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先進企業の自然エネルギー利用計画 (第14回) ユニリーバ 世界5大陸で自然エネルギー100%を達成 サステナブルなブランドが高成長に

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Page 1: 先進企業の自然エネルギー利用計画 (第14回) › ... › CorpCS_Unilever_201912.pdf1 1. 自然エネルギーの利用方針と導入計画 石鹸をはじめ日用品や食品を世界各国で製造・販売するユニリーバ(Unilever)は、サステナビリティ

◼先進企業の自然エネルギー利用計画 (第14回)

ユニリーバ

世界5大陸で自然エネルギー100%を達成

サステナブルなブランドが高成長に

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1. 自然エネルギーの利用方針と導入計画

石鹸をはじめ日用品や食品を世界各国で製造・販売するユニリーバ(Unilever)は、サステナビリティ

(持続可能性)を事業の中核に据えて環境負荷の低減に取り組む代表的な企業である。ユニリーバの製品

は世界 190 カ国で毎日 25 億人に使われている。気候変動や環境破壊によって数多くの人々の生活が脅か

されるようなことになれば、ユニリーバの事業も大きな影響を受ける。環境負荷の小さい製品を増やし、

製品のライフサイクル全体で CO2(二酸化炭素)の排出量を削減することが、これからも事業を維持・

拡大するうえで最重要の課題の 1つになっている。

表 1.ユニリーバの概要

写真 1.ユニリーバの代表的な製品(日本国内で販売していない製品もある)

企業名 Unilever N.V. (本社:オランダ) Unilever PLC (本社:英国)

拠点数 製造拠点:世界274カ所・68カ国

エネルギー使用量

2591万ギガジュール (2018年、電力・熱合計)

自然エネルギー利用率

実績:購入電力 100% (世界5大陸、2019年9月から) 電力・熱合計 37% (全世界、2018年) 目標:購入電力 100% (全世界、2020年) 電力・熱合計 100% (全世界、2030年)

売上高

510億ユーロ (2018年、連結) アジア・AMET・RUB:229億ユーロ 北米・中米・南米:160億ユーロ ヨーロッパ:121億ユーロ

社員数 16万1000人 (2018年12月31日)

主要事業 パーソナルケア (ヘアケア、スキンケア、デオドラントなど) ホームケア (住居用洗剤、衣料用洗剤など) 食品 (スープ、ドレッシング、紅茶、アイスクリームなど)

AMET:Africa, Middle East, Turkey RUB:Russia, Ukraine, Belarus

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ユニリーバは 2010 年に、世界共通の事業戦略として「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」

(USLP)を策定した(図 1)。長期にわたって持続可能な事業を推進するために、環境負荷を 2 分の 1 に

低減する目標を掲げ、事業で使用するエネルギー(電力と熱)の全量を 2030 年までに自然エネルギーに

切り替えることを決めた。

購入する電力については、2020 年までに全世界で自然エネルギー100%に切り替える計画だ。すでに

2019年 9 月の時点で、世界 5大陸(アジア、アフリカ、北米、南米、ヨーロッパ)で自然エネルギー100%

の目標を達成した。残すのはオーストラリアなど一部の地域だけになった。

図 1.「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」の全体像と目標

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ユニリーバが全世界の事業で使用するエネルギーの総量は、電力と熱を合わせて 2591 万ギガジュール

にのぼる。電力量に換算すると、72 億 kWh(キロワット時)に相当する(1 ギガジュール=約 278kWh

で換算)。今後は熱も自然エネルギーに切り替えを進めて、2030 年までに電力・熱ともに 100%に引き上

げることを目指す。

日本国内では 2015 年からグリーン電力証書を購入して、東京の本社ビルをはじめ、工場や営業拠点で

使用する電力を自然エネルギー100%で調達している。2018 年の電力使用量は協力会社の工場を含めて

1295 万 kWhで、全量に相当するグリーン電力証書を購入した。さらに熱に関しても、太陽熱と木質バイ

オマスによるグリーン熱証書を購入して自然エネルギー100%を達成している。今後もグリーン電力証書

とグリーン熱証書を購入して自然エネルギー100%を維持する方針だ。

ユニリーバは自然エネルギーを調達する要件を全世界で決めている。電力は自家発電か電力購入契約

(PPA)で調達することを基本にして、それがむずかしい場合には次善の策として証書を購入する。日本

は後者に該当する。「世界 190 カ国に事業を展開しているので、国ごとに自然エネルギーの調達しやすさ

に違いがある。各国で最も早く現実的に切り替えられる方法を選ぶことが基本方針である」(ユニリーバ・

ジャパン・ホールディングスでアシスタントコミュニケーションマネージャーを務める新名司氏)。

証書を利用する場合には、発電源を追跡できることが条件になる。バイオエネルギーに関しては独自の

ガイドラインを設けている。食糧の生産や生物多様性に影響を与えず、CO2 排出量を減らせる燃料しか

使わない。ユニリーバはアイスクリームやマヨネーズを製造しているが、一部の工場では卵の殻からバイ

オガスを生成して発電用の燃料に利用している。

自家発電の典型的な例を、アフリカ大陸のケニアで運営している紅茶の農園に見ることができる。ユニ

リーバの代表的な食品ブランドの 1 つに紅茶の「リプトン」がある。ケニアの自社農園では高い支柱の

上に追尾式の太陽光パネルを設置して、発電した電力を自家消費している(写真 2)。

写真 2.ケニアの自社農園に設置した追尾式の太陽光発電システム。発電規模は合計 619 キロワット

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追尾式は太陽の移動に合わせてパネルの向きが変わるため効率よく発電できる一方、パネルの周囲に

ある紅茶の木には生育に十分な量の太陽光が降り注ぐ。CO2 を排出しない電力を供給できるだけでなく、

茶葉が光合成によって CO2 を吸収するため気候変動の抑制効果は大きい。

ユニリーバは世界各国で自然エネルギーの利用と省エネを推進して、エネルギー使用量と CO2 排出量

を減らしてきた。2009 年と 2018 年を比べると、全世界のエネルギー使用量は 20%減り、エネルギーの

使用に伴う CO2 排出量は 45%減少した。生産量あたりの CO2 排出量は 10 年間で半減した(図 2)。

図 2.生産時に使用するエネルギーの CO2 排出原単位(単位:キログラム/生産トン)

2013 年から算定期間を変更(1-12 月→10-9 月)。比較のため 2012 年は両方の数値を記載

とはいえユニリーバが生産・販売する製品の CO2排出量をライフサイクル全体で見ると、自社の事業

活動(製造)が占める割合は 2%に過ぎない。最大の排出源は消費者が製品を使用する時で、65%を占め

ている(図 3)。例えばシャンプーを洗い流すために必要な温水を作るエネルギーの CO2 排出量などであ

る。気候変動を抑制するためには、製品の使用時における CO2 排出量を削減することが重要になる。

図 3.製品のライフサイクルを通じた CO2 排出量の比率

左から順に、原材料、製造、物流、小売、消費者の使用、廃棄

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製品を改良して CO2 排出量を低減するだけではなく、消費者に気候変動の抑制に協力してもらうため

のキャンペーンを世界各地で実施している。日本ではアイスクリーム・ブランドの「ベン&ジェリーズ」

で、気候変動をテーマにした製品の発売と啓発キャンペーンを継続的に展開している。2015 年には東京・

表参道の直営店において、自然エネルギーの電力を無料で携帯電話に充電できるサービスを期間限定で

実施した(写真 3)。環境負荷の低い自然エネルギーを利用することの重要性を理解してもらうことが目

的だ。

写真 3.日本で実施した自然エネルギー利用促進キャンペーン(2015 年、東京・表参道)

ユニリーバの製品を使う消費者がCO2排出量の削減に取り組めば、利用者が多いだけに効果は大きい。

簡単に洗い流せるシャンプーや低温で洗える衣料用洗剤などが普及して生活習慣が変われば、CO2 排出

量の削減につながる。製品の利用者に向けてキャンペーンを展開してメッセージを伝え、地球規模で気候

変動を抑制する活動を世界各国で続けていく。

新製品の開発においても、気候変動の抑制を目指すブランドや製品を増やしている。2018 年に女性向

けのシャンプーやコンディショナーなどの新ブランド「Love Beauty & Planet」を米国で発表した(次ペ

ージの写真 4)。ブランド名に Planet(惑星)を入れることによって、われわれが住む惑星(地球)を大

切にする意識の高い消費者を拡大する狙いだ。持続可能な天然素材を使い、すすぎの速い製品を開発し

た。ボトルには再生プラスチックを 100%使っている。2021 年までにすべてのパッケージを再生プラス

チックに切り替えることを目指す。

さらに生産時の CO2 排出量を消費者に公表したうえで、排出量 1 トンあたり 40 ドル(35 ユーロ)を

内部炭素価格に設定し、社内で“税”として集めて第三者機関による気候変動対策にあてる。欧州の排出量

取引制度(EU-ETS)では 2019 年に入って取引価格が上昇して 1 トンあたり 25 ユーロ前後で推移して

いるが、それよりも高い価格を社内で徴収して CO2 排出量の削減対策を加速させる。

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写真 4.パーソナルケアの新ブランド「Love Beauty & Planet」の製品例

もうひとつの主力事業である住居・衣料用の洗剤にも同様の新ブランドを展開中だ。「Love Home &

Planet」というブランド名で、30 種類以上の製品を 2019 年 1 月に米国で販売開始した(写真 5)。当初

からほとんどの製品パッケージに再生プラスチックを使用している。2021 年までに 100%に引き上げる

計画である。生産時の CO2 排出量 1 トンあたり 40 ドルの内部炭素価格を徴収する制度も実施する。

写真 5.ホームケアの新ブランド「Love Beauty & Planet」の製品例

この新ブランドの中には衣料用のドライ・シャンプーもある。洗濯する回数を減らして水とエネルギー

の使用量を削減できることに加えて、衣料を長持ちさせる効果を消費者にアピールする。今後も環境負荷

の小さい製品を開発して利用者を増やしながら、ライフサイクル全体の CO2 排出量を削減していく計画

である。

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2. 期待する効果と今後の課題

持続可能な事業活動を目指す「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を 2010 年に開始して、

10 年近くが経過した。2018 年までの実績を見ると、製品の原材料に使用する農産物の半分以上は持続可

能な方法で調達できるようになった(図 4)。例えば食品などに使うパーム油は、RSPO(Roundtable on

Sustainable Palm Oil、持続可能なパーム油のための円卓会議)の認証を取得したものを優先的に調達し

ている。

図 4.「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」の効果(2018 年末までの実績)

世界各国の工場で省エネに取り組んだ結果、2008 年から 11 年間で合計 740 億円のコストを削減でき

た。そのコスト削減分を証書の購入を含む自然エネルギーの調達などにあてる。ユニリーバでは自然エネ

ルギーの調達にかかる追加の費用を、コストではなくてリスクに対する備えと位置づける。気候変動や自

然災害で消費者の生活や原材料になる農産物の生産が脅かされると、事業が成り立たなくなるからだ。

「気候変動を抑制するためには、自然エネルギーに切り替えるオプションしかない、と経営陣が判断し

て、全世界で対策を進めている」(新名氏)。

ユニリーバの製品ブランドは 400 以上あるが、持続可能性を判断するための社内基準を満たした製品

ブランドを「サステナブル・リビング・ブランド」に選定して、重点的に投資する。ブランドを選定する

基準として、パーパス(存在目的・意義)のあるブランドかどうか、環境や社会に与える影響はどうか、

を評価する。製造時の CO2 排出量も評価項目の中に含まれている。

サステナブル・リビング・ブランドは徐々に増えて、2019 年 6 月の時点で 28 になった。ユニリーバ

で売上高トップ 10のうち 7ブランドが含まれている。日本国内で販売している製品は 14ブランドあり、

石鹸のダヴ、紅茶のリプトン、スープのクノール、アイスクリームのベン&ジェリーズなどが入る。2018

年の売上高を見ると、28のブランドはそれ以外のユニリーバのブランドと比較して、平均で 69%も速く

成長した。持続可能な製品がより多くの消費者に受け入れられていることを示す結果である。

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ユニリーバは事業の成長性と持続可能性をもとに、400 以上あるブランドの組み換えを実施してきた。

事業の買収と売却を通じて過去 10 年間に売上高を 25%増やし、営業利益を 2.5 倍に拡大させた(図 5)。

成長率の高いサステナブル・リビング・ブランドが会社全体の収益性を高めながら、同時に環境負荷を低

減させる相乗効果を発揮している。

図 5.ユニリーバの売上高(左)と営業利益(右)の推移。単位:100 万ユーロ

大胆な事業構造の転換は、売上高の構成にも表れている。10 年前には売上高の 5 割以上を占めていた

マーガリンなどの食品は 4 割まで減り、その代わりにパーソナルケア製品の割合が 4割に達した(図 6)。

新たに開発した「Love Beauty & Planet」を含めて、環境に配慮した製品が売上拡大に貢献している。

図 6.製品分野別の売上比率の推移

赤:パーソナルケア、緑:食品、青:ホームケア

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地域別では、市場が拡大するアジア、アフリカ・中東・トルコ(AMET)、ロシアと周辺国(RUB)の

売上が伸びて、全世界の 45%を占めるようになった(図 7)。これらの地域では今後も高成長を期待でき

る一方、国ごとに異なる自然エネルギーの調達条件に対応していく必要がある。特に 2030 年までに電力

と合わせて自然エネルギー100%を目指す熱の転換が大きな課題になる。熱も電力と同様に、使用量を削

減しながら自然エネルギーに転換を進めて、不足する分は証書で補う方針だ。

図 7.地域別の売上比率の推移

紫:アジア/アフリカ・中東・トルコ(AMET)/ロシア・ウクライナ・ベラルーシ(RUB)

青:北米・中米・南米、黄:ヨーロッパ

*本レポートはヒアリング実施日(下記)の時点の情報です。

*図と写真はユニリーバの提供によるものです(表 1 を除く)。

ヒアリング実施日:2019 年 11 月 6 日

レポート作成者:石田雅也(自然エネルギー財団 シニアマネージャー)

©自然エネルギー財団 Renewable Energy Institute 2019