あきらめないで肩、股関節の痛み 専門医に相談し 適切な治療法 … ·...
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01 四十肩・五十肩と誤解していませんか?肩の痛みの原因と治療法
Q1. �肩関節に痛みが出る主な原因を教えてください樋口 多く見られるのは、俗に四十肩・五十肩と呼ばれる「肩関節周囲炎」
と「腱板断裂」です。
肩関節周囲炎は、はっきりとした原因はわかっていませんが、主に加齢
によって急に痛みが出ることが多く、肩の動きが悪くなり、関節が硬く
なっていきます。腱板断裂は、重労働で重い物を持ち続けたり、転倒な
どの外傷で起こることもありますが、腱の老化によっていつの間にか切
れていたということも少なくありません。どちらの疾患も、90%以上の
人がリハビリによって症状が改善するといわれています。
Q2. どのような症状を訴えて受診される人が多いですか?樋口 肩を動かすと痛い、腕が上がらない、と訴える人が多いですね。また、肩関節周囲炎、腱板断裂ともに、寝
ている時に激しい痛みを感じる「夜間痛」が見られるのが特徴です。痛みで目が覚めて眠れなくなると、生活の質
あきらめないで肩、股関節の痛み専門医に相談し適切な治療法を選択しましょう
肩関節や股関節の痛みや可動域制限に悩んでいる人の中には、思い込みなどで最初から治療をあきらめて放置している人も少なくないようです。「大切なのは正しい原因を知ることです」とアドバイスする樋口直彦先生に肩関節の痛みの原因と治療法を、田巻達也先生に股関節の痛みの原因と治療法についてそれぞれお話をうかがいました。
樋口 直彦 先生高井病院 院長
田巻 達也 先生高井病院 副院長
ドクタープロフィール ドクタープロフィール経歴:帝京大学卒業資格: 日本整形外科学会認定専門医専門分野: 肩関節・肘関節・ スポーツ整形外科
経歴:三重大学卒業資格: 日本整形外科学会認定専門医
日本体育協会公認スポーツドクター専門分野:股関節・膝関節・人工関節
滑液包(潤滑液)の炎症
腱付着部の炎症
筋肉実質の炎症
肩関節周囲炎
が著しく低下してしまいます。また、肩を動かせないことで「着替えができない」「髪
が洗えない」「洗濯物が干せない」など、日常生活にも大きく支障をきたすことに
なります。
肩関節の場合、レントゲンに映らない筋肉や腱の損傷が痛みの主な原因となるため、
レントゲン画像から得られる情報はあまり多くありません。そのため、誘発テスト
を行って痛みの出る動きや姿勢、痛みの出方を確認するとおおよその原因がわかり
ますので、その後にエコー検査やMRI 検査で確認をして、診断をつけます。
Q3. どのような治療を行うのですか?�樋口 まずは、筋力トレーニングやストレッチといったリハビリを行います。肩
の動きには胸の動きや股関節の動きも関わっているので、胸や股関節を評価し、
必要に応じてそちらのリハビリも行っていきます。痛みが強い場合は、肩関節へ
のステロイド注射を併用して痛みを和らげます。何よりも、患者さん一人ひとり
の状態に応じた適切なリハビリを行うことが重要です。肩関節周囲炎と腱板断裂
では、90%以上の人がリハビリで痛みが軽減し、肩が動かせるようになるといわ
れています。ただし、リハビリなどの保存療法を 3か月続けても痛みや動きが改
善しない場合は、手術も選択肢のひとつとなります。
Q4. 手術にはどのような種類があるのでしょう�樋口 関節鏡手術と人工肩関節置換術があります。
関節鏡手術は、肩関節に小さな穴を数か所あけて細い内視鏡や手術器具を挿入し、
患部を確認しながら行う手術です。病変を詳細に観察することができるので、正常
組織を傷つけず、損傷箇所をより適切な形で手術することができますし、傷痕も小
さくてすみます。
しかし、関節鏡手術で腱板を修復することができないような腱板断裂には、人工肩
関節置換術を検討します。従来の人工肩関節置換術は、腱板の機能が温存されてい
ることが適応条件でしたが、2014 年にリバース型人工関節の使用が認可され、腱
板が機能していない患者さんにも人工肩関節置換術が行えるようになりました。
Q5. リバース型人工肩関節置換術について教えてください�樋口 従来の人工肩関節は、腱板が機能してないと、痛みは取れても動きを取り戻
すことができなかったのですが、リバース型人工関節は、従来型に比べ骨頭と受け
皿の位置を反転(リバース)することで、腱板がなくても健常に近い状態まで動き
を改善することが期待できるようになりました。多くの場合、夜間痛は術後2~ 3
日で改善しますが、動作時の痛みはその後のリハビリをしっかりと行うことで徐々に
取れていきます。入院期間は一般的に1~ 2週間。その後は通院で3~ 6か月リハ
ビリを行います。術後しばらくは腕を固定する必要がありますが、基本的に術後の日
常生活に動作制限はありません。
肩関節へのステロイド注射
腱板断裂
上腕骨頭
腱板 上腕骨
従来の人工肩関節置換術
リバース型人工肩関節置換術
Q6. 肩関節の痛みや動きの悪さに悩んでいる人へアドバイスをお願いします�樋口 肩に違和感や痛みがあっても「四十肩・五十肩は放っておけば治るから」と思って放置している人も多いの
ではないでしょうか。確かに自然に治まる場合もありますが、適切な治療を行わないと悪化してしまうケースもあ
るのです。また、四十肩・五十肩だと思い込んでいても、腱板断裂や他の疾患が隠れて
いることもあります。大切なのは、様子を見ていい症例か、治療が必要な症例かを的確
に見極めることであり、それには身体所見が非常に重要な役割を果たします。肩関節の
場合、「レントゲンで異常がない」だけでは診断はつかないのです。
肩関節の疾患は、多くの場合リハビリでの改善が望めます。手術が必要になるのは全体
の 5%くらいです。治療後、痛みや動きが改善し、趣味やスポーツをなさっている人も
たくさんおられます。まずは肩の専門医に相談し、ご自身の症状の原因を正しく調べて
もらうことをお勧めします。
02 変形性股関節症の原因と治療法
Q1. �股関節の痛みの原因となる主な疾患は何ですか?田巻 加齢や使い過ぎでクッションの役割を果たす股関節の軟骨がすり減り、骨同士が直接ぶつかり合うように
なって痛みを生じる「変形性股関節症」が一番多く、股関節に問題を抱えている人の約 90%に見られます。また、
ステロイド剤の服用やアルコール多飲の人に高リスクな「大腿骨頭壊死
症」も 5~ 10%を占めているといわれています。
変形性股関節症のほとんどは、日本女性に多く見られる先天的に股関節
の臼蓋の被りが浅い「臼蓋形成不全」が原因で起こるため、発症年齢が
40~ 50 代と比較的早いのが特徴です。「脚の付け根の前側が痛い」「脚
を動かせる範囲が狭くなった」「靴下やズボンがはきづらい」といった
訴えで受診される人が多いですね。
Q2. �変形性股関節症に行う治療法を教えてください田巻 まずは体重コントロールや負担の少ない姿勢といった生活指導、筋力トレーニングなどのリハビリ、必要に
応じた薬物療法といった保存療法から始めます。これだけで症状が改善する人も少なくありません。ただし、保存
療法を続けていても改善が見られず、「30分続けて歩けない」「痛み止めを毎日服用するようになった」「脚長差が
出てきて腰や膝に負担がかかるようになった」といった場合には、手術
を考えてもいいかもしれません。比較的若く変形が軽度な人には、自分
の骨を切って臼蓋の被りを矯正し、痛みや動きを改善させる「骨切り術」
を検討します。しかし、変形が激しく骨切り術の適応にならない場合は、
「人工股関節置換術」が適応となります。近年の人工関節の素材や加工、
形態の進歩は目覚ましく、それによって選択肢が増えたことで、患者さ
ん一人ひとりに適切な人工関節が選択できるようになりました。
なお、リバース型人工肩関節置換術には「70歳以上」「腱板が大きく断裂している」「肩が水平より上に上がらない」
といった適応条件があります。また、日本では日本整形外科学会のガイドラインに規定された要件を満たす専門医
だけがこの手術を行うことができます。
正常 寛骨臼形成不全
骨切り術
Q4. 術後のリハビリから退院までの流れを教えてください田巻 前方アプローチの場合、手術当日から歩ける人も少なくありませんが、一般的には翌日から
歩行器を使って歩行訓練を開始します。術後 2日目からは、可能であれば 1本杖で歩き、その状
態で階段昇降ができるようになって退院となります。合併症のひとつである深部静脈血栓症(俗に
いうエコノミークラス症候群)の発症原因は術後の長期安静ですから、早期離床や早期歩行獲得は、
合併症の予防策になっているといえるでしょう。
Q5. 人工股関節の耐用年数と、上手に付き合っていくためのポイントを教えてください
田巻 活動性や筋力、骨の質・強度などに個人差はありますが、90%の人が 20
年以上持つといわれています。また、人工関節と上手に付き合っていくためには、
定期的に受診して問診やレントゲンで股関節の状態をチェックしてもらうことが
大切です。自覚症状がなくても、人工関節の摩耗やゆるみが生じていることもあ
りますが、早めに発見できれば摩耗した部分だけを置き換えるなど、負担の少な
い手術で対応することも可能です。
Q6. 股関節の痛みに悩んでいる方にメッセージをお願いします。田巻 股関節が悪いからといって必ず手術が必要なわけではありません。効果的な治療法
は他にもたくさんありますし、それで症状が改善する人もたくさんいます。しかし、いろ
いろな保存療法を行っても効果がなく、痛みや可動域制限によって日常生活に大きく支障
をきたしているようであれば、手術療法を考えてみてもいいのではないでしょうか。
人工関節や手術手技の進化は目覚ましく、長期成績や安全性も高くなってきています。痛
みを我慢しながら過ごすのは本当に大変なことです。まずは股関節の専門医のいる施設を
受診し、自分に適切な治療法は何かを、納得いくまで相談してみてください。
Q3. �侵襲の少ないMIS 手術とはどういう手術ですか?田巻 股関節の筋肉や腱をできるだけ傷めずに人工関節を設置する、侵襲の少ない手
術のことです。股関節へのアプローチ法には大きく分けて前方、側方、後方がありま
すが、体の前側から切開する前方アプローチは、股関節の後ろ側の筋肉や腱を温存す
ることができるため、術後の回復が早く、早期退院・早期社会復帰を可能にしています。
また、術後の動作や姿勢に制限がないのも大きなメリットといえるでしょう。基本的
に正座も和式トイレもスポーツも問題ありません。靴下やズボンも自由な姿勢ではく
ことができます。
変形性股関節症は、両脚に症状が出ることが多いうえに、仕事や家事、子供の世話などで忙しい現役世代の女性に多
く見られることから、「手術と入院を一度で済ませたい」というご本人の希望があれば、両方同時に手術を行うことも
可能です。前方アプローチであれば、入院期間は片方で約1週間、両方でも1~ 2週間で退院することができます。
前方アプローチ
前方アプローチ
人工股関節
股関節窩
人工股関節
カップ
大腿骨骨頭
ポリエチレンライナー
大腿骨