少子高齢化社会における公的年金制度の考察 -...

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少子高齢化社会における公的年金制度の考察 法政大学経済学部経済学科 佐藤ゼミナール 進級論文 15c3144 吉原康史 2017/04/05

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少子高齢化社会における公的年金制度の考察

法政大学経済学部経済学科 佐藤ゼミナール 進級論文

15c3144 吉原康史 2017/04/05

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目次

はじめに .............................................................................................................. 2

研究背景及び目的 ............................................................................................. 2

論文構成 ........................................................................................................... 2

1章 社会保障制度を見直す ............................................................................... 2

1-1 社会保障制度の変遷 ................................................................................ 2

1-2 日本の社会保障 ........................................................................................ 3

1-2-1 社会保障の現在 ................................................................................. 3

1-2-2 財政的困難 ........................................................................................ 4

1-3 公的年金制度 ........................................................................................... 5

2章 考察 ........................................................................................................... 7

2-1 海外事例 .................................................................................................. 7

2-1-1アメリカ ............................................................................................... 7

2-1-2 イギリス ............................................................................................ 8

2-1-3ドイツ .................................................................................................. 8

2-1-4 スウェーデン ..................................................................................... 9

2-2 日本における方向性 ................................................................................ 9

3章 展望 ......................................................................................................... 12

参考文献・URLリスト ................................................................................... 13

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はじめに 研究背景及び目的

社会保障制度の在り方という問題は日本において大きく議論がなされている。その も

大きな原因となっているのは間違いなく少子高齢化社会である。少子化による総人口の減

少は日本国による財源の確保において大きく負の要素になる一方で、高齢化は現行制度に

おける年金受給のための政府支出を増加させる点で今後の日本社会において大きな負担と

なる。少子高齢化が進行しつつある日本国において現行制度を存続させることは可能なの

であろうか。財源面からも考察する必要のあるこのテーマであるが、今回本論文では社会

保障制度の中でも大きな割合を占める公的年金制度について、高齢化の進行に伴う制度の

在り方を見直すことに焦点を当てて日本国にとって望ましい公的年金制度の仕組みについ

て考察する。

論文構成

まず 1 章では社会保障制度の変遷から日本の年金制度の現状について触れ何が問題となっているのかについて明らかにする。2章では海外事例を紹介したうえで日本の今後の年金制度の方向性について考察し、3章では考察から出た解決案をもとに展望を述べる。

1章 社会保障制度を見直す 公的年金制度を考察するにあたり、大元である社会保障制度の本来求められている役割

や内容について再認識をしたうえで現在の日本の状況と照らし合わせて欠陥点や不十分な

点を指摘する。

1-1 社会保障制度の変遷

今日「社会保障」という言葉は非常に知名度の高い言葉となっている。日常的に使用さ

れる場合には必ずしも統一した概念で語られることはない。広義では「生活保障全般」を

指すが狭義では「その中の保障内容 1 つ」にもなりうる。学問的に使用される場合には、ほぼ統一した概念が形成される。社会保障は我々が暮らすうえで様々な生活問題を抱える

がそれを緩和ないしは解決するための制度体系を示すと理解されている。 社会保障は大きく所得保障と対人社会サービスに分かれる。所得保障はその中でも社会

手当、失業給付、労災給付、年金給付、生活保護があり、対人社会サービスは福祉サービ

ス、医療サービス、保健サービスから構成される。社会保障は生活過程に起こる社会問題

つまり生活問題を緩和・解決するための国家施策の 1つと言うことが出来る。 では、生活問題はどのように起こるのか。私たちが生活しているのは資本主義社会であ

る。国民のほとんどが生産手段を持たない賃金労働者であり、労働し賃金を得ることがあ

らゆる生活の基盤である。「労働生活」によって得た賃金をもとに「消費生活」をいとなむ

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ことから、2つを合わせて「経済生活」と表現できる。この「経済的生活」における何らかの事故に対応する政策、それこそが社会保障なのである。

1-2 日本の社会保障

本論文で議論されることとなる社会保障制度であるが、そもそも社会保障制度が成立

するにあたりこの制度にはどのような役割を期待されていたのか。戦後に制定された日本

国憲法の第 25条において「すべて国民は、健康で文化的な 低限度の生活を営む権利を有

する。」とあるが、この第 25条をはじめとして社会保障への取り組みが行われた。

(厚生労働省HP「平成20年厚生労働白書 政策レポート 戦後社会保障制度史」 よ

り引用) 戦後間もない昭和 20年代における社会保障は、戦争からの復興で生じる社会の混乱や、物資不足による健康体を維持することの困難さを解消すべく「救貧」としての役割が大きく

なっていた。それに対し、高度経済成長期である昭和 30年代・40年代は「防貧」の役割が大きく設定された。大きな特徴として、国民皆保険・皆年金の実現があげられる。これに

は全国民をカバーできる制度の確立を求める声が大きくなったことが背景にある。また社

会福祉として医療保険制度や年金保険制度などの給付性の充実が図られた。そして現在の

社会保障制度の体系はこの 20年間によって整えられた。つまり、現在の社会保障制度とは国民の貧困を防ぐセーフティーネットとして扱われているのである。

1-2-1 社会保障の現在

高度経済成長期に整備された現行制度であるが、高度経済成長期の日本と言えば、雇用

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形態は正規雇用であり終身雇用であった。そして経済成長が進むために給与の上昇が予測

され保険料収入の増加、税収の増加が見込まれ国民皆保険皆年金が達成可能になると考え

られていた。また、当時の現役世代が社会保障制度に加え企業による福利厚生によって生

活が保障されているために、高齢者に対しては制度による給付を手厚くすることで補完的

なものになっていたのである。今日まで用いられている社会保障制度は、これらの社会を

前提として構築されたため、現在の日本の状況に対して必ずしも適合していないと本論文

では主張する。まず初めに、雇用形態が多様化していることがあげられる。非正規雇用の

増加により、正規雇用・完全雇用を前提とした保険制度の適応外になるケースが登場した。

また、かつての核家族化社会が終焉を迎え単身高齢世帯やひとり親世帯の増加による家族

形態の変化、都市部への地方部からの人口移動による地域コミュニティの弱体化や人口の

減少といった地域基盤の変化、不況期による社会的ストレスや精神的疾患患者の増加とい

った生活リスク形態の変化が生じている。 それに対し、制度の保障内容は社会変化に合わせたとは言い難いものになっている。先

ほど述べた雇用形態の多様化について、1984年には非正規労働者数が 604万人であったのに対し 2010年では 1756万人にも増加している。全体に占める割合に関しても、1984年には 15%であったものが 2010年では 34%にまで上がった。非正規雇用では福利厚生が正規雇用と同じものを受けることが出来ないケースもあり、かつての雇用形態に基づいた社会

保障制度の給付制度の対象外となってしまう。

1-2-2 財政的困難

(財務省 「平成 27年度社会保障関係予算のポイント」 より引用) では現在の日本での社会保障への支出、給付額はどのようになっているか。平成 27年度予算における社会保障関係費は 31 兆 5297 億円であり、一般会計歳出 96 兆 3420 億円の

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32.7%を占める。30 兆円を超えるのは 2 年連続であり、 大規模である。社会保障関係費

の内訳として、年金・医療・介護で 23兆円もの額を占めている。現在の社会保障制度において も負担が大きい分野であるこの年金・医療・介護の保障サービス受けているのは高

齢者である。高齢化社会が進む日本において、高齢者に給付する額が大きくなっていくこ

とは容易に想像ができる。

(統計局「国勢調査 平成 27年人口推計」より筆者作成) 現在の日本における高齢者の割合は平成 27年時点で 26.8%である。国民の 4人に 1人が高齢者という類を見ない時代に突入したという指摘があるが、このような状況に対し現行制

度は持続し続けることが可能なのか。その中でも、今回本論文では分野を絞ったうえで考

察を行う予定である。 1-3 公的年金制度

今回改善すべき点と筆者が考えているのは年金分野である。 も大きな理由として挙げ

るのは、社会保障関係費の負担割合が も大きい点である。年金への支出で現在 10兆円を超えている現状であり、また年金受給は国民保険、厚生保険に加入している国民であれば

だれでも受けることが出来る。つまり、現制度を維持した場合に支出の削減が も難しい

と考えられる。医療分野に関しては技術進歩による改善が考えられ、また介護についても

同様に技術進歩による機械化でコストが削減されると考えている。さて、年金制度の成立

の時代背景はどのようなものであったのだろうか。

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高齢者人口及び割合の推移

高齢者人口(万人) 総人口に占める割合(%)

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公的年金制度の重要性とはどのようなものであるか。厚生労働省の見解では「生活上の

予測できないリスクによる生活困難にあらかじめ備えるため」というものである。公的年

金制度がもし存在しない場合、親の老後の生活はその家族の中ですべて賄わなければなら

ない。または、自らの貯蓄だけで過ごさなければならない。しかし、人間が何歳まで生存

するということはまだ解明されていない、突然の経済や社会の変化を予測することはでき

ないことから公的年金制度は大きなセーフティーネットとなっているのである。社会全体

で国民の生活を保障するという意味合いが強い制度なのである。 公的年金制度に支払われるお金はどのようにして確保されているのか。それは現役世代

が支払った保険料を仕送りのような形で高齢者への年金給付に充てるという形である。こ

れを賦課方式と呼び、保険料以外に年金積立金や税金も財源として給付に充てられている。 制度の特徴として「国民皆年金」というものがあり、2階建て構造が採用されている。この2階建て構造について説明すると、20歳以上になると全員が加入する国民年金(1階)と、会社員になると加入する厚生年金(2階)による二階建てになっている。国民年金のみに加入している人は毎月定額保険料を自らで納めるのに対し、厚生年金などに加入している会社

員や公務員は毎月定率の保険料を会社と折半し、保険料は給与から天引きされるのである。

また、専業主婦などの被扶養者は厚生年金などで保険料を負担しているために個人として

の保険料を支払う必要がない。

(厚生労働省 「公的年金制度の仕組み」より引用) 受給についても、老後に受け取ることになるがすべての人は老齢基礎年金というものを受

け取ることが出来る。厚生年金などに加入していた人はそれに加え老齢厚生年金を受け取

ることができる。このように、国民年金に加入することで定められた老齢に達すれば日本

国民は誰しもが年金を一定額受給できる仕組みになっている。 また、年金を受け取れるのは老齢に達した場合のみではない。重度の障害を負ってしま

った、一家の大黒柱がなくなってしまった時には「障害年金」「遺族年金」というものが受

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給できる。ただしこれは毎月の保険料を納付するという制度を支えるための義務を果たさ

なければならない。中には経済的な理由から国民年金保険料を納めることが難しい場合に

は手続きを行うことで、猶予制度や納付免除の利用が可能になる。 しかし現在日本の年金制度は大きな問題点にあたっている。それは少子高齢化社会の進

行である。少子化の進行は将来世代の分母の減少に直結し、高齢化は年金受給者の増加に

つながる。つまり、賦課方式を取り続けることが困難になるのである。現在日本では高齢

世代 1人を現役世代が 3人で支える計算だが、このまま少子高齢化が進行した場合 2050年には高齢世代 1人を支えるのに現役世代 1人の計算になる。給付額が変動しなかった場合、現役世代が支払う負担が 3 倍になるのである。この負担が大きくなり続けていくことは、賦課方式の崩壊を招きかねない。 賦課制度が機能しなくなった場合、それに代わる方式というのは積立方式である。 積立方式とは、自分の保険料を自分で支払い年金受給はその保険料から賄われる仕組みで

ある。積立方式では世代間での人口数に影響されないため、国民 1 人あたりの負担が変わることが無い。これを踏まえて、今後の日本において年金制度を維持するうえでどのよう

な改革をしていくことが望ましいのかについて考察する。 2章 考察 1章で特徴について触れた賦課方式であるが、少子高齢化社会において賦課方式を取り入れることは不可能なのだろうか。海外事例なども含め、賦課方式と積立方式、どちらを採

用すべきか公的年金制度の改革方法を模索する。 2-1 海外事例

賦課方式を取り入れている国は日本を含め先進国に多く見られている。しかしながら、

日本同様に先進国では高齢化社会に悩まされている国が増えているのが現状である。その

中で、年金制度への改革を行った国について見ていきたい。

2-1-1アメリカ

まず例に挙げるのはアメリカ合衆国である。アメリカは OASDIと呼ばれる社会保障年金制度がある。公的年金の中核であり、一般にソーシャルセキュリティと呼ばれ受給の条件

として 低 10年以上給与税のソーシャルセキュリティ部分を納付していることが資格要件となる。 アメリカでは高齢化の進展と出生率の長期的な低下から、社会保障年金の受給者に対す

る現役世代の割合が 2050年には 2人に 1人になると予想されている。また、2038年には積立金が枯渇し現行制度で予定される給付全てを支給することが不可能になると見込まれ

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ている。アメリカでは年金制度の持続にむけた対策が長らく行われている。1983年にはレーガンが年金財政の健全化を図るために給付を抑制し、保険料を引き上げるなどの改革を

実施した。主な特徴として、2003年から 2027年にかけては年金の支給開始年齢を 67歳に引き上げ、社会保障税率を 1984年に 11.4%に、1990年には 12.4%に引き上げた。そして、高額所得者に対する年金に課税し、年金給付額の財源にするという仕組みを設けた。 今後ベビーブーマー世代が退職し、高齢者数が増加すると退職して高齢者のソーシャル

セキュリティ給付金を支えられなくなる恐れがある。勤労者及び雇用主と自営業者が支払

う給与税と、受給者が給付金の一部に対して支払う連邦所得税、ソーシャルセキュリティ

信託基金の投資による利子で賄われているが過去 11回にわたり資金不足に直面した。その際には信託基金から拠出され埋め合わされた。しかしソーシャルセキュリティ信託理事会

(Social Security Board of Trustee)によると信託基金は 2033年に枯渇する恐れがあり、先ほど述べたように 2038年には完全給付が不可能となる。今までは問題の先送りが可能であったことから、議会による改革案の決議に至ることはなかった。しかし、ソーシャルセ

キュリティシステム改革が早急に行われる必要がある。

2-1-2 イギリス

イギリスでは 1980年代のサッチャー政権時代から、高齢化の進行を見据え給付の抑制等が行われた。早い時期から年金改革が進められて来たため、私的年金や低所得者に関す

る問題が焦点となり、これらを解決するために中所得者に加入しやすい私的年金を提供す

る改革と低所得者の年金給付水準を向上させる改革が望まれていた。私的年金における問

題として、企業年金を持たない中小企業が多く転職時に不利になることや、自営業者が企

業年金に加入できないといったことが生じた。保守党時代の政策により低所得者割合が増

加したことも問題視された。 そこでイギリスは 1999年ステークホルダー年金を制度化した。私的年金の不十分さを

解決し中所得階層の年金の充実を図るために二階部分を強化。また、中所得者に加入しや

すいものとした確定拠出型の個人年金であり、国家所得比例年金の適用除外である。 2000 年には国家所得比例年金を低所得者に有利な国家第二年金(State Second

Pension)に切り替え、低所得者のみならず家族介護等のため就労できないものへの定額給付として大幅に増額した。 イギリスでは低所得者への給付という面で他国に比べ大きな特徴を持つが、その一方で

中高所得者に対しては私的年金の活用等の自助努力を推進している。この点において社会

保障の本来の意義である社会的弱者のセーフティーネットという役割に適応している。

2-1-3ドイツ

ドイツの公的年金制度は、給付建て賦課方式を採用している。失業者の増大や少子高齢

化の進展により年金負担率の上昇が続き、1992年の改革の後も、96年、99年、2001年に

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改革を行ってきた。これらの改革は制度設計の基本的な変更を伴わず、支給開始年齢、保

険料率、給付額等主要な要素の改訂によって安定性の回復を図る調整的改革である。2001年改革の主要な目的は、給付水準引下げにより保険料率の上昇を抑制することである。給

付水準については、改革前には代替率は 70%であったが、これを 2011 年から段階的に引き下げ、2030年には 68%にやや引き下げることとしている。保険料率は、改革前の見通しでは 2030年に 26%まで上昇すると見込まれ、労使共に負担可能とされる 25%を超えていた。そのため、給付水準の引下げによって改革後の保険料率を 2020 年までは 20%以内、2030年までは 22%以内に抑制するとしている。なお保険料で給付の全てを賄うのではなく、給付の約 20%を国庫が負担している。

2-1-4 スウェーデン

スウェーデンの公的年金給付は、基本的にその時々の現役世代の拠出で賄われていた。

いわゆる賦課方式の年金であった。これを積立方式に変えようとすると、制度移行期にお

ける現役世代の年金負担が重くなってしまう。 すでに年金受給者となっている人の年金給付は従来どおり現役世代が負担して賄う。加

えて現役世代は自らの老後に備えて年金の積み立てをしなければならないからである。こ

のような二重の負担を特定の世代に押しつけることは困難であり、賦課方式の年金を維持

していかざるをえない。一方、拠出した保険料に年金給付を直接結びつけることは国民各

層の強い声となっていた。それには掛け金建て(確定拠出型)がもっともふさわしい。あ

らかじめ掛け金、つまり年金保険料を決め、その運用実績に基づいて、年金給付額を事後

的に決める方式である。問題は賦課方式を維持したままで、掛け金建ての年金を採用でき

るのか、という点である。従来、それは困難だと考えられていた。しかし、スウェーデン

はみなし掛け金建ての年金制度を考案した。これによって、掛け金建て制度の下では拠出

した保険料は老後に必ず返ってくるため若者の年金不信はこの制度の下では消失した。あ

ああああああ 2-2 日本における方向性

2-1では 4か国の年金制度改革について触れたが、本節では日本の今後の年金制度の方向性について考察する。 現状について再確認すると、現在の年金制度は賦課方式が採用されており、国民保険に

加入することで国民皆保険皆年金が達成するという仕組みが継続されてきた。しかしそれ

は高度経済成長期に考案、計画された内容が時代を変えてもなお残り続けているだけであ

り、現代社会においてはずれが生じ、問題となる点が誕生している。それがまさしく少子

高齢化社会であり、現役世代と受給世代においてのバランスが崩壊している。また、そも

そも国民年金加入に際して保険料の未払いや経済的困難な理由で控除されている人が増え

ていることは、制度の限界を露呈しているのではないだろうか。

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日本は賦課方式の年金制度をこのまま持続することが出来るのだろうか。現役世代の減

少と高齢人口の増加を止めることなしには賦課方式による公的年金制度の維持は不可能と

考える。ここで新たな対策として考えられるのは、①給付水準を維持しつつ、税収の増加

を図る。②国民の保険料負担額を維持しつつ、給付水準を下げる。③賦課方式からの脱却。

である。 まず初めに③賦課方式の脱却について考える。すなわち、現時点ではそれは積立方式へ

の移行という意味になるが、そこへの問題点は大きく 2つある。1つ目は積立方式自体にあるデメリットの大きさである。積立方式の特徴として、自らが支払った保険料を年金受給

の際にその分だけ受け取れるのであるが、その際、インフレデフレによる景気変動によっ

て貨幣価値が変化していた場合にその差を埋めて受給することはできない。例を挙げると、

30 年前はパンが 1 個 50 円で変えた時代に保険料を積立方式で計 100 万円支払ったとすると、パン 1個が 100円に上昇した現在で年金受給する際にも 100万円で支給される。つまり、社会や経済の大きな変動があり、国民の生活水準が大きく変わったとしても、年金で

もらうことが出来るのは過去の時代に収めた金額のみであり大きなリスクが潜んでいるの

である。仮にもし積立方式採用状況化で大きなインフレが起こり国民保険の支給額がとて

も小さな価値でしかなくなってしまった場合、政府は憲法で定められている以上「国民の

文化的で 低限の生活を保障」する義務が生じるために、政府予算から多額の補助支援金

を賄わなければならなくなる。そのため、単独で積立方式にすることは国にとっても大き

なリスクを持つことになるのだ。 また、第二に積立方式に移行する際、大きな負担を強いられる世代が必ず登場してしま

うのである。さらに細かく説明すると、現在日本は賦課方式を採用しているため、現役世

代が受給年齢者の年金を保険料から賄っているのだが、ある日突然積立方式に変わった場

合、現役世代は保険料支払いが今までよりもさらに大きな負担になってしまう。なぜなら、

積立方式によって自らの保険料を負担するだけでなく、現在賦課方式によって年金を受給

している高齢世代の財源となる保険料を払わなくなってしまうと、高齢世代の受給が不可

能になり、本来の生活保障の役割から外れてしまう国民を生み出すこととなってしまうか

らである。ゆえに賦課方式から積立方式に移行する際には、何らかの負担が生じることが

予想されるため、その負担を解消するための政策等を事前に計画し準備が必要となると考

える。 次に②給付水準を下げるについて考える。現行の日本の年金制度では 2 階建てと呼ばれる国民年金の上に厚生年金が乗っかる方式で行われているが、仮にどちらかの水準を下げ

るとどのようなことが予想されるだろうか。国民年金の給付水準を下げた場合、そもそも

生活を続けることができない高齢世代が生まれることが予想される。かつての核家族化が

主流だった時代が変わり、現在では高齢 1 人世帯も多くなっている。また、同じくかつての日本において主流であった完全雇用・終身雇用の風潮が消えつつあることにより、非正

規雇用の増加、更にはそこから生まれるワーキングプアの発生が関わり、終身雇用制度で

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は勤務年数を重ねていくごとに給与が増大し老後に向けた貯蓄を行うことが可能であった

のに対し、非正規雇用では給与の増大幅は正規雇用のような大幅なものになりにくく福利

厚生についても保障されていない企業もあるなど貯蓄を行うことが難しい待遇となってい

ることから、給付水準を一律に下げてしまうことは、将来的なシニアワーキングプアを生

み出すことになる恐れがある。 しかし、完全終身雇用の波が消え始めたとはいえいまだに日本の経済を支えている企業

の多くは正規雇用でありかつての時代の福利厚生の待遇を受け継いでいる企業もある。そ

う言った企業で働く人間にとっては厚生年金の存在は老後の生活を考えるうえでプラスに

働き、労働への意欲につながる。仮に厚生年金を撤廃することになった場合、給料から天

引きされていた労働者は引かれるだけ引かれてもらうことが出来ないというマイナス要因

になってしまう。 後に、①給付水準を維持し、財源を他所から確保するについて考える。近年この方向

性が議論されている。目玉となっているのは自民党が掲げる「社会保障と税の一体改革」

であるが、学者の中でも税率を上げてその差額を社会保障関係費に充てればよいという論

を展開する人もいる。注目される税は消費税であり、理由として税収が景気変動に左右さ

れない安定した収入を見込めるというものである。国の財政赤字を解消すべく期待されて

いるようだが、消費税を増税することが果たして全国民にとって良いものとなるのだろう

か。そもそも消費税は公平な負担を強いるが、低所得者にとっての負担率が高い税である。

つまり増税を行うことによって一時的に低所得者は負担が大きくなる時期を過ごすことと

なる。その政策が成功し、財政赤字を軽減し社会保障制度が拡充並びに持続可能になるの

が確実であれば国民の理解を得ることが出来るが、万一成功しなかった場合、低所得者に

はさらなる負担がのしかかることとなる。社会保障制度は社会的弱者の貧困を防ぐために

整備されたものであり、その制度の維持のために行う政策によって も負担が大きくなる

のが社会的弱者に陥りやすい低所得者であるというのはいかがなものであろうか。 年金制度に話を戻すと、給付水準を維持するためにどこから財源を確保するかというこ

とになるが、筆者も税収から賄うという意見には賛成である。財政的に厳しい国家になっ

ている以上、これ以上社会保障関係費への国債投資を続けることは避けたい。しかし、税

率の上昇を考える際、社会的弱者に対して多くの負担を与えるような増税をすることは望

ましくない。ゆえに累進課税制度を用いている税制のほうが社会的公平性を実現するなら

ば望ましい。また、イギリスのように年金受給世代になったときに高所得者には自助努力

を推奨することが必要になるのではないか。社会保障関係費の増大により赤字国家が進行

している今、方向性を変えるには多少なりとも犠牲が生まれることは許容しなければなら

ないと考える。しかし、同じ負担であっても高所得者はリカバリーをすることが可能であ

るのに対し低所得者はリカバリーが困難な社会になってしまっている。 今回目指すべき方向性として提示したいのは、国民皆年金維持実現のために国民全員で

改革案を遂行するというものである。その中で、賦課方式に積立方式を加えたものを推奨

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する。この場合、予想さえるのは現役世代への負担の増加であるが、そこで高所得者につ

いて累進課税による増税を実施することで世代間の負担格差を軽減し公平性のある年金負

担制度を構築することが国民の理解を得られるのではないか。少子高齢化が進むのであれ

ば、いずれは積立方式中心の運用が望ましいと考える。しかし、賦課方式撤廃による年金

未受給者の発生を防ぐには、段階を踏んだ改革が不可欠になると結論付ける。 3章 展望 本論による提案の課題は国民からの理解と税制の確立である。国民からの理解において、

1人 1人が自らに関わる議題であるという認識を持つことが必要とされる。これは年金問題にかかわらず政府政策すべてにおいて、自分たちの暮らしが保障されている中で今後の暮

らしについて常々考えを持つべきである。アメリカのように時間があると考え決議を後回

しにした結果一度に大きな負の遺産が襲ってくる可能性をもっと考えるべきである。 2つ目の税制について、今回の論文において筆者は累進課税を用いた実質的平等負担を推進したが、ではその税種とは何か、というところまでを議論し導くことが出来ずしまいに

なってしまった。現在民主主義が採用されている以上、国民の意見によって政府の政策方

針は決定されていることになるが、多くの国民が肯定したからと言って、疑いなく一部の

弱者の生活の権利を否定してはならない。それを救うのは政府、だけでなく国民であり、

負担を強いられた場合に観桜的になるのではなく、国家という大きな単位で見たときに今

求められていることが社会にとって求められていることであるというのを認識すべきであ

る。総括してしまえば、民主主義国家で運営されている以上、国民は今自分たちが保障さ

れている生活、これから保障されるのであろう未来の生活の方針を決めているのは自らの

意見であるということを知る必要があるのではないか。

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