保育者養成の現状と課題 - aoyama gakuin women's …総合文化研究所年報...

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19 総合文化研究所年報 第26号(2018)pp.19−31 保育者養成の現状と課題 ―養成環境を中心として― 浅見 均 〈要旨〉 本論文は、大学における保育者養成の現状と課題について述べたものである。 現在4年制大学は、幼稚園免許と保育士資格の両方が取得できる様になりつつある。 このことは、保育の質を上げる上で大きく貢献するものと思われる。 本論文は、特に保育者養成(幼稚園教諭及び保育士)を行なっている4年制大学の 養成環境について、附属施設等を中心に考えている。具体的には西南学院大学の「舞 鶴幼稚園」、「早緑子供の園」、「西南子どもプラザ」、北陸学院大学の「北陸学院第一 幼稚園」、「赤ちゃんサロン」への実態調査から考察したものである。 この調査から見えてきたものは、保育者養成をするに当たり、大学の養成への理念、 姿勢を付属施設を通して具体的に示すことは、学生の学びに極めて重要であるという ことである。 キーワード:保育者養成 幼稚園 保育所 子育て支援 はじめに 教員養成は国、公、私立、4年制大学、短期大学、専修学校等において行なわれている のが現状である。その内容も、 幼・小・中・高の教職課程と多岐 に渡っている現状がある。 本研究では、大学に於ける幼稚 園教諭及び保育士の養成に、焦点 をあてて考えていくこととする (なお厳密には教員養成の中には 保育士養成は含まれないが、保育 者養成として考えて行く場合は 幼稚園免許と保育士資格両方を 平成 1年 平成 5年 平成 10年 平成 15 平成 20年 平成 25 平成 26 大学 20 21 28 89 191 240 250 短期大学 220 221 217 236 265 242 241 専修学校 55 52 59 82 102 115 127 その他養成校 40 32 28 8 5 4 4 0 50 100 150 200 250 300 養成校数 学校別保育士養成校推移グラフ1

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Page 1: 保育者養成の現状と課題 - Aoyama Gakuin Women's …総合文化研究所年報 第26号(2018) 保育者養成の現状と課題 21 上級学校として1940年に創設された「西南保姆学院」である。当時福岡バプテスト教会の

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■ 総合文化研究所年報 第25号(2017)pp.PB −1 ■ 総合文化研究所年報 第26号(2018)pp.19−31

保育者養成の現状と課題―養成環境を中心として―

浅見 均

〈要旨〉 本論文は、大学における保育者養成の現状と課題について述べたものである。現在4年制大学は、幼稚園免許と保育士資格の両方が取得できる様になりつつある。このことは、保育の質を上げる上で大きく貢献するものと思われる。 本論文は、特に保育者養成(幼稚園教諭及び保育士)を行なっている4年制大学の養成環境について、附属施設等を中心に考えている。具体的には西南学院大学の「舞鶴幼稚園」、「早緑子供の園」、「西南子どもプラザ」、北陸学院大学の「北陸学院第一幼稚園」、「赤ちゃんサロン」への実態調査から考察したものである。 この調査から見えてきたものは、保育者養成をするに当たり、大学の養成への理念、姿勢を付属施設を通して具体的に示すことは、学生の学びに極めて重要であるということである。

キーワード:保育者養成 幼稚園 保育所 子育て支援

はじめに

教員養成は国、公、私立、4年制大学、短期大学、専修学校等において行なわれているのが現状である。その内容も、幼・小・中・高の教職課程と多岐に渡っている現状がある。本研究では、大学に於ける幼稚

園教諭及び保育士の養成に、焦点をあてて考えていくこととする(なお厳密には教員養成の中には保育士養成は含まれないが、保育者養成として考えて行く場合は幼稚園免許と保育士資格両方を

保育者養成の現状と課題

―養成環境を中心としてー

浅見 均

<要旨>

本論文は、大学における保育者養成の現状と課題について述べたものである。

現在4年制大学は、幼稚園免許と保育士資格の両方が取得できる様になりつつある。このこ

とは、保育の質を上げる上で大きく貢献するものと思われる。

本論文は、特に保育者養成(幼稚園教諭及び保育士)を行なっている4年制大学の養成環境

について、附属施設等を中心に考えている。

具体的には西南学院大学の「舞鶴幼稚園」、「早緑子供の園」、「西南子どもプラザ」、北陸

学院大学の「北陸学院第一幼稚園」、「赤ちゃんサロン」への実態調査から考察したものであ

る。

この調査から見えてきたものは、保育者養成をするに当たり、大学の養成への理念、姿勢を付

属施設を通して具体的に示すことは、学生の学びに極めて重要であるということである。

キーワード: 保育者養成 幼稚園 保育所 子育て支援

はじめに

教員養成は国、公、私立、4年制大学、短期大学、専修学校等において行なわれているのが

現状である。その内容も、幼・小・中・高の教職課程と多岐に渡っている現状がある。

本研究では、大学に於け

る幼稚園教諭及び保育士

の養成に、焦点をあてて

考えていくこととする

(なお厳密には教員養成

の中には保育士養成は含

まれないが、保育者養成

として考えて行く場合は

幼稚園免許と保育士資格

両方を含めて考えること

が重要であるとの認識で

含めて考える事とする)。

保育士養成を行なっている大学、短期大学、専修学校等は平成29年4月 1 日現在では 669 校

平成1年

平成5年

平成10年

平成15年

平成20年

平成25年

平成26年

大学 20 21 28 89 191 240 250短期大学 220 221 217 236 265 242 241専修学校 55 52 59 82 102 115 127その他養成校 40 32 28 8 5 4 4

050100150200250300

養成校数

学校別保育士養成校推移グラフ1

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含めて考えることが重要であるとの認識で、含めて考える事とする)。保育士養成を行なっている大学、短期大学、専修学校等は平成29年4月1日現在では669校となっている。更にグラフ11)から見えて来るのは、4年生大学に於ける保育士養成が平成になってからの26年間で見ても急激に伸びており、平成26年には短期大学の養成校数241校を抜いて4年生大学の養成校が250校となっているということである。この事は、多くの人4年生大学では幼稚園の教職課程を持っており、昨今の社会に於ける子育て支援への高い関心、保育所不足などにより幼稚園免許及び保育士資格を併有したいと言うニーズが4年生大学レベルにおいても多くなってきたということでもあろう。また、乳幼児教育の重要性を感じている4年生大学が急増しているということでもある。このことは保育の質を高めるということにおいて良い傾向と言えよう。そのような状況の中、本稿では、とりわけキリスト教信仰に基づく大学における保育者

の養成環境を中心に考えていくこととする。言うまでもないが、マルコによる福音書10章14節には「子供たちをわたしのところに来

させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである」と述べられている。その意味もあってのことか、多くのキリスト教信仰に基づく大学では、乳幼児期を大切に思い、保育者養成課程(幼稚園教諭・保育士資格)を置いているといえよう。そこで、キリスト教信仰に基づいた大学における保育者養成の現状、特に附属施設等を養成環境と捉え考えていく事とする。

Ⅰ キリスト教信仰に基づく大学における養成環境の実際

ここでは、保育者養成を行なっているキリスト教信仰に基づく大学それぞれの養成環境として附属施設等を設けているのかについて西南学院大学および北陸学院大学への実地調査を含めてその現状および課題を考察していくこととする。

1、西南学院大学に於ける養成環境としての附属施設等について

⑴ 西南学院大学概要西南学院大学は「西南よ、キリストに忠実なれ」の建学の精神のもと1879年にアメリカ

南部バプテスト連盟外国局の宣教師C.K. ドージャー(Dozier)によって創設されたキリスト教教育を基盤とした学校である。

⑵ 保育者養成について当該大学には現在「児童教育学科」が設置されているが、その歴史については『児童教

育50年の歩み ―幼な子とともに−』という西南学院児童教育50周年記念行事実行委員会が1990年に刊行の資料に詳述されている。それによれば、その源流は小倉の西南女学院の

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上級学校として1940年に創設された「西南保姆学院」である。当時福岡バプテスト教会の管理下にあった「舞鶴幼稚園」を「西南保姆学院」の附属幼稚園としている。その後1944年に「保育専攻学校」と改名し、1944年「福岡保育専攻学校」と校名変更し、終戦直後戦災孤児のための養護施設「国児園(院)」を創り、現在の「早緑子供の園」(保育園)の起源となっている。1950年「福岡保育専攻学校」は「西南学院大学短期大学部」となり、さらに1974年には

「近年世界の教育会を通じて、幼児教育への関心が急速に高まってきているが、我が国においても、幼児教育機関の普及充実は、実に目ざましいものがある。これにともなって、今後幼児教育についての基礎的研究が、ますます深く追求されて行かねば成らないのは必然である。」2)として、更に「建学の精神に立って、幼児教育の諸分野における研究と実践に、指導的役割を果たす事のできる人材の育成をめざす」3)ということで西南学院大学の文学部に「児童教育学科」が増設された。西南学院大学の児童教育学科の歴史を概観してきたが、80年になろうとしている歴史の

中で「キリストに忠実なれ」の建学の精神のもと紆余曲折があったが4年制の大学の1学科となって、保育者養成を継続していることが理解出来る。更に、その歴史のなかで、地域に貢献するという事にもなるのであろうが「舞鶴幼稚園」及び戦災孤児の救済からはじまった「早緑子供の園」(保育園)などキリスト教の学校ならではのあり方でコミュニティーに根付きながら発展してきたことが窺える。

⑶ 現在における西南学院大学の養成環境としての附属施設上述してきたような歴史をもつ西南学院大学児童教育学科であるが、現在はどの様な養

成環境としての附属施設をもっているのか、2016年9月に実地調査を行なった。1)調査概要調査目的:�キリスト教信仰に基く大学における教員養成と養成環境としての附属施設

について知る調査対象:附属施設「早緑子供の園」「舞鶴幼稚園」「西南子どもプラザ」調 査 日:2016年9月13日(火)

2)調査結果a.「早緑子供の園」 ・所 在 地:福岡市中央区鳥飼1−6−5 ・認  可:1949年6月 ・設立主体:学校法人西南学院 ・定  員:90名

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当該園は、保育園であり、設立の経緯は上述したとおりであるが、「神様に愛され守られて成長していく、−一人ひとりの子どもを大切に」をモットーに保育をしており、特色としては「育児担当制」「流れる日課」「縦割り保育」「あそび」「わらべ歌」などが挙げられる。「育児担当制」とは、0歳からの2歳児を対象に、食事の介助、おむつの交換などをいつもと同じ保育士が

担当するというもので、特定の人と親密な愛着関係をもつと言うことが重要であるとの認識から行われているという。つまりその子の事を丸ごと分かる親のような役割を保育士が担うということである。「流れる日課」とは、1日のプログラムが子どもの

主体的な生活という事に主眼を置いて、大人の都合で待たされたり、急かされたり中断させられたりすることの無いように、心地よい1日を過ごせるようにという配慮からのものであるという。「縦割り保育」については、3歳から5歳の子どもの

混合の縦割りクラスを編成し、異年齢の子どもと過ごすことによって自分の成長に見通しをもち、自分の力を確認して、自信をもって自分を大切に感じることが出来るという考えのもと行われているという。「あそび」は、保育において中心となるものであり、子どもはあそびを通して学ぶ。当

該園でも、あそびを生活の中心におき、0歳児から年長児まで子どもたちが自分の遊びにしっかりと取り組むことができるように、道具、空間を工夫し、あそびの時間を大切にしているという。「わらべ歌」に関しては、暖かい肉声で聴くわらべ歌は子どもたちの情緒を安定させる

と共に、うたうことは、聴く力と柔らかな感性を育てるということで実践されている。先に述べたように、当該園は戦災孤児のためにつくられた施設より始まったものである

が、長い歴史の中で地域に根付き発展して来ている。そして、大学の附属施設としてプライドを持って保育を行い、地域に貢献している。収容定員も170名までは受け入れられるのではないかと言われているようだが、子どもにとっての最適な環境を用意することを考え、2016年9月現在106名で行なっているとの事であった。当該施設は保育園であり、西南学院の学生が実習に訪れる訳である。学園の建学の精神

のもと、しっかりとした保育理念と保育方法を持った園での実習は保育の在り方を学ぶのに最適な環境であるといえよう。

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b.「舞鶴幼稚園」 ・所 在 地:福岡市鳥飼1−6−1 ・創  設:�1940年 ・設立主体:学校法人西南学院 ・定  員:�160名(3歳児18名の3クラス、4歳

児30名2クラス、5歳児30名2クラス)

当該園は、西南学院の建学の精神のもと「共に そだとう ひかりのこ」をモットーに「キリスト教保育」「のびのび保育」「総合保育」「たてわり保育」を4本柱に保育が行なわれている。「キリスト教保育」では、神に愛されている自分を知り、他の人達を愛する喜びと生命

の大切さを知るということである。「のびのび保育」は、のびのび活動する中で、丈夫な身体を育て、自主性を重んじ個性

を生かしながら、楽しい仲間づくりをするということである。「総合保育」は、障がいをもった子供もともに育ちあう事をめざす。「たてわり保育」は、年齢の異なる子どもたちが活動や遊びを通して親しく交わること

を目指すという事である。

早緑子供の園は保育園であり、生活の組立が幼稚園としての当該園とは異なるが、キリスト教を中心に据えた教育をしている点では一致しており、共に縦割り保育を重視している点が興味深い。また、キリスト教の幼稚園らしく総合保育と称し、障がいをもった子どもともに育ちあう(一般的には統合保育或いは共生保育と称している)事を保育の柱の一つにしている所は素晴らしい。更に、どのクラスも複数担任制をとり、一人ひとりの子どもを大切にしようとする考え方が現れているといえよう。また、写真からも分かるように、園庭は土で、平たんでなく、でこぼことしていることがみて取れるが、多くの幼稚園では園庭は平らにして運動会などに支障が無いようにしているが、のびのび保育を謳っている当該園では、子どもが自由に遊ぶことを重視している事が見てとれる。園舎内の太い柱も作品の展示がなされ、ギャラリーになっている。また、創立100周年を迎えた当該園の園案内には、「長い歴史の中で変わらないもの、それは子どもにとって大切な事を追求して行く保育です。送迎バスも給食も制服もありません。長時間保育も有りません。それは『無い』事が子どもたちをのびのびこころ豊かにたくましく育てることを、永年の保育の中で確信しているからです」と謳っている。ともすると時代の流れに、親の

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ニーズに阿る傾向にある保育界にあって、保育や保育環境に対してさまざまな工夫がなされ、妥協をゆるさないゆるぎない保育者の姿勢、信念、意気込みが伝わってくる。早緑子供の園でもそう感じたが、大学の附属施設として実践を通して、保育者になろうとしている学生、実習生に対して保育は斯くある可しという大いなる刺激とメッセージを伝えているといえよう。

c.「早良区子どもプラザ 西南子どもプラザ」 ・所 在 地:福岡市早良区西新3−12−14 ・開   設:2007年7月4日 ・施設・設備:「遊び場」「授乳・食事の場」「中庭(砂場含)」 ・利�用�条�件:保護者同伴 ・実�施�内�容:遊び場の開放と、保健師による育児        相談、子育てに関する情報提供、子育てミニ講座など ・運   営:西南学院大学(OB・OG、教員、学生を含めた幅広いボランティアなど)

当該施設は、上記したように福岡市の委託を受けて、西南学院大学が行なっている「子どもプラザ」である。発足は2007年7月4日で、そして2017年2月に利用者が30万人を超したという事である。年間3万人、月2500人、日104人(24日として)という事になり、大盛況ということが窺える。コミュニティーの子育てセンターとしての役割を見事に果たしているといえよう。その理由として、「ミニ講座」と称して学内外

からの講師により子育てから経済などまで幅広い内容です行われている。また、保健師を招いての子育て相談、学生による絵本タイム、international�day という外国人親子への働き掛け、西南学院大学のOB教員として、児童福祉や臨床心理学が専門の先生なども参加という幅広さが魅力なのだといえよう。また、子どもプラザ長の教員も児童教育学科の教員に限らず、学部学科を跨いでの全学的な取り組みになっているという。

以上、西南学院大学の保育者養成の環境としての附属施設について実地調査をふまえて、述べてきたが、大学における保育者養成について考える時に、多くの示唆を得たように思う。即ち、教員養成、特に保育者養成においては、学生は、教職・保育課程の履修だけでは十分ではなく、養成環境として、西南学院大学のように、附属的な幼稚園、保育園を備え、さらに子育

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て支援のあり方をも模索する施設を地方自治体との連携において取り組むという姿、当該大学の理念、建学の精神を踏まえた理想の保育の形はこうであるというモデルを示し、そこにおいて実習することにより、保育の方法はもとより、コミュニティーに根ざす保育施設のあり方などなど様々な学びをしているのだということである。

2、北陸学院大学に於ける養成環境としての附属施設等について

⑴ 北陸学院大学概要当該大学は、1885年メリー・K・ヘッセルという米

国女性宣教師により創られた「金沢女学校」がその源流である。建学の精神は旧約聖書詩編111編10節からとった「主(神)を畏れることは知恵の初め」である。そして、教育方針として、キリスト教精神に基づいて人間についての理解と学びを教育や社会の視点から総合的にとらえ、知識を統合していくことを教育および研究上の目的とし、その達成を通じて専門的知識とともに幅広い教養に裏打ちされた心の豊かさや人間的資質を備えた人材の育成を目指している。

⑵ 保育者養成の歴史北陸学院の歴史を遡ると、1885年「金沢女学校」を創設、1886年「英和幼稚園」と「英

和小学校」を創設したが、「英和幼稚園」は「北陸女学校」(金沢女学校)の「北陸女学校附属幼稚園」(1912年)となり、北陸女学校の卒業生を附属幼稚園の保姆として採用し始めたということである。1905年に米国長老教会婦人宣教師ジャネット・ジョンストンが北陸女学校に着任し、彼女は米国の大学で幼児教育を専攻し、園長にも就任し附属幼稚園を創設するに至ったのである。ジョンストンは「北陸女学校の卒業生の進路の一つに幼稚園保母というものがあり、北陸女学校の卒業生がその保母となってキリスト教保育にあたること、これがまた彼女達にとっての望ましい将来像の一つ」4)であると確信していたということであり、このあたりから保育者養成が始まっていったといえよう。この年「第二幼稚園(富山)」、「第三幼稚園(高岡)」も創られている。なお「英和幼稚園」は我が国最古の私立幼稚園5)であり、歴史と伝統ある幼稚園といえる(写真は当時英和幼稚園だった建物)。「北陸女学校附属幼稚園」はその後1948年「北陸学院幼稚園」、1950年「保育短期大学附属幼稚園」、1963年「短期大学附属幼稚園」、2008年「北陸学院第一幼稚園」

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と名称変更し現在に至っている。なお、現在に至る間に、いくつかの幼稚園を新設したり、教会の幼稚園を引き継いだりしているがここでは述べない事とする。1950年に「北陸女学校」が「北陸学院保育短期大学」となり、「保育短期大学附属幼稚園」

ができた。ここから本格的に保育者養成が始まったといえよう。また1954年に短期大学内にナースリースクールが開設6)され2歳児、3歳児の保育をチームティーチング方式で行なったとの事であり、これも特筆すべきことといえよう。2008年には「北陸学院短期大学」は改組して「北陸学院大学」となり、「人間総合学部」

の中に「幼児児童教育学科」、2017年には「子ども教育学科」に改組し、保育者養成を行っている。

⑶ 現在における北陸学院大学の養成環境としての附属施設上述してきたような歴史をもつ北陸学院大学であるが、現在はどの様な養成環境として

の附属施設をもっているのか、2017年9月に実地調査を行なった。1)調査概要調査目的:�キリスト教信仰に基く大学における教員養成と養成環境としての施設につ

いて知る調査対象:「北陸学院第一幼稚園」「赤ちゃん・サロン」調 査 日:2017年9月12日

2)調査結果a.「北陸学院第一幼稚園」 ・所 在 地:石川県金沢市三小牛町ハ1−1 ・設立主体:学校法人北陸学院 ・定  員:各学年30名

当該園は「幼児の健やかな心身の成長発達を願い、キリスト教の精神による人格教育をめざす事」を教育目標としており、「感謝の気持ちを育てる」「人間関係の原点を学ぶ」「創造性を培う」「一人ひとりが輝きともに響きあう心を育む」を教育の方

針としキリスト教の幼稚園である事がそれぞれの方針の中に込められていることが理解できる。当該園は、大学の正門にほど近い場所に建てられており、自然に恵まれた環境の中に設置されている。過去の歴史の中では附属幼稚園を冠していた時代もあるが、現在は附属の文字は消えており学院の幼稚園から大学院までの一貫校の入口として位置付けられている事が理解される。然し乍ら、わが国に現存する最

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古の私立幼稚園としての歴史と伝統に裏打ちされた保育に対するゆるぎない姿勢を至る所に見ることができる。たとえば、定員も1学年30名と言うことで100人に満たない小数での保育を実戦し、保育者が一人ひとりの子どもにしっかりと向き合える状況をつくっている。また、居心地の良い環境として、写真からも理解されるが入口にはキリスト教の幼稚園らしく、ステンドグラスが配されている。又、木材を多用した落ち着きと安らぎを感じさせる保育の室内空間が用意されている。又、保育者の丁寧な子どもへのかかわりなどを目の当たりにして保育者を目指す学生は、キリスト教の精神や、子一人ひとりを大切に考えるということはどう言うことなのかということを具体的に実体験の中から学ぶ事ができる環境が用意されているといえよう。

b.�「赤ちゃん・サロン」「赤ちゃん・サロン」は、北陸学院大学内につく

られたもので、2014年に半年の試行期間を経て2015年より正式に開始されたものである。その主旨は、「今日の子育て及び教育環境、さらに社会環境全体において私たち人間は、表面的な言葉や簡略化した画面等の情報理解に留まり、個人として個人が思いや考えを大事にする、つまり、人が人を真摯に尊重し合う意味を、実感しなくなっていないでしょうか」7)という疑問から出発し、「『赤ちゃん』(幼子)という存在を通して私たちが原点に立ち戻り、心も体も触れ合い、人が人を愛おしく思える、各々の存在を大切に感じ合える、その様な雰囲気が醸し出される事を大事にして」8)いるということであり、学生が運営していくという形を取っている。学生が運営していくということの背景には、「保育者養成校で学ぶ学生や教員にとって、“大学が行う子育て支援 ”とはどうあるべきなのか」9)という問いに対してのひとつの答えになっているのだといえる。この事は、保育者養成環境としての形をつくって学生に与えていくのではなく、これから保育者になろうとする学生達が、自分の頭で考え、実践して、学んでいく事こそ真の学びに繋がるという大学側の思いがあるものと推察される。

3、総括

保育者養成における私立学校の貢献度は非常に高い。「はじめに」で述べたように以前は専修学校及び短期大学での保育者養成(幼稚園教諭と保育士)が圧倒的に多かった。そして4年生大学での保育士養成をする大学は少なかったが、近年4年生大学で幼稚園教諭の養成のみであった大学が保育士養成をも始めて来ており、特に2001年以降の伸びが顕著である事はそのグラフからも理解出来る。これは、待機児童問題などの社会のニーズが高

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まったことも影響しているものと思われるが、保育者の質の向上という面において喜ばしい事でもある。しかし、一番大事なことは数が増える事よりも、その質が重要である。特に養成の環境は重要と言えよう。ここでは、キリスト教信仰に基づいた教育をしている、2つの伝統ある大学への調査から考えて行ったわけであるが、そこから見えてきたものについて述べて行く。

⑴ 幼稚園西南学院は1940年に「西南保姆学院」が創設されたときに、福岡バプテスト教会の管理

下にあった「舞鶴幼稚園」を「西南保姆学院」の附属幼稚園としており、北陸学院は1885年「金沢女学校」を創設した翌年の1886年「英和幼稚園」を創設し1912年に「北陸女学校附属幼稚園」となっている。これからも分かるように、西南学院は保母養成が始まると同時に附属幼稚園にしており、北陸学院は保母養成を意識した時より附属幼稚園と名称変更している。これらからは保育者養成をするにあたって、附属施設としての幼稚園を創る事の重要性を夫々の学校において認識しているという事であろう。そして何よりも現在において、「舞鶴幼稚園」「北陸学院第一幼稚園」も現在は附属の2文字は付けていないが、長い歴史と伝統によって育まれた揺るぎない誇りと自信を持って存在しているということが印象的であった。それは保育の本質を見据えた、保育実践であった。養成環境として学院に存在する幼稚園は、学生が日常的に或いは実習でかかわりを持つ事によって感じとる、保育は斯くあるべしという姿を伝達する役割を担っているといえよう。

⑵ 保育園保育園に於いては、西南学院のみになるが「早緑子供の園」という保育園という名称を

使わない所にもそのこだわりを感じる。前述したことであるが、創設のきっかけが、終戦直後戦災孤児のための養護施設「国児園(院)」であったという事などキリスト教の保育園らしい成り立ちである。また、園の特色としてキリスト教信仰は元より、育児担当制、子ども主体の生活としての流れる保育

4 4 4 4 4

、たてわり保育4 4 4 4 4 4

などは、本当に子どもの側に立った考え方であり、ここにおいても学生は福祉の本来的な意味、子どもの最前の利益とはなにかなどについて、具体的に知る機会となろう。

⑶ 子育て支援の施設近年子育て支援に対する関心が高まり、大学と地方自治体との連携による施設も多くつ

くられている現状がある。北陸学院大学は大学が行なう子育て支援に関する調査10)を2015年に全国保育士養成協議会に加盟している209校に対して行い、61校から解答を得ているがそれによれば、有効回答数59校中地方自治体と連携している大学が30校に上り、その内20校(67パーセント)が「自治体からの協力依頼」があったからということである。コミュニティーのニーズに応える形で地域貢献をしていく方向が窺える。この背景には「連携を

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して大学の人的資源・研究に対する理解が深められる」11)などの大学側の広報的な考えも窺える。お互いのウインウインの関係がそこにあると言えよう。コミュニティーに根付くということを考えた時には、幼稚園や保育園もそうであるが、この様な施設があることによって具体的に貢献をすることは極めて重要であるといえよう。机上の理屈ばかりの地域貢献はありえないのである。また、子育て支援施設の活動に学生が参加する事によって免許、資格の為の実習と違った意味での実習が出き、学ぶことは大きいといえよう。北陸学院では、前述したように「赤ちゃん・サロン」プロジェクトを学生が運営してい

くというかたちで行なっている。与えられた活動でなく学生主体の活動とする事は今後の多くの大学においても検討する余地があるものであると思われる。西南学院に於いては、まさに福岡市の委託を受けてのものであったが、上述したように

2007年に作られてから20017年までの10年間でなんと30万人の利用者があったという事であった。運営については大学のOB・OG、教員、学生を含めた幅広いボランティアなどで出来ているという大学とコミュニティーの融合の場ともなっているといえる。そして今そこには将来保育者になる学生が参加することにより、子育て支援のあり方、実際、子育ての悩みなどについてコミュニティーの中で具体的に学んで行くというメリットがある。こう見ていくと、大学における保育者養成における養成環境としての幼稚園、保育園、

子育て支援施設は、大学の目指す保育の理想が含められた施設であり、歴史の中でコミュニティーに根づき、つねに今のコミュニティーと接触している先端部分であり、保育者を目指す学生がその施設において、実体験を通して保育の本質を、コミュニティーに貢献するとはどのようなことなのか学ぶことの出来る絶好の環境であるといえよう。そこで学び、地域の子ども達に直接触れ、地域の文化、伝統についても学んで行く。やがて彼らはコミュニティーの一員として、あるいは保育を牽引するリーダーとして活躍して、地域に貢献し、根付いていくといえよう。つまり「地の塩世の光」となっていくのであろう。これからの課題としては養成環境としての施設として、乳児研究所、乳幼児研究所、こ

ども学研究所などの研究施設をも併設し、現場と大学が更に深く連係し、乳幼児教育が更に深化、発展するしくみをつくっていく必要があろう。最後に、子どもは未来である。その子どもたちと真摯に向き合い、そのよりよい育ちを

支えていく大人達がもっと増えなければならないだろう。そして、繰り返しになるが、マルコによる福音書10章14節の「子どもたちをわたしのところに来させなさい。妨げてはならない。神の国はこのような者たちのものである」この1節はキリスト教信仰に基づく大学においての保育者養成にとっては重要な言葉であろう。

注 1)全国保育所養成協議会『平成27年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業(厚生労働省)保育士養成のあり方に関する研研究報告概要版』2016 P17のグラフを基に著者が簡略化

 2)西南学院児童教育50周年記念行事実行委員会『児童教育50年の歩み−幼な子とともに−』

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学校法人西南学院1990 P28 3)  同    上    P28 4)北陸学院125年史編纂委員会『北陸学院125年史』学校法人北陸学院 2010 P�74 5)  同    上    P63 6)  同    上    P85 7)『赤ちゃん・サロン プロジェクト −2016年度 活動報告書』学校法人北陸学院 北陸学院大学 2017 �P1

 8)  同    上    P1 9)  同    上    P110)『赤ちゃん・サロン プロジェクト −2016年度 活動報告書』学校法人北陸学院 北陸学院大学 2017 PP5−6

11)  同    上    P6

参考文献 1、『SEINAN GAKUIN�UNIVERSITY2017』 2、西南学院児童教育50周年記念行事実行委員会『児童教育50年の歩み−幼な子とともに−』西南学院大学1990

 3、北陸学院資料編纂室『北陸学院歴史ものがたり』学校法人北陸学院 2017 4、『赤ちゃん・サロン プロジェクト −2016年度 活動報告書』学校法人北陸学院 北陸学院大学 2017

 5、北陸学院125年史編纂委員会『北陸学院125年史』学校法人北陸学院 2010

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Current status and issues in Kindergarten and nursery teacher training

― Focusing on the training environment ―

Hitoshi�ASAMI

This�article�describes�the�current�status�and�issues�in�early�childhood�education�and�care�training�at�university.�The�four-year�university�now�offers�both�certification�of�kindergarten� teacher� license� and� nursery� teacher� qualification.� This� will� greatly�contribute�to�the�advancement�of�the�quality�of�childcare.

�Also,�this�article�considers�the�training�environment�in�affiliated�facilities�of�four-year�university�of�education�

Specifically,� considered� are� field� studies� at� Maizuru� Kindergarten� of� Seinan�Gakuin�University,�Samidori�Kodomo�No�Ie,�Hokuriku�Gakuin�Daiichi�Kindergarten�of�Hokuriku�Gakuin�University,�and�Akachan�Salon.

� This� study� reveals� the� great� importance� of� explaining� concretely� ideas� and�attitudes� of� training� at� the� university� through� affiliated� facilities� at� kindergarten� and�during�nursery�teacher�training.

Keywords :  kindergarten  and  nursery  teacher  training,  kindergarten,  nursery  school,  child  care 

support

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