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Page 1: 実践!脳卒中片麻痺のリハビリ - daybook.jp · 起居動作訓練 歩行訓練の進め方 ... 片麻痺への基本的 トレーニング いざり動作練習 ... 荷重量の対称性、Timed
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実践!脳卒中片麻痺のリハビリ  ~回復期・生活期を支える~

〈目次〉

起き上がりから歩行まで

   片麻痺のリハビリはどれくらい進歩したのか 総合介護施設ありがとう 総施設長 理学療法士 妹尾弘幸

片麻痺への基本的トレーニング

車イス操作訓練・移乗訓練 多機能リハビリセンターありがとう 野田和美

起立・歩行の予後予測 BRIDGE PLUS 代表 理学療法士 小松洋介

起居動作訓練 

歩行訓練の進め方 医療法人おもと会 大浜第二病院 理学療法士 末吉恒一郎

下肢装具療法の実践 株式会社 豊通オールライフ ヘルスケア事業部 AViC THE PHYSIO STUDIO チーフマネージャー 理学療法士 岩澤尚人 世田谷記念病院 理学療法士 比企 力

各種症状へのアプローチ ~反張膝・膝折れ・ぶん回し~ 脳卒中包括的リハビリテーションアプローチ(CCRA)代表  脳梗塞リハビリセンター 研修センター長 理学療法士 福田俊樹

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PT・OT・ST・機能訓練指導員応援BOOKシリーズ

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2 脳卒中片麻痺のリハビリ

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在宅生活

片麻痺へのリハビリ戦略

在宅生活を支える生活期リハ 社会医療法人 関愛会 坂ノ市神崎エリアリハビリテーション部 理学療法士 川野剛士

外出が楽にできるようにする工夫 総合リハビリ訪問看護ステーション 理学療法士 原 泰裕

閉じこもりや訓練への固執に対する工夫 ハートピアの森 理学療法士 近藤 亮 言語聴覚士 中島 崇 作業療法士 近藤大貴

住宅改修・環境設定の工夫 多機能リハビリセンターありがとう 野田和美

拘縮を防ぐ関節可動域アプローチ 山梨リハビリテーション病院 理学療法士 北山哲也

肩関節疼痛・浮腫への対応 一般社団法人ASRIN 代表理事 石田匡章

促通反復療法 ~川平法~ 鹿児島大学大学院名誉教授 促通反復療法研究所 所長 川平和美

視覚的フィードバック ~ Virtual Reality ~ 脳梗塞リハビリセンター 理学療法士 鶴埜益巳 運動トレーナー 森新太郎 理学療法士 唐沢彰太

電気刺激療法との併用 南東北春日リハビリテーション病院 作業療法士 宗方里美

ボツリヌス療法との併用 (公財)東京都保健医療公社 荏原病院 リハビリテーション科 理学療法士 髙橋忠志

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脳卒中片麻痺のリハビリ 3

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股関節外旋の可動域訓練 足首の可動域訓練

麻痺側下肢を持ち上げて、非麻痺側下肢の上に置き、あぐらをかくような姿勢を作ります。靴や靴下の脱着に必要となる動作です。

非麻痺側の横に手をつき、体を引き寄せるように臀部をずらします。 手を押しつけるようにして、麻痺側に臀部をずらします。

床に踵をつけ上から押さえて圧をかけます。膝を左右に動かします(足部の左右の柔軟性の改善を図ります)。少しずつ踵を引き、足首の可動性を出します。

下肢の可動域訓練

片麻痺への基本的トレーニング

いざり動作練習

 非麻痺側へは移動しやすいですが、麻痺側へは難しいため、日常生活で必要な場合はトレーニングを行います。ベッド上や畳の上でのいざり動作など、さまざまな場所での練習も大切です。

非麻痺側へのいざり動作 麻痺側へのいざり動作

足を引くことで背屈が増えていく

脳卒中片麻痺のリハビリ 17

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※写真はKAWAMURAグループ提供

短下肢装具(AFO)

長下肢装具(KAFO)

 脳卒中片麻痺患者におけるAFOの効果をまとめた系統的レビューによると、装具を用いることで歩行速度がわずかに短縮(0.06m/sec)し、ストライド長の増加、荷重量の対称性、Timed Up&Goの短縮などが報告されています3)。運動学的分析では、踵接地時の背屈角度、荷重応答期での増加、遊脚期において足関節背屈角度は有意に増加するなどの身体的影響が報告されています4)。

 KAFOの効果として、装具を外した際の下肢機能、歩行機能を改善する治療効果の明確なエビデンスはほとんどありません。しかし、立脚時に膝過伸展を生じる生活期の脳卒中患者11名(歩行が見守り以上で可能)に対し、カーボン製のKAFO装着時では、立脚期での膝過伸展の軽減と足関節背屈角度が増加したとの報告があります(図2) 9)。

 また、重症脳卒中患者に対し、早期から立位・歩行トレーニングを行い、麻痺側下肢への荷重量を増やしていくことが必要不可欠ですが、セラピストのスキル上の問題も懸念されます。しかし、KAFOを用いることで、膝~足関節の関節自由度の低減を図り、代償などの少ないエラーなし学習ができると考えます。

下肢装具の効果

外観や装着性も選択肢に AFO の継手の有無における AFO の効果として国際義肢装具連盟コンセンサスカンファレンスでは6)7)、継手付き AFO においては勧告レベル B とコンセンサスが得られています。しかし、継手なし AFO は勧告レベル C という結果であったことを報告しています。国内での AFO における処方のアンケート調査では8)、最も多く処方されている装具は SHB(継手なし AFO)であり、その次にオルトップ AFO が続き、いずれも金属支柱付き AFO より外観、装着のしやすさなどが優先された結果なのかもしれません。 SHB オルトップAFO

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KAFO 装着なし

% of the cycle % of the cycle

KAFO 装着標準

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足関節

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図2 KAFO装着による膝・足関節機能の比較

脳卒中片麻痺で内反尖足がある患者に、歩行改善のために短下肢装具を用いることが勧められる(グレード B)

脳卒中治療ガイドライン 20155)より

麻痺側下肢 非麻痺側下肢

60 脳卒中片麻痺のリハビリ

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在宅生活を支える生活期リハ

市販の発泡スチロール製のすのこをカットして段差を解消する

設置したすのこの上にスポンジなどを置き、違和感なく移乗できるように工夫する

非麻痺側の足で麻痺側の足を持ち上げて台をまたぐ

座りまたぎ訓練

 浴室内で座りまたぎをする場合、足を上げる際に後方にバランスを崩しやすくなるため、背もたれ付きのシャワーチェアが望ましいです。浴槽の幅が広く手すりを設置できない場合は、座りまたぎで浴槽に入ることを検討します。浴槽の縁は、浴槽内に周囲から湯が入らないようになっており、段差があることが多いです。このような場所に座ってまたぐ場合は、臀部に違和感がないように、市販の発泡スチロール製のすのこなどを切り取って設置し、隙間を埋めることで段差の解消を行います。

 座りまたぎを想定して、台などを使い、麻痺側の足を補助しながらまたぐ練習を行います。麻痺側の足を補助できることで、自立して入浴できることにつながり、介助者の負担軽減にもつながります。

浴槽の段差を解消

台を使用した座りまたぎ訓練

またぎ動作への工夫

脳卒中片麻痺のリハビリ 95

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作品例

Step1:複数名で共同作業 どんどん進める人、修正する人、支援する人、指示を出す人など、共同作業によりそれぞれの役割分担を促します。作品作りを通じて主体的な活動・参加を意識的に働きかけます。

Step2:お披露目会で達成感 これらの作品は、利用者同士でお披露目会・展示を行います。褒め合い、達成感を共有することで、自信の回復や自己肯定感の向上につなげます。また、家族とも送迎時や連絡ノートなどでできたことや様子を共有し、家族の心理的負担や障害への不安に対して支援します。

 デイで、個別機能訓練とは別に、巧緻動作訓練の一環として、脳卒中の方は麻痺側で作品作りを行っています。利用者同士共同で行った後は作品のお披露目会を開催し、展示もしています。麻痺の訓練(心身機能)のみでなく、利用者同士の交流を通じて前向きに努力ができる、活動・参加を意識した訓練です。

麻痺の訓練に固執する人へのアプローチ

つまようじアート

色を付けたつまようじを発泡スチロールに刺して、絵を完成させます。

約4,000本のつまようじを用いて、利用者と共同で一つの作品を作り上げます。

スクラッチアート

黒く塗られた面に描かれた下絵の線を専用のペンでなぞって削り、絵を完成させます。

麻痺側にて線をなぞり作品を完成させます。自宅での自主トレーニングとしても導入できます。

麻痺の訓練に固執する背景 かかわり方のポイント

 麻痺の訓練に固執してしまい、活動・参加になかなかつながらない人は、脳卒中片麻痺後の障害の受容ができていない場合があります。障害の受容過程は「ショック期」「否認期」「混乱期」「解決への努力期」を経て、「受容期」となり、障害を克服していきます。また、障害受容は上肢能力や人生への満足が強く影響しており、障害受容の過程や期間は人によりさまざまです。

 まずは、本人を説得するのではなく、相談相手となり悩み・不安・心配事などの思いを話してもらい、受け止める信頼関係を築き上げることが必要です。 その上で、配偶者・子どもの支えや、同じ障害を持った人とのつながり・交流により、気持ちが安定し、前向きに努力するようになります。また、介護者の心理的負担、孤独感、障害への不安を和らげることも重要です。

利用者同士の共同作業で活動・参加を促す

106 脳卒中片麻痺のリハビリ

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片麻痺へのリハビリ戦略

拘縮を防ぐ

関節可動域アプローチ脳卒中片麻痺になると、不動による筋肉の拘縮を起こしやすくなります。ここでは拘縮を防ぐ関節可動域アプローチを紹介します。

 片麻痺によく見られる関節可動域の低下は、不動による拘縮によって起こります。脳血管障害などの麻痺により筋収縮を伴った関節運動が行われず、軟部組織が変性し、関節可動域の低下を引き起こします。関節包の短縮、骨棘形成などによる関節の変形、皮膚や皮下組織、靭帯や筋膜を含む筋肉などの線維化などが原因として挙げられます。

 脳卒中片麻痺による拘縮の筋緊張は、単なる脊髄レベルでの問題ととらえるよりも、姿勢筋緊張としてとらえるべきだと考えます。姿勢筋緊張は、本来、可動性と安定性がともに存在する状態であり、重力に抗するだけの高い緊張を保ちつつも、円滑で協調的な運動を可能とする低い緊張も備えています。しかし、脳血管障害により、大脳皮質や脳幹からの信号で運動を誘発・調整することが難しくなり、四肢末梢部の筋緊張に影響を及ぼしたり、末梢部からの情報(体性感覚や固有感覚など)が上位中枢

へ十分に入力されないことで、姿勢筋緊張に影響したりします。つまり、関節の拘縮状態はあくまでも結果であるということです。関節可動域の拡大が得られたとしても、歩行後に再び関節可動域制限が生じたり、痙縮、連合反応などが助長されたりしてしまうのは、姿勢を重力に抗して保持できない弱さが、どこかの関節や筋肉にあるためです。関節に硬さがあれば、ほかに弱い部分が隠されているかもしれないと考えていくことが大切です。

関節可動域低下とその理由不動による拘縮

脳卒中片麻痺による姿勢筋緊張への影響

北山 哲也

山梨リハビリテーション病院 理学療法課課長 

回復期セラピストマネージャー 神経系専門理学療法士 脳卒中認定理学療法士

学術活動としては、日本神経理学療法学会運営幹事、山梨県理学療法士会生涯学習局長として理学療法学の発展と後進育成に努めている。また、脳卒中片麻痺者に対する運動療法を最新の知見なども取り入れながら、臨床実践を通して伝える講習会・研修会の講師活動なども行っている

拘縮を防ぐ関節可動域アプローチ

脳卒中片麻痺のリハビリ 117

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肩関節の特徴

肩関節疼痛・浮腫への対応

脳卒中片麻痺では、肩関節の痛みを訴える方が多くいます。肩関節の構造や片麻痺による痛みの原因を知り、効果的なアプローチの方法を紹介します。

石田 匡章一般社団法人 ASRIN 代表理事

 肩関節の痛みを伴った可動域制限を評価することは、片麻痺の動作分析の原点に等しいと思っている。つまり、全身に目を向けなければ肩の問題は解決しない。問題は、中枢神経障害に関わる理学療法士・作業療法士たちの多くが解剖学や運動学の存在を忘れてしまっていること。中枢神経障害であろうと整形外科疾患であろうと、大きな違いはありません。もっと基礎を大切にすることで見えてくる現象や問題点が山積しているように私には思えるのです。~ 脳血管障害患者へのアプローチの考え方のベースになった言葉 ~ 吉尾雅春 片麻痺の評価と治療:理学療法学:84.1998より引用

10年間の病院勤務の後、訪問看護ステーションに入職。これまで、ICU、急性期、維持期、療養病棟、デイケア、整形外来、訪問リハビリなど幅広く経験を積む。“明日から臨床で使える勉強会”をコンセプトとした、「ASRIN」を立ち上げ、大規模セミナーや、少人数でのセラピストの手技を高めるセミナーなど、これまで約8,000人が参加。セラピストの技術の向上のため、全国を飛び回っている。

 肩関節を安定させるためには、肩甲骨が外転・軽度上方回旋し、関節窩がやや前上方を向いた状態が良いとされています。 しかし、棘上筋の滑り機能を円滑化する肩峰下滑液包が機械的炎症を受けやすいため、痛みを誘発しやすい状態となってしまうことが弱点です(図1)。

肩峰下滑液包

三角筋下滑液包

図1 肩峰下滑液包(subacromial bursa)

構造学的特徴と構造学的弱点

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1974年鹿児島大学医学部卒業、2005年鹿児島大学大学院リハビリテーション医学分野教授(霧島リハビリテーションセンター所長併任)、1990年京都大学霊長類研究所、1991年NIH留学。2013年定年退職し、2016年促通反復療法研究所〈川平先端リハラボ〉を開設し、専門職への促通反復療法の普及活動を続けている

川平 和美鹿児島大学大学院名誉教授促通反復療法研究所 所長

促通反復療法〜川平法 〜

脳卒中による片麻痺の回復には、神経回路の再建・強化が必要なため、目標となる神経路に繰り返し興奮を伝える必要があります。本稿では、その伝達手段として効果的な促通操作の手技を紹介します。

 脳卒中による片麻痺は神経路の損傷が原因のため、強化目標の神経路に繰り返し興奮を伝えれば、効率的に神経路の再建・強化が進み、大きな機能回復が期待できます(図1)。しかし、従来の手法は麻痺の回復や運動学習の第一歩である目標の神経路に患者の運動努力(興奮)を伝えることが難しく効果が少なかったのです。 促通反復療法は新たに開発した促通操作によって、目標の神経路へ繰り返し興奮を伝え、運動機能の改善を図る療法です。これまで多くの科学的検証で麻痺や物品操作、歩行、ADLの改善効果が確認されています。

促通反復療法とは

図1 神経路の強化の原則

興奮

学習(運動記憶)=神経路の結合強化

不変

興奮 興奮 組織的結合強化

目標とする神経路に興奮が

伝わらず変化しない

繰り返し興奮を伝えることで、神経路の再建・

強化が進む

NGF(神経成長因子)

従来の手法

促通反復療法

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