創造都市研究科の事例 - osaka city...

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大学『大学 育』 9 巻 第 2 2012 2 1 研究科の特徴:社会人のために設計さ れた大学院 まず、 体が ある大学院 FDする みを する に、 したい いま す。 、「 ・学 ジネスモデル・ 活スタイルを え」、 じて するために された け大学院 す。 員・ インタラクティブ 育により、 プロフェッショナル して おり、 してさまざま プロジ ェクトを しています。 ャンパス サテライト ャンパス しておりますが、 6 から 9 から しています。 が対 3 7 カリキュ ラムにそ がありますが、 50 し、 50 3 す。 キャリア 、学 に多 があ り、 、学 まま 学する20 ら、 をリタイアした す、また、 したい いう70 い学 じ大学院 学ん います。 また、 があれ するこ 、学 ってい い学 学ん います。 に、 に他 大学院 したが、 たい いう学 います。 えて、アジア・ ジネス ジネス ように、 から多 れている あり、 に多 さんに対し、 育を しています。 よう つ多 テーマに える ために、 たせ、 員を する した 育を して います。 、「ワークショップ」に があります。 、アントレプレナーシップ した を、 をゲストスピーカー して び、 うワークショ ップを しています。そ ゲストスピーカ ーがまず 1 演し、1 1 ワークに して います。そ よう ワークショップ 一つ す。 2 組織的な取組み1:授業評価アンケート FDについて、まず、 している アンケート」 す。( 2 1 第 9 回FD研究会 第1部 事例紹介 創造都市研究科の事例 -創造都市研究科でのFD取り組みについて- 永  大学大学院 NAGATA, Junko

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Page 1: 創造都市研究科の事例 - Osaka City Universitydlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBn0090206.pdf · 大阪市立大学『大学教育』 第9巻 第2号 2012年2月

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大阪市立大学『大学教育』 第 9巻 第 2号 2012年 2月

1 研究科の特徴:社会人のために設計さ

れた大学院

まず、創造都市研究科自体が非常に特徴ある大学院

ですので、FDに関する組織的な取り組みを説明する

前に、創造都市研究科の概要を説明したいと思いま

す。

創造都市研究科は、「都市を新たな文化・芸術・学

問・ビジネスモデル・生活スタイルを生み出す中心と

捉え」、研究を通じて都市の活性化を担う人材を養成

するために設立された社会人向け大学院です。教員・

学生のインタラクティブな教育により、都市活性化を

担う高度なプロフェッショナルの人材養成を目指して

おり、教員と院生が参加してさまざまな研究やプロジ

ェクトを実施しています。基本になる授業は、杉本キ

ャンパスと梅田のサテライトで平日夜と土曜、杉本キ

ャンパスでは昼間も実施しておりますが、梅田では夜

間 6時半から 9時半までと、土曜日の朝から夕方まで

開講しています。

社会人が対象ですので各 3専攻 7分野毎のカリキュ

ラムにその特徴がありますが、杉本の授業を除き梅田

での授業は50分単位で開講し、平日は50分授業が 3コ

マです。

学生は年代もキャリアも、学歴も非常に多様性があ

り、例えば、学部卒でそのまま入学する20代の学生か

ら、仕事をリタイアした後に自身の社会的な課題解決

を目指す、また、地域や社会での活動を実施したいと

いう70代に近い学生まで、幅広い年代が同じ大学院で

学んでいます。

また、社会での十分な実務経験と能力があれば、資

格の認定試験を受け受験することが可能なので、学士

の学歴を持っていない学生も学んでいます。更に、既

に他の大学院で修士を取得したが、創造都市で勉強し

たいという学生もいます。加えて、アジア・ビジネス

研究分野(都市ビジネス専攻)のように、海外から多

数の留学生を受け入れている分野もあり、非常に多種

多様な学生さんに対し、教育を実施しています。

このような学生の持つ多様な関心やテーマに応える

ために、教授陣の布陣に特徴を持たせ、例えば実務経

験が豊な教員を採用するなど充実した教育を提供して

います。

更には、「ワークショップ」にも特徴があります。

例えば、アントレプレナーシップ研究分野(都市専攻)

では既に起業した経営者を、都市経済研究分野(都市

政策専攻)では都市の専門家などをゲストスピーカー

として呼び、毎週一回、真剣な討論を行うワークショ

ップを開講しています。その時々の旬ゲストスピーカ

ーがまずは 1時間講演し、1時間質疑応答、最後の 1

時間は教員と学生が今回のワークに関しての討論を行

います。そのようなワークショップも多彩な教育の提

供の一つです。

2 組織的な取組み1:授業評価アンケート

研究科でのFD活動について、まず、組織的に実施

しているのは「授業アンケート」です。(図 2- 1)

第 9 回FD研究会 第 1 部 事例紹介

創造都市研究科の事例-創造都市研究科でのFD取り組みについて-

永 田 潤 子大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授

NAGATA, Junko

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【第 9回FD研究会】永田「創造都市研究科の事例」

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大阪市立大学『大学教育』 第 9巻 第 2号 2012年 2月

授業アンケートの内容は、まずは「受講者自身に関

する項目」があり、次に「授業に関する項目」「担当

教員に関する項目」、そして最後に「総合評価」とい

う構成です。

開設当初から実施しており、専任・非常勤を含めた

すべての教員に実施しております。

また、全ての授業の評価結果を冊子に取りまとめ教

員に配布しています。(非常勤教員には担当授業のみ

配布。)開設当初から 5年間は、学生の履修時の参考

資料になるのではないかと、一定期間、この評価結果

の冊子を図書コーナーに置き、「評価結果の閲覧中」

の旨を掲示していました。

学生は履修を考えている授業や記入した授業の結果

をみるのではないかと考えてのことでしたが、あまり

活用していない(先輩学生からの直接の感想を参考に

するなど)現状もあり、現在は閲覧は実施していませ

ん。

実施方法は、基本的に最終授業時に教員が配付、授

業終了後に回収もしくは時間内に書き得なかった学生

は事務室に提出するように指示します。無記名、かつ

回収時も個人が特定されないように配慮しています。

教員は、総合評価の点数や授業に関する項目を参考に

改善を実施しますが、「自由意見が一番参考になる」

との声がよく聞こえます。点数自体は評価のバラツキ

もありますし点数では測れない生の声が自由意見で

す。加えて欲しかったテーマ、より時間をさいて欲し

い内容などを記入する学生が多いため、授業計画の参

考になるわけです。

必要に応じ、研究科で実施する教員FD研究会でこ

の授業アンケートをテーマとし、全体的な傾向や要望

などを取り上げ議論します。

3 組織的な取り組み2:修了生アンケート

さらには、研究科全体についての評価(満足度や感

想)も、FDを考えていく上では大変重要だと考えて

いますので、「修了生アンケート」を毎年実施してお

ります(図 2- 2参照)。

例えば、「本大学院で得た最大のもの(最多 2つの

項目)」については、年によって多少のバラツキはあ

りますが、ポイントが高い項目は、「院生のネットワ

ーク」です。やはり多様なキャリア、背景を持って集

まった学生が共に勉強できたこと、つながりが出来た

ことが大変よかったという感想を持つようです。次い

で、「論文が作成できるようになった」「問題解決能力、

系統的な知識」といった項目も高いポイントで選ばれ

ます。更に、「本大学院の最大の魅力」においても、

「多様な社会人院生との交流」や「ワークショップ」

が評価される傾向にあります。

「論文指導」も評価の高い項目ですが、論文作成は

修士課程において非常に大切な教育カリキュラですか

ら、分野毎に学生のキャリアや背景に合わせた指導の

工夫をしております。例えば、私の所属する都市公共

政策は、自治体の職員や議員、NPOやコンサルタント

が主な学生ですがすぐに研究論文が書けるわけではな

いのが実際のところです。例えば、ビジネスマンが書

くとビジネスの提案書に近いものとなり、自治体職員

は審議会の報告書に近いものになる傾向が見受けられ

ます。そこで、1年生の後期の「課題研究」という講

義課目を使って、教員と学生がグループ研究を実施し

ます。1人の教員に 4人ぐらいの学生がつき、半年間

1つのテーマで、仮説の設計、仮説の検証、社会調査

の方法、データの検索、論理構成などをグループ研究

で教えながら進めていきます。2年次作成の修士論文、

リサーチペーパーに向けての論文の書き方、思考の枠

組みの予行演習という独自の工夫をしています。

他の分野では、この課題研究を使い英語文献などの

輪読を実施している分野もあります。全分野が足並み

そろえた指導を実施するのではなく、分野毎に学生の

背景やニーズに合わせたフォローアップのための取り

組みを実施しています。

加えて、「本大学院の講義時間」関し、90分か50分

かをたずねています。

最近は、研究科全体でも現行の50分で良いという認

識ですが、開設当初は毎年のように議論していました。

通常、大学院の授業は90分です。社会人が対象ですか

ら50分授業とし 1日のうちにできるだけ多くの科目を

開講する方が履修しやすいと考えて設計しています

が、教育の効果を考えた場合に90分授業のほうが良い

のではないか、理解・把握できるのではないかと、議

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【第 9回FD研究会】永田「創造都市研究科の事例」

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大阪市立大学『大学教育』 第 9巻 第 2号 2012年 2月

論してきた経緯があり項目に入れております。50分の

授業に関して、教員の側はいろいろと工夫をしており

ます。例えば、次回のレジュメを事前に配布し予習資

料とする、シラバス以外の詳細な授業計画書を作成し

講義の全体像を伝え進めるなど、限られた時間でいか

に質を高めていくのかに取り組んでいます。

修了生アンケートに加え、5年ほど前にはなります

が、FDの視点から「教育の効果」について追跡調査

を実施しました。研究科での教育が学生の修了後にど

れだけ役に立ったのか、社会で活躍したか、自身のキ

ャリア形成にどの程度生かされたかを中心行いまし

た。

例えば、アントレプレナーシップ研究分野は事業を

企業する人材の育成が目的ですので、修了後に創業し

た人数を、アジア・ビジネス研究分野では留学生は帰

国後どのような役職や活躍をしているかを、都市公共

政策分野では自治体職員や地方議員はここでの学びを

実務の仕事でどのように生かしたかなどを調査しまし

た。この結果は外部評価委員会を通じ公開され、大学

院での教育がその後の学生さんのキャリア形成に大き

く役立っているという評価をいただきました。

4 FD研究・研修会での取り組み:研修会

で集中的に議論

教員を対象とした「FD研究・研修会」を年に 1度、

前期授業が終了した直後に実施しています。

この研修会は主に 2 部構成で、第 1 部はFDに関連

した専門家の講演、第 2部は研究科の改善に関する意

見交換です。外部の専門家による講演は、開設当初は

授業に関連するファシリテーションスキルや、社会人

大学院の現状と課題というようなテーマで実施しまし

た。最近は、アカデミックハラスメントや、個人情報

の管理やコンプライアンスなどを中心に実施していま

す。

そのほか、教員と学生の距離が近い大学院という特

徴を活かし、FDをさらに高めるためにも、学生とよ

り細やかなコミュニケーションを実施するため、それ

ぞれの分野で年に 2回程度、教員と学生が一堂に会す

る会議を設けています。会議の場では、研究科への疑

問や質問、改善点だけではなく、ワークショップのゲ

ストスピーカーのリクエスト、自主研究会への教員の

支援など、様々な話題が出ます。直接、学生のニーズ

や疑問に応えていく仕組みとして活用しています。

その他の取り組みとして、開設当初から 3 年間は

「経営評価委員会」という外部による評価委員会を実

施していました。九州大学の矢野先生、アート引越セ

ンターの寺田社長など、研究科の特徴を理解し意見を

言ってくださる方を委員とし、教育・研究、社会貢献

や組織体制といった基盤の評価を集中的に実施しまし

た。公立大学法人への移行に伴い経営評価委員会は廃

止され、現在は行っていません。

5 今後の課題:院生や卒業生との交流に

よる教育効果を

最後に、今後の取り組みと課題についてです。

今後も、基本は授業改善に取り組みや修了生からの

フィードバックを受けながらより良い研究科にしてい

くことは変わりません。加えて、修了生アンケートで

高いポイントである「院生とのネットワークや交流の

充実」を更に実施していきたいと思っています。更に、

修了生から「大学院に来て研究する面白さを知り、良

い癖と習慣がついたけれど、実務に修了してしまうと

なかなかそういう機会に触れることができない」とい

う声が多く聞かれ、在籍している学生からは、「卒業

生で活躍している人の話をじかに聞きたい」という声

が届きます。卒業生がワークショップの講師になるこ

ともありますが、それ以外の場でも「院生とのネット

ワークや卒業生同士との交流を活発化すること」がさ

らなる教育効果を生むと考えております。

今年度のホームカミングデイでは研究科の同窓会が

初めてプログラムを実施しました。今後はネットワー

クだけではなく、知の交流をどのように図っていくの

か、そういった基盤整備をどこまで支援できるのかが、

研究科としての課題だととらえています。