腎臓の構造12 総 論 第1章 腎臓の構造と機能 13 b b 腎の機能 腎の機能...

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2 3 総 論 第 1 章 腎臓の構造と機能 A A 腎臓kidney の主たる機能は,重要な電解質や代謝産物を保持するとともに,血液中の老 廃物を廃棄して,体液の恒常性を維持することにあります。したがって,尿ができるのは体 液の恒常性を維持した結果です。例えば,飲酒時には 1 時間おきに薄い尿をたくさん排出し ますが,8 時間の睡眠後に出る朝一番の尿はかなり濃くなっています。ここには,体液の恒 常性維持が本領である腎臓の特性が表れているのです。 A 腎臓の構造 1 腎臓の基本解剖 腎臓の形態と位置 腎臓は後腹膜腔臓器 腎臓は手 しゅけん 拳大のソラマメ形をした臓器で,後腹膜腔の腹腔後壁上部(第 11 胸椎から第 3 腰椎の 高さ)に一対(2個)存在します。ただし,左右は全く対称という訳ではありません。肝臓があ るために右腎は少し押し下げられ,左腎よりも 1 ~ 2cm 低い位置にあります(p.3図1)。 腎臓からは尿管 ureter が伸び,膀胱 bladder につながっています。体外に排泄される尿はこの 膀胱に蓄えられます。 腎臓には,尿の原料となる血液が入る腎動脈と,腎臓で濾過されなかった血液が戻る腎静脈出入りしています。この腎動脈と腎静脈,そして尿を膀胱へ送る尿管の出入り口は 1 か所に集中 していて,腎門 hilus と呼ばれます。これらは前方から,腎静脈(V),腎動脈(A),尿管(U) の順に並んでいます(p.3図1)。 腎臓の血管と腎区域 腹部大動脈から直に左右に分岐した腎動脈は,腎門に入って 5 本の分節動脈 segmental artery となり,それぞれ5つの腎区域(上区,上前区,下前区,下区,後区)を支配します(p.3図2)。 左右の腎静脈は腎臓を出た後,下大静脈に合流します。その際,左腎静脈腹部大動脈上腸 間膜動脈の間を通過します(p.3 図 1 および p.3 参考)。 腎臓kidney の主たる機能は,重要な電解質や代謝産物を保持するとともに,血液中の老 廃物を廃棄して,体液の恒常性を維持することにあります。したがって,尿ができるのは体 液の恒常性を維持した結果です。例えば,飲酒時には 1 時間おきに薄い尿をたくさん排出し ますが,8 時間の睡眠後に出る朝一番の尿はかなり濃くなっています。ここには,体液の恒 常性維持が本領である腎臓の特性が表れているのです。 A 腎臓の構造 腎臓は後腹膜腔臓器 腎門部は,前方から静脈(V),動脈(A),尿管(U)の順 S T E P P 第1章 腎臓の構造と機能 structure and function of the kidney n ナットクラッカー utcracker 現象(左腎静脈捕捉症候群) 前述のように,左腎静脈は腹部大動脈と上腸間膜動脈 れる様子がクルミ割りの道具に似ていることから, と呼ばれます。 図1 腎,副腎,尿管の形態と位置関係 右腎 左腎 右腎 左腎 左尿管 (膀胱へ) 右尿管 (膀胱へ) 右副腎 左副腎 下大静脈 腹部大動脈 腹腔動脈 上腸間膜動脈 nutcracker 現象の起こ る部位 右精巣動脈 右精巣静脈 下腸間膜動脈 左下横隔動脈 左腎動脈 左腎静脈 左精巣静脈 左精巣動脈 前面 後面 上区 下区 上区 下区 後区 下前区 上前区 図2 腎区域(右腎) 下前区 上前区 n ナットクラッカー utcracker 現象(左腎静脈捕捉症候群) 前述のように,左腎静脈は腹部大動脈と上腸間膜動脈 の間を通過しているため,動脈圧が高く静脈圧が低いと 左腎静脈が圧迫されることがあります。すると,左腎と その周囲がうっ血し,血尿を来すことがありますが,こ の腹部大静脈と上腸間膜動脈に挟まれて腎静脈がつぶさ れる様子がクルミ割りの道具に似ていることから, nutcracker 現象 と呼ばれます。 参考 左腎静脈 上腸間膜動脈 腹部大動脈

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Page 1: 腎臓の構造12 総 論 第1章 腎臓の構造と機能 13 B B 腎の機能 腎の機能 共輸送 symport と対向輸送 antiport 上述のように,能動輸送にはエネルギーが必要です。言い換えれば,タクシーで移動するのと

2 3総 論 第1章 腎臓の構造と機能

A A腎臓の構造

腎臓の構造

腎臓kidney の主たる機能は,重要な電解質や代謝産物を保持するとともに,血液中の老廃物を廃棄して,体液の恒常性を維持することにあります。したがって,尿ができるのは体液の恒常性を維持した結果です。例えば,飲酒時には1時間おきに薄い尿をたくさん排出しますが,8時間の睡眠後に出る朝一番の尿はかなり濃くなっています。ここには,体液の恒常性維持が本領である腎臓の特性が表れているのです。

A 腎臓の構造 1 腎臓の基本解剖

腎臓の形態と位置

腎臓は後腹膜腔臓器 腎門部は,前方から静脈(V),動脈(A),尿管(U)の順

腎臓は手しゅけん

拳大のソラマメ形をした臓器で,後腹膜腔の腹腔後壁上部(第11胸椎から第3腰椎の高さ)に一対(2個)存在します。ただし,左右は全く対称という訳ではありません。肝臓があるために右腎は少し押し下げられ,左腎よりも1~2cm低い位置にあります(p.3図1)。腎臓からは尿管ureter が伸び,膀胱bladder につながっています。体外に排泄される尿はこの膀胱に蓄えられます。腎臓には,尿の原料となる血液が入る腎動脈と,腎臓で濾過されなかった血液が戻る腎静脈が出入りしています。この腎動脈と腎静脈,そして尿を膀胱へ送る尿管の出入り口は1か所に集中していて,腎門hilus と呼ばれます。これらは前方から,腎静脈(V),腎動脈(A),尿管(U)の順に並んでいます(p.3図1)。

腎臓の血管と腎区域腹部大動脈から直に左右に分岐した腎動脈は,腎門に入って5本の分節動脈 segmental arteryとなり,それぞれ5つの腎区域(上区,上前区,下前区,下区,後区)を支配します(p.3図2)。左右の腎静脈は腎臓を出た後,下大静脈に合流します。その際,左腎静脈は腹部大動脈と上腸間膜動脈の間を通過します(p.3図1および☞p.3参考)。

腎臓kidney の主たる機能は,重要な電解質や代謝産物を保持するとともに,血液中の老廃物を廃棄して,体液の恒常性を維持することにあります。したがって,尿ができるのは体液の恒常性を維持した結果です。例えば,飲酒時には1時間おきに薄い尿をたくさん排出しますが,8時間の睡眠後に出る朝一番の尿はかなり濃くなっています。ここには,体液の恒常性維持が本領である腎臓の特性が表れているのです。

A 腎臓の構造

腎臓は後腹膜腔臓器 腎門部は,前方から静脈(V),動脈(A),尿管(U)の順

S T E PP

第1章

腎臓の構造と機能structure and function of the kidney

nナットクラッカー

utcracker現象(左腎静脈捕捉症候群)前述のように,左腎静脈は腹部大動脈と上腸間膜動脈の間を通過しているため,動脈圧が高く静脈圧が低いと左腎静脈が圧迫されることがあります。すると ,左腎とその周囲がうっ血し,血尿を来すことがありますが,この腹部大静脈と上腸間膜動脈に挟まれて腎静脈がつぶされる様子がクルミ割りの道具に似ていることから,nutcracker現象と呼ばれます。

図1 腎,副腎,尿管の形態と位置関係

右腎

左腎

右腎

左腎

左尿管(膀胱へ)

右尿管(膀胱へ)

右副腎左副腎

下大静脈 腹部大動脈

腹腔動脈

上腸間膜動脈

nutcracker現象の起こる部位

右精巣動脈

右精巣静脈 下腸間膜動脈

左下横隔動脈

左腎動脈

左腎静脈

左精巣静脈

左精巣動脈

前面 後面

上区

下区

上区

下区

後区下前区

上前区

図2 腎区域(右腎)

下前区

上前区

nナットクラッカー

utcracker現象(左腎静脈捕捉症候群)前述のように,左腎静脈は腹部大動脈と上腸間膜動脈の間を通過しているため,動脈圧が高く静脈圧が低いと左腎静脈が圧迫されることがあります。すると ,左腎とその周囲がうっ血し,血尿を来すことがありますが,この腹部大静脈と上腸間膜動脈に挟まれて腎静脈がつぶされる様子がクルミ割りの道具に似ていることから,nutcracker現象と呼ばれます。

参考

左腎静脈

上腸間膜動脈

腹部大動脈

Page 2: 腎臓の構造12 総 論 第1章 腎臓の構造と機能 13 B B 腎の機能 腎の機能 共輸送 symport と対向輸送 antiport 上述のように,能動輸送にはエネルギーが必要です。言い換えれば,タクシーで移動するのと

12 13総 論 第1章 腎臓の構造と機能

B B腎の機能

腎の機能

共輸送 symport と対向輸送 antiport上述のように,能動輸送にはエネルギーが必要です。言い換えれば,タクシーで移動するのと同様に代金を支払わなければなりません。タクシー代金は1人で乗っても2人で乗っても変わらないので,それと同じく,どうせエネルギーを消費するのであれば同時に複数の物質を輸送した方が効率的です。そこで,頻繁に物質が移動する尿細管では,共輸送と対向輸送というシステムを準備しました。共輸送では物質Aと物質Bがいっしょに輸送されるのに対し,対向輸送では物質Cと物質Dが反対方向に輸送されます。

近位尿細管 proximal tubule

近位尿細管は,共輸送でNa+,ブドウ糖,アミノ酸,Cl-などを再吸収 ただし,H+は対向輸送され,それを利用してHCO3-を再吸収

尿細管周囲毛細血管網と近位尿細管内の液体の浸透圧近位尿細管腔中の物質は,尿細管上皮細胞→間質→毛細血管という流れで取り込まれます。ここでは取込みを促進したいので,毛細血管静水圧は低い方が好都合です。したがって,尿細管周囲毛細血管網は,糸球体とは逆に低圧系になっています。また,近位尿細管は再吸収する物質だけでなく,水に対しても良好な透過性を示すため,物質の再吸収に際しては,濃度勾配に従って水も同時に再吸収されます。そして,それを支えるのがアクアポリン1*です。例えば,近位尿細管では糸球体で濾過されたNa+の60~70%が再吸収さ

共輸送なので,2人で乗っても料金は1台分です。

対向輸送なので,2人は反対方向へ進みます。したがって,料金は2台分です。

近位尿細管は,共輸送でNa+,ブドウ糖,アミノ酸,Cl-などを再吸収 ただし,H+は対向輸送され,それを利用してHCO3-を再吸収

S T E PP

* アクアポリン1 aquaporin 1(AQP1)アクアポリンは細胞膜に存在し,細胞内と細胞外の水の運搬に従事する蛋白です。多くのサブタイプがありますが,アクアポリン1は上皮細胞の管腔側と血管側の両者に発現し,水の通路(水チャネル)を形成します。

れますが,水も同じだけ再吸収されるのです。つまり,近位尿細管内の液体の浸透圧は濾過尿と等張です。

Starling の水分平衡の法則水分平衡の法則は,毛細血管中の血液(血漿)と間質液(ここでは Bowman囊内の濾過尿)の間に成立するもので,“静水圧,膠質浸透圧,毛細血管透過性の3つの要因に規定される” というのが Starling の水分平衡の法則です。まず,図13をご覧ください。血液が毛細血管から外に出ようとする力(血圧)が静水圧hydrostatic pressure(P1)です。これに対して,間質に存在する水分は毛細血管内に押し入ろうという力(P2)として働きます。原則として心臓のポンプ作用を受けた P1は P2より大きいので,P1-P2は外向きになります。次に,ナトリウム,ブドウ糖,尿素などは分子量が小さいため,濃度の濃い方から薄い方へ半透膜(毛細血管壁)を通過していきます。これが血漿浸透圧です。しかし,分子量の大きい蛋白質は半透膜(毛細血管壁)を通過できないので(毛細血管内外で濃度差が生じ),自由に通過できる水分は濃度の薄い方から濃い方へ引きつけられます。この力を膠質浸透圧colloid osmotic pressure と呼びます。さて,毛細血管内には血漿蛋白質が存在するのに対し,Bowman囊内の濾過尿には原則としてありません。したがって,毛細血管内の膠質浸透圧(Π1)は Bowman囊内のそれ(Π2)よりも大きく,Π1-Π2は内向きになります。さらに,内皮細胞の隙間が通りやすくなったり,通りにくくなったりする毛細血管透過性があります(その程度をKとする)。すると,血漿から間質液へ出ていく力(F)は次式のように表現されます。  F=K{(P1-P2)-(Π1-Π2)}

物質の移動近位尿細管では,Na+およびCl-などの各種電解質,ブドウ糖,アミノ酸,HCO3-などの物質が再吸収されます。以下は,近位曲尿細管についての説明です。複雑ですが図14(p.14)を見てください。まず,尿細管上皮細胞の血管側に Na+-K+対向輸送体(Na+-K+ATPase)があることに注目し

Starling の水分平衡の法則水分平衡の法則は,毛細血管中の血液(血漿)と間質液(ここでは Bowman囊内の濾過尿)の間に成立するもので,“静水圧,膠質浸透圧,毛細血管透過性の3つの要因に規定される” というのが Starling の水分平衡の法則です。まず,図13をご覧ください。血液が毛細血管から外に出ようとする力(血圧)が静水圧hydrostatic pressure(P1)です。これに対して,間質に存在する水分は毛細血管内に押し入ろうという力(P2)として働きます。原則として心臓のポンプ作用を受けた P1は P2より大きいので,P1-P2は外向きになります。次に,ナトリウム,ブドウ糖,尿素などは分子量が小さいため,濃度の濃い方から薄い方へ半透膜(毛細血管壁)を通過していきます。これが血漿浸透圧です。しかし,分子量の大きい蛋白質は半透膜(毛細血管壁)を通過できないので(毛細血管内外で濃度差が生じ),自由に通過できる水分は濃度の薄い方から濃い方へ引きつけられます。この力を膠質浸透圧colloid osmotic pressure と呼びます。さて,毛細血管内には血漿蛋白質が存在するのに対し,Bowman囊内の濾過尿には原則としてありません。したがって,毛細血管内の膠質浸透圧(Π1)は Bowman囊内のそれ(Π2)よりも大きく,Π1-Π2は内向きになります。さらに,内皮細胞の隙間が通りやすくなったり,通りにくくなったりする毛細血管透過性があります(その程度をKとする)。すると,血漿から間質液へ出ていく力(F)は次式のように表現されます。  F=K{(P1-P2)-(Π1-Π2)}

参考

図13 Starlingの水分平衡の法則

<間質>

<間質>

<毛細血管>

内皮細胞K(透過性)

Π1(膠質浸透圧)P1(静水圧)

Π1(膠質浸透圧)P1(静水圧)

Π2P2

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108 109各 論 第1章 糸球体腎炎

B B急性糸球体腎炎

急性糸球体腎炎

球が浸潤するので,糸球体 では細胞成分が目立ち,これを富核hypercellularity と呼びます(図2)。その一方で,毛細血管は増殖した細胞成分に押しつぶされ,しばしば内腔に血栓を伴い,虚血に陥ります。これらの結果,糸球体は腫大するので,Bowman囊内腔は反対に狭く感じられます。

蛍光抗体法糸球体係蹄壁とメサンギウム領域に IgGと C3*が顆粒状に沈着している所見を認めます。免

疫複合体はまだらに沈着するので,星を散りばめた空(starry sky pattern:図3)や花弁状に染まります(garland pattern)。

電子顕微鏡基底膜の外側(上皮細胞側)に電子密度の高い沈着物が見られ,humpと呼ばれます(p.109図4)。その正体は免疫複合体で,内部には IgGと C3を認めます。

図2 急性糸球体腎炎の腎生検のH-E染色標本

糸球体は肥大し,多数の多核白血球の浸潤を認め,富核(↑)を呈しています。

* C3補体complement の1つです。分子量190,000で2本のポリペプチド鎖からなる糖蛋白質で,肝臓のほか単球やマクロファージでも産生されます。

図3 急性糸球体腎炎の蛍光抗体抗C3染色標本

免疫複合体の沈着がstarry sky patternとして認められます。

検 査尿検査前述のように,全例で顕微鏡的血尿が,約半数で肉眼的血尿が認められます。糸球体性血尿なので赤血球の変形が目立ち,赤血球円柱(p.67図3)やその他の円柱も出現します。腎機能検査GFR は低下し,約半数で BUNと血清クレアチニン(sCr)が上昇します。多くの場合,GFR

は2~3か月以内にほぼ正常に回復します。なお,腎血漿流量(RPF)は変わらないので,濾過率(FF)=GFR/RPF は低下します。免疫学的検査A群β溶連菌感染を反映して,溶血毒素に対する抗ストレプトリジン抗体antistreptolysin O

(ASO)と,ストレプトキナーゼに対する抗ストレプトキナーゼ抗体antistreptokinase(ASK)の血中値が上昇します。補体は消耗されるので,血清総補体価(CH50)および血清C3値は低下します。これらは2~3か月以内にほぼ正常化します。超音波検査急性疾患なので,腎臓の大きさは正常またはやや腫大します。慢性腎炎では進行するに従って萎縮するので,本症と慢性腎炎の急性増悪の鑑別に役立ちます。治 療本症の治療は対症療法しかありません。したがって,まず腎臓の負担を軽減するため安静と保温を心がけます。GFRの低下中は,塩分制限および低蛋白食とし,かつ炭水化物と脂肪を中心とした必要十分なエネルギーの確保と,出納量を計算した適切な水分摂取とします。また,浮腫と高血圧に対しては利尿薬(フロセミド furosemide)や降圧薬(Ca拮抗薬など)を投与します。病巣からA群β溶連菌が検出される場合には,感染拡大を防止するために適切な抗菌薬を投与します。ただし,菌が検出されない場合の投与が有効とのエビデンスはなく,使用基準は施設によって異なります。なお,副腎皮質ステロイドはNa+貯留によって浮腫や高血圧を増悪させるので,特別な事情がない限り用いられません。

図4 急性糸球体腎炎の腎生検の電子顕微鏡写真 (106-A-53)

→で示したのがhumpです。humpとは,英語で “ラクダなどのコブ”を意味します。

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128 129各 論 第2章 ネフローゼ症候群

D巣状分節性糸球体硬化症

C膜性腎症

蛍光抗体法係蹄壁に沿って,IgGと補体成分(特に C3)が顆粒状に沈着した所見が得られます(図6)。一方,メサンギウム領域への沈着は認められません。IgG は4つのサブクラスに分けられ,特発性では IgG4優位で,続発性は原因によりパターンが分かれます。

電子顕微鏡上皮細胞下に高電子密度沈着物(正体は免疫複合体)を認めます。沈着物と沈着物の間にはスパイクが形成され,沈着物を包み込もうとする様子が観察されます(図7)。

図5 膜性腎症の基底膜肥厚の経過

免疫複合体 処理された免疫複合体

上皮細胞 スパイク 免疫複合体 免疫複合体を包み込んだ基底膜

基底膜 肥厚した基底膜

図6 膜性腎症の蛍光抗体抗IgG染色標本

IgGが係蹄壁に沿って顆粒状に沈着しているのがわかります。

図7 膜性腎症の腎生検の電子顕微鏡写真

スパイク(↑)と免疫複合体(⬆)がはっきりとわかります。

治 療続発性では基礎疾患の治療が本症の治療につながります。一方,特発性の経過はさまざまなので,ケースバイケースで治療を考える必要があります。まず,ネフローゼ症候群に至らない程度の蛋白尿であれば経過観察でかまいませんが,ネフローゼ症候群を呈したケースでは蛋白尿による腎障害を考慮し,副腎皮質ステロイドを投与します。これで効果が乏しい場合には,免疫抑制薬を併用します。予 後本症の経過は緩徐で,短期間で寛解するケースは少ないものの,約30%は長期の観察中に自然寛解します。基底膜の肥厚は本症の治癒過程であり,寛解に向かうのも納得できます。ただし,本症の10~40%は10~20年の経過で末期腎不全に至るので,必ずしも予後が良好なわけではありません。また,本症を契機に悪性腫瘍が発見され,それが死因となることもあります。

D 巣状分節性糸球体硬化症focal segmental glomerulosclerosis(FSGS)

巣状分節性糸球体硬化症は・巣状かつ分節性病変で,ステロイド抵抗性のネフローゼ症候群・血尿の遷延,高血圧を伴う

病 態糸球体が巣状かつ分節性に硬化した病態です。p.106で述べたように,巣状は一部の糸球体

(たくさんある糸球体のうちの幾つか)の病変を,分節性は糸球体の一部(個々の糸球体の一部分)の病変(図8)を,そして糸球体硬化は細胞外基質の増加を意味します。

分類・原因本症も特発性と続発性に分けられます。続発性の基礎疾患としては遺伝性(上皮細胞に発現するポドシンやアクチニン4などの蛋白質の遺伝子異常),HIV感染,逆流性腎症,ヘロイン中毒などが知られています。詳細は不明ですが,いずれも上皮細胞の傷害によると考えられます。

D D 巣状分節性糸球体硬化症巣状分節性糸球体硬化症focal segmental glomerulosclerosis(FSGS)focal segmental glomerulosclerosis(FSGS)

巣状分節性糸球体硬化症は・巣状かつ分節性病変で,ステロイド抵抗性のネフローゼ症候群・血尿の遷延,高血圧を伴う

SS TT EE PPPP

図8 糸球体の分節性硬化

病変部

このように糸球体の一部,つまり分節性の病変を呈しています。