自動車とiot internet of things - shinnihon.or.jp · 自動車とiot (internet of things)...
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特 集
自動車とIoT(Internet of Things) 近年、メディア等でも大きく取り上げられることが多いIoT(Internet of Things)。スマートフォンやPCなどの情報端末だけでなく、多様なモノがインターネットにつながることで、サイバー空間だけでなく現実の物理世界にまで広がった、さまざまな変革が訪れると考えられている。
中でも自動車は、IoTが展開していく先として最も注目を集めている業種の一つである。しかし、この分野には海外IT企業の進出も多く報道されており、IoTにおける日本の国際競争力が脅かされるのではないかといった論調も多い。
自動車の情報化は「テレマティクス」という名称で呼ばれることが多いが、本稿では、このテレマティクスをキーワードとして、現在の自動車の情報化がIoTの世界にどのように進展していくのか、その状況を概観する。
EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 18EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 18
はじめに
インターネットに全てのモノがつながる、IoT(Internet
of Things)の構想が注目されている。インターネットに接続されるものが、従来の携帯電話やスマートフォンだけでなく、多様なセンサーや実体物に広がっていくことで、従来は得られなかった大量かつ多様なデータの入手が可能となり、そのデータを、さらに資源として活用する、新たなビジネスの展開が期待されているためである。IoTのコンセプト自体は、1999年ごろから提唱されている「ユビキタスネットワーク」に非常に近く、概念として目新しいものではない。しかし、近年スマートフォンの爆発的普及に伴い、その内部で利用されているセンサーや通信モジュールの低価格化が大幅に進むことによって、IoTのコンセプトもコスト的に実現可能となってきたため、あらためて注目されている。 IoTの接続先としては、橋・トンネル・工場・オフィス・都市・住宅など、さまざまなものが考えられているが、現在、最も注目を集めている対象の一つが、自動車である。自動車はわが国における産業の中でも極めて競争力が高く、情報化の進展により輸出を中心とした国際競争力の強化につながること、また、高額の耐久消費財であるため、IoT実現に当たってのコスト負担にも耐えられるのではないかという期待があることなどが、その理由である。 一方で近年、特に自動車の車載器分野を中心に、海外のスマートフォン関連のIT企業が進出を図っている。これらの中には、究極の目標として自動運転(Autonomous
Drive)を目指している企業もあるが、自動車メーカーでは、自動車の制御を行う部分は安心・安全の根幹であり競争力の源泉として、この部分を中核領域として守っていく傾向が見られる。 自動車の情報化は「テレマティクス」という名称で呼ばれることが多いが、本稿では、このテレマティクスをキーワードとして、現在の自動車における情報化の進展状況を概観する。
自動車の情報化と車載ネットワーク
現在、自動車の内部には、数十から、高級車では百を超える数のECUと呼ばれる電子制御ユニットが配置されており、それぞれが車内でネットワーク化されている。自動車自体がすでに、相当に複雑な複合電子機器であるといってよい。このECUに個別に一個一個配線をしていくと重量
自動車の情報化 (テレマティクス) から始まるIoTの 世界
上席主任研究員
廣瀨 明倫
特集
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Featureもかさむため、共通に配線を利用する形式を採ってLAN
を形成し、ある程度、同種の目的を持つグループでまとめられている(<図1>参照)。車種によって違いはあるが、おおむね「パワートレイン系・シャーシ系」「安全系」「ボディー系」「情報系」といったまとまりを形成しており、それぞれの特性に応じたLANが引かれている。特に、パワートレイン系・シャーシ系には、車の安心・安全に関わるLANとして、信頼性が高いネットワークが採用されている。逆に、車内のインフォテインメント※1に関係する情報系LANには、高い通信速度を持つものが採用されている。
情報系車載器とスマートフォン
自動車のモデルチェンジサイクルは、わが国で平均5~6年になるため、車内ネットワークの進化の速度も、基本的には、それに応じたものとなっている。他方、現在のスマートフォンのモデルチェンジサイクルは1~2年といわれており、アプリのバージョンアップサイクルは、さらに短く、数週間~数カ月といった単位である。そのため、特に情報系の車載器部分において、ナビゲーション機能など
を中心に、スマートフォンとの差異や連携不足が目立つようになっている。 スマートフォンはGPSも内蔵している機種が多く、車載器に頼らずとも、それ自体で単独のナビゲーションシステムとして利用可能な場合が多い。さらに、利用者がお気に入りの楽曲を車内で楽しんだり、SNSやウェブを利用したりする場面も増えているが、これらについて車載器との連携は、一部を除いて必ずしも十分な機能は提供されていなかった。 自動車を外部ネットワークに接続する方式については、従来は通信ユニットを車に搭載し、別途の回線契約が必要であった(組み込み型)。しかし、テザリングなどにより、自動車がインターネットなどに接続することは、技術的には容易になってきている。さらに、スマートフォンの機能が車載器と連携する「統合型」接続が今後、著しく伸びると予想されている(<図2>参照)。 なお、組み込み型の通信ユニット、スマートフォン接続(スマートフォン統合型、テザリング利用型)に加えて、もう一つ、自動車への接続口として考えられるのは、故障診断装置用のOBD-Ⅱポートである(<図1>参照)。こちらについては後述する。
図1 車載ネットワークの全体像
オーディオ
テレビ
エンジン
ABS
トランスミッション
ブレーキ
安全系
パワートレイン系シャーシ系
ボディー系
情報系
OBD-Ⅱポート(故障診断装置の接続口)
ステアリング
エアコン
インパネ
ゲートウェイ
センサー
エアバッグ
ライト
ミラー
ドア
通信ユニット
ナビ
車外と通信
スピーカー
車外と通信
スマートフォン
車外と通信モニタリング装置(海外の保険事業で使用通信ユニットを内蔵)
CANMOST(25~150Mbps)IDB-1394(100~400Mbps)
CANFlexRay(2.5~
20Mbps)
CANDSI、ASRBなど(5~200kbps)
CAN、LIN(2.4~19kbps)
CANはプロトコルにより33kbps~1Mbps
電子制御ユニット(ECU: Electronic Control Unit)または各機器
通信規格
テザリング(WiFi、Bluetoothなど)・有線接続
出典:各社公表資料に基づきEY総合研究所(株)作成
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車載器とスマートフォン連携をめぐる課題
車載器とスマートフォンの連携が難しかった理由の一つが「ドライバーディストラクション」の回避である。これは、自動車の運転中に、運転手の注意を運転行為からそらさないために決められているルールであり、日本では自動車工業会がガイドライン※2を定めている。走行中は「外部から提供され、時々刻々と変化する情報の文字数は31文字以上は表示しないこと」「テレビジョン放送およびビデオ、DVD等の再生により表示される動画を表示しないこと」といった各種の制限が規定されている。スマートフォンを車載器に接続し、スマートフォン上で動作させたアプリを車載器に表示させる場合などに、このような既存のガイドラインとの整合性が課題となっていた。 また、スマートフォンの年間出荷台数が全世界で10億台を超えている※3のに対し、車載器の出荷台数は約5,000
万台程度※4と約20分の1の規模であり、量産効果による部品価格等のコスト低下を見込みにくい。さらに、モデルチェ
ンジサイクルは自動車と同様、5~6年程度である。スマートフォンと車載器の連携に際しては、このような規制とコスト制約が存在していた。
海外IT企業の自動車へのアプローチ
現在、海外のIT企業は、スマートフォンで成功したビジネスの枠組みを自動車分野に導入することについて、意欲的に動いている。具体的には、スマートフォン用OSの車載器への導入や、そのOS上で動作するアプリの導入などであり、スマートフォンの経済圏をIoTの世界に広げていく試みの一つと考えられる。これらについては、米Apple
社がiPhoneを車で安全に使える枠組みとしてCarPlayを、米Google社がAndroidプラットホーム搭載を推進するための枠組みとしてOAAというアライアンスを、それぞれ提唱している。2014年7月時点での各社の対応は<表1>のとおりである。これらの枠組みでは、ドライバーディストラクションへの配慮も行っており、音声入力やテキスト
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70,000
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2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
スマートフォン統合型
テザリング利用型
組み込み型
組み込み型CAGR 37.6%
スマートフォン統合型
CAGR 49.9%
(年)
年間販売台数(千台)
図2 自動車車載器の販売台数予測(ネットワーク接続を行うもの)
出典:GSMA
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Feature
読み上げなどの機能も追加され、車載器とスマートフォンのスムーズな連動が可能になっていると報道されている。 一方で、Google社などが取り組んでいる自動運転の実現のためには、車載ネットワークの中でも、パワートレイン系・シャーシ系と呼ばれるエンジン、ブレーキ、ステアリングなどの車両操作に関係する部分をコントロールする必要がある。その際、車外をセンシングする機器(具体的にはレーザーレーダー、可視光カメラなど)および地図情報などからの入力情報に基づき、総合判断を行う必要がある。今後、自動運転車を実現していく上では、技術的には、パワートレイン系・シャーシ系をセンシング機器の「系」と合わせて、どのように構築していくかが課題となる。 なお、現時点では、CarPlayやOAAの枠組みは、専ら情報系を中心とした領域にとどまっていると考えられてい
企業・ブランド名 GENIVI
WindowsEmbeddedAutomotive(Microsoft)
AGLCarPlay(Apple)
OAA(Google)
トヨタ自動車 ü ü
フォルクスワーゲン ü
アウディ ü ü
ベントレー、セアト、シュコダ ü
GM ü ü
シボレー、オペル ü ü
日産自動車・(ルノー) ü(ü) ü ü ü ü(ü)
ヒュンダイ・(起亜) ü ü(ü) ü ü(ü) ü(ü)
フォード ü ü ü
フィアット ü ü ü
アバルト、アルファロメオ ü ü
フェラーリ ü
マセラッティ ü
クライスラー ü ü
ダッジ、ジープ、ラム・トラックス ü ü
本田技研工業 ü ü ü
プジョー・シトロエン ü ü
スズキ ü ü
メルセデス ü
BMW ü ü ü
マツダ ü ü
三菱自動車工業 ü ü
富士重工業 ü ü
ジャガーランドローバー ü ü ü
ボルボ ü ü ü
出典:各団体公表資料に基づきEY総合研究所(株)作成
る。逆に、自動車各社も、パワートレイン系・シャーシ系は自動車の安心・安全の根幹であり、自社の中核領域と認識している。そのため、情報系については海外IT企業との連携を行っているものの、前記の「系」については、まだ予断を許さない状況である。今後も、この「系」をどこが主導権を持ってコントロールすることになるかが、引き続き注目されるポイントである。
自動車データの利活用
自動車のテレマティクス関連ビジネスからは、多種多様なデータが産生される。これらを模式図に起こしたものが<図3>である。 データの取得源は、各種車載器からスマートフォンまで
表1 車載器関係のITプログラムへの対応
EY総研インサイト Vol.2 Autumn 2014 22
広がりがある。また、通信事業者は基地局からの情報を基にした位置情報を活用している。データの取得者は、自動車会社、カーナビメーカー、スマートフォンのOS提供会社、アプリ提供会社など、多岐にわたっており、それぞれ自社サービスの提供のために活用するものと、外部に提供して利用を促すものがある。 自動車のデータに対する企業の取り組みは比較的早く、03年ごろから自動車のプローブ情報※5に基づくサービスが提供されている。今日で言うビッグデータを活用したビジネスに先行して取り組んできたということである。 しかし、これらの自動車関連企業はプローブ情報による高い収益機会を本当に得ているのであろうか。EY Japan
が内外から関係企業を集めて行った会合で、匿名で実施したアンケートでは、自動車からのビッグデータの収益性は「低い」という回答が66%で、トップとなっている(<図4>参照)。なお、自動車のデータを活用するに際しての主な障害としては「ニーズ面」という回答と、個人情報保護関連の「環境面」という回答で二分された(<図5>参照)。 自動車から得られるデータの活用が進まない理由としては、次のことが考えられる。
①データの取得者と利用者が大きく異なっているため、シーズとニーズのミスマッチが起こっている。②パーソナルデータは、どの程度まで活用可能なのか、法制面などの環境が整っていないため利活用が進まない。
①の解決策としては、データアグリゲーター(集約・仲介機関)の設立が考えられる。データを各社から集約して、利用者に提供する業務を行う存在である。欧米では、自動車の事故情報などを集約する機関が存在し※6、中古車ビジネスの円滑化に寄与している。なお、経済産業省や国土交通省なども、こういった取り組みを後押ししている※7。 また、②のパーソナルデータ関連については、内閣府による「パーソナルデータ検討会」において、従来の個人情報保護法が定めていた限定的な個人情報から、より幅広い概念である「パーソナルデータ」に対象を拡大し、今後の取扱いについて大綱が取りまとめられている。今後は、この大綱に沿って、15年の通常国会で個人情報保護法の改正が行われる予定であるが、位置情報を含むデータが、どのように取り扱われるかは、まだ不明な点が多い。検討会の途上で議論されていた「準個人情報」に類する形で、個人情報に準じた取扱いをするのか、関係業界による自主規制ベースでの取扱いが求められるのかは、法案の作成過程で明確化されるはずである。
データ取得源
データ取得者
データ利用者
(利用方法)
データ種別
位置、車速、加速度、ブレーキ、燃料消費、ワイパー速度、アイドリング、エアバッグ作動、エンジン・ブレーキ系統などの異常 など
位置、車速、地点データ(目的地、検索など)、燃料消費、音声認識データ、取得コンテンツ履歴
など
位置、速度、(加速度)など
位置
+個人データ(統計処理実施)
車両管理会社保険会社
自動車会社
車載器
保険会社 テレマティクスサービス提供会社
後付け車載器
カーナビメーカー
行政運輸エネルギー関連
など
一般利用者
(渋滞情報利用など)
販売店
いわゆるビッグデータ利用のインターフェイス
一般利用者
(渋滞情報利用など)
一般利用者
(渋滞情報利用など)
通信会社
基地局(携帯端末経由)
OS提供会社
アプリ提供会社(ナビアプリなど)
スマートフォン
行政学術機関など
車速、エンジン回転数、スロットル開度、エンジン水温など【OBDⅡ経由情報】
走行ルート、走行距離、出発時刻・地点、到着時刻・地点、イベント情報(急ハンドル、急加減速、スピード超過、アイドリング時間超過)など【GPS内蔵ドライブレコーダー情報】
後付け車載器(組み込み型)
出典:各社公表資料に基づきEY総合研究所(株)作成
図3 テレマティクス関連データの取得源・取得者・利用者・種別
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Feature
テレマティクス保険
テレマティクスを活用した損害保険商品は、データを活用するサービスとして有望と考えられている。日本では、対象車種を限定した上で、走行距離に連動して保険料が変化する商品(走行距離連動型)しか提供されていないが、欧米では、ブレーキやハンドルの取扱い状況といった、運転行動に応じて保険料を変動させる商品(運転行動連動型)が既に導入されている。 ちなみに欧米では、故障診断装置用のOBD-Ⅱポートに通信機能を備えたモニタリング装置を接続して、車両の挙動情報を得て保険サービスに利用している企業がある※8。日本では、OBD-Ⅱポートから得られる情報の標準化が完全にはなされておらず、各社により異なる仕様となっているが、国土交通省では、この情報を共通化する方針を打ち出している※9。共通化が進めば、欧米と同様の後付けのモニタリング装置を活用した、運転行動連動型の保険商品が市場に投入されることが期待される。
規制の状況
テレマティクスをめぐっては、国際的に普及を後押しする要因として規制環境が挙げられる。中でも、影響が大きい規制要因は欧州のeCallである。 eCallは、自動車が事故に遭った際に、自動的に場所や
車両情報などを緊急対応センターに通報するシステムである。同システムの普及は、同時に車載情報機器や通信回線など、テレマティクスに必要な要素が導入される、きっかけとなり得る。車両への搭載義務化は当初15年10月からとされていたが、現在、欧州議会の採択がなされておらず、義務化開始日が遅れる可能性が高いと報道されている※10。現在、eCallのインフラ整備に向けた規則が「2017年10
月まで」に同インフラの完成を求めているため、搭載義務化も、この時期にずれ込む可能性が出ているが、いずれにせよ、テレマティクスの普及に向けての大きなマイルストーンになると思われる。 また、米国では車両にリアカメラの搭載を求める法
令※11が、14年4月から施行されている。バックする車に子どもが巻き込まれる事故の反省から、16年5月より段階的に導入され、18年5月以降は、ほぼ全ての新車について搭載が義務付けられる。直接的には、リアカメラ搭載に伴う車載ディスプレーの設置が後押しされるが、併せて、車載器も含めたテレマティクスサービス普及の一助になると考えられている。
►Q. 車から得られるいわゆる「ビッグ」データの、現時点での収益性をどうお考えですか?
収益性は高い0%
収益性は中程度
29%
収益性は低い
66%
分からない5%
►Q. 「データ」を活用するための主な障害は何ですか?
シーズ面0%
環境面(個人情報保護関連)
44%
環境面(上記以外規制等)
0%
ニーズ面56%
(技術的問題、サービスに必要なデータの提供・入手が困難、人材不足等)
(コストに見合う需要が見込めない、需要が未知数、そもそも可能なサービスの態様が不明、等)
図4 自動車関連ビッグデータの収益性 図5 データ活用の障害
出典:EY Japan主催の会合における無記名アンケート 出典:EY Japan主催の会合における無記名アンケート
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Feature
自動運転実現に向けた課題
自動運転については、特定機能の自動化(レベル1)から、複合機能の自動化(レベル2)、半自動運転(レベル3)、完全自動運転(レベル4)まで段階分けされている。報道などで接する、各自動車メーカーが市場投入する予定の自動運転車は、前記レベルに照らせば、レベル3かレベル4
のいずれかを指していると思われるが、メーカーごとに実現内容にはバラツキがあると推察される。 ちなみに、人間の仲介を一切必要としない完全自動運転の実現については、事故発生時の責任がメーカー、システム提供社側となることも想定されている。また、人間の仲介が一部残るシステムについても、人間側の注意力が低下する、あるいは人間側がシステムを過信して無理な運転をすることによる事故の増加も懸念されており、自動運転の実現に向けては、単に技術だけではない高いハードルが存在する。一方、待ったなしで高齢化・過疎化が進み、公共交通機関の撤退も予想される地方部においては、このような自動運転車に対するニーズは高いと予想されている。特区制度の活用なども考慮しつつ、自動運転車を受け入れていく「受容性」がある自治体・地域から、先駆的に導入が進んでいくことも考えられるであろう。
IoTの視点からみた産業としての自動車の今後
今後、ネットワークにつながれる自動車の数は確実に増え、モノのインターネットの一部を構成するようになる。そのとき自動車は、単体の移動だけではない、さまざまなサービスを提供することが可能となる。 その端緒は、カーシェアリング(共同利用)やライドシェアリング(相乗り)の伸長という形で、すでに表れている。両シェアリングの社会的意義は、路上や駐車場に止められて無為に時間・空間を占有している自動車の有効活用と走行台数の抑制を、社会全体で実現することにある。それにより、過度な交通の集中(例えば通勤時間帯のラッシュなど)を減少しつつ、都市全体のモビリティーを向上させることができる。シェアリングに関しては、米国を中心に規制当局との摩擦が多い面もあるが、都市全体の効率化を図るという点からは、最初から排除してしまうには、もったいない事業アイデアと考えられる。 このように、テレマティクスが浸透してIoTの世界が実現されるにつれて、自動車は単なるモノとしての存在から、サービスも含めたモビリティー体験を提供する要素の一つ
へと移行していく。モノとしてのコモディティー化を避けるためにも、このIoTの世界をどのように構築していくかが問われている。 自動車産業は、自動運転技術も含めて5~10年先をみた事業設計と、最先端で変化が激しい情報通信技術(ICT)への柔軟な対応を両立させるという難題に加え、社会全体に対して、モノだけではない優れたサービスを提供しなければならないという、困難だがチャレンジングな課題を抱える時代に入りつつある。
※1 インフォメーション(情報)とエンターテインメント(娯楽)の合成語で、車載器の場合はナビ、音声通話、テレビ、音楽再生などの機能を指す。
※2 日本自動車工業会「画像表示装置の取り扱いについて 改訂第3.0版」※3 IDCプレスリリース(www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS24645514)※4 矢野経済研究所「世界のカーナビ/PND/DA市場に関する調査結果2012」。11
年で、カーナビ/PND/DAの総計で4,910万台※5 自動車から送信される位置情報、交通情報などの各種情報。天候の参考とな
るワイパーの動作情報なども含まれる。探り針(Probe)が語源。※6 米CAR FAX社、独DEKRA社が中古車の整備情報を集約・提供(国土交通省「自
動車関連情報の利活用に関する将来ビジョン検討会」資料)※7 国土交通省「自動車関連情報の利活用に関する将来ビジョン検討会 中間と
りまとめ」における提言、経済産業省「データ駆動型(ドリブン)イノベーション創出戦略協議会」の設立など
※8 米Progressive社※9 国土交通省「自動車関連情報の利活用に関する将来ビジョン検討会 中間と
りまとめ」※10 etsc.eu/ecall-delayed-until-2017/
※11 Cameron Gulbransen Kids Transportation Safety Act of 2007
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EY総合研究所:レポート「ITS・テレマティクスの最新動向自動車発 新ビジネスの可能性」eyi.eyjapan.jp/knowledge
EY総合研究所:レポート「テレマティクス・ラウンドテーブル・ジャパンの開催~自動車の情報化をめぐる対話~」 eyi.eyjapan.jp/knowledge
�EY:Thought Leadership(日本語訳)「テレマティクス4.0の探求-バリューチェーンとの対話デトロイト・エグゼクティブ・ラウンドテーブル会議要約」www.shinnihon.or.jp/industries/ telecommunications/knowledge/
�EY:Thought Leadership(英語版のみ)「The quest for telematics 4.0:Dialogue with the value chain」ey.com/automotive
�EY:Thought Leadership(英語版のみ)「Deploying autonomous vehicles」ey.com/automotive
PICK UPより深く知るには?
EY総合研究所およびEYでは、テレマティクスおよびそれらに関連した産業・ビジネスにおける課題や機会について、最新の論点に基づいて解説したレポートを提供いたします。詳細は、Webサイトをご覧ください。
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