思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 ·...

14
思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールと ICT 機器の活用を通して- 福岡市教育センター 体育,保健体育科研究室 平成 29 年度 研究報告書 (第 1031 号) G6-02 G6-03 平成 29 年3月に公示された学習指導要領において,主体的・対話的で深 い学びの実現に向けた授業改善の推進が求められている。また,体育・保健 体育科の学習指導においては,思考力・判断力・表現力を育てることについ て課題があると考える。 そこで,本研究では,交流活動における思考ツールと ICT 機器の活用を通 して思考力・判断力・表現力を育てていきたいと考えた。具体的には,器械 運動の学習において児童生徒が思考・判断した内容を文字言語にして表出し やすい思考ツールを活用した。また,デジタルカメラとタブレット PC を活 用し,運動中の実際の動き等を動画や静止画として視聴することで,交流活 動を活発にできた。 その結果,児童生徒は,考えを出し合ったり比べ合ったり高め合ったりす るなど学び合うことができ,思考力・判断力・表現力を育てることができる 学習指導となった。

Upload: others

Post on 15-Jul-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

思考力・判断力・表現力を育てる

器械運動の学習指導

-交流活動における思考ツールと ICT 機器の活用を通して-

福岡市教育センター

体育,保健体育科研究室

平成 29年度

研究報告書

(第 1031号)

G6-02

G6-03

平成 29 年3月に公示された学習指導要領において,主体的・対話的で深

い学びの実現に向けた授業改善の推進が求められている。また,体育・保健

体育科の学習指導においては,思考力・判断力・表現力を育てることについ

て課題があると考える。

そこで,本研究では,交流活動における思考ツールと ICT 機器の活用を通

して思考力・判断力・表現力を育てていきたいと考えた。具体的には,器械

運動の学習において児童生徒が思考・判断した内容を文字言語にして表出し

やすい思考ツールを活用した。また,デジタルカメラとタブレット PC を活

用し,運動中の実際の動き等を動画や静止画として視聴することで,交流活

動を活発にできた。

その結果,児童生徒は,考えを出し合ったり比べ合ったり高め合ったりす

るなど学び合うことができ,思考力・判断力・表現力を育てることができる

学習指導となった。

Page 2: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-2

Page 3: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-3

1 主題について

(1) 主題設定の理由

① 今日的な教育の動向

中央教育審議会答申においては,汎用的な能力の育成を重視する世界的な潮流を踏まえつつ,知

識及び技能と思考力,判断力,表現力等をバランスよく育成してきた我が国の学校教育の蓄積を生

かしていくことが重要とされた。それを受けて,平成 29 年3月に公示された新学習指導要領にお

いては,知・徳・体にわたる「生きる力」を子どもたちに育むために「何のために学ぶのか」とい

う各教科等を学ぶ意義を共有しながら,授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していく

ことができるようにするため,全ての教科等の目標及び内容を「知識及び技能」,「思考力,判断

力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で整理され,「育成を目指す資質・能

力」として示されている。そして,これらの資質・能力の育成に向けては,主体的・対話的で深い

学びの実現に向けた授業改善を推進することが求められている。

② 学習指導と学習評価の課題

文部科学省の委託調査により実施された「学習

指導と学習評価に対する意識調査」では,体育・

保健体育科の学習指導において,「思考力・判断

力・表現力をはぐくむための『知識及び技能の活

用を図る学習活動』や『言語活動』の授業内容や

指導の方法が具体的にイメージできるかどうか」

の質問では,授業内容や指導の方法について約4

割の教員が「イメージできない」または「どちら

かというとイメージできない」と答えている(図

-1)。さらに,「観点別学習状況の評価を円滑

に実施できているか」の問いに対し,小学校の教

員では,「関心・意欲・態度」に関する評価に次

いで「思考・判断」に関する評価が難しく,中学

校・高校の教員では「思考・判断」に関する評価が4観点の中では最も難しいと感じている。

(2) 主題及び副主題の意味 ① 思考力・判断力・表現力とは

思考力・判断力とは,運動における課題に対して,過去の課題解決の経験,既習の知識や情報,

技能を様々に関係付けて,論理的に考え,自分の力に合った適切な課題を設定したり,課題解決

のための活動を選び工夫したりする力のことである。表現力とは,思考・判断の過程や結果を,

自他に理解できる文字や音声として言語化したり,実際に体を動かして動作化したりして,他者

に伝える力のことである。思考力・判断力・表現力を育てることができれば,運動における課題

を解決し,学習意欲を高めながら学習を進めていくことができると考える。

② 交流活動とは

文字言語や音声言語を用いて,お互いの考え(思考・判断した内容)や既習の知識や情報を出

し合い,それらを整理したり分析したりすることを目的に行う活動のことである。

運動における課題について,同じ課題をもつ同質グループや異なる課題をもつ異質グループを

編成し,自己分析や他者分析の視点を取り入れながら進めていくものとする。

③ 思考ツールを活用するとは

思考ツールとは,児童生徒が,運動における課題に対して思考・判断した内容や既習の知識,

交流活動で獲得することができた新たな知識を,文字言語にして書き表すための枠組みのことで

ある。

思考ツールを活用するとは,頭の中にある思考・判断した内容や既習の知識や情報を視覚的に

とらえたり(可視化),整理・分析といった操作をしたり(操作化)して,課題に気付いたり,課

題を解決するための活動や練習の場を選んだり,運動の行い方を工夫したりすることである。

④ ICT 機器を活用するとは

図-1 教員の意識調査結果

体-1

Page 4: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-4

ICT とは,(Information【情報】and Communication【通信】Technology【技術】)の略語であ

り,本研究においては,デジタルカメラとタブレット PC,ノート型パソコンを用いることとする。

ICT 機器を活用するとは,実際の運動場面において運動中の体の使い方や技の出来映えを動画や

静止画として記録し,交流活動の中で,ICT 機器のもつよさを生かしながら自己分析や他者分析の

視点で視聴することである。

2 研究の目標

交流活動における思考ツールと ICT 機器の活用を通して,思考力・判断力・表現力を育てる器械運動

の学習指導の在り方を明らかにする。

3 研究の仮説

器械運動の学習で,交流活動において,思考ツールと ICT 機器を活用することができれば,児童生徒

の思考力・判断力・表現力を育てることができるであろう。

4 研究の構想

(1) 器械運動の学習で育てていきたい思考力・判断力・表現力

本研究では,器械運動の学習を通して児童生徒の思考力・判断力・表現力を育てていくことを目標

としている。育てていきたい思考力・判断力・表現力については,表-1のように整理し,それらが身

に付いた具体的な児童生徒の姿は,各実践における評価規準で示すこととする。

(2) 思考力・判断力・表現力を育てるための手だて ① 交流活動の設定

交流活動については,器械運動の課題解決場面において,「分析タイム」という名称で,運動量の

保障を踏まえながら,一単位時間の中に位置付けていく。ここでは,交流を行うこと自体が目的で

はなく個人や集団の課題解決を図りながら,思考力・判断力・表現力を育てるための手だてとして

行う。

「分析タイム①」は,実際に動いたり練習したりしながら音声言語を中心として交流する。「分析

タイム②」では,文字言語と音声言語を用いて学習の振り返りを行う。分析タイムでは,自分の動

きを分析する「自己分析」と他者の動きを分析する「他者分析」の視点で交流を行っていく。交流

活動の有効性については,学習中の児童生徒の姿や思考ツールに表出された文字言語の記述内容や

事前と事後のアンケート比較を基に検証する。

② 思考ツールの活用

児童生徒が思考・判断した内容や既習の知識等を,文字言語にして表出しやすい枠組みを各学年

の実践において作成し,交流活動「分析タイム②」の中で活用させていく。「分析タイム②」にお

いては,運動における課題に対して思考・判断した内容や,「分析タイム①」を通して新たに他者

から得られた知識(課題解決のために有効な運動のコツ等)や自分自身が気付いたことを,整理・

分析しながら文字言語で書き表していくこととする。思考ツールの有効性については,思考ツール

に書き表された記述内容や事前・事後の意識調査の比較を基に検証する。

表-1 育てていきたい思考力・判断力・表現力

体育科(小学校高学年) 保健体育科(中学校)

・自他の能力に適した課題に気付く力

・自他の課題を解決するための活動や練習の場を選ん

だり,運動の行い方を工夫したりする力

・思考・判断した内容を,文字や音声,動作で他者に

伝える力

・自他の課題に応じた運動の行い方の改善すべきポイン

トを見付ける力

・運動実践の場面で,自他の課題に応じて,適切な練習

方法を選ぶ力

・状況に応じた自己や仲間(他者)の役割を見付ける力

・話し合いの場面で,合意を形成するための適切な関わ

り方を見付ける力

・思考・判断した内容を,根拠を示しながら他者に伝え

る力

体-2

Page 5: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-5

③ ICT 機器の活用

ICT 機器の活用にあたっては,その「よさ」が四つあると考え(表-2),運動場面において

演技中の体の使い方や技の出来映えを動画や静止画として記録したり,交流活動の中で,自分や

友達の動きを確かめたりする場面において児童生徒が自由に使えるようにする。

使用させるにあたっては,目的意識をもたせたり,使用する場を設定したりするなどして,思考

力・判断力・表現力を高めるための手だてとしての ICT 機器の有効性について検証する。

(3) 過程

単元のスタートの場面では,「あこがれ」(こうなりたい)や「違和感」(どうしてうまくいかないの

かな…),「必要感」(何とかしたいな)を感じることができるようにし,それらを基に,児童生徒が「や

ってみたい」,「がんばろう」と思えるような「単元を貫く学習課題」を設定すると共に,学習の過程

への見通し(プロセスイメージ)や学習の見通し(ゴールイメージ)をもつことができるように掲示

資料や映像(動画)等を用いる。

毎時間の学習においては,「導入」→「展開」→「まとめ」という過程を経て,学習を進める。

「導入」の場面では,本時のめあて,できるようになりたい技やそのために解決すべき課題を個人

やグループで確認する。「展開」の場面では,分析タイム①を位置付け,個人や集団の課題を解決する

ために活動を行う。「できた」,「上手になった」という達成感や「教えてもらったから分かった」,「一

緒にやったからできた」という一体感を味わえるような教え合う学習活動を展開する。

「まとめ」の場面では,分析タイム②を位置付け,思考ツールを活用した文字言語と音声言語によ

る交流活動を行い,本時の学習を振り返る。学習を通して,何ができるようになったのかを明らかに

することで,児童生徒が手応え(充実感,自己有能感)を味わい,次時の学習への意欲をもつことが

できるようにする。

5 研究構想図

表-2 ICT 機器の「よさ」

①再現性 動きを撮影し,くり返し再現することができる。

②保存性 撮影した動きを,保存しておくことができる。

③即時性 今行った動きを,すぐに見て,振り返ることができる。

④柔軟性 動きを止めたり,スローモーションにしたり,拡大・縮小したりすることができる。

図-2 研究構想図

体-3

(文字言語・音声言語)

Page 6: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-6

6 研究の実際と考察

(1) 小学校第6学年「マット運動」 指導の実際

① 研究の実際

思考力・判断力・表現力を育てるために,思考ツールと ICT 機器を活用した交流活動を設定した。

指導の実際を資料-1に示す。

資料-1 交流活動の内容と指導の実際

ア 思考力・判断力・表現力を必要とする単元を貫く学習課題の設定

イ 交流活動の設定

〇一単位時間における分析タイム(交流活動)の位置付け

ウ 分析タイム②における思考ツールの活用 エ 分析タイムにおけるICT機器の活用の様子

オ 思考力・判断力・表現力の評価規準

オ 思考力・判断力・表現力の評価基準

学習活動 活動の内容 交流活動のねらい 活用

課題や練習方法

の確認 自分・グループの課題を確認する

技の練習

分析タイム①

グループで技を見合い,教え合い

ながら練習をする

課題に気付いたり,気付いたことを友達にアド

バイスしたりできるようにする

ICT

分析タイム② 技の完成度を振り返り,新たな課

題や練習方法を見付ける

技の完成度を振り返ることで,新たな課題を見

付けたり,次時の練習方法を工夫したり,友達

にアドバイスしたりできるようにする

思考

ツール

ICT

全体交流 分析タイムで出た内容を学級全

体に伝える

第1時

技の習熟度調査に

おける自己評価

第2時

お手本動画と自分の動

きの比較

できる技を増やしたい

学習課題

分析名人!技のコツをつかんで,組

み合わせ技を完成させよう!

分析タイム②

前時と本時の

動画を見比べな

がら,できたこ

とや課題を確認

する。

分析タイム①

撮った動画を

すぐに見て,お

互いにアドバイ

スをしながら練

習する。

A ・自分や他者の技ができない原因に気付くこ

とができる。

・提示された練習の場を自分に合わせて作り

変えたり,自分の技の習得状況に合わせて

練習方法を変えたりしている。

・B 評価に加え,身振り手振りなどを使って

分かりやすく伝えることができる。

B ・技の動きの中で,自分のできていないと

ころに気付くことができる。

・提示された練習の場から,自分に合った場

を選択している。

・練習を通して見付けた技のコツや練習方法

を言葉で伝えることができる。

C ・B評価に達していない。

分析タイム②で,思考ツールを活用した交流活動

を仕組むことで,見付けたコツや新たな課題を整理

することができ,児童の思考力・判断力・表現力を育

てることにつながる。また,思考ツールがあることで

教師の見取りができる。

①技の完成度を振り返る。

自分の今の完成度を振り返りシールを貼る。

②完成度の根拠を書く。

なぜそこにシールを貼ったのか,課題は下の段

に,見付けたコツやできるようになったことは,

上の段に書く。

③練習した内容に印を付けたり,図化したりする。

その時間練習した内容に〇を付けたり,次時へ向

けて自分で考えた練習方法を書いたりする。

違和感 必要感

あこがれ

体-4

Page 7: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-7

② 考察

○ 資料-2は,抽出児童Aの思考ツールの記述である。課題に

応じて練習の場をつくり,見付けたコツができるようになった

ら日付を記入して,その日の完成度を振り返ることができてい

る。さらに新たな課題を見付けて次時の練習を考えるという課

題解決を繰り返しながら完成度を高めていったことが分かる。

事前に行った意識調査では,「課題が分からない」と答えていた

が,事後の意識調査では「よく分かる」と答えていた。分析タ

イム①を通して思考したことを,分析タイム②で思考ツールに

表出し,思考したことを整理する中で,次時に練習をするポイ

ントが分かり,課題の解決につながったと考えられる。

○ 思考力・判断力・表現力の評価規準を作成し,思考ツールの

記述や教師の見取りで評価を行った結果(図-3),1学期「走

り高跳び」では,A 評価が 20%であったのに対し,2学期に行

ったマット運動では,33%となった。また,C 評価は,

13%から 7%となっており,本単元において児童の思

考力・判断力・表現力が高まっていることが分かる。

また,事前・事後の意識調査(表-3)を比較すると,

どの項目も「よくできた・できた」と答えた児童が学

級の約 90%まで高まっている。特に,「考えたことを

友だちに伝える」ことに関しては,25%の上昇が見ら

れた。ICT 機器を活用することで,自分の動きを客観的

に見ることができ,言葉で伝えづらかったアドバイスもお

互いに映像を見合うことで伝えやすくなったからだと考

えられる。お手本の動画と自分や友だちの映像を比較して

見ることで,課題やコツを見付けやすくなり,自他の課題

に気付き,伝え合うことができるようになったと考える。

○ 「自分の課題に気付く」,「課題に応じた練習」,「考えた

ことを伝え合う」ことに関して有効だったと感じる手だて

としては,「自分の映像」で学級の 80%以上の児童が有効

だと答えている(図-4)。次に多かったのが「友だちと

の教え合い」ということから,ICT 機器を活用することで,

自らの課題やそれに応じた練習方法に気付くことができ

るようになり,児童同士の教え合いが活発になったことが

推測される。思考力・判断力・表現力を育てるためにタブ

レット等の ICT 機器を活用したことが児童にとって有効

であったと考えられる。また,思考ツールに関しては,思

考したことを整理し,交流活動の時にお互いが見付けた

「コツ」を共有するツールとして活用する姿が見られた。

○ タブレットの使用方法に関しては,「行った動きをすぐ

見てふりかえる」ことに使っていた児童が多く(図-

5),タブレットの即時性が思考力・判断力・表現力を

育てるために最も有効であった。

以上のような結果から,交流活動において思考ツール

と ICT 機器を活用したことが,児童の思考力・判断力・

表現力を育てるために有効であったと考える。

図-3 評価 ABC の児童数の割合

資料-2 抽出児童 A の記述

体-5

表-3 事前・事後の意識調査結果

課題に気付く

課題を基に

考えたことを

友達に伝える

図-4 児童が有効だと感じた手だて

課題に気付く

図-5 タブレットの使用方法

振り返る

Page 8: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-8

ア 思考力・判断力・表現力を必要とする単元を貫く学習課題の設定

イ 交流活動の設定

○一単位時間における分析タイム(交流活動)の位置付け

ウ 分析タイム②における思考ツ-ルの活用 エ 分析タイムにおける ICT 機器の活用の様子

(2) 小学校第5学年「マット運動」 指導の実際

① 研究の実際

思考力・判断力・表現力を育てるために,思考ツールと ICT 機器を活用した交流活動を設定した。

指導の実際を資料-3に示す。

資料-3 交流活動の内容と指導の実際

①技の完成度を振り返る。

自分の今の完成度を振り返り,シ-ルを貼る。

②完成度の根拠となる課題やできたこと,見付けた

コツを書く。

課題は下の欄に,見付けたコツは上の欄に書く。

③練習した内容に印を付けたり,図化したりする。

その時間練習した内容に○を付けたり,次時へ向

けて自分で考えた練習方法を描いたりする。

分析タイム①

撮った動画を一

時停止したり,くり

返し確認したりし

て,コツや課題を見

付ける。

学習活動 活動の内容 ねらい 活用

課題や練習

方法の確認

自分・グル-プの課題を確

認する

分析タイム

グル-プで技を見合い,教

え合いながら練習をする

課題に気付いたり,気付いたことを友達にアドバ

イスしたりすることができるようにする ICT

分析タイム

技の完成度を振り返り,新

たな課題や練習方法を見付

ける

技の完成度を振り返ることで,新たな課題を見付

けたり,次時の練習方法を工夫したり,友達にアド

バイスしたりすることができるようにする

思考ツ-ル

ICT

全体交流 分析タイムで出た内容を学

級全体に伝える

オ 思考力・判断力・表現力の評価規準

A ・自分や他者の技ができない原因に気付くことが

できる。

・提示された練習の場を自分に合わせて作り変え

たり、自分の技の習得状況に合わせて練習方法

を変えたりしている。

・B 評価に加え,身振り手振りなどを使って分かり

やすく伝えることができる。

B ・技の動きの中で,自分のできていないところに気

付くことができる。

・提示された練習の場から,自分に合った場を選択

している。

・練習を通して見付けた技のコツや練習方法を言

葉で伝えることができる。

C ・B 評価に達していない。

分析タイム②で,思考ツ-ルを活用した交流

活動を仕組むことで,思考力・判断力・表現力

を育てることにつながる。また,思考ツ-ルが

あることで,教師の見取りができる。

第1時

技の習熟度調査

(自己評価)

第2時

組み合わせ技を考える

お手本動画と自分の動

きの比較をする

学習課題

決め手は分析力!今できる技を生

かしたり新しい技に挑戦したりし

て組み合わせ技を決めよう。

分析タイム②

今の完成度を動画

で確認したり,課題

解決の方法を共に考

えたりする。

必要感

あこがれ 違和感

体-6

Page 9: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-9

② 考察

○ 資料-4は抽出児童 A の思考ツールの記述である。

分析タイム①で,手本となる動画を見て技のポイント

を話し合い,話し合いで見付けた自身の課題やコツを

基に,場を選択して練習した。その後,分析タイム②で

は,分析タイム①で思考したり友達からアドバイスを

受けたりした内容を思考ツールに記入した。思考ツー

ルの記述から,その日の完成度を振り返り,そしてさら

に新たな課題を見付け次時の練習を考えたと分かる。

分析タイム①では,思考・判断したことが音声言語や動

きとして表出し,分析タイム②で思考ツールに文字言

語化する活動を通して,思考・判断したことが整理さ

れ,課題解決につながったと考える。

○ 思考力・判断力・表現力の評価規準

を作成し,評価規準を基に思考ツール

の記述や教師の見取りで評価を行った

結果,図-6のように1学期は A 評価

が 23%であったのに対し2学期マット

運動の評価では 33%となった。また,

C 評価は 10%から7%となっており,

思考力・判断力・表現力が高まったと言える。事後

の意識調査(表-4)の結果,授業前に比べて授業

後の数値がどの項目もよくできた・できたと答えた

児童が増えた。特に課題に気付くことに関しては

100%の児童がよくできた・できたと回答しており,

児童自身も自分の力の伸びを実感している。これら

のことから,思考力・判断力・表現力が育てること

ができたと考える。

○ 「自分の課題に気付く」,「技の上達」,「考えたこ

とを伝え合う」ことに関して有効だったと感じる手だて

としては,「自分の技の映像」,「お手本動画」と回答した

児童が多い(図-7)。「自分の課題に気付く」ことに「自

分の技の映像」が有効であったと答えた児童は 90%を超

えている。「自分の技の映像」,「お手本動画」のどちらも

タブレットを使用した活動であり,児童は ICT の活用が

有効だったと感じていることが分かる。

○ タブレットの使用方法については「今行った動きをす

ぐに見て,振り返るのに使った」と答えている児童が最

も多く,タブレットの即時性を活用している。また,約

半数の児童はタブレットの再現性や柔軟性も活用して

いる(図-8)。

タブレットの即時性・再現性・柔軟性を活用して,自

他の動きを確認する活動が運動の課題把握につながっ

たと考える。

以上のような結果から,思考ツールと ICT 機器を活用

した交流活動を設定することは,思考力・判断力・表現力

を育てるために有効であったと考える。

資料-4 抽出児童 A の記述

図-6 評価 ABC の割合

体-7

表-4 事前・事後の意識調査

課題に気付く

課題を基に

考えたことを

友達に伝える

図-7 児童が有効と感じた手だて

課題に気付く

図-8 タブレットの使用方法

振り返る

Page 10: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-10

(3) 中学校第2学年「マット運動」 指導の実際

① 研究の実際

思考力・判断力・表現力を育てるために,思考ツールと ICT 機器を活用した交流活動を設定した。

指導の実際を資料-5に示す。

資料-5 交流活動の内容と指導の実際

22

ア 思考力・判断力・表現力を必要とする単元を貫く学習課題の設定

イ 交流活動の設定

○一単位時間における分析タイム(交流活動)の位置付け

ウ 分析タイム②における思考ツ-ルの活用 エ 分析タイムにおける ICT 機器の活用の様子

オ 思考力・判断力・表現力の評価規準

学習活動 活動の内容 ねらい 活用

課題や練習

方法の確認

ペアで課題を確認する 思考ツ-ル

分析タイム

ペアで技を見合ったり,

教え合ったりしながら

練習をする

課題に気付いたり,気付いたことを友達にアドバイスし

たりすることができるようにする

ICT

分析タイム

ペアの技の完成度,でき

ている部分,新たな課題

や練習方法を見付ける

ペアの技の完成度を振り返り,できている部分と新たな

課題を見付けたり,課題解決のためのオリジナル練習方

法を考え,友達にアドバイスしたりできるようにする

思考ツ-ル

ICT

全体交流 分析タイムで出た内容

を学級全体に伝える

思考ツ-ル

第1~2時

前学年の振り返り

新しい技に挑戦

第3時

集団演技の構成

を考える

学習課題

お互い分析したことを伝え合い,

個人技能を高めよう!

A ・他者の課題を基に自分の課題を発見すること

ができる。

・自他の課題に応じた合理的な解決に向けて,練

習方法を工夫して行うことができる。

・自分の考えたことや気付いたことを,タブレッ

トや実技の教科書を使用しながら伝えること

ができる。また,技のコツなどを含め分析をし

て,分かりやすくアドバイスができる。

B

・他者の課題を発見することができる。

・課題解決に向けて,練習の仕方を考え工夫して

いる。

・自分の考えたことや気付いたこと,技のコツな

どを他者に伝えることができる。

C ・B 評価に達していない。

分析タイム②で,思考ツ-ルを活用した交流

活動を仕組むことで,思考力・判断力・表現力

を育てることにつながる。また,思考ツ-ルが

あることで,教師の見取りができる。

違和感

あこがれ

①ペアの技の完成度を振り返る。

ペアの技の完成度を 10段階で評価する。

②ペアの技に対してできていた部分を記入する。

③ペアの技に対して課題点を記入する。

④オリジナルの練習方法を考え記入する。

ペアの課題解決のための練習方法を考え,言葉

やイラストなどで表現する。

必要感

分析タイム②

今の完成度を動画

で確認したり,友達

のアドバイスの根拠

にしたりする。

分析タイム①

撮った動画を一時

停止したり,くり返し

確認したりして,アド

バイスをする。

体-8

Page 11: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-11

② 考察

○ 資料-6は,抽出生徒 A とペアを組んだ相手の思考ツール

の記述である。前時の思考ツールをペアで確認し,個人練習

と集団演技の中の個人技能を見て,ペア(他者)を分析した。

取り組んでいる技のできている部分と課題の部分が明確に記

入されている。さらに,できている部分の記入においては,

跳び前転のコツがすべて盛り込まれた分析となっていた。ま

た,上手になる練習方法を生徒 A の目線に立って考え,アド

バイスを行い,技能を高めるために練習を工夫したことが分

かる。学習課題である「お互い分析したことを伝え合う」と

いう思考力・判断力・表現力につながる視点から,分析タイ

ム①では ICT 機器を活用しながら思考・判断し,音声言語に

よって伝え合うことができた。また,分析タイム②では,伝

え合ったことも含め,思考・判断したことが整理され文字言

語やイラストとして表現され,課題解決につながったと考え

る。

○ 思考力・判断力・表現力について作成した評価規準,思考

ツールの記述内容と教師の見取りで評価を行った。その結果,

1学期末評価の A 評価は 14%であったのに対し,2学期マット運

動の評価では 39%となり 25%増えた。また,C 評価は 1学期末評

価が 44%に対して2学期マット運動の評価では 17%と 27%減少し

た。よって,思考力・判断力・表現力は育ったと言える(図-9)。

また,思考力・判断力・表現力に関する事前事後の意識調査(表-

5)の結果,「課題に気付く」「課題を基に練習方法を選ぶ」の項

目では,全生徒が「できた」と回答している。3項目すべてで,思

考力・判断力・表現力の伸びを生徒自身が実感することができてい

る。ICT 機器を活用したことで,他者(ペア)の動きを詳しく分析

することができ,さらに思考ツールを活用することで,ペアに課題

や課題解決の方法を伝えることができ思考力・判断力・表現力が育

ったと考える。

○ 生徒が「課題に気付く」,「技の上達」,「考えたことを伝え合う」

ことに関して有効だったと感じているものとして,「技の映像」や

「友達との教え合い」と回答した生徒が多い(図-10)。それは ICT

機器を活用したことで,細かい分析が行われ映像を基に伝えやすく

なったたからである。また,分析タイム②で思考・判断したことを

思考ツールに記述することで,次時の分析タイム①につながり,そ

れによって友達との教え合いが活発になった。タブレットの使い方

では,今行った動きをすぐに見て振り返りに使ったのが 75%,動き

を止めたり,コマ送りにしたり,拡大や縮小したりして使ったのが

61%と半数を超えている(図-11)。タブレットの再現性,柔軟性を

活用し動きを細かく確認する活動が課題把握につながり,交流活動

が活発になった。この結果から,思考力・判断力・表現力を育成す

るためにタブレット等の ICT 機器の活用は有効である。それらを

使用しての教え合いは技能向上にもつながると言えるだろう。

生徒たちの感想では「友達との会話が増えた」「笑顔が増えた」「人を傷つける言葉がなかった」

「集団演技作成は楽しい」「来年のマット運動が楽しみ」などのプラスの意見が多かった。

以上のような結果から,思考ツールと ICT 機器を活用した交流活動を設定することは,思考力・判

断力・表現力を育成するために有効であったと考える。

資料-6 抽出生徒 A の分析を行ったペアの記述

図-9 評価 ABC の割合

39%

体-9

表-5 事前・事後の意識調査

図-10 生徒が有効と感じた手だて

課題に気付く

図-11 タブレットの使用方法

Page 12: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-12

7 研究のまとめ

(1) 研究の成果

① 交流活動について

交流活動については,実際に動いて練習しながら音声言語を中心として交流する「分析タイム①」,

文字言語・音声言語で学習の振り返りを行う「分析タイム②」を一単位時間に位置付けた。「分析」

とは,児童生徒が課題解決場面において「思考力・判断力・表現力」を働かせることであり,この

言葉を提示することで,交流活動における児童生徒の「めざす姿」を伝えることができた。

児童生徒は,「分析タイム①」では音声言語を中心に交流することで,技の課題や上達が見られる

部分など,お互いに気付いたことをアドバイスすることができ,運動量を保障することにもつなが

った。「分析タイム②」では,「分析タイム①」での交流内容や,各自が学習中に思考・判断した内

容が運動(技)のポイントを表現する文字言語として思考ツールに表すことができていた。「分析タ

イム①→分析タイム②」という学習の展開が効果的に作用し,児童生徒の思考力・判断力・表現力

を育てることができたと考える(図-3,6,9)。

② 思考ツールの活用

思考ツールについては,「分析タイム②」の中で活

用していった。「分析タイム②」では,「分析タイム①」

の活動を通して,自分自身が思考・判断した内容や友

達からのアドバイス等,音声言語で行われた交流の中

身を思考ツールに整理しながら,自分にとって分かり

やすい言葉に置き換え,文字言語として表出させるこ

とができていた(図-12)。表出された文字言語には,

運動(技)のコツを表現する言葉が多数記述されてい

て,それを基に,次時の課題を明確にすることができ

たり,課題を解決するための練習方法を選んだりする

ことができていた。さらに,分析タイム②や全体交流

では,思考ツールの中に文字言語が書かれていること

で,それらを基にしながら,一人一人が自分の思考・

判断したことを言葉で伝えたり,根拠を示しながら伝

えたりすることもできていた。

③ ICT 機器の活用

ICT 機器,特に今回活用したタブレット PC やデジ

タルカメラは,小学校高学年や中学校の児童生徒は,

普段から使い慣れており,操作面で困っている様子は

ほとんど見られなかった。児童生徒は主に再現性,即

時性,柔軟性を生かして活用をしていた(図-5,8,

11)。事後の意識調査では,課題に気付いたり,技が

上達したり,友達にアドバイスをしたりするときのい

ずれの場面においても,児童生徒は「自分の技の映像」

が有効であったと答えている(図-4,7,10)。運動をしている際,演技中の体の使い方や技の出

来映えを客観的にとらえたり,想像したりすることは難しい。ICT 機器を活用することで,その点

が解決され,実際の動きを見ながら技の出来映えを確かめたり,他者(ペア)にアドバスをしたり

する際の根拠にしたりすることができたためだと考える。

(2) 研究の課題

① 分析タイム①においても,必要に応じて思考ツールを活用することで,課題解決のための資料と

して使ったり,新たに得られた課題解決のために有効なコツやその場ですぐに文字言語に書き込ん

だりすることができる。それによって,課題解決が促されたり,分析タイム②での交流に生かした

りすることができたのではないかと考える。

② ICT 機器を「使用する場所」を設定したことで,同じ角度・向きの動画・静止画が撮影されるこ

とになった。各自の課題に応じて撮影する場所を変えて,角度や向きを工夫することの意義を理解

させて使用させることで,さらなる活用効果があると考える。

図-12 単元終了時の思考ツールの記述

体-10

Page 13: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-13

③ 三つの実践において,思考力・判断力・表現力が「C」と評価された児童生徒がいた。それは,自

分で思考・判断した内容や他者からのアドバイスによって得られた新たな知識,ICT 機器に残され

た静止画面や動画など,多様な情報があり過ぎて,その結果,それらを整理・分析することができ

なかったことが一因と考える。

実態に応じて,手だてをスモールステップで提供したり,思考ツールの枠組みを工夫したりする

ことが必要と考える。

8 研究の意義と課題 (研究指導員 相部保美)

体育・保健体育科の今日的な関心事は,平成 29年3月 31日に公示された小学校学習指導要領の考え

方に基づく授業をどのように進めていくのかという点にあると思う。

改訂された小学校学習指導要領(平成 29年3月 31日公示)では,子どもたちが,学習した内容を人

生や社会の在り方と結び付けて深く理解し,これからの時代に求められる資質・能力を身に付け,生涯

にわたって能動的に学び続けることができるようにするために,主体的・対話的で深い学びの実現に向

けた授業改善の推進を求めており,授業改善の視点として,「運動の楽しさや健康の意義等を見付け,運

動や健康についての興味や関心を高め,課題の解決に向けて粘り強く自ら取り組み,それを考察すると

ともに学習を振り返り,課題を修正したり新たな課題を設定したりするなどの主体的な学びを促すこと」

「運動や健康についての課題の解決に向けて,児童が他者(書物等を含む)との対話を通して,自己の思

考を広げたり深めたりし,課題の解決を目指して,協働的な学習に取り組むなどの対話的な学びを促す

こと」「それらの学びの過程を通して,自己の運動や健康についての課題を見付け,解決に向けて思考錯

誤を重ねながら,思考を深め,よりよく解決するための深い学びを促すこと。」「三つの学びの過程をそ

れぞれ独立して取り上げるのではなく,相互に関連を図り,学びを一層充実させ,体育科で求められる

資質・能力を育んだり,体育や保健の見方・考え方が更に豊かなものにしたりすることにつなげること」

を示し,体育科の授業改善への取組を促している。

これまでの体育科は,心と体を一体としてとらえ,自己の運動や健康についての課題解決に向け,積

極的・自主的・主体的に学習することや仲間と対話し協力して課題を解決する学習等を重視してきた。

これからの体育科では,これまでの学習指導を引き続き重視しながらも,体育科で育成すべき「知識及

び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の三つの資質・能力を確実に身

に付けるために,スポーツとの多様な関わりを楽しむことができるようにする観点から,運動に対する

興味や関心を高め,技能の指導に偏ることなく,「する,みる,支える」に「知る」を加え,三つの資質・

能力をバランスよく育むことができる学習過程を工夫し,充実を図ることが必要である。また,粘り強

く意欲的に課題の解決に取り組むと共に,自らの学習活動を振り返りつつ,仲間と共に課題を解決し,

次の学びにつなげる主体的・協働的な学習過程を工夫し,充実を図ることも必要である。

今回の実践研究では,新学習指導要領で求められている授業改善の視点を取り入れ,子ども自身で思

考を深めていく学びに向けて,他者との対話を通して,自己の課題をより明確にし,その解決に向けた

取組ができるように開発された思考ツールやそれと関連させた ICT 機器の活用による学習活動を組み

込んだ授業を構想し,実践を行っている。

新学習指導要領で求めている「主体的・対話的で深い学びの実現」に向けた授業改善については,指

導方法を工夫して必要な知識及び技能の習得を図りながら,子どもたちの思考を深めるために子ども相

互の発言を促したり,気付いていない視点を提示したりするなど,学びに必要な指導の在り方を追究す

ると共に,必要な学習環境を積極的に設定していくことが大切である。それにより,着実な学習内容の

習得を促す学びや主体的・能動的な活用・探究の学びを生み出していくことが大切である。

今回の実践研究は思考ツールや ICT 機器による教材や学習環境の充実を図ることにより,子どもと

子どもの相互作用活動を活発にし,子どもたちが主体的に課題解決を図る学びの姿を実践結果から見る

ことができ,新学習指導要領が求める「主体的・対話的で深い学びの実現」を図る授業を考える上で,

示唆に富む実践研究になっていると思う。

体-11

Page 14: 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 · 思考力・判断力・表現力を育てる 器械運動の学習指導 -交流活動における思考ツールとict

体-14

参考文献・参考資料

1 中央教育審議会答申 幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改

善及び必要な方策等について 文部科学省ホームページ (平成 28年)

2 財団法人日本システム研究所 学習指導と学習評価に対する意識調査報告書 (平成 22年)

3 田村学 新しい学習指導要領において期待される学び 独立行政法人教職員支援機構 NITS

(平成 29年)

4 田村学 思考ツール関大初等部式思考力育成法実践編 (平成 25年)

5 黒上晴夫・小島亜華里・泰山裕 シンキングツール~考えることを教えたい NPO法人学習創造フォーラム

(平成 24年)

6 戸田克 新学習指導要領対応マット運動の指導法 小学館 (平成 22年)

7 渡邊洋二 2016中学体育実技福岡県版 学研教育未来 (平成28年)

8 文部科学省 小学校学習指導要領解説体育編 東洋館 (平成 20年)

9 文部科学省 中学校学習指導要領解説保健体育編 東山書房 (平成 20年)

10 文部科学省 小学校学習指導要領 文部科学省ホームページ (平成 29年)

11 文部科学省 小学校学習指導要領解説 体育編 文部科学省ホームページ (平成 29年)

12 文部科学省 中学校学習指導要領 文部科学省ホームページより (平成 29年)

13 文部科学省 中学校学習指導要領解説 保健体育編 文部科学省ホームページ (平成 29年)

研究指導員

相部 保美 (福岡教育大学 教授)

非常勤研修員

岡村 聡広 (草ヶ江小学校 教諭) 下田 真理 (月隈小学校 教諭)

村川 真悟 (室見小学校 教諭) 満園 和樹 (別府小学校 教諭)

清水 隆一 (多々良中学校 教諭) 坪根 一美 (席田中学校 教諭)

担当主事

波多江 貴志 (研修・研究課 係長)

原 和宏 (研修・研究課 主任指導主事)

仁保 哲二 (研修・研究課 指導主事)

体-12