小学校英語活動レポート⑱ 小学校から中学校英語 …18 1.はじめに 2020...

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18 1.はじめに 2020 年までに,英語教育は小学校の高学 年で教科化され開始は中学年からになるとい うニュースを最近よく耳にします。(『グロー バル化に対応した英語教育改革実施計画』文 部科学省 2013)具体的にはその指導時数も 週に 2 3 回となりモジュール指導もスター トするとされています。 それに先駆け,この春からは全国の「英語 教育強化地域拠点事業」の研究開発学校にお いてパイロット校としての実践がスタートし ました。 現在多くの小学校現場で使用されている共 通教材 Hi, friends!(文部科学省)に加え, Hi, friends! Plus と呼ばれる補助教材が,次期 学習指導要領に向け先進的な取り組みを行う これらのパイロット校で活用・検証され,そ の検証結果をもとに今後新たな教材開発が進 むことは確かなようです。 その新教材のワークシートは文科省のサイ トから誰でもたやすくダウンロードすること ができますが(http://www.mext.go.jp/a_menu /kokusai/gaikokugo/1355637.htm),今回はそこ に見られる文字指導の方向性と中学校英語へ の連携を考えてみたいと思います。 2.補助教材の内容 そもそも小学校における文字指導は,今ま で大変慎重に取り扱われてきました。特に英 語を読んだり書いたりする活動はあくまでも 音声によるコミュニケーションを補助するも のとし,週 1 回,しかも担任が中心として行 う指導においては,フォニックスなどのルー ル指導はするべきではないと言われてきまし た。 今後指導時数が増えたり,小学校で英語専 科教員が指導することになった場合,どのよ うな文字指導が始まるのでしょうか。補助教 材の特徴として挙げられている 3 つの観点か ら考えてみます。 1)アルファベット文字の認識 アルファベットを言ったり識別したりする 指導はすでにスタートしていますが,この補 助教材で扱われている「書く指導」はまった く初めての試みとなります。ワークシート自 体は中学校入学前によく配布される『ペンマ ンシップ』のようですが,小学校における指 導ではこれにじっくり時間をかけ,それぞれ のアルファベットで始まる単語も意識させな がら文字に触れる経験を積むことになりま す。またモジュールタイムなどを利用して, 1 回の扱いは短くても何度も繰り返し指導す ることになりそうです。 この文字指導が小学校で始まることは,中 学校の英語教師にとっては朗報かもしれませ ん。なぜなら,中学校入学時からわずか 1 月ほどでアルファベットの大文字・小文字の 認識を学び,ヘボン式ローマ字で自分の名前 を書き,さらには単語やセンテンスを書くこ とが求められる指導では,その負荷の大きさ から英語に対して苦手意識を中学校入学早々 に持ってしまう生徒が少なからずいるからで す。 ただ懸念されるのは,アルファベットをお 手本通りに 4 線の上にきれいに正確に(時に は書き順もしっかり意識させて)黙々と書か せる指導が今後小学校で広がっていくのでは ないかということです。 たくさんの英語をインプットし友達とのや り取りを通してコミュニケーションの素地を 小学校英語活動レポート⑱ 小学校から中学校英語へ(2) —文字指導始まるー 田縁 眞弓 京都教育大小学校英語指導法講師・私立小学校専科教員 

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Page 1: 小学校英語活動レポート⑱ 小学校から中学校英語 …18 1.はじめに 2020 年までに,英語教育は小学校の高学 年で教科化され開始は中学年からになるとい

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1.はじめに2020 年までに,英語教育は小学校の高学

年で教科化され開始は中学年からになるというニュースを最近よく耳にします。(『グローバル化に対応した英語教育改革実施計画』文部科学省 2013)具体的にはその指導時数も週に 2 ~ 3 回となりモジュール指導もスタートするとされています。

それに先駆け,この春からは全国の「英語教育強化地域拠点事業」の研究開発学校においてパイロット校としての実践がスタートしました。

現在多くの小学校現場で使用されている共通教材 Hi, friends!(文部科学省)に加え,Hi, friends! Plus と呼ばれる補助教材が,次期学習指導要領に向け先進的な取り組みを行うこれらのパイロット校で活用・検証され,その検証結果をもとに今後新たな教材開発が進むことは確かなようです。

その新教材のワークシートは文科省のサイトから誰でもたやすくダウンロードすることができますが(http://www.mext.go.jp/a_menu /kokusai/gaikokugo/1355637.htm),今回はそこに見られる文字指導の方向性と中学校英語への連携を考えてみたいと思います。

2.補助教材の内容そもそも小学校における文字指導は,今ま

で大変慎重に取り扱われてきました。特に英語を読んだり書いたりする活動はあくまでも音声によるコミュニケーションを補助するものとし,週 1 回,しかも担任が中心として行う指導においては,フォニックスなどのルール指導はするべきではないと言われてきました。

今後指導時数が増えたり,小学校で英語専科教員が指導することになった場合,どのような文字指導が始まるのでしょうか。補助教材の特徴として挙げられている 3 つの観点から考えてみます。1)アルファベット文字の認識

アルファベットを言ったり識別したりする指導はすでにスタートしていますが,この補助教材で扱われている「書く指導」はまったく初めての試みとなります。ワークシート自体は中学校入学前によく配布される『ペンマンシップ』のようですが,小学校における指導ではこれにじっくり時間をかけ,それぞれのアルファベットで始まる単語も意識させながら文字に触れる経験を積むことになります。またモジュールタイムなどを利用して,1 回の扱いは短くても何度も繰り返し指導することになりそうです。

この文字指導が小学校で始まることは,中学校の英語教師にとっては朗報かもしれません。なぜなら,中学校入学時からわずか 1 ヶ月ほどでアルファベットの大文字・小文字の認識を学び,ヘボン式ローマ字で自分の名前を書き,さらには単語やセンテンスを書くことが求められる指導では,その負荷の大きさから英語に対して苦手意識を中学校入学早々に持ってしまう生徒が少なからずいるからです。

ただ懸念されるのは,アルファベットをお手本通りに 4 線の上にきれいに正確に(時には書き順もしっかり意識させて)黙々と書かせる指導が今後小学校で広がっていくのではないかということです。

たくさんの英語をインプットし友達とのやり取りを通してコミュニケーションの素地を

小学校英語活動レポート⑱小学校から中学校英語へ(2)—文字指導始まるー

田縁 眞弓京都教育大小学校英語指導法講師・私立小学校専科教員 

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養うべき小学校での授業が,単なる書写の時間となるのはとても残念なことです。

アルファベット文字認識は書写活動だけでなく,音声とともに,聞こえた単語の最初のアルファベットを書いてみる,アルファベットを書きながらその文字で始まる単語を声に出して言ってみるといった他の技能と統合した活動への工夫が必要になるでしょう。また,中学校では何のために書くか,といった目的を持った「書く活動」や,意味を求めて内容理解するための「読む活動」をさらに深化させる必要が出てくるかと思います。2)英語の音声への気付き

日本語と英語の音声の違いやその特徴への気付きを高めるために,この補助教材ではオンセットと呼ばれる初頭音に注目させるたくさんの音声が提示されています。例えば,語頭が A から Z までの単語をアルファベット順に集めたセット(身の回りのものや動物,国の名前など)をジングルとして紹介したり,色の名称の最初の音に注目させたり,また同じ文字で始まる単語を集めたりといったものです。これらの音声に触れることによって,児童は音と文字のルールを「教えられる」のではなく自ら「気付き」「発見」していきます。こういった「音韻認識」を高める指導は今まで公立小学校にはなかったものです。米国や英国における母語話者の場合,幼児向けの歌や絵本にはこのようなアルファベットジングルがよくみられます。そして年齢があがるにつれてたくさんの単語を日常的に知り,言うこともできるようになるため,早い段階からルールに特化したフォニックスの指導をスタートすることができます。

日本の小学生の場合,知っている英語はとても限られており,たくさんの音声に触れないことには何の「気付き」も生まれないと考えると,これは語彙指導も兼ねた大変効率のよい指導だといえます。

筆者が長年関わった私立小学校で,このよ

うなジングルでのインプットや気付きをボトムアップ指導とし,同時にたくさんの絵本の読み聞かせや歌詞を見ながらチャンツや歌を歌う,あるいは友達同士で協力しながら絵本を音読するといった活動をトップダウン指導として行ったところ,1 年半ほどでほとんどの子どもたちが自立した読みの力をつけたという結果が見られました。もちろん指導時数や指導者の違いはあるでしょうが,今後「読むこと」に興味を覚え自ら読もうとする小学生が公立小学校でも育っていくことは十分考えられるでしょう。中学校では,そういった今までにない中 1 生のリテラシー力をどう伸ばしていくか,が英語科教員の新しいチャレンジになることでしょう。3)文構造への気付き

今回補助教材の中には 2 つのオリジナルストーリーが紹介されています。そこには絵本のお話を読んだ(読み聞かせされた)あと,ワークシートで内容を振り返り,主語と目的語の語順に無理なく触れさせるといった活動も含まれています。音声と文字で慣れ親しんだ内容をもう一度事例として引き出しそこで言葉のルールに出合わせる流れは,文字を導入したからこそできることであり,小学校における今後の英語指導の広がりを予感させるものです。まず十分な音声をインプットし,気付きを促しながら言語形式に注意を向け文構造・文法を指導していくといった流れは,そのまま中学校での英語学習に無理なくつながっていくと思われます。

3.まとめ小学校英語におけるこういった指導内容を

中高英語科教員がいち早く理解し,柔軟な姿勢で受け止めその指導に反映することこそが,小中高連携の英語教育の大きな要となるのでしょう。今こそ学校種を超え,みんなで日本の子どもたちの英語力を伸ばす時が来たのではないでしょうか。

小学校英語活動レポート⑱

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