脳梗塞の前ぶれ症状 一過性脳虚血発作に 要注意 ·...

脳血管障害とも呼ばれる脳卒中は、脳の血管が侵されることで意識障 害や運動障害などの症状が起こる病気。発症すると、言語障害や体のま ひなど日常生活に支障を来したり、要介護の原因にもなってしまう。脳卒 中の種類と共に、今回は特に脳卒中の前ぶれ症状といわれるTIA(一過 性脳虚血発作)について、新さっぽろ脳神経外科病院(厚別区)の藤重正 人副院長に解説して頂いた。 脳梗塞の前ぶれ症状 新さっぽろ脳神経外科病院 藤重 正人 副院長 一過性脳虚血発作に 要注意 一過性脳虚血発作に 要注意 一過性脳虚血発作に 要注意 8 暮らしと健康の月刊誌ケア 2015・11 月号

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Page 1: 脳梗塞の前ぶれ症状 一過性脳虚血発作に 要注意 · 脳血管障害とも呼ばれる脳卒中は、脳の血管が侵されることで意識障 害や運動障害などの症状が起こる病気。発症すると、言語障害や体のま

 脳血管障害とも呼ばれる脳卒中は、脳の血管が侵されることで意識障害や運動障害などの症状が起こる病気。発症すると、言語障害や体のまひなど日常生活に支障を来したり、要介護の原因にもなってしまう。脳卒中の種類と共に、今回は特に脳卒中の前ぶれ症状といわれるTIA(一過性脳虚血発作)について、新さっぽろ脳神経外科病院(厚別区)の藤重正人副院長に解説して頂いた。

脳梗塞の前ぶれ症状

新さっぽろ脳神経外科病院藤重 正人 副院長

一過性脳虚血発作に要注意

一過性脳虚血発作に要注意

一過性脳虚血発作に要注意

8暮らしと健康の月刊誌ケア 2015・11 月号

Page 2: 脳梗塞の前ぶれ症状 一過性脳虚血発作に 要注意 · 脳血管障害とも呼ばれる脳卒中は、脳の血管が侵されることで意識障 害や運動障害などの症状が起こる病気。発症すると、言語障害や体のま

 脳血管障害とも呼ばれる脳卒中は、脳の血管が侵されることで意識障害や運動障害などの症状が起こる病気。発症すると、言語障害や体のまひなど日常生活に支障を来したり、要介護の原因にもなってしまう。脳卒中の種類と共に、今回は特に脳卒中の前ぶれ症状といわれるTIA(一過性脳虚血発作)について、新さっぽろ脳神経外科病院(厚別区)の藤重正人副院長に解説して頂いた。

脳梗塞の前ぶれ症状

新さっぽろ脳神経外科病院藤重 正人 副院長

一過性脳虚血発作に要注意

一過性脳虚血発作に要注意

一過性脳虚血発作に要注意

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 脳卒中は障害の種類によって、

脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血、

TIAに分類することができる。

 脳梗塞は脳の血管が何らかの要

因によってつまり、そこから先に

血液が流れなくなることで、脳の

一部が壊死してしまう状態。原因

によって脳塞栓と脳血栓に分けら

れる。脳塞栓は心臓にできた血栓

が血液によって流れ、脳の血管に

つまってしまう状態をいい、脳血

栓は脳の血管の動脈硬化が進行し

て起こる状態(太い血管がつまる

アテローム血栓性脳梗塞、細い血

管がつまるラクナ梗塞)を指す。

 脳出血は脳の動脈が破れて出血

を起こし、血腫というかたまりに

なって脳を圧迫する状態。脳の細

い血管の動脈硬化が進み、血圧が

急に上昇して圧力がかかると発症

しやすくなる。発症すると、失語

症や言語障害、運動障害(半身不

随)、意識障害などが起こり、重

症の場合は頭痛や嘔吐、失禁、け

いれんなどが起き、昏睡状態に陥

ることもある。これらは日中の活

動中に起こりやすいといわれてい

る。

 クモ膜下出血は、多くが脳動脈

にできたこぶ(脳動脈瘤)が破れ

るために起こる。また、脳動脈の

奇形が原因になることもある。脳

と頭蓋骨の間には脳膜があり、内

側から軟膜、クモ膜、硬膜という

3層からなり、脳組織を守ってい

る。このうち、クモ膜と軟膜の間

にある動脈が破れ、出血すること

をクモ膜下出血という。出血が脳

組織を圧迫して意識不明になるこ

ともある。脳梗塞や脳出血よりも

若い人に発症することが多い。

 脳卒中の前ぶれ症状といわれる

TIA(一過性脳虚血発作)は、

脳の動脈硬化によって血管の内側

が狭くなったところに一時的に血

栓がつまったり、狭くなっていな

くても、心房細動による塞栓(塞

栓症)でつまることにより、手足

のしびれやまひ、言語障害などが

起こることをいう。このときの血

脳卒中の種類と

原因とは

TIAが起こった

場合に注意すべきこと

速やかな受診で

予後も良好に

高尿酸血症も

尿路結石と関連

脳卒中の種類と

原因とは

TIAが起こった

場合に注意すべきこと

速やかな受診で

予後も良好に

高尿酸血症も

尿路結石と関連

脳の部位と症状

力はあるのに、歩けない。フラフラする

片方の手足・顔半分のまひ・しびれが起こる

片方の目が見えない、物が二つに見える。視野の半分が欠ける

ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない

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10暮らしと健康の月刊誌ケア 2015・11 月号

栓が小さかったり、つまり方が弱

いために、血栓は自然に溶け、再

び血流が回復するために症状は消

失する。しかし、この状態は再び

脳梗塞を発症するリスクが高く、

そのために前ぶれ症状と呼ばれて

いるのだ。

 「TIAの発作が持続する時間

は定義的には24時間とされていま

すが、多くは1時間以内で、5分

程度症状が続くケースが最も多く

り、症状が消えたからといって放

置せず、急いで受診することを心

掛けてください」(藤重副院長)。

 前ぶれとなるTIAの症状につ

いて、より詳しくみていこう。

 代表的な症状としては、片方の

手足や顔半分のまひ・しびれ、ろ

れつが回らない、言葉が出ない、

他人の言うことが理解できない、

立てない、歩けない、フラフラす

る、片方の目が見えない、物が二

重に見える、視野の半分が欠ける、

片方の目がカーテンがかかったよ

うに突然一時的に見えなくなる、

激しい頭痛などが挙げられてい

る。

 「このうち、脱力や言語障害、

目の症状などが多くみられている

といえますが、患者さんによって

現れる症状は異なります。TIA

は局所的な虚血によって一過性の

神経機能障害が起こる状態ですか

ら、ありとあらゆる症状がみられ

てもおかしくはありません。近年

はMRI検査によって早期に診断

をつけることができ、軽いめまい

だけで脳梗塞が発見されることも

ありますし、失神してしまった

ケースで心原性(心臓内の血栓)

の脳梗塞がみつかることもありま

す」。

 ちなみに最近では、脳卒中が疑

なっています。

 TIAを発症した場合、トータ

ルでみると約30%の方が1年以内

に脳梗塞を発症しているのです

が、そのうち約10%は2週間以内、

その半数は48時間以内に発症して

いることがわかっており、早期の

治療開始は重要です。TIA発症

後、速やかに治療を開始すれば、

その後の脳梗塞発症のリスクを減

らせることも明らかとなってお

脳の部位と症状

力はあるのに、歩けない。フラフラする

片方の手足・顔半分のまひ・しびれが起こる

片方の目が見えない、物が二つに見える。視野の半分が欠ける

ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない

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われる症状を早期に判断するため

に、「FAST」という標語も普

及している。もともとは米国脳卒

中協会で発案したもので、「Fa

ce(顔の片側が下がる、ゆがみ

がある)・Arm(腕のまひ)・S

peech(言語の障害)の異変

に気づいたら、Time(発症時

刻)を確認し、すぐに救急車を」

という考え方だ。脳卒中の治療は

一刻を争うものであり、参考にし

て頂きたい。

 TIAが疑われる症状で受診し

たら、MRI検査で血管がつまっ

ているかどうかと、原因となる血

管の確認を行う。脳卒中の場合は

血栓を溶解するt|

PA静注を

4・5時間以内に行うことが有効

とされているが、TIAの場合は

すでに血管のつまりがなくなって

いることも多く、その場合は抗血

小板剤の内服を開始したり、抗凝

固剤が必要になる場合もある。前

述した、TIA発症後速やかに治

療を開始すると、その後脳梗塞を

発症するリスクは減らせるという

のは、まさにこのタイミングを指

し、「患者さんの予後を左右する

重要なポイント」だと藤重副院長

は強調する。

 「TIAの段階で受診できれば、

その後脳梗塞になるリスクの高さ

を調べるスコアを使って、患者さ

んの危険度を判断することもでき

ます。60歳以上、高血圧、TIA

でみられた症状や発症時間、糖尿

病の有無などから判断するもので

すが、それによって治療方法を検

討することができます。一方、ス

コアの点数が低くても発症する

ケースがあるため、早めの受診で、

そうした判断も行うことができま

す。

運動や減塩など生活習慣の見直しが大切

新さっぽろ脳神経外科病院 札幌市厚別区上野幌1条2丁目1番10号 ☎011(891)2500

 いずれにしても、早期受診につ

ながるほど、リスクは軽減できる

のは明らか。TIAの段階で受診

すれば、飲み薬だけで治療が済む

こともあるのです。疑わしい場合

も含めて早期受診を心掛けましょ

う」。

 もちろん、TIAを含め脳卒中

の予防に向けては、日頃から健康

に配慮することが最も大切。高血

圧や糖尿病、脂質異常症、心臓病、

高尿酸血症をはじめ、肥満や喫煙、

大量の飲酒、ストレス、運動不足

などが危険因子となるので、思い

当たる場合は改善に努めよう。

脳卒中の種類と

原因とは

TIAが起こった

場合に注意すべきこと

速やかな受診で

予後も良好に

高尿酸血症も

尿路結石と関連