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超電導 Web21 財団法人 国際超電導産業技術研究センター 〒135-0062 江東区東雲 1-10-13 Tel: 03-3536-7283 Fax: 03-3536-7318 2010 9 月号 2010 9 1 日発行 © ISTEC 2010 All rights reserved. Superconductivity 掲載内容(サマリー): トピックス: U. S. DOE Peer Review 2010 開催 NEDO 新エネルギー技術開発成果報告会 2010 ○超電導関連 9- 10 月の催し物案内 ○新聞ヘッドライン(7/20-8/17○超電導速報―世界の動き(2010 7 月) ○「International Cryogenic Engineering Conference 23 - International Cryogenic Materials Conference 2010ICEC23-ICMC2010)」報告 ○「Applied Superconductivity Conference (ASC2010)」報告 ○「超電導技術の国際標準化に係る第 8 回パネル討論会」報告 ○隔月連載記事―もっとやさしい「超電導」のおはなし(その 5○読者の広場(Q&A)-加速器に酸化物超電導線を使うとどのようなメリットが期待される のでしょうか? 超電導 Web21 トップページ 超電導 Web21 〈発行者〉 財団法人 国際超電導産業技術研究センター 超電導 Web21 編集局 135-0062 東京都江東区東雲 1-10-13 Tel (03) 3536-7283 Fax(03) 3536-7318 超電導 Web21 トップページ:http://www.istec.or.jp/Web21/index-J.html この「超電導 Web21」は、競輪の補助金を受けて作成したものです。 http://ringring-keirin.jp

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超電導 Web21 財団法人 国際超電導産業技術研究センター 〒135-0062 江東区東雲1-10-13 Tel: 03-3536-7283 Fax: 03-3536-7318

2010 年 9 月号 2010 年 9 月 1 日発行

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掲載内容(サマリー):

トピックス: ○U. S. DOE Peer Review 2010 開催 ○NEDO 新エネルギー技術開発成果報告会 2010

○超電導関連 9- 10 月の催し物案内 ○新聞ヘッドライン(7/20-8/17) ○超電導速報―世界の動き(2010 年 7 月) ○「International Cryogenic Engineering Conference 23 - International Cryogenic Materials Conference 2010(ICEC23-ICMC2010)」報告 ○「Applied Superconductivity Conference (ASC2010)」報告 ○「超電導技術の国際標準化に係る第 8 回パネル討論会」報告 ○隔月連載記事―もっとやさしい「超電導」のおはなし(その 5) ○読者の広場(Q&A)-加速器に酸化物超電導線を使うとどのようなメリットが期待される

のでしょうか?

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〈発行者〉 財団法人 国際超電導産業技術研究センター 超電導 Web21 編集局 〒135-0062 東京都江東区東雲 1-10-13 Tel (03) 3536-7283 Fax(03) 3536-7318 超電導 Web21 トップページ:http://www.istec.or.jp/Web21/index-J.html

この「超電導Web21」は、競輪の補助金を受けて作成したものです。 http://ringring-keir in.jp

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トピックス:U. S. DOE Peer Review 2010 開催 (June 29 – July 1, 2010)

財団法人国際超電導産業技術研究センター 超電導工学研究所企画部

主任研究員 山本 誠

米国エネルギー省(DOE)主催のAdvanced Cables and Conductors Program Peer Review が、6 月 29 日から 7 月 1 日までの 3 日間、昨年

と同じ会場となる The Westin Alexandria にて開催された。この Peer Reviewは毎年 7月下旬~8月上旬にワシントンD.C.にて開催されるが、

今回は例年より約 1 カ月早い開催であった。 この Peer Review では、DOE が資金提供を行う HTS 分野の研究開発

について、この 1 年間の成果報告と今後の計画の提案がなされ、その内容の評価が以降の研究予算

に影響することとなる。 今回の Peer Review への参加登録者は 141 名、各セッションの発表テーマ総数は 31 件と、昨年

よりやや減少していた。 発表については、昨年と同じく「2nd GENERATION WIRE SESSION」、「STRATEGIC

RESEARCH SESSION」、「SUPERCONDUCTIVITY APPLICATIONS SESSION」の 3 つのセッシ

ョンに分かれ、各セッションが並行して行われた。

以降、各セッションの主な内容を紹介する。

「2nd GENERATION WIRE SESSION」では、SuperPower 社から、ヒューストン大学との技術

提携の体制が整ったこと、長さ+Ic以外の磁界中特性について Y:Gd の比率の影響を調べたことが

報告された。また、長尺の磁界中 Icの向上が図られ、3 T の下での特性が 14~15 A から 20 A まで

上がったことが報告された。AMSC 社からは、FM ロスを減らすためにクラッド基板を試して特性

が出るようになったことが報告された。また、1 回塗布膜厚を上げることによるシングルコート膜

の Ic向上を図り、約 460 A/cm 幅(短尺)の特性を得たことが報告された。

「STRATEGIC RESEARCH SESSION」では、ORNL により開発が進められていた Al2O3の単結

晶ワイヤの周囲に超電導層を作製した線材の機械強度が報告された。この線材のヤング率はハステ

ロイの 1.5 倍(310 GPa)、破壊強度は 1508 MPa と非常に強く、将来線材として有望である。ま

た、基板平坦化技術として注目されている MOD によりベッド層を成膜する技術において、未研磨

ハステロイ上に 4 層成膜で Ra<2 nm を達成し、また、60 m/h と言う非常に高速での成膜にも成功

した。LANL からは IBAD とその周辺技術の進展が幾つか報告され、IBAD-MgO の面内配向結晶成

長機構についても新たな提案がなされた。

「SUPERCONDUCTIVITY APPLICATIONS SESSION」では、HTS 電力ケーブル、限流器、変圧

器等について発表がなされた。 電力ケーブルに関しては、AMSC 社、Nexans 社および Air Liquide 社より、ニューヨーク州ロング

アイランドの LIPA Holbrook 変電所の単心型ケーブル(600 m、138 kV、2.4 kA)の運用状況と、Y系線材を使用したケーブル開発の状況等が報告された。Southwire 社と ORNL からは、オハイオ州

コロンバスの AEP 社 Bixby 変電所の三相同軸型ケーブル(200 m、13.2 kV、3 kA)の運用状況と、

プロジェクトへの DOE 資金提供の終了が報告された。また、ルイジアナ州ニューオリンズの

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Entergy 社 Labarre 変電所 - Metairie 変電所間の三相同軸型ケーブル(1.76 km、13.8 kV、2 kA)の

計画については、供給予定地域の需要増加が鈍化したことによるケーブル設置の取消しとプロジェ

クトの延期が報告された。なお、米国国土安全保障省(DHS)主催のニューヨーク州マンハッタン

で計画されているプロジェクト-HydraのY系線材を使用した三相同軸型ケーブル(300 m、13.8 kV、4 kA)についての現状等についての情報は、今回はなかった。 限流器に関しては、Zenergy 社よりオハイオ州ブリリアントの AEP 社 Tidd 変電所に 138 kV の 3相FCLを設置する計画についての提案がなされた。AEP社は既にFCLの設置に同意しており、2012年からの運用を目指すとのことである。AMSC 社、Siemens 社、Nexans 社および SCE 社からは、

最終的にSCE 社の変電所に設置し運用する計画の 115 kV- 138 kV の 3 相 FCL システムについて、

研究開発状況の報告と計画の提案がなされた。現在はシステム設計を検証するために,単相 FCL を

試作し、試験することに焦点が当てられている。 変圧器に関しては、ORNL と WES 社より、カリフォルニア州アーバインの SCE 社 MacArthur 変電所に、スマートグリッド実証プロジェクトとして設置が計画されている 28 MVA, 70.5 kV /12.47 kV FCL 付変圧器についての概要の説明がなされた。今後、コンセプトの設計と線材開発が開始さ

れる予定とのことである。

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会場風景(初日)

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トピックス:NEDO 新エネルギー技術開発成果報告会 2010

立行政法人 新エネルギー産業技術開発機構(NEDO)は、7 月 27 日(火)~7 月 28 日(水)に

東京国際フォーラムにて NEDO 新エネルギー技術開発成果報告会 2010 を開催した。超電導のポス

ターセッションは 7 月 27 日(火)の 13:40-15:00、口頭発表は 15:00-16:00 に行なわれた。 口頭発表では、「イットリウム系超電導電力機器技術開発」、「高温超電導ケーブル実証プロジェク

ト」、及び「超軽量高性能モータ等向けイットリウム系複合材料の開発」について以下の報告がそれ

ぞれ行なわれた。 (財)国際超電導産業技術研究センター 超電導工学研究所所長 塩原 融氏は「-環境とエネル

ギーへの超電導技術開発の貢献-イットリウム系超電導電力機器技術開発」と題して、CO2削減に

向けて超電導技術が重要であることを指摘し、プロジェクトで開発中の SMES、超電導電力ケーブ

ル、超電導変圧器及び Y 系超電導線の 新成果を報告した。 東京電力株式会社 フェロー 原 築志氏は「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」と題して、高

温超電導ケーブルのメリット、66kV,200MVA の 3 芯一括の Bi 系超電導電力ケーブル開発のプロジ

ェクト概要、30 m ケーブル事前検証(長期課電通電試験)などの進捗状況、及び実用化に向けた今

後の展開を報告した。 産業用超電導線材・機器技術研究組合 特別研究員 和泉輝郎氏は「超軽量高性能モータ等向けイ

ットリウム系複合材料の開発(希少金属代替材料開発プロジェクト)」と題して、Dy を含む永久磁

石の代替としてY系超電導線材を用いた電磁石の可能性を述べ、1 kmを超える長尺Y系超電導線、

レーザーCVD 法並びに YAG レーザーPLD 法による原料収率向上、及び傘型超電導コイルの小型化

について紹介した。 ポスターセッションでは、「イットリウム系超電導電力機器技術開発」、「高温超電導ケーブル実証

プロジェクト」、及び「超軽量高性能モータ等向けイットリウム系複合材料の開発」の成果として以

下の発表があり、また Y 系超電導線材や超電導ケーブルの展示も行なわれ、活発な意見交換がなさ

れた。 イットリウム系超電導電力機器技術開発では、中部電力から「超電導電力貯蔵システム(SMES)の研究開発」、九州電力から「超電導変圧器の開発」、大陽日酸から「冷却システム技術開発」、古河

電工から「超電導電力ケーブル研究開発」、住友電工から「大電流超電導ケーブル開発」、前川製作

所より「スラッシュ窒素による冷却技術」、ISTEC より「イットリウム系超電導電力機器技術開発」、

フジクラより「超電導変圧器対応線材安定製造技術開発」、昭和電線より「昭和電線のイットリウム

系次世代超電導線材」、ファインセラミックスセンターより「FIB-SEM デユアルビームを用いた

塩原融氏の講演風景 原築志氏の講演風景

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MOD-YBa2CuO3Oy超電導層の三次元解析」のポスター発表が行なわれた。 高温超電導ケーブル実証プロジェクトでは東京電力、住友電工及び前川製作所から、Bi 系超電導

線材を用いた 250 m 級の 3 相一括のケーブル開発の 新成果として、30 m ケーブル検証試験の成

果などが発表された。 超軽量高性能モータ等向けイットリウム系複合材料の開発では、産業用超電導線材・機器技術研

究組合-ISTERA(ISTEC、フジクラ、昭和電線)、東北大学、早稲田大学、名古屋大学、九州大学か

ら、1 k m を超える長尺超電導線材の開発、レーザーCVD 法/YAG レーザーPLD 法による効率向上

技術開発及び回転機要素技術開発についての発表があった。

(編集局)

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ポスター発表の様子

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超電導関連 9-10 月の催し物案内

9/1-3 電気学会 平成 22 年電力・エネルギー部門大会 場所:九州大学 伊都キャンパス 主催:電気学会 電力・エネルギー部門 問合せ:http://www2.iee.or.jp/ver2/pes/sys/02-conference/index.html 9/8-10 第 26 回 低温工学基礎技術講習会 場所:大阪市立大学文化交流センター 研修室(3)小セミナー室 主催:低温工学協会関西支部 協賛:日本真空協会関西支部、応用物理学会関西支部 問合せ:http://www.csj.or.jp/kansai/2010/26th_0908.pdf 9/9-10 2010 年度 東北・北海道支部研究会/第 3 回材料研究会/第 9 回バルク夏の学校合同研究会 場所:「みさきプレステージリゾート」 福島県いわき市小名浜下神白字大作 9 主催:低温工学協会「東北・北海道支部」、「材料研究会」 問合せ:http://www.csj.or.jp/materials/2010/3rd_0909.pdf 9/10 2010 年第 3 回冷凍部会例会- 国際会議報告会 場所:KKR 沼津はまゆう 主催:低温工学協会冷凍部会 問合せ:http://www.csj.or.jp/reitob/2010/3rd_0910.pdf 9/13-14 電気学会 平成 22 年基礎・材料・共通部門大会 場所:琉球大学工学部 主催:電気学会 基礎・材料・共通部門 問合せ:http://www2.iee.or.jp/ver2/fms/sys/02-conference/index.html 9/14-17 2010 年秋季 第 71 回 応用物理学会学術講演会 場所:長崎大学文教キャンパス 主催:応用物理学会 問合せ:http://www.jsap.or.jp/activities/annualmeetings/index.html 9/21-22 2010 年度 若手セミナー・支部研究成果発表会 場所:熊本大学黒髪南地区キャンパス 黒髪総合研究棟 2 階 204 多目的会議室 主催:低温工学協会 九州・西日本支部

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問合せ:http://www.csj.or.jp/kyushu/2010/Jr_Seminor_0921.pdf 9/23-26 日本物理学会 平成 22 年度 秋季大会(物性関係) 場所:大阪府立大学 中百舌鳥キャンパス 主催:日本物理学会 問合せ:http://www.p.s.osakafu-u.ac.jp/jps10/ 9/27-28 2010 IEEE Technologies C onference f or Innovative Technologies f or an E fficient an d R eliable Electricity Supply 場所:Waltham, MA, USA 問合せ: http://ieee-energy.org/ 9/28-10/2 International Conference on Nanoscale Magnetism 場所:Istanbul, Turkey 問合せ:http://web.gyte.edu.tr/ICNM/2010/ 10/11-13 IEC 74th GENERAL MEETING 場所:Seattle, USA 問合せ:http://www.iec.ch/about/gm/2010/GM2010_programme_LR.pdf 10/22-23 第 5 回日本磁気科学会年会 場所:開催場所九州大学西新プラザ 主催:日本磁気科学会 問合せ:http://photochem.cstm.kyushu-u.ac.jp/mssj2010/ (編集局)

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新聞ヘッドライン(7/20-8/17)

○ エネルギー消費 中国が世界最大 7 /20 毎日新聞 夕刊 ○ 中国、新エネに 65 兆円 風力・次世代送電網 10 年かけ投資 環境と成長両立 日欧米企

業にも商機 7 /22 日本経済新聞 ○ 富士重・日立 洋上風力を本格稼動 鹿島灘、港湾外に初設置 7/22 日経産業新聞 ○ 風力発電 国内失速 低コスト 世界は順調 普及の遅れ「政策のゆがみ」 7/22 朝日新聞 夕刊

○ 再生可能エネルギー買い取り 環境関連産業 「特需」を期待 エネルギー自給率向上効果

も 7/24 読売新聞 ○ 動力ケーブル 通信ロス半減へ 日本電線工業会 実証試験を開始 7 /26 日経産業新聞 ○ 洋上風力発電コスト 30 年に半減 7/27 Fuji Sankei Business i. ○ 鉄などの化合物、酒で煮込むと・・・ 超電導物質に変身 物材機構・科技機構が発見 7/27 日経産業新聞 ○ 量子暗号通信 光子の検出効率 20% 情通機構 超電導使い性能向上 7/2 8 日経産業新聞 ○ 温暖化対策 先進国で失速 米、数値目標先送り 欧、景気優先 日、議論棚上げ ポスト

京都黄信号 企業は立ち止まれず 環境技術 主導権へしのぎ 7/2 9 日本経済新聞 ○ W や Z、トップクォークの影 懐かしの素粒子再び 最強加速器 LHC 序盤の成果 7/3 0 朝日新聞 ○ ホットワイン、酔えば超伝導 特殊な鉄の化合物で確認 物質・材料研究機構 7/30 朝日新聞 ○ 米の温暖化対策 後退 削減「国際合意」困難に 7/30 読売新聞 ○ 再生可能エネ技術を網羅 NEDOが白書作成 ウェブで公開、日本の課題記述 7/30 科学新聞 ○ 国際電気標準会議を日本招致 安全・安心/環境・エネ/社会インフラ 標準化議論を主導 経

産省 14 年大会 7 /30 日刊工業新聞 ○ インフラ輸出 総合戦略 経産省 鉄道・原発など 11 分野 8/02 日本経済新聞 ○ 物質・材料研究機構 酒と鉄化合物で実験 ”熱かん”にすると超電導性質 8/03 Fuji Sankei Business i. ○ 科学予算を効率配分 優先 8 分野 1000 億円 概算要求前に約 90 事業選定 省庁横断で重

複防止 8 /05 日本経済新聞 ○ 解析ソフト企業に提供 住友電工 高温超電導線データ 8 /06 電気新聞 ○ Z 型六方晶フェライト 弱磁場で電気磁気効果 阪大が室温下で発見 8 /10 日刊工業新聞 ○ 超電導ケーブル 送電時損失を半減 東電など商用網で国内初 通電量を 3 倍に 8 /16 日本

経済新聞 ○ 風力発電コスト 20 年後に半減 NEDO、再生エネ白書 8/1 6 日本経済新聞 ○ 韓国政府 ITER 計画割り当て 熱遮蔽体作製に着手 8 /16 電気新聞 ○ 車向け軽量電線 ナノチューブで重さ半減 古河電工など開発へ 5 年後めど量産 8 /17 日本経済新聞

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超電導速報―世界の動き(7 月)

財団法人国際超電導産業技術研究センター 国際部

部長 津田井昭彦 電力 Niels Bohr Institute(2010 年 7 月 8 日) University of A ugsburg (ドイツ), U niversity of F lorida 及び Niels B ohr Institute(デンマークの

University of Copenhagen)の研究グループは、超電導体のミクロな欠陥の効果を説明する理論モデ

ルを構築した。この理論研究の結果、研究グループは結晶軸配向が異なる結晶粒の境界に電荷が蓄

積することが電流の大幅低下の主要な原因であることを突き止めた。以上のような理論研究の成果

は、将来銅酸化物の電流特性改善の手法を研究する上での基礎になるものと期待される。今回の結

果はNature Physics に掲載された。 出典: “Improvement of superconductors within reach” Niels Bohr Institute press release (July 8, 2010) http://www.nbi.ku.dk/english/news/news10/improvement_of_superconductors/ University of Cambridge(2010 年 7 月 9 日) YBCO バルク超電導体の大きな単結晶を作る技術を使い、University of Cambridge の研究者は同

程度の大きさで同じタイプの単結晶としては記録となる電流を流すことができる試料を作製するこ

とに成功した。この新しい技術は、原材料が部分的に溶融する 1,000 °C まで加熱し、劣化ウラン等

を添加、結晶粒中に人工ピンを作り出すというものである。同グループは、大型バルク超電導単結

晶を大気中で作製するために使うことができる新しいタイプのシード結晶についての特許も取得し

ており、この技術を使えば上記部分溶融法を色々な用途に対して最適なものにすることができる。

これら技術により、同じ大きさの試料で比較して、記録となるようなエネルギー密度や磁場の実現

が可能となる試料の作成にも成功している。この研究は、商業的なプロセスを使って製造可能なバ

ルク単結晶製品の実現に向け 1 歩前進したものであり、MRI や限流器といった応用製品のコスト低

減が図りうるものと期待される。 出典: “Superconductor breakthrough could power new advances” University of Cambridge press release (July 9, 2010) http://www.admin.cam.ac.uk/news/dp/2010070901 Nexans(2010 年 7 月 27 日) Nexans は、200 kV 用高電圧 HTS 直流送電ケーブルの試験に世界で初めて成功した。数時間に

わたる 360 kV での試験(200 kV の 1.8 倍の運転電圧)も含め、このケーブル及びターミネーショ

ンの試験がドイツの Nexans 高電圧研究所で実施された。雷やスイッチ切り替え時に生じることが

ある過電圧を重畳させる試験でも問題が生じることはなかったこのケーブルの試験成功により、米

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国の再生可能エネルギー市場の拠点となる Tres Amigas などスーパーグリッド・プロジェクトで求

められるギガワット級の送電用地下高電圧 HTS ケーブルの能力を実証することができた。次のス

テップとして、Nexans は 12,500 A までの大電流に対応できるようこの HTS ケーブルを改良する

計画である。また、Nexans は長距離HTS ケーブルの設置や修理に必要となるケーブルジョイント

の開発も計画している。 出典: “Nexans completes successful test of world’s first HVDC superconducting power transmission system” Nexans press release (July 27, 2010) http://www.nexans.com/eservice/Corporate-en/navigatepub_142482_-26633_297_40_2579/Nexans_completes_successful_test_of_world_s_first_.html American Superconductor Corporation(2010 年 7 月 29 日) American Superconductor Corporation (AMSC) は 2010 年 6 月 30 日に終了する第 1 四半期の収

支を発表した。第 1 四半期の収入は総額 9,720 万ドルであり、前年同期の 7,300 万ドルに対し 33 %増加した。粗利益率も、前年同期の 30.9 %から 40.1 %に増加した。利益は、前年同期の 180 万ド

ルに対し、当期は 920 万ドルであった。一般会計原則に拠らない(non-GAAP)算定を行った場合

は、AMSC 社の利益は前年同期の 550 万ドルに対し、当期は 1,300 万ドルとなる。同社最高経営責

任者 Greg Yurek は次のように述べた。「我が社は 6 四半期連続で大きく成長を遂げた。現在、2010年通年の収入、利益は当初予測を上回ることが見込める状況にある。第 1 四半期の受注残は記録的

レベルに達しており、今後数年間継続した成長が期待できる。第 2 四半期の売り上げについては、

増加する国内需要に対応するために生産能力増強を図り、また、欧州市場への輸出についてもその

準備を進めているアジアの風力発電機メーカー向けのものが継続するものと考えられる。同時に、

欧州諸国の顧客向けの売り上げも上向き始めるものと期待している。」2010 年 6 月 30 日時点で、

現金、現金等価物、市場流通証券、拘束性現金及び受注残を合わせると 9 億 5,200 万ドルとなる。 出典: “AMSC Reports First Quarter Fiscal Year 2010 Financial Results” American Superconductor Corporation press release (July 29, 2010) http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=86422&p=irol-newsArticle_Print&ID=1453649&highlight マグネット Oxford Instruments(2010 年 7 月 13 日) Oxford I nstruments は、同社のヘリウム再凝縮技術を組み込んだ強磁場超電導マグネットについ

て 2 件の発注を受けた。1 件は、米国 Oak Ridge National Laboratory の High Flux Isotope Reactor (HFIR) からのものであり、もう 1 件は Australian N uclear S cience an d Technology Organisation (ANSTO) からのものである。クライオスタットに組み込まれた再凝縮機能により、中性子回折向

けの厳しいマグネット設計要求を満たしながら、ヘリウム消費量の大幅低減が可能になる。昨年、

Oxford Instruments は、他の 2 つの中性子回折実験施設に 4 基の同様なシステムの納入、据付を行

ったところである。 出典: “Superconducting magnet orders” Oxford Instruments press release (July 13, 2010)

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http://www.oxford-instruments.com/news/Pages/news.aspx 基礎 National Institute of Standards and Technology(2010 年 7 月 8 日) JILA(コロラド大学と NIST の共同研究組織)の研究者はイタリアの理論研究者と共同で、超冷

却原子と高温超電導体との間で、これら異なる 2 つの系の振舞いが同じように説明できることを示

唆する興味深い類似性を発見した。この研究成果により、原子ガスの超流動(無抵抗流体)に関す

る研究がより複雑な高温超電導メカニズムを説明するための助けになる可能性が生まれる。特に、

研究グループは光電子分光を使って、ボーズ・アインシュタイン凝縮状態(原子対が強く結びつい

て分子を形成)から超電導状態で見られる個別電子のペアリングと類似の状態へ転移するクロス・

オーバー時のフェルミガス中の原子の振る舞いを調べた。超電導体で以前観測されたのと同様に、

JILA の研究グループは超流動の臨界温度以上でも原子が対をなしている証拠を見出し、相関フェル

ミ粒子対の状態を維持しつつも、超流動性を示さないという擬ギャップ領域の存在を実証した。今

回の結果は Nature Physics に掲載された。 出典: “JILA team finds new parallel between cold gases and ‘hot’ superconductors” National Institute of Standards and Technology press release (July 8, 2010) http://www.nist.gov/physlab/div848/jila_070610.cfm Binghamton University and Brookhaven National Laboratory(2010 年 7 月 14 日) Binghamton University, Cornell University, Brookhaven National Laboratory, University of Tokyo (日本)、Advanced Institute of Science and Technology(韓国)、the RIKEN Laboratory(日本)及

び Institute of Advanced Industrial Science and Technology(日本)の研究グループは、高温超電導

体中の同じ銅―酸素ユニットに属する異なる酸素原子位置での電子の振る舞いが異なっていること

を発見した。 この振る舞いの違いは、非超電導状態における擬ギャップ相特有の性質である。走査

型トンネル顕微鏡の分光イメージングにより、研究グループは個々の銅原子と酸素原子から電子が

顕微鏡の針先への飛び移るときの障壁の大きさを測定した。その結果、銅原子との相対位置の異な

る酸素原子では、顕微鏡の針先へトンネルする電子の数が違っていることを見出した。このような

非対称性を理解することで、高温超電導体をよりよく制御するためのブレークスルーに繋がる可能

性もある。グループの研究の一環として、グループの数名のメンバーが観測された電子の振る舞い

を説明するための理論検討を行った。研究グループは、他の銅酸化物における同様な非対称性を調

べることにより、擬ギャップの研究を継続するとともに、電子の振る舞いの方位に依存した非対称

性が電子の流れにどのような影響を与え、この方位依存性が超電導性にいかに悪影響を及ぼすか、

さらには、これにいかに対処するか検討を行うことを計画している。また、これにより、より高温

での超電導の実現を図る考えである。グループの研究結果は Nature に掲載された。 出典 “New superconductor research may solve key problem in physics” Binghamton University press release (July 14, 2010) http://www2.binghamton.edu/news/news-releases/news-release.html?id=1024 “Key advance in understanding ‘pseudogap’ phase in high-Tc superconductors” Brookhaven National Laboratory press release (July 14, 2010) http://www.bnl.gov/bnlweb/pubaf/pr/PR_display.asp?prID=1155

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Rice University(2010 年 7 月 28 日) Rice University の研究グループは、ドイツ及びオーストリアの物理研究者と共同で、重い電子系

である磁性金属(YbRh2Si2 即ち YRS)における電子励起で意外とも思える単純なスケール則を報

告した。これは巨視的な量子臨界効果の存在を示す直接的証拠である。YbRh2Si2 においては、「チ

ッピングポイント」として知られている 1 つの量子状態から他の状態への遷移が、磁性を持つ状態

と非磁性状態との間の移り変わりと重なっている。YbRh2Si2が絶対 0 度近くまで冷やされ、適当な

磁場を印加すると、相図上の磁気的境界線に沿ってフェルミ体積崩壊(結晶中の全ての電子の運動

量、又は波数が結合した状態)の始点と終点を特徴づける点が特定できる。今回の研究では、広い

温度域で磁場を変えて系統的に調べた。その結果、フェルミ体積は同様な変化を示し、色々な試料

で同様な態様でフェルミ体積の変化が起こっていることがわかった。さらに、クロス・オーバ幅(フ

ェルミ体積の変化の始点と終点の距離)を温度の関数としてプロットすると、原点を通る直線が得

られた。Rice University の物理研究者 Qimiao Si は次のように述べた。「フェルミ体積のクロス・オ

ーバー幅の温度に対する直線的な依存性から、電子励起に関し量子スケール則が成り立っているこ

とがわかる。磁気的な臨界点で電子スケール則がなお成り立っていることは驚くべきことだ。」また、

「以上の結果は、高温超電導も含め相関電子系の色々な現象は量子臨界点から生じているという考

え方を支持するものである。」と述べた。この研究グループの結果は、Proceedings of the National Academy of Sciences に掲載された。 出典: “Quantum fractals at the border of magnetism” Rice University press release (July 28, 2010) http://www.media.rice.edu/media/NewsBot.asp?MODE=VIEW&ID=14560&SnID=1613823214

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「International Cryogenic Engineering Conference 23 - International Cryogenic

Materials Conference 2010(ICEC23-ICMC2010)」報告

国際超電導産業技術研究センター 超電導工学研究所 電力機器研究開発部

主管研究員 山田雄一

第 23 回国際低温工学会議及び 2010 年国際低温材料会議(ICEC23-ICMC2010)が、Poland の

Wrocław(ヴラツロフ)の Wrocław Univeristy of Technology にて 2010 年 7 月 18~23 日に開催さ

れた。本会議は一昨年の韓国から ICEC と ICMC が常に同時に開催され、2 年に一回世界を回って

いる。 参加者は全部で 302 名、21 ヶ国(日本 53 名、ポーラン 44 名、ドイツ 41 名、中国 34 名、米国

23 名、スイス 22 名、仏 20 名、以下英、露)で、日本からの参加者がトップを占めた。発表論文

数は ICEC が 202 件、ICMC が 53 件であった。セッション数の内訳では、低温工学関連が 13、冷

凍機が 6、低温応用が 12、超電導材料が 6、超電導機器が 3 であった。展示は 16 社で、ガス会社

の PGNiG、健康/低温関連の Creator、WEKA などで、日本からの出展はなかった。 初日は、Prof. Wojciech Kempinski と Prof. Zbigniew Trybula による“Bose-Einstein Condensate -

from superfluidity to superconductivity”、Prof. Ludwig Schultz による“Contactless Levitation Systems and Bearings Using Bulk Superconductors”の 2 件の基調講演が行われた。

2 日目には Dr. Marina Putti による“Application relevant properties of pnictide superconductor”と Dr. Philippe Lebrun による“Commissioning and first operation of the Large Hadron Collider (LHC)”の基調講演と、Prof. Aleksander Sieron による“State of art in cryotherapy”の特別基調講

演があった。当日夕方には、Wroclaw University School of Physical Education において、この特別

講演で紹介された Whole body Cryotherapy(全身低温療法:世界で初めてこれの治療を行ったのは

日本人とのことである。)の施設である Cryochamber への体験入室が催された。体験者は白い鉢巻、

マスク、手袋、ハイソックスと青い ICEC-ICMC のロゴ入り T シャツ、短パンに着替え、-120 ℃で

1分30秒間、小部屋の中を4人が輪になって歩き回るという非常に貴重な体験をすることができた。

なお、体験時の衣装は終了後、プレゼントされた。 3 日目には、Dr. Paul M. Grant による“Superconductivity in power applications”の基調講演と

Mendelssohn Award の受賞式と記念講演が行われた。今回の受賞者は Florida State University、NHFL の Prof. Steven Van Sciver で、超流動ヘリウムに関する基礎的研究と、超電導磁石冷却等へ

の応用に多大な貢献をしたことなどが受賞理由である。その後、Cryogenics 誌の 2009 年度 Best Paper Award の授与式も行なわれた。今回は、東北大学・石本淳教授の、Numerical study of cryogenic micro-slush particle production using a two-fluid nozzle (Cryogenics 50,39-50) が、選ばれた。

終日は 3 つのグループに分かれて、バスで 1~2 時間離れた Odolanow の天然ガスから、ヘリ

ウム、窒素、天然ガスへの分離施設(2 グループ)と Kedzierzyn の空気分離施設(1 グループ)を

訪問した。 次回の本会議(ICEC24-ICMC2012)は日本の福岡で 2012 年 5 月 14 日~18 日に行われる予定で

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ある。 なお、材料会議である ICMC は奇数年には米国の CEC(低温工学会議)と共催されるのが常で

あるが、来年は超電導発見 100 年という記念の年であるため、EUCAS(欧州応用超電導国際会議)

との共催と、CEC との共催の 2 回実施されるとのことである。

なお、本稿には ICMC の Chairman の春山先生及び ICEC の Chairman の熊倉先生のご協力を得

ました。ここに謝意を示します。

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ICMC の Chairman である KEK 春山教授から Mendelssohn

Award のメダルを授与される Prof. Steven Van Sciver

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「Applied Superconductivity Conference (ASC2010)」報告

財団法人国際超電導産業技術研究センター 超電導工学研究所

副所長 田辺圭一

応用超電導会議(Applied Superconductivity Conference)は、米国内において隔年で開催される

超電導応用に関する最大の会議(実質上の国際会議)であり、今年は 8 月 1 日から 6 日にかけてワ

シントン DC の Omni Shoreham Hotel で開催された。参加者総数は 1500~1600 名(推定)で、日

本からの参加者は前回の ASC2008 と同様の約 300 名であった。発表アブストラクト投稿数は約

1500 件と前回の 1350 件より増えている。分野毎の内訳は、Electronics が 406 件、Large Scale が

585 件、Materials が 526 件となっており、特に Large Scale の投稿数が前回に比べ 100 件以上増え

ている。これは、Y 系線材の機器応用開発が本格化してきたことを反映しているように思われる。

Electronics 分野では、極低温動作ではあるが超高感度の電磁波センサとなる転移端センサ

(Transition Edge Sensor: TES)のセッションが 1/4 以上を占めており、次いで SQUID 関連、デジ

タル応用関連、量子ビット関連の順で発表数が多かった。TES は宇宙観測応用以外にも核実験監視

用センサや量子情報通信用の単一光子センサなど様々な検出器への応用が米国を中心に進んでいる。 SQUID 関連では、素子開発から応用まで約 70 件の発表があった。低磁場 NMR/MRI とバイオ応

用のセッションで最も多くの発表が行われ、SQUID 応用の約 2/3 がこの分野に集中していた。この

技術を用いた生体イメージングについては、まだ実験機レベルの開発段階であるが、前回の

ASC2008 において空港での液体セキュリティ検査用の装置開発を既に報告していたロスアラモス

国立研究所(LANL)のグループは、低温 SQUID の代わりにファラデーコイルを用いた低周波 MRI装置でも液体危険物の検出が可能と報告した。また今回は、常伝導体の検出コイルと高温 SQUIDを結合させた検出コイル分離型構造の SQUID に関する報告が多く見られた。特に共振回路を用い

た場合、ドイツの Julich 研究所のグループから 7-8 fT/Hz1/2 @ 9 kHz、九州大学から 2.5 fT/Hz1/2 @ 9 kHz と、周波数が高い領域において低温 SQUID 並みの高感度特性が報告された。ISTEC からは、

Y 系テープ線材を検出コイルに用いた大型のグラジオメータ(金属資源探査用)等を報告したが、

特に ISTECの高温超電導多層構造プロセスを利用し作製された複雑な構造のSQUID素子は大きな

注目を集めた。 Mixed Signal(アナログ-デジタル混在)回路関連で注目されたのは、米国 HYPRES 社からのマ

ルチバンドのデジタルレシーバの発表で、プラットホームとなるマルチチップモジュール(MCM)

基板に共通に使用する並列-直列変換回路が集積化されており、2 個の ΣΔ型 ADC チップをフリッ

プチップボンディングできる。2 つの周波数帯域用を集積したチップシリーズを作っており、ユー

ザの要求に合わせた ADC チップにより MCM 基板 1 枚で 4 周波数帯域がカバーできる。ISTEC か

らは、超高速リアルタイムオシロスコープ等に利用できる高速・多ビットのフラッシュ型 ADC 動

作に関する招待講演を行った。 デジタル関連では、省エネ・低炭素社会実現に関連して"Power energy efficient digital logic"のセ

ッションができたことが一つの流れであった。HYPRES の Mukhanov は、単一磁束量子(SFQ)

回路の消費電力をさらに低減する回路技術に関して最新の技術を含めレビューを行った。一つのキ

ーワードは、従来回路における直流バイアス電流による電力消費をゼロとする回路技術の開発であ

る。例えば、Northrop Grumann 社の Herr からは、新しい技術として、高周波でバイアスする RQL

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(Reciprocal Quantum Logic)に関して発表があった(量子ビットエラー補正回路等への応用が目

的)。デジタル集積回路の発表は、日本からの RDP(再構成可能なプロセッサ)関係の発表(横国

大、名大)が多かった。米国勢では、ニューヨーク州立大からデータプロセッサのアーキテクチャ

に関する発表はあったものの、プロセッサ全体のチップ試作の予定はないとのことであった。ただ

しそれに使われる数値演算ユニットや加算機などの要素回路の動作確認は行われている。 Large Scale 分野において高温超電導線材応用で発表が多かったのは、限流器(Fault Current

Limiter: FCL、61 件)とケーブル(45 件)で、モーター・発電機(43 件)、変圧器(20 件)につい

ても、それぞれ口頭で 1、ポスターで 2 つのセッションが組まれていた。個別セッションでは、ケ

ーブルに関する日米韓露のプロジェクトの進捗状況や、日本を主体とした変圧器の開発内容等の発

表があったが、特に目新しい情報はなかった。ただ、Y 系プロジェクトの変圧器において技術開発

中の FCL 機能について、欧米各国が FCL 単体やケーブルとの組合せ等で技術開発に傾注している

ことが印象に残った。 Materials 分野では、Y 系線材のプロセスや磁束ピンニング特性に関する報告が約 1/4(口頭、ポ

スター合わせて 15 セッション)以上と最も多く、MgB2と Nb3Sn 線材がそれぞれ 6 セッション、

Bi 系線材、鉄系超電導材料、AC ロス、機械特性がそれぞれ 4 セッションとなっていた。米国研究

機関による Y 系線材に対する発表は、概ね前月の DOE Peer Review での報告のままであったが、

そこでは出ていなかった新しい成果もいくつか注目された。全体として Y 系線材においては、長尺

線材開発についての新しい報告はなく、短尺のプロセス開発がほとんどであった。Kansas 大の Wuは、傾斜単結晶基板を用いて BaZrO3 (BZO)入り Y 系薄膜の PLD 成膜を行い、傾斜角を増やすこと

により BZO の形状がロッドから平板(ab 面内)に変化することを報告した。これは傾斜基板のス

テップにより導入された歪みの効果によるものである。オークリッジ国立研究所(ORNL)の Goyalによる発表では、BZO の周囲に導入された歪みにより超電導相中の酸素拡散は影響を受け、BZO近傍にはあまり酸素が入っていないことが、高分解能 TEM 観察や電子線エネルギー損失分光

(EELS)の結果により明瞭に示された。スペイン国立研究所の Obradors グループは、MOD 法に

おいて Zr 塩を原料溶液に添加する手法で、直径約 15 nm の BZO 粒子ピンを導入した YBCO 薄膜

を単結晶基板上に作製した。BZO/YBCO 界面には歪みが導入されており、添加量につれて増加する

歪みとともにピン力が増加するという結果を示した。 鉄系超電導材料関係では、応用につながる薄膜作製を中心に 32 件の発表があった。鉄系超電導

体において現状で最も Tcの高い 1111 系 REFeAs(O,F) のエピタキシャル超電導薄膜の作製には、

名大・Ikuta グループのみが成功している。MBE 法による成膜において、過剰な F を Ga と反応さ

せ取り去ることにより、GaAs 単結晶基板だけでなく MgO 単結晶基板上にも 40 K 以上の Tcをもつ

薄膜が作製できたことを報告した。最も異方性の小さな 122 系 Ba(Fe,Co)2As2の薄膜については、

ドイツ IFW-Dresden の Iida が Fe をバッファ層に用いることにより格子欠陥の少ない薄膜が PLD法で形成できることを報告した。一方、Wisconsin 大グループは、BaTiO3等をバッファ層として用

い作製したエピタキシャル膜においては、BaFeO3等のナノロッドが c 軸方向に形成されており、

数MA/cm2の高い self-field Jcが得られると共に Jc磁場角度依存性に大きな c軸ピークが見られるこ

とを報告した。また東工大の Katase は、MgO や LSAT バイクリスタル基板上に作製したジョセフ

ソン接合や SQUID など、ISTEC との共同研究の成果について報告した。Fe(Se,Te) 等の 11 系材料

は、PLD 法で 300 ℃程度の低基板温度でエピタキシャル薄膜が形成でき、基板との格子定数差によ

る歪みの影響で Tc が 18~20 K 程度まで向上することをブルックヘブン国立研究所やイタリア

CNR-SPIN 研究所のグループが報告した。また、前者は Y 系線材用の IBAD-MgO や RABiTS 基板

上にも成膜が可能なことを報告した。

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最終日の基調講演では、Naval Research Laboratory における超電導応用技術開発の歴史が紹介さ

れたが、米国ではやはり軍事関連応用が超電導技術開発を大きく牽引しているとの印象を改めても

った。次回の ASC は、2012 年 10 月に西海岸のオレゴン州 Portland で開催される予定である。 本稿をまとめるにあたって、ISTEC の鈴木秀雄、塚本 晃、五所嘉宏、吉積正晃の各氏の協力を

得ました。

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「超電導技術の国際標準化に係る第 8 回パネル討論会」報告

九州工業大学 大学院情報工学研究院

教授 松下照男

応用超電導会議(Applied Superconductivity Conference)が開催される前日の 8 月 1 日(日)の

午後 4 時から会場となる米国のワシントン DC の Omni Shoreham ホテルにおいて、超電導技術の

国際標準化に関する第 8 回パネル討論会が開催された。会議の前日であるにもかかわらず、日本、

米国、中国、スイス、ロシアの 5 カ国から計 18 名の参加者があった。 松下(九工大)から過去 7 回のパネル討論会の経緯報告を含めたオープニングの後、前回のパネ

ル討論会で最大の懸案事項となった、IEC(International Electrotechnical Commission)-TC90(超

電導委員会)のアド・ホック・グループ 3 で検討された、「超電導線」の通則(General Requirement)についての案が長村委員(応用科学研究所)から報告された。とくに前回の討論会で指摘され

た”label”などの案をできるだけ受け入れられるように平易に説明した後、光ケーブルの例を示して

国際標準化が市場拡大に必要不可欠であることを説き、通則の承認を訴えた。これを受けて、前回

の討論会以降、保守的と見られる立場をとっていた米国側を代表して Cooley 博士(Fermi Laboratory)が米国の考え方を説明した。その後、かなりの時間をかけて日本側と米国側の意見交

換が続いたが、そうした標準化の実行が重要なことや、個々の項目の必要性については大体の理解

が得られた。そして、”stability”に代表されるように、目的等によって大きく変わるものの取り扱い

をどうするかといった、具体的な内容にかかわる検討の必要性が指摘されたことに加えて、”General Requirement”という用語の適正さが問題となった。すなわち、requirement という用語が強すぎて、

これが少なからず米国側に違和感を与えていたようで、日本側の説明を受け、単なる”General Characteristics”ではないかという意見が出された。今後、この用語の件を含めて全体的な枠組みを

検討することが決まったが、長村委員から米国側に対して、アド・ホック・グループ 3 へ委員の派

遣を行うように要請があり快諾された。これによって、「超電導線」の標準化にむけたステップが大

きく進むことになった。 その後、佐藤国際幹事(住友電工)から IEC の活動状況が報告され、現在、電流リードを含めて

15 の規格が発行していることと、標準化作業が進んでいる規格ならびに規格化が提案されているも

のの紹介があった。また、現在 CIGRE(国際大電力システム会議)で検討中の超電導電力ケーブル

を取り巻く状況についても報告があった。 続いて新冨教授(日大)から日本における超電導電力応用の紹介があった。現在、国際超電導産

業技術研究センターを中心に行われている NEDO プロジェクトにおける超電導電力応用の個々の

進行状況や、それ以外の中部大学における直流超電導ケーブル、船舶推進用超電導モーター、超電

導モーターを搭載した自動車などの紹介がされた。そして、各種の超電導電力機器についての今後

の規格化のスケジュール案が紹介され、参加者に大筋の方向性を示すことができた。 なお、後日、米国側から超電導線についてもっと詳細に議論したい旨の提案があり、今後積極的

な展開が期待される。

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【隔月連載記事】

もっとやさしい「超電導」のおはなし(その 5)

財団法人国際超電導産業技術研究センター 超電導工学研究所材料物性研究部

特別研究員 中尾公一

前回は、超電導状態で電気抵抗が消滅する理由について説明しました。その理由は一言で言うと、

常電導状態において電気抵抗をもたらしている機構が、超電導状態ではエネルギーギャップの存在

により、働かなくなるからでした。とは言え、書かれていることの一つ一つは理解できるが、全体

としてどうにも腑に落ちないという方も多いと思います。電気抵抗の消滅は超電導現象の最も代表

的な性質ですし、超電導体の応用の多くがその性質に基づいていますので、もう少しその話を続け

たいと思います。 超電導体における電気抵抗の消滅の説明が受け入れられにくいことの原因の一つは、電気抵抗と

いう現象がこの世界であまりにもありふれていることです。仮にすべての金属が超電導状態である

パラレルワールドがあったとします(そのような世界を仮定しても、自然の基本法則を破ることに

はならないと思います)。もしその世界で電気抵抗を持つ物質が発見されたとすると、その物質は電

気エネルギーを熱に簡便に変換できる新機能材料として珍重されるのではないでしょうか。そして

その世界の物理学者は電気抵抗が発生するメカニズムを熱心に研究することでしょう。 さらに超電導体における電気抵抗の消滅を分かりやすく説明しにくいことの原因の一つは、それ

が一種の「不在証明」になっていることです。「不在証明」とは何かが存在しないことを証明するこ

とです。何かが存在することを証明するには現物を一つ見つければいいわけですが、何かが存在し

ないことを証明するのは普通大変難しく、いくら探してもないのだからないのだろうという言い方

しかできない場合もあります。電気抵抗の消滅についても、結局のところ電気抵抗を発生するメカ

ニズムがないのだから、電気抵抗がないのだとしか言えなくなって、それでは納得できないと、拒

否されてしまうわけです。 そこで今回は前回のような正攻法の説明でなく、一つの試みとして、別の切り口からの説明をし

てみようと思います。 1. 回転しているコマはなぜ倒れないか 回転しているコマは倒れません。回転しながら傾いているコマは首振り運動をしますが、なかな

か倒れません。直立して回転しているコマが倒れないのはともかく、傾いているコマがそのまま倒

れないのはとても不思議です。不思議ですが、あまりに見慣れているために、腑に落ちないとして

悩む人はあまりいないようです。 床の上で回転しているコマを考えます。コマ全体が重力を受けています。全体が受ける重力はそ

の重心に集中していると考えることができます。コマはまた床からも力を受けていますが、その力

を受けるのは軸の末端です。そのためコマが直立していない限り床から受ける力は重力を打ち消す

ことができません。従って、コマは図に示した向きに倒れてしまいそうに思えます。コマが回転し

ていなければ実際そのように倒れてしまうでしょう。ところがコマは首振り運動をするだけで倒れ

ません。回転しているコマは角運動量をもっています。平行移動している物体が運動量を持ってい

るのと同じで、回転している物体は角運動量を持っています。慣性の法則は力を加えない限り運動

量が保存され、変化しないという法則ですが、同じように偶力を加えない限り角運動量は保存され、

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変化しません。回転しているコマがそのまま倒れる過程はこの角運動の保存則を破ってしまうので

す。従って、コマは倒れたくても倒れることができないのです。コマには不思議な能力があって倒

れないのではなく、倒れるという過程が成立し得ないために倒れたくても倒れることができないの

です。皿回しの皿がなかなか落ちないのも、車輪が回転している(走っている)自転車がなかなか

倒れないのも、同じ理由によります。

床から受ける力 重力

回転していなければこの向きに倒れる

実際におこる首振り運動

床から受ける力 重力

回転していなければこの向きに倒れる

実際におこる首振り運動

2. ニュートリノはなぜ地球をも透過するか 小柴教授のノーベル賞受賞によってニュートリノと言う素粒子が一般にもよく知られるようにな

りました。この粒子は地球ほどの巨大な物体でも容易に通り抜けると言われています。この並外れ

た“透過力”はどこからくるのでしょうか。 光や粒子が、他の物体によって吸収されたり散乱されたりすることもやはり物理的過程です。光

や粒子が物体と何らかの相互作用をするためにそのような物理過程が起こります。何らかの相互作

用とはたとえば電磁気的な相互作用です。もしそのような相互作用がなかったらどうなるでしょう

か。実際にニュートリノは他の物質とほとんど相互作用をしないのです。従ってニュートリノは物

体に吸収されたり、散乱されたくてもできないのです。他の物質からほとんど影響を受けないので、

ニュートリノは宇宙空間を飛び続けるしかないのです。決して並外れた“透過力”などというもの

があるのではなく、言うなれば吸収されたり散乱されたりする能力が欠如しているのです注 1)。 3. 電気抵抗の消滅の別の見方 以上、回転しているコマやニュートリノという、直接には超電導とは関係のない現象をお話しし

ましたが、同じような見方で超電導体における電気抵抗の消滅を見ることはできないでしょうか。

回転しているコマが倒れないのは、倒れないための特別な能力があるのではなく、単に倒れるとい

う物理過程が自然法則に反するので許されないためでした。ニュートリノが地球を透過するのは、

ものすごい“透過力”があるのではなく、他の物質と相互作用する能力が欠如しているからでした。

同じように、超電導体が電気抵抗を持たないのは超電導体の中で、電流を散乱させる機構が欠如し

ているからです。電気抵抗がないということは人間にとって大変に有用なので、“そんなうまい話が

あるのか、あるとすればどんな不思議な理由があるのか”という風に考えがちですが、自然法則に

は良い悪いという価値観はありません。電流を運んでいる電子を散乱させる機構があれば電気抵抗

が発生するし、そのような機構がなければ電流は流れ続けるしかないのです。 古代ギリシャの時代から中世まで、物体は静止しているのが本来の状態で、動くためには力を加

え続ける必要があると人々は信じていました。しかしそれは多くの場合摩擦などの相互作用がある

2010 年 9 月 1 日発行

超電導 Web21

財団法人 国際超電導産業技術研究センター 〒135-0062 東京都江東区東雲 1-10-13 Tel: 03-3536-7283 Fax: 03-3536-7318

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Superconductivity

ためで、本当にまわりから力を受けなければ物体は同じ運動をし続けるはずだということにガリレ

オ・ガリレイが気付きました。超電導体中の電流もほかからの力を受けることができないために、

流れ続けるしかないのです。 そのような見方をしたとしても、もちろんその次には、電流が真空中を流れているのならともか

く、固体中では電子と原子の衝突がひっきりなしに起こっているはずなのになぜ超電導電流は固体

を作っている原子の集まりから力を受けないのかという疑問が起こります。その問いに答えようと

したのが、前回の説明でした。超電導電子の状態にはエネルギーギャップがあるために、ちょうど

回転しているコマが倒れることができないように、エネルギーや運動量の保存則と言う基本的な条

件を満たしながら、原子の集まりから散乱され、エネルギーを渡すという過程が成立し得ないので

す。その間の事情を説明したのが BCS 理論でした。 常電導体においても超電導体においても、電流が流れている状態は電流が流れていない状態より

も高いエネルギーを持っています。したがってその電流が減衰し、電流のエネルギーが熱に変わる

という過程はエネルギーの保存則やエントロピー増大の法則を破りませんので、自然に起こっても

よいように思われます。現に常電導体ではそれが起こります。超電導体でも原理的には起こってよ

いということは前回もお話ししました。しかしその確率はとんでもなく低く、猿がでたらめにタイ

プライターをたたいて「ハムレット」を書き上げる確率より小さいぐらいなのです。それは、常電

導体においては各電子がいわばバラバラに運動しているので個別に散乱されることができて、電流

がすこしづつ減衰するということが可能ですが、超電導体においてはすべての電子がいわば一体と

なって運動しているために、個々の電子が独立に散乱されることができず、全体が同時にしかるべ

く散乱されなければならず、その確率が天文学的に低いのだという言い方もできるでしょう。 次回は最終回となりますが、最後に超電導物質の応用に関するお話をする予定です。 (注 1)ニュートリノはそれでもわずかながら他の物質と相互作用をするので、なんとか検出でき

るわけですが、仮に他の物質とまったく相互作用しない素粒子があったらどうなるでしょうか。そ

のようなものは存在しません。他の物質とまったく相互作用しないならどんな検出器でも検出する

ことができません。それなら存在しないのと同じです。存在しないと同じであれば、存在しないと

言ってもいいはずです。まあこれは存在という言葉の定義の問題でもありますが。

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読者の広場

Q&A Q:「加速器に酸化物超電導線を使うとどのようなメリットが期待されるのでしょうか?」 A:粒子加速器においては、荷電粒子の軌道を制御するために磁界が用いられ、その磁界を発生す

るために電磁石(ここではマグネットと呼ぶことにします)が使用されます。その代表例は、荷電

粒子の軌道を曲げるために用いられる偏向マグネットです。偏向マグネットにおいては、磁界が高

いほど荷電粒子に作用するローレンツ力が大きくなり粒子軌道を大きく曲げることができ、例えば

円形加速器を小型化できます。銅線を用いたマグネットでは、荷電粒子が通過する空間における磁

界を高くするために鉄芯が用いられますが、鉄芯の飽和のために発生できる磁界(磁束密度)はた

かだか 2 T に制限されてしまいます。超電導線を用いれば、銅線を用いた場合に比べて巻線断面積

あたりの電流密度を格段に高くでき、その結果、鉄芯に頼らずに、すなわち鉄芯の飽和に制限され

ずに、高い磁界(磁束密度で 3~5 T 以上)を発生することができます。欧州原子核研究機構(CERN)

の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)という円形加速器においては、周長 27 km にわたって 1,232台の偏向マグネットを含む約 5,000 台の超電導マグネットが並べられています。LHC のビーム偏向

マグネットはニオブチタン線で巻かれており、1.8 K の運転温度で 8.3 T の磁界を発生することがで

きます。また、高磁界の発生以外にも、省エネと運転コスト低減も加速器用マグネットに超電導を

用いることの大きなメリットです。水冷銅マグネットは莫大な電力と冷却水を消費し、その運転コ

ストは大変高くなりますが、適切に設計された超電導マグネットは、冷却に要する電力・コストを

勘案しても、水冷銅マグネットより消費電力・運転コストを大きく低減できます。 このように、「超電導」を使うこと自体、高磁界化、省エネ・運転コスト低減というメリットを有

しているわけですが、「酸化物超電導線」を用いると、これらのメリットがさらに高められます。こ

れは、酸化物超電導線が高い臨界磁界を有し、また、運転温度を高くできれば本質的には冷却の効

率が向上するからです。加えて、高い臨界温度ゆえに高い温度マージンを持ち得ることから、熱負

荷に対して強いマグネットを実現できることも酸化物超電導線適用のメリットです。例えば、米国

のブルックヘブン国立研究所やローレンスバークレイ国立研究所で、ビスマス 2212 酸化物超電導

線(丸線)を撚り合わせたラザフォードケーブルを用いたマグネットの研究開発が進められてきま

した。これは、放射線熱負荷に対して強く、高い磁界を発生できる加速器マグネットの実現を目指

したものです。また、LHC アップグレードと呼ばれる LHC の改造計画ではマグネットの置き換え

が検討されていますが、置き換えられるマグネットは放射線熱負荷が増え 1.8 K での冷却は困難な

ため 4.2 K で運転し、かつ、10 T 以上の磁界を発生することが求められています。これは、ニオブ

チタン線では実現できない条件であり、ニオブ 3 スズ線が候補とされていますが、今後の線材開発

の進展次第では、酸化物超電導線も候補となり得るでしょう。これまで、超電導の適用は、大型加

速器に限られてきました。これは、液体ヘリウムを用いた冷却システムが複雑で運転・維持に手間

がかかるからです。しかし、10~50 K 程度の温度領域で、小型冷凍機による伝導冷却で運転できる

加速器用超電導マグネットが酸化物超電導線により実現されれば、医療用・産業用などに用いられ

る中小型加速器においても超電導の応用が広がる可能性があります。これも、加速器に高温超電導

を使う大きなメリットとして期待されます。

回答者:京都大学大学院 工学研究科 教授 雨宮尚之 様 超電導 Web21 トップページ