単身低所得高齢者の支援のあり方に関する一考察 ·...

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89 災で亡くなった高齢者が、都内から移ってきた 単身の生活保護受給者であったことは、このよ うな単身低所得高齢者の受け皿不足と、やむを 得なく「貧困ビジネス」を活用し、住み慣れた 地域から離れて暮らさざるを得ない実態を浮き 彫りにした事件であった。 しかしながら、今後、単身低所得高齢者の抱 える課題は更に表面化、深刻化すると思われ る。平成22年国勢調査では65歳以上の7人に1 人以上が1人暮らしであるとし、その割合は増 加している。一方で、平成23年国民生活基礎調 査では、高齢者世帯は所得の7割近くを年金に 依拠し、約4割が年収200万円未満であってそ の所得は年々減少していることを示している上 に、厚生労働省「福祉行政報告例」では、被保 護単身高齢者世帯は平成7年度は224,104世帯 であったのに対して、平成23年9月では567,447 世帯と増加傾向にあることを明らかにしてい る。このように単身高齢者が増加し、高齢者層 A Study about the Conditions of Support for Low Income Elderly Living Alone 単身低所得高齢者の支援のあり方に関する一考察 1.はじめに 単身低所得高齢者は特有の生活課題を有して いる。「単身」であることは、社会や家族との 繋がりが乏しくなる傾向にあり、「低所得」で あることは、様々な生活場面で選択肢が限られ る。また「高齢者」は疾病にかかりやすく、後 遺症による長期の療養を必要とする場合も少な くない。更に、「単身」「低所得」「高齢者」 と条件が重なることで、課題はより複雑にな り、「住まい」の喪失、サービスアクセスの格 差といった生活基盤的な課題と、家族的支援の 欠如による社会関係的課題が併せて生じる。例 えば身寄りがなく保証人がいないことに加えて 低所得であるため有料の保証人ビジネスを活用 できない高齢者は、やむなく法的位置づけのな い、あるいは悪環境、遠方の住宅・施設等を選 択せざるを得ないというようなことも起こり得 る。 2009年に群馬県の施設「静養たまゆら」の火 渡 辺    央 Chika WATANABE Chika WATANABE 応用心理学部 福祉心理学科(Department of Social Work and Psychology)

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Page 1: 単身低所得高齢者の支援のあり方に関する一考察 · 齢者の割合(高齢化率)を算出したことを契機 に各研究においても65歳以上を高齢者としてみ

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災で亡くなった高齢者が、都内から移ってきた

単身の生活保護受給者であったことは、このよ

うな単身低所得高齢者の受け皿不足と、やむを

得なく「貧困ビジネス」を活用し、住み慣れた

地域から離れて暮らさざるを得ない実態を浮き

彫りにした事件であった。

 しかしながら、今後、単身低所得高齢者の抱

える課題は更に表面化、深刻化すると思われ

る。平成22年国勢調査では65歳以上の7人に1

人以上が1人暮らしであるとし、その割合は増

加している。一方で、平成23年国民生活基礎調

査では、高齢者世帯は所得の7割近くを年金に

依拠し、約4割が年収200万円未満であってそ

の所得は年々減少していることを示している上

に、厚生労働省「福祉行政報告例」では、被保

護単身高齢者世帯は平成7年度は224,104世帯

であったのに対して、平成23年9月では567,447

世帯と増加傾向にあることを明らかにしてい

る。このように単身高齢者が増加し、高齢者層

A Study about the Conditions of Support for Low Income Elderly Living Alone

単身低所得高齢者の支援のあり方に関する一考察

1.はじめに

 単身低所得高齢者は特有の生活課題を有して

いる。「単身」であることは、社会や家族との

繋がりが乏しくなる傾向にあり、「低所得」で

あることは、様々な生活場面で選択肢が限られ

る。また「高齢者」は疾病にかかりやすく、後

遺症による長期の療養を必要とする場合も少な

くない。更に、「単身」「低所得」「高齢者」

と条件が重なることで、課題はより複雑にな

り、「住まい」の喪失、サービスアクセスの格

差といった生活基盤的な課題と、家族的支援の

欠如による社会関係的課題が併せて生じる。例

えば身寄りがなく保証人がいないことに加えて

低所得であるため有料の保証人ビジネスを活用

できない高齢者は、やむなく法的位置づけのな

い、あるいは悪環境、遠方の住宅・施設等を選

択せざるを得ないというようなことも起こり得

る。

 2009年に群馬県の施設「静養たまゆら」の火

渡 辺    央*

Chika WATANABE *

* Chika WATANABE 応用心理学部 福祉心理学科(Department of Social Work and Psychology)

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014)

当たりの可処分所得(等価可処分所得:世帯所

得を世帯人員の平方根で除して求めている)中

央値の50%以下で生活する人を「低所得者」ま

たは「貧困者」とした上で、厚生労働省「平

成19年度国民生活基礎調査」(2007年)の資料

を参考に、65歳以上の高齢者に占める低所得者

の割合の22%は、OECD30ケ国の平均値である

13%を上回り、国際的にみても高い水準にある

ことを示唆している。

 このように、「低所得」「高齢者」につい

て、一定の行政基準などがあるものの、制度や

研究者の関心領域により解釈が異なっているた

め、研究を進めるにあたっては操作的定義を行

う必要がある。

 一方、NPO法人自立支援センター「ふるさ

との会」では、「困窮・単身・要介護・高齢/

障害者」を「四重苦を抱える人」として支援を

行っているが、報告書(2010)の中で、これに

該当する人を「65歳以上の単身者であり、生活

保護受給者で介護扶助を受給している人」とし

ており、2010年10月現在で少なく見積もって全

国で67,496人、東京都だけで11,310人と推計し

ている。本研究の対象者、単身低所得高齢者は

必ずしも要介護状態であるとは限らないが、高

齢者は疾病の後遺症から長期療養を必要とする

状態になりやすいことから、この数値は一つの

参考にすべき目安と言える。

 ただし、この推計は、生活保護に関する行政

資料から試算しているため、この数字に国民基

礎年金だけで暮らすなどの低所者数は含まれて

いない。したがって、生活保護受給者に限らな

い単身低所得高齢者数は遥かに多いことは想像

に難くない。

3.単身低所得高齢者の生活課題

 単身低所得高齢者に焦点を当てた研究は少な

い。しかし、「単身高齢者」、「低所得高齢

の貧困化が暗示される中、単身低所得高齢者の

抱える課題はごく一部の限られた人達のもので

はなくなることが容易に予測され、その生活を

地域で支えるしくみ作りが急がれる。

 本稿の目的は、これらの単身低所得高齢者の

抱える生活課題を先行研究などから整理し、ま

た支援の取り組みの実践例を確認することで、

より普遍的な支援策を考える端緒とすることで

ある。

2.単身低所得高齢者とは

 はじめに、単身低所得高齢者の定義と現状値

を確認する。

 「単身」については、社会関係的密度の差異

はあるものの世帯員が一人の者と解釈できる。

しかし「高齢者」については、さまざまな定

義・規定がなされている。1956年に国際連合が

65歳以上を「高齢者」として全人口に占める高

齢者の割合(高齢化率)を算出したことを契機

に各研究においても65歳以上を高齢者としてみ

なすことが多いが、法律制度はその規定が異な

る、あるいは高齢者の年齢を定義していないも

のも少なくない。

 更に、「低所得」についても多様な解釈によ

る表現はありながらも明確な定義はない。厚生

労働省は援助・軽減策の適用基準(行政基準)

を「市町村民税非課税者等」としてこの基準に

該当するものを低所得者とみなしているが、一

方で先行研究を見てみると、西(2005)は公営

住宅の入居者を対象とした単身高齢者の居住空

間の研究において、公営住宅法で定める年間の

収入上限額以下の者、さらに不動産や家族とい

う資産など継承資産を有しない者を低所得層と

定義している。

 また、藤森(2012)は高齢者の貧困率を世帯

類型別・配偶者関係別に考察しているが、世帯

の合計可処分所得を世帯人員数で調整した一人

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単身低所得高齢者の支援のあり方に関する一考察

は「孤立」との関連を通して緊密に影響し合っ

ているといえる。

2)単身低所得高齢者の生活課題

 次に、単身低所得高齢者の生活課題を生活基

盤的課題と社会関係的課題に関連して整理す

る。

(1)生活基盤的課題

 生活基盤的課題としては、衣食住や、就労に

関連することなどが想定されるが、ここでは生

活基盤の柱となる「住まい」について考えてみ

る。まず、施設等については養護老人ホームや

特別養護老人ホーム(以下「特養」)といった

低額で利用できる施設があるが、周知の通り慢

性的な供給不足である。特に東京都の受け皿不

足は深刻で、介護3施設(特養、老人保健施設、

介護療養型医療施設)と居住系サービス(特定

施設入所者生活介護、グループホーム(以下

「GH」))の 65 歳以上人口に対する整備率は 3%

にすぎない。また、生活困窮者や生活保護受給

者を対象とした無料低額宿泊所や救護施設は高

齢者の受け皿として想定されたものではない。

 同じく持ち家がない場合の低額の住宅として

は公営住宅があるが、入居は高い倍率になって

いる。近年増えている安否確認と生活相談サー

ビスを提供するサービス付き高齢者向け住宅

は、それなりに安価なものも普及し始めている

が、多くは厚生年金受給者を対象とした料金設

定となっている。また、東京都では2010年度か

ら軽費老人ホームの基準が緩和された「都市型

軽費老人ホーム」を事業化し、生活保護受給者

や低所得高齢者も利用可能としているが、充足

する見通しは難しい上に要介護度の軽度の人を

対象に想定しているところが多いため、継続し

ての生活が困難になることも予測される。

 一方、先述したように、単身低所得高齢者の

賃貸住宅や施設・病院への入居等にあたっては

者」についての先行研究は数多くあり、また各

要素間は関連も見受けられる。そこで、ここで

は主に単身低所得高齢者の抱える生活課題に関

わる先行研究を各要素間の関連を踏まえた上で

概観する。

1�)「単身」「低所得」「高齢者」の関連

 まず、「単身高齢者」と「貧困」の関連で

は、藤森(2012)が世帯類型別に高齢者の貧困

率を整理しているが、男女ともに貧困率が最も

高いのは「単身世帯」の「未婚者」「離別者」

であることから、今後の高齢者人口に占める単

身者や未婚者の比率の上昇に伴って高齢者の貧

困率が高まっていく可能性が高いとしている。

 また、「単身高齢者」については多くの研究

で「孤立」との関連が指摘されている。内閣府

の「高齢者の地域におけるライフスタイルに関

する調査」(2010年)によると、ふだんの近

所付き合いが「ほとんどない」高齢者は5.9%

であるが、単身世帯では11.9%と倍になる。ま

た、「孤独死」についても他の世帯に比較して

単身世帯の高齢者が「身近な問題」と感じる割

合は64.7%と高い。

 一方、「低所得高齢者」についても黒岩

(2008)は、東京都新宿区で2006年から行って

いる一人暮らし被保護高齢者を対象とした「孤

独死予防」の見守り事業の例を取り上げ、「貧

困」と「孤立」は強く結びついていることを指摘

しており、さらに、河合ら(2006)は低所得・貧

困の人ほど「社会的孤立」を測定するために用

いた尺度得点が高いことを示した上で、社会的

孤立状態をひとり暮らし高齢者における貧困状

態の一側面として位置づけている。また、山口ら

(2013)も、独居高齢者は所得階層が低いほど、

非親族だけでなく家族のネットワークも乏しくな

ることを示唆している。

 このように、「単身」「低所得」「高齢者」

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014)

いる。また、岡田(2010)は、高齢単身者など

の自助・互助機能が弱り欠落する人々に対し、

生活と各種サービスをつなぐために対象者の生

活に寄り添った家族的な「伴走機能」が必要で

あるとしている。

 更に綾部ら(2013)は大都市における単身の

要援護状態にある低所得高齢者に対してイン

フォーマルな関わりが重要だとし、それを、わか

らない事や心配事、寂しさといった不安への支

援や安心感を与える情緒的関わり、外出同行移

動に関する手段的な関わりとして挙げている。

 実践例では、先述したNPO法人自立支援セ

ンター「ふるさとの会」において、自助・互助

を失った四重苦を持つ人々に対して、住宅事業

とともに、24時間体制の「生活支援」を付随し

た「支援付き住宅」の提供や、同じ地域の単

身の困窮者で何らかの疾患を抱えた高齢者など

を対象に、訪問・相談・見守り等を行うための

ネットワークを構築している。

 この代表理事である水田(2012)は、家族的

支援が欠如している四重苦の人への支援につい

て、その人の生活に合わせたケアや時間、空

間、日常の中でのコミュニケーションが大切で

あるとし、更に医療・福祉サービスへの〈つな

ぎ〉だけではなく、サービスを利用するために

同行する人、の存在を強調している。同じく粟

田(2011)は、この四重苦の人達が求めている

日常生活支援について、「困った時、寂しい時

の相談」「病気になった時の相談」「受診予

約」「通院同伴」「制度利用についての相談・

手続きの支援」「食事の準備」「居住環境の保

持」「日常的な金銭管理」「服薬管理」などが

上位にあることを示した上で、情緒的、情報的

(知らないことを教えてくれる)、手段的ソー

シャル・サポート(服薬を手伝うなど)といっ

た家族が普段行っていることを「家族的支援」

として統合的・連続的に提供することが重要だ

保証人の問題が浮上する。これに対しては、高

齢者住宅財団の賃貸住宅の家賃債務等を保証す

る家賃債務保証制度、伊賀市社会福祉協議会に

おける、保証人に求められる「保証機能」を地

域の社会資源で担う「地域あんしん保証システ

ム」などの支援策があるものの未だ取組みは限

定的である。更に、法定後見人・任意後見人の

身上監護との関連においては、例えば入院・入

所時の契約の締結や費用の支払い、医師からの

病状説明の同席などはできるが医療同意も含め

ていわゆる「保証人」にはなれない。

 このように、単身低所得高齢者の「住まい」

の支援策は従来の取り組みにおいてそれなりに

存在するが、実態としてはそのような人たちを

容易に受け入れてはいない。和気ら(2011)

は、介護を要する被保護高齢者の受け皿がない

ために都内外の法外施設への入所を余儀なくさ

れる都内被保護高齢者の実態を調査し、社会の

都合で遠方の施設に処遇されてしまうことが正

当化されていることに異を唱えているが、この

ような排除の構造は、「住まい」に限らず、生

活の様々な場面で見られ、適切なサービスを選

択できないなどのサービスアクセスの格差をも

生み出しているといえる。

(2)社会関係的課題

 家族という支援機能がない単身低所得高齢者

には既存の医療・保健・福祉・住宅資源だけで

は支援が難しい。

 山田(2010)は貧困化を「社会的周縁化」の

課程として捉え、高齢者の貧困・生活問題は過

去の生活課程おける社会周辺化により創出さ

れ、堆積し形成されるとしているが、その「社

会周辺化」された高齢者の抱える問題は、金銭

給付や住居提供だけでは解決不可能であって、

居場所、社会からの容認、選択の自由が用意さ

れ続けている社会システムの必要性を示唆して

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単身低所得高齢者の支援のあり方に関する一考察

について調査することとした。今回の調査対象

を支援団体がインターネット上で公開している

情報としたのは、その活動や設立背景が曖昧な

ものも中には存在し、且つ連絡をとることが困

難な団体も少なくないからである。そのため、

本調査を今後の詳細な実態調査の前段階とし

て、大まかな概要を掴むためのプレリミナルな

ものと位置づける。

2)調査対象と調査期間

 調査対象は下記の支援団体一覧に掲載されて

いる団体である。ホームページが存在しない、

あるいは更新が長期にわたって行われていない

団体については、他の団体のホームページや支

援者のブログなどから活動が確認できるもの以

外は対象から除外したところ、最終的な調査対

象の支援団体は103件であった。

 調査期間は2013年6月15日~2013年6月29日で

ある。

①全国のホームレス支援団体HP一覧表

http://www.asahi-net.or.jp/~kg8h-stu/sien-

danntai.html#back to top

②NPO法人ホームレス支援全国ネットワーク

ht tp : / /www .home l e s s - n e t . o rg/h tm l /

membership.html

3)調査方法と調査項目

 調査方法は、支援団体や関連機関のホーム

ページの全ての掲載欄より、活動拠点、設立

年、活動内容と支援対象に関連するキーワード

を抽出し、その項目の有無について団体を分類

した。当然、現実にはホームページに明記して

いない活動の実施や支援対象が存在すると思わ

れる。また、特に高齢化に伴い、「高齢者」を

支援対象に明記していなくても様々な場面で高

齢者が対象に含まれているであろう。しかし、

調査の制約に加えてホームページには支援団体

としている。

 これらのことから、複雑な課題を有する単身

低所得高齢者の支援を考えるとき、「住まい」

などの生活基盤を整える支援は当然ではある

が、それだけではなく、先行研究からも関連が

示された「孤立」への対応を含めた、普段家族

が行っている「家族的支援」を中心とする多方

面からの包括的・継続的な支援が期待される。

しかし、低所得であり単身で生活継続が困難な

高齢者への支援の実態は、現在の制度の枠組み

だけでは機能しておらず、特に「家族的支援」

に関連する多くはインフォーマルな支援によっ

て支えられている。

4.支援団体の活動の分析

1)調査の概要

 単身低所得高齢者に対するインフォーマルな

支援の実施者の一つとして、ホームレス支援団

体がある。ホームレス支援団体には、路上訪問

を行って生活や健康などの相談を受け、福祉制

度の活用などを支援する団体、食事や衣料品、

日常品の配布を行う団体、行政に働きかけて法

整備の為の活動を行う団体、フードバンクなど

間接的な支援を行う団体などが存在するが、そ

の活動の内容や組み合わせは多様である。ま

た、近年は、支援対象もホームレスだけでなく

その予備軍や、高齢化を背景に生活に困窮して

いる高齢者への支援を強化している団体もあ

る。

 そこで、単身低所得高齢者に対する「家族的

支援」の実践と、その必要性をインフォーマル

な取り組みから確認するため、ホームレス以外

の低所得の高齢者をも対象として支援を展開し

ている支援団体の存在に着目し、支援団体がイ

ンターネット上で公開している情報から、団体

の概要・活動内容・支援対象の状況と、とりわ

け単身低所得高齢者と「家族的支援」との関連

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014)

(図1)支援団体の活動拠点

 また、法人は一般社団法人、社会福祉法人、

株式会社、有限会社など様々であるが特定非営

利活動法人(以下「NPO 法人」)が 48 件と半

数近くを占めていた。

 設立年をみてみると(表1)、バブル崩壊後

に多く設立されているなど、景気動向との関連

が想定される。一方で、特定非営利活動促進法

施行(1998年12月)以降の設立は76件であり、

およそ3分の2にのぼるが、法施行以前に設立

した団体がその後NPO法人に移行した例もあ

るものの、法施行が支援団体設立の促進になっ

が強調したい内容を掲載している場合が多いこ

とを考慮し、今回の調査はあくまで掲載内容か

らの抽出とした。

 活動内容と支援対象者の調査項目は計37項目

であり、下記とおりである。

【活動内容】

 活動内容は下記の31項目である。

① 生活基盤に関連する項目として、「夜回り」

「食事の配布」「食材管理」「衣類・日用品

配布」「専門相談(健康・法律)」「電話・

メール相談」「衛生(散髪・入浴・歯磨き教

室)」「無料診療」「住まいの支援」「就労

支援」「職業訓練」「製造・販売・便利屋・

住宅改修」「食堂・給食の運営」「施設(特

養・ケアハウス・グループホーム)」「介護

サービス」の15項目とした。

② 家族的支援に関連する項目として先述した先

行研究を踏まえて「生活相談」「交流・居場

所づくり」「生活保護・年金手続き同伴」

「病院付き添い・見舞い」「孤立対策・安否

確認」「服薬・金銭管理」「保証人」の7項

目とした。

③ その他の活動を「集会・デモ」「調査・研

究」「広報活動」「貸与金」「支援団体組織

化」「人材育成」「当事者の表現(雑誌・

ネット)」「被災地支援」「勉強会・寄り合

い」の9項目とした。

【支援対象者】

 「生活困窮者」「ホームレス」「子ども」

「高齢者」「障害者」「出所者(触法要保護者

含む)」の6項目とした。

4)調査結果

 支援団体の活動拠点は、図1のように大阪25

件、東京24件と大都市に集中していた。続いて

北海道8件、神奈川と福岡6件であった。

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単身低所得高齢者の支援のあり方に関する一考察

非常に多岐に渡っていた。

 家族的支援の関連の項目については、「生活

相談」は約半数、「交流・居場所づくり」「生

活保護・年金手続き同伴」は約3割、「病院付

き添い・見舞い」「孤立対策・安否確認」は約

2割が実施していた。また、「保証人」として

の支援の実施は約1割であった。

 支援対象者は、図4のように「ホームレス」

とは別に「生活困窮者」に相当する掲載がある

のは約半数、「高齢者」と明記がある団体は約

2割にのぼった。

 ちなみに、施設(特養・ケアハウス・GH)

を運営している団体は2件、介護サービスを展

た可能性が伺える。

 支援団体のホームページに明記されている生

活基盤の関連・その他の活動内容は図2、家族

的支援に関連する活動内容は図3のようになっ

た。生活基盤の関連では衣食住に関する支援を

中心に、その他の活動では、広報活動、人材育

成、勉強会などが実施されており、その内容は

(表1)支援団体の設立年設立年 件

設立年不明 5

~1990年(バブル崩壊地価下落1991年) 5

1991年~2008年(リーマンショック2008年9月) 78

2009年~ 15

(図2)

活動内容(生活基盤の関連・その他)

(図3)

(図4)

活動内容(家族的支援の関連)

支援対象者

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014)

まとめと今後の課題

 ホームレス支援団体は都市部を中心に多様な

支援活動を展開していた。とりわけ、「高齢

者」と明記している団体は、そうでない団体に

比べて家族的支援の関連項目を実施している傾

向にあった。また、家族的支援の関連項目を3

つ以上実施し、かつ「高齢者」を支援対象と明

記している団体は「ホームレス」とは別に「生

活困窮者」をも対象としていたことから、該当

団体は、ホームレスに限らず生活に困窮してい

る高齢者に様々な家族的支援に関連する活動を

行っていることが分かった。これらのことから

も、単身低所得高齢者の支援において「家族的

支援」との関連やその必要性が暗示される。

 複雑な課題を有する単身低所得高齢者の支援

を考えるとき、「住まい」などの生活基盤を整

える支援だけでなく、「家族的支援」を含めて

包括的・継続的になされる必要性が浮かび上が

る。そのような支援を主にインフォーマルなも

のとして実施している支援団体の実践はまだ限

られたものでしかなく、また制度化されていな

い「家族的支援」の任い手や支援の対価に関す

る課題もある。しかし、その活動の展開過程か

ら、あるいは、支援を受けている対象者の体験

から、単身低所得高齢者のニーズに迫り、実践

の普遍化を探る1つの可能性が伺える。

 増え続けていく単身低所得高齢者に対しての

支援の枠組みを地域で構築していくことは、そ

開している団体は、4件であったが、いずれも

支援対象者に「高齢者」と明記していた。

 次に、「高齢者」を支援対象と明記している

支援団体が家族的支援の関連項目を実施してい

るかを確認するのに、クロス表を作成した。

 7項目中、「病院付き添い・見舞い」以外の「生

活相談」「交流・居場所づくり」「生活保護・年

金手続き同伴」「孤立対策・安否確認」「服薬・

金銭管理」「保証人」の 6 項目は「高齢者」の

明記が「ない」団体より「ある」団体の方が実

施率が高かった。(表 2)(表 3)

(表 2) 「高齢者」「入居後孤立対策・安否確認」クロス表

入居後孤立対策・安否確認 合 計

あり なし

高齢者

あり度数 6 14 20

高齢者の % 30.0% 70.0% 100.0%

なし度数 19 64 83

高齢者の % 22.9% 77.1% 100.0%

合 計度数 25 78 103

高齢者の % 24.3% 75.7% 100.0%

(表 3) 「高齢者」「保証人」のクロス表

保証人

合 計あり なし

高齢者

あり度数 4 16 20

高齢者の % 20.0% 80.0% 100.0%

なし度数 7 76 83

高齢者の % 8.4% 91.6% 100.0%

合 計度数 11 92 103

高齢者の % 10.7% 89.3% 100.0%

 また、表4に示すように、家族的支援に関連

する項目を3つ以上実施しており、かつ「高齢

者」も支援対象として明記している団体は8

件あった。これらは、いずれも支援対象者に

「ホームレス」とは別に「生活困窮者」に相当

する掲載があった。

(表 4)「高齢者」「家族的支援の関連項目を 3つ以上実施」

家族的支援の組み合わせ 件数

生活相談 手続き同伴 病院付き添い 1

生活相談 手続き同伴 孤立・安否 1

生活相談 手続き同伴 孤立・安否 保証人 1

生活相談 手続き同伴 孤立・安否 居場所 2

生活相談 手続き同伴 病院付き添い 保証人 2

生活相談 手続き同伴 孤立・安否 居場所 服薬・金銭 保証人 1

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単身低所得高齢者の支援のあり方に関する一考察

テム構築の方法に関する研究 報告書」

特定非営利活動法人自立支援センターふるさと

の会(2011)「重層的な生活課題(「四重

苦」)を抱えた人に対する在宅支援のあり

方の研究」

西律子(2005)「都市周辺部における単身高齢

者の居住空間」お茶の水大学大学院人間文

化研究科博士学位論文.

藤森克彦(2012)「低所得高齢者の実態と求

められる所得保障制度」『年金と経済』

30,23-31.

水田恵(2012)「生活支援と在宅医療・介護の

連携が可能にする地域包括支援」『ふるさ

との会主催・支援付き住宅推進会議共催

2012年度シンポジウム』27-32.

宮島俊彦・水田恵・高橋紘士(2012)「低所得

高齢者の住宅確保をどうするか」『財団

ニュース』110.高齢者住宅財団.

山口麻衣・森川美絵・山井理恵(2013)「災害

時、緊急時、日常における地域の支え合い

の可能性と課題 -大都市の団地居住高齢

者の支えあい意識の分析-」『日本の地域

福祉』26.53-62.

山田知子(2010)「大都市高齢者層の貧困・生

活問題の創出課程」,学術出版.

和気純子・副田あけみ・岡部卓(2011)「在宅

生活が困難な被保護高齢者の支援に関する

一考察 ~福祉事務所および法外施設等へ

の実例調査から~」『首都大学東京都市教

養学部人文・社会系 人文学報. 社会福祉

学』 27, 27-65.

        

平成22年国勢調査

平成23年国民生活基礎調査

内閣府(2010)「高齢者の地域におけるライフ

スタイルに関する調査」

の予備軍といえる手前の高齢者の支援をも包摂

することに通じると思われる。今回の調査はプ

レリミナルなものとして、あくまで限られた情

報を基に実施したものである。今後は、具体的

な現場の実態を丁寧に拾い上げ、あるべき方向

性について模索していきたい。

参考引用文献

綾部貴子(2013)「大都市における単身の要援

護状態にある低所得高齢者の実態 ―イン

フォーマル資源とのかかわりの現状に焦点

をあてて―」『日本社会福祉学会 第61回

秋季大会』

粟田主一(2011)「生活困窮者の心の健康問題

と日常生活支援」ふるさとの会シンポジウ

ム講演資料.

大友芳恵(2012)「人生の終焉にある低所得者

高齢者 ―尊厳軽視の実態―」北海道大学

大学院教育学院学位論文.

岡田朋子(2010)「支援困難事例の分析調査」

ミネルヴァ書房.

黒岩亮子(2008)「高齢者の『孤立』と福祉施

策 ―『関係的孤立』と『地域活動型』ア

プローチの矛盾-」日本女子大学博士学位

論文.

河合克義・菅野道生(2006)「港区におけるひ

とり暮らし高齢者の生活と社会的孤立問

題」『賃金と社会保障』1432.4-35.

榊原智子(2012)「生活困窮者の増加と生活保

護制度の改革」『社会福祉研究』115,103-

107.

高橋良太(2011)「『無縁社会』への『新しい

公共』の挑戦」『社会福祉研究』110.188

‐189.

特定非営利活動法人自立支援センターふるさと

の会(2010)「高齢被保護者等の地域にお

ける居住確保とケアのニーズ調査及びシス