調剤薬局におけるdotsの取り組みについて205/2009 複十字 no.327...

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20 5/2009 複十字 No.327 東京都薬剤師会北多摩支部 はごろも薬局 薬局長 濱 日登美 表1 事例1のDOTSの経過 調剤薬局におけるDOTSの取り組みについて 現在,当薬局の所属する地域(東京都多摩立川 管内)では,平成18年度より,病院・保健所・薬 局などの間で「結核地域連携パス」が検討・試行 され,平成20年度より運用を開始し,モデル事業 として院内DOTSから確実な通院治療へつなぐ「結 核地域連携パス」を構築しています。 当薬局においてはそれ以前の平成17年7月からと 平成19年11月からの2例の薬局DOTSを行いました。 その結果,いかに地域連携が必要かという事例で もありましたので,報告いたします。 年齢:60歳代 性別:男性  家族構成:独居生活  治療内容:INH・RFP・EB・PZA 入院期間:3ヵ月 中断リスク要因:自営の事業に失敗し,生活保護・独 居生活になり,結核と診断された当初から大量の薬を 服用してまでの治療は必要ないと考えていた。服用開 始してから,全身乾燥肌→かゆみ,食欲の低下,肩関 節の痛みを訴えていた。 ① DOTS支援計画参加受諾まで 多摩立川保健所感染症対策係から薬剤師会経由 で当薬局に電話がありました。患者が当薬局の近 所に居住し,以前来局されたこともあるので候補 にあがったようでした。通常の調剤業務では,薬 を手渡すまでの服薬指導であるところを,服薬後 の確認までを見守ることができること,そしてそ れが疾病完治までの大切な指導であることから, 当薬局としても,受け入れの方向で検討を開始し ました。まずそのために,結核という疾病とその 治療について,支援計画に携わる当薬局の全スタッ フが正しい知識と理解をもつ必要がありました。 服薬指導を行う全薬剤師は,保健師から「結核 およびDOTS支援計画について」説明を受け,その 結果経営者を含む全員の一致した考えで,DOTS支 援計画への参加を決めました。 ② DOTS支援計画書作成 我々が今回取り組むのは,入院中のDOTSタイプ A(毎回確認)とは異なり,退院後のDOTSタイプ B(2週間に1度の空ヒート確認)なので,いつ・ どこで・だれが・どのように確認するかなどを基 本に,休日の対応や薬局まで来られない場合,ま た緊急連絡先なども確認し,プランを完成させま した。そして,保健師の方の仲介により,日を改 めて薬局内において初めての顔合わせを行い,患 者本人+保健師+当薬局全薬剤師の計6名で「DOTS 支援計画」の詳細部まで確認し,全員納得の上で これを完成させました。 ③ DOTSの経過(表1) ④ 結果 DOTS第6回目に,保健師及び全薬剤師で,患者 本人を囲み,服薬終了を称え,治療終了を共に喜 び合いました。その際,東京都多摩立川保健所長 からの「治療終了証」を,代理として私の手から お渡ししました。その場に居合わせた全員が,一 様に大きな安堵と達成感を共有することができ, 自然に拍手が起こりました。 事例1

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Page 1: 調剤薬局におけるDOTSの取り組みについて205/2009 複十字 No.327 東京都薬剤師会北多摩支部 はごろも薬局 薬局長 濱 日登美表1 事例1のDOTSの経過

20 5/2009 複十字 No.327

東京都薬剤師会北多摩支部はごろも薬局

薬局長 濱 日登美

表1 事例1のDOTSの経過

調剤薬局におけるDOTSの取り組みについて

現在,当薬局の所属する地域(東京都多摩立川管内)では,平成18年度より,病院・保健所・薬局などの間で「結核地域連携パス」が検討・試行され,平成20年度より運用を開始し,モデル事業として院内DOTSから確実な通院治療へつなぐ「結核地域連携パス」を構築しています。当薬局においてはそれ以前の平成17年7月からと平成19年11月からの2例の薬局DOTSを行いました。その結果,いかに地域連携が必要かという事例でもありましたので,報告いたします。

年齢:60歳代 性別:男性 家族構成:独居生活 治療内容:INH・RFP・EB・PZA入院期間:3ヵ月中断リスク要因:自営の事業に失敗し,生活保護・独居生活になり,結核と診断された当初から大量の薬を服用してまでの治療は必要ないと考えていた。服用開始してから,全身乾燥肌→かゆみ,食欲の低下,肩関節の痛みを訴えていた。

① DOTS支援計画参加受諾まで多摩立川保健所感染症対策係から薬剤師会経由で当薬局に電話がありました。患者が当薬局の近所に居住し,以前来局されたこともあるので候補にあがったようでした。通常の調剤業務では,薬を手渡すまでの服薬指導であるところを,服薬後の確認までを見守ることができること,そしてそれが疾病完治までの大切な指導であることから,当薬局としても,受け入れの方向で検討を開始し

ました。まずそのために,結核という疾病とその治療について,支援計画に携わる当薬局の全スタッフが正しい知識と理解をもつ必要がありました。服薬指導を行う全薬剤師は,保健師から「結核およびDOTS支援計画について」説明を受け,その結果経営者を含む全員の一致した考えで,DOTS支援計画への参加を決めました。② DOTS支援計画書作成我々が今回取り組むのは,入院中のDOTSタイプA(毎回確認)とは異なり,退院後のDOTSタイプB(2週間に1度の空ヒート確認)なので,いつ・どこで・だれが・どのように確認するかなどを基本に,休日の対応や薬局まで来られない場合,また緊急連絡先なども確認し,プランを完成させました。そして,保健師の方の仲介により,日を改めて薬局内において初めての顔合わせを行い,患者本人+保健師+当薬局全薬剤師の計6名で「DOTS支援計画」の詳細部まで確認し,全員納得の上でこれを完成させました。③ DOTSの経過(表1)④ 結果DOTS第6回目に,保健師及び全薬剤師で,患者本人を囲み,服薬終了を称え,治療終了を共に喜び合いました。その際,東京都多摩立川保健所長からの「治療終了証」を,代理として私の手からお渡ししました。その場に居合わせた全員が,一様に大きな安堵と達成感を共有することができ,自然に拍手が起こりました。

事例1

Page 2: 調剤薬局におけるDOTSの取り組みについて205/2009 複十字 No.327 東京都薬剤師会北多摩支部 はごろも薬局 薬局長 濱 日登美表1 事例1のDOTSの経過

215/2009 複十字 No.327

表2 事例2のDOTSの経過

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① DOTS支援計画参加受諾まで保健所感染症対策係から薬局にDOTSが可能かどうかの相談がありました。今回の課題は経済的な問題が原因で,通院時の金銭負担を軽減させるために,外来の検査項目を必要最低限に抑え,退院時に3ヵ月分の薬を出してもらうとのことでした。大量処方のために,薬の管理が大切であり,主治医より「薬局DOTS」の提案となりました。この当時は診療報酬算定の全くできないケースと説明し,薬局DOTSの意義を示すためにも「服薬支援による疾病完治」を目標として,DOTS支援参加を受諾しました。② DOTS支援計画書作成正式名が「服薬お手伝い計画書」と変更されました。退院時に病院で受け取った薬を患者本人がすべて持参し薬局に預け,7日分ずつ持ち帰り自宅の薬箱に保管。毎日定時に服薬し,記録ノートに○印を付け空ヒートを保管し,7日後にそのノートと空ヒートを薬局へ持参されました。薬局では毎日の服用が確認できたらその旨をノートにサインし,再び7日分を渡すことなどを本人・保健師・当薬局薬剤師・患者の同居人(婚約者)の計5名で確認し,計画書を完成させました。 ③ DOTSの経過(表2)④ 結果DOTS終了,本人,婚約者,保健師,薬局スタッフ全員で服薬完了を称え,保健所長が英語で準備した「治療終了証」をお渡しし,拍手で見送りました。DOTS支援に参加して DOTS開始時は患者の表情が硬く,特に事例1の

ケースでは「確認されなくても,きちんと飲むから」「人権侵害だ」とも言われ,その時の患者の心理・おかれている状態をもっと理解しないと続けられないと思い,“まず,話を聞く”ことから始めるようにしました。回を重ねるにつれて,患者から「数えるほうも大変だね・・」との声とともに,1剤ずつ丁寧に空ヒートの分け入れられた4つの封筒を差し出し,胃の不快感,食欲,睡眠など,こちらから尋ねる前に話してくれるようになりました。終了式の全員で安堵感に包まれているときに,患者本人が「結核」と診断を受けた日のことを話してくれました。「入院命令書」を渡され,治療の説明を受け,大量の薬を渡され,服用したら胃が痛く胃薬をくれたけど肌がかさかさして,「このまま生きていても人に迷惑かけるだけだから,死んだ方がまし」とも考えたそうです。その後やっと退院したのに,まだ1日10粒も薬を飲み続け,空ヒートを薬局までもって行き,目の前で確認される状況では,当初,患者の表情が硬かったのも当然だと改めて納得できました。仮に本人の命は救ったとしても,結核の本当の怖さは,中途半端な治療により慢性排菌の状態になる可能性があることです。これだけ患者にとって精神的にも肉体的にも負担のある治療であることを充分認識し,薬剤師として患者の前に立つのではなく,一緒に横に並んでゴールをめざして1歩1歩進んでいくこと,薬に対する不安・不信などを最小限にし,横道にそれずにゴールへの最短距離を教えてあげることが,DOTSの服薬指導だと感じました。冒頭にふれましたように現在当薬局のエリアでは,入院時から退院→通院のDOTSが関連医療機関と保健所でスムーズに行われるために,「服薬パスノート」が作られ,患者のQOLの向上と支援対策の強化を目指しています。患者の正しい理解と支援者の迅速な判断,管理された治療のもと,日本からも世界からも結核がなくなることを,心から願います。

年齢:20歳代 性別:女性(国籍:フィリピン)家族構成:婚約者の日本人男性治療内容:INH・RFP・EB・PZA入院期間:5ヵ月中断リスク要因:日本語理解困難。経済的に厳しく,結核発病後もかなり長期にわたり放置し飲食業に勤務を続けていた。きちんと内服治療を継続することにより完治することは入院中に理解したものの,経済的な問題は残っていた。

事例2