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大学院医学研究科免疫学(免疫学教室)は 年(明治 年) 常岡良三助教諭(の ち教授)が開講した衛生細菌学教室に端を発し 以来 年余に亘って細菌学ウイルス学と 免疫学の研究と教育に携わってきた (平成 年) 大学院免疫・微生物学 微生 物学教室から 大学院免疫学 免疫学教室に改組 した 免疫学では現在免疫系を中心とした高次生 命システムの理解と制御に関する基礎的・応用 的研究を最先端技術を駆使して行っている 現在 名以上の教室員が在籍し そのうち約 名が常時研究活動に従事している 日現在の教室員は 以下のとお りである(図 ): スタッフ 教授 松田 修 教授(学内)喜多正和 講師(学内)岸田綱郎 助教 扇谷えり子 助教 渡邉映理 プロジェクト研究員 新屋政春 大学院生  研究生・研修員・後期専攻医・研究補助員等  大学院生等のうち 名が免疫学を主科目と しており他は免疫内科学消化器外科学形外科学泌尿器科学産婦人科学耳鼻咽喉 科学歯科学教室から免疫学に参加している 免疫学とその関連領域の研究は分子レベル での微細で精緻な知見が膨大な量蓄積してきた 個々の分子やパスウェイの微視的分析的 な情報だけでは免疫系の全貌を理解し制御する のは困難であるそこで我々は 分子レベルの 知識を統合しシステムの集積としての「生体 医学フォーラム 大学院医学研究科免疫学(免疫学教室) 免疫学教室新歓会( 年(平成 年) 月)

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 大学院医学研究科免疫学(免疫学教室)は�����年(明治��年)�月�常岡良三助教諭(のち教授)が開講した衛生細菌学教室に端を発し�以来���年余に亘って�細菌学�ウイルス学と免疫学の研究と教育に携わってきた�����年(平成��年)�月�大学院免疫・微生物学�微生物学教室から�大学院免疫学�免疫学教室に改組した�� 免疫学では現在�免疫系を中心とした高次生命システムの理解と制御に関する基礎的・応用的研究を�最先端技術を駆使して行っている�現在���名以上の教室員が在籍し�そのうち約��名が常時研究活動に従事している�

教 室 員

 ����年��月�日現在の教室員は�以下のとおりである(図�):スタッフ 教授 松田 修     教授(学内)喜多正和

     講師(学内)岸田綱郎     助教 扇谷えり子     助教 渡邉映理     プロジェクト研究員 新屋政春大学院生 ��名研究生・研修員・後期専攻医・研究補助員等 � ��名 大学院生等のうち��名が免疫学を主科目としており�他は免疫内科学�消化器外科学�整形外科学�泌尿器科学�産婦人科学�耳鼻咽喉科学�歯科学教室から免疫学に参加している�

研 究

 免疫学とその関連領域の研究は�分子レベルでの微細で精緻な知見が膨大な量蓄積してきたが�個々の分子やパスウェイの微視的�分析的な情報だけでは免疫系の全貌を理解し制御するのは困難である�そこで我々は��分子レベルの知識を統合し�システムの集積としての「生体

医学フォーラム���

  �部 門 紹 介�

大学院医学研究科免疫学(免疫学教室)

図�  免疫学教室新歓会(����年(平成��年)�月)�

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の免疫」を理解し�臨床的な応用にまで発展開花させる免疫学を目指している� さらに免疫学教室では�狭義の免疫学にとどまらず�再生医学等の先端分野と免疫学の融合を積極的に推進している�すなわち�体細胞のリプログラミングと種々組織細胞の分化・再生の分子機構�またそれらのエピジェネティック制御や�代謝異常�老化�腫瘍微小環境など�高次生命システムとその異常に関わる幅広い医学・生物学上の問題について�独創的な研究を推進している� 以下に一部のテーマについて述べる:

���.�����シグナルによる免疫応答制御

 我々は以前������ファミリーのサイトカインである�����が�ナチュラルキラー(��)細胞を直接活性化すること�また自然免疫応答と獲得免疫応答の両者を賦活化することで�担癌マウス個体内において強力な抗腫瘍免疫応答を誘起することを見出した(図�)�最近になって�我々は抗腫瘍免疫応答以外の生体応答において������が示す新しい機能を見出した�現在その分子メカニズムの解析を進めており������シグナルが自然免疫応答と獲得免疫応答のクロストークにおいて担っている極めてユニークな役割が明らかになりつつある�

医学フォーラム ���

図�  �����シグナルによる腫瘍免疫応答制御�   �����は����誘導の最初期に必須のサイトカインとして知られているが��ナチュラルキラー(��)細胞に対する直接作用は報告されていなかった���細胞に機能的な�������レセプターが発現すること�および�����シグナルがインターフェロン‐γ非依存的に����細胞の生存を延長し細胞障害活性を増強することを見出した�一方��������での腫瘍免疫に及ぼす影響を�担癌マウスを用いて解析したところ�興味深いことに����抵抗性の頭頚部扁平上皮癌を��依存性に抑制することが分かった�その抗腫瘍効果のメカニズムとして������が�細胞に作用して腫瘍特異的���抗体を産生させること�その���と�����で活性化した�細胞が�協調的に働いて���γ�Ⅲ依存性に��抵抗性の腫瘍を障害することを見出した�これらの結果は�自然免疫と獲得免疫のクロストークにおける�����シグナルの新しい役割を明らかにするとともに�既存の免疫療法で効果がない腫瘍に対して�������が新しい治療手段を提供する可能性を示唆するものである(��������������� �������)�

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���.非ウイルス的手法による���細胞の誘導と

組織細胞の分化誘導機序に関する研究

 エプスタイン・バール・ウイルス(���)の潜伏感染に関わる�����遺伝子と����配列を組み込んだプラスミドベクター(���エピゾーマル・ベクター)は�ヒト細胞内にあっては���複製�核内移行�核内保持等の機能を通じてエピゾーマルに維持できる�我々は以前�この���エピゾーマル・ベクター系のヒト�および齧歯類細胞内での素機能の解析を行ってきた(図�)�より最近になって�非ウイルス的な手段により体細胞から���細胞を誘導する技術に応用した�さらにこれらの技術を複合させて�

���細胞から種々の組織細胞への分化誘導を行っている�とくに�これまで���細胞や��細胞からの分化誘導の報告がなされていない細胞についても誘導することに成功し�その細胞の��������および�������での機能解析�さらにはその細胞が特異的に発現する遺伝子の網羅的探索等に研究を進めている����.細胞分化に伴うエピジェネティック修飾の

解析技術の開発

 上述の���エピゾーマル・ベクターをさらに改変し�������に及ぶ長いゲノム配列を組み込み�ヒト細胞内に導入する実験系を開発している�ベクターのバックボーンとゲノム配列の発

医学フォーラム���

図�  ���エピゾーマル・ベクターの素機能の解析�   エプスタイン・バール・ウイルス(���)の����配列と�����遺伝子は�潜伏感染しているヒト細胞においてウイルスゲノム���が複製保持されるのに必須の役割を果たす������は配列特異的に����に結合し�この����を有するエピゾーム���の複製�核移行�核マトリックスと染色体への結合を促進し�また転写を増強する�そこで������遺伝子と����を有するプラスミドベクター(���エピゾーマル・ベクター)を非ウイルス的導入法にて細胞に導入すると�高効率導入�高発現と長期間維持が可能となる�我々は�これらに対する��������の素機能の貢献をマルチスケール操作にて解析した�さらにこの成果を元に�遺伝子の機能解析や�種々疾患に対する分子標的療法の候補遺伝子の解明等への応用も行っている(�������������� �����������)�

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現制御はインスレートすることが可能であり�さらに薬剤選択により�安定的に維持することができる�そこでこの系を上記の体細胞から���細胞のリプログラミングや���細胞から組織細胞への分化誘導系に導入することで�幹細胞に特異的に発現する遺伝子の�分化に伴う発現抑制�また分化した細胞に特異的に発現する遺伝子の�分化に伴う発現誘導に伴って�それらの遺伝子のゲノム領域に起こるエピジェネティック修飾を解析している����.その他のプロジェクト(紙面の制約のため

項目のみ挙げる).

① �����シグナルによるアレルギー応答制御の分子機構(免疫内科学�耳鼻咽喉科学との共同研究)(図�)② 抗ウイルス自然免疫応答の分子機構

③ リプログラミング技術を活用した免疫分子細胞療法の開発(消化器外科学�歯科学との共同研究)④ インフルエンザに伴う二次感染における免疫応答機序⑤ 腫瘍微小環境の解析と腫瘍免疫応答の分子制御(泌尿器科学�歯科学との共同研究)⑥ 変形性関節症の分子病態と分子制御の研究(整形外科学との共同研究)⑦ 子宮内膜症の分子病態と分子制御の研究(産婦人科学との共同研究) 記載は略すが�さらにいくつかのプロジェクトが進行中である�また�喜多教授の研究は�別の機会に述べられるので�重複を避けてここでは記さない�

医学フォーラム ���

図�  �����シグナルによるアレルギー応答制御�   �����シグナルは��細胞の���クラススイッチを抑制するという報告がなされていたが�矛盾する報告もあり�また�����シグナルが���クラススイッチの制御に関与する分子機構は明らかでなかった�一方�アレルギーを発症する個体内における�����の��������の作用も知られていなかった�我々は������が転写制御因子����を誘導し����が必須に関与して���クラススイッチを抑制することを見出した������はまた�線維芽細胞に働いてエオタキシン産生を抑制し�好酸球のアレルギー局所への遊走を抑制した�さらに�アナフィラキシーおよびアレルギー性鼻炎を誘導したマウスにおいて�アレルギー症状を強力に抑制することを見出した�これらの結果は������がアレルギー病態の制御に有用である可能性を示している(�������������� ������������������������������ �)�

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教 育

���.卒前教育

 医学部�回生に対する免疫学では�免疫学の講義と実習を行っている�さらに�~�回生の総合講義(感染症学�再生医学など)の一部を担当している��回生の研究配属では�例年�~��名の学生が免疫学への配属を希望し�いずれかの研究グループに所属して実際に実験を行ってもらい�研究の面白さを体験して貰うようにしている�例年�研究配属の期間が終了しても研究室に通い�実験を継続してくれる学生がおり�うれしい限りである����.卒後教育

 本教室の大学院生�他科から研究に来ている大学院生�および研究生等は�上記のように研究テーマのいずれかに参加し�卒後教育として研究活動を行っている�そのほとんどは�修了と同時に学位を授与され�さらにその後も基礎医学�社会医学�臨床医学の広範な領域で活躍している�

ま と め

 免疫学教室は既存の常識や枠組みに捉われず�夢を生む研究�未知の地平を切り開く研究�

そして医療と社会に役立つ研究を目標として�異分野との学際的連携や産学連携も通じた研究活動を行っている�今後とも未来の医学に向けて世界に冠たるオリジナルな研究を打ち立て�ひいては本学の発展に寄与するべく�教室員一同一丸となって�日夜研究に邁進しています�

追     記

 本年のノーベル医学生理学賞は�獲得免疫の研究により��������博士が���を受賞し�残りの���を自然免疫の研究により�������博士と��������博士が分かち合った�免疫学の医学における重要性が改めて評価されたことを喜ばしく感じる�一方で���������博士が受賞発表直前に他界されたことが残念でならない� ������� ��������博士は�樹状細胞の発見者であり�樹状細胞が獲得免疫応答に極めて重要な役割を果たすことを見出した功績でノーベル賞を受賞された�長らく������������ ��� �������������の�������������であり�樹状細胞に関する松田の最初の論文をハンドリングしていただいたことが�昨日の事のように思い出される���������博士のご冥福をこの場を借りてお祈りしたいと思います�

(文責:松田)

医学フォーラム���