胃がんをターゲットとした副作用がなく、安全 なリン脂質系 ......nl59 nl183...
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浜松医科大学
胃がんをターゲットとした副作用がなく、安全
なリン脂質系抗がん剤の開発研究
JST新技術説明会
医学部腫瘍病理学講座助教 倉部 誠也
胃癌に対する抗がん剤はTS-1、CDDP、CPT-11、TXL等が使用されるが多くの副作用がある。また、胃癌はPI3KやPTENの変異が多く報告されているが、PI3K-Akt-mTOR経路のインヒビターは特異性の低さと重い副作用で一般的には使用できない。
生体由来の物質であれば副作用の面が克服できる可能性がある。
脂質の解析には抗体が使えず,また従来のマイクロダイセクション等を用いた液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)では試料組織をbufferで溶解するために組織切片全体の脂質の分布情報が得られなかった。
質量顕微鏡を使用したイメージングマススペクトロメトリー(IMS)では組織切片全体の脂質の二次元分布を解析できる。
新たな癌治療ターゲットの発見につながる。
生体由来の脂質の癌での検出を開発した
質量顕微鏡
(iMScope; 島津製作所)
質量顕微鏡による脂質の測定方法
癌部位
m/z500 600 700 800 900 1000 1100 12000
1000
2000
3000
1200
正常粘膜部位
m/z500 600 700 800 900 1000 11000
1000
2000
3000
iMScope
マススペクトルと二次元分布データの取得
inte
nsity
inte
nsity
(手術検体)
脂質の測定結果の解析法
Normalization
1. PCA (主成分分析)2. 脂質の相対量比較
3. 脂質の可視化
15
PC1
PC2
PC
3
0 510
-5-10-15
05
10
-5-10
-15
0
-5
-10
5
10
脂質の可視化PCA
Ion image of a lipidHE
0.6
1
2
3
4
5
67
89
1011
12
load1
load
2
0 0.2 0.4-0.8 -0.2-0.4-0.6
0
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
0.1
0.2
0.3
0.4
-0.515
PC1
PC2
PC
3
0 510
-5-10-15
05
10
-5-10
-15
0
-5
-10
5
10
PCA、脂質の相対量比較(大腸癌)
大腸癌正常大腸粘膜
m/z 770.5が大腸癌特異的に発現上昇する分子であった。
NL59
NL183
770.
5
711.
5
587.
5
184.
0
相対量
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
110
100 200 300 400 500 600 700 800m/z
163.
0
PC
-32:
1の平均
量0
10
20
30
40*
**50
大腸癌特異的脂質PC-32:1のstage、 分化度別分布
m/z 770.5をMS/MS解析
m/z 770.5はフォスファチジルコリン (PC)-
32:1
PC
-32:
1の平均
量
0
10
20
30
40
50*
**
60
*P < 0.028, **P < 9.3E-5*P = 0.0027, **P < 00072
大腸癌特異的脂質PC-32:1の切片中の二次元分布(ion image)
PC-32:1は大腸癌の癌部位でのみ高発現した。
• PC-24:0 → 胆汁酸分泌上昇、肝臓の中性脂肪低下、血糖値の低下、脂肪肝の改善。LRH-1のリガンド。 (nature vol. 474 no. 23 506-510 2011)
• PC-32:0→ 肺サーファクタント• PC-36:1 → 血中中性脂肪の低下 、 筋肉での脂肪酸の取り込み上昇。(nature vol.
502 no. 24 550-554 2013)• PC-34:1 → 肝臓PPARaのリガンド 、脂肪肝を引き起こす(cell vol. 138 476-488
2009)• PC-34:2 → Aktの膜移行を抑制 (PNAS vol. 110 no. 7 2546-2551 2013)• PC-36:4 → Aktの膜移行を抑制(PNAS vol. 110 no. 7 2546-2551 2013)
Nature. 2011 May 25;474(7352):506-10.
Cell. 2009 Aug 7;138(3):476-88.
特定の種類のPCが生理活性を持つ
フォスファチジルコリ
ンの種類
正常胃粘膜
での量 胃癌での量
胃癌/正常胃粘膜
の比
PC-34:2 + Na* 29.47 8.48 0.29
PC-34:1 + Na 32.28 16.90 0.52
PC-36:4 + Na* 12.54 7.17 0.57
PC-36:2 + Na 13.13 7.81 0.59
PC-34:2 + K* 12.93 8.17 0.63
PC-34:1 + K 15.36 11.03 0.72
PC-32:0 + K 6.87 8.76 1.28
PC-36:2 + K 8.75 6.98 0.80
PC-36:4 + K* 6.43 5.62 0.87
PC-32:0 + Na 11.04 12.22 1.11
PC-32:1 + Na 6.25 6.10 0.98
PC-36:3 + K 5.58 5.67 1.02
表1、胃癌と正常胃粘膜間で変動が見られたフォスファチジルコリン
PC-36:4
PC-34:2
(a)
正常胃粘膜 胃癌部位
HE
PC-34:2 + Na
PC-36:4 + Na
(b)
質量顕微鏡を用いて胃癌の抗がん剤候補をスクリーニング
PC-34:2と-36:4が胃癌で発現減少した。
発現減少したPC種と合成酵素の関係
PC-36:4
PC-34:2
LPCAT3
� PNAS vol. 110 no. 7 2546-2551 2013にPC-36:4とPC-34:2がAktのリン酸化を抑制するとの報告がある。
� LPCAT3がPC-36:4とPC-34:2の両方を合成するという報告が多数ある。
胃癌特異的な抗がん剤の候補。ヒトが本来持っている分子なので副作用が少ない可能性が大きい。
同定したPCのK-rasによるトランスフォーメーション(癌化)への影響
0
5
10
15
20
25
Non-transformed
Transforme viaK-rasV12
Num
ber
of fo
ci
K-rasV12
PC-egg
PC-36:4
PC-34:2
-
-
+ +-
+
+ +- -
- -
- +- -
- +--
- + - -
- +- -
- +--
***
Ras
β-tubulin 55 kDa
21 kDa
PC-34:2と-36:4はK-rasによるトランスフォーメーション(癌化)を抑制した。
Time (hour)
吸光
度45
0 nm
TMK-1 MKN-45
Time (hour)
吸光度
450
nm
AGS
Time (hour)
吸光度
450
nm *
**
MKN-7
Time (hour)吸
光度
450
nm
**
MKN-1
Time (hour)
吸光
度45
0 nm
MKN-74
Time (hour)
吸光
度45
0 nm
MKN-28
Time (hour)
吸光
度45
0 nm
**
KATO-III
Time (hour)
吸光
度45
0 nm
*
同定したPCの胃癌細胞株の増殖への影響
PC-34:2と-36:4は8つの胃癌細胞株中の4つの増殖を抑制した。
同定したPCの正常細胞株と胃癌細胞株のkill curves
PC-34:2と-36:4は前頁で増殖抑制した胃癌細胞株に容量依存的に増殖を抑制したが、正常細胞でPC-34:2は影響しなかった。
同定したPCの各種細胞内シグナルへの影響
PNAS vol. 110 no. 7 2546-2551 2013
NIH3T3
p-T308-Akt
Akt
p-S473-Akt
60 kDa
60 kDa
60 kDa
PC-36:4 -
PC-34:2
PC-egg
- - +
+-
+ --
-
- - +
+-
+ --
-
- - +
+-
+ --
MKN-7 MKN-28 TMK-1
PC-34:2と-36:4はAktキナーゼのリン酸化を抑制した。その際のside effectは少ない。
同定したPCのヌードマウス皮下の増殖への影響(MKN-28)
PC-egg PC-36:4 PC-34:2
(b)
MKN-28
(a)
PC-34:2と-36:4はMKN-28のヌードマウス皮下での増殖を抑制した。
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
0 5 10 15 20
PC-egg
PC-36:4
PC-34:2
PC-egg
PC-36:4
PC-34:2
P = 0.0135371
p-T308-Akt
Akt
p-S473-Akt
60 kDa
60 kDa
60 kDa
PC-36:4 PC-34:2PC-egg
*
Day
腫瘍体積
(mm
3 )同定したPCのヌードマウス皮下の増殖への影響(TMK-1)
PC-34:2と-36:4はTMK-1のヌードマウス皮下での増殖を抑制した。その際のAktのリン酸化も低下した。個体、臓器レベルでヌードマウスに副作用は見られなかった。今後、急性毒性試験等が必要。
同定したPCの作用メカニズム
PNAS vol. 110 no. 7 2546-2551 2013
PC-34:2と-36:4はAktの膜移行を抑制するモデルが報告されている。
同定したPCの合成酵素LPCAT3の発現
LPCAT3は胃癌部位で発現減少し、発現減少している胃癌患者では生存率が低下した。
LPCAT3のK-rasによるトランスフォーメション(癌化)への影響
• 胃癌細胞株(MKN-28, TMK-1)でLPCAT3の安定発現株は樹立することができなかった(LPCAT3の細胞毒性のため)。
• LPCAT3 KOマウスは生後2日で低血糖のため死亡する。
LPCAT3β-tubulin
(a)
LPCAT3はK-rasによるトランスフォーメーションを抑制した。
種子、食品等に含まれるPC群の割合
種子には約20%と約30%のPC-34:2と36:4が含まれていた。また、10 mg/kgの投与で1回約5~6万円でPC-34:2は合成可能。
本研究開発のまとめ
• ヒトが本来持っている物質を抗がん剤として使用するため、副作用が起こる危険性が低い(ヌードマウスでは副作用が見られなかった)。
• 同定したリン脂質の作用メカニズムも明らかとなっている。
• 同定したリン脂質を産生する酵素の発現も胃癌に関与している。
想定される用途と企業へ期待すること
• 10 mg/kgの投与で1回約5~6万円で合成が可能なので、経口、静脈注射、内視鏡検査時に噴霧等(予防的使用)の用途が可能。
• 急性毒性試験、その後のphase I, II等の製剤化に向けた大量合成あるいは精製分離(種子、食品等から)をしていただける企業との共同研究を希望しております。
• 将来的には製薬企業とのライセンス契約を締結し、製剤化を希望しております。
• サプリメントとして、PC-34:2の成分を増強した機能食品の使用も可能(弁理士との相談の上での食品へのクレーム対応として検討中)。
• 発明の名称:抗がん剤• 出願番号 :特願2015-085850
• 出願人 :浜松医科大学
• 発明者 :倉部誠也、椙村春彦
本技術に関する知的財産権
お問い合わせ先
国立大学法人 浜松医科大学
知財活用推進本部 伊藤、小野寺
e-mail: [email protected]