肺腺癌におけるglut-1発現の臨床的意義...50 b ª } y...

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50 西井竜彦 他 日本大学医学部総合医学研究所紀要 Vol.1 2013pp.50-52 1)日本大学医学部心臓血管・呼吸器・総合外科 2)日本大学医学部呼吸器内科 西井竜彦:[email protected] の手術を施行した患者のうち,術前に PET 検査が 行われており,なおかつ研究の承諾を得られた腺癌 患者 15 名を対象とした。比較のため扁平上皮癌患 10 名を対象とした。糖尿病患者は除外とした。 腺癌は,男女比は 105 で,48 歳から 81 歳(平均 年齢 71.9 歳),扁平上皮癌は,男女比は 73 で,55 歳から 79 歳(平均年齢 69.4 歳)であった。その内, 腺癌で PET 陰性例が 3 例みられたが,扁平上皮癌は すべて PET 陽性であった。病期は,腺癌で stage IA 6 例, IB 4 例, IIA 1 例, IIB 1 例, IIIA 3 例,扁平 上皮癌で IA 5 例,IB 4 例,IIA 1 例であった。腫瘍径 は, 腺 癌 が 2.2 ± 1.25cm,扁平上皮癌が 3.21± 1.71cm で有意差は認めなかった(P=0.11)。 【方法】 病理組織診断後のパラフィンブロックを 5 μ m 薄切し,ACRIS ANTIBODIES GmnH 社製抗 GLUT-1 ポリクローナル抗体を用いて免疫染色した。 Stain intensity の判定は, Higashi らの論文 2Younes らの 論文 3に準じて,標本内の癌細胞 500 個について 【緒言】 Glucose transporter-1(以下 GLUT-1)は,GLUT family に属する膜貫通型蛋白で,ブドウ糖の能動輸 送に関与し,腫瘍の悪性化に伴い高率に発現を示す ことが知られており,実際,腫瘍細胞は正常細胞に 比べグルコースの活性,代謝が高いことから, GLUT-1 発現と発癌,発育,さらに予後不良因子と しての関与が示唆されてきた 1。これまでに乳腺, 脳,食道,大腸,皮膚,甲状腺,卵巣,子宮の腫瘍 についての報告がみられるものの,肺癌に関しての 報告例は非常に少ない。また,悪性腫瘍においては 18F-Fluorodeoxyglucose 18F-FDG-PET standardized uptake value SUV maxが高いほど悪 性度が高いことも示唆されている。そこで,今回肺 癌の GLUT-1 発現を検索することで PET 検査での SUV max 値との相関があるかどうか,すなわち悪 性度,病期との相関があるかどうかを検討した。 【対象】 平成 21 10 月から平成 22 12 月まで当科で肺癌 西井竜彦 1,村松高 1,古市基彦 1,高橋典明 2要旨 肺癌において,悪性腫瘍の発現に関与すると言われる Glucose transporter-1(以下 GLUT-1)発現 を検索し,PET 検査での SUV max 値との相関があるかどうか,すなわち悪性度,病期との相関があ るかどうかを検討した。当科で手術を施行され,承諾の得られた肺癌患者(腺癌 15 例,扁平上皮癌 10 例)を対象とした。すべての症例で GLUT-1 の発現がみられた。 腺癌と比べ扁平上皮癌が有意に高い染色性(1.93±0.73 vs 2.29±0.81)を示したが,病期,腫瘍径 との相関は認められなかった。また両者において,GLUT-1 PET SUV max 値との相関は認めら れなかった。 肺腺癌における GLUT-1 発現の臨床的意義 Clinical significance of the GLUT-1 expression in the pulmonary carcinoma Tatsuhiko NISHII 1Takashi MURAMATSU 1Motohiko FURUICHI 1Noriaki TAKAHASHI 2創立50 周年記念研究奨励金(共同研究)研究報告

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Page 1: 肺腺癌におけるGLUT-1発現の臨床的意義...50 b ª } y 日本大学医学部総合医学研究所紀要 Vol.1 (2013) pp.50-52 1)日本大学医学部心臓血管・呼吸器・総合外科

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西井竜彦 他

日本大学医学部総合医学研究所紀要

Vol.1 (2013) pp.50-52

1)日本大学医学部心臓血管・呼吸器・総合外科2)日本大学医学部呼吸器内科西井竜彦:[email protected]

の手術を施行した患者のうち,術前にPET検査が

行われており,なおかつ研究の承諾を得られた腺癌

患者15名を対象とした。比較のため扁平上皮癌患

者10名を対象とした。糖尿病患者は除外とした。

腺癌は,男女比は10:5で,48歳から81歳(平均

年齢71.9歳),扁平上皮癌は,男女比は7:3で,55

歳から79歳(平均年齢69.4歳)であった。その内,

腺癌でPET陰性例が3例みられたが,扁平上皮癌は

すべてPET陽性であった。病期は,腺癌で stage

IA 6例,IB 4例,IIA 1例,IIB 1例,IIIA 3例,扁平

上皮癌で IA 5例,IB 4例,IIA 1例であった。腫瘍径

は,腺癌が 2.2± 1.25cm,扁平上皮癌が 3.21±

1.71cmで有意差は認めなかった(P=0.11)。

【方法】

病理組織診断後のパラフィンブロックを5μmに

薄切し,ACRIS ANTIBODIES GmnH社製抗GLUT-1

ポリクローナル抗体を用いて免疫染色した。Stain

intensityの判定は,Higashiらの論文2),Younesらの

論文3)に準じて,標本内の癌細胞500個について

【緒言】

Glucose transporter-1(以下GLUT-1)は,GLUT

familyに属する膜貫通型蛋白で,ブドウ糖の能動輸

送に関与し,腫瘍の悪性化に伴い高率に発現を示す

ことが知られており,実際,腫瘍細胞は正常細胞に

比べグルコースの活性,代謝が高いことから,

GLUT-1発現と発癌,発育,さらに予後不良因子と

しての関与が示唆されてきた1)。これまでに乳腺,

脳,食道,大腸,皮膚,甲状腺,卵巣,子宮の腫瘍

についての報告がみられるものの,肺癌に関しての

報告例は非常に少ない。また,悪性腫瘍においては

18F-Fluorodeoxyglucose (18F-FDG) -PETの 最 大

standardized uptake value (SUV max) が高いほど悪

性度が高いことも示唆されている。そこで,今回肺

癌のGLUT-1発現を検索することでPET検査での

SUV max値との相関があるかどうか,すなわち悪

性度,病期との相関があるかどうかを検討した。

【対象】

平成21年10月から平成22年12月まで当科で肺癌

西井竜彦 1),村松高 1),古市基彦 1),高橋典明 2)

要旨

肺癌において,悪性腫瘍の発現に関与すると言われるGlucose transporter-1(以下GLUT-1)発現を検索し,PET検査でのSUV max値との相関があるかどうか,すなわち悪性度,病期との相関があるかどうかを検討した。当科で手術を施行され,承諾の得られた肺癌患者(腺癌15例,扁平上皮癌10例)を対象とした。すべての症例でGLUT-1の発現がみられた。腺癌と比べ扁平上皮癌が有意に高い染色性(1.93±0.73 vs 2.29±0.81)を示したが,病期,腫瘍径

との相関は認められなかった。また両者において,GLUT-1とPETのSUV max値との相関は認められなかった。

肺腺癌におけるGLUT-1発現の臨床的意義

Clinical significance of the GLUT-1 expression in the pulmonary carcinoma

Tatsuhiko NISHII1),Takashi MURAMATSU1),Motohiko FURUICHI1),Noriaki TAKAHASHI2)

創立50周年記念研究奨励金(共同研究)研究報告

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肺腺癌におけるGLUT-1発現の臨床的意義

GLUT-1陽性細胞を百分率にて算出(1+:10%以下,

2+:10-60%,3+:60%以上)した(Fig.1)。

【結果】

すべての症例で,GLUT-1染色が陽性であった。

Stain intensityは,腺癌では1+が4例,2+が8例,3+

が3例であったが,扁平上皮癌では1+が1例あった

以外はすべて3+で,組織別のGLUT-1のstain inten-

sityは,腺癌症例(n=15)が1.93±0.73,扁平上皮癌

症例(n=10)が2.29±0.81で,扁平上皮癌が有意に

高い染色性(P=0.006)を示した (Fig.2)。病期との

検討では,腺癌,扁平上皮癌のいずれも染色性は特

定の傾向は示さず,PETのSUV MAX値とGLUT-1

の比較においても,腺癌でGLUT1 高染色群でSUV

MAX値が高い傾向があったが有意な相関は認めな

かった。

【考察】

今回の検討では,肺癌においてのGLUT-1の発現

は病期,腫瘍径と相関は認められなかった。PETの

SUV MAX値は,腺癌 2.44±2.26,扁平上皮癌 8.91

±7.92で有意に扁平上皮癌が高く(P=0.006),また

扁平上皮癌では,腫瘍径とPET間に相関があった

(相関係数=0.83)。しかし,扁平上皮癌のGLUT-1

の発現は,腫瘍径の小さい早期から高発現であるこ

とから,PETの値とは相関はみられなかった。一方,

腺癌では早期の症例でもGLUT-1の高発現を示すも

のや,進行症例でも低発現を示す症例が認められる

など,一定の傾向を示さなかった。またPETの値

とも相関を示さなかった。Stain intensityは肺腺癌の

分化度すなわち腫瘍の悪性度に関与すると考えられ

るが,今後はGLUT-1が単独の予後因子なるうるか

の比較を行い,さらに原因を探求していきたい。

【まとめ】

①肺腺癌におけるGLUT-1発現の臨床的意義を検

討した。②GLUT-1の発現は病期,腫瘍径と相関は

認められなかった。③また,GLUT-1の発現とPET

のSUV MAX間に相関は認められなかった。④

GLUT-1の発現と予後に関してはさらなる検討が必

要である。

謝辞

本研究にご協力を頂いた教室の呼吸器外科チームの

諸兄に感謝の意を表します。

本研究は,日本大学医学部創立50周年記念研究奨励金(共同研究)の助成を受け,実施致しました。記して

謝意を表します。

文献

1) Yasuda M, Ogane N, Hayashi H, et al. Glucose trans-porter-1 expression in the thyroid gland: clinicopath-ological significance for papillary carcinoma. Oncol Rep 2005; 14: 1499-1504.

2) Higashi T, Tamaki N, Torizuka T, et al. FDG uptake, glucose transporter and cellularity in human pancre-

Stain intensity

1+ 2+ 3+

Fig.1

P<0.01

GLUT-1 stain intensity

Fig.2

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西井竜彦 他

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atic tumors. J Nucl Med 1998; 39: 1727-1735 2) Younes M, Brown RW, Stephenson M, et al. Overex-

pression of Glut1 and Glut3 in stage I nonsmall cell lung carcinoma is associated with poor survival. Can-cer 1997; 80: 1046-1051.