて西明寺の上座の澄法師に見えて、其の

逗留を問うに、亦た前に説くが如し。其の翻経僧の順貞、現在、

97

【校注】

(二経序Ⅱ大正蔵に拠れば、明本・黄檗本はこの下に「唐定覚寺沙門志静述」の九字あり。

(一一)此土Ⅱ碩砂蔵本同じ。大正蔵本は「此漢土」に作る。

(二)挙頭Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「挙首」に作る。

(四)情在Ⅱ磧砂蔵本・大正蔵本は「情存」に作る。

〈五)能滅除悪業Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「能滅衆生一切悪業」に作る。

(六)僧日Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「僧報言曰」に作る。

(七)曰Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「言」に作る。

(八)不将経Ⅱ磧砂蔵本・大正蔵本は「不将経来」に作る。

(九)必識Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「得識」に作る。

二○)倒Ⅱ磧砂蔵本・大正蔵本は「却」に作る。

(二)来Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「将来」に作る。

二二)幽明Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「幽冥」に作る。

(一三)施僧Ⅱ磧砂蔵本・大正蔵本は「勅施僧」に作る。

西明寺に住す。此の経の幽顕を救抜する不思議、学者の知ら

ざるを恐るるが故に、具に委曲を録して以て未悟に伝うろな

り。

98

仏頂尊勝陀羅尼経の序文

『仏頂尊勝陀羅尼経』〔が中国に来た由来について〕は〔以下の通りである。つまり〕、婆羅門僧である仏陀波

インドちゆうごく

利が、儀鳳元年(六七六)に西国より此土にやって来て、五臺山(山西省)に行った時、五体投地して山に向かつ

らいはい

なもろ

ぽさっ

て頂礼して一一一一口った、「如来が減くなられてから後、衆もろの〔優れた〕聖がたは、霊〔妙なる姿〕を潜めてしま

しゆじようすくいあ

しゆぎようしや

われたが、文殊師利大士だけは、一」の山中で蒼生を汲引げて、もろもろの菩薩を教えておられる〔とのこと〕。

わたし

ことがら

おすがた

波利は、〔この世に〕生まれて〔仏にお目にかかれない〕八つの難〔の中の仏前仏後の時代〕に逢い、〔仏の〕聖容

みさばく二

おめ絶かか

を観られないことを残念に思い、遠く流沙を渉えて、わざわざ敬謁りにやって来ました。どうか大いなる慈悲〔の

【口語訳】

二四)匹Ⅱ大正蔵本同じ。磧砂蔵本は「疋」に作る。

二五)善Ⅱ磧砂蔵本は「解善」、大正蔵本は「善解」に作る。

二六)貞Ⅱ大正蔵本は「順貞」に作る。

二七)向Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「遂向」に作る。

二八)小小Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「其中小小」に作る。

二九)現在Ⅱ磧砂蔵本・大正蔵本は全て「見在」に作る。

(二○)不思議Ⅱ磧砂蔵本・大正蔵本は「最不可思議」に作る。

(二二恐Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「恐有」に作る。

99

おすがた

なざ

心〕を〔私の上にも〕普く覆い下さり、尊儀をお見せ下さい」と。言いおわって、悲泣ながら涙を雨ふらし、Ⅲu

らいは師

らいはい

に向かって頂礼した。〔そして〕礼しおわって頭を挙げると、にわかに一人の老人が山中から出で来プロのが見え

インドことば

あなた

そくせき

た。そこで〔その老人は〕婆羅門の語を使って僧(仏陀波利)に一一一一口った、「法師は〔仏〕道を慕い〔仏・菩薩の〕聖縦

さが

こころ

くろう

を追訪したいという情をお持ちだから、肋労を憧らず、遠く〔一)の〕遺跡を尋ねてこられたのでしょう。です

ちゆうごく

ひと

が漢地の衆生は罪業をたくさん造hソ、出家した輩も多くは戒律を犯しています。この悪業を滅除できるのは『仏

あなた

頂尊勝陀羅尼経』Iしかありません。どうでしょう、法師はその経を持って来れましたか」と。僧(仏陀波利)は〔答

わたし

おめどお

えて〕一一一一回った、「貧道は〔文殊菩薩に〕礼謁りしようと真っ直ハ、に来ましたので、〔その〕経を持って来ていませ

りやく

ん」と。老人は一一一一口った、「経も持たずに手ぶらで来たのなら、何の利益があhソましようか。〔それでは〕たとえ文

あなたインド

殊〔菩薩〕にお目にかかれたとしても、必ずしJD〔その方が文殊菩薩だとは〕分からないでしょう。師が西国に

ひきかえ

ちゆ昂ごくつた

あまねもる

倒向して、その経を取って来て漢土に流伝えることができるならば、〔それが〕とりjDなおさず遍く衆もろの〔優

ぼさつ打つか

しゆじようりやく

あのよ》」のよ

すくいと

れた〕聖がたに奉えして、広く群生に利益をあたえ、幽と明L」を〔共に〕極済って諸仏の恩に報いることなので

あなた

わたし

あなた

いぽしよ

す。師が経を取ってここにやって来たならば、弟子がきっと師に文殊師利笠口薩の所在をお教えしましょう」と。

ことば

よろこび

なみだおさこころをこらいはい

僧(仏陀波利〉はその語を聞いて喜躍に勝えず、悲涙を裁抑え至心めて敬礼した。〔そして〕頭を〔下げて〕挙げプC〔少

ざもら

しの〕間に、忽然として老人〔の姿〕は見えなくなった。その僧(仏陀波利)はますます驚樗-し、更に敬虐な心に

いつしんこころし《

インドかえ

な、ソ、〔その老人に対し〕繋念に誠を傾せた。〔それから、その僧(仏陀波利)は〕西国に廻還って『仏頂尊勝陀羅尼経』

みやこ

もどつぶさ

こうていもうしあげ

二うてい

を手に入れ、永淳一一年(六八一一一)になって西京(長安)に過至り、具にこれまでの事を大帝に間奏た。そこで大帝

いらい

はその〔『仏頂尊勝陀羅尼経』の梵〕本を持って入内させ、日照一二蔵法師に請し、及び司賓寺典客令(賓客接待事

めいれい

務官)であった杜行顎等に勅jして、共にその経を〔中国語に翻〕訳させた。〔そして〕僧(仏陀波利)に〔経本の代価

な、

として〕絹三十匹を〔布〕施し、その経本を宮内から出すことを禁じた。その僧(仏陀波利)は悲泣て奏上して一一一一口っ

100

わたしみず

すしゆじようすぐ

たすけだ

こころ

た、「貧道が躯を損て命を委てて遠くから経を取って来ましたのは、普く群生を済い苦難から救抜したいと情か

めいよ

こころ

ら望んだからです。財宝や名利〔を求めること〕など〔まったく〕念懐にありません。どうか経本をお返し下さ

ゆきわた

しゆじよう

こうてい

り〔中国全土に〕流行らせて、含霊が共に利益をえられますようお願い致します」と。そこで帝は翻〔訳〕がで

きた〔中国語の〕経を〔宮中に〕留めて、〔原本である〕梵本を僧(仏陀波利)に返した。その僧(仏陀波利)は手に入

れた梵本を持って〔長安の〕西明寺に向かい、梵語に長けた順貞という中国僧を訪ね当て、〔皇帝に〕奏上して

こうていもとめ

共に翻課しようとした。帝はその請に随った。そこで僧(仏陀波利)は、もろ〕Dろの大徳の手を借りることなく、

順貞と共に翻訳してしまった。〔その後〕僧(仏陀波利)は、梵本を持って五臺山に向かい、山に入って今にいた

とも

るまで〔山を〕出ていない。現在、〔『仏頂尊勝陀羅尼経』は〕前後〔一一回〕翻訳された一一種類の本が並に世間に流

ことば

行している。〔二種類の本は〕語に少々同じでないところがあるが、どうか怪しまないでほしい。垂拱一二年(六八七)

じゆうしよく

みやこ

たいざい

になって、定覚寺の主僧である志静が、神都(長安)の魏国東寺に停在したときに、親しく口H照一一一蔵法師にお目

にかかり、その〔仏陀波利という僧が長安に〕逗留〔した時のこと〕を質問したが、〔その答えは〕まったく上に

なら

説いた通りであった。志静はとうとう〔日照〕一二蔵法師に就いて〔『仏頂尊勝陀羅尼経』の〕神呪について諮受う

とな

つぶ

ことにした。〔日照〕法師はそこで梵音を口にだして宣え、一一七〔十四〕ロⅡをかけて一句一句委さに授けたので、

みにつけ

まちがい

むか

〔志静は〕梵音を具足て、まったく差失がなくなった。なお更に旧し翻訳した梵本を取hソだして校勘し、あらゆ

る脱字や誤字について、すべて改定した。〔『仏頂尊勝陀羅尼経』所載の〕その呪の初め〔の部分〕に注して「最

やく

やくにん

やく

後に別に翻した」とあるのがそれである。その呪の〔字〕句は令であった杜〔行顎〕が翻したjbのとやや異なるが、

あやま

その新しい呪の方が改定してあるから錆っていないし、〔また〕併せてその〔漢字の発〕立曰について〔きちんとし

た〕注記をつけてしまっている。後〔世〕に〔この呪を〕学ぶ者は、どうかこのことを詳かに〔知って〕いてもら

いたい。永昌元年(六八九)八月になって、大敬愛寺において西明寺の上座である澄法師にお会いして、その〔仏

101

陀波利という僧が長安に〕逗留〔した時のこと〕を質問したが、これまた前に説いた通りであった。その経を翻

あのよ

このよ

きゆうぎい

訳した僧である順貞は、現在、西明寺に住している。この経が幽〔の者も〕顕〔の者もすべて〕を救抜する〔こ

つぷさ

とが出来る〕不可思議さについて、〔仏教を〕学ぶ者が知らないのが心配なので、具に委細〔すべて〕を〔記〕録

わか

して、まだ〔よく〕悟っていないものに伝えるものである。

【注】

T)仏陀波利Ⅱ中国名は覚護。北インド闘賓国の人。訳経僧であるが、その訳出した経典は『仏頂尊勝陀羅尼経』のみである。

その伝は『未高僧伝』巻一一〈弓8,.コの)・『開一兀釈経録』巻九(日切、‐思留)に見える。

(2)日照三蔵法師Ⅱ中インド出身の地婆訶羅のこと。巾国名は日照。『大乗顕識経』『大乗五繍論』など1八部の経論を

訳出している。彼は杜行顎の後に今一度、勅命でこの経を訳出したと言われ、その『仏頂最勝陀羅尼経』は大正蔵第

一九冊(z○・PS)に収載されている。その伝は『宋高僧伝』巻二(弓91.℃鼬)・『開元釈経録』巻九(Sm、,、三色)に

(3)司賓寺典客令杜行顎等Ⅱ杜行顔は京兆の人。儀鳳年間に「朝散郎行鴻艫寺典客署令」に任じられた人物で、蕃語や天

竺語にも通じ、文藻も備えていたと言われる。杜行顎が訳出した『仏頂尊勝陀羅尼経』一巻は大正蔵第一九冊(zo・舅、)

に収載されている。その伝は『開元釈経録』巻九(目印‐、①含)に見える。

(4)西明寺Ⅱ唐の高宗がインドの祇園精舎の制に模して、三年半の年月を費やして顕慶三年(六五八)に長安の都に勅建

した大寺院。(『望月』第二冊已・云腸・『仏光』己・厨司参照)

(5)定覚寺主僧志静Ⅱ寺名、僧名ともに未詳。定覚寺は長安にあった寺であろう。

一九冊

見える。

02

(一)

闘賓国沙門仏陀波利奉詔訳

如是我聞。一時薄伽梵在室羅筏、住誓多林

給孤独園、与大遮鍋衆千二百五十人倶。又与

諸大菩薩僧万二千人倶。爾時三十三天於善法

堂会、有一天子名曰善住。与諸大天遊於園観。

(6)神都魏国東寺Ⅱ神都は京畿のことで、ここでは長安を指す。魏国東寺は威亨元年(六七○)に長安に建てられた太原

寺のことで、この寺は建立後、魏国西寺、崇福寺、魏国東寺、大周東寺などと次々に改名されている。菩提流支が『大

宝積経』や四十巻『華厳経』を訳出した寺である。『仏光』で」②国参照。

(7)其呪初注云最後別翻者是也Ⅱ原本および高麗本にはこの注は付されていないが、宋本・明本・黄檗本には呪の前の「即

説呪日」という経文の下に「此呪最後別翻」という來註がある。

(8)大敬愛寺Ⅱ長安に在った寺院。『仏光』一)・眉gの「印宗」の項参照。

【原文】

仏頂尊勝陀羅尼経

〔2〕善住天子の因縁

けいびん(川〉

(1)

鬮賓国の沙門仏陀波利、詔を奉肝して訳

ぱがぽん(皿)しつらばつ(胆)いま

せがたりん

是くの如く我聞/、。一時、薄伽梵室羅筏に在して、誓多林

ぎっこどくおん(旧)

びっしゅ(Ⅱ}

の給孤独園に住し、大一必濁衆千一一百五十人と倶なりき、又た

(晦)

そ(雌)

(灯)

諸大菩薩僧万二千人と倶なhソき。爾の時三十三天の善法堂会

(旧)〈四)

に於いて、|天子有hソ名づけて韓住と日う。諸j□ろの大天と

【書き下し】

(9)

仏頂尊勝陀羅尼経

103

爾時善住天子聞此声已。即大驚怖身毛皆竪

愁憂不楽。速疾往詣天帝釈所、悲啼號奥慢怖

無計。頂礼帝釈二足尊己、白帝釈言聴我所説。

我与諸天女共相囲続受諸快楽。間有声言善住

天子却後七日命将欲尽。命終之後生贈部洲。

七返受畜生身、受七身已即堕諸地獄。従地獄

出希得人身。生貧賎家而無両目。天帝云何令

我得免斯苦

爾時善住天子即於夜分間有声言。善住天子

却後七日命将欲尽。命終之後生謄部洲。受七

返畜生身。即受地獄苦。従地獄出希得人身生

於貧賎。処於母胎即無両目

又与大天受勝尊貴。与諸天女前後囲驍、歓喜

遊戯種種音楽共相娯楽受諸快楽。

ともおんかん(卯)

とも

(割)

与に園観に遊び、又た大天と与に勝尊貴を受け、諸jDろの天

(型)とも

女の前後囲続すると与に歓喜遊戯し、種種の音楽もて赴くに相

娯楽し、諸もるの快楽を受く。

爾の時、善住天子即ち夜分に於いて声の一一一一口うこと有るを聞

く。「善住天子よ、却後七日にして命将に尽きんと欲す。命終

せんぶしゆう(鋤)

わるの後、鱸部洲に生、し、七返畜生の身を受け、即ち地獄の

苦を受け、地獄より出でて希に人身を得て貧賎に生ずるも、

母胎に処して即ち両目無からん」と。

そお

雨の時、諺口住天子、此の声を聞き己わって、即ち大いに鷲

すみやか

怖1」て身毛皆な堅ち、愁憂して楽しまず。速疾に天帝釈の所

ひていどうこくこうふ

に往詣して、悲啼號突し、怪怖するJい}計無し。帝釈の一一足の

おもろ

噂を頂礼し己わって、帝釈に白して言う、「我が所説を聴け。

とも

我、諸JDろの天女の共に相囲緯すると与に譜もろの快楽を受

くるに、声の言うこと有るを聞く、『善住天子よ、却後七日に

せん》やしなう

して命将に尽きんL」欲す。命終わるの後、膳部洲に生じて、

七返畜生の身を受け、七身を受け己わって、即ち諸JDろの地

獄に堕し、地獄より出でて希に人身を得るも、貧賎の家に生

いかん

←」まいか

肝して、両目無からん』と。天帝、云何が我をして斯の苦を免

るることを得せしめん」と。

104

爾時帝釈即於此Ⅱ初夜分時。以種種花壇塗

香末香。以妙天衣荘厳執持往詣誓多林園於世

(し召の)

尊所到已頂礼仏足右続七市。即於仏前広大供

養。仏前胡脆而日仏言。世尊善住天子云何当

受七返畜生悪道之身。具如上説

爾時帝釈聞善住天子語已、甚大驚樗即自思

惟。此善住天子受何七返悪道之身。爾時帝釈

須輿静住入定諦観、即見善住当受七返悪道之

身。所謂猪狗野干禰猴蟻蛇烏鷲等身。食諸穣

悪不浄之物。爾時帝釈観見善住天子当堕七返

(一『〉

悪道之身。極助苦悩痛割於心。諦思無計何所

帰依。唯有如来応正等覚。令其善住得免斯苦

そお

爾の時、帝釈、善住天子の語を聞き己わ院リ、甚だ大いに驚

惰して即ち自ら思惟すらく、「此の善住天子、何をもってか

そしゆゆ(割)

七返悪道の身を受けん」し」。爾の時、帝釈須突にして静住し、

あきら

まさ

定に入りて諦かに観ずるに、即ち見る善住当に七返悪道の身

を受くべきことを。耐識撒、伽、跡撤率一聯鴨茄一蝿臓霧鳥、鷲

等の身にして、諸jUろの微悪不浄の物を食う。繭の時、帝釈、

善住天子の当に七返悪道の身に堕すべきことを観見し、苦悩

あざらか

を擁助せんとし、心を痛割して、諦に思うJQ計無し。「何れの

(期)

所にか帰依せん。唯だ如来・応・正等覚有hソて、枕〈の善住を

一」

して斯の苫を免かるる}」とを得せしめん」〔と〕・

エ■

{郷)

繭の時、帝釈即ち此の口川の初夜分の時に於て、種種の花

まん(和)ずこうまつこう(抑)

(池)しゆうじ(郷)

壇、塗香、未香を以て、〔士{た〕妙天衣の荘厳を以て執持し、

おちようら小(狐}

誓多林園に往詣して世尊の所へ到hソ己わって仏足を頂礼し、

う』』よう(躯)

ヱざつ

右緯する一)と七市す。即ち仏前に於いて広大に供養し、仏

こぎ(鋤)

もう

いかん

の前に胡脆して仏に白Iして言う。、「世尊よ、善住天子は云何

まさ

つが(主『

が当に七返の畜生悪道の身を受くべきや」し」。具に上に説く

が如し。

105

【口語訳】

もっともすぐれた

仏の頂〔から放たれた光によって説かれた〕尊勝陀羅尼の経典

みことのり

カシュミールの沙門である仏陀波利、麺、を奉じて訳す

せそんしつらぱっ

とど

一)のようにわたしは聞いた。ある時、薄伽梵は室羅筏(舎衛国)におられ、祇園精舎に住まられて、立派な修

行僧たち千二百五十人と一緒であり、また諸もるの立派な菩薩たち一万二千人と一緒であった。その時〔須弥

山の頂上である〕一一一十三天にある善法堂に、善住という名の天子がいた。〔帝釈天を初めとする三十三天の〕諸

そんけい

もろの立派な天子たちと辻〈に〔天上の〕園に遊び、また〔諸もるの〕立派な天子たちと共に非常に尊貴を受け、

とりかこ

たのしくあそ

たのし

前後を囲続んでいる天女たちと共に歓喜遊戯ぴ、種々の壷口楽をききながら娯楽み、諾もろの快楽を受けていた。

よなか

ある時、善住天子は夜分に〔次の様に〕一一一一口う声を聞いた。「善住天子よ、〔あなたは〕これから七日後に寿命が

尽きてしまいます。命が終わった後、贈部洲に七回、畜生の身〔を受けて〕生まれ、それから地獄〔に堕ちて、

さいわ

いやしい

やど

そ〕の苦しみを受け、地獄より出て希いに人の身を得ますが、貧賎〔身分〕に生まれ、母胎に処っても両目が無

いでしょう」と。

おそれ

しんぱい

その時、善住天子はこの声を聞きおわって、大変驚怖て身の毛が皆な堅ち、愁憂して楽しめなかった。す〈、

【校注】

(一)

(一一)

(一一一)

国Ⅱ原本に無し。大正蔵本に拠って補う。

趣Ⅱ大正蔵本は「極」に作る笥尊勝陀羅尼経疏』、『尊勝陀羅尼経紗』は「握」に作る。

市Ⅱ大正蔵本は「匝」に作る。

106

おもむ

なげきかなしこわが

ざま帝釈天の所に往詣いて、悲啼號突み、慎怖ろだけでどうしようjbなかった。帝釈〔天〕の尊い一一本の〔足に〕

ぬかづ

ぱなしき

とりかこ

頂礼いて、帝釈〔天〕に申し上げた、「わたしの所説をお聴きください。わたしが、〔わたしを〕いつ‐しょに囲続

んでいる天女たちと共に諸もるの快楽を受けていますと、〔次ぎの様に〕言う声が聞こえました。『善住天子よ、

〔あなたは〕これから七日後に、寿命が尽きてしまいます。命が終わった後に、贈部洲に生まれて、七回、畜生

の身を受けて〔生まれ〕、七〔回畜生の〕身を受けてしまって、それから諸jbろの地獄に堕ち、地獄から出て、

さいわ

いやしい

希いに人の身を得ますが、貧賎〔身分〕の家に生まれて、両ロロが無いでしょう』と。天帝よ、どうやったらこの

まぬか

苦しみから免れるこⅡとができましょうか」と。

ことぱ

おどろ

かんが

その時、帝釈〔天〕は善住天子の語を聞きおわって、非常に驚傍いて、〔次の様に〕思惟えた、「この善住天子

くるしみ

すぐさま

すわ

は、どうして七回JD悪道の身を受けなければならないのか」と。その時、帝釈〔天〕は須奥静かに住hソ、〔禅〕定

あきらみ

くるし激

ぶたいぬのざつね

に入って諦かに観てみて、善住が七回悪道の身を受けなければならないこし」を見た。いわゆる猪、狗、野干、

さるうわぱみからすわし

けがれ

禰猴、嶬蛇、烏、鷲といった身で、諸jbろの穣悪た不浄の物を食べていた。その時、帝釈〔天〕は善住天子が

くるしみ

おみ

すく

なやまかんが

七回悪道の身に堕ちなければならないことを観見て、〔善住天子の〕苦悩を極助おうL」、心を痛割し、諦思えた

てだて

〆一こ

によらいおうぐしようとう

がうまい計が無かった。〔そこで次の様に考えた、〕「何所に帰依すればよいであうつうか。ただ如来・応供・正等

がく

覚〔と呼ばれる世尊〕だけが、その善住〔天子〕を一」の苦しみから免かれさせることができるだろう」〔と〕。

よいのくち

、ろ、ろはなかざり

きいじようりつば

その時、帝釈〔天〕はこのpHの初夜分の時に、種種な花鬘や塗香や抹香、〔さらには〕妙天の荘厳な衣を〔手に〕

もっせいたりん

ぎっこどくおんおもむ

おしいただ

執持て、誓多林〔にある給孤独〕園に往詣き世尊の所へ到着’しおわって、仏の〔御〕足を頂礼き、〔仏に右一眉を向

せいだい

もう

けて〕右に七回廻った。そして仏前で広大に供養し、仏の前に右膝を地につけてすわり、仏に白しあげて一一一口った、

「世尊よ、善住天子はどうして七回も悪道である畜生の身を受けなければならないのでしょうか」と。〔続けて〕

つぷさ

具に上に説いたしように〔申し上げた〕。

107

(u)遊翻Ⅱ房】厨ロ(托鉢乞食する者)の音写。新しい音写で、古くは比丘と音写した。(『中村』{)・]]膠)

(旧)菩薩僧Ⅱ①菩薩の集まり。②一一種僧の一つ。在家のすがたをした僧。(『中村』{)」恩])とあるがここでは①の意味をとる。

(肥)三十三天Ⅱ六欲天の一つ。須弥山の頂上にある天。中央に帝釈天がいて、頂の四方に各八人の天人がいるので、合わ

せて三十三天となる。切利天ともいう。(『中村』ロ・自画)

(ロ)善法堂Ⅱ帝釈天の宮殿。切利天(三十三天)にある講堂(ホール〉。須弥山の頂上である喜見城外の西南角にある。諸

天がここに集まって人中の善悪を議論するという。(『中村』己・患い)

(坦善住Ⅱ善法堂のある天に住む天人であることから善住とよばれる。また乾闘婆の児を善住といい、その容貌は端厳で

髪型衣服冠なども含めて菩薩のようである。(『尊勝陀羅尼経疏』園『・巳四ヶ‐』扇す、『尊勝陀羅尼経紗』害‐舌)

(四)諾大天Ⅱ帝釈天と三十二天のこと。(『尊勝陀羅尼経紗』蟹‐]○す)

(、)園観Ⅱ①園は園林、親は高台のこと。②園のこと。教団の敬地をさす。③園のみごとなさま。(『中村』ご」患)

(、)闘賓国Ⅱ西北インドの古い国。カシュミールのこと。

(Ⅱ)薄伽梵Ⅱ世尊。釈尊のこと。ワ冨彊雪の音写。

(吃)室羅筏Ⅱ舎衛国のこと。薗菌日の訳。仏陀在世の頃に中インドにあった国。

(旧)誓多林給孤独園Ⅱ紙樹給孤独園(祇園精舎)のこと。中インドのサーヴァッティー国にあった精舎。スダッタ長者が、

釈尊とその教団のために建てた僧坊。ジェータ太子の林苑に建てられたので祇園という。多くの説法が、この地でな

(9)仏頂尊勝Ⅱまたは尊勝仏頂という。仏頂とは仏の頭上のことで、如来の無見頂相の諸仏の中で最も尊く最も勝れた尊

P司

注■ ̄

された。(『中村』{)・巴『)

弁一いシ7.

108

(釦)塗香末香Ⅱ香を蕪じたり、身に塗ったりして、悪臭を取り除き芳香を生活の中に漂わすインド古来の習俗が、仏の供

養に取り入れられたことにより、香は供養の重要な料となった。沈香・白檀・丁子香など数多くの南方産のものが用

いられている。身に塗るものを「塗香」といい、香水・香油・香薬などに分かれ、たくものを「薫香・焼香」といい、

(、)尊貴Ⅱ尊く勢いのあること。(『中村』で・患ご

(犯)囲続Ⅱとり囲むこと。(『中村』Pg)

(麺)贈部洲Ⅱ閻浮提に同じ。インドのこと。須弥山の周囲に四洲があり、その中で南方にある洲をさす。ここで住民が受

ける楽しみは束と北の二洲には劣るが、諸仏が現われるのはこの南の洲だけであるという。(『中村』})・震頤、同己・]巴〉

(型)須輿Ⅱ①時間の単位。三十ラヴァをいう。刹那と同視されることがある。②転じて短時間のこと。瞬時。一時。たち

まちの間。わずかの間。つかの間。しばし。しばらく。目目目【(『中村』p田①〉、ここでは②の意味をとる。

(躯)野干Ⅱ野ぎつねのこと。狼の一種ともいう。夜に出歩いて人肉を食う。(『中村』C・」ヨム)

(恥)禰猴Ⅱサンスクリット日肖匿冨の漢訳。猿。大ざる。猿は性質が軽はずみで落ち着かぬものであるが、それを、凡夫

の五欲の盛んで不安定なさまにたとえる。(『中村』己」患、)

(”)鱗Ⅱ大きなうわばみ、の意。大腹・質朴・非人6大胸復行などとも漢訳する。(『中村』で.」患、)

(犯)如来応正等覚Ⅱ如来と応と正等覚。応は応供の略。人天(人びとと神々)の供養を受けるにたる者の意。正等覚は正

しい完全なさとりの意。仏の十号のうちの第一と第二と第一二。正等覚は正遍知ともいう。(『中村』で」目)

(豹)初夜Ⅱインドでは一夜を初・中・後に三分するのが例である。そのうち初夜は宵の口を意味する。今の午後六時ごろ

から九時ごろまでのこと。初更。夜の最初の部分。(『中村』{〕・gC〉

(釦)花璽Ⅱ華には「花(塵には「綬」「鰻」をも当てる。糸で生花を綴り、またはこれを結んで、頸飾りまたは身の装飾となし、

あるいは仏の供養に用いる。

109

【原文】

爾時如来頂上放種種光、遍満十方一切世界

(})

已。其光還来続仏三市、従仏ロ入。仏便微笑

(茄)胡脆Ⅱ足をかがめて右膝を地につけること。インドの礼法。(『中村』で・塁巴

丸香・抹香・線香・線香などに加工される。

(犯)妙天衣Ⅱ妙はすばらしい、最勝の意味で、天衣とは立派な衣の意味。よって最上の衣。

(詔)執持Ⅱ心にしっかりと刻みつけること。信仰心や精神統一した心が確固として散乱しないこと。(『中村』己・量や)

(弧)頂礼Ⅱ古代インドにおける最高の敬礼法で、尊者の足下にひれ伏し、頭の先を地につける。仏教でも仏の両足に頭を

つけるのを「頂礼仏足」といい、両手両足頭を地につける五体投地は最上の敬礼法とされる。

(鍋)右続Ⅱ「右達」とも書き、「右旋」ともいう。インドの礼法の一つ。敬意を示したい対象(貴人・聖火など)に右一眉を向け、

その周囲を右回りに廻ろ礼。これが仏教にも取り入れられて、「右達三匝」(右回りを三回繰り返すこと)の礼法が(

〔3〕陀羅尼の教示

般化した。

【書き下し】

エ・

(源}

爾の時如来、頂上より種種の光を放ち、十方一切世界に遍

おめぐ

きんそう(海)

満し己われり。其の光還り来りて仏を焼ること一二市し、仏の

110

{一勺)

告帝釈一一一口、天帝、有陀羅尼、名為如来仏仏

頂尊勝。能浄一切悪道、能浄除一切生死苦

悩、又能浄除諸地獄閻羅王界畜生之苦、又破

(一一一)

一切地獄能泗向善道。天帝、此仏頂尊勝陀羅

尼、若有人間、一経於耳、先世所造一切地獄

(Ⅳ)

悪業、皆悉消滅、当得清浄之身。随所生処憶

持不忘、従一仏刹至一仏刹、従一天界至一天

界、遍歴三十三天。所生之処、憶持不忘。天

帝、若人命欲将終、須突憶念此陀羅尼、還得

増寿、得身口意浄、身無苦痛、随其福利随処

安隠。一切如来之所観視、一切天神恒常侍衛、

〈Ⅱ)

為人所敬、悪障消滅、一切菩薩同心覆護。天帝、

若人能須輿読調此陀羅尼者、此人所有一切地

獄畜生閻羅王界餓鬼之苦、破壊消滅無有遺余。

諸仏刹士及諸天宮、一切菩薩所住之門、無有

(Lハ)

障碍、随意遊入。爾時帝釈白仏一一一一口、世尊唯願

如来、為衆生説増益寿命之法。爾時世尊知帝

(・昨」)

釈意心之所念楽聞仏説是陀羅尼法、即説呪日、

たいしやく(洲)

(抑)

口より入る。仏便ち微笑して帝釈に告げて一一一口く、「天帝よ、陀

羅尼有り名づけて如来仏頂尊勝と為す。能く一切の悪働誉浄

〈抑)

漣ょらがぶつちようそんしょう

め、能く一切の生死の苦悩を浄め除き、又た能く諸弘Uろの地

獄・献鰕迩界・畜生の苦を浄め除き、又た一切の地獄を破り

て能く善隣に抄雌栖・天帝よ、此の仏頂尊勝陀羅尼は、若し

人の聞く有・りて、|たび耳を経ば、先世に造る所の一切の地

獄の悪業は皆悉く消滅し、当に清浄の身を得、所生の処に随

ぶつせつ(怖〉

いて憶持して忘れざるくし。一仏刹より一仏刹に至hソ、一天

〈妬)

(肥)

界より一天界に至・り、一一一十一一一天を遍歴して、所生の処に憶持

して忘れず。天帝よ、若し人の命将に終わらんと欲するに、

しゆゆ(割)

須爽に此の陀羅尼を憶念せぱ、還って寿を益すを得、身口意

(綿)

浄らかなるこし」を得て、身に苦痛無く、其の福利に随い処につ

随いて安隠ならん。一切の如来に観視せ{つれ、一切の天神恒

常に侍衛し、人の敬う所となhソ、悪障消滅して、一切の菩薩

同心に覆識ぜん・天帝よ、若し人能く須輿も此の陀羅尼を読

あらゆ

調せば、此の人の所有Z》一切の地獄・畜生・閻羅王界・餓鬼

の苦、破壊消滅して道余有ること無からん。諸もるの仏刹士

及び諸もるの天宮、一切の菩薩の住む所の門、障碍有ること

無く、随意に遊入せん」と。

111

〈八)

那謨薄伽践帝〔.〕啼隷路迦騨朧底砒失麓姥

〔孔佛怯反。下同〕耶〔一一〕勃陀〔引〕耶〔二〕薄伽政帝〔四〕

但姪他〔五〕随〔引。』ハ〕砒輸駄耶〔七〕娑摩三漫多

幡婆娑〔△娑破曝掌掲底伽訶那娑婆〔引〕幡輸

地〔九〕阿鼻読者蘇掲多伐折蒔設反。下側〕那阿蜜

剛多砒畷難〔1.此取闘字呼声喚〕阿〔引〕詞羅阿訶

羅〔十一〕阿〔引〕楡散陀〔引〕羅尼〔十一一〕輸駄耶輸

駄耶〔‐工一〕伽伽那砒輸〔輸律反ドー何〕提〔‐↑四〕烏慧

尼沙砒逝耶輸提下さ娑訶娑嚥喝畷潔餌珊珠

地帝〔十六〕薩〔引〕婆但他掲多地讓陀〔引〕那頻地

琵恥帝慕姪隷〔十七〕抜折曝迦可〕耶僧訶多那

輸提〔十八〕薩婆伐嚥筆砒輸提〔十九〕騨曝底祢伐

但耶阿瑞輸提〔Ⅱ〕薩末那頗地慧恥帝〔廿二末

祢末休〔廿奎〕但闘多部多倶砥鉢卿輸提〔廿一一一〕砒

肌議徽伽肋禰□聯繍噺醐徽聯脚舳先溌哨〔州す。擁と僻の蝿(「夕」

と読む)。㈹同じ〕船〔一一〕鯲附〔雌す〕恥〔一一一〕瀞伽跡禰〔四〕低嚇他〔五〕噸ピシュダヤサンマサンマンタハパシャソハラタギャチキャ力

〔躯す。六〕砒輸駄耶〔七〕娑摩一一一漫多幡婆婆〔八〕娑破嚥筆掲底伽訶

川蝉濁馳す〕聯蹴地〔ん〕肺紮謝翫聯撒扮胸抓〔聯と鍵の陣(「シャ」と続

、.ノウアミリタピセイケイ二二I

む『耐同じ〕那阿蜜卿多砒畷難〔1。此は脚の字の呼声を取って鍵U〕耐〔邪

シュダヤシュダヤ

す〕訶羅阿訶羅〔十一〕剛〔孵す〕聯離陀〔引〕鰕勝〔十二〕輸駄耶輸駄耶

力ラアカラ

キヤキャノウピシユしゆ叩っ虻切

..テイウシュニシャ

〔十一二〕伽伽那砒輸〔輪と作の反(一シュ」と読む)・暁同じ〕提〔1四〕烏憲尼沙

砒逝耶輸提〔l派〕勢詠騨囎卿囎榊抑珊鵬地禰(tハ〕露耐ず〕蝉低

ピシヤヤシュデイ

他獄歩地溌噺〔州す〕肌嚇地瀧恥禰瀞嚇繍〔十七〕桝押聯剛引”す〕Ⅲ

ソウカタノウシュテイサラパハラタピシュテイ

ハラチニハラタヤア

僧訶多那輸提〔十八〕薩婆伐曜筆砒輸提〔十九〕螂曝底祢伐但耶阿

ユシュテイサラマノウアッチシュチテイ

マニマニ

タダダポタ

礒輸提〔廿〕薩末那頗地讓恥帝〔!〕末作末祢〔Ⅱ二〕但鬮多部多

クチハリシュテイ

ピソホタポチシュテイシャャシャャ

ピシヤ

倶砥鉢咽輸提〔廿一二〕砒薩普叱勃地輸提〔Ⅱ四〕社耶社耶〔廿五〕砒社

ヤビシヤヤ

サンマーフサンマラボダアヅチシュチタシュテイ

バシリ

耶砒社耶〔廿六〕薩末畷薩末曝勃陀頗地琵恥多輸提〔廿七〕践折鯉

(サラギヤラヘイ

パサランハハト

ママ

敗折曝掲碑〔Ⅱ八〕祓折藍婆伐都〔什九〕麿麿〔某叩(Ⅱ呪文を受持している

そもう

爾の時帝釈、仏に白して一一一一向く、「世尊よ、唯だ願わくは如来

よ、衆生の為に寿命を増磁ずろの法を説きたまえ」と。爾の 》

時世尊、帝釈の意心の念ずプ④所に仏の是の陀羅尼の法を説/、

ねが

を聞かんと楽うを知hソ、即ち呪を説いて曰く、

112

仏告帝釈言、此呪名浄除一切恕道仏頂尊勝

陀羅尼。能除一切罪業等陣、能破一切微悪道

(几)

苦・天帝、此陀羅尼、八十八碗伽沙倶脳百千

(||、||}

諸仏同共害旦説、随喜受持。大如来智印印之、

{、午)

為破一切衆生臓、悪道苦故。為一切地獄畜生

閻羅王界衆生得解脱故。臨急苦難堕生死海中

衆生得解脱故。短命薄福無救護衆生、楽造雑

(|『こ)

染悪業衆生故説。又此陀羅尼於胸部洲住持力

故。能令地獄悪道衆生、種種流転生死簿福衆

帝〔|下五〕娑婆詞

薩普叱勃地輸提〔Ⅱ四社耶社耶〔Ⅱ五〕砒社耶砒

社耶〔Ⅱ六〕薩末曝薩末曜勃陀頗地琵恥多輸提

〔Ⅱ七〕践折曝蹴折曝掲稗〔廿凸敗折藍婆伐都〔Ⅱ

几〕歴腫〔某叩(Ⅱ受持者於此日嗣名)〕薩婆薩唾那〔と

迦可〕耶砒輸提〔Ⅲ〕薩婆掲底鉢剛輸提〔Ⅲ一〕薩

婆仙他掲多三摩潔婆娑頗地遜恥帝〔Ⅲ〕勃噸

勃噸〔Ⅲ:。他耶反〕蒲駄耶蒲駄耶三漫多鉢刑輸

提〔Ⅲ凹薩婆但他掲多地琶陀(別〕那頻地琴恥

仏、帝釈に告げて言く、「此の呪は『浄除一切恕道仏頂尊

勝陀羅尼』と名づく。能く一切の罪業等の陣を除き、能く一

切の糠、恕道の苫を破る。天帝よ、此の陀羅尼は、ハーハ

ごうがしや(卯)ぐて恥{釦)

と6

碗伽沙倶砥百千の諸仏、同共に》同一説し、随喜受持す。大

(兜)

如来の智印もて之孝}印するは、一切の衆生の横・悪道の苫

を破らんが為の故に。一切の地獄・畜生・閻羅王界の衆生

をして解脱を得せしめんが為の故に。急なる苦難に臨んで

生死海中に堕する衆生をして解脱を得せしむるが故に。短

ねが

命薄桶にして救護無き衆生、楽って雑染の悪業を造る衆生

サラパサ卜

行の名川をここでⅢえる)〕薩婆薩唾那〔’に(減で挑む)〕趣〔州す〕恥朏聯臓〔Ⅲ〕サラバギャチハリシュテイサラバタタギャタサンマシンパサアッチシュチデイ

薩婆掲底鉢剛輸提〔Ⅲ一〕薩婆但他掲多一二摩濠婆娑頗地豫恥帝〔Ⅲ

ポチャボ夕

几小。反町

ホダヤホダヤサンマンタハリ

ー〕勃岻勃噸〔Ⅲ二・他と耶の反(「夕」と読む)〕蒲駄耶蒲駄耶一一一漫多鉢噺

鯲憾〔Ⅲ川〕鵬瞬他仙撒勢地織崎〔岬す)肌卿地瀧附禰〔一一一1(〕娑婆

ソワ

制即 力

13

生、不信善悪業失正道衆生等、得解脱義故。

【校注】

(一)

(》一)

(一一一)

(四)

(五〉

(一ハ)

(七)

〈八)

〆 ̄、

九、-〆

mⅡ大正蔵本は「匝」に作る。

仏頂尊勝Ⅱ原本は「仏尊勝頂」に作る。

天帝Ⅱ黄檗本はこの上に「仏告」の二字あり。

悉皆Ⅱ大正蔵本は「悉皆」に作る。

減Ⅱ黄檗本は「除」に作る。

遊Ⅱ大正蔵本は「趣」に作る。

心Ⅱ黄檗本は無し。

那謨…Ⅱ以下の陀羅尼の部分は、底本と磧砂蔵本・大正蔵本と大きく内容を異にしているため、今回は

異同の校注を行わなかった。

陀羅尼Ⅱ大正蔵本は「大陀羅尼」に作る。

せんぶしゆう(聖)

の故に説/、。又た此の陀羅尼は贈部洲に於いて住持すう①力

の故に、能く地獄悪道の衆生、種種に生死を流転せる薄福

なる衆生、善悪業を信ぜずして正道を失える衆生等をして、

解脱の義を得せしむる故に」と。

114

【口語訳】

その時、如来は頭頂から種々の光を放ち、それはあらゆる世界をすべて満たし尽くした。そしてその光は返っ

てきて仏のまわりを三回めぐった後、仏の口から入った。そこで仏は微笑して帝釈〔天〕に言った、「天帝よ、『如

来仏頂尊勝』という名の陀羅尼がある。これは〔地獄・餓鬼・畜生という〕すべての悪道を浄め、すべての生死

の苦悩を除き、地獄や閻魔王の世界〔に属する餓鬼や人間〕、畜生の苦しみを浄め除き、すべての地獄を破って

善い世界に向かわせる。また天帝よ、この『仏頂尊勝陀羅尼』が聞こえて、少しでも耳にする者があれば、前

世で作った地獄に陥る〔原因となる〕すべての悪業は残らず消滅し、清浄なる身を得られるだろう。生まれ〔変わ〕

せかい

せかい

せかい

る先々の処でしっかりと覚えていて亡しれないだろう。〔一つの〕仏国士から別の仏国土に至り、天上界から別の

せかい

天上界に至り、一一一十一一一の天界を遍歴して、生まれ〔変わ〕る先々の処でしっかりと覚えていて忘れないだろう。

とな

天帝よ、もし寿命がまさに尽きようとしている人がいた場合、僅かな時間でもこの陀羅尼を憶念えれば、寿命

からだことばこころ

からだ

とな

くどく

を延ばすことができるだろう。〔また〕身も口も意も清らかになり、身に苦痛は無く、その〔憶念える〕福利に従い、

その場その場で安穏となろう。すべての如来に見守られ、すべての神々が常に近くで守り、人々に敬われて、

悪い障害は消滅し、すべての菩薩は心を同じくして囲み守るであろう。天帝よ、もし少しでもこの陀羅尼を読

〆 ̄、グー、 ̄、

二一・○、-ン閂-〆-〆

大如来Ⅱ大正蔵本は「大日如来」に作る。

苫Ⅱ原本、宋磧砂本は「義」に作る。

故説Ⅱ大正蔵本は「得饒益故」に作る。

115

論する人があれば、あらゆるすべての地獄・畜生や閻魔王世界に〔属する〕餓鬼の苦しみが破壊され、消滅し

せかい

て跡形さえ残らないだろう。もろもろの仏国士、神々の宮殿、すべての笠口薩が住する場所の入り口から、何の

さまたげもなく自由に出入りできるだろう」。

ふやおしえ

その時、帝釈〔天〕は仏に申し上げた、「世尊よ、どうか如来よ、衆生のために寿命を増益す法をお説き下さい」。

おしえ

その時世尊は、帝釈〔天〕が心の中でこの陀羅尼の法について説き〔示す〕のを聞きたいと願っている一」とを知り、

すぐに〔次のような〕呪を説いて言った。

《以下、陀羅尼の口語訳は、竹中智泰氏の訳文を転載させて頂いた。》

【原載、木村俊彦・竹中智泰共著『禅宗の陀羅尼』(大東出版社二九九八)】

世尊〔すなわち、十方〕三世において最も勝れた仏陀世尊に帰依いたします。すなわち、オーン。浄め

たまえ、浄めたまえ。全く平等にして遍く周く遍在する光明の輝き(拡がり)によって、六道の奥底霄悩)〔ま

でをも照らす〕本性の清浄なろものよ・善逝(仏陀)の殊妙なる言葉という甘露水の灌頂〔すなわち〕偉大な

る真言の諸句によって、私を灌頂したまえ。与えたまえ、与えたまえ、〔更に寿命を〕。寿命を保持すろも

のよ・浄めたまえ、浄めたまえ。虚空の如く〔本性の〕清浄なろものよ・清浄なる仏頂尊勝尊よ・千の光

明によって鼓舞ざれしものよ・一切の如来(仏)を直視するものよ◎六波羅蜜を完遂せしものよ・一切の如

来の本質である加護〔の不可思議力〕によって加護ざれしものよ・口切の如来の悟境・功徳・誓願をあら

わす〕偉大なる印相よ。金剛身(金剛杵のごとき不壊なる身体)を備えたる清浄なろものよ・一切の障害・恐怖・〔三〕

悪道〔において〕清浄なろものよ・〔衆生済度をする仏の〕誓願によって加護ざれしものよ・宝珠ょ、宝珠ょ、

大宝珠よ・真如(ありのままであることⅡ真実)実際(極限的真型によって清浄なろものょ。開顕したる覚知にょっ

116

じょうじkいっさいあく膀宕っぶつちようそんしよう着ら漣

仏は帝釈〔天〕に一一一一向った、「この呪は『浄除一切悪道仏頂尊勝陀羅尼』と名付けられ、すべての罪業などによ

けが

る障害を除き、すべての機れと〔一二〕悪道の苦しみを減するであろう。天帝よ、この陀羅尼は数え切れないほ

さんたんもち一

ど多くの諸仏が共に広く説き示し、随喜して受持いているJbのである。偉大な如来が智印によってこれを証す

けが

るのは、すべての衆生の織れや〔一二〕悪道の苦しみを破らせるためであり、すべての地獄や畜生、閻蹴王世界

〔に属する餓鬼や人間世界〕の衆生に解脱を得させるためであり、急な苦難にであって生死の海に落ち込んだ衆

すく

生に解脱を得させるためであり、短命で福が少なく、救護ってくれるj曲)ののない衆生と、有漏の悪業を進んで

妙】か肺たも

造っている衆生に利益を得させるためである。また、この陀羅尼は一」の購部洲で住持つ〔一」とによって得られる、

すばらしい〕力があるから、地獄〔などの〕悪道〔に堕ちている〕衆生や、生死〔の世界〕を流転している福の少

式》とりがみ

ない衆生や、善悪業〔の道理〕を信じないで正しい道を見失っている衆生たちにJい)、解脱の義をわからせるこ

ない衆生や、善悪業〔

とができるのである」。

て清浄なろものよ・勝利したまえ、勝利したまえ。大いに勝利したまえ、大いに勝利したまえ。億念した

まえ、億念したまえ。一切の諸仏に加護されし清浄なろものよ・金剛よ◎金剛を胎とするものよ・私と一

切の生きとし生けるものの身体は金剛となれよかし。身体の完全に清浄なろものよ・|切趣(六道におい

て完全に清浄なろものよ・しかして、一切の如来は私に安楽を与えたまえ。一切の如来の安慰によりて加

護ざれしものよ・悟りたまえ、悟りたまえ。よく悟りたまえ、よく悟りたまえ。悟らせたまえ、悟らせた

まえ。よく悟らせたまえ、よく悟らせたまえ。遍満する〔光明によりて〕清浄なるものよ・一切の如来の

本質である加護〔の不可思議力〕によりて加護されし、偉大なる印相よ。スヴァーハー(めでたし)。

117

(注】

(訂)十方Ⅱ十の方向。東・西・南・北・北東・南東・北西・南西・上・下。

禿)帝釈Ⅱ帝釈天。インドラ神。ヴェーダ神話における最も有力な神であるが、後に仏教に取り入れられて、梵天ととも

に仏法を守護する神とされた。注宛)参照。

(調)天帝Ⅱ神々の帝王。帝釈天。注兎)参照。

(知)陀羅尼Ⅱ梵語」冨国ヨの音写。仏の教えの要となるもので、神秘的な力を持つと信じられる呪文。

(⑭)悪道Ⅱ悪事を為すことによって生まれる場所。善道の対。六道のうち、地獄道・餓鬼道・畜生道を一一一悪道という。悪

(狸)閻羅王Ⅱ閻魔大王。「閻羅」は梵語百日②‐『響の音写。死後の世界の支配者で、死者の罪を裁く地獄の主。

(妬)善道Ⅱ善行を為すことによって生まれる場所。悪道の対。天上界と人間界の二つをいう。

(“〉廻向Ⅱ振り向けること。方向を転じて向かわしめること。また、功徳を他にめぐらし、差し向けること。

(妬)仏刹Ⅱ仏の国。仏国士。梵語目巨冨‐庸庫園の音写。

届)天界Ⅱ天上の世界。神なる世界。

(妬)仏刹Ⅱ仏の国。仏『

(妬)天界Ⅱ天上の世界。

(笠福利Ⅱ福徳と利益。

鞄)覆護Ⅱ覆い守る。また、その守り手。

(網)増益Ⅱ増やすこと。増大すること。また、無であるものを有であると誤認することもいう。

前)暁伽沙Ⅱ残伽はガンジス河。すなわち、ガンジス河の砂のように多いこと。数え切れないほど数が多いこと。

(型倶砥Ⅱ数の単位で、十の七乗。数え切れないざまを表すのにも用いる。

(躯)穣悪Ⅱけがらわしく、きたないこと。また、そのもの。

趣と同義。

功徳。

冥界の王。

118

【原文】

仏告天帝、我説此陀羅尼、付嘱於汝。汝当

授与善住天子。復当受持読調、思惟愛楽、億

(■)

念供養、於臓部洲一切衆生、広為宣説此陀羅

(□・)

尼。亦為一切諸天子故、説此陀羅尼印、付嘱

於汝。天帝、汝当善持守謹、勿令忘失。天帝、

若人須奥得聞此陀羅尼、千劫己来積造悪業重

障、応受種種流転生死、地獄餓鬼畜生、閻羅

王界阿修羅身、夜叉羅刹鬼神、布単那褐叱布

(一一一)(W)

単那、阿波娑摩羅、蚊虻、亀狗、蟻蛇、一切

諸鳥、及諸猛獣、一切議動含霊、乃至蟻子之

身、更不重受、即得転生諸仏如来一生補処菩

薩同会処生、或得大姓婆羅門家生、或得大刹

(丘)

利種家生、或得豪貴最勝家生。天帝、此人得

如上貴処生者、皆由聞此陀羅尼故、転所生処

〔4〕陀羅尼の功徳

【書き下し]

仏、天帝に告ぐ、「我、此の陀羅尼を説いて汝に付嘱す。汝、

〈肥〉

当に善住天子に授与すべし。復た当に受持読諭し、思惟愛楽

せんぶしゆう

し、憶念供養し、臓部洲の一切衆生に於いて広く為に此の陀

羅尼を宣説すべし。亦た一切諸天子の為の故に、此の陀羅尼

印を説いて汝に付嘱す。天帝よ、汝当に善持し守護して、忘

しゆゆ

失せしむること勿かるべし。天帝よ、若し人、須爽も此の陀

二のか

羅尼を聞くことを得ば、千劫より己来た悪業重障を積朧型し、

応に種種に生死に流転して、地獄、餓鬼、畜生、閻羅王端←

(郡)

(劃)(弱)

ふだんなく鰯)かたふだんな岳)あぱざ

阿修羅身、夜叉、羅刹、鬼神、布単那、褐叱布単那、阿波娑

去ろ(鍋)

摩羅、蚊虻、亀狗、蟻蛇、一切諸もるの鳥、及び諾もろの猛

しゅんとうがんれい〈”)

獣、一切の議動含霊、乃至、蟻子の身を受くべきも、更に重

いっしょうふしよ(印}

ねて受けず、即ち転生して諸仏如来と一生補処の菩薩と同じ

〈云処に生ずることを得、或いは大姓婆羅門の家に生ずること

を得、或いは大刹利働か家に生ずることを得、或いは豪貴最

119

皆得清浄。天帝、乃至得到菩提道場最勝之処、

皆由讃美此陀羅尼。功徳如是。天帝、此陀羅

(ルハ)

尼名吉祥、能浄一切悪道。此仏頂尊勝陀羅尼、

猶如日蔵摩尼之宝、浄無暇穣、浄等虚空、光

焔照徹、無不周遍。若諸衆生持此陀羅尼、亦

復如是。亦如闇浮檀金、明浄柔軟、令人喜見

不為械悪之所染著。天帝、若有衆生、持此陀

羅尼、亦復如是。乗斯善浄、得生善道。天帝、

此陀羅尼所在之処、若能書写流通、受持読調、

聴聞供養。能如是者、一切悪道、皆得清浄、

(七〉

一切地獄苦悩、悉皆消滅。

仏告天帝、若人能書写此陀羅尼、安高瞳上、

或安高山、或安楼上、乃至安置翠堵波中、天

帝、若有迩劉猛謁尼、優婆塞優婆夷、族姓男

(八)

族姓女、於瞳等上、或見、或与瞳相近、其影

勝家に生ずることを得ん。天帝よ、此の人、如上の貴処の生

を得るは、皆な此の陀羅尼を聞くに由るが故にして、転じて

一つ

生ずる所の処は皆な清浄を得。天帝よ、乃至、菩提道場最勝

の処に到ることを得るは、皆な此の陀羅尼を讃美するに由る。

功徳は是くの如し。天帝よ、此の陀羅尼を名づけて吉祥とな

す。能く一切の悪道を浄む。此の仏頂尊勝陀羅尼は猶お日蔵

摩底か宝の、浄くして暇臓無く、浄くして虚空と等しく、光

焔照徹して周遍せざる無きが如し。若し譜もろの衆生、此の

たも

ま←えんぷだどん(、)

陀羅尼を持たぱ、亦復た是くの如し。亦た閻浮檀金の明浄柔

軟にして、人をして喜んで見せしめ、穣悪の染箸する所とな

たも

らざるが如し。天帝よ、若し衆生有りて此の陀羅尼を持たぱ、

亦復た是くの如し。斯の善浄に乗じて善道に生ずるを得ん。

天帝よ、此の陀羅尼所在の処に、若し能く書写流通し、受持

読調し、聴聞供養せば、能く是くの如き者、一切の悪道は皆

な清浄なる一)とを得、一切の地獄の苦悩は悉く皆な消滅せん」

と。仏、天帝に告ぐ、「若し人、能く此の陀羅尼を書写し、一同瞳

の上に安じ、或いは高山に安じ、或いは楼上に安じ、乃至、

奉堵波中に安置するに、天帝よ、若し砿雛・砿雛豚函健騨

20

繭時閻摩羅法王、於時夜分来詣仏所。到已、

以種種天衣妙華塗香荘厳、供養仏己、緯仏七

(一一)

而頂礼仏足、而作是一一一一口。我聞如来演説讃持大

(一一一)

力陀羅尼者、我常随逐守護。不令持者堕於地

獄。以彼随順如来言教、而護念之。

映身、或風吹陀羅尼上、瞳等上、塵落在身上、

天帝、彼諸衆生所有罪業、応堕悪道、地獄畜生、

(九)

閻羅王界、餓鬼阿修羅身、悪道之苦、皆悉不

受、亦不為罪垢染汚。天帝、此等衆生、為一

切諸仏之所授記、皆得不退転於阿縛多羅三貌

会C)

二一菩提。大帝、何況更以多諸供具華鬘、塗香

末香、瞳幡蓋等、衣服瑠烙、作諸荘厳、於四

衡道、造奉堵波、安置陀羅尼、合掌恭敬、旗

続行道、帰依礼拝。天帝、彼人能如是供養者、

名摩訶薩埋。真是仏子、持法棟梁、又是如来

全身舎利睾堵波塔。

護・僻弊鶏一嬬麟蛾・魔鵬撚郁って瞳等の上に於いて、或

いは見、或いは瞳と相い近づいて、其の影、身に映じ、或い

は風、陀羅尼の上、瞳等の上を吹きて、塵、身上に落在せば、

あらゆ

天帝よ、彼の諸もるの衆生の所有る罪業の、応に悪道の、地獄、

畜生、閻羅王界、餓鬼、阿修羅身に堕つべきも、悪道の苦は

皆な悉く受けず、亦た罪垢に染汚せられず。天帝よ、此等の

衆生は一切諸仏の授記する所と為り、皆な阿縛多羅三貌三菩

提より退転せざることを得。大帝よ、何ぞ況や更に多く諸も

るの供具華鬘、塗香末香、瞳幡蓋等、衣服瑠璃を以て諸もる

の荘厳を作し、四術道に於いて牽堵波を造し、陀羅尼を安置

し、合掌恭敬、旗続行道、帰依礼拝すろをや。天帝よ、彼の

まかざった(暁)

人能く是くの如く供養する者を摩訶薩唾と名づく。真に是れ

仏子にして持法の棟梁なり。又た是れ如来の全身舎利の翠堵

波塔なり」と。

爾の時、閻摩羅法王、時の夜分に於いて仏の所に来詣す。

到り巳わり、種種の天衣、妙華、塗香を以って荘厳す。仏を

そう

供養し巳わりて仏を驍する一」と七市し、仏の足に頂礼して、

是の言を作す、「我、如来の大力陀羅尼を演説讃持すろを聞く。

たも

我、常に随逐して守護し、持つ者をして地獄に堕さしめざら

121

【校注】

(一)

(一一)

_、 ̄、〆古へ〆■へ

.--一一九二一○ ̄、-〆、-=、-〆

(一一一)

(四)

(五)

(ユハ)

(七)

(八)

一切衆生Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「与一切衆生」に作る。

亦為一切諸天子故説此陀羅尼印Ⅱ原本に無し。碩砂蔵本により補う。大正蔵は「印亦為一切諸天子故説

此陀羅尼印三一六字)に作る。

羅Ⅱ原本は曝、大正蔵本は癬畔に作る。磧砂蔵本により校改す。

虻Ⅱ原本は蹟、磧砂蔵本は口璽、大正蔵本により校改す。

人Ⅱ大正蔵本同じ。磧砂蔵本は「人身」に作る。

名Ⅱ砿砂蔵本同じ。大正蔵本は「名為」に作る。

苦悩Ⅱ磧砂蔵本は「苦」二字)に作る。

瞳Ⅱ原本と磧砂蔵本無し。但し原本は「見」と「或」の間に「瞳」の書込みあり。大正蔵本脚注の黄檗版

加筆本に拠り補う。

餓鬼Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「餓鬼界」に作る。

大帝Ⅱ疑うらくは「天帝」の誤りであろう。

市Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「匝」に作る。

者Ⅱ磧砂蔵本同じ。大正蔵本は「故来修学若有受持読諦是陀羅尼者」に作る。

122

【口語訳】

あなたたく

あなた

仏は天帝に告げて一一一一口った、「私はこの陀羅尼を説いて汝に付嘱します。汝は〔この陀羅尼を〕善住天子に授け

おぽ

たのし

とな

このせかい

与えなさい。また〔この陀羅尼を〕受持えて読調し、〔心に〕田心推して愛楽み、〔心で〕億念えて供養し、鱸部洲

ときしめ

の一切の衆生のために広くこの陀羅尼を宣説しなさい。また一切の諸もるの天子のために一」の陀羅尼の印を説

あなたたく

あなた

だも

まもなく

いて汝に付嘱します。天帝よ、汝は〔一」の陀羅尼を〕よく持ち〔大切に〕守護って忘失させてはなりません。天

おおcかし

つみかさ

帝よ、もし誰かが少しでもこの陀羅尼を聞くことができれば、千劫からこのかた、悪業による重い陣を積れ造

り、種々に生死〔の世界に〕に流転して、地獄・餓鬼・畜生〔の三悪道の身〕、閻羅王界〔に存在する〕阿修羅の

ふだんなかたふだんなあばしやらま

あぷ

いぬうわぱみ

身、夜叉・羅刹・鬼神・布単那・鶏叱布単那・阿波娑摩羅〔等の悪魔や妖怪〕、蚊・虻・亀や狗・蟻蛇(Ⅱ巨大な蛇)、

うごめ

あり

一切の様々な鳥や様々な猛獣、|切の識動く生き物から、果ては蟻子〔等の虫けら〕の身を〔後生に〕受けなく

いっしょうふしよ

てはならなくても、更に〔それ以上〕重ねて受ける)」とがなく、すぐに転生して諸仏如来や一生補処の菩薩と

せかい

パニフモン

グシヤトリヤ

同じく呑処に生まれるか、あるいは身分の高い婆羅門階級の家に生まれるか、〔また〕あるいは大きな王族武士階

すぐ

級の家に生れるか、〔また〕あるいは家柄の最勝れた家に生まれることが出来ましょう。天帝よ、一」の人がこの

せかい

せかい

ような貴い処に生れることが出来るのは、皆なこの陀羅尼を聞いたことによるのであって、転生する処が皆な

さとり

すぐせかい

清浄になるのです。天帝よ、ひいては、譲口提に向かうための修行の場として最も勝れた処に到ることが出来る

のは、皆なこの陀羅尼を讃美することによるものです。〔この陀羅尼の〕功徳はこの通りです。天帝よ、この陀

羅尼を『吉祥』と名付けます。一切の悪道を浄めることが出来ます。この『仏頂尊勝陀羅尼』は、あたかも日蔵

きずよごれ

了獅空間

ひかり

いざわた

摩尼という宝石が浄らかで暇や微が無く、浄らなる一」とは虚空と等しく、光焔が照らしわたって周遍らないと

たも

えんぶだどん

ころは無いようなものです。もし諸もるの衆生がこの陀羅尼を持てば、また同じことです。また閻浮檀金〔と

しなやか

けがれよど

いう幻の砂金〕が明るく浄らかで柔軟であり、人の目を楽しませて、微悪に染著されないようなものです。天

123

たも

きよらかざ

よい

帝よ、jbし衆生がこの陀羅尼を持てば、また同じことです。この〔陀羅尼によって得られる〕善浄に乗じて善

せかい

せかい

おぽ

道に生れヲ○ことができるでしょう。天帝よ、この陀羅尼が存在する処で、もし書写して流通し、受持えて読諦し、

きい

くろ

聴聞て供養をしたとしたなら、このように〔実践〕できた者の一切の悪道は皆な清浄となり、一切の地獄の苦

しみ

悩は悉く皆な消滅するで1」よう」と。

はた

仏は天帝に告げた、「たとえば、一)の陀羅尼を書き写し、高瞳の上に安置し、あるいは高山に安置し、あるい

は楼上に安置し、もしくは、仏塔の中に安置する人がいた場合に、天帝よ、もし比丘・比丘尼、優婆塞・優婆夷、

はた

善男子・善女人が忌瞳などの上に〔掲げられた陀羅尼を〕見たり、あるいは〔その瞳〕に近づいてその影が〔向同分の〕

身に映ったり、あるいは風が陀羅尼の上や瞳の上を吹いて、塵が〔自分の〕身の上に落ちたとすれば、天帝よ、

あらゆ

その諸永Uろの衆生が所有る罪業によって、地獄や畜生、閻羅王界〔に存在する〕餓鬼・阿修羅の身といった悪

つみけがれ

よごれ

道に堕ちなくてはならなかったとしてjQ、〔その〕悪道の苦を、一切受けることはなく、また罪垢のために染汚

さいこうのざとD

ることはないでしょう。天帝よ、これらの衆生は一切の諸仏に成仏を保証されて、皆な阿褥多羅一一一読一一一菩提か

ころげおち

はたばんがい

ら退転ることはあhソません。天帝よ、まして更に多くの色々な供具や華髭、塗香や抹香、瞳や幡蓋など、衣服

かざ

めぐ

や瑠珸を用いて様々に荘厳ハソ、四辻に仏塔を造り、〔そこに〕陀羅尼を安置し、合掌恭敬し、〔右回りに〕旋繰つ

まかざっ

て行道し、帰依礼拝する〔功徳〕は一一一一口うまでもあhソません。天帝よ、そのようにきちんと供養する人を摩訶薩

たまもかしら

唾と名付けるのです。真にこれこそ仏子であhソ、〔仏〕法を持ろ棟梁です。またこれ(Ⅱ仏塔)こそ、如来の全身

の舎利〔を祀る〕仏塔〔と同じ価値〕なのです」と。

やってき

その時、闇摩羅法王が夜分に仏の所に来詣た。到着する1こ、種々の天衣や妙華や塗香を用いて〔そこを〕荘

ざめぐ

厳hソ、仏を供養してしまってから、仏〔の回り〕を七回緯hソ、仏の足に頂をつけて礼拝して、次のように一一一一口った、

わたし

たたえ

わたし

たも

したがま

「我は、如来が大力陀羅尼を演説し讃持ていプoのを聞きました。我は、常に〔その陀羅尼を持つ者を〕随逐い守

24

もたも

おしえしたが

お虞もり

護hソ、持つ者が地獄に堕ちないようにいたします。そのひとが如来の一一一一回教に随順っているから護念いたしましょ

ェ(ノ」L」。

(別)夜叉Ⅱ梵語園層に相当する音写。薬叉とも書かれる。主として森林に住むとされる神霊で、鬼神として恐ろしい反而、

人に大いなる恩恵をもたらすともされた。仏教に取り入れられて、八部衆の一つとなった。(『岩波』ロ、g参照)

(弱)羅刹Ⅱ悪鬼の一種。通力により、人を魅し、また食らうという。後には仏教の守謹神になった。

(卵)布単那Ⅱ梵語目国冒の音写。悪魔や妖怪を指す。一般に鬼・臭者と漢訳される。餓鬼の中でも最勝という。(『織田』

己・一田]・『望月』己・這隠等を参照)

(、)溺叱布単那Ⅱ梵語冨白‐自国目の音写。鬼の一樋。「迦陀樹噸那」等とも音写される。奇臭鬼・極臭鬼などと意訳される。

梵語匿国とは死屍または火葬場を表す。(『中村』C」巴・己.]3参照)

(記)阿波婆摩羅Ⅱ梵語聟})聾患ョ閂聾の音写。鬼の一種で、原義は「意識の喪失・懸依」を意味し(『梵和大辞典』で・患)、顛

病鬼などとも漢訳される。(『織田』亨患参照)

詞)議動含霊Ⅱうごめく一切の生き物。(『禅学』{)・思一参照)

前)|生補処Ⅱ菩薩の修行が充足して、次の一生で仏となり、仏位を補うべき最後生にある菩薩の位。等覚位の菩薩を指す。

(『望月』己」合・ロ・圏合、『禅学』ご・倉、『織田』ご・g等参照)

a)刹利砿Ⅱ「刹利極姓」の略。古代インドのカーストの一つ。武士や王族階級の身分(クシャトリャ)を指していう。(『中

【注】

(詔)阿修羅Ⅱ梵語湯口『露の音写。血気さかんで、闘争を好む鬼神の一種。仏教の六逆説に取り入れられ、「人」と「畜生」

の間に位慨する。

125

(侭)閻浮檀金Ⅱ閻浮提T我々の住む世界)の闇浮樹林のなかを流れる川に産するという砂金。黄金中最も清良なものと

して、仏の尊容や仏像の塗金・金箔の形容とする。(『岩波』ご・馬・『神学』己・]屋参照)

国)芯鍋遜鍋尼Ⅱ比丘(男性の出家修行者)と比丘尼(女性の出家修行者)。注巧参照

(髄)優婆塞優婆夷Ⅱ男性の在家信者と女性の在家信者。(『中村』宮患参照)

(師)族姓男族姓女Ⅲ善男子と善女人。すぐれた家系の若者のこと。また、正しい信仰を持つもの。(『中村』一〕・差()・『岩波』

村』▽②日・『禅》

鹿)日蔵摩尼Ⅱ不詳。

(町)摩訶薩唾Ⅱ梵語自営‐患日露の立昌マ。「摩訶薩」も同じ。菩薩の尊称で、偉大な志を持つ人、すぐれた人、衆の上首となる人、

大菩提を求める人の通称。(『中村』ご」国司・『望月』一)・急患・『神学』で」局』等参照)

【原文】

(一)

爾時護世四天大王。繰仏三市白仏一一一旨、世尊

〔5〕陀羅尼の用法

壱g←参照)

ご・②日・『禅学』ご・のg)

【書き下し】

シどんそう(露)

爾の時、護世四天大鞠←仏を織ること一二而して、仏に白し

ユも

もう

126

唯願如来、為我広説持陀羅尼法。爾時仏告四

天王、汝今諦聴、我当為汝宣説受持此陀羅尼

法。亦為短命諸衆生説。当先洗浴著新浄衣、

白月円満十五日時、持齋諦此陀羅尼。満其千

遍、令短命衆生還得増寿。永離病苦一切業障

悉皆消滅。一切地獄諸苦亦得解脱。諸飛鳥畜

生含霊之類、聞此陀羅尼、一経於耳、尽此一

(■⑧)

身更不復受。仏一一一一口、若人遇大悪病、聞此陀羅

尼即得永離、一切諸病亦得消滅、応堕悪道亦

得除断、即得往生寂静世界。従此身已後更不

受胞胎之身、所生之処蓮華化生。一切生処憶

持不忘、常識宿命。仏言、若人先進一切極重

(。①⑪)

罪業、遂即命終、乗斯悪業、応堕地獄、或堕

畜生間羅王界、或堕餓鬼、乃至堕大阿鼻地

獄、或生水中、或生禽獣異類之身、取其亡者

随身分骨、以士一把請此陀羅尼二十一遍、散

亡者骨上、即得生天。仏言、若人能日日調此

陀羅尼二十一週、応消一切世間広大供養、捨

身往生極楽世界。若常調念得大浬築、復増寿

て言わく、「世尊よ、唯だ願わくば如来よ、我が為に広く陀羅

尤も

尼を持つ法を説け」と。爾の時、仏、四天王に上口ぐ、「汝、今、

まさ

諦聴せよ。我当に汝の為に、此の陀羅尼を受持する法を宣説

まざ

すべし。また、短命なる諸もるの衆生の為に説かん。当に先

〈加)

ず洗浴して新浄衣を着し、白月円満の十五日の時、持瀧して

(卿)

びやくげつえんまん(利)

とな

}」の陀羅尼を調うべし。其の千週に満つれば、短命の衆生を

して、還って寿を増すことを得せしめ、永く病苦を離れ、一

(羽)

切の業障ことごとく皆な消滅せん。一切の地獄の諾もろの苦

く鋤)

も、亦た解脱することを得ん。諸もるの飛鳥・畜生・含霊の

類、此の陀羅尼を聞き、一たび耳を経れば、此の一身を尽く

して更に復た受けざらん」と。仏一一一口わく、「若し人、大悪病に

遇うに、此の陀羅尼を間かば、即ち永く雛るることを得、|

まさ

切の諸病も亦た消滅することを得、応に悪道に堕すべきも亦

(別)

た除断することを得、即ち寂静世界に往生することを得ん。

(海}

此の身より已後、更に胞胎の身を受けず、所生の処は蓮華に

しようしよおくじ

化生せん。一切の生処に憶持して迄心れず、常に宿命を識らん」すなわ

と。仏一一一一口う、「若し人、先に一切の極重の罪業を造り、遂に即

まさ

ち命終わり、斯の悪業に乗じて応に地獄に堕し、或いは畜生・

閻羅王界に堕し、或いは餓鬼に堕し、乃至は大阿鼻地鵬仁堕

127

命、受勝快楽、捨此身己、即得往生種種微妙

諸仏刹士、常与諸仏倶会一処、一切如来恒為

(四)

演説微妙之義、一切世尊即授其記、身光照曜

(一血)

一切仏刹士。仏一一一一百、若諦此陀羅尼法、於其仏

前、先取浄士作壇、随其大小、方四角作、以

種種草華散於壇上、焼衆名香、右膝著地胡脆、

(」ハ)

心常念仏、作慕陀羅尼印。屈其頭指、以大母

(し)

指押合掌、当其心上。諦此陀羅尼一百八遍詑、

於其地中如雲王雨華。能遍供養八十八倶砥碗

伽沙那喚多百千諸仏。彼仏世尊成共讃言、善

哉希有真是仏子。即得無障碍智三昧、得大菩(八)

提心荘厳一二味。持此陀羅尼法応如是。仏言、

天帝、我以此方便、一切衆生応堕地獄道、令

得解脱。一切悪道亦得清浄。復令持者増益寿

〈几)

命。天帝、汝去、将我陀羅尼、授与善住天子。

満其七日、汝与善住倶来見我。

し、或いは水中に生じ、或いは禽獣異類の身に生ずべきも、

しんぶん

其の亡者の身分に随う骨を取り、土一把を以て、此の陀羅尼

を諭すること二十一通して、亡者の骨の上に散ずれば、即ち

いわ

天に生ずることを得ん」と。仏一一一-円く、「若し人、能く日々に、

此の陀羅尼を謝すること二十一通すれば、応に一切世間の広

しよう

大の供養を消し、身を捨てて極楽世界に往生すべし。もし常

えま

に論念すれば大混藥を得、復た寿命を増して、勝れた快楽を

受け、此の身を捨て□わって、即ち種々の微妙の諸仏の刹士

えし}JU

に往生する一)とを得、常に諸仏と倶に一処に会し、一切の如

来、恒に為に微妙の義を減税し、一切の世尊、即ち其の記を

しんこう

しようよう

いわ

授け、身光、一切の仏刹北を照峨せん」と。仏一一二口く、「此の陀

羅尼を諭すろ法の若きは、其の仏前に於いて、先ず浄士を取

りて樋を作り、其の大小に随って、万にして四角に作り、種々

艶》んおお

の草華を以て壇上に散じ、衆くの名香を焼き、右膝もて地に

こざ

ぽだ戸っに(両}先や

着けて胡脆し、心は常に仏を念じ、慕陀羅尼印を作せ。其の

とうし〈調}

だいぼし(抑)

頭指を屈して、大母指を以て押して合掌し、趣くの心の上に当

てよ・此の陀羅尼を論すること|百八遍し詑わって、其の檀

ごかん

ふら

ぐていごう

中に於いて奎呑の如く王に華を雨せよ。能く遍く八十八倶砥碗

がしの・なゆた{帥)

伽沙那庚多百千の諸仏を供養す。彼の仏世尊、威な辻(に讃じ

28

爾時天帝、於世尊所、受此陀羅尼法、奉持

還於本天、授与善住天子。爾時善住天子、受

此陀羅尼已、満六日六夜、依法受持一切願満。

応受一切悪道等苦、即得解脱、住菩提道、増

寿無量。甚大歓喜、高声歎言、希有如来、希

有妙法、希有明験。甚為難得、令我解脱。爾

時帝釈至第七日、与善住天子、将諸天衆、厳

持華鬘、塗香末香、宝瞳幡蓋、天衣瑠烙、微

妙荘厳、往詣仏所、設大供養。以妙天衣及諸

(|C)

瑠珸、供養世尊、緯百千市。於仏前立、踊躍

歓喜、坐而聴法。爾時世尊録金色臂、摩善住

て言わん、「善いかな、希有なり、真に是れ仏子なり」と。即

むしようげちざんま竺別)だいぼだいしんしようごんざんまい(胆)

ち無障碍智三昧を得、大菩提心荘厳三昧を得ん。此の陀羅尼

たも

まさか

を持つ法は応に是くの如くすべし」と。仏、天帝に一一一一口う、「我

まさ

れ此の方便を以て、一切衆生の応に地獄道に堕すべきに、解

脱することを得しめ、一切の悪道も亦た清浄なることを得し

たも

め、復た持つ者をして寿命を増益せしむ。天帝よ、汝去って

もつ

まん

我が陀羅尼を将て善住天子に授与せよ。其の七日を満じて、

霞み》

汝、善住と倶に来たって我に見えよ」と。

雨の時、天帝、世尊の所に於いて此の陀羅尼の法を受け、

奉持して本天に還り、善住天子に授与す。雨の時、善住天子、

此の陀羅尼を受け巳わって、六日一ハ夜を満じて、法に依って

がん

まさ

受持し、一切の願満つ。応に一切の悪道等の苦を受くべきに、

即ち解脱することを得て、菩提道に住し、寿を増すこと無量

たん

なり。甚だ大いに歓喜して、高声に歎じて一一一一口う、「希有なり如

来、希有なり妙法、希有なり明験。甚だ得難き》」と為るに、

我をして解脱せしむ」と。爾の時、帝釈、第七日に至って、

(鑓)

讓巨住天子と与に諸もるの天衆を将いて、華薗←塗香末香、宝

とも

ひき

蝿幡識一天鯨蝋聡一微妙の荘厳を厳持して、仏の所に往詣し

て、大供養を設く。妙天衣及び譜もろの理珸を以て世尊を供

129

(一一)

天子頂、而為説法、受菩提記。仏一一一一口、此経名

(一P一)

浄一切悪道仏頂尊勝陀羅尼。汝当受持。爾時

(一一一一)

大衆、聞法歓喜信受奉行。

仏頂尊勝陀羅尼経

【校注]

(一)

(一一)

(一一一)

(四)

(五)

(一ハ)

(七)

(八)

(九)

市Ⅱ大正蔵本は「匝」に作る。

言Ⅱ大正蔵に拠れば、黄檗本は「告天帝」に作る。

罪Ⅱ大正蔵本は「悪」に作る。

授Ⅱ大正蔵本は「受」に作る。

仏Ⅱ大正蔵本、無し。

心Ⅱ大正蔵に拠れば、黄檗本は「合掌一心」に作る。

押Ⅱ大正蔵に拠れば、明本は「圧」に作る。

言Ⅱ大正蔵本は「告」に作る。

我陀羅尼Ⅱ大正蔵本は「我此陀羅尼」に作る。

養すること、百千市を練る。仏の前に於いて立ち、踊躍歓喜

そひじの

して坐して法を聴く。雨の時、世尊、金色の臂を好く、善住

なさず

天子の頂を摩でて、為に法を説き、菩提の記を受く。仏言わく、

まさ

「此の経を『浄一切悪道仏頂尊勝陀羅尼』と名づく。汝当に受

持すべし」と。爾の時、大衆、法を聞いて歓喜し、信受し奉

行す。

仏頂尊勝陀羅尼経

30

【口語訳】

ぬぐ

その時、四天王は仏の周りを一二回緯ってから、〔次のように〕仏に由‐し上げた、「世尊よ、〔私たちの〕願いは、

わかりやす

ただ如来がわたしたちのために広く陀羅尼の教えを守る方法を説明して下さることです」と。その時、仏は〔次

あなた

あなた

のように〕四天王に上pげた、「汝たちよ、今こそ、しっかりと聴きなさい。わたしが汝たちのためにこの陀羅

も陽

せつめい

もろ

いきもの

さいしょ

尼を受持いる方法を宣説しよう。また短命な諸もるの衆生のために説こう。当先に沐浴して新しい浄衣を着て、

まんげつ

とな

白月円満の十五日の時に、心身を清浄にして一」の陀羅尼を調えなさい。〔調えて〕千遍〔という数〕を満たせば、

、ざもの

すべて

短命な衆生は寿命を増すことができ、永遠に病苦を離れて、一切の業障〔も〕ことごとく消滅するであろう。〔そ

すべて

もる

かいほう

しろ

とり

郡包もの

して〕一切の地獄〔で受ける〕諸もるの苦しみからも解脱されるであろう。諸もるの飛鳥や畜生といった含霊の

類も、この陀羅尼をひとたび耳で聞いたならば、この一身を限りとして、再び〔同じ〕身に生まれることはな

かか

いであろう」と。〔また〕仏は一一一一口われた、「もし人が、大へん悪い病に遇ったときに、この陀羅尼を聞いたならば、

すべて

きえう

まよいのせかい

たちまち〔その病から〕一元全に回復して、また一切の病は消滅せ、〔地獄・餓鬼・畜生の〕悪道に堕ちるはずだっ

のぞ

さとりの

たとしても〔その悪報は〕除断かれ、すぐさま寂静世界に往生することができるであろう。〔そして〕一」の身から

いきものすがた

うまれかわる

以後、一一度と胞胎の身〔で生〕を受けず、生まれるところは〔浄土の〕蓮の花〔の上〕で、菩薩として化生であろう。

(十)市Ⅱ大正蔵本は「匝」に作る。

(十二受Ⅱ大正蔵は「授」に作る。

(十二)浄Ⅱ大正蔵はこの下に「除」の一宇あり。

(十三)聞法Ⅱ大正蔵に拠れば、黄檗本は「聞仏所説法」に作る。

131

すべて

〔また〕|切の過去に生まれ〔生活してい〕た世界のことは記憶の底に残り忘れる一」とがなく、常に宿命を識る

かこ●たくさん

であろう」と。〔さらに〕仏は言われた、「もし人が先に一切の極めて重い罪業を造hソ、そのまま命が終わったと

おお

すれば、この〔犯した〕悪業のために地獄に堕ちプロか、あるいは畜生や閻羅王界に堕ち、あるいは餓鬼に堕ち、

おさかな

とりやけもの

ひいては大阿鼻地獄に堕ち、あるいは水中に生れかわり、或いは禽獣などの異類の身に生れかわらなくてはな

すがたまま

ひL一つかみ

らないが、その亡くなった者の身分の随の骨を取り、〔別に〕|把の土〔を準備して、その土〕にこの陀羅尼を

上}な

合ま

二十一遍調え、亡くなった者の骨の上に〔その土を〕散けば、たちまち天に生ずることができるであろう」と。〔続

まいに●ら

とな

すぺてせかいむげん

けて〕仏は言われた、「もし人が日々、この陀羅尼を一一+一遍調えれば、きっと一切の世間の広大の供養にたす

とな

けられ、その身を捨てて極楽世界に往生することができるであろう。もし〔この陀羅尼を〕常に諦念えるならば、

さとりえ

大いなる浬盤を得、また寿命が増して、すばらしい快楽を受け、この身を捨てて〔生まれ変わって〕しまってから、

さまざまずぼら

せかい

おな●ところあつ

すべて

すぐさま種々な微妙しい諸仏の刹土に往生することができ、〔そこでは〕常に諸仏と一じ処に会まhソ、一切の如

つれ

ずばらおしえ

すべてほとけ

さとりの了両

来が恒に〔その人の〕ために微妙しい義を演説し、一切の世尊は、その記を授ける一」とになり、〔その〕身〔から

すべて

せかい

とな

発する〕光は一切の仏の刹土を照らすであろう」と。〔そして次に〕仏は一一一一口われた、「この陀羅尼を調えるときの

●も

方法は、まずその仏前において、瀞められた上を取ってきて檀を作hソ、その大小〔の大きさ〕に随って四角形

おお

に作hソ、種々の草花を檀の上に散りぱめ、衆くの名香を焼き、右膝を地に着けて胡脆し、心には常に仏のこと

ひとざしゆぴ

舎脹

おやゆび

を念じて、〔手は〕慕陀羅尼の印を作りなさい。〔慕陀羅尼の印とは、〕その頭指を〔折り〕屈げて、大母指を押し

むね

とな

合わせて合掌し、その心の上に当てプ(〕のだ。〔そして〕この陀羅尼を一百八通調えてしまってから、その檀中に

まかずか雪』りな師たく式』ん

雲わき出る〕ように、たくさんの花を雨きなさい。〔そうすれば〕八十八倶胆碗伽沙那庚多百千の諸仏を供養し

ばとけ

すばらしいありがた泳

篁まこと

たことになる。〔そして〕彼の仏世尊〔たち〕は、皆そろって『善哉、希有ことだ、真の仏〔弟〕子だ』と讃じて

むしようげ←つぎんまい

だハぱだ、しんしようごんざんまい

一一一一口われるだろう。〔そして〕すぐさま無障碍智三味(障碍が無い智慧の三味)を得、また大菩提心荘厳一一一味(大ぃな

132

する。おまこ

じつこう

て奉行した。

かざ

もち

る菩提の心で荘厳られた一一一味)を得られるであろう。〔以上〕この陀羅尼を持いる方法は、このようにしなければな

ほうほう

らない」と。仏は天帝に一一一一口われた、「わたしは、この〔陀羅尼による〕方便で、地獄道に堕ちなくてはならない

すべていきもの

すくすべて

もち

のば

一切の衆生を〔そこから〕解脱い、一切の悪道弘□清浄にさせ、また〔陀羅尼を〕持いる者の寿命を増益させるのだ。

天帝よ、あなたは〔ここを立ち〕去り、わたしの〔説いた〕陀羅尼を善住天子に授与しなさい。〔そして〕その〔教

とな

え通りに陀羅尼を調える修行をし、〕七口Hを満〔了〕してから、あなたは、善住とともに私に見いに来なさい」と。

おしえ

まも

その時、天帝は世尊のところでこの陀羅尼の法を受け、大切に持って自分の住む天界に還り、善住天子に授

おしえしたが

与した。そして善住天子はこの陀羅尼を受けてしまうと、六口u六夜〔の修行〕を満〔了〕するまで、法に依って

もちすべて

かな

すべて

ぬけだ

受持い、一切の願いが満った。受けなくてはならないはずだった一切の悪道の苦しみjD、たちまちに解脱すこ

さとり

ひじようよるこ

とができて、菩提の道に〔安〕住して、量りしれないほど寿〔命〕が増えた。〔そこで〕甚大に歓喜んで、声高に

たた

ありがたみほとけ

ありがたみおしえ

ありがたごDやく

歎えて言った、「なんと希有い如来、なんと希有い妙法、なんと希有い明験だ。とてjb得難いことなのに、わた

しを解脱させて下さいました」と。そして帝釈〔天〕は、第七日目に至って、善住天子とともに諸もるの天衆を

ひき

たえかざり

将いて、華鬘や塗香・抹香、宝瞳・幡蓋、天衣・瑠烙といった、微妙なブ・荘厳を厳かに〔捧げ〕持って、仏の

おもむ

おこな

いくえかこ

ところに往詣き、大供養を設った。〔そして〕妙なる天衣や諸山Uろの襲烙で世尊を百千市にも緯んで供養し、仏

おどりあがよるこ

おしえ

うでの

あたまな

の前に立つと、踊躍って歓喜ぴ、坐って法を聴いた。その時、世尊は金色の臂を鋳ば-して、善住天子の頂を摩で、

さとりよげん

〔彼ら〕のために法を説き、菩提の記を授けた。仏は一一一一口われた、「この経を『浄一切悪道仏頂尊勝陀羅尼』と命名

まも

おしえ

よろこ

しん

する。おまえたち、きっと〔この経を〕受持hソなさい」と。その時、大衆は法を聞いて歓喜び、〔教えを〕信受じ

『仏頂尊勝陀羅尼経』〔終わり。〕

133

(粥)護世四天大王Ⅱ四天王のことで、四大天王とも言う。須弥山の中腹にある四王天の主で、帝釈天に仕え、仏法の守護

を本願とし、仏法に帰依する人々を守護する。東方持国天・南方増長天・西方広目天・北方多聞天を言う。(『広説』

(脚)洗浴Ⅱ湯浴みして、身を浄めること。(『大漢和』六‐{)・]g])

(犯)浄衣Ⅱ神仏に祈請の際に着する清浄な衣。(『大漢和』七「ロ・闇)

(ひ白月Ⅱインドの暦法で、月の前半、一日から十五日までを言う。なお、白月に対して月の後半を黒月という。(『大漢和』

元)持斎Ⅱ斎持に同じ。戒律を守って身心を清浄にたもつこと。また、八戒を守ることを言う。

(だ)業障Ⅱ成仏を妨げる悪業、正道の妨げとなる業。(『広説』上つち①)

(昶)寂静Ⅱ浬盤の異名、悟りの世界のこと。(『広説』中で・司困)

(だ)胞胎Ⅱ①胎生。母の胎内に宿ること。出胎の意で、人間に生まれること。②生存。生存一般。ここでは生き物一般を指し、

迷いの世界を意味している。(『中村』で。届き参照)

(市)大阿鼻地獄Ⅱ阿鼻のこと。梵語且臼の音写、無間と訳される。八大地獄の第八。五逆・諦法の大罪を犯した者が生ま

れ墜ち、諸地獄中、もっとも苦しい地獄。

〈両)慕陀羅尼印Ⅱ詳細は不明。幕陀羅は梵語冒且風の音写で印契・印相と訳されるが、この場合は、印相の一種の名称か。

(沼)頭指Ⅱ人指し指のこと。(『大漢和』十二‐己.“震)

(ね)大母指Ⅱ親指のこと。

師)倶砥碗伽沙那庚多百千Ⅱそれぞれ無数を表す「倶砥」・「暁伽沙」・「那庚多」・「百千」の併記で無限であることを強調

注一

上っ心のe

八‐で。届)

134

(芭櫻賂Ⅱ仏殿内で珠玉と花形の金属を編み合わせて垂らしたもの。もともとはインドの貴人の装身具で頭や首・胸から

垂らして飾った。尊像や天蓋・仏前の荘厳に用いられた。(『広説』下で.」2m)

(躯)大菩提心荘厳三昧Ⅱ大菩提心とは仏の心を得ようと願う心、荘厳三味とは法華三味のひとつと言われ、本来、見えて

いる徳を円満し、その徳が融通自在である状態を指す。つまり大菩提心で満たされている状態を表していると推量さ

れる。(『広説』中ご・二患、『大漢和』九‐で。、g等参照)

(鍋)宝噸Ⅱ法瞳に同じ。仏法を旗にたとえたもの。仏や菩薩の説法の優れたことをたとえたもの。(『広説』下己・]昌一)

(餌)幡蓋Ⅱ幡と天蓋のことで、もともとはインドで日射しや雨を防ぐために用いた傘蓋のこと。これがのちに仏具となった。

している。暁伽は恒河に同じ、ガンジス川のこと、「鏡伽沙」はガンジス河の砂の意。「那庚多」は「那由他」に同じ。(『大

漢和』六‐己.『g、『広説』上‐巳・困・、同下‐己」日、等参照)

(副)無障碍智三味Ⅱ無障碍とは認識するにあたって障碍がない状態、智は是非・善悪を弁別する心の作用、三昧とは心が

静かに統一されている状態、そこから心が迷いなく正しいものに向かって安定している状態をさしていると類推され

(『広説』下で.」圀国)

る。(『広説』下已・]馬、等参照)

135

【原文】

(一)

御製仏頂尊勝総持経呪序

朕惟如来演大乗教、開方便門。千経万法、

無非為済度群生、使不満業報。仏頂尊勝総持

経呪者、一切如来智印。広大慈悲、甚深希有。

普利昏迷。笑巨海之津梁、幽暗之日月、飢渇

之飲食也。世間善男子善女人一切衆生、能発

菩提心持諭伽服者、其福徳種種無尽、永脱諸

悪苦趣、従無始以来百千億劫所積罪業、悉皆

消除。若昼夜勤修不慨、当得諸仏灌頂、神天

擁護、福寿無量。如是勝果、目観其効、誠実

不虚。朕君臨天下、閏斯民之執迷、所作所為、

堕於悪趣、而不知若斯謬戻。誠為可務。遂以

是経呪、用傅河沙刹土、一切有情、均沽利益、

寿延福増、同榛仏道。又況仏有誓盟、広済衆生、

必先度忠孝。凡忠臣孝子、身生中国、又逢治

〔附録〕御製序

【書き下し]

御製、仏頂尊勝総持経陥か序

おも

朕惟うに、如来、大乗の教えを演べ、方便の門を開く。干

しず

経万法、群生を済度することを為し、業報に浦まざらしめん

とするに非ざるは無し。仏頂尊勝総持経呪は、一切如来の智

印にして、広大なる慈悲は、甚深希有なり。普く昏迷を利す

る、実に巨海の津梁、幽暗の日月、飢渇の飲食なり。世間の

おこ

善男子、善女人、一切の衆生の、能く菩提心を発して持論凧

服する者は、其の福徳種種無尽にして、永く諸悪苦趣を脱し、

無始より以来、百千億劫積む所の罪業、悉く皆な消除せん。

おこた

若し昼夜勤修して慨らざれば、当に諸仏の灌頂、神天の擁護

を得て、福寿無量なるべし。是くの如き勝果、其の効を目観

す。誠実にして虚しからず。朕、天下に君臨し、斯民の執迷L

かうれ

所作所為、亜心趣に堕すろも、斯くの若き謬戻を知らざるを閏

あわ

う。誠に衿れむ可しと為し、遂に是の経呪を以て、用いて河

うるお

沙の刹土の一切の有情をして、均しく利益に沽い、寿延び福

136

世、受種種快楽、皆由其事君事親、能尽其道。

又能敬礼三宝、修積善因、挙足之頃、即登覚

路。若夫為悪之徒、昧於改悟、所作所為、日

甚一日。造業深重、甘心堕落。身如沐漆、求

潔実難。限墜幽扁、何由出世。苛能回心向善、

即此一路、可超出劫塵也

永楽九年六月日

【校注】

二)御製仏頂尊勝総持経呪序Ⅱ原本に無し。大正蔵本に拠って明本より補う。

とも

いみ」

増して、同に仏道に礫らしめんとす。又た況や仏に誓盟有hソ、

広く衆生を済うも、必ず先ず忠孝を畷わん輪←凡そ忠臣孝子

すぐ

の、身は中国に生まれ、又た治世に逢いて、種種の快楽を受

つか

くるは、皆な其の君に事え親に事えて能ノ、其の道を尽くすに

由る。又た能く三宝を敬礼して、善因を修積せば、挙足の頃に、

かくら

即ち覚路に登らん。夫の悪を為すの徒の若きは、改悟に味く、

所作所為、日に一日より甚だしく、業を造ること深重にして、

あら

甘心して堕落す。身は漆に沐うが如く、潔を求めんとするjD

実に難し。幽扁に唄墜せば、何に由腕りてか世を出でん。筍し

かえ

能/、心を回して善に向かわんとせば、即ち此の一路、劫塵を

超出す可きなり。

永楽九年六月日

137

【口語訳】

ダーフニ

〔明の永楽帝〕御製、『仏頂尊勝総持経』〔と〕『呪』の序文

わたし

てだて

朕が思うに、如来は大乗の教えを説いて、〔いろいろな〕方便の入り口を開かれたが、〔如来が説かれたその〕

おしえ

ひとびと

しず

何千もの経典や幾万もの法は、すべて群生を済度し、〔善悪〕業の報いに満まないようにさせるためのものであっ

ダープニ

すべて

しるし

た。『仏頂尊勝総持経』〔とその〕『呪』は、一切の如来の智〔慧の〕印であり、〔そこに込められた〕広大な慈悲は、

あまれまよえる

わたしはし

非常に深遠で希有なものであり、並曰く昏迷〔もの〕に利益をあたえる〔煩悩の〕大海〔をわたるため〕の津や梁

くらやみ

たいようつき

であり、〔無明の〕幽暗をてらす日や月であり、〔心の〕飢えや渇きをいやす飲みものや食べもの〔に比すべきもの〕

このよだんせいじよせいすべていきもの

さとり

おこ

とな

である。世間の善男子や善女人や一切の衆生で、きちんと菩提〔を求める〕心を発して〔一」の経・呪を〕持論え

おば

くどくさまざま

伽服える者は、その〔得られる〕福徳が種々で尽きることがなく、永遠に〔地獄・餓鬼・畜生といった〕諸々の

くるしみせかい

とお跡むかしむげんの軸んげつ

すっかりきえうせ

悪苦の趣を脱し、無始から百千万劫にわたって積みかさねてきた罪業も悉皆り消除てしまうだろう。〔また〕も

つとめはげおこた

にんしようかみがみ

し昼夜勤修んで僻らなければ、きっと諸仏の灌頂と神天の擁護を得て、幸福と長寿が無量〔に手に入る〕だろう。

ダーフニ

ずぼら

わたし

ばん

このような〔『仏頂尊勝総持経』と『呪』の〕勝しい果報について、〔朕は〕その効能を目の当たりにしており、誠

・とPつ

●ワニ■

わたし

実であって虚ではない。朕は〔皇帝として〕天下に君臨しているが、民衆が〔物事に〕執われて〔真理に〕迷い、

せか、

おこない

あやまち

〔地獄・餓鬼・畜生の〕悪しき趣に堕落する作為をしながら、その様な謬一民に気付いていないことを憂えている。

ダラニ

〔そして〕ほんとうに哀れむべきことだと思ったので、この『〔仏頂尊勝総持〕経』〔とその〕『呪』〔を版行するこ

すな

せかいすべていきもの

と〕によって、〔ガンジス〕河の沙の〔数ほど無数にある〕刹士の一切の有情に、均しく利益に浴させ、寿命が延

び幸福が増えて、ともに仏道に至らせようとするものである。まして仏には「広く衆生を済度するが、必ず先

ちかい

ず忠孝のものを済度しよう」という誓盟がある。およそ忠義ある臣下や孝行な子どもで、その身は〔一)の〕中国

じだい

しあわせ

に生まれ、また〔今のような〕治まった世にであって、種々の快楽を受け〔ていられ〕るのは、すべて君主に仕

138

え〔両〕親に仕えて、きちんとその〔人間としての〕道を尽くしているお蔭である。更にきちんと〔仏・法・僧の〕

うやまぜんこうつみあげ

尋と

みちいた

一二宝を敬礼って善因を修積るならば、一挙手一投足の〔僅かな時間の〕間に、すぐさま覚りへの路へ登る〔こと

やから

ができる〕だろう。悪事をおこなっている徒となると、〔過ちを〕改めて〔正しい道を〕悟る〔ことが大切だとい

おこない

ひど

う〕ことが分からず、〔その〕作為は日一日とひどくなってしまい、深重い〔悪〕業を造って、甘んじて〔地獄に〕

堕落してしまっている。〔その〕身は〔真っ黒な〕漆で洗っているようなものだから〔洗えば洗うほど汚れてしま

きれ

あのよいDぐちおちこ

い〕、潔いにしようとしても全く難しい。〔そのまま死んで〕幽の肩に隈墜んでしまったら、どうやって〔迷いの〕

せかい

かえ

世を〔抜け〕出られようか。もしきちんと心を〔本来向かうべき方向に〕回して善に向かおうとするのならば、

無限の時間

けがれぬけだ

この〔『仏頂尊勝総持経呪』に説かれた〕|路こそ、劫に積みかさねてきたところの塵を超出すことができる〔も

【注】

(師)仏頂尊勝総持経呪Ⅱ「総持」は「陀羅尼」の漢訳であるから、「仏頂尊勝陀羅尼経呪」と言うのと同じ。

(飯)仏有誓盟、広済衆生、必先度忠孝Ⅱ典拠未詳。孝や忠に言及した経典としては、『仏説孝子経』一巻く国①「三F⑦巴)がある。

のな〕のである。

永楽九年(両四一二六月日

139

のぐちぜんけい

野口善敬

ざむらしゅんげん

木村俊彦一九四○年京都府生士《れ。東北大学大学

院博士課程修了。京都府養徳院先副住職。

四天王寺国際仏教大学教授。国際仏教文化

研究所長。文学博士(東北大学)。

ひろたそうげん

廣田》示玄

かわいけいすけ

川合圭介

うしおひろたか

牛尾弘孝一九四八年兵庫県生斗よれ。九州大学大学

院博士課程中退。大分大学教育福祉科学部

教授。

【執筆者プロフィール】

一九五四年福岡県生まれ。九州大学大学

院博士課程中退。福岡県長性寺住職。妙心

寺派教化センター教学研究委員。福岡女子

大学非常勤講師。

一九五七年広島県生まれ。大谷大学大学

院仏教学専攻博士後期課程単位取得。北海

道真宗佛光寺派大願寺住職。

一九六七年兵庫県生まれ。花園大学大学

院博士課程修了。兵庫県順心寺副住職。妙

心寺派教化センター教学研究委員。文学博

士(花園大学)

とくしげかんどう

徳重寛道一九六六年北海道生斗よれ。北海道大学大

学院修士課程修了。北海道明心寺住職。妙

心寺派教化センター教学研究委員。

やだこうはん

矢多弘範一九七○年大分県生子よれ。東洋大学卒業。

大分県曹源寺住職。妙心寺派教化センター

教学研究委員。

あさやまいちげん

朝山一玄

なみざゆうぎ

並木優記

一九五九年島根県生まれ。早稲田大学大

学院博士課程単位取得。島根県観音寺住職。

妙心寺派教化センター教学研究委員。花園

大学非常勤講師。

’九五○年東京都生まれ。学習院大学大

学院博士課程単位取得。東京都金龍寺住職。

妙心寺派教化センター教学研究委員。

140

【編集後記】

臨済宗本山から発行される初めての本格的な学術論文集である『臨済宗妙心寺派教学研究紀要』は、この

たび第三号が発刊されることになった。創刊に至るまでの道程は必ずしも平坦ではなかったが、既刊号に掲

載された論文がいずれも内容豊富なものであったことによるのであろう、宗門内外の購読予約は予想を超え

て多く、まずは順調に軌道に乗りつつあると言ってよいだろう。

本号にも、四名の研究者の方々による素晴らしい研究成果を収めている。牛尾弘孝氏は、山崎闇斎の悟道

体験の変遷を、禅学の絡然大悟、朱子学の諮然貫通、垂加神道の神性降臨の順に論じて、闇斎の求めたもの

を分析された。川合圭介氏は、盤珪の説法をさまざまな角度から分析することでその真意を明らかにし、人

間が依って起つべき基準を見出そうとされた。廣田宗玄氏は、大慧宗杲による「無字」の工夫の主張と趙州

従誌の立場との比較に加え、趙州の「狗子無仏性話」が異類中行を主張するものだったかという問題につい

て検討された。また木村俊彦氏には、第二号に続いて大円宝鑑国師語録の内容を紹介していただいた。いず

れも臨済宗学に資する貴重な研究である。

臨済宗妙心寺派では開山無相大師の六百五十年遠謹を平成二十一年に控え、各部署における準備作業がい

よいよ本格化してきた。教学部においても教学研究、布教研究などの委員会において遠諒に向けてのさまざ

まな研究活動に力を入れているが、この研究紀要にも無相大師に関する研究論文が投稿されることを期待し

ている。豊富な資料に恵まれているとは言えないけれども、充実した研究が成されるよう望みたい。

なお、投稿予定の論文が未提出に終わるなどのトラブルのために、今回も発刊が予定時期より大幅に遅れ

てしまい、寄稿者の方々、購読予約者の方々をはじめ多数の皆様にご迷惑をおかけする事態となったことを

深くお詫び致します。

(朝山一玄)

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『臨済宗妙心寺派教学研究紀要』論文執筆要項】

《締め切り》

《発刊》

《応募先》

《枚数》

《書式》

《テーマ》

臨済宗を中心とした禅宗に関するもの。

(ただし、仏教全般に亙る内容で、宗学に資すると考えられるものについては、これを認める。)

原稿用紙四十枚程度(注を含む)

・本文は日本語とする。

・縦書きを原則とする。(サンスクリット等の資料を中心とした論文の場合は、横書きも認める。)

・本文・資料共に漢字は原則として当用漢字を用いる。

・資料として書き下し文を用いる場合、仮名遣いは新旧任意とする。

・資料を口語訳した場合には必ず原文を付す。

・ワープロの場合は、打ち出し原稿とテキストファイルのフロッピーを提出のこと。

〒六一六’八○三五京都市右京区花園妙心寺町六四

妙心寺派宗務本所教化センター伽○七五’四六三’三一二一㈹

※封筒の表に「紀要原稿在中」と明記のこと。

毎年十二月末日(厳守)

翌年四月(予定)

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臨済宗妙心寺派教学研究紀要第三号

平成十七年四月十五日発行

発行人細川景一

編集妙心寺派宗務本所教化センター

印刷所灘梅田印刷所

発行所妙心寺派宗務本所教化センター

〒六一六-八○三五

京都市右京区花園妙心寺町六十四

電話(○七五)四六三-一一二一一一

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