だんぶり長者になろう! -...

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だんぶり長者になろう! 2014 2014 2014 2014.0 .0 .0 .04 4 4. . . 成長と貢献と新たな価値の創造をめざす コミュニティ・デザイナー 佐藤友信 043 043 043 043 雲と風の透明な力よ!(2) NHK の番組『生き残った日本人へ』で高村さんは、震災への対応は「復興 ではなくスタートと考えるべきだ」と言っていました。さらに高村さんは、このことは「被災地だけではなく日本人 全体が自分の問題として考えなければいけない」とも言っていたのです。そのとき私は「そうだ、その通りだ」と 強い肯定感を覚え、震災後の日本をどう創っていくかという問題は、大げさとか大それたことではなく、日本人 一人一人の肩にかかっていることに気づいたのです。 番組を見た後、高村薫さんと対談していた赤坂憲雄さんの名前をどこかで見た覚えがあると思い本棚を見て みたら、ひと月ほど前に買い求めていた『東北知の鉱脈1〜3』と『いま、地域から』という本の著者でした。そう いえば赤坂さんを中心に「東北学」というものが起こっているようだったということを思い出したのですが、どうや らこの東北学が震災を契機に大化けしたらしいのです。 このシリーズの1回目をようやく書き上げてよねしろ新報社さんに持っていき、編集長と話していると、編集長 はいきなり立ち上がって別室から分厚い本の束を抱えてきました。それは「荒蝦夷(あらえみし)」という仙台の 出版社から送られてきたという、震災後の「東北学」の本の数々でした。全部貸してくれるというので持ち帰って みると、『震災学』『仙台学』『福島へ/福島から』『奥松島物語』『東日本大震災と東北学院』という本で、この中 の何冊かに赤坂憲雄さんが関わっていました。 これらの本を見て、高村薫さんの「震災はそれまでにあった問題を押し流してしまうのではなく、問題を一層 鮮明にする」という言葉を思い出しました。そしてそのことは必ずしも負の要素ばかりではなく、問題解決をしや すくするという面もあったのです。つまりこれらの本は、震災前からの東北の問題の数々を、震災を契機として 新しい視点から考え始めた「東北学」だったのです。 例えばこの中の『震災学』という本には、ずっと知りたいと思っていた「巨大防潮堤」建設の問題が特集されて いました。これから何百年も起こらないかも知れない巨大津波に備えて、景観を損ねることになり、また人々の 海の生活を奪うことにもなるような巨大防潮堤はなぜ建設されることになったのか。なぜこれほど急いで進めら れなければならなかったのか。また現在どんな状況になっているのかなど、私がぜひ知りたいと思っていたこと が詳細に述べられていたのです。そして分ったことは、設定された期限内に予算を使わなければ、それは打ち 切られてしまうというようなことでした。 高村さんが「日本人全体の問題だ」と言ったのはこういうことだったのです。不景気も農政の行き詰まりも、少 子高齢化も過疎化も、原発の問題も、さらに言えば教育や医療や福祉の問題も、国や行政はすべてを私たち 国民の方を見て行ってきたわけではないということなのです。 高村さんは「この国の人々はなぜ怒らないのでしょう。もっと怒っていい筈なのに」と言います。本当は怒って いるのですが、どんなに怒っても太刀打ちできない仕組みが国の支配構造の中にあるのです。沖縄県竹富町 の教科書問題に対する文科省の出方を見るだけでも国の教育における姿勢は一目瞭然ですが、原発政策に もこの構造はあります。ようやく大間原発の建設に対し函館市が建設差し止めの訴訟を起こすということです が、国は今度はどんな鉄槌を下そうとするでしょうか。 先日盛岡駅の中の書店をのぞいたら、震災関係の本と「東北学」関係の本が大きなスペースにぎっしり並ん でいました。秋田市や大館市の書店ではこれだけの展示は見たことがなかったので、ここにはある種の気迫を 感じました。もちろん大きな被災地でもあるからなのですが、震災後の新しい世界の創造に着手している人々 が岩手県には少なからずいるということです。秋田県はぼんやりしていたら、震災を風化させてしまう多くの県 と同じくなってしまうような気がしてなりません。(続)

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Page 1: だんぶり長者になろう! - Coocankaduno.in.coocan.jp/bunka01/b002-TSatou/world3/world3-001/043.pdf · みたら、ひと月ほど前に買い求めていた『東北知の鉱脈1〜3』と『いま、地域から』という本の著者でした。

だんぶり長者になろう!2014201420142014.0.0.0.04444.... 成長と貢献と新たな価値の創造をめざす

コミュニティ・デザイナー 佐 藤 友 信

043043043043 雲と風の透明な力よ!(2)NHK の番組『生き残った日本人へ』で高村さんは、震災への対応は「復興

ではなくスタートと考えるべきだ」と言っていました。さらに高村さんは、このことは「被災地だけではなく日本人

全体が自分の問題として考えなければいけない」とも言っていたのです。そのとき私は「そうだ、その通りだ」と

強い肯定感を覚え、震災後の日本をどう創っていくかという問題は、大げさとか大それたことではなく、日本人

一人一人の肩にかかっていることに気づいたのです。

番組を見た後、高村薫さんと対談していた赤坂憲雄さんの名前をどこかで見た覚えがあると思い本棚を見て

みたら、ひと月ほど前に買い求めていた『東北知の鉱脈1〜3』と『いま、地域から』という本の著者でした。そう

いえば赤坂さんを中心に「東北学」というものが起こっているようだったということを思い出したのですが、どうや

らこの東北学が震災を契機に大化けしたらしいのです。

このシリーズの1回目をようやく書き上げてよねしろ新報社さんに持っていき、編集長と話していると、編集長

はいきなり立ち上がって別室から分厚い本の束を抱えてきました。それは「荒蝦夷(あらえみし)」という仙台の

出版社から送られてきたという、震災後の「東北学」の本の数々でした。全部貸してくれるというので持ち帰って

みると、『震災学』『仙台学』『福島へ/福島から』『奥松島物語』『東日本大震災と東北学院』という本で、この中

の何冊かに赤坂憲雄さんが関わっていました。

これらの本を見て、高村薫さんの「震災はそれまでにあった問題を押し流してしまうのではなく、問題を一層

鮮明にする」という言葉を思い出しました。そしてそのことは必ずしも負の要素ばかりではなく、問題解決をしや

すくするという面もあったのです。つまりこれらの本は、震災前からの東北の問題の数々を、震災を契機として

新しい視点から考え始めた「東北学」だったのです。

例えばこの中の『震災学』という本には、ずっと知りたいと思っていた「巨大防潮堤」建設の問題が特集されて

いました。これから何百年も起こらないかも知れない巨大津波に備えて、景観を損ねることになり、また人々の

海の生活を奪うことにもなるような巨大防潮堤はなぜ建設されることになったのか。なぜこれほど急いで進めら

れなければならなかったのか。また現在どんな状況になっているのかなど、私がぜひ知りたいと思っていたこと

が詳細に述べられていたのです。そして分ったことは、設定された期限内に予算を使わなければ、それは打ち

切られてしまうというようなことでした。

高村さんが「日本人全体の問題だ」と言ったのはこういうことだったのです。不景気も農政の行き詰まりも、少

子高齢化も過疎化も、原発の問題も、さらに言えば教育や医療や福祉の問題も、国や行政はすべてを私たち

国民の方を見て行ってきたわけではないということなのです。

高村さんは「この国の人々はなぜ怒らないのでしょう。もっと怒っていい筈なのに」と言います。本当は怒って

いるのですが、どんなに怒っても太刀打ちできない仕組みが国の支配構造の中にあるのです。沖縄県竹富町

の教科書問題に対する文科省の出方を見るだけでも国の教育における姿勢は一目瞭然ですが、原発政策に

もこの構造はあります。ようやく大間原発の建設に対し函館市が建設差し止めの訴訟を起こすということです

が、国は今度はどんな鉄槌を下そうとするでしょうか。

先日盛岡駅の中の書店をのぞいたら、震災関係の本と「東北学」関係の本が大きなスペースにぎっしり並ん

でいました。秋田市や大館市の書店ではこれだけの展示は見たことがなかったので、ここにはある種の気迫を

感じました。もちろん大きな被災地でもあるからなのですが、震災後の新しい世界の創造に着手している人々

が岩手県には少なからずいるということです。秋田県はぼんやりしていたら、震災を風化させてしまう多くの県

と同じくなってしまうような気がしてなりません。(続)