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Page 1: 投力を高める高学年の体育授業の工夫 · 2018. 2. 9. · 教育実践研究 第23集(2013)199-204. 199 [体育・保健体育] 投力を高める高学年の体育授業の工夫

教 育 実践研 究 第23集(2013)199-204 199

[体育 ・保健体育]

投力を高める高学年の体育授業の工夫

一 どの子 も夢 中 に な って取 り組 むゲ ー ム ・遊 び を取 り入 れた 実践 を通 して 一

中島 勇二*

1主 題設定の理 由

(1)問 題の所在

投力を測る一つの指標である,新 体力テス トのソフトボール投げの全国平均値は,近 年では低下傾向がとどまりつつ

あるが,一 世代前のもの と比べると大 きく低下 していることが分かる。昭和55年 度の男子ll歳 のソフ トボール投げ全国

平均値は35.lmで あった。それに比べ,平 成22年 度の全国平均値 は30.8mで ある。このことは,女 子について も同様で

ある。一方,50m走 の記録については,男 女とも昭和55年 度 と平成22年 度 とで,そ れほど大 きな差はみられない。投力

の向上は現在の子 どもたちの共通の課題 と言えるだろう。 さらに,本 校 と全国の子 どもたちとの比較の観点か らみると,

ここ数年,全 学年が共通 してソフトボール投 げの記録が,全 国平均値を下回っている。本学級(5学 年一男子16名 ・女

子14名)も,前 年度の全国平均値 に比べ,女 子が3.4m,男 子が6.7m下 回っている。

投力の低下は,投 げる運動 を基礎 的な技能 とする,ド ッジボール,ハ ン ドボール,フ ラグフットボールなど様々な

ボール運動の領域で,十 分な運動 を行 うことが困難 となり,ボ ール運動の楽 しさを十分に味わえない ことにつながる。

ボール運動のね らいの一つ とされている,チ ームの連携 による戦術 的な動 きを高める学習を展開するためには,個 々の

投力を高めることが重要 となる。 しか し,低 学年の 「体つ くり運動」,低 ・中学年の 「ゲーム」領域での投げる運動 を

除けば,投 げることを主な内容 とす る学習の内容 は,新 学習指導要領 に記載 されていない。桜井(1991)は,「 投 げ

る」は後天的に獲得 される動作で,練 習や効果的な指導が必要であるエ)と述べている。高学年 において も,投 力を高め

る効果的な授業を計画 してい く必要があると考える。

(2)研 究の仮説

投力の低下について,高 橋(2005)は,投 にかかわる類似の運動を経験する機会が減少 したことに原因がある2)と述

べている。投げる類似の運動 とは,メ ンコ遊 びやベーゴマ遊びなどがそれにあたるだろう。つまり,投 げる類似の運動,

そ して投げる運動の経験不足が,投 げる運動の基礎感覚(以 下 「投運動の基礎感覚」 という。)の 不足 とな り,投 力の

低下へ とつながっている と考えられる。 このことは,本 学級の子 どもの実態 とも合致する。

本学級の子 どもたちは,体 を動かす ことが好 きな子が多い。しか し,環 境面で ドッジボールなどの投げるボール運動

を行うのが難 しい現状である。投力向上のため,本 年度は全学級 にこんにゃくボールを配当した。 しかし,本 学級の子

どもたちがこんにゃくボールを使って遊ぶことはほとん どない。サ ッカーや鬼ごっこに比べ,ボ ールを投げる遊びへの

関心の低 さも考えられる。

ある単元の授業だけで投力を高めるという考えではなく,そ の単元で高めた投運動の基礎感覚と,投 運動への関心 を

生か し,日 常の遊びや今後のボール運動 を通 して,長 期継続的に投力を高めていくべ きであると考える。そのためには,

本実践が投げる運動の楽 しさを味わえるものでなければならない。本研究の研究動機 は,体 力テス トのソフ トボール投

げの実態把握であるが,そ れを直接 に子 どもの学習のね らいとしてはいけない。子 ども自身が投げる行為 日的を持つこ

とので きる学習にしなければならない と考 える。

研 究 仮 説

子 どもたちがゲーム ・遊 び感覚で取 り組 むことので きる,ね らい を明確 にした望 ましい投動作 につなが る

練習運動 と,子 ども自身か ら 「遠 くに」 「強 く」「正確 に」投 げる必 要性 を感 じさせ るゲーム を行 うことで,

投運動 の基礎感覚 と投 運動へ の関心 が高 ま り,投 力の向上 につながるだろう。

*新 潟市立鳥屋野小学校

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200

2研 究の 目的 と方法

本研究では,子 どもたちがゲーム ・遊び感覚で取 り組める,望 ましい投動作につながる投運動を考案 し,そ れ らが子

どもにとって魅力ある運動 とな り投運動経験 を増やし,投 運動の基礎感覚や投運動 に対する関心を高め,投 力の向上に

効果があるのか,授 業中の子 どもの運動の様子や,授 業を通 した子 どもの変容を検証 し,明 らかにしてい く。

3研 究の構想

ソフ トボール投げで測られる遠投力は,子 どもにとって これからの運動経験にどのような影響があるだろうか。陸上

種 目の投榔 を行 う子にとっては重要であるかもしれないが,そ の他 のスポーッではさほど必要感はない。投げるという

目的には,「遠 くに投 げる」以外にも,ド ッジボールで相手をアウ トにするために,ま たはハン ドボールでシュー トを

決めるために 「強 く投げる」「正確 に投げる」などもある。また,相 手 にパスをする球技では,「 遠 くに投 げる」 「強 く

投げる」「正確 に投げる」以外 にも,投 げるタイミングや球質 も関わって くる。ソフ トボール投 げの平均を上げようと

「遠 くに投 げる力」のみに着 目した投運動 を行 うことは体育の授業 として適切ではないと考える。 したがって,「遠 く

に」「強 く」「正確に」の3つ をねらい として,オ ーバーハ ンドスローの投運動に取 り組む。本実践では,投 げる目的を

多面的に捉え,投 運動 に関する体の動 きづ くりという視点で活動 を構成 した。

(1)子 どもの 「遠 くに」「強 く」「正確に」 を引き出す,投 運動の 「遊び」化,「 ゲーム」化

投運動の3つ のねらい 「遠 くに」「強 く」「正確に」 を,子 ども自身のねがい とするために,投 げること自体が楽 しく,

や りたいことである必要がある。そのために,本 実践では,投 力 を高める練習運動を 「レベルアップチャレンジ」,そ

の後のグループ対抗のゲームを 「スローイングゲーム」 として設定 し,投 運動の遊び化 ・ゲーム化を行った。練習 に苦

痛 を伴 うことなく,飽 きのない楽 しい 「遊び」「ゲーム」感覚を取 り入れたものに工夫 した。また,「 レベルアップチャ

レンジ」では,回 数や距離に応 じて5段 階にレベルを設定 し,子 どもが何度 も試行 し,達 成感 を味わえるよう工夫 した。

(2)「 こうすれば必ずこうなる」練習運動の設定

子どもが投力を高める成果を出すためには,投 力 を高める適切 な運動が行われる必要がある。ただし,そ の適切な運

動 を子 どもに とって 「遊 び」,「ゲーム」感覚で行 うためには,技 術的なポイン トを教師が言って聞かせるのではな く,

必然的に 「投げる動作」のポイン トが引 き出される必要があると考える。「~させる」のではなく 「~になる」 という

考 え方である。「オーバーハ ンドスロー」の動作構造 を教師が正 しく理解 し,ね らいがはっきりした適切かつ効果的な

「レベルアップチャレンジ」「スローイングゲーム」を設定する。(4研 究の実際(2)実 践の内容 ②2時 間日 参照)

(3)投 力を高め合 うグループ編成

5人 ×6グ ループの編成を教師が行 う。新体力テス トのソフトボール投げの結果,投 げる動作の習熟度 を考慮 し,技

能的なリーダー ・投げる運動に困難を要する児童をそれぞれのグループに均等に割 り振 る。

また,グ ループ内のかかわ り合い を円滑 にする観点での リーダー も均等 に割 り振る。「スローイングゲーム」はグ

ループ対抗戦 とし,「レベルアップチャレンジ」 もグループ全体 または,ペ アなどで活動させ る。そうすることで,グ

ループが 「スローイングゲーム」 に勝つために,一 人一人の投力向上の必要感を生み,技 能的なリーダーの投動作の良

いところや,困 難を要する児童の改善点 を伝 え合 うなどの学び合いを生むと考える。

(4)投 運動の基礎感覚を言語化 した 「ポイン トメモ」の活用

「レベルア ップチャレンジ」 を行 う中で,自 分 自身が感 じた動 きのコッや,友 だちからア ドバイスをもらったことを

投運動の 「ポイントメモ」 としてワークシー トに簡潔にメモさせる。そうすることで,子 どもたちが感 じた投運動の基

礎感覚が言語化され,よ り確かなものになると考える。

4研 究の実際

(1)単 元計画(全4時 間)

時 主な学習活動 ね らい

1 「ス ロ ー イ ン グ ゲ ー ム 」子 ど もの もっ と 「遠 くへ 」 「強 く」 「正 確 に」 を引 き出 す

2 「レ ベ ル ア ップ チ ャ レ ン ジ」 一人一人の投動作の課題をつかむ

3「レ ベ ル ア ップ チ ャ レ ン ジ」

「ス ロ ー イ ン グ ゲ ー ム 」 グル ープで学 び合 い,一 人一 人の課 題克 服 にチ ャ レンジす る

4 「ス ロ ー イ ン グ ゲ ー ム 」投 動作 の ポ イ ン トを意識 してゲ ー ムに取 り組 む

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(2)実 践の内容

①1時 間目 ~子 どもたちのもっと 「遠 くに」「強 く」「正確に」 を引き出す~

1時 問目は,「 スローイングゲーム」を行 った。「体育館を半面ずつ二つに分け,「 ば くだん飛ばし合戦」 と 「的当て

ず もう」の場 を設けた。準備 に時間がかか らない よう,あ らか じめ準備ができた状態の写真 を子 どもたちに配 り,グ

ループ毎に明確 な役割 を割 り振 り,子 どもたち全員で準備をさせた。

ばくだん飛ば し合戦

ねらい

方 法

遠 くに投げる力を高める。

バ レーボールネットを挟んで向かい合 う。自陣に15個 ずつのお

手玉 を用意 し,相 手コー トにネットの上を越 して投げ入れる。

1分 間のうちに,相 手コー トに入ったお手玉の得点を競 う。

コー トは体育館のかべからかべ にできるだけ奥行 を広 くとる。

投 げる位置の最前線をネットか ら10m程 に制限する。ネットか

らの距離 に応 じて得点を定める。(本 実践では,1~3点 を設

定 した。)

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図1ば くだん飛ばし合戦の様子

できるだけ多 くの玉 を相手陣地に投げ入れようと,足 元に落ちている玉を拾ってはす ぐに,必 死で玉 を投げていた。

ネッ トが張ってあるため,ネ ットを越そうと,高 く投げあげていたが,ま だまだ手投げの子が多 く,ネ ットにひっかか

る子が多 くいた。審判 となったグループが玉の落ちている場所 と数を計算 して得点 を発表 した。この作業がスムーズに

行 えるよう,得 点ごとのバケッに玉を拾わせ,集 計用紙を用いて得点を集計 させた。(図1)

的当てずもう

ねらい 正確に,強 く投げる力を高める。

方 法

キ ャスターのついた段ボールの的を挟んで向かい合う。グルー

プで一・列になり,定 位置から順 にボールを的へめがけて投げる。

1分 間のうちに,中 央線よりどれだけ相手側へ押 したかを競 う。

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図2的 当てずもうの様子

キャスターがついているため,こ んにゃくボールでそれほど強い力でな くて も,段 ボールの的が動 く。互いに向かい

合 って投げているため,強 く投げようとするとともに,で きるだけ多 くの玉をぶつけようと,み な必死で数多 くのボー

ルを投げ合っていた。苦手意識 を持つ ような子でも,躊 躇せずにボールを投げていた。 しかし,的 に当たらない子や,

当たっても弱い力でわずか しか動かず,的 は中央線からあま り動いていなかった。

「スローイングゲーム」を楽 しんだ後,全 員を集めて,振 り返 りを行った。負けたグループは悔 しそうな顔をしてい

た。「時間が終 わって もボールを投げていた人がいる!」 な どと勝 ちにこだわる姿が見られた。子 どもたちは,ゲ ーム

に勝つためには 「ばくだん飛ば し合戦」は多 くの玉 を遠 くに投 げた方がいいこと,「的当てずもう」はで きるだけ強 く

当てた方がいいことに気付いた。(図2)

②2時 間目 ~ 「レベルアップチャレンジ」で,一 人一人の課題 をつかむ~

「スローイングゲーム」 に勝つためには,「遠 くに」「強 く」「正確 に」投げる力が必要であることを振 り返 り,み ん

なが投げる力 をレベルア ップさせる 「レベルアップチャレンジ」 を紹介 した。本時では,全 ての 「レベルアップチャレ

ンジ」をグループ毎にローテーションして行 った。

アタック回転チャレンジ

ねらい

方 法

肘を適切 な高 さまでテークバックし,肘 や肩の可動域を広げる。 しなやかな腕の振 り下ろ しを身につける。

立って手 を伸ばした高 さよりも少 し低めにピンポン球の高 さを調節 し,足 を肩幅以上に開き,

手の平で叩き,ロ ープを回転させる。回転させ られた回数がレベルとなる。

ピンポン球を

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テ ィー バ ッテ ィ ン グ チ ャ レ ン ジ

ねらい

方 法

下半身,腰 や肩の力強い回転 を身につける。

テ ィーにこんにゃくボールをのせ,へ その高 さに調節する。ペ ットボ トルを利 き手に持ち,下 半身,腰 や肩

のひね りで力をため,ひ ね り戻 しボールを打つ。ボールを飛 ばした距離が レベルとなる。

まだまだ手だけで打っている子が多

かった。子 どもからは,さ らに遠 くに飛

ばすために,腰 や肩の回転 を早 くしよう

という意識が生 まれた。

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図3テ ィー バ ッテ ィ ン グ チ ャ レ ン ジ の振 り返 り

かべ当てキャッチボールチャレンジ

ねらい

方 法

踏みだし足 を前にステップさせ,ス ムーズに重心 を移動させ る動きを身につける。

ボールをかべに向かって投げ,跳 ね返って きたボールを捕 りまた投げるのを繰 り返す。ただ し,ボ ールを捕

るときは,線 の後ろで捕 り,ボ ールを投げるときには,踏 みだ し足 を線よりも前 にステップして投げる。30

秒 間でできた回数に応 じてレベルを設定する。(本 実践 は30秒 で18回 をレベル5と した。)

子 どもたちは夢 中で取 り組んでいた。正

面にボールが跳ね返って くるように正確 に

投げようとする姿 も見 られたが,で きるだ

け 「速 く」「強 く」投げて勢い よくボール

が返ってくるようにという意識が生まれた。

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図4か べ当てキャッチボールの振 り返り

かべ当てバウン ドチャレンジ

ねらい

方 法

地面に向かって強 くたたきつけるために,腕 ・脚の動 き,腰 ・肩のひね りを総合的に引き出す。

ボールをワンバ ウンドさせてか らかべ に当て,投 げた位置から動かずに跳ね返 って きたボールをノーバウン

ドで捕 る。かべからの距離 に応 じてレベルを設定する。

「レベルアップチャレンジ」 を行った。 自分 の選 んだ

「レベルアップチ ャレンジ」のさらなる上のレベルを達

成 しようと意欲的に取 り組む姿が見 られた。時間内に複

数の 「レベルアップチャレンジ」 に取 り組んでいた。グ

ループの仲間が友だちにア ドバイスをする姿が見 られた。

図5か らは,ペ アから教 えてもらったことでレベルアッ

プできたことが分かる。

④4時 間目

「レベ ル ア ップ チ ャ レ ン ジ」 後 に は,グ ル ー プ毎 に集 ま り,次 時 に どの ペ ア を つ くっ て,ど の 「レ ベ ル ア ップ チ ャ レ

ン ジ」 に取 り組 む か計 画 を立 て た 。

③3時 間 目 ~ グ ル ー プ で学 び 合 い,一 人 一 人 の 課 題 克服 に チ ャ レ ン ジ す る ~

前 時 の計 画 に 基 づ い て,グ ル ー プ の ペ ア や3人 組 で

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図5レ ベルアップチャレンジの振 り返り

~投 動 作 の ポ イ ン トを意 識 して,「 ス ロー イ ン グ ゲ ー ム 」 を行 う~

前 時 まで の 「レベ ル ア ップ チ ャ レ ン ジ」 で獲 得 した投 動 作 の ポ イ ン トを意 識 して,「 ス ロ ー イ ング ゲ ー ム」 を行 っ た 。

初 め に行 っ た 時 に比 べ て,ゲ ー ム が よ り白熱 して い た 。 「ば くだ ん飛 ば し合 戦 」 で は,3点 の 玉 が 多 くあ っ た り,2階

の ギ ャ ラ リー に乗 せ て し ま っ た りす る 子 もい た 。 「的 当 て ず も う」 で は,中 央 線 か ら大 き く動 い て い た 。 図6か らは,

子 ど も 自身 も,自 分 の 成 長 を感 じ,喜 ん で い る こ とが 分 か る。 図7か らは,「 体 を使 っ て 投 げ る」 とい う ポ イ ン トを意

識 して 「ス ロ ー イ ング ゲ ー ム」 に 取 り組 め た こ とが分 か る。

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図6ス ローイングゲームの感想1

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図7ス ローイングゲームの感想2

A児 B児 C児

ア タ ック 回 転 チ ャ レ ン ジ 0 8 0

テ ィ ーバ ッテ ィ ング チ ャ レ ンジ 5 5 10

かべ当てキャッチボールチャレンジ 37 17 15

バ ウン ドかべ当てチ ャレンジ 15 17 20

ば くだん飛ば し合戦 22 17 21

的当てず もう 11 10 9

合計 90 77 75

5ま とめ

(1)研 究の成果

① 男女差や体力差 に関係な く,意 欲的に投運動に取 り組 むことができた。

ソフ トボール投 げの記録が一番高かったA児(男 子)と,記 録の一番低かったB児(男 子),C児(女 子)に 注 目し,

1時 間の授業 を通 した投運動の試行回数 を記録 した。(3/4時)そ れが表1で ある。

表1児 童別の投球動作回数 やはり・投運動の得意なA児 が一番多 くの投

運動を行っているが,B児 とC児 もA児 とそれ

ほど大 きく劣 ることな く,投 運動 に取 り組んだ

と言える。「レベルアップチャレンジ」「スロー

イ ングゲーム」の 「遊 び」化,「 ゲーム」化 に

よる成果である。「遠 くに」「強 く」など目的を

持 った投運動の試行回数の確保は,投 運動の経

験 を多 く積 ませ,投 運動の基礎感覚を高めるこ

とがで きたと考える。

また,単 元の学習後 に表2の アンケー トを実施 した。子 ども自身の意識の面からも,関 心 を持 って意欲的に投運動 に

取 り組めたことが分かる。学習が楽 しかったという意見 も多 く,仕 組んだ活動が子 どもにとって魅力的なもの となった

と考えられる。

表2授 業後のアンケー ト結果

設問 とて もそう思う そ う思 う あまりそう思わない そう思わない

意欲的に学習 に取 り組めましたか 17 11 2 0

学習は楽 しかったですか 20 8 1 1

投 げる力が高め られた と思いますか 10 14 5 1

② 「レベルアップチャレンジ」により,投 動作の適切な改善につながった。

投動作について,腕 の動 き,脚 の動 き,腰 ・肩のひね りの3つ に着 目し,そ れぞれ3段 階に評価基準 を定め,得 点化

した。(表3)

表3投 動作の観点別評価基準

1 2 3

腕の動き 十分に振れていない 十分に振れている 肘が適切な高さで十分に振れている

脚の動き 踏み出していない 踏み出 している スムーズな重心の移動がある

腰 ・肩 の ひ ね り ひねりがない ひねりがある 腕 を先導するひね りがある

表4投 球動作の得点の変化

実践前 実践後

腕の動 き 1.94 2.42

脚の動 き 2.0 2.52

腰 ・肩 の ひ ね り 1.78 2.25

「レベルアップチャレンジ」の有効性 を検証するために,本 実践前後の

投動作 を,ビ デオ撮影 した映像 により比較分析 を行った。結果は表4の 通

りである。(学 級全体の平均点)

全ての観点 において,投 動作 の改善が見 られた。それぞれの 「レベル

アップチャレンジ」が,適 切 な投動作 を引き出す 「こうすれば必ず こうな

る」 という原理原則 にかなった ものであったと考 えられる。特に,脚 の動

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単元後にソフ トボール投 げの記録測定 を行い,実 践前

後のソフ トボール投げの学級平均 を比較 した。表5か ら

も分かるように,男 女 とも記録 を伸 ばす ことができた。

特 に女子の記録の伸びが著 しく見られた。子 どもたちが

きについては,全 く脚 を踏み出さなかった子 どもが,大 きく脚 を踏み出す動作を意識するようになったことは大 きな成

果である。

③ 遠投力の向上につながった。 表5ソ フ トボール投げの記録の変化

実践前 実践後一・人当たりの記録の伸びの平均

男子 19.27m 23.29m 3.71m

女子 11.57m 15.79m 4.21m

楽 しみながら投運動に取 り組み,投 運動経験 を多 く積むことで投運動の基礎感覚 を高めた結果,遠 投力が高め られたと

考 えられる。

(2)今 後の課題

① ワークシー トの工夫 ~子どもが体得 した感覚を言語化 させる~

言語化 により,投 運動の基礎感覚をより確かなものにしようと,「ポイン ト

メモ」を活用 した。 しか し,図8の ように,ね らいとする投動作の基礎感覚に

関する記述は見 られなかった。それぞれの 「レベルアップチャレンジ」 にどの

ようなねらいがあるのか,子 どもたちが十分 に意識できていなかったと思われ

る。また,「 ポイン トメモ」を書 く時間が十分に確保 されていなかったのも実

情である。

傷 一べ ・:ゴ《'1撫II、 四'・ギ 毎 緬 胃 守6117ブ'

'1

図8「 ポ イ ン トメ モ」 の 記 述

解決策 として,「 腕の振 り」 「足の動 き」「体のひね り」のキーワー ドを必ず使 って,「 ポイントメモ」 を書かせること

や,「 『遠 くに』『強 く』『正確に』投 げるポイン トの解説書を作ろう」などの言語活動 に焦点化 した時間を設定すること

も効果的であると考える。

② 投力を高める運動を日常化 する ~子どもが遊びながら投力を高めることのできる環境づ くり~

本実践で行 った 「レベルアップチャレンジ」や 「スローイングゲーム」 を子 どもたちが 日常的に行 うことは現状では

できない。長期継続的に投力を高めてい くためには,日 常の遊びの中に,投 力を高める運動が取 り入れられるよう,環

境 を整備する必要がある。「かべ当てキャッチボールチャレンジ」「かべ当てバウンドチャレンジ」は,体 育館の場所 を,

その運動専用 に設けることで日常化が可能になるし,外 にかべ当てができるような板 などを設置することも考えられる。

また,体 育館 のギャラリーからボールをつるしてお くことで,「 アタック回転チャレンジ」 のようにアタックした り,

「ティーバ ッティングチャレンジ」 のようにボールを打 った りできる。このように,子 どもたちが日常の遊びの中で,

おもしろそうだな,や ってみたいな と思 うような用具 ・環境 を整えることで,日 常的に投運動の経験を積 ませ,投 力の

向上につなげることができるのではないかと考える。

引用文献,参 考文献

1)桜 井伸二

2)高 橋健夫

3)羽 原敬一

4)森 勇示

『投げる科学』 大修館書店 ,1991

『小学校体育ジャーナル』46号 学習研究社,2005

「投の運動能力 を高めるための指導方法の工夫」 岡山県総合教育センター,2007

「体育授業における 『投げる』動 きづ くり一小学校低学年の授業事例から」 愛知教育大学保健体育講

座研究紀要,2008