請負契約の中途終了と清算 文ir.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/r...-論...

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請負契約の中途終 4・ 1 はじめに 0の 請負契約の中途終了と一部不能 問題の対象および限定 H 履行遅滞 ω 給付が可分な場合 給付が不可分な場合 履行不能 ω 当事者に責のない場合 注文者に責がある場合 請負人に責がある場合 一請負契約の中途終了と清算…

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Page 1: 請負契約の中途終了と清算 文ir.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/R...-論 文1 ノ\ V りすび ( ) 目的不到達による解除 2 ( 一 注文者の任意解除・六四一条

文請負契約の中途終了と清算

4・

        1  はじめに

         0の 請負契約の中途終了と一部不能

         ③ 問題の対象および限定

        H 履行遅滞

         ω 給付が可分な場合

         図 給付が不可分な場合

        皿 履行不能

         ω 当事者に責のない場合

         図 注文者に責がある場合

         ⑥ 請負人に責がある場合

一請負契約の中途終了と清算…

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-論

文1

ノ\

V りすび

 一 費用賠償

 4

 〔W

 特殊な契約終了事由

 一 注文者の任意解除・六四一条

 1⊥

 (

 ) 目的不到達による解除

 2

 (

       1 は じ め に

 ω 請負契約の中途終了と一部不能

 ω わが民法典上、蘇続的契約では対価の支払は、後払が原則とされる(六一四条、六二四条)。そして、請負で

も、報酬は仕事の目的物の引渡と同時もしくは後払とされている(六三三条)。

 しかし、実さいには、とくに建築請負契約において、出来高払が定められることが多い。請負人の履行が段階的に

                      (1〕

行なわれることから、報酬も順次支払われるのである。

 では、報酬が出来高に応じて支払われると約定されていなくても、請負人は出来高報酬を請求できるか。この問題

は、報酬の後払の原則の是非にかかわるが、請負契約が中途で終了した場合には、当事者の法律関係を簡便に処理す

るものとなる。

 印 ω請負契約の中途終了にも、各種の形態がある。

 ① 請負人が建物の新築を請負ったが、工事を半分行なったところで注文者との間に紛争を生じ、残余の工事を中

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断した.、

⑥⑤④③②①の場合に、半分完成したユ事が、不可抗力によって滅失した。

①の場合に、注文者が残余の工事を請負人から取りあげて他の業者にゆだね、全部を完成させた。

①の場合に、請負人が履行しないので注文者が契約を解除した。

請負人が建物の修理を請負い、修理一のため材料を加工したところ、注文者の建物が不可抗力によって滅失した。

ガソリン・スタンドを経営するため建物を建築する契約をしたところ、行政的規制でガソリン.スタンドを開

《ことはできなくなった。

 闘 まず、ひとしく履行が不可抗力によって妨げられた②と⑤の場合に、請負人のなすべき仕事そのものには実質

的相違はない。しかし、給付するべき内容は異なる。②では、請負人は建物の完成という仕事の結果について債務を負

担するのに対し、⑤では、建物の存在を前提に主として行為給付を義務づけられるのである。

 そこで、ひとしく建物が滅失しても、効果は異なる。②では、請負人の行為のみで履行は可能であり、また請負人

は結果に対し責任をおい、再建築の義務をもおう。しかし、それでは請負人の負担が過大になるので、いわゆる完成

による債務の集中(特定)が主張されている。完成により仕事は特定するから、請負人の給付義務は消滅し、同人は

                      ロ

もはや再建築の義務をおわない、というのである。このことは、一部分の完成に対しても割合報酬が与えられるとき

には、その一一部分の完成によって仕事が集中することを認めることにつながる。

 ⑤では、もともと修理するべき建物の存在が契約の前提であるから、集中の有無を問わず建物の滅失によって請負

人の履行は不能となる..

                                             し

  -請負契約の中途終了と清算一                                  プ

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 一論    交                                         、一C

 脚 これらと異たり、請負人が仕事を中断したというだけでは、給付は当然には不能とならない(ただし、後掲

〔三・四〕判決のように不能を認める例もある)。そして、①の場合に、給付が可分であれば、注文者は、未履行の契

約部分を解除しうる..すると、事実上、出来高払の約定がなくても、報酬債務はその範囲に限定されるのである(H

ω). 

ところが、しばしば注文者は、契約を解除することなく請負人から仕事を取りあげ他の業者に完成させることがあ

るへ③).、すると、完成という注文者の行為によって、請負人の給付は不能となっている.、プてれゆえ、請負人は、少

なくともその出来高に応じて報酬を請求しうべきであろう。・濯、の構成については争いがある(皿ω)。

 (駕■では、③と異なり、注文者は解除によって正当に仕事を取りあげている。それゆえ。完成させて給付を不能として

も、それは注文者の責に帰しえない。むしろ、不能の原因を作った請負人にこそ責があるといえる(皿醐).、しかし、

二の場合でも、仕事を一部履行した請負人には出来高工事の費用償還請求のよちはある、というべきである。

 さらに、⑤の場台にも、給付の不能は、注文者の担保するべき建物の存在しないことによって生じたのであるから、

                       (3)

その損失(出費しは、むしろ同人が負担する必要がある.、

 すると、請負契約の態様が多様であり、景、れに関する障害も多様であるのに反し、既履行給付に対する出費を賠償

し出来高報酬を与えることで、、多様な障害をかなり統一的に把握できるように思われるのである。

 吻 問題の対象および限申疋

 ω 継続的な契約である請負では、当事者間に紛争を生じて請負人が仕事を中断することが多い(①の場くε,報

酬額の増減や支払をめぐって、あるいは仕事の瑕疵、注文者の協力についてなど、理由は多様である.、サての結果、履

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行期を徒過し、あるいは当事者の態様から履行が不能となり、事実上契約関係が終了することも少なくない。多くの

場合に、当事者双方に責があるともいえる。しかるに、法律構成としては、双方に責がない(五三六条一項)、また

は一方に責がある(同条二項、四一五条・五四一条)ことを出発点としなければならない。しかし、出発点は異なっ

ても、実質がさほど違わないものとすれば、効果はブてう異ならないものとなる。本稿は、裁判例を素材にこのことを

検討することを目的とする。

 ω また、この請負契約における特殊性は、広く危険負担との関係をも検討する契機たりうる。

 m 出来高報酬の支払は給付の.部履行、一部不能に対応するものであるから、その検討は、請負契約の給付の把

握についても再考をうながすものとなる、すると、費用賠償(⑤)は、それほど理論構成のかけ離れたものともいえ

なくなるのである。

 樹 また、請負報酬後払の原則や、引渡主義との関係にもかかわる。一般に引渡が必要といわれる請負の危険負担

〔4)                                                    (5)

は、仕事の二部し完成によって出来高報酬の請求を認めては没却されるのではないか、との問題である。。

(1) 来栖一.一郎・契約法「一九七四年〕四七五頁、内山尚ゴ、二請負[民法総合判例研究⑳一九七八年〕三〇頁以下参照。

           

(2) 我妻栄・民法講義隔つ九六二年〕六一、四頁。集中を認めないと、請負人は仕事をやりなおさなければならない。

           

(3) 行為給付の不能と出費の賠償については、小野「行為給付と危険負担し商学論集五二巻二号・三号参照。

(4) 我妻・前掲六二六頁。外国法には、請負について特別を設け、引渡主義を明示する例も・.ωる(旨、一民六四四条一項).、

(5) 請負における危険負担(②一を典型と.りる)では、一九世紀に引渡主義が確立されセ。爵、れま一う、は、仕事の完成によって注

  文者に危険が移転するとの立場(πとえば、許与・”.ン民法典ご、四九条)もあっ九.、-、かし、・ての後、請負人の負担の軽減

 請負契約の巾).述終了と清算一                               一一

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1論    文-1                                    一二

 をはかる方向で新しい解釈が行なわれ一、きた。、仕事の集中(前注(2))や、請負人の報酬増額請求を認めようとする法社

                                 

 会学的解釈(川島武宜「建築請負契約における危険負担」契約法大系W〔一九六三年〕所収、内山尚三・現代建築請負契約

                                (

 法〔一九七九年〕六五頁以下)である。

  注目するベン,二一とは、英米、とくにアメリ由、法でも一部履行に対価の支払を認める二とによって請負人の一負担軽減がはか

 らわていることである.すなわち、コエ』・・1は、請負人が契約によって引きうけ忙建物建築義務をその責のない滅失に

 ・一らても免れえない二とを原則とする。、ノか、ノ、二の原則によって請負人が仕事の結果に責任をおうのは、建物全部を自分

 で建築する場合にがゴ.、られる。すなわち、たんに一一部を建築し、修繕する場合には、給付義務は滅失によって消滅し、履行

 された仕事には対価の請求を認めようとする一部履行(麗容冨匡9ヨ雪9)および修理の法理(器冒マα8巳器)が一般

 化しセのである(阜≦三碧OPOO葺轟良質伽雀8冷O日玄P∩〇三βoβ協るωOo)。

  にだし、近時、¢一た勒、〕引渡主義との関係をみなおす動きもある (>目。叶・鵠》戸刃ωa・刈。。o。(ち8))。消費者保護的

 視点からは、みなおしが必、要であろう。

        H 履 行 遅 滞

 ω 給付が可分な場合

 [ 請負人が仕事を中途で放置し遅滞するときには、注文者は、契約を解除することができる。

 しかし、その前提として、既履行給付については解除は許されない。順次引渡の売買に関しては、

      (1)

認められている。

 〔一・一〕 大判大一四・二・一九民集四巻六四頁。

早くにこの理が

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 XはYに対し、毛糸七六CCポンドを四カ月にわたり順次〔四分の一ずつ〕売却する契約を結んだが、第二月以降、

Yは受領を拒否し代金も支払わない.、そこで、Xは、不履行月以降契約を解除し、毛糸と代金価額との差額を損害賠

償として請求した。これに対し、Yは、Xの不履行を理由に契約の全部を解除するとして、既払代金の返還を反訴で

請求した。原審がYの主張を認めたので、Xが上告。

 大審院は、原判決中、Yの反訴を認容した部分を破棄して、順次供給契約では、履行を終えた部分は契約の本旨に

したがった給付といえるから、その一部だけでは契約をした目的を達しえないなどの特段の事情のないかぎり、契約

を全部解除することはできない、とした。

 ω 継続的性質を有する契約には、一一般的に右の理があてはまり、請負にもいえる(、一へ、一つ条.六一一、一〇条.、一ハ五二

  (2)

条参照)。これを請負について比較的早くに言及したのが、次の判決である。

 2・二〕 大判大一五二、一・二五民集五巻七六、一、一一頁。

 XはYに石垣積工事を下請けさせたが、Yは工事を完成させず、また、その施工した部分も不完全であった。そこ

で、Xは、自分の出捐で完成させ、Yの不履行によって損害をこうむったとしてその賠償を求めた。原審は、XがY

から工事をとりあげた時点ではまだ履行期が残っており、不能につきYには責がない、とした。Xから上告.、

 判決は、事案において、たとえ期限到来前であっても請負人がエ一事を完成させえないことは明確であり、そのよう

な場合には、注文者は、民法六四一条によっても解除しうるし、また、一般の解除権の行使も妨げられない、として、

原判決を破棄差戻した。

 右判決は、解除が未履行給付の部分にかぎられるのか、との問題には立ちいっていない。そして、仕事の目的物に

  -請負契約の中途終了と清算i                                 二、一

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  -論  

文一                           

一四

瑕疵があっても、建物その他土地の工作物に関する契約は解除しえない、とする六三五条仰書の適用をも否定した。

しかし、既施工部分の解除がなされると請負人にとって酷であり一般経済上も不利益であることから、六三五条但書

                                 (3)

は既施工部分の解除を禁じたにとどまる、との判断を前提にするものであろう。

                       パイロ

 請負の解除の内容を明確にしたのは、次の判決である。

 〔一∴二〕 大判昭七・四二二〇民集一一巻七八一一一)頁.、

 XはYから建築工事を請負い、相当程度完成させた。しかし、Yが出来高代金を支払わないので、X・Y間の合意

で既施工の建物の一部をXに譲渡する旨を約した。しかるに、Yはその移転登記をせず、また、請負契約をも解除す

る旨の意思表示を行なった。プてこで、Xは、請負目的物の請負人帰属を前提に、Yの解除の結果、建物所有権は全部

自分に復帰したとして、・ての所有権確認を求めた。Yは、解除が未完成部分だけに対するものだと抗弁したが、原審

は全部解除を認め、Xに所有権があるとした。Yから上告。

 判決は、仕事の完成とは必ずしも工事の全部完成にかぎらず、給付が可分で当事者がプての給付に利益を有するとき

には、すでに完成した部分を解除することはできず、未完成部分につき契約の一部解除が許されるにすぎない、とし

て原判決を破棄差戻した。

 最高裁も、同趣旨を認めている。

                              

 2・四〕 最判昭五六・二二七判時九九六号六一頁、裁判集民コ二二巻一二九頁。

                             (

 Xは、Aに対する手形金債権にもとづき、AのYに対する建築請負の報酬請求権を差押え取立命令をえて、Yに対

しそ.の支払を求めた。これに対し、Yは、A・Y間の請負契約では、Aが工事を半分しか完成させないので債務不履

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行を理由に契約を解除した、そこで報酬支払債務も消滅した、と争った.原審はYの抗弁を容れた。Xは、解除に遡

及効を認めるのは不当として上告。

 最高裁は原判決を破棄差戻して、次のように判示した。

 「建物その他土地の工作物の工事請負契約につき、工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を、理由に

右契約を解除する場合において、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するとき

は、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ未施工部分について契約の一

部解除をすることができるにすぎないものと解するのが相当である」。

 ㈲ 請負人の仕事の放置に対し、注文者は、遅延賠償を求めることもできる。しかし、請負人が期限内に仕事を完

成させえなくなったどきには、これを履行不能とみることができるか。これを肯定すれば、請負人に責がある不能と

して填補賠償を求めることができよう(後述〔三・四〕・〔四・七〕判決参照)。しかし、当然には不能にならない

とすると、注文者が他の業者に完成させたときに、同人に責のある不能となる。なお、不能の場合の具体的な構成に

ついては争いがある(後述皿図).、

 ω 給付が不可分な場合

 仕事の目的物が不可分な場合には、一部の履行は注文者にとって意義がない。しかし、建築請負にはあまりありえ

ない類型である。高度の技術を要するために、他の業者に完成させるよちがなく、しかも、一部では使用しえない場合

のみであろ乖請負複ε・芸術的・創造的作品の製作がこれ塞たる.あ場合には、契約の全部蟹を認める

必要がある。

                                            ユ ヨし

  i請負契約の中途終了と清算;                               一.、一

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  一論    文一                                       一六

 最高裁は、次の事件で契約の全部解除を認めた。

                               

 〔二二〕 最判昭五二二二・二三判時八七九号七三頁、裁判集民二一二号五九七頁。

                              (

 XはYに、自動車学校の用地整備・コース付随設備の工事を請負わせ、その対価として、代金の代りに土地を与え

ることを約し、約定の土地の二分の一について移転登記を行なった。しかし、Yは工事を二割ほどしかせずに中止し

た。そこで、Xは、債務不履行を理由に契約を解除し、土地の返還と移転登記の抹消を求めた。原判決は、Xの解除

は契約の一部解除であって、Yのした既施行部分にはおよばないとした^)Xから上告。

 最高裁は原判決を破棄差戻して、 「本件工事はその性質上不可分であるとはいえないが、Yのした右既施工部分に

よってはXが契約の目的を達することはできないことが明らかであるところ、Xは、本件工事残部の打切りを申し入

れるとともに本件土地全部の返還を要求しているのであるから、他に特別の事情がない以上、右本件工事残部の打切

りの申入をすることにより、Xは契約全部を解除する旨の意思表示をしたものと解するのを相当とすべく、単に、右

残存工事部分のみについての契約の解除の意思表示をしたものと断定することは妥当を欠くものといわなければなら

ない。」

 本件判決は、契約の全部解除の可能性を肯定する。しかし、整地工事の続行は他の業者にとっても可能であるから、

給付自体が不可分とはいえまい。むしろ、事案では、反対給付が土地の譲渡だという特殊性があった。そして、履行

が契約の二割にすぎない状況のもとでは、請負人から土地を返還させることが妥当であり、その前提として解除がも

            (6)

ち出されたにすぎないのである。

 それゆえ、右の請負工事については、出来高報酬の請求を認めることも可能である。その反面、契約の解除も、未

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履行部分に制限されうる。対価である土地の返還は、対価に関する付款の解除によって理由づければ足り、これによ

っても、請負人は、二割の報酬を求めることができよう。

 (1) 〔一二〕判決についても争いはない(杉之原舜一・判民大正一四年度、一一一九頁参照)。

 (2) 〔一・二〕判決に関し、我妻栄・判民大正一五年度五一、一一七頁。

 (3) 本条につき、一般的に、我妻・前掲六四一頁。つまり、解除を認める本判決は、未履行部分を念頭においだもHのであろ

   、り。

 (4) 〔一・、一、ご判決を肯定するものとして、末弘厳太郎・判民昭和七年度二〇五貞。

 (5) たとえば、海上都市をつくる工事で、海面下に土台を一部つくるに終った場合である。他の業者が仕事を引きつげない以

   上、注文者にとって土台の意味はない。

 (6) 事案における対価の特殊性に着目するものとして、内山尚、一一丁判評、一一、一、一ニハ号二八頁参照。

       皿 履 行 不 能

 ① 当事者に責のない場合

 請負契約の履行が当事者に責のない事由で不能となった場合には、債務は消滅し、反対債務も当然に消滅する(五

三六条一項)。しかし、この場合が問題となった例はあまりなく、実さい上の意味をもつのは、当事者に責のある不

能である。

 ⑧ 注文者に責のある不能

 Gり 請負契約の不能につき、注文者に責があるとして請負人の報酬請求を認めた例は多い。その事例はいずれも、

  …請負契約の中途終了と清算一                                一七

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 1論   文-                               一八

請負人が仕事を途中で放置したために、注文者がこれをとりあげ他の業者に完成させた場合に関するものである。裁

判例には、二つの流れがある。

 ω @ ω第一は、大審院の裁判例の立場である。

 〔三二〕 大判大一・一二・二〇民録一八輯一〇六六頁

 エレベーターの修理を請負った請負人Xは、その一部を履行したが、残りの仕事を中断した。そこで、注文者Yは

他の業者に完成させた。Xは、請負代金残額の支払をYに求めた。原審は、工事を完成させない請負人には代金の請

求権はない、とした。

 判決は、不能が注文者の責に帰せられるときには五三六条二項が適用され、逆に請負人の責に帰せられるときには

注文者は損害賠償を求めうる、しかし、後者の場合であっても、Yは既履行部分に対しては出来高報酬を支払わなけ

ればならず、また、既履行部分に瑕疵があるときには、Yはプての修補・損害賠償を請求しうる、けれども、原審は当

事者の帰責事由につき判断せず、事案はいずれに該当するかが不明、として原判決を破棄移送した。

 〔、三・二〕 大判昭六・」スー)二二法学一巻三七八頁。

 住宅建築工事で仕事を七分ほどで中断した請負人Xが、注文者Yに対し、報酬を請求(詳細は不明).、

 大審院は、注文者に責のある不能であれば五三六条〔二項〕によって請負人は報酬を求めうる、との一般論を述べ

たが、請負人の不履行を理由に注文者が契約を解除した場合であれば同条による請求はできず、事案では解除が行な

われたかが不明だとして、原判決を破棄差戻、した。

 同旨のものとしず\次がある。 〔三・三〕 大判昭二二・七・五判決全集五輯一六号四頁.、

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 ㈲ 大審院の判決がいずれも、一般論として五三六条二項の適用に言及したにとどまるのに対し、最高裁は、具体

的に同条を適用して請負人の請求を認めた。

 〔三・四〕 最判昭五二・二・二二民集一、一二巻言σ七九頁.、

 XはAからYの家の冷暖房工事を請負い、ボイラーとチラーのすえつけを残して完成させた。Yが防水工事を行な

うことを理由にすえつけの延期を申しいれたので、Xはすえつけを中止したが、Y・Aは防水工事をしない。そこで、

Xによるその余の工事は不能となった〔判決の認定〕。

 Xは、X・Y間において、AがXに対して負担する債務についてYが連帯保証する特約があったことから、請負契

約の不能によって元請負人Aに対して取得した報酬の支払を、Yに請求した。

 最高裁は、防水工事は本来元請負人Aが行なうべきものを、たんにYにさせることが許されていたにすぎない、そ

こで、Yの不履行によって冷暖房工事の完成が不能になったときには、その不能は、Aの責に帰せられる、そして、

下請負人Xは、債権者の責に帰すべき不能(五三六条二項)を理由として、対価の支払を請求でき、また、自分の債

務を免れたことによる利益を元請負人目注文者に償還すれば足りる、とした。

                                             (1〕

 髄 学説のなかにも、従来は、大審院の判例を理由に、五三六条二項の適用を認める見解が有力であった。

 しかし、右〔二丁四〕判決を契機にこれに対する批判が加えられた。①仕事がまだ行なわれていないのに全額の請

求を認めるのはおかしい、②具体的な請求額は、出来高のみの報酬を認めることによっても変わりはない。③請負人

に全額の請求を認め、しかるのち出費を逸れた利益を注文者に償還するというのは複雑で法律関係の錯綜を招く、な

     (2)

どを理由とする。

 一請負契約の中途終了と清算-1                               一九

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 -論    文一                                    、一一C

 のみならず、実さい上の扱いとして、請負報酬の支払が、全額一括して行なわれることは少ない。むしろ、請負契

約の継続的性質から、履行の段階にしたがって出来高報酬の支払われることが一般である。そこで、一部履行がなさ

れ、その余の履行が不能になったときにも、たんに既履行給付への支払を義務づければ足りる。すなわち、請負人の

請求は、給付不能の清算としてではなく、有効な給付への対価と構成されるのである。

                               ハヨロ

 ㈲ これが裁判例の第二の立場である。下級審裁判例の主流を占めている。

 〔四・一〕 札幌高判昭五四・四・二六判タ三八四号一三四頁。

 Xは、Yから炭鉱鉄道線路の撤収工事(六六・、[パキロメートル)を請負い、五〇・八六キロメートルの犬釘抜き、

ページ外し工事を終えたが、X・Y間のトラブルのため工事を中止した。そこで、Xは、請負工事の未完成がYの責に

帰せられるとして、自分が工事をせずに免れた費用と受領ずみ代金額とを控除して請負代金残額の支払を求めた.こ

れに対し・Yは・空事歯舌イトル突釘抜き、ぺ↓外し輩契約をxの履行遅滞を理由として解除し、

②枕木撤収・集積工事契約を合意解除した、と主張した。

判決は・①について簗約の一部解除が馨れた、②についてはYの責嬬篭れる事卑不能廷つた(その後、

第三者によって輩終了)と』\①の出来高報酬と、②Yが董を免れたことによってYがえた利益を契約代金か

ら控除した残額の支払義務を認めた。

 〔四・二〕 福岡高判昭五五・六∴一一四判時九八三号八四頁。

建物新築の蕾契糎おど\注文者Yに責がある事睾、請負人Xは工事を中止した.Yが他9、、著に工事、完

成させたので、Xは約定報酬の支払を請求した.、

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 「建物の建築工一事請負契約において、建築工事の途中で注文者の責に帰すべき事由により請負人が工事の一時中出

を余儀なくされ、注文者が残工事を第、一、一一一者をして施工完成せしめた場合、右請負契約は目的の達成により終了するこ

とになるが、この場合、請負人がその請負にかかる工事をみずから完成しなくても、現に施工した工事に相応する報

酬請求権を認め、かつ、プてれで足りるとするのが信義則にかない衡、平であると解する。」判決は、契約代金一(七八〔、

万円)の約八割(六六三万円)の請求を認容〔なお、完成のため他の業者にXが支払ったのは、七六七万円〕。

 ほぼ同旨の判決として、 〔四二二〕東京高判昭五九・七∴一一五判時一二、一六号三六頁がある。

 働 ωこのような出来高構成は、請負人の中途放置に対し、注文者は契約を解除でき、その場合には出来高に応じ

                                    (4)

て報酬を支払えば足りる、とされていることに対応するものであろう(且ωの諸判決)。

 注文者による解除があれば、請負人には出来高をこえて報酬を認める必要はないとされている.では、解除の有無

ほ、どれほどの相違をもたらすべきか.、

 次の裁判例は、必ずしも解除がなくても合意解除携あったとして、出来高報酬の請求を認めた。請負人の履行遅滞

と注文者の責による不能とをつなぐものである.、

 〔四・四〕 東京高判昭五八・七二九判時ズー)八六・.皇C一頁.、

 Xは、Yの注文にしたがいYの工場に自動旋盤機二五台の配線工事を行ない、機械がすえつけられれば完成する工

程まで終えた。ところが、Yは、機械を三台しかすえつけず、Xの催告にも応じない。そこで、Xは、契約関係を終

了させるため、報酬支払を求めた。Yは、右三台の工事を他に行なわせたうえ、工場を売却した。

 「請負人の仕事が現実には完成していないが、それが主として注文者の責に帰すべき事由によるものであり、それ

  -請負契約の中途終了と清算i                                二一

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 1論    文i                                  二二

に基因して、契約上の信頼関係が崩壊し、請負人において契約関係の清算を望み、注文者もまた請負人による仕事の

続行に期待をかけず、あたかも両者間において請負契約の合意解除があったと同視しうるような事態に立ち至った場

合」には、注文者は、出来高の範囲で報酬の支払義務をおう、とする。

 「契約関係の終了」をいう場合には、事実上、解除の有無にかかわらず請負人は出来高報酬の請求をなしうること

になる。しかし、解除の明示の意思表示があったわけではないから、この構成は、履行遅滞に関する論理(解除によ

る出来高請求)を不能(注文者の有責)におきかえることを意味する。

 請負契約につき、合意解除があったとみる裁判例は、ほかにもある.、

 〔四・五〕 大判昭一六・コ丁二〇法学二巻七一九頁。

 請負契約が請負人の仕事完成前に合意解除されたので、請負人が報酬を請求した〔事実関係の詳細は不明〕。契約

には、報酬は仕事完成後に支払う特約があった。

 判決は、右特約にかかわらず、請負代金債権は、未完成の仕事を注文者に引渡しまたは後継請負人に引きついだと

きに、その仕事の出来高に応じて弁済期に達する、とした.、

 69のみならず、注文者の行なった解除を無効としながら、請負人の報酬請求を認めた裁判例がある.、

 〔四・六〕 東京高判昭五九・七・二五判時一二一一六号三六頁.、

 請負人Xは、注文者Yから材料・部品の一部の供給をうけてホブ盤の加工・組立をすることを請負った。しかし、

Xは、注文者Yが材料を供給しないため仕事を完成できず、またYは、Xに不履行があるから請負契約を解除したと

し一\損害賠償を請求する。・てこで、Xは、加工賃請求の反訴を提起した.、

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 判決は、本件契約では加工賃は完成後に支払う約定であっても、Xが約八割の加工・組立を終え、さらに必要な作

業をすれば完成する状態にあり、しかもそれはYにとっても相応の価値をもつ、加えて、Yは、責のないXに対し契

約を解除したと称している、このような状態のもとでは、Xはホブ盤の未完成にもかかわらず、加工賃をYに対して

請求できる、とした.、

 右判決でも、解除を認めることもなく、出来高報酬の請求が認められている.、当然に契約関係が終了することが予

定されているのである。不能と目されたのであろう。この事案では、注文者に有責性のあることはいつそう明らかで

あろう。ただし、このような契約関係の終了事由の拡大は、無事由の解除を認める危険性をも含むものである。

 幽なお、五、一、一一六条二項を適用する場合と請負人に出来高の請求を認める場合とでは、次の相違を認めえよう。すな

わち、後者では、注文者が解除した場合と同じ・\請負人の請求が出来高額に限定されるのに反し、前者では、これ

をこえた請求が可能である。請負人は報酬全額を求めうるし、注文者に償還しなければならないのは不能によって出

費を免れた範囲のみである.、それゆえ、出来高にいたらない場合でも、出費は賠償をうけうるのである。

                                               へぢレ

 すると、五三六条二項を適用するかどうかは、各事件の実質を考唱するものとして再構成されるべきであろう。す

なわち、継続的契約である請負には、その中断が当事者のいずれに責があるのか不明な場合、または双方に責がある

場合がある。そこで、契約を解除しなかったといっても、注文者のみを責めて対価全額の支払を義務づけるのは衡平

に反する。信義則・「契約関係の終了」にもとづいて出来高構成をとる裁判例は、このような実質にそくし、契約利

益の取得を請負人に認めないとする実質判断に合致しよう。

 これに反し、五三六条二項の適用に長所があることもありうる。注文者の有責性が大で請負人に契約から期待しう

  1請負契約の一中途終了と清算-                               二三

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 -:論    文I-                                      二四

る利益を保持させるべき事情があるときである。また、請負人が材料を切断するなどして出費した場合である。これ

らでは、注文者は契約を解除しなかったからとして、また請負人は出来高を完成していなくても出費したとして、工

事が未完成であっても対価を取得しうべきである。この場合に、厳密な出来高額で対価請求をうち切るのは酷であろ

う。ちなみに、注文者が契約を解除した場合でも、六四一条の任意解除によったときには、同人は損害を賠償しなけ

                                          ハ ロ

ればならず、その範囲は、請負人の支出費用と完成したらえたであろう利益を含む、とされている。

 個 請負人に責がある場合

 ω 図と異なり、請負人が仕事を中途で放置し注文者が完成させた行為を、請負人の債務不履行として解決した裁

判例がある。

                                        ヲり

 「四・七」 最判昭六。・五二七金商七二九号、二二貝、判時二六八号五八頁、裁判集民一四五号コニ頁。

                                        (

 請負人Xは、注文者Yから工事を請負いその約八五パーセントを施工したが、残余の部分を約定の期日までに完成

ぜずに放置した。そこで、注文者Yは、未完成部分の工事を他の業者に請けおわせて完成させた。

 XがYに対し請負代金請求の本訴を提起したので、Yは反訴を提起し、完成に要した費用と遅延賠償とを求めた.、

一審は、Xの本訴を認めたが、Yの反訴をも一部認めた。二審は、本訴につき、契約代金の八五。パーセントの出来高

報酬の支払義務を認め、反訴につき、残余工事完成費用と遅延賠償の損害賠償義務とを認めた。

 Xの上告に対し、最高裁は原判決を一部破棄した。 「請負において、仕事が完成に至らないまま契約関係が終了し

た場合に、請負人が施工ずみの部分に相当する報酬に限ってその支払を請求することができるときには、注文者は、

右契約関係の終了が請負人の責に帰すべき事由によるものであり、請負人において債務不履行責任を負う場合であっ

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ても、注文者が残工事の施工に要した費用については、請負代金中未施工部分の報酬に相当する金額を超えるときに

限り、その超過額の賠償を請求することができるにすぎないものというべきである。」

 そして、事案においても、請負契約は、Xが工事を約八五パーセント施工したまま終了し、同人はそれに相当する

金額を請求しうるにすぎないから、Yも、未施工部分の完成に要した費用コ三万円宗の全額を損害賠償として求め

ることはできず、これから契約代金のうち工事未完成部分⊃五。パーセント)相当のご一三万円余をひいた額を損害

賠償として請求しうるにとどまる、とした.、

 m 請負人が仕事を放置した(1①ケース)といっても、ブての効果は、履行が不能となったか(1③ケース)、遅

滞に止まるか、によって異なる,

 圃 履行が不能となり当事者に責がない場合であれば、注文者は反対債務を免れる.そして、給付が可分で一部不

能になったのにとどまると土、」には、反対債務もその割合で減少する。

 しかし、その.部不能が請負人の責に帰せられる場合には、注文者は、解除権または損害賠償請求権を取得する(五

四三条・四、五条)。、

 ω解除権を行使する場合にほ、給付が可分で注文者に有益なものであれば、同人は契約を一部解除でキ、その効果と

して反対債務を免れる(1④ケース、nω参照)・

 圃損害賠償請求権を行使する場合には、注文者は、不能になった給付につき填補賠償を請求でき、遅延賠償があれ

ばそれを加えて請求し、これと反対債務とが対価的関係に立つ(交換説)。これに対し、損害賠償請求権固有の問題

とし~\注文者は、填補賠償から自分の反対債務をひいた差額を請求する一個の請求権を取得するにすぎない、とす

   請負契約の中途終了と清算                                 二.五

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  一 払嗣     文一・                                                     二六

        (7)

る差額説の立場もある。

 請負人が仕事を放置し履行遅滞となるときにも、注文者には二つの手段がある。第一は、契約を一一部解除し自分も

反対債務を免れ、損害賠償額から対価をひいた差額を請求する方法であり、第二は、解除なしに損害賠償金額を請求

する代りに、自分も反対債務をおう方法である、、いずれにせよ、注文者が反対債務を免れるには、不能か解除を要す

    〔8)

るのである.、

 〔四・七〕事件においても、請負人が仕事を中途で放置した段階では履行遅滞にすぎず、これは不能と異なり当然

には注文者の反対債務を消滅させない..すると、不能は、注文者が解除もせずに仕事を他の業者にゆだね完成させた

時とも考えられる。それゆえ、注文者に責のある不能ともいえる.、しかし、・てれでは損害賠償を請求するよちはなく、

のみならず、注文者が自分の債務を免れる可能性も、疑わしh㌧、ツてのためか、判示は、不能に責があるのは請負人と

する立場をとった.、

 そこ一.\ここでは、二点を問題とするべきであろう.、第一点は、請負人が仕事を放置した場合に、サての時点では履行

は必ずしも不能とならず、また解除もないのに注文者が一部反対債務を免れるかであり、これは請負人からみれば、

出来高の報酬しか求めえないか、との問題となる。第二点は、請負人が出来高報酬の請求をする場合の損害賠償の範

囲の問題である.、

 ㈲ 仕事の中途終了にさいしての請負人の報酬請求は、二様に構成しえよう。

 〔四・七〕事件の一審判決は、注文者と請負人の各給付が全額にわたって交換されるべしとする.、注文者は、契約

代金全額を支払わねばならず(本訴部分)、他方、請負人も、残余工事の完成に要した費用を支払わなければならな

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い(、反訴部分)。

 これに対し、二審・最高裁は、請負人は出来高に応じた割合でしか報酬を求めえないとする(本訴部分)。

 しかし、二審と最高裁とは、残部の完成に要した費用の賠償につき判断を異にする(反訴部分)。二審は、費用全

額一五五万円を請負人の負担としたのに反し、最高裁は、これから、契約代金のうち残余工事の出来高分(一五パー

セント)『二万円を差しひくべきものとした、つまり、本訴において、未完成部分については請負人に出来高請求

しか認めず、注文者の反対債務が消滅するとしたことに対応させて、反訴においても、損害賠償についてもこれから

反対債務分(一五パーセント)を差しひくべし、としたのである一さもないと、注文者は対価を支払うことなく一五

パーセントの残余工事を取得しうることになろう.この部分を損害賠償額から控除するのは、本訴において請負人に

出来高請求しか認めないことの帰結ともいえる.、

 d では、何ゆえ、出来高構成をとりうるか..出来高構成は、いわば契約の一部解除であり、それゆえ、注文者も

対価の支払を免れるのである。解除なしにこれをとりうるか。

 〔四・七〕判決は、 「仕事が完成に至らないまま契約関係が終了した」ことを理由とする しかし、当事者の解除

の意思表示は認定されていない。請負においてだけこのような処理が許される理由を探る必要がある。

 すると、請負では、注文者に責のある不能で広く請負人の出来高請求が認められていること(皿吻)、履行遅滞で

出来高請求が認められること(Hω)、との連続性が老懸されるべきである,前者の場合にも、解除なしに出来高の

請求は可能だったのである.請負人に責がある「終了」も同じ考慮にもとづくものであろう。

 の ところで、注文者に有責な不能にさいして請負人の出来高請求を認めるときには、契約を注文者が解除したと

  -請負契約の中途終了と清算                                  一~、

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  論   交                                   二八

きと同じく、請負人はその余の請求をなしえない.、これに反し、五三六条二項を適用するときには、請負人は報酬全

額を請求で費\たんに不能によって逸れた出費を償還するにすぎない(図㈲圃)。

 同様の対応は、請負人が有責な「終了」の清算にもいえるか。、すなわち、注文者が損害賠償を請求するときに、反

対債務を控除するか、である一〔四・七〕事件のような一部履行では、ω注文者は損害賠償全額を請求でき、これと

反対債務が交換されるのか、それとも、面請負人は反対債務を出来高の範囲でのみ、つまり注文者は損害賠償から反

対債務を控除して差額のみを請求しうるのか、である。そして、倒の場合には、請負人が出来高の請求をなしうるこ

との反面として、注文者は・ての余の損害賠償を請求しえない、との立場もありえよう.、注文者が解除しなかったので

あるから、請負人に契約利益以上の損失をおわせるのは不当ともいえるからである。.しかし、 〔四・七〕判決は、注

文者が差額を損害賠償として請求することを認めた.、

 出来高構成のもとでも、差額の請求を否定するべきではあるまい、まず、注文者に責のある不能でも、事案の実質

を考虚、テる二構成があった(吻吻岡)、』請負人が有責の不履行でも、同じ区別の必要があり(責に帰すべき事由の重

大性㌧、・てれは、損害賠償によって達するほかはない.、また、出来高構成をとらなければ、当然に出来高額でうち切

ることにはならず、注文者は対価の支払と交換にすべての損害を賠償請求しうる。さらに、契約を解除したときにも、

賠償請求は可能である。これらとの比較から、損害賠償請求のよちを残す必要がある.、すなわち、注文者は、出来高

報酬を支払って未完成分の対価支払を免れる.、フてこで、損害賠償額からこれを差しひいて差額につき損害賠償請求権

を取得するのである。

 柔だ、これとは逆に、仕事を完成させない請負人に、一部完成したと同じ利益をえさせる出来高報酬を与える点を

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も問題とするべきである。そこで、請負人の有責が重大な場合には出来高請求を認めず、たんに注文者のえた利得を

差しひくにとどめることも考慮される必要があろう。ひとしく出来高といっても、無責の請負人が有責な注文者に求

めるのと、有責な請負人が求めるのとは異なるからである。

 ⑥ それゆえ、付言すれば、〔四・七〕判示は、事案のもとでの損害賠償の可能性を認めたものにすぎない.、場合に

よっては否定することがあろう。注文者が有責の不能の場合にみられたのと同じく、出来高請求の構成のもとでは、

                                             パ ロ

請負人の有責性の軽微、あるいは注文者にも有責があるときには、出来高以上の請求(ここでは、損害賠償しは否定

  (m)

される。

 そこで、やや一般化すると、解決は、注文者が有責の場合とパラレルに二様になろう.、第一に、一方当事者の有責

性が重大かつ明らかなときには、その負担を認め(五三六条二項または損害賠償)、第二に、有責性が蘇微、不明ま

たは双方有責のときには、出来高構成をとる。つまり、後者では、注文者.請負人の有責いずれを出発点にとろうと、

                     けレ

出来高構成という中間的解決で」一致するのである、、

 ㈲ 費用賠償

 口 ⑥でみたところによれば、請負契約の履行が一部なされ、アての後当事者に有責な事由によって不能になったと

きには、請負人は出来高に応じて報酬を求めることができる。、

 しかし、請負人の行為がいまだ給付にいたらない段階で不能になったときに、その効果はどうなるか。一部給付が

行なわれたといえる前の段階でも、請負人はすでに履行のため出費していることがある。それは、有効な一部給付に

準じて償還されるか。

                                           ひさ し

  一請負契約の中途終了と清算1                                 .一プ

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 1論    文-1                                         三C

 双務契約で給付が不能になったときの効果は、反対債務の消滅である(五三六条一項、前述ω)。しかし、一定の

場合には、この理を貫くことは請負人にとって酷なものとなる。いわゆる受領不能の場合がこれにあたり、請負人の履

行不能が、同人の給付行為の不能を理由としてではなく、注文者の受領ができないことによって生じることをいう。

たとえば、注文者の家を修理する契約で、プての家が不可抗力で滅失した場合である。請負人が修理のために材木を家

にうちつけていたとすれば、完成にいたらなくても、出来高の構成のもとでは一部報酬を求めうる。しかし、たんに

                          (12)

材料を切断して準備していたのみでは、一部給付ともいえまい。

 ω 受領不能は、もっぱら注文者の側の事情によって生じたのであるから、その結果は、むしろ同人が負担するべ

きであろう。また、たんなる出費であっても、注文者に責がある場合には、その償還を求めることが可能である。

 すなわち、⑥でみたように、五三六条二項を適用したときには、請負人は報酬全額を請求しうるのである。注文者

に償還しなければならないのは、不能によって出費を免れた範囲である.請負人が材料を切断しこれをむだにしたと

きには、免れた利益はない。

 履行が段階的に行なわれる請負では、その継続的性質に応じて、また受領不能はもっぱら原因が注文者にあること

                                      (13)

から、一部不能もしくは注文者に有責の不能に準じて、出費の賠償を認めるべきであろう。

 このことを正面から認めた裁判例はない。しかし、その可能性を示唆するものがある。

 〔五二〕 大判昭一三・七・五判決全集五輯一六号四頁。

 Yは数種の営業種目を含む事業を計画し、そのうち、石けん製造事業をXに依託することにしその旨の契約を結ん

だ。そこで、Xが準備をして待機していたところ、Yはこの石けん製造を含むすべての事業に着手せず、Xの履行も

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不能となった.、その後、YがXに債務〔右契約とは無関係の貸金債務〕の弁済を請求したのに対し、Xは、請負代金

債権があるとして、これをもって相殺を主張した。

 判決は、請負人が仕事を完成させるにいたらなくても、・ての不履行が注文者の責に帰せられる場合には、請負人は

五三六条二項によって反対給付を請求できるとし、原判決が、仕事の未完成が請負人Xと注文者Yのいずれの責に帰

せられるか、を検討せずに報酬請求権の存在を否定したのは不当であるとして、原判決を破棄差斥、した。

 右判決は、たんに注文者に責がある不能では請負人に報酬請求権が認められることを述べたものと位置づけられて

         へ14)

いる含三∴己参照)。しかし、判決は報酬請求を認めたもの叫・はなく、請負人の一部給付があったかさえ、明らか

ではないのである。

 そこ叫\右判決にふえんして出費賠償の問題を考えよう。かりに、請負人Xが石けん製造事業を始めるにいたって

いないとしても、原料を購入するなど出費をしていれば、Yの事業不着手によって損失をこうむるであろう。たんな

る原料の購入あるいは加工では、履行の着手はあっても、給付の一部があったとすらいえない。しかし、その負担は、

本来Yに帰属するべきすじあいのものである。不能はもっぱらYの側の事情によるからである。・〆、れゆえ、Yに有責

な事由がないとしても、少なくともXの出費は賠償するべきであるし、Yの責に帰せられるときには、五三六条二項

の適用が望ましいのである。

 吻 イ.丸は、請負契約が締結すらされていない問に不能となったときはどうか。いわゆる契約締結上の過失の問題で

ある。たとえば、契約締結を信じて、履行の準備として材料を購入し加工した場合叫、ある。

 契約は成立していないから、請負人の契約への信頼は、それ自体では保護にあたいしまい.、そして、継続的な請負

  -一請負契約の中途終了と清算:                                 一.二

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  …論   交-                                  三二

関係、または注文者にとくに契約成立を信じさせる行為があった場合など特段の事情がないかぎり、請負人は、みず

から出費を負担しなければならないであろう。

 (1) 我妻・馬六二、一二頁、広中俊雄・注釈民法⑯2九六七年〕一C五頁、内山・前掲⑳一〇〇頁。

 (2) とくに、長尾治助教授が強く主張される(民商七七巻二号二六二頁(二六七頁)、判タ三六七号一二頁)、なお、星野英一

   ・民法概論Wω〔一九七六年〕二六二頁。ただし、能見善久・法協九五巻九号一七七頁(一八一頁)は、五.一二六条二項の適

   用を否定しない.

 (3) 比較的早いものとして、岡山地判昭四六二二八判時六二五号九β)頁、東京高判昭四六二丁二五判時六二四号四二頁、

   東京地判昭四六・一二・二、一二判時六五五号五八頁、東京地判昭四八・七・二七判時七、一一二号四七頁、札幌地判昭五一・二・

   、一一六判時八二五号八四頁、東京地判昭五一∴」丁一九判時八四()号八八頁な冒。」.、

(4)

(5)

(6)

(7)

(8)

(9)

(10)  

長尾・前掲二六七頁.

 能見・前掲一八一頁。

 後述W①、我妻・隔六、五一頁、 〔六・一〕判決参照。

 両説につき、我妻・玩コニ七頁参照。蒔rい碧9斜誓言=器。げけし」Sgoo・ミO旨

 ただし、損害賠償請求につき差額説をとれば、解除しなくても、損害賠償請求権は反対債務を控除し仁部分にのみ成立す

る。 

注文者の軽微な有責の不能の場合には、五三六条二項の適用が否定される(の㈲㎜).

 なお、注文者が損害賠償を請求しうるときでも、請求しうる範囲は、客観的に相当な額までであろう。さもないと、注文

者はかってに他に請負わせ、差額を請負人に回わすことになるからである。このことは、給付を交換する構成をとっても

(この場合には、注文者は代金を支払って他に請負わせた費用を請負人に請求できるはずであるが)、同様に解さなければ

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一請負契約の中途終了と清算-一

  し、転用では安くならざるをえず、転用しえないこともあるから、その場合を想定する。

(13) 費用賠償の詳細については、別稿にゆずる(小野・前掲五二巻二号二、一号)。なお、費用賠償に消極的な見解として、広

  中、前掲一〇五頁。

(14) 前注(1)参照。

(12) なお、切断された材料を他に

重大な有責 軽微な有責

注文者は

対価を出来高

の範囲で支払

う。

(n) 本文の結果を図示すると、左のようになる。

い。

  注文者は注文  対価を者

の  536条2項で有ゴも

貝  支払う。

転用しうる場合には、請負人は出費にみあう損害をただちにこうむるわけではない。しか

請負人の有責

注文者は

他により高く

支払った分を

損害賠償とし

て請求しうる。

注文者は

対価を最大限

出来高の範囲 …

     でのみ支払う。

*注文者は未履行分の対価の支払を免れ

 るが,損害賠償の請求をなしえない.

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文;

W 特殊な契約終了事由

 OO 注文者の任意解除・六四一条

 ω 請負には、債務不履行にもとづく一般の解除(五四一条・五四三条)のほか、特殊な解除が認められている。

請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、何時でも損害を賠償して契約を解除できるのである(六四一条)。

 立法趣旨は、請負契約の存続が注文者にとって意義を失ったときには、仕事を続行させることが社会的に無意味で

あることから、注文者に任意の解除権を認め、その代り請負人に対し損害を賠償させて、当事者間の衡平をはかった

   (1〕

ものである。

 この場合にも、解除は既履行の工事にはおよばない(前記〔一・三〕判決)。そして、注文者がなすべき「損害賠

                                              (2)

償」は、たんに支出ずみの費用の償還を求めることにとどまらず、仕事を完成させればうべかりし利益を含む。

 〔六二〕 東京高判昭五九・二・二八判時二三八号八五頁。

 XはYに建物建築工事を請負わせたが、工事内容の変更を求めてYとの間に紛争を生じ、完成期限は.建過された。

そこで、Xは、履行遅滞を理由として契約を解除し、請負代金の返還を請求した。、一審は、工事の遅滞についてYに

有責性はなく、したがって解除の意思表示は無効とした。

 高裁は、Xは予備的に六四、一条の任意解除の意思表示をしたと認定し、また、解除の効果は未完成部分にのみおよ

び、請負人は、既履行部分については出来高報酬を請求しうるとし、さらに、、一ハ四一条の「損害」を理由とするYの

相役の予備的抗弁につき、未完成部分の工事を行なった場合のうべかりし利益は、多、の未完成部分についての請負代

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金額の一五。パーセントに相当する、とした.、

 ω ところ鴫\この六四一条と一般の解除権口五四一条との関係が問題である。注文者が請負人の債務不履行を理一

由として解除する場合に、債務不履行がないとしても、・ての解除を六四一条によるものと読みかえうるか。学説は、

     へ ロ

これを否定する。本条は、注文者の利益を考慮した特殊なものであるから、同人は解除にさいしてそのことを明らか

にするべきだから、という。そして、 〔六∴〕判決も、当然に解除を六四一条と読みかえたのではなく、予備的主

.張があったとしたのである。、

 なお、次の先例がある。

 〔六・二〕 大判明四四∴・二五民録一七輯五頁。

 注文者が二回解除の意思表示をしたが、原審は、請負人には債務不履行はないとした。大審院は、注文者が「専ラ

第五百四十一条二依リ請負人ノ債務不履行ヲ理一由トシテ解除ノ意思表示ヲ為シタル場合二於テ請負人二債務ノ不履行

ヲ責ムヘキ事実ナキトキハ解除ノ効ヲ生スルコトナク契約ハ依然トシテ其効ヲ有スルモノトス又其既二無効二帰シタ

ル解除ノ意思表示ヲ以テ第六百四十一条二依ル解除ノ効ヲ生シタルモノト為スコトヲ得サルナリ」、と判示。

 ㈲ しかし、近時の裁判例には、注文者による請負契約の解除(五四一条)を、六四一条による解除に読みかえる

ものがある。

 〔六二二〕 京都地判昭五八・一〇・六判時二〇八号二九頁。

 Xは、請負人Yによる工事が遅延するので、第三者に完成させ、Yとの契約を解除したとして続行工事費相当の損

害賠償を請求した。これに対し、Yは反訴で、Xによる、債務不履行を理由とする解除は無効である、しかし、六四

  !請負契約の中途終了と清算-一                               ゴ、一五

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 -論   文i                                 一、、六

一条による契約の解除と認められると主張し、さらに、そのさいに損害賠償を求める、として反訴を提起した。

 判決は、工事遅延にはYに責がないとしてXの請求を棄却し、他方、XからYに対してなされた解除の意思表示を、

六四一条によるものと認めたうえ、Yが取得する損害賠償請求権は、請負代金相当額に限定される、とした。

 五四一条のほかに六四一条の解除を主張することの利益は、注文者にとっては、請負人の有責を要しないことであ

るが、請負人にとっては、履行利益を含めた「損害賠償」を当然に求めうることである.、もちろん、履行が一部行な

われていれば、解除の効力は既履行部分におよばない。そこで、少なくとも出来高報酬の請求が可能であって、請負

人はそれによることもできる。ただし、右判決は、この範囲をこえて(請負契約額全額の)損害賠償を認めた。そこ

                                         (4)

で、六四、一条の解除への読み代えは、請負人の右の損害賠償を認める必要上なされたもの、といえる。づ南、して、注文者

に請負代金相当の損害賠償義務を認めるのであれば、その実質は、対価支払債務を認めたことに等しいのである。す

ると、請負人の不履行をいいたてて解除する注文者には、責に帰すべき事由があり、給付は、請負人の側でも契約の

終了を望んでいる二とから、むしろ「不能」とはいえまいか(五三六条二項).、』少なくとも、請負入側からも解除を

主張するにあっては、契約関係は終了したとみるのが率直であろう。・ての清算としては、請負人の契約利益を保持さ

せることから、五三、一八条二項の準用が適切である.、たんなる出来高報酬の支払では足りない(皿囲物.圖).)請負契

約額をもって損害賠償の範囲とみる右判決は、このような実質をもつのである.、

                                         でこ

 口 ところ慣\近時、六四一条の任意解除による損害賠償の意義を全面的に再検討する見解がある。それによれば、

わが民法のもとでは、請負人によって立証された個別の項目の積みあげから全体の損害額を算定する構成(積算方式

といわれる)がとられているのに対し、同じく任意解除を認めるドイツ民法典(六四九条)では、、応、工事代金全

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額の請求権を認め、個別の項目について注文者の立証にしたがって控除する構成(控除方式といわれる)がとられて

いる。両者は抽象的には同一に帰すべきものであるが、立証責任を考慮すれば、控除方式が請負人の保護にあついし、

                               〔6)

解除の任意性を考えれば、わが民法は、請負人の保護にやや欠ける、という.、

 右にいう積算方式と控除方式は、考えかたとしては、注文者が有責の不能の場合における出来高構成と五三六条二

項による控除構成に対比しうるであろう(〔前述皿吻参照)一、注文者の任意の解除は、注文者に責がある不能と同一と

はいえないまでも、両者は同じ方向上に並びうる性質のものである.フてうだとすれば、任意解除の場合にも、たんに

損害項目を積算していくだけではなく、場合によっては「不能」 (およびそれにもとづく報酬請求、五三六条二項)

                          ヘアロ

ヘの読みかえがありうべきではないか、を考慮するよちがあろう.、

 働 目的不到達による解除

 h 双務契約の給付の債権者は、契約を締結するにあたり、給付目的物を使用する目的をもつことが通常である

買主は売買の目的物を、借主は賃借目的物を、特定の目的(使用目的)に供するために取得しようとするのである。一

そこで、このような目的が消滅したときには、給付は意味を失う。しかし、給付に付着した使用目的の運命は、当然

には契約の運命を左右しない。それは不能と異なり、給付の交換そのものを妨げるものではなく、また、相手方にと

って意味のあるものでもないからである.、

 使用目的が契約を左右する効力をもつのは、その存在が条件として契約に入れられたとき、および表示されて契約

の基礎とされたと出.」のみである。

 すると、請負においては、間接目的が意味をもつことは比較的多い。すなわち、請負の目的物は、売買の目的物な

  --請負契約の中途終了と清算                                一、一七

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                                           ゴペ ヤ

 一論   

文-!                                  ■プ

どと異なり、注文者の特定の使用に供することが予定されることが多く、請負人もその目的を共有するからである。

対価も、それに対応して決せられよう。

 そこで、目的が達しえない場合に、注文者は契約の消滅U解除を主張しうるのである。ただし、契約の消滅はもっ

ぱら注文者の目的不到達を理由として基礎づけられるから、請負人に契約の履行のためにした出費があるときには、

            ハ レ

これを償還しなければならない。

 ところで、わが民法典は、’請負に関して、任意の解除権を認めている(六四[条).、この解除権は注文者の任意に

行使されるから、目的の不到達を理由とする解除をもカバーすることができる・

 〔七二〕 東京高判昭五八・三二八金融商事六八三号四〇頁。

 XはYとの間で、総額一億一〇〇ρ方円のビルの建築請負契約を締結し、即日四二〇C万円を支払った。Xは、こ

のビルでいわゆるトルコ風呂を営業する目的を有していたが、風俗営仲、夫取締法上建築許可をうる見込がなくなったた

め、民法六四一条によって請負契約を解除した。

 Xは、二五六万円余を解除による損害賠償と認め前払金と相殺するとし、残額の返還を求めた.。Yは、解除による

損害賠償額をコニ九六万円余として前払金返還債務と相殺するよう主張した..

 判決は、六四一条の趣旨は、注文者に不必要となった仕事の完成を強制することが無意味であることから、請負人

に損失をこうむらせないことを条件に自由に契約を解除することを許したものである、したがって、注文者において

賠償するべき請負人の損害の範囲は、請負人がその仕事のために購入した材料や雇いいれた労務者の労賃など、すで

に支出した費用および仕事の完成によるうべかりし利益の両者を包含するとして、Yがすでに支出した工事関係費用

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                  つヨソ

四匹六万、円宗ほかの債権を有する、とした.一

 ↑り ω六六四条による解除は、目的不到達による解除をカバーするものであるが、その効果は、必ずしも同じでは

ない。注文者が賠償するべき範囲は、請負人の出費だけではなく、完成すればうることの利益をも含む、ただし、六四

一条の解除が目的不到達を理由とするときには、解除は注文者の「任意」ではないから、出費賠償に限定した主張の

みをなしうべきである。完成によってえられる利益を含むと解除の意義はいちじるしく減少するし、巨的不到達は、

請負人にも明らかな契約の基一礎であり、注文者の一方的利益のみではないから鴫、ある。

 働 なお、目的不到達のさいに請負人への出費賠償を認めると、給付不能のさいの出費賠償(皿④)と対応するこ

とになる.、すなわち、給付交換の不能という、契約の直接目的の不到達にさいしても、使用目的の不到達という間接

目的の障害においても、請負人は、少なくとも自分の出費だけは償還請求しうるのである.、

(1)

(2)

(3)

(4)

(5)

(6)

  1 7請)負た契冨約’1-

5) へ巾

1栗妻田終.了』ノ・

 目uあ

一握清七算ご

法典調査会・民法議事速記録、一一」一五巻二.一一、一丁。

 我妻・隔六五一頁、打田峻一・注釈民法卵〔一九六七年〕一四〔、頁。、

 我妻・馬六五(一)頁、打田・前掲四七頁など。

 橋本恭宏・ジュリスト八四二号一七九頁は、請負人からの六四一条の主張につき積極的に評価する。

 栗田哲男・民法判例レビュー(契約)判タ五九八号六〇頁、東京高判昭六〇・五・二八判時一一五八号、一一CO頁への評釈..

 栗田・前掲七三頁。なお、同論文は、さらに従来の裁判例が、損害賠償額の算定、とくにうべかりし利益の算定方法が、

いささかドンブリ勘定的なものであったことを指摘する(七三頁…七五頁)。しかし、その便宜性は、積算方式の厳格さを

緩和する機能を有していたのではないか、とも思われる。

 ただ・ノ、栗田・前掲七三頁は、わが民法ば請負人が損害賠償請求権冷、取得する・.〕いうのであるか、b、控除方式や、とるよろ

                                           」一.一一一九

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一論    文---                                   四〇

  はまったくない、とされる。

(8) 目的不到達による行為基礎の喪失については、い貧寒伊Ooの9陳a讐仁且鼠鳴信⇒血<o洋お鴨曾旨一ξ目撃這Oω一〇〇・5ド犀

  なお、小野・商学論集五二巻四号一四八頁以下。

(9) 目的不到達と債権者のだんなるみこみ違いの区別として、給油所を建設・経営することを目的として土地を借りたが、至

  近距離に他の給油所ができたのイ、、、自分の設置が一.、きなくなった場合(大阪高判昭五ご、二一一・二九判時九二四号七〇頁)

  と、設置し七が予想した利益をあげられない場合(Z一↑目零ρ冨お)とがある。

V む す び

 ⑦ 請負契約が中途で終了した場合の態様は多様である.、履行が遅滞におちいっているにすぎないことも、不能に

なっていることもある。そして、それら障害は、必ずしも一方当事者の責に帰しえない.、しかるに、選択しうる法的

構成は、、「方当事者に責があることをのみ予定する(皿の・㈲参照)。そこで、 これによってもたらされる解決は満

足するべきものではない.、

 裁判例は、これを出来高報酬の請求という形で補充しようとした。これによって、遅滞と不能の概念的区別も、相

当に失われる.、たとえば、注文者は、解除の有無によらずに対価全額を支払う義務からは解放されるのである。ただ

し、そうすると、無事由の解除を認めることにつながり、右の法理の限界づけが残された問題となろう.、

 の ⑥こうして一部履行が出来高報酬を請求可能なものとすると、請負人の履行行為がまだ給付の段階にいたらな

いとしても、その出費を保護することとも接続しよう.、費用賠償は、なお一部履行といえない行為を対象とするが、

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反面、不能がもっぱら注文者の受領の不能にもとづくことを前提とする。一これについても、一一部不能に準じて費用の

償還を認めるのが、 一貫する。

 ㈲ ただし、そうすると、出来高の報酬がなされるかぎりで、請負報酬後払の原則(六三三条)は、修正される。

しかし、一部履行は出来高の限度で行なわれており対価はこれに与えられるのであるから、原則を否定したとはいえ

ない。。

 @ より重大なことは、危険負担の引渡主義とのかかわりである 給付の双務関係を前提とすれば、危険は履行が

あってはじめて債権者に移転する.一請負契約で履行があったといえるのは、注文者に引取があったときである.、しか

し、.部履行では、仕事の引取はもとより、完成すらない 出来高請求がつねに可能とすれば、一部履行の完成で足

りることになる.、

 けれども、この疑問は、本稿’.、扱った諸事例にみられる共通の性質から否定しうる すなわち、裁判例が出来高報

酬の請求を認めるのは、一部履行が存在し、かつ、茅、れが注文者に意味のある場合一.、ある(1ωの例では、①・③・

④).、つまり、報酬は、履行された給付に対して求められているのである これに対し、いわゆる請負の危険負担は、

この既履行給付の滅失の問題である(1ω②)。 この場合には、なお引渡主義をとることに意義があろう.、つまり、

出豪商の構成は、あくまでも未履行給付と既履行給付とを切り離す意味をもつにすぎないのである、

 勘コ@なお、請負の一部履行・中断の場合と対比される状況は、売買にさいしても生じる..たとえば、売買の目的

物に他人の物(裁判例では土地しが含まれていて、売主が移転しえない場合である。

 二のときには、売主の担保責任を生じるが、買主が直接に多、の他人から取得すると、買主に責がある不能(五』一六

  一請負契約り目途終了と清算-                         四、

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  一-論  文一                      四二

条二項)となる、ただし、直接取得をするまえに買主が当初の契約を解除しておけば、買主は、売主の担保責任の不

履行を理由に代金一の減額(五六三条)を求めることができる.、

 買主があらかじめ解除をしておかなければ、同人は五三六条二項但書にプてくして取得費用の償還を求めるほかはな

い。代金減額(出来高に対応する)を求めることはで土、」ない.、請負におけるような便宜的な解決はなされえないので

ある。

 ㈲ ただし、下級審裁判例には、解除のない場合についても、代金減額の請求を認める例がある.、また、直接取得

費用の償還を認める場合にも、それと代金の減額との金額の差異が問題たりうる。さらに、担保責任と危険負担との

関係も検討されるべきであるが、請負の裁判例を検討を目的とする本稿では立ちいりえない.、別稿にゆずる(東京地

判昭五八二∵一」一四判時一 九一号一こ三頁の評釈を予定している).、

                              ヤ         ヤ                              ヤ           ヤ

 〔追記〕ω 五五巻二号に以下の誤りがあった。一〇二頁一五行目 債務者↓債権者、二圭ハ頁注(2)瑕疵担保↓瑕疵担保。

     吻 最判昭六∩∀五・一七判時二六八号五八頁(〔四・七〕判決)につき、内山尚三、民商九四巻四号、小野.ジュ

      リスト八七]号九五頁参照.、