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English Language:Past, Present, and Future
No 4: English & Sociolinguistics
K. Mizuno
(Hiroshima Shudo University)
「英語の諸相I」
Key words
社会的属性
地域
社会階層
ジェンダー
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社会的属性
地域
社会階層
ジェンダー
年齢
教育
職業
民族
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言語差の要因
言語差
人種・民俗・・・
社会階級
ジェンダー
年齢
地域差
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言語変種の分類の基準
音韻(言語音、アクセント、イントネーションなど)による分類
Xを何と発音するか?
語彙による分類
Xを何と呼ぶか?
文法による分類
Xという動詞をどのように活用させるか?
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地域差
イギリス英語 > アメリカ英語>オーストラリア英語
地域差の認識→母語英語の多様性への認識
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イギリスの言語地図
7Crystal, D. (Eds.),(2003). The Cambridge Encyclopedia of the English
Language, 2nd Edition, p. 325. Cambridge University Press.
イギリス英語の地域方言
スコットランド
イングランド北部
イングランド中部
イングランド南部
ウエールズ
アイルランド
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イギリス英語の地域的特徴(発音)(ヒューズ&トラッドギル(1984), pp. 40-52参照)
音声的特徴 地域 具体例
RP 方言
/ʌ/ /ʊ/ 北部、中部 bus /bʊs/, but, cud, putt
/ʊ/ /u:/ 北部、ス、ア book /bu:k/, cook, pool
/ɑ:/ /æ/ 北部、中部 path /pæθ/, grass, dance /dæns/, grant
ス、ア path /pæθ/, dance, palm /pæm/, half /hæf/
/ɪ/ /i:/ 中部の南、南部 city /sɪti:/
Non-rhotic
Rhotic ス、ア、南部の
西
bar /bɑ:r/, bark /bɑ:rk/
/ŋ/ 欠落 全土 singing /sɪŋɪn/, walking, hunting
/j/ 欠落 中部の南、南部の東
news /nu:z/, tune /tu:n/, view /vu:/, queue/ku:/
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イギリス英語の地域的音韻特徴まとめ
スコットランド、アイルランド、イングランド北部、イングランド中部
アメリカ英語と共通する特徴
Rhotic
“broad /ɑ/”を使用する母音→/æ/
イングランド南部
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イギリス英語の地域方言
大英図書館(British Library)のホームページ:地図上のアイコンをクリックすると、その地域で話されている英語が聞けるようになっている。
http://www.bl.uk/learning/langlit/sounds
/index.html
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英語における変種と方言
母語英語では、「英語」という「言語」に対して「アメリカ英語」「イギリス英語」「カナダ英語」などの「変種」(varieties)がある。
これらの変種はなぜ「方言」(dialects)とは呼ばれないのか。
それぞれの変種の中に、方言(地域方言と社会方言)があるとされている。
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「言語」と「方言」を区別する基準
言語学的特徴(構造面) 異言語は統語論的特徴が異なる
相互の理解度(運用面) 話者同士が相互に理解できない
政治的、歴史的影響 権力を維持(操作)するために言語を方言に格下げする
国家、民族などの区別を言語区別にあてはめようとする(英語、スペイン語、フランス語、アラビア語など)
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変種(varieties)を決めるレベル
1. 国レベル イギリス英語、アメリカ英語、etc.
2. 地域レベル
イングランド北部方言、アメリカ南部方言, etc.
3. 社会階層レベル
イギリス容認発音, etc.
4. 社会集団レベル
黒人英語、イディッシュ語、etc.
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方言(dialect)
◆方言の定義
同一言語内においてある地域で話されている言語変種(地域方言) 標準変種
非標準変種
同一言語内においてある特定の社会階層または社会集団により用いられている変種(社会方言)。類似した社会的背景をもつ話者集団によって用いられる。 社会階層(上流、中産、労働者)
社会集団(民族、性別、年齢、職業、学歴)
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方言と標準語
◆ 方言(dialect)
– 地域方言(regional dialect)
• 地理的・地勢的条件により区別される言語変種
– 社会方言(social dialect)• 特定の社会階級・社会集団が話す言語変種
◆ 標準語(standard language)
・社会・政治・商業の中心地で使われる
・学校教育機関などで国語として教えられる
・辞書、文法書が作成される
◎標準語も方言の一種(が選択される)
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言語の地域差
言語の地域差はどのようにその話者と関わるか 話者のアイデンティティ
地域に基づく連帯
自分らしさの表明
権力との関係
標準語 対 地域方言
政治・経済・教育
消滅の危機
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社会階層と階層方言
◆社会階層(階級)(social class)
似たような社会的あるいは経済的特徴のいずれか、もしくはその両方を持った個人の集合体(Trudgill, 1975)
◆階層方言(social-class dialect)
同じ社会階層に属する人たちが共有している言語変種
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社会的評価との結びつき:威信と傷痕1
言語変種(地域方言・階層方言)は何らかの社会的な意味(評価)を付与される
◆威信(prestige)
肯定的に意味づけられる差異
◆傷痕(stigma)
否定的に意味づけられる差異
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社会的評価との結びつき:威信と傷痕2
(顕在的)威信:「正しい、上品、好ましい」
変種A 概して標準変種 再強化
傷痕:「間違っている、きたない、訛っている」
概して非・標準変種 再強化
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威信(prestige)の種類
顕在的: 標準変種には、「顕在的威信(overt prestige)」が備わっている。
潜在的:
非・標準変種は、上層との社会的距離を明確にし、同じ階層の人同士の帰属意識や連帯感を高める「潜在的(covert)威信」を付与される場合もある。
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地域性と階層性との相関1
一般的に、階層が上層になるほど、その階層方言に地域性が感じられなくなる(Trudgill, 1975, pp. 37-38)。例:頭痛(RP:headache)⇔skullache, head-wark, head-warch, sore
head…
方言(語彙・文法)
一番上の階層
⇒標準語
階層的変種
地域的変種 22
地域性と階層性の相関2
なまり(発音)
一番上の階層
⇒RP
階層的変種
地域的変種
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ケース・スタディ 1:Trudgill(1975)『言語と社会』(岩波新書)の研究
◆調査地:
イギリス、イースト・アングリア地方ノリッジ
(Norwich:ロンドンの北北東約180キロの都市)
◆研究対象:
5つの異なる社会階層の人々の発音を3つの子音(威信形か非威信形か)について調べる
(1)walking, runningの/ŋ/を/n/で発音する割合
(2)butter, betの/t/を声門閉鎖音/ʔ/で発音する割合
(3)hammer, hatの/h/が脱落する割合
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ノリッジ調査の結果(1)/n/ (vs /ŋ/) (2) /ʔ/ (vs /t/) (3) /h/欠落(vs/h/)
中流中産階級 31% 41% 6%
下流中産階級 42% 62% 14%
上流労働者階級 87% 89% 40%
中流労働者階級 95% 92% 59%
下流労働者階級 100% 94% 61%
解釈:すべての項目において、社会階層が下がるにつれ、非威信形の使用の割合が高くなる。
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社会階層とジェンダーの関係ノリッジ調査(/ŋ/を/n/で発音する割合):ジェンダーの違いも調査
男性の方が女性に比べ非威信形を使用する割合がどの社会階層においても高い。 * “The score is clearly unrepresentative, being lower than both the RPS ad FS scores and male MMC
score, and is due to the fact that only a very small number of instances of this variable happened to be obtained” (Trudgill, 1974, p. 93).
社会階層 性 単語リスト 読み上げ 改まった口調 くだけた口調
中流中産階級 男 0 0 4 31
女 0 0 0 0
下流中産階級 男 0 20 27 17*
女 0 0 3 67
上流労働者階級 男 0 18 81 95
女 11 13 68 77
中流労働者階級 男 24 43 91 97
女 20 46 81 88
下流労働者階級 男 66 100 100 100
女 17 54 97 100
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ジェンダー差の解釈言語態度
自己報告(self-report)による言語態度調査
威信形と非威信形のペアを聞かせ、普段どちらの発音をしているかを自己報告
男性は、実際に使っているよりも多い割合で非威信形使用を報告(under-reporting)
女性は反対に、実際に使っているよりも多い割合で威信形の使用を報告(over-reporting)
男性は非威信形に対して潜在的威信を持っている
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◆調査地:アメリカ、ニューヨーク、顧客層が異なる三つのデパート(Saks,
Macy’s, S. Klein)。
◆前提:ニューヨークでは、世界恐慌(1929)以降、母音の直後の/r/が威信
形の発音になってきている(それ以前は/r/を発音しないイギリス英語式)。
◆仮説:高級デパート(Saks)の店員は、顧客の言葉づかいに合わせて最も
多く/r/を発音する。
ケース・スタディ 2:Labov(1966, 1972)の研究
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Sacks Fifth Avenue
画像はすべてWikipediaから取得
Macy’s
S. KLEIN
調査方法
調査者:Excuse me, where are the women’s shoes?
店員: Fourth floor.
調査者:Excuse me?
店員: Fourth floor(強調して慎重に)
※観察者の逆説(observer’s paradox):
本当に収集したいデータというものは観察の外部でこそ収集できる(!)観察者がいるとデータ協力者が意識してしまいナチュラルなデータが得にくい。
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NYCデパート調査の結果
4回のうち、1回でも/r/を発音した割合は階層と相関を示した。
<階層> <割合>
高 高
-Saks: 62%
-Macy’s: 51%
-S. Klein: 21% 低 低
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結果1
/r/の使用は、高級デパートの方が多い。
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結果2
/r/ の使用は、慎重に発音する場合に増加する
同様の結果が、売り場監督、店員、在庫係で見られた。
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発音を変化させる他の要因
単に社会階層と威信形が相関するのではなく、他の要因が働いている。
例えば、カジュアルに発音する場合と、慎重に発音する場合で、威信形の出現に差がみられる。
Labov (1972)は、異なる社会階層の調査協力者に対して5つの異なる発音の仕方(スピーチ・スタイル)で調査を行い、 「過剰修正」という現象の存在をつきとめた。
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過剰修正(hypercorrection)Labov(1972)
◆調査協力者の社会階層
上流中産(UMC)
下流中産(LMC)
労働者(WC)
下層(LC)
◆スピーチ・スタイル
くだけたスタイル
(casual speech)
慎重なスタイル
(careful speech)
パラグラフの朗読スタイル
(reading style)
単語のリスト音読スタイル
(words list style)
最少対立語の音読スタイル
(minimal pairs)
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結果(Labov, 1972, p.125)
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◆解釈のポイント
下流中産階級の人たちは、他の階層に比べ、スピーチ・スタイルがあらたまるにつれ、威信形/r/を発音する割合が急激に高まり、上流中産階級をしのぐ⇒過剰修正
◆過剰修正の原因 現在の社会的立場への不安・不満
上昇志向
◆言語変化と社会階層に関する一般的説明
言語変化の最も大きな推進役は、最上層と最下層にはさまれた人たちであり、その原因のひとつとして「きちんと、社会的に権威ある話し方で」話そうとする意識的な態度が考えられる。
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ジェンダー
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Quiz:
「ボストンに住む医師には、ニューヨークで弁護
をしている弟がいる。しかし、弁護士には兄が
いない。さて、二人の関係は?」
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「ボストンに住む医師には、ニューヨークで弁護士をしている弟がいる。しかし、弁護士には兄がいない。さて、二人の関係は?」
なぞなぞの答えは何か?
ボストンの医師はニューヨークの弁護士の「姉」。
なぜこれがなぞなぞになるのか?
一般に「医師」や「弁護士」という職種は男性が多いので、 「医師」や「弁護士」ということばを聞いただけで、男性の「医師」や「弁護士」を前提とした思考が働くから。
これを裏付けるように、「女医」や「女性弁護士」とは言えるが、「*男医」や「?男性弁護士」とは言わない。
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ジェンダーによる言語変種
ジェンダーとは?
(1)社会的・文化的なイデオロギー身体的な性別(sex)のことではなく、「女だから~」「男のくせに~」などの背景にある社会的、文化的に作りあげられた性別のこと。権力関係として、階層性(上と下・一般と特殊など)をもつことが多い。
(2)自分を表現するアイデンティティー自分を構成する要素として、女性性、男性性、両方などがあり、単純に二分できない。民族、世代などとも連関している。
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言語に表れるジェンダー
• 言語における性差別
語彙や喩え・決まり文句にはどんな男女観が表れているか?
• 言語使用にみられるジェンダー 今回
女や男はどんな話し方をするか?
女らしい話し方、男らしい話し方とは?
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言語使用にみられるジェンダー
音声にあらわれるジェンダー
文法事項にあらわれるジェンダー
語彙使用にあらわれるジェンダー
話し方の違いに反映されるジェンダー
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音声的特徴
ピッチ 高いピッチで話す。
音調(イントネーション)
平叙文であっても尻上がりの未完結パターンを使用→相手に同意を求める。つまり最終判断を相手に任せる。
発音
より正しい発音(威信形)で話そうとする。→権威に弱い。自分をよく見せたい。
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文法的特徴
より正しい文法を使う。
中産階級の下、労働者階級の上のクラスの女性が、特に正しい英語を使うことに敏感。
付加疑問文を使う。
It’s so hot, isn’t it? →相手の同意を得て安心したい。
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語彙的特徴
あまり意味のない形容詞、弱い間投詞、「かきねことば」の使用 自己主張を和らげ、従順な話し方
強調表現
真剣に話しを聞いてもらえない立場
下品な表現の回避
規範・正しさへの志向性
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語彙的特徴
あまり意味のない形容詞の使用 cute, adorable, divine, darling, lovely,
precious, sweetなど。What a darling house that is!
やわらかい間投詞の使用 Oh dear! Goodness gracious!, Oh fudge!,
Dear me!など。 反対に男性は強い間投詞を使用
Shit!, Damn! Hell!
かきねことば(hedges)の使用 kinda (=kind of), sorta (=sort of), you know “He is kind of stupid.” 意味がぼける
「〜らしい」「〜とか」「〜っぽい」 「〜的」
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語彙的特徴
強調表現 soの使用。I like him so much.(veryとは異なりどの程度か曖昧。感情的と見なされることもある)
大げさな表現の使用。absolutely, awfully, positively, most beautifulなど。
下品な表現を避ける Four-letter wordsを避ける
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語彙的特徴
女性特有の興味(ファッション、料理など)に関する語彙が豊富
色の語彙(mauve 紫色, magenta 深紅色など)
洋裁用語 (dart ダーツ)
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コミュニケーションの取り方
ポライトネス表現
あいづち
同時発話
コミュニケーション・スタイル
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ポライトネス
ポライトネス表現とは
他者と円滑にコミュニケーションを図るために講じるさまざまなストラテジー
女性の方が男性より多用する
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ポライトネス:丁寧ないい方
英語では丁寧な表現を用いる傾向
日本語では敬語(尊敬語、丁寧語、謙譲語)の使用。美化語(「お紅茶」「ーあそばせ」)の使用
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ポライトネス:「誉めことば」
ニュージーランド(Holmes, 1988)での研究
女性は男性より頻繁に誉める
女性同士が最も誉める(⇔男性同士が一番少ない)
誉めあうことで励まし合い、親密さを表現し、仲間意識を育む。
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ポライトネス:「誉めことば」
アメリカの大学生(Herbert, 1990)にみられる傾向
女子大生は “I like/love X”(自分の好き嫌い)
男子学生は “Nice X”(物の良し悪し)
男性の誉めことばは “Thank you!” と受け入れられることが多いが、女性の誉めことばは、自身の好き嫌いの表明でもあるので、相手の同意を求めるわけではない。”Thank you!”という反応が出にくい。
男女の力関係からくるのではないか。
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ポライトネス:「詫び表現」
女性のほうが男性より頻繁に謝罪する(Holmes, 1995)
ー>詫びることによって自分の位置を相手よりも下げることになる
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あいづち
女性の方があいづちをよく打つ(Fishman, 1978)
ー>話を熱心に関心を持って聞いているという合図を送っている
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同時発話
アメリカの大学生をデータとした研究
(Zimmerman & West, 1975)
二種類の同時発話を分けて分析
(1)話者が交替する際に起こる非常に短い重複
(2)話の途中に話し手をさえぎる重複
異性間でおきる重複は、(2)が多く、女性の話を男性がさえぎるケースが9割以上。
男女の力関係の現れ
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同時発話:男女で異なる役割
男性の同時発話
自分の言いたいことを言うために相手の話をさえぎる。
女性の同時発話
相手の話をさえぎるのではなく、相手の話に興味を示し、協力して会話を進める一つの方法(Hayashi, 1998; Tannen, 1990) 。
コミュニケーションスタイルの違い (Tannen, 1990)
男性:ことばを競争のために用いる
女性:ことばを人間関係を築くために用いる
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アメリカ人のコミュニケーション・スタイルTannen (1990)
アメリカ女性 アメリカ男性
親密さ、依存感 独立性、地位の上下
人間関係、調和 情報価値、自己主張
従順さ、同情 指導力、競争力
私的場面で饒舌、細部まで話す
公的場面で饒舌、大局的、概論的に語る
よい聞き手 よい話し手
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社会的属性:まとめ
話し手の社会的属性(特に地域、社会階層、ジェンダー)に着目し、英語の変種(バラエティ)について考察した。
話し手は状況に応じて変種を使い分けているので、同じ個人でも、場面場面で異なることもある。また社会的属性の捉え方自体も、状況に応じて変化しうる。
これらの変種には、威信や傷痕が付与されている。つまり、英語ということばの実践によって、その社会の支配的イデオロギーを正当化し、再生産してきている。
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