品質・技術・研究開発 - 太平洋セメント ·...

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社会との取り組み 〜お客様とともに〜 品質方針 ユーザーニーズに即した品質設計を追求し、 品質保証を確実に行い、顧客満足度の向上を図る。 当社は1998年の太平洋セメント発足時に経営方 針に基づいて品質方針を定め、この品質方針を組織 の全体に周知するよう取り組んでいます。品質方針 を実現するため、従業員一人ひとりが品質方針に基 づいた活動を行なうことで、確かな技術と品質保証体 制を確立して高品質な製品・サービスを提供し、お客 様に信頼され、期待される企業であり続けるよう努め ています。 当社は100年以上にわたるセメント製品の製造によって培ってきた製造・品質管理技術により、製品に対する 安全・安心を保証する取り組みを推進しています。品質保証に取り組む姿勢を明らかにした品質方針のもと、 業界トップクラスの品質を維持し、国内外の市場における当社ブランドの信頼に応えるべく、システムおよび 製品の継続的な改善を行なっています。 品質・技術・研究開発 品質方針 昨今、あらゆる製品に対し安 全・安心が求められてお り、社会基盤整備に欠かせない建設材料であるセメン トについてもその例外ではありません。 セメント業 界では、天 然 資 源の代 替として古くより高 炉スラグ、石炭 灰、副産石膏などの産業 系 廃棄 物・副産 物を活用しています。さらに当社では都市ごみセメント 資源化システムの技術開発による生活系廃棄物のほ か、建設発生土、建設廃材などのセメント資源化を実 施しています。廃棄 物をセメント工場に受け入れるにあ たっては、廃棄 物の搬 入・一時保管は密閉型のトラック や置き場を使用するなど、飛散防止や悪臭防止を図り、 周辺地域や工場内の環境保全に努めています。廃棄物 に限らず天然原料にもクロム、鉛などの重金属類が微 量に含まれていますが、セメント工場では廃棄 物の受け 入れ量増加に対応して微量成分の管理強化を行なって います。新規の廃棄物の受け入れにあたっては発生元 情報、化学成分、試験使用結果に基づく三段階の検査 を行ない、製品の品質や周辺環境に影響を及ぼさない ことを確認した後に受け入れ可否の最 終 判断を行なうな どルール化を徹底しています。微量成分の管理はセメ ント製 造の各工程にわたって強化しており、最 終的に良 好な品質の製品が出荷される仕組みをとっています。昨 今の環境規制強化にあわせて管理基準を厳しくしてい セメントの安全性 品質マネジメントシステム(QMS) 当社では、品質保証活動の取り組みとして、「各種 セメント製品、各種クリンカ製品、各種石灰石製品、 各種セメント系固化材製品の開発・設計および製造」 を登録範囲として、品質マネジメントシステムの国際 規格ISO9001の認証を(財)建材試験センターより 取得しています。 従 来、セメント工場ごとに構築していたQ M Sを1999 年4月に本社・支店・中央研究所を加えて全社一体的 に運用するQMSに再構築し、ISO9001の要求事項で ある「トップマネジメントの責任」、 「業務の継続的改善」、 「顧客満足度の向上」への取り組みを充実させていま す。このうち、「顧客満足度の向上」への取り組みを最 重要課題と捉え、各部門間で定期的な情報交換・連絡 を実施し、お客様の要求に応える品質重視の製品づく りを徹 底するとともに、ユーザーニーズなどを迅 速かつ 適切にフィードバックするよう努めています。 品質要求 製品・技術サービス 受入検査 ●製造条件管理 ●工程内での品質つくり込み ●工程内検査 お客様 出荷検査 営業部門 資材調達 営 業 流 通 技術サービス 製造部門 研究・開発部門 品質要求事項の明確化 品質要求事項のレビュー 品質要求事項に応じた品質設計 試製・評価 ■ QMS 概念図 TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 2012 50

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Page 1: 品質・技術・研究開発 - 太平洋セメント · 品質保証を確実に行い、顧客満足度の向上を図る。 当社は1998年の太平洋セメント発足時に経営方

社会との取り組み 〜お客様とともに〜

品質方針

ユーザーニーズに即した品質設計を追求し、品質保証を確実に行い、顧客満足度の向上を図る。

当社は1998年の太平洋セメント発足時に経営方針に基づいて品質方針を定め、この品質方針を組織の全体に周知するよう取り組んでいます。品質方針を実現するため、従業員一人ひとりが品質方針に基づいた活動を行なうことで、確かな技術と品質保証体制を確立して高品質な製品・サービスを提供し、お客様に信頼され、期待される企業であり続けるよう努めています。

当社は100年以上にわたるセメント製品の製造によって培ってきた製造・品質管理技術により、製品に対する安全・安心を保証する取り組みを推進しています。品質保証に取り組む姿勢を明らかにした品質方針のもと、業界トップクラスの品質を維持し、国内外の市場における当社ブランドの信頼に応えるべく、システムおよび製品の継続的な改善を行なっています。

品質・技術・研究開発

品質方針

昨今、あらゆる製品に対し安全・安心が求められており、社会基盤整備に欠かせない建設材料であるセメントについてもその例外ではありません。

セメント業界では、天然資源の代替として古くより高炉スラグ、石炭灰、副産石膏などの産業系廃棄物・副産物を活用しています。さらに当社では都市ごみセメント資源化システムの技術開発による生活系廃棄物のほか、建設発生土、建設廃材などのセメント資源化を実施しています。廃棄物をセメント工場に受け入れるにあたっては、廃棄物の搬入・一時保管は密閉型のトラックや置き場を使用するなど、飛散防止や悪臭防止を図り、周辺地域や工場内の環境保全に努めています。廃棄物に限らず天然原料にもクロム、鉛などの重金属類が微量に含まれていますが、セメント工場では廃棄物の受け入れ量増加に対応して微量成分の管理強化を行なっています。新規の廃棄物の受け入れにあたっては発生元情報、化学成分、試験使用結果に基づく三段階の検査を行ない、製品の品質や周辺環境に影響を及ぼさないことを確認した後に受け入れ可否の最終判断を行なうなどルール化を徹底しています。微量成分の管理はセメント製造の各工程にわたって強化しており、最終的に良好な品質の製品が出荷される仕組みをとっています。昨今の環境規制強化にあわせて管理基準を厳しくしてい

セメントの安全性

品質マネジメントシステム(QMS)

当社では、品質保証活動の取り組みとして、「各種セメント製品、各種クリンカ製品、各種石灰石製品、各種セメント系固化材製品の開発・設計および製造」を登録範囲として、品質マネジメントシステムの国際規格ISO9001の認証を(財)建材試験センターより取得しています。

従来、セメント工場ごとに構築していたQMSを1999年4月に本社・支店・中央研究所を加えて全社一体的に運用するQMSに再構築し、ISO9001の要求事項である「トップマネジメントの責任」、「業務の継続的改善」、

「顧客満足度の向上」への取り組みを充実させています。このうち、「顧客満足度の向上」への取り組みを最重要課題と捉え、各部門間で定期的な情報交換・連絡を実施し、お客様の要求に応える品質重視の製品づくりを徹底するとともに、ユーザーニーズなどを迅速かつ適切にフィードバックするよう努めています。

品質要求 製品・技術サービス

受入検査

●製造条件管理●工程内での品質つくり込み●工程内検査

お客様

出荷検査

営業部門

資材調達

営 業 流 通技術サービス

製造部門研究・開発部門品質要求事項の明確化

品質要求事項のレビュー

品質要求事項に応じた品質設計

試製・評価

■QMS概念図

TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 201250

Page 2: 品質・技術・研究開発 - 太平洋セメント · 品質保証を確実に行い、顧客満足度の向上を図る。 当社は1998年の太平洋セメント発足時に経営方

マネジメント

環境への取り組み

社会との取り組み

00.10.20.30.40.50.6

1102030405060708090100200300400500600

(mg/kg)

700800900

1,5001,600

全クロム(水溶性六価クロム)

亜鉛 鉛 銅 ヒ素 セレン カドミウム 水銀

土の含有量範囲※

※H.J.M.Bowen : 浅見輝男・茅野充男訳、環境無機化学、博友社/1983

(7.2)

フッ素

453

7363

10

0.5>

430

155

棒グラフは当社2011年度の平均棒グラフは当社2011年度の平均

3.0>

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平均最大最小平均最大最小平均最大最小平均最大最小平均最大最小平均最大最小平均最大最小平均最大最小平均最大最小平均最大最小

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453503412

485756314

448536299

450616332

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738158

748252

789458

678154

17.432.35.3

7.28.86.1

7.49.65.9

7.58.56.6

6.38.25.3

5561,059137

430547176

449634325

515695261

534681382

22166818

639944

638047

619038

598336

12223317

155246104

12724637

13329343

13122647

17392

10242

10284

11303

10263

---

0.5>0.5>0.5>

0.91.70.5>

0.5>0.5>0.5>

0.60.9

0.5>

1.52.60.6

3.0>3.0>3.0>

3.35.03.0>

3.0>3.0>3.0>

3.0>3.0>3.0>

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0.0100.0200.005>

0.0110.022

0.005>

0.0120.034

0.005>

1987年度 2011年度2007年度 2008年度 2009年度490595403

677950

6.98.15.6

553830385

618945

15028194

8242

0.60.7

0.5>

3.24.0

3.0>

0.0070.014

0.005>

2010年度

フッ素

全クロム

水溶性六価クロム

亜鉛

ヒ素

セレン

カドミウム

水銀

■普通ポルトランドセメントの微量成分含有量ることも影響してセメント中の微量成分は漸減傾向にあり、現在では天然土壌の含有レベルの範疇で安定していることが確認されています。

東日本大震災に伴い発生した、東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故によるセメント製品への影響を確認するため、当社では事故後のセメント製品の放射線量を測定し、事故後もセメント製品の放射線量が、大気中の放射線量と変わりないことを確認しています。

また、2011年5月以降、国はセメントの放射能濃度に関わる安全基準についてクリアランスレベルを100Bq/kg以下と定めました。当社では使用するセメントの原燃料の放射能濃度を厳重に管理することで、その基準値を確実に下回るセメント製品を出荷する体制を整えています。また、測定値を適宜、当社ホームページに掲載し、情報公開に努めています。

軟弱土の浅層改良・深層改良のほか、建設発生土の改良、ヘドロ固化などを目的にセメント系固化材は広く使用されていますが、母材となるセメントに極微量の六価クロムが含まれているため、土質の種類や条件によっては、改良土から土壌環境基準値を超過する六価クロムが溶出する場合があります。そのため、当社は2009年4月より、販売するすべての固化材を六価クロム溶出量低減型※に切り替え、より環境負荷の小さい製品の提供を行なっています。また、セメント系固化材にテフロン特殊加工を行ない、発塵を抑制した製品も製造しており、住宅密集地における粉塵対策品として特に都市部での需要が増えてきています。

原子力発電所事故に対する製品の安全性の確保

固化材製品の安全性

※六価クロム溶出量低減型の固化材を使用した場合においても、ご使用の際は事前の試験により改良土からの六価クロム溶出量が土壌環境基準を満足することをご確認ください。

■普通ポルトランドセメントの微量成分含有量の推移(mg/kg)

TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 2012 51

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社会との取り組み 〜お客様とともに〜

建設業界では、物件受注の条件として価格一辺倒ではなく、技術力や環境配慮など付加価値を加味した総合評価によって落札が決定する、いわゆる総合評価落札制度が主流となっています。当社では中央研究所・本社セメント事業本部が中核となり、関係事業部、支店、グループ会社などと連携し、セメント・コンクリートの技術的側面から当社グループのブランド価値を高めるべくTBC(太平洋ブランドセメント・コンクリート)活動を進めています。

最近の取り組みとして、超高強度コンクリート用セメント 「シリカフュームプレミックスセメント

(SFPC®)」の提案・普及推進のほか、コンクリートの収縮制御対策について当社グループ製品の性能を系統的に取りまとめた技術資料「コンクリートの収縮制御マニュアル」の発刊などがあります。これらを支店、当社グループ会社と連携して開催するCPDS講習会

((社)全国土木施工管理技士会連合会の継続学習制度)などで広く周知活動を行なっています。昨年度は、CPDS講習会を関西・中部・北海道地区にて開催し、主に地場の建設会社を主体として延べ300名余りの方々の参加がありました。

このように、時流にマッチした差別化技術の開発・発信を強化するとともに、地元のお客様にとっても頼れるパートナーとなるよう、今後とも活動を継続していきます。

TBC活動の推進(太平洋ブランドセメント・コンクリート)

当社では、セメントユーザーにおける事業の活性化、技術競争力の構築等を支援するため、各種ユーザー会・工業会を設立・運営しています。

このうち最大規模のユーザー会である「太平洋セメント生コン会」は、「経営一般ならびに営業・技術等に

各種ユーザー会・工業会活動

関する情報、意見交換および調査、研究活動を通じて会員相互の福利と親睦を図ること」を目的に設立され、会員相互の経営・技術基盤の強化を促すことで共存共栄を目指しています。北海道から九州まで、全国で10地区の地区太平洋セメント生コン会を設立し、さらに各地区の代表からなる全国太平洋セメント生コン会を構成して様々な活動を行なっています。

技術的な取り組みとしては、会員各社の技術力向上や資格取得を目的とした各講習会・通信教育などの教育活動を支援・強化しています。このうち、従来まで当社のユーザー支援として行なっていた、「コンクリート診断士受験対策講習会」については、昨年度より生コン会事業の一環として取り組むことを開始しています。昨年度は、生コン会会員として49名が診断士受験対策講習会に参加し、24名が合格するなど、大きな成果を挙げることができました。

生コン会のほか、コンクリート製品会社間の相互発展を目的として、「太平洋セメント舗装ブロック工業会」、「スプリットン工業会」、「植栽コンクリート工業会」を設立して積極的な技術支援を行なっており、今後ともユーザーの皆様にとって有意義な支援活動を推進します。

技術研修会風景

TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 201252

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■ 品質・技術・研究開発

マネジメント

環境への取り組み

社会との取り組み

研究開発部門では、企業価値の増大を図るべく各部署との戦略的連携のもとに、既存事業の深化・拡充や新たな事業展開に向けた研究・技術開発活動を推進しています。また、震災からの復旧・復興に貢献する技術開発にも鋭意取り組んでいます。

研究・技術開発部門と各事業部門との密接な連携のもと、セメント・コンクリートを中心に、周辺分野である資源、環境、建材・建築土木から、セラミックス・エレクトロニクスに至るまで幅広く展開しています。

研究開発の取り組み

当社は地球温暖化対策への取り組みとして、セメント製造等における再生可能エネルギーの利用拡大の研究を推進しています。

その一環として、千葉県との共同研究において、畜糞堆肥の燃料化方法の検討を行なっています。同県は有数の畜産県であり、畜産農家が多い地域では堆肥の需給ギャップが課題であり、堆肥の新規用途が望まれていました。

3年間の研究の成果として、全国初となるボイラーでの木くず・豚糞堆肥燃料混焼の実機実証試験を行ない詳細なデータ分析を実施しました。環境省のCO₂オフセット・クレジット制度(J-VER)のスキームに適合したセメントキルン利用方法の開発も行なっています。

研究開発の重点テーマおよび最近の開発事例

●畜糞堆肥燃料化技術によるバイオマス利用の促進

実機ボイラ混焼試験での分析風景 畜糞燃料J-VERスキームのキャラクター

コンクリート舗装は、耐久性が高くライフサイクルコストが低いこと、環境負荷低減に効果があること、材料の安定供給が可能であることなどを理由に関心が高まっています。当社では、社会的貢献度の高いコンクリート舗装の普及拡大を目的として、利便性向上や課題解決を図るとともに、多様化する社会要請に対応した高性能・高機能化技術の開発に取り組んでいます。道路分野では、その他道路橋床版の補強用材料として「スマートジェットコンクリート®」を実用化しました。

今後も人々に安全と安心を与える社会基盤の構築を目指して、付加価値の高い技術開発に取り組んでいきます。

●社会資本への貢献

コンクリート舗装の試験施工状況

非金属鉱物化学の知見を基にして99.99%以上の純度を有する高純度シリカ(SiO₂)粉末を開発しました。さらにこの高純度シリカを原料として「超高純度炭化ケイ素(SiC)」の開発を炭化ケイ素のインゴットの製造から販売までを国内で唯一手掛けている屋久島電工(株)と共同で取り組み、製品化に成功しました。本製品は、純度が99.9%以上であり、かつホウ素およびリンの含有量が0.1ppm以下と極めて少ないことから、省エネルギー化を背景に今後急速に需要の増大が予想されるパワー半導体向けの高品質な 炭化 ケ イ 素単結晶製造用の原料として利用されることが期待されています。

●「超高純度炭化ケイ素」の開発

超高純度炭化ケイ素の粒子形状

TAIHEIYO CEMENT CSR REPORT 2012 53