遺伝子改変コモンマーモセットを用いた...

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遺伝子改変コモンマーモセットを用いた 神経科学研究の進捗 Next-generation Neuroscience using the common marmoset 岡野 栄之(慶應義塾大学医学部) 佐々木えりか(実験動物中央研究所) 1

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  • 遺伝子改変コモンマーモセットを用いた神経科学研究の進捗Next-generation Neuroscienceusing the common marmoset

    岡野 栄之(慶應義塾大学医学部)

    佐々木えりか(実験動物中央研究所)1

  • なぜ霊長類の実験動物が必要なのか?

    (Gilbert, Dev Biol.)

    サリドマイドによる催奇形性

    A型肝炎ウイルス/EBウイルス/麻疹ウイルスへの感受性

    霊長類一次視覚野特異的遺伝子

    霊長類の脳で特異的に発現する遺伝子 霊長類皮質脊髄路特異的遺伝子

    RBPOcc1アカゲザル

    薬物代謝の相違

    病原体への感受性の相違

    発現遺伝子の相違

    (Poswillo et al., Nature 1972)

    小型霊長類・マーモセット

    2

  • コモンマーモセットの実験動物としての利点

    繁殖効率が良く発生工学研究に適している

    小型で飼育や実験上の取り扱いが容易

    実験動物用として目的繁殖されている

    ・代謝経路、生理学的・解剖学的特徴がヒトと非常に類似している

    ヒトに近縁であり類似性が高い

    ・ヒトのサイトカイン、ホルモンと交差性を示す

    ・性成熟まで約1年半と他の霊長類に比べ短い

    ・年間5〜6匹出産、一匹の雌の生涯産仔数40〜80

    ・ヒトにとって危険な人獣共通感染症の報告がない

    ・遺伝的に均質、微生物学的な統御がされている

    ・比較的簡単なトレーニングで飼育可能

    ・自発運動量が多く、行動観察が比較的容易

    ・性別・年齢・体重を揃えて繰り返し実験が可能

    トランスジェニック動物の作製が可能

    ・遺伝子改変動物が系統化された霊長類はマーモセットのみ(Sasaki et al., Nature 2009)

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  • 平成20-24年度においてライン化に成功し、前臨床試験に使用する個体数の確保が可能になった

    パーキンソン病モデルマーモセット

    ES、iPS細胞を用いた移植療法遺伝子治療

    新規治療薬の開発(創薬研究との連携)新規治療法の開発

    ALSモデルマーモセット平成20-24年度で作成中

    治療薬候補の効果検証リルテック HGF キサリプロデン メチルコバラミン

    デクスプラミペキソール クルクミン VEGFなど

    新規治療薬の開発(創薬研究との連携)

    治療薬の開発

    遺伝子改変マーモセットモデルを用いた疾患研究の戦略ー変性疾患モデルの前臨床治験への応用ー

    6

  • トランスジェニック・マーモセット個体の作出に成功

    Nature5.28. 2009

    わかば翡翠

    ばん子

    蛍 光

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  • 新しい遺伝子改変技術による研究の加速的展開

    平成20‐24年度 平成25‐29年度

    レンチウイルスを用いたTGマーモセットの作製

    自閉症(レット症候群・結節性硬化症)

    ・ES、iPS細胞技術・人工ヌクレアーゼ(ZFN,TALEN)・精子幹細胞技術

    ノックアウト・ノックイン技術

    世界初のTGマーモセット

    アルツハイマー病

    パーキンソン病ALSモデル

    精神疾患(統合失調症)

    ・ランダムな遺伝子挿入のみ・挿入遺伝子サイズの制限

    ・内在性遺伝子の破壊、改変が可能

    技術革新

    ノックアウト・ノックインモデルの開発

    (霊長類では前人未踏)

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  • Zinc Finger domains bind to target DNA

    Fok I nuclease digest the target DNA

    DNA repair

    Error recovery will occur by Non-Homologous End-Joining(NHEJ)Loss of gene function

    人工ヌクレアーゼ(ZFN, Talen)を用いたレット症候群モデルマーモセットの作製

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  • Can introduce long DNA.

    Large amount of oocytesare needed

    Can produce target geneKnock-out animals.

    ES cells with chimeric animalproduction ability are required.

    Can apply to all stage of embryos.

    DNA size is limited up to 8.5kb.

    DNA 直接注入 ES細胞のBlastocyst への注入

    ES cells

    Blastocystレンチウイルスベクター注入

    トランスジェニックマーモセット作成技術の開発:次の課題

    1~2 年間で達成 2009 年 3〜4年で達成

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  • GFPトランスジェニックマーモセット(Founder: 2(4)匹、F1: 10匹、F2: 2匹)骨髄幹細胞研究

    マイクロキメリズム研究

    パーキンソン病モデル(APKO‐mRFP)トランスジェニックマーモセット(Founder:2匹、F1: 8匹)

    創薬研究

    F1個体を用いたライブイメージング研究(MRI, PET)、理研分子イメージングセンター

    導入遺伝子の神経細胞特異的発現増強Tet‐offトランスジェニックマーモセット(Founder 5匹)

    今秋より繁殖開始

    脳科学研究

    パーキンソン病モデル(APKO‐hKO)トランスジェニックマーモセット( Founder:4匹)

    Founder個体を用いたライブイメージング研究(MRI, PET)、理研分子イメージングセンター

    脳プロ(H20-24年度)で作製したTGマーモセットの有効利用

    今秋より繁殖開始

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  • 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目

    Tet-offマーモセットを用いた解析

    新規TGマーモセット作出(5系統以上)

    ゲノム編集技術を用いた脳科学に有用なKOマーモセット作出

    パーキンソン病モデルAPKO-hKOマーモセットを用いた解析

    TGマーモセット作出技術の低コスト化

    これまでに作出したTGマーモセット系統化

    これまでに作出したTGマーモセットおよび作出技術の普及

    今後5年間のTGマーモセット普及のための計画

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  • TGマーモセットおよび作出技術の開発および普及

    世界初のTG霊長類の系統化に成功脳プロ:平成20-24年度

    平成29年度まで 世界初のTGマーモセットの実用例を提示

    産・学・官を含めた研究領域でのTGマーモセットモデルの使用の拡大

    TGマーモセット作製可能施設拡大基礎生物学研究所群馬大学など

    日本マーモセット研究会を通じた普及

    代謝疾患ノックダウンマーモセット作出他資金

    世界初のノックアウトマーモセット作出他資金代謝疾患免疫不全

    自閉症モデル

    他資金 新規疾患モデルマーモセット作出アルツハイマーモデル

    脳神経発達解析

    製薬企業2社と既にTGマーモセット作製に関する共同研究開始20

  • *(注 )実中研で完成したTG作製技術の技術移転が完了した研究機関。基生研は大学共同利用機関の枠組みで大学等の研究者を支援*(注 )実中研で完成したTG作製技術の技術移転が設備・人材などの面で可能な施設

    *様々な外部資金の獲得を共同して目指す*DからCへの移行をサポートする

    カテゴリーA

    実中研/慶應(1000頭)TG他、発生工学技術

    の基盤、高磁場MRIなど

    自然科学研究機構基生研(100頭)ウィルスベクター

    国立精神・神経医療研究センタ- 神経研究所(300頭)

    放医研(100頭)PET

    神戸理研(150頭)PET

    和光理研(100頭)

    カテゴリーB(中規模施設を保有)

    カテゴリーC(より小規模な施設を保有)

    京大霊長研(150頭)認知行動バッテリー

    群馬大(60頭)

    カテゴリーD(自前の施設を持たないユーザー)

    東北大学(神経感覚器病態学講座

    ・眼科学分野)

    (従来、マウスを主に使ってきた研究者が参入しやすいようにする)

    共同研究TGを作りに行く等・・

    できた個体を持ち帰り繁殖

    通って共同研究

    サンプルを持ち帰り解析

    (放医研、理研和光、浜松医大がBに加わるかは未確認)

    浜松医大(100頭)系統の育種

    カテゴリーE(企業)名古屋市立大

    (24頭)

    大阪大学(マーモセットセンター設立予定)

    広島大(30頭)

    東京大学 医科学研究所

    国立病院機構 東京医療センター

    など多数・・・・・

    日本マーモセット研究会会長:垣生園子

    事務局:実験動物中央研究所

    情報交換・飼育・繁殖技術の共有神経科学だけでなく広く

    バイオメディカル全体をカバーTGには限定しない

    神経科学 免疫学 循環器病学 再生医学 血液病学 創薬

    当面、脳プロ(20‐24年度)で確立した1.GFPマーモセット(移植研究など)

    2.パーキンソン病モデル(2種類)(早期診断、早期治療法の開発)3.Tet‐offマーモセット(ウィルスベクターと組み合わせることで神経系の随所で強力な遺伝子導入の増強)の普及を図る

    まずはこれらの動物の特性を共同研究して徹底的に解析。使用する施設・研究者が増加することで個体の価格の適正化を見込む

    技術供与共同研究

    基盤整備ゲノム情報、BACライブラリー、抗原抗体作製、薬物代謝経路、新しい

    発生工学技術

    前臨床試験

    など多数・・・・・

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  • TGマーモセット普及母体としての実中研の組織体制

    遺伝子改変マーモセット作出研究責任者

    TGマーモセット普及グループ製薬企業などにマーモセット

    ニーズを調査

    新規遺伝子改変(KO/KI/KD)

    マーモセット開発グループ研究者4名技術員5名新技術確立TGマーモセット作出グループ

    フルタイム6名アルバイト3名

    TGマーモセット作出

    基盤技術グループフルタイム6名アルバイト4名

    アカデミアの動物実験サポートマーモセット飼育・管理・動物

    実験技術の提供等

    包括責任者(副所長)

    アカデミアユーザ-・製薬等企業

    アカデミアを中心にTGマーモセット等のニーズを調査

    ユーザーニーズ調査コミッティー

    マーモセットを用いた研究、新たに確立された研究ツール、研究技術等の情報共有

    日本マーモセット研究会

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  • 世界最大規模のマーモセット飼育・研究施設 (飼育頭数:1000頭)欧米ガイドラインに準じた最高水準の飼育運営体制

    マーモセット試料の提供

    技術情報の提供 系統維持飼育の支援

    世界初の霊長類トランスジェニック動物系統の作出に成功

    共同研究実験の実施

    TGマーモセット作製施設

    遺伝子解析設備

    二光子顕微鏡

    MRI 画像診断設備

    共通利用目的の実験空間

    TGマーモセット作製班

    ES/iPS細胞樹立・培養技術

    飼育・実験動物技術員の教育

    動物生命倫理の厳正管理・教育

    共同研究拠点を担う実中研の準備状況

    実験動物中央研究所

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  • 遺伝子改変マーモセット作成拠点と協力機関(案)

    実中研/慶應

    群馬大学

    理化学研究所(BSI)

    広島大学

    浜松医大

    基生研

    理化学研究所(分子イメージング)

    国立精神・神経医療研究センタ-神経研究所

    現在TGマーモセット作出可能な施設

    TGマーモセット作出可能な施設を有する研究所

    実中研が拠点となり、国内の拠点と協力してTGマーモセット作成

    作成したTGマーモセットの繁殖および普及の協力

    既に実中研から技術移転を受けTGマーモセット作出技術を有している機関

    今後のTG作出の要請の増加に伴い、これらの機関でも共同研究TGマーモセットを作出する

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  • 2.複数のTG作出可能機関設立

    1.脳プロ(平成20‐24年度)で作出したTG(遺伝子改変)マーモセットを用いた研究の実績を挙げる

    3.TG繁殖・配布機関設立

    5年後に自立的に機能するための戦略

    4.遺伝子改変マーモセット作出コスト削減

    TGマーモセットの有用性の実証

    5.バイオメディカル全般の遺伝子改変モデルマーモセット作出肥満、糖尿病、免疫不全モデル等の作成は既に開始している

    基生研、広島大学、国立精神・神経医療研究センタ-神経研究所、群馬大学等

    浜松医大、理化学研究所BSI、理化学研究所分子イメージング等

    発生工学技術の効率化、作業効率化、出生率の上昇などによるコスト削減

    6.非遺伝子改変疾患モデル脊髄損傷、心筋梗塞、パーキンソン病モデル等の普及・汎用化

    いずれも既に技術移転済み

    既に100頭を超える飼育および繁殖施設を保有

    免疫寛容モデル等の開発

    新規遺伝子改変技術の確立により新たな難治性疾患モデルの作出を可能にする

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  • TGマーモセット作出の効率化

    外部(自宅や携帯)から監視

    ネットワークカメラPLanex

    CS-WMV04N

    駆けつけ出産

    のべ数駆けつけ回数

    問題なし(親保育)

    問題あり(人工保育)

    「問題あり」のうち生存/死亡

    なし17

    (24匹)-

    12出産数(16匹)

    5出産数(3匹)

    生存2匹死亡5匹

    あり7

    (9匹)7

    3出産数(5匹)

    4出産数(4匹)

    生存4匹死亡0匹

    生まれてきた個体の生存率を上げることで作出効率を上げる

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  • TGマーモセット作出のコストダウン計画

    世界初のGFP‐TGマーモセット

    (2009)

    パーキンソン病モデル(2011)

    コスト

    発生工学技術および作業の効率化

    Founder and F1発生工学技術の効率化および作業の効率化、ノウハウの蓄積などによりGFPマーモセット作出コストの2/3程度まで削減可能

    パーキンソン病モデル(2010)

    Tet‐off (2011)最適な蛍光タンパク質マーカーの選択

    非外科的胚移植法の確立

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  • 遺伝子改変マーモセット技術の新展開

    • 神経精神疾患モデル動物の作成とそれを用いた前臨床研究・創薬研究とその普及

    • 脳科学に役に立つTGマーモセットTet‐Offラインの開発とそれを用いた神経回路遺伝学の実施

    • 人工核酸ヌクレアーゼを用いたノックイン, ノックアウト技術の開発(本年度中)

    • TGマーモセット作出の効率化とコストダウン• TGマーモセット作成技術の普及とuserの爆発的拡大

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