農村調査実習報告書 - shimane-u.ac.jp1 は し が き 島根大学 生物資源科学部...

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2010 年度 農村調査実習報告書 (島根県邑智郡邑南町) 島根大学 生物資源科学部 農林・資源経済学講座 2 2 0 0 1 1 1 1 3 3

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  • 2010年度

    農村調査実習報告書 (島根県邑智郡邑南町)

    島根大学 生物資源科学部

    農林・資源経済学講座

    222000111111 年年年 333 月月月

  • 目 次

    はしがき ………………………………………………………………………………………………1

    2010 年度農村調査実習の概要 ………………………………………………………………………2

    調査後の作業内容 ……………………………………………………………………………………3

    実習風景 ………………………………………………………………………………………………3

    第1章 邑南町の農業の現状と課題(農業・マーケティング班) ……………………………4

    第2章 邑南町の畜産業の現状と課題-耕畜連携を中心に-(畜産班) ……………………22

    第3章 邑南町の林業とバイオマスの現状と課題(林業班) …………………………………34

    第4章 邑南町の農家民宿の現状と課題(観光班) ……………………………………………44

    第5章 邑南町神楽の現状と課題(伝統芸能班) ………………………………………………53

    第6章 邑南町における定住促進対策の現状と課題(定住促進班) …………………………64

    第7章 活力ある集落を目指して-邑南町の過疎高齢化問題を事例に-

    (過疎・高齢化対策班) …………………81

    資料1:農家調査票 ………………………………………………………………………………92

    資料2:行政・企業・団体への質問項目 ………………………………………………………100

  • 1

    は し が き

    島根大学 生物資源科学部 地域開発科学科 農林・資源経済学講座では、2006 年から講座の学

    生(主に2年生)を対象に「農村調査実習」を開講しています。これは、農山村や農林業の現実

    を現地での聞き取り調査を通じて認識し、2年後の卒業論文の研究テーマを確立する一助にする

    とともに、農山村や農林業の現場を意識して学習する態度を養うことを目的としています。現地

    調査までの座学の授業では、各種文献データの収集・分析方法、実習における調査作法などを学

    び、現地調査は、毎年夏休みに2泊3日で実施してきました。2006 年から 2009 年までの調査地

    は、鳥取県日南町、江津市桜江町、隠岐の島町、奥出雲町です。

    開講5年目である今年度は、邑南町を調査対象地として、農業、林業、畜産業、観光・伝統芸

    能、定住促進、過疎・高齢化対策に関するテーマを設定し、現地での聞き取り調査を通じて多く

    のことを学ばせていただきました。学生諸君にとっては、自ら現地を見聞して各テーマの現状と

    課題を把握・整理し、それをもとに自ら取りまとめた成果を発表するという有意義な実習です。

    とりわけ今回は、聞き取り調査をはじめ、住民の皆様方との交流や、現地報告会など、学生諸君

    にとって忘れ得ぬ貴重な経験の場をご提供いただきました。今回の現地調査を通じて学生諸君は

    大きく成長したと思います。そして、卒業論文に取り組む際だけではなく、社会人として島根大

    学を巣立った後も、今回の邑南町での経験が大いに役立つものと担当教員一同確信しております。

    本報告書は、後期に開講される「基礎演習Ⅰ」において、学生諸君自らの手で取りまとめたも

    のです。不十分かつ読みづらい部分も多々あろうかと思いますが、「町外の若者の目からみた邑南

    町の一側面」を知る手がかりの一つとしてご笑覧いただけますとありがたく存じます。

    末筆ながら、邑南町役場をはじめとする企業・団体の皆様方、農家の皆様方には、ご多忙中に

    もかかわらず、たいへんお世話になりました。ここに記して厚く御礼申し上げます。

    2011年3月

    農村調査実習引率教員一同

    教 授 谷口憲治

    伊藤勝久

    伊藤康宏

    准教授 井上憲一

    講 師 保永展利

  • 2

    2010年度農村調査実習の概要

    日 程

    注:農家調査の対象地区(集落)は,井原(日向,片田),矢上(荻原,須磨谷),中野(中野北区自治会,森実)の3地区(計6集落)。

    課題班・メンバー(33 名) ◎:班長 ○:副班長

    (1)農業・マーケティング班:◎大益貴広,○川島州人,内田涼,神井千鶴,野田晃,林大輝,吉田志保

    (2)林業・畜産班

    林業:◎林麗緒,小川みゆき,久保紀美 畜産:○山本洋志,渡辺千凡,中澤亮

    (3)観光・伝統芸能班

    伝統芸能(神楽):◎伊藤瞬,小俣美樹,松浦恵,湯浅友揮

    観光(農家民宿):○濱野竜萬,後藤宏幸,田中理恵,藤井美咲

    (4)定住促進班:◎小池悠介,○稲村直道,岡本雄太郎,迫田康裕,園山智,竹内淳

    (5)過疎・高齢化対策班:◎福谷紗矢,○青木孝裕,加藤輝一,坂本大地,道免佳名子,宮脇愛

    8月 2日(月)の調査先

    9:00 午前 13:00 午後 1 15:00 午後 2 18:00 夜

    7/31

    (土)

    7:15大学正門前集合

    10:50邑南町役場着 邑南町内見学

    夕食 香夢里

    11:00~12:00概要説明

    宿泊 香木の森バンガロー

    平徳ハイツ

    8/1

    (日) 農家調査(2人 1組の 17組で 50戸を調査) 夕食 香夢里

    宿泊 香木の森バンガロー

    平徳ハイツ

    8/2

    (月)

    役場・団体等調査(班単位で各調査先へ) 15:30 邑南町役場発 18:30頃大学着

    9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00農業・マーケティング班

    農林振興課 集落営農組織 雲井の里農産物直売所 昼食 JA島根おおち 集落営農組織(農)田吾作 ※ (役場) (農)赤馬の郷

    林業・畜産班農林振興課 アグリサポートおーなん シックスプロデュース 昼食 邑智郡森林組合

    (耕畜連携) ミルク工房四季 (役場) ※

    観光・伝統芸能班定住企画課 民宿日高 昼食 伝統芸能・神楽団田舎ツーリズム ※ (役場)

    定住促進班定住企画課 トリコン 昼食 教育委員会 総務課雇用創造推進協議会 ※ (役場) 学校教育課 防災担当

    過疎・高齢化対策班定住企画課 福祉課 昼食 未来開発プロジェクト過疎対策担当 (役場) 日和公民館

    ※現場へ出かけます。※現場へ出かけて調査。

  • 3

    調査後の作業内容

    ・調査票のデータ入力と分析

    ・後期授業「専攻演習Ⅰ」における班別のとりまとめ、パワーポイントづくり

    ・現地報告会

    日時: 2011 年 1月 14日(金) 12:45~15:00

    場所: 邑南町役場 2階大会議室

    ・本報告書の執筆

    実習風景

    農家調査での徒歩移動「良い景色!」 町内見学での一コマ

    町役場での聞き取り調査 現地報告会

  • 4

    第 1 章 邑南町の農業の現状と課題

    第 1 節 はじめに(担当者:大益)

    本報告書は、島根大学生物資源科学部地域開発科学科農林・資源経済学講座2010年度前

    期開講の「農村調査実習」で得られた成果を、後期開講の「基礎演習Ⅰ」において整理・

    分析し、とりまとめたものである。

    本章の目的は、邑南町の農業の現状と課題、農家の意向を明らかにした上で、農業・農

    村振興の提案を試みることである。本章の作成にあたり、2010 年 7 月 31 日~8 月 2 日に、

    農家・企業・団体・行政に対する聞き取り調査を実施した。その際、農家の皆様方に加え

    て、邑南町役場、JA島根おおち、集落営農組織 赤馬の里 田吾作の皆様方から多大な

    ご協力をいただいた。

    第 2 節 邑南町の背景と現状(担当者:神井)

    島根県邑智郡邑南町は、2004年10月1日に石見町、瑞穂町、羽須美村の合併により誕生し

    た町である。島根県中部に位置し、土地面積419.2平方キロメートルであり広島県に隣接し

    ている。

    邑南町は中山間地域に該当し、過疎・高齢化などによる農業の担い手・後継者不足の問

    題や、農産物の価格低迷などの理由から農業の継続が困難となっている。しかし、集落営

    農組織や農産物のインターネット販売を通じて、この問題を解決しようとしている。邑南

    町の農業は、地場産業の側面の他に、食料供給機能、多面的機能の保持という大きな役割

    もあり、今後も継続させていく必要があると考える。

  • 5

    (1)人口

    ・総人口

    図1-1 邑南町の総人口の推移

    (出所:国勢調査)

    図 1-1 は邑南町の総人口の推移である。1990 年の人口は 15,117 人であったが、2005 年

    には約 2,000 人減尐し、12,944 人となった。

    ・農業就業人口と年齢

    邑南町の総人口の減尐(図 1-1)に伴い、農業就業人口(図 1-2)も減尐していることを

    読み取ることができる。また、65~74 歳の農業就業者の減尐と、75 歳以上の農業就業者が

    増加していることが分かる。ここから、農業就業者の高齢化が進んでいることが読み取れ

    る。

    図 1-2 島根県年齢別農業就業者人口 図 1-3 邑南町年齢別農業就業者人口

    (出所:国勢調査) (出所:国勢調査)

  • 6

    (2)経営耕地面積

    農林業センサスによると、2ha 未満の経営耕地面積を所有している農家が 9 割以上を占

    めており、2000 年~2005 年の農林業センサスを見てみると経営耕地面積の大きな変化は見

    られない。それに対して、10ha 以上の経営耕地を有する農家が増加している。これは、集

    落営農組織が増えていることから、このような増加傾向になったと考えられる。

    第3節 農家調査結果(担当者:川島・野田)

    2010 年 8 月 1 日に 50 戸の農家に聞き取り調査を行った。以下はその調査結果を整理し

    たものである。

    なお、データには抜け落ちているところもあり、50 戸に満たない場合がある。

    (1)経営概要

    図 1-4 邑南町全体の経営形態別農家数 図 1-5 調査農家の経営形態別農家数

    資料:2005年農林業センサス 資料:農家調査結果

    邑南町全体では第 1 種兼業農家、第 2 種兼業農家がそれぞれ約 4 割を占めている。(図

    1-4)農家調査を見ると第 2 種兼業農家が約 5.5 割、専業農家が約 4 割という結果になって

    いる。

    このように、本データは専業農家と第 2 種兼業農家に偏っていることに留意されたい。

    単位:戸 単位:戸

  • 7

    (2)農業従事者の代表年齢

    図 1-6 農業従事者の代表年齢

    資料:農家調査

    (3)栽培作物

    調査農家で栽培している作物は、水稲、飼料稲、白葱、スイートコーン、牛蒡、人参、

    ナス、ニラ、大豆、キュウリ、オクラ、ミニトマト、広島菜、ホウレンソウ、ジャガイモ、

    サツマイモ、タマネギなど多品目であった。その中でも水稲は 50 農家中 34 農家が栽培し

    ている。そのうちの 14 農家はブランド品である「ハーブ米」の栽培に取り組んでいる。

    (4)農業経営継続の意思・今後の経営規模

    図 1-7 農業経営継続の意思 図 1-8 今後の経営規模

    資料:農家調査 資料:農家調査

    調査農家の農業従事者の代

    表年齢は 60 代が最も多く、70

    代も多い(図 1-6)。図 1-3

    でも指摘したように、町内での

    農業就業者の高齢化が進んで

    いることを示している。また

    30 代の代表者はおらず、40 代

    も尐数である。調査農家におい

    て、世代交代が進んでいないこ

    とがわかる。

    単位:戸

    単位:戸 単位:戸

  • 8

    次に、農業経営継続の意思と今後の経営規模について質問したところ、図 1-7、図 1-

    8 の回答が得られた。今後も農業を続けていくと答えた農家がほとんどである。また今後

    の経営規模についても同様に規模を縮小しようとする農家は尐なかった。この結果から、

    この調査農家の「代々受け継いできた土地を守ろうとする意識」の高さが分かる。

    (5)後継者について

    後継者がいるかどうかについて質問した

    ところ、図 1-9 の回答が得られた。「いる」

    の回答が 45%を占める一方、「未定」という

    回答が 40%を占める。現在町外で働いている

    若い世代が将来邑南町に戻り農業を継いでく

    れるかどうか分からないということであろう。

    邑南町に帰ってきてくれる人の数によって、

    今後の町農業の状況が大きく左右されるもの

    と考えられる。

    図 1-9 後継者の有無

    資料:農家調査

    (6)農業従事の不安

    図 1-10 農業従事の不安

    資料:農家調査

    注:複数回答である

    次に、農業に従事するにあたっての不安について質問した(図 1-10)。一番多い回答は

    単位:戸

  • 9

    価格・収益面の不安、次いで怪我や病気、後継者、農業政策となった。栽培技術面の回答

    は尐なかった。

    価格・収益面の不安についてはやはり、米価の低下が大きな影響を与えているものと推察

    される。その対策として、邑南町ではハーブ米というブランド化に取り組んでいる。しか

    し、それでも大きな付加価値の実現には至っていないものと考えられる。病気や怪我につ

    いての回答は、高齢化大きく影響しているものと推察される。後継者については前に述べ

    たとおりである。これらの不安が解消されるような農業政策が必要だと考えられる。

    (7)耕作放棄地について

    図 1-11 耕作放棄地の有無 図 1-12 今後の耕作放棄地の利用予定

    資料:農家調査 資料:農家調査

    50 戸中、耕作放棄している土地があると答えた農家は 11 戸(22%)となった(図 1-

    11)。そのうち今後利用予定があると答えたのは 7 戸(64%)である。ここからも土地を守

    ろうとする意思が覗える(図 1-12)。

    耕作放棄地の面積は図 1-13 のとおりになっている。経営規模が大きく、高齢であるほ

    ど耕作放棄地の面積は大きくなる傾向がみられる。

    単位:戸 単位:戸

  • 10

    図 1-13 耕作放棄地の面積

    資料:農家調査

    (8)集落営農組織への参加

    集落営農組織に参加している農家は 50 戸中 37 戸(74%)となった(図 1-14)。参加し

    ていない 13 戸のうち 7 戸は集落営農組織に参加したいと考えている。

    図 1-14 集落営農組織への参加状況

    資料:農家調査

    集落営農組織に参加した理由・きっかけについては以下のとおりである

    ・共同機械・共同作業・受委託等による利点・助け合い

    ・代々引き継いできて大切にしている土地を荒らさないため

    ・個人では農業経営が苦しい

    ・紹介や呼びかけ

    単位:戸

  • 11

    また、集落営農組織加入後の変化は以下のとおりである。

    良い面

    ・単独に比べて作業が楽になった

    ・収入が増えた

    ・機械購入代がいらない

    ・米の出荷が無くなったため、諸費用に出費が無くなった

    ・作付の団地化により効率的な作業が実現した

    ・草刈等の作業が収入になる

    ・女性が作業に参加するようになった

    悪い面

    ・作業が増えた

    ・収入が減った

    ・自分のやりたいようには出来ない

    ・土日に出役するため時間と体に負担がかかる

    集落営農組織加入後の変化を見てみると、「作業が減った」と「作業が増えた」という意見

    が挙げられている。これは集落営農組織に参加している農家に高齢者が多く、若者が尐な

    い場合は作業が集中し、参加農家が多く、若者も多い場合は作業の負担が分散することが

    影響しているものと考えられる。収入面については、ほとんどの集落営農組織が従事分量

    配当を採用しているため、作業した分だけ農家の収入は増える。しかし、作業にあまり参

    加できずに収入を減らす農家が存在するものと考えられる。

    第 4 節 集落営農組織の現状と課題(担当者:大益・林)

    (1)邑南町の集落営農の現状

    島根県「平成 22 年集落営農実態調査」では、邑南町には 24 の集落営農組織があり、そ

    のうち 13 が法人化している。

    邑南町の集落営農を構成する集落数、集落内の総農家に占める構成農家の割合、経営耕

    地面積規模は図 1-14~16 のとおりである。

  • 12

    図 1-14 集落営農を構成する集落数

    出所:島根県「平成 22 年集落営農実態調査」

    図 1-15 集落内の総農家数に占める構成農家の割合

    出所:島根県「平成 22 年集落営農実態調査」

    図 1-16 経営耕地面積規模

    出所:島根県「平成 22 年集落営農実態調査」

    単位:組織

  • 13

    図 1-14 から邑南町の集落営農組織のほとんどは1集落からなることがわかる。しかし、

    農業就業者の高齢化や担い手不足により、今後他集落と連携し運営をしていかなくてはい

    けない時がくるのではないだろうか。集落内の総農家数に占める構成農家数の割合だが約

    半数の集落営農組織が 90~100%という結果である(図 1-15)。

    以下、調査を行った 2 法人の特徴について検討する。

    (2)農事組合法人赤馬の里

    平成 19 年 2 月設立

    邑智郡邑南町布施

    1)集落の概要

    世帯数 35 戸

    人口約 76 人

    農家数 23 戸

    耕地面積 水田 20ha 畑 1ha

    高齢化率 51%

    2)組織の概要

    参加農家 17 戸

    経営面積 10ha(水稲 7.3 飼料稲 1.3ha そば 1ha 不作付け 0.4ha)

    3)結成の動機

    1.米価の下落により自己完結型の個人経営では所得の向上が見込めない

    2.集落内の農地を法人の下で一括して計画的に利用することができる

    3.圃場から圃場への連続作業が可能なため、機会の能力を十分に発揮できる

    4.低コスト・高収入をはかり農家所得の向上が期待できる

    5.作業の分業によって、構成員各々の体力に忚じた作業が可能となる

    4)施設・機械整備

    トラクター1 台 フォークリフト 1 台

    田植え機 1 台 育苗ハウス 3 棟

    コンバイン 1 台 玄米貯蔵庫 1 台

    防除機械 2 台 事務所兼作業所 1 棟

    乾燥調整機械 1 式

    水田管理機 1 台

  • 14

    5)役員

    6)役割分担

    若年層 オペレータ・防除作業

    中堅層 オペレータ・営農計画・総務・防除作業・育苗

    高齢層 防除作業・育苗・水管理・畦畔管理

    JAOB、役場職員 会計・経理

    7)中山間地域直接支払制度・戸別所得補償制度の助成金の使途

    機械の購入

    8)法人化後の課題

    米価の下落に対忚し、生産コストをさらに引き下げること

    米の直販体制の確立

    高収益な転作作物の選定

    新たな担い手の育成・確保

    9)苦労した点

    70 歳代世代と 50 歳世代以下に大きな考えの差があった(単独で営農したいなど,「米を

    買う」抵抗感がある)

    法人化しても将来が期待できない

    複式簿記のできる人がいない

  • 15

    (3)農事組合法人田吾作

    平成 8 年設立

    1)集落の概要

    農家数 10 戸

    2)組織の概要

    参加農家 8 戸 集落外農家 5 戸 計 13 戸

    経営面積 水田 10ha もち米 0.5ha 酒米 1ha

    3)結成の動機

    1. 機械(田植機)の共同利用による、生産コストの低減や作業効率の向上

    2. 所得の向上

    3. 農地の一括利用

    4. 作業も分業化による効率化

    5. 事業導入(ふるさと農業活性化事業)

    4)役員

    理事 4 人 管理1人 その他50人以上

    5)役割分担

    オペレータは決まっている

    6)施設・機械整備

    トラクター4 台 田植え機 2 台

    コンバイン 3 台 コイン精米 1 ヶ所

    乾燥機 6 台

    7)中山地域間直接支払制度・戸別所得補償制度の助成金の使途

    機械の購入

    農道の整備

    8)法人化後の課題

    転作への対忚

    高齢化等に伴う受託作業の増加

    乾燥・調製作業の従事者の確保

  • 16

    9)苦労した点

    合意形成

    (4)考察

    二つの集落営農組織を比較すると、集落の規模の違いは若干あるが共通する点が多くみ

    られた。まず組織の結成の動機である。これは集落営農をするにあたってのメリットとい

    ってもいいだろう。どちらも第一に機械の共同利用によるコスト低減を挙げている。個人

    ではなかなか農業機械を購入することは難しく、使う機会も尐なくなってしまいがちであ

    る。第二は、作業の分担である。各人に向いた作業を担当することで、作業効率の向上が

    期待できる。第三は、農地の一括利用である。これは、機械の共同利用にもつながるのだ

    が、やはり集積した農地では作業効率が高まり、機械の能力を十分に発揮することができ

    る。

    そのほかにも共通点は多くあるが、注目すべき点は、高齢者・女性が何らかの作業に従

    事しているということである。「赤馬の里」では女性が不作付地だったところを利用し、そ

    ばを作っている。また、水の管理や除草作業を高齢者が担当している。「田吾作」ではもみ

    まきや草刈の補助をしている。高齢者や女性は過酷な作業に参加できない場合が多いが、

    できる範囲で農業に参加できるということは特筆すべきと考える。高齢者や女性ならでは

    の発想やきめ細やかな仕事、気遣いは集落営農に必要不可欠ではないかと思う。

    次に課題である。両法人とも後継者の確保に困っている。現在のところ明確な後継者は

    いない。また、構成農家の高齢化も問題となってくる。高齢化が進み、農作業をできる人

    が尐なくなってしまうと、集落営農組織の存続が難しくなってしまう。さらには、集落の

    存続問題にまで発展してしまうかもしれない。両法人とも、長期的なスパンでこの問題に

    取り組む必要があるものと考える。

    第 5 節 JA島根おおちの取り組み(担当者:吉田)

    JA 島根おおちは江津市桜江町、邑智郡邑南町、川本町、美里町を対象地区とし、適正か

    つ、能率的な事業経営を行う強固な組織・経営基盤を確立し、農業・農業協同組合をとり

    まく環境条件の変化に対忚し、組合員の営農と生活を守り、組合の健全なる発展を図るこ

    とを目的としている。

    (1)販売事業

    消費者へ新鮮で安心・安全な農畜産物を届けるための事業を展開している。また「地産

    池消」の取り組みとして、学校給食や館内施設等への販売拡大に取り組んでいる。

    重点振興品目(白ネギ・ナス・ピーマン・トマト・広島菜・スイートコーン・インゲン)

  • 17

    を定め、生産拡大のため、栽培指針の見直し等により収量・品質の向上を目指している。

    重点振興品目を定めて理由は限られた面積で生産できることであり、それぞれの理由は以

    下のとおりである。

    ・白ネギ 有名な産地がないため

    ・スイートコーン 北海道などの産地と時期をずらして出荷できるため

    市場とのつながりがあるため

    ・広島菜 もともと漬物の加工工場があったため

    ・インゲン 軽く、高齢者でも作りやすいため

    また、広島生協からの依頼でボックス野菜というのにも取り組んでいる。これはチェッ

    クが厳しいが、尐量で取引することができるというメリットがある。

    特別栽培米「石見高原ハーブ米」は商標登録を取得し、広島・九州・大阪方面へ販路拡大

    に取り組んでいる。また邑南町産コシヒカリは、香港への輸出事業を展開し、島根おおち

    産米を始めとする農産物の知名度アップを図っている。

    (2)農機事業

    全農・メーカーとの連携をとり、低コストの農業機械を提供している。また、安全運転講

    習会・実演講習会などを企画し、農業機械による事故防止と効率的な農作業をサポートし

    ている。

    (3)地域社会への貢献・取り組み

    地産池消・食農教育の取り組みとして、保育園児・小学生を対象に「白ネギ収穫体験・

    芋ほり交流会・愛菜カレーの日」などを企画し、「食物への関心」「自然へのいたわり」「地域

    とのふれあい」を実際の体験を通して育む活動をしている。また、消費者との交流を通して、

    農業への理解、地域のアピールを行い地域農業の保全、農業振興に取り組んでいる。

    (4)みずほStyle

    みずほStyleとは 2005 年から邑南町の特産品をアピールしネット販売をしている

    サイトである。2009 年度には利用者数 2468 件、1238.4 万の売り上げがあった。石見和牛

    肉、石見ポーク米粉パンなどが人気商品である。

    みずほStyle設立の動機としては、高齢化や後継者不足のため多量生産は難しくな

    った。そこでよその地域にはなく、邑南町にしかないものを販売することである。たとえ

    小ロットであっても高品質であれば消費者に支持されるのではないかという考えのもと設

    立された。

  • 18

    みずほStyleは「Oh!セレクション」というイベントを企画している。「Oh!

    セレクション」とは邑南町が取り組んでいる全国公募型の田舎の逸品おとりよせコンテス

    トのことである。書類審査および邑南町のおとりよせサイト「みずほStyle」のモニ

    ター審査に通過後、最終審査は平野レミ氏を中心とする食のプロの目で厳しく審査された

    逸品のみが認定されるというものである。

    第 1 回Oh!セレクション大賞は有限会社ディプロさん「石見ポークしゃぶしゃぶ肉」

    第 2 回Oh!セレクション大賞は株式会社サカエヤさん「近江牛専門店が極めたカレー」

    第 3 回Oh!セレクション大賞は玉櫻酒造㈲さん「玉櫻純米とろとろにごり酒」が選ばれ

    た。今、第 4 回Oh!セレクションの出品商品募集がスタートしている。

    第6節 産直市 ふれあい市場 雲井の里(担当者:神井)

    現在、人口減尐や高齢化が進む中山間地域では、農産物直売所などの施設が中高年者・

    女性たちの働き場として大きく注目されている。また、食の安心・安全に関心が高まって

    いる今、安心・安全な農産物を購入することができる直売所は、消費者にとって大きな存

    在といえる。そこで、本節では地域活性化を意識した「産直市 ふれあい市場 雲井の里」

    の取り組みを検討する。

    (1)産直市 ふれあい市場 雲井の里の概要

    本施設は、平成 10 年に開設した大型直売所で、木造平屋建で売場面積 75 ㎡、菓子・惣

    菜加工室 75 ㎡を備え、国道 261 号沿いに立地している。設立目的は、農産物直売所及び加

    工施設を最大活用し、中高年者・女性の知恵と技を生かした雇用の場を確保し、販売を通

    じて農家経済の向上を図ることである。

    (2)産直市 ふれあい市場 雲井の里の取り組み

    150 種類を超す商品のすべてが地産品である。休憩交流コーナーも整備され、「香木の

    森」ゆかりのハーブティー等の無料サービスもあり、温かいお茶を飲みながら生産者と対

    話できるのも魅力の一つである。

    内部施設には、農産物直売所や農産物加工場がある。農産物直売所には地区の農家が毎

    日新鮮野菜や果物、切り花、苗物などの農林産物を出荷しているほか、地元産の漬け物・

    味噌・醤油・日本酒、菓子などの加工品も出荷されている。人気商品はこの併設されてい

    る加工場で作られた、おもちや手づくり田舎ずしであり、図 1-17 からも、野菜と加工品

    の売り上げが全体の売り上げの大部分を占めていることが分かる。

  • 19

    図 1-17 部門別販売額

    (出所:雲井の里 10 周年記念誌)

    図 1-18 をみると、9 時~12 時の間に売り上げが集中していることが分かる。これは、

    近所の人が食事の準備のために買い物に来たことが考えられる。産直市の魅力の 1 つであ

    る「地産地消」を裏付けた結果ともいえる。

    図 1-18 時間帯別販売額

    (出所:雲井の里 10 周年記念誌)

  • 20

    第 7 節 課題と提案(担当者:全員)

    農家調査から分かったことであるが、集落営農組織に加入しておらず、参加したいと思

    っている農家が多く存在することが分かった。これは役場の仲介などが必要である。

    (1)集落営農組織への提案

    集落営農組織「赤馬の里」「田吾作」についての提案は、経営に余裕ができてくれば加工・

    販売などの経営の多角化に取り組んでみてはいかがであろうか。加工販売できれば高付加

    価値化による収入の増加が期待できる。また、加工販売には高齢者・女性が参加すること

    ができ、更なる分業化により作業効率も上がるのではないだろうか。

    集落内での話し合いの場を多く設けることも提案したい。これは集落営農組織に加入し

    ていない農家も、非農家も含めてであるである。これは後継者をみつけることと、集落で

    の関係を崩さないようにするための二つの意味がある。集落営農組織に加入していない人

    の意見も尊重して話を聞いたり、農家でない人の意見も聞くことも大切である。これが集

    落の活性化につながり、良好な関係の維持や新たな展開の足がかりになるものと考えられ

    る。

    (2)産直市 ふれあい市場 雲井の里

    邑南町内の農産物直売所は他にも数ヶ所あり、中高年者・女性たちの大きな働き場とな

    っている。雲井の里では、売り上げ向上を目指し、日本酒をはじめとするお酒の販売を拡

    大している。農産物直売所は、地域の方の個別的努力により展開されおり、直売所同士の

    つながりがないといえる。そのため、直売所が連携し、発展していくことが必要である。

    例えば、農村レストランの設置である。他の中山間地域において、農産物直売所に農村レ

    ストランが併設されている所も尐なくない。農村レストランは、生産者の思いをより強く

    伝えることができ、地域の食文化を発信する場になる。地域をより活性化させることので

    きる場として期待することができる。

    (3) 邑南町への提案

    邑南町の農業全般への提案である。JAは地産池消の取り組みを推進している。しかし

    地元で作ったものを地元で消費するのは限界がある。そこで、広島に近いという条件を生

    かし、広島にないもの、地元ならではのもの(重点振興品目など)生産し、積極的に広島

    にも販売すべきではないだろうか。

    高齢農家や個人農家では大規模栽培することは難しい。そこで提案したいのは作物ごと

    の分業である。高齢農家や個人農家は軽くて作りやすい重点振興品目の栽培を担当し、水

    稲など大規模に栽培した方がいいものは、集落営農組織が担当する。そうすることで作業

  • 21

    効率の向上と販売額の増加につながるのではないだろうか。

    農家調査で明らかになったように、農家の多くは価格・収益面で不安を抱いている(図

    1-10)。そこでさらにブランド化を進めてはどうだろうか。ブランド化してより高い付加

    価値を実現することができれば農家の不安を尐しは解消できるはずである。そこで提案し

    たいのがキャベツの生産・ブランド化である。広島はお好み焼きが有名である。お好み焼

    きに合ったキャベツを作れば売れるのではないだろうか。

    次に後継者対策である。農家調査によるとはっきりと後継者がいること答えた農家は半

    数にも満たない(図 1-9)。そこで、I・Uターン者を受け入れる体制をさらに拡充し、

    I・Uターン者が邑南町に溶け込めるような機会、邑南町を知ることができる機会を増や

    し、邑南町に興味を持ってもらうべきではないだろうか。

    邑南町の農業は高齢化が問題となっている。しかし裏を返せばお年寄りが元気にがんば

    っているということでもある。お年寄りを含め農家の方が安心して農業を続けていけるよ

    うな対策が必要である。また広島に近いという条件をうまく利用し、インターネット販売・

    宣伝も拡大し使える条件は最大限に活用すべきである。

    中山間地域と呼ばれる邑南町だからこそ、集落を活性化する方向に導かなければいけな

    い。そしてそれが農業の活性化につながっていくのではないだろうか。

    最後になりましたが、今回調査にご協力くださった農家の皆様、農事組合法人「赤馬の

    里」「田吾作」、邑南町役場、JA島根おおちの皆様に、深くお礼申し上げます。

  • 22

    第2章 邑南町の畜産業の現状と課題-耕畜連携を中心に-

    第1節 はじめに

    日本の畜産農家は飼料高騰の影響により、経営の危機に直面している。この影響は邑南

    町も例外ではない。2 年前と比較し、飼料価格は 3~5 割上昇、畜産物の生産コストは 10

    ~30%上昇している。邑南町の畜産農家が抱える問題は、飼料高騰だけではない。牛糞(堆

    肥)の処理も問題の一つである。耕種農家から相対での注文はあるが、処理できず困ってい

    る畜産農家が多い。これらに対する対策として、耕畜連携における飼料イネの栽培がある。

    そこで本章では、シックス・プロデュース、アグリサポートおーなんといった企業、組

    織、また農家からのヒアリング調査結果をもとに、邑南町の畜産業の現状と課題を、耕畜

    連携を中心に明らかにしたうえで、今後の対策を検討する。

    第2節 邑南町の畜産の現状

    邑南町の飼料作物は、作付面積、収穫量ともに減尐傾向にある(図 2-1、図 2-2)。肉用

    牛の飼養戸数も減尐傾向にある(図 2-3)。乳用牛の飼育頭数は平成 18 年~平成 19 年にか

    けて 30 頭減尐しているが、肉用牛の飼養頭数は平成 18 年~19 年にかけて 60 頭増加して

    いる(図 2-4)。しかし、平成 19 年以降の牛乳の出荷量と販売額はともに増加しており、

    肉牛の販売額も増加しているが、子牛の販売額は減尐傾向にある(図 2-5、図 2-6)。

    9 9 8

    1915 15

    6054 54

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    1.青刈りとうもろこし 2.ソルゴ- 3.牧草

    1.青刈りとうもろこし 9 9 8

    2.ソルゴ- 19 15 15

    3.牧草 60 54 54

    平成16年産 平成17年産 平成18年産

    図 2-1:飼料作物の作付面積(ha)の変化

    出典:農林水産統計データ

  • 23

    362 377275

    786645

    546

    2350

    21302000

    0

    500

    1000

    1500

    2000

    2500

    1.青刈りとうもろこし 2.ソルゴ- 3.牧草

    1.青刈りとうもろこし 362 377 275

    2.ソルゴ- 786 645 546

    3.牧草 2350 2130 2000

    平成16年産 平成17年産 平成18年産

    図 2-2:飼料作物の収穫量(t)の変化

    出典:農林水産統計データ

    平成16年(羽須美

    村、瑞穂町、石見町が合併)

    平成17年2月1日 平成18年2月1日 平成19年2月1日

    1.乳用牛 14 14 14 14

    2.肉用牛 56 59 58 58

    3.豚 1 1 0 0

    14 14 14 14

    56 59 58 58

    1 1 0 00

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    1.乳用牛 2.肉用牛 3.豚

    図 2-3:飼養戸数(戸)の変化

    出典:農林水産統計データ

  • 24

    650 680 660 660670610 610 610

    0 0 0 00

    100

    200

    300

    400

    500

    600

    700

    800

    1.乳用牛 2.肉用牛 3.豚

    1.乳用牛 650 680 660 660

    2.肉用牛 670 610 610 610

    3.豚 0 0 0 0

    平成16年(羽須美村、瑞穂町、

    平成17年2月1日

    平成18年2月1日

    平成19年2月1日

    図 2-4:飼養頭数(頭)の変化

    出典:農林水産統計データ

    469650 474326

    559481

    50953 48294 4217713839 20007 31434

    0

    100000

    200000

    300000

    400000

    500000

    600000

    牛乳 子牛 肉牛

    牛乳 469650 474326 559481

    子牛 50953 48294 42177

    肉牛 13839 20007 31434

    平成19年 平成20年 平成21年

    図 2-5:販売額(千円)の変化

    出典:邑南町役場資料より作成

  • 25

    5099

    5002

    5420

    4700

    4800

    4900

    5000

    5100

    5200

    5300

    5400

    5500

    出荷量(t)

    出荷量(t) 5099 5002 5420

    平成19年 平成20年 平成21年

    図 2-6:牛乳の出荷量(t)の変化

    出典:邑南町役場資料より作成

    第3節 邑南町の畜産業の例~有限会社シックス・プロデュースの概要~

    1.調査の動機

    邑南町の畜産業を調査するにあたり、松江市内のサティに店舗をかまえている企業、有

    限会社シックス・プロデュースが邑南町を中心に経営活動を各地で展開していることが明

    らかとなった。そのため、シックス・プロデュースの取り組みを調査することで、邑南町

    の畜産の状況を知るとともに、畜産の全体としての問題や改善策が見えてくるのではない

    かと考え、シックス・プロデュースを調査対象に選定した。

    2.概要

    ⅰ)起業の経緯

    代表取締役社長である洲濱正明さんの御実家は祖父の代から乳製品の卸売業を営んで

    いた。「子供の頃、牧場を訪問し、雄大な自然の中に牛がいるのではなく、牛が牛舎に押し

    込められ、人工的に受精させられ、機械のパイプで採乳されている様子を見てショックを

    受けました。牛たちが牛乳を大量生産するための機械のように扱われていたのです。」

    この洲濱さんの言葉から分かるように、現在、私たちが口にしている牛乳のほとんどが

    人工的な牛乳であり、自然に作られた牛乳ではない。また、卸売業の手伝いをしていると

    きに、高齢の消費者に「昔の牛乳が飲みたい」「昔の牛乳が懐かしい」と言う声を聞き、

    「今の牛乳と昔の牛乳は違うのかな」という疑問をもち、学生の頃に、自然破壊や地方の

  • 26

    衰退の問題などを調べている中で、過去に牧畜業に大きな転換点があったことに気づいた。

    戦後、アメリカの余剰生産物である穀物を輸入し、牛乳生産を拡大していった結果、供給

    過剰となり、メーカーの乳製品品質は悪化した時期があり、それに対忚するため、乳量を

    調整する機関を設置したのだが、その機関が乳成分基準を設定したことで、自然と共に牛

    乳を生産していた酪農家は日本から姿を消していったのである。このような牧畜業の中で、

    自然放牧に挑戦している人達がいることを知り、自分自身が自然放牧に挑戦しようと決意

    した。大学を休学して全国各地の牧場を巡り、そして、求めていた日本独自の牛乳を造る

    自然放牧に岩手県中洞牧場にたどり着き、そこで、自然放牧のノウハウを学んだ。

    その後、土地を譲り受けて3頭の牛から牧場をスタートさせ、自然放牧の多面的な価値を

    総合的に事業化するに至った。しかし、岩手県では、気温が低く、からっとした中で雪が

    降るのに対し、島根では、気温が高く、年中多湿であるといった違いがある。そのため、

    夏は吸血性のダニの発生により、感染症が広まり、冬は水分の多い雪により、牛の体力の

    消耗が激しいなどの問題が発生した。ダニの駆除や竹で雪があたらないように柵を作るな

    どの試行錯誤に3年かかったが、現在は邑南町外で店舗をかまえるなど、事業を拡大して

    いる。邑南町を拠点とした理由は、自らの地元であるため、いろいろ受け入れてくれたた

    めである。また、邑南町の景観が良かったということがある。

    ⅱ)経営規模

    放牧地面積は 130 ヘクタールであり、現在、牧場は邑南町から美郷町の新牧場へ移転し

    ている。工房の場所は邑南町のままである。視察や牧場見学などの受付の再開は 2011 年

    の4月からを予定している。

    飼育している乳用牛の頭数は、調査時には、牧場を美郷町に移転中であったため、24 頭

    であった。

    ⅲ)雇用状況

    アルバイトの人を含んで、従業員は 9 名(平成 22 年 8 月時点)であり、年代は 80 代 2

    名、50 代 3 名、20 台 4 名である。正規従業員の出身地は、6 名が邑南町であり、他 2 名は

    隣町などの近隣の地域である。

    業務内容は大きく3部門に分かれており、牧場での牛の飼育作業に2人、工房の製造に

    2人、残りは発送・事務・売店に振り分けられている。全員で行う作業というものはなく、

    あえて言うならば、打ち合わせのみ全員参加である。

    臨時の従業員を雇うときは、ハローワークなどの求人情報誌に掲載するが、あまり来な

    いため、主に人づてやボランティアによる。採用にあたって重視していることは、生産・

    製造・販売全て一貫して行っているため、もの作りが好きで、一つの物事を様々な局面か

    ら捉えられ、客観的視点を持ち、いろいろなことに興味関心を持てる人材だということで

    ある。また、面接では採用する人のありのままの姿を見せてもらい、店がある地域の住人

    とその人が合うかどうかで判断している。

  • 27

    ⅳ)商品・販路

    牛乳の生産量は、80~100 リットル/日と安定した状態である。しかし、自然放牧され

    た牛は、栄養価の高い牛乳を出すとはいっても、牛乳だけ、もしくは、牛乳の生産が大半

    という経営では、経営自体が成り立たないため、付加価値をつけられる加工品を重視して

    いる。その販売比率は、概ね牛乳 40%、加工品 60%である。ただ、加工品のアイスやジ

    ェラートは、夏季は売れ行きが良いが、冬季は低迷する傾向があるので、出西生姜を使用

    した、体を温める作用を持つアイスを販売するなど、新商品の開発を行っている。

    商品の全体の売り上げは 3800 万円であり、その販売別売り上げは以下のようになって

    いる。

    ・ 首都圏での直接卸売り:2000~3000 万円

    ・ 経営店:1000 万円

    ・ 牧場:ほぼなし

    ・ ネット販売:他社に委託

    商品の搬送は、運送会社に依頼している。当然のことではあるが、商品搬送の際には、

    温度管理が最も重要であり、磁気温度計によって管理されている。

    ⅴ)その他

    自然放牧では、飼料は放牧地に生えている牧草によって賄われており、牛舎に戻したと

    きに、糠、おから、酒粕、醤油粕、梅などの濃厚飼料を与えている。そのため、飼料が不

    足することはあまりないのだが、不足時は、春から秋の間に買い取ったものを与えている。

    それでも足りない場合には、北海道から買い取り、搬送してもらう。

    通常は乳脂肪分が 3.0%以上になるが、牛が春から夏に萌え出た青草を多く摂取したり、

    夏バテしたりすると、基準値の 3.5%に満たないときがある。この基準値は各地域のJA

    によって異なるのだが、JAで販売する場合、それに従わなければ罰金がある。

    第4節 アグリサポートおーなん

    1.概要

    アグリサポートおーなんは、邑南町内における耕種農家と畜産農家の連携を促進する目

    的で設立されたコントラクターである。遊休農地や転作畑を活用した粗飼料生産と堆肥の

    農地還元を行うことにより、双方の経営安定を図ることを目的としている。

    設立月日は平成 21 年 4 月 21 日、設立形態は任意組織であり、法人格はなく、経営主体

    は個人である。組合長は酪農家の坂根繁樹氏が担っている。設立までの経緯としては、平

    成 20 年の 12 月に邑南町において、転作田の活用が検討され、平成 21 年 1 月に構築連携

    推進協議会が結成。同年 2~3 月に先進事例調査、飼料イネの栽培農家の募集が行われ、4

    月にアグリサポートおーなんが設立した。結成後の同年 5 月より飼料イネの栽培指導、機

    械の導入が行われ、8 月よりアグリサポートによる収穫が開始した。

  • 28

    飼料イネ導入には以下のような利点がある。

    ・飼料イネは、既存の栽培技術・機械装備を活用できる転作作物であるため、稲作を行

    っている農家にとって栽培が容易である。

    ・国内産自給飼料の確保が行える。

    ・牛糞の処理に困っている畜産農家が多く困っている畜産農家が多かったが、飼料イネ

    への導入により、飼料イネ栽培圃場に堆肥化した牛糞を施用することが可能となった。

    2.議決について

    議決は代議員制であり、構成組織は以下のようになっている。

    ・邑智郡酪農業協同組合

    ・島根おおち農協

    ・邑南町農業活性化支援センター

    ・邑南町農事組合法人ネットワーク

    ・邑南町特定農業団体代表

    3.事業内容について

    アグリサポートおーなんの事業内容として、以下の6つが挙げられる。

    ①農畜産物の生産販売

    ②農産物を原料とする飼料の製造販売

    ③農畜産物の貯蔵、運搬

    ④農業生産に必要な資材の製造販売

    ⑤農作業の受託

    ⑥耕作放棄地の復旧に関する事業

    4.職員構成

    常勤職員 2 名(ふるさと雇用対策)

    臨時職員 4 名

    事務員(給料の支払いなど)

  • 29

    5.平成 21 年 一般会計

    表 4-1 一般会計の項目別内訳

    項目 金額(万円)

    収入 受託収入 500

    ふるさと雇用 900

    計 1,400

    支出 製造経費 300

    職員費 740

    計 1,040

    出典:邑南町役場資料より作成

    注:一般会計においては、収入が支出を上回っている。

    6.平成 21 年 施設整備会計

    表 4-2 施設整備会計の項目別内訳

    項目 金額(万円)

    収入 邑南町補助金 4,300

    島根県補助金 500

    計 4,800

    支出 機械等購入費 4,800

    計 4,800

    出典:邑南町役場資料より作成

    注:施設整備会計は、支出の全てを補助金で賄えている。

    7.機械装備について

    機械の導入費用は、前述の補助金(表 4-2)で賄えている。使用する機械は表 4-3 のと

    おりである。職員 2 人でひとつのチームを作り、6 人編成(3 チーム)で作業を実施する。

    汎用収穫機には稲用のアタッチメントを取り付けて使用する。この収穫機は日本には 15

    台しか存在しないものである。

    この他に、コントラクター支援システムを一式導入し、農地データ管理、作業計画、機

    械借上げ管理、受託料金清算請求を行っている。このシステムの導入により、確実な情報

    管理、迅速な連絡、効率的な作業計画、作業状況の把握が可能になっている。GPS 機能に

    より、受託農地の特定、受託面積・作業時間の確定が可能であり、作業ミスが無いように

    心掛けている。

  • 30

    表 4-3 使用する機械

    汎用収穫機 1 台 自走クローラ式 ロール断面 1*0.85m

    稲専用コンバイン 2 台 自走クローラ式 1*0.85m

    ラッピングマシーン 3 台 自走クローラ式

    運搬車(圃場移動用トラッ

    ク) 1 台

    出典:邑南町役場資料より作成

    注:ラッピングした WCS の保存期間は 1 年(開封後は 3 日)、330 ㎏/ロール(3,500 円)

    8.平成 21 年の実績

    <稲 WCS>

    戸数:11 戸、面積:6.6ha、収量:356 ロール

    ・10a あたり 5.4 ロールの出来高である。

    ・主食用品種が主体であったことが影響している。

    ・リーフスター(稲発酵粗飼料向き極晩生水稲品種)の場合、8 ロールの収穫が可能であ

    る。

    <飼料用トウモロコシ>

    戸数:2 戸、面積:18ha、収量:869 個

    ・10a あたり 4.8 ロールの出来高である。

    ・開拓された農地であり、耕土不足である。

    9.作業受託料金

    表 4-4 作業別受託料金

    作業種類 数量 単価(円)

    稲 WCS 細断型 10a 10400

    稲 WCS ラップ作業 乳酸菌添加 1 ロール 1600

    トウモロコシ収穫 汎用型 10a 14000

    トウモロコシラップ作業 乳酸菌無し 1 ロール 1300

    出典:邑南町役場資料より作成

    10.今後の目標について

    ・栽培面積の拡大

    平成 22 年には、飼料イネにおいて目標であった 20ha を大きく上回り、7ha から 34ha

  • 31

    に大きく栽培面積を拡大している。飼料用トウモロコシに関しても目標であった 20 ヘク

    タールを達成し、18 ヘクタールから 23 ヘクタールへと拡大している。

    ・組織の法人化

    アグリサポートおーなんは、組織の法人化を目指している。腰を据えて事業に取り組め

    る、信用度(対金融機関)の向上、税金の節約、資金の内部留保の実現が理由である。

    第5節 耕畜連携の取り組み(農家調査結果)

    1.耕畜連携の取り組み状況

    耕畜連携を行なっている農家数は 50 戸中 17 戸、行なっていない農家数は 33 戸であっ

    た(図 5-1)。全体的に耕畜連携はあまり行なわれておらず、各地域でみても積極的に行な

    っているといえる地域はない。耕畜連携を取り組まない理由として、「周りにやっている人

    がいない」「必要性を感じない」という意見が目立った。

    しかし、耕畜連携を始めた年を見ると 2006 年~2008 年にかけて戸数が大幅に増加して

    いることが分かる(図 5-2)。飼料の高騰により、自給飼料の需要が高まっているものと思

    われる。また、遊休農地や、耕作放棄地といった使用されていない農地を使うために飼料

    イネの栽培をする、とった動きがみられる。これから連携農家数を増やしていくには、地

    域ごとで耕畜連携に対する呼びかけが必要だと考える。

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    日向 井原 中野 矢上 須磨谷

    はい

    いいえ

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    ~1999 2000~2002 2003~2005 2006~2008

    図 5-1:耕畜連携の取り組み戸数 図 5-2:耕畜連携を始めた年

    出所:農家調査結果より作成 出所:農家調査結果より作成

    2.畜産業と農業の連携の利点と欠点

    利点として挙げられた意見は

    ・耕作放棄地、転作田を活用できる

    ・堆肥は安価で安定して供給できる

    ・自給飼料の増産

  • 32

    一方、欠点として挙げられた意見は

    ・蚊、ハエなどの虫の発生

    ・臭い、汚水の問題

    となった。邑南朝の耕種農家にとって、耕作放棄地や転作田といった問題をいかに解消し

    ていくかが大きな課題になっており、畜産業と農業の連携によって飼料イネを栽培するこ

    とは問題を解決する一つの手段だといえる。耕種農家は堆肥を安価で安定して供給でき、

    畜産農家は自給飼料の増加と、お互いにメリットがある。

    しかし、堆肥を扱う以上、蚊やハエなどの虫の発生、臭いや汚水といった問題が出てく

    る。これらの問題を解決するのはたいへん難しく、対忚が難しいのが現状である。また、

    近隣住民にまで被害が及ぶため、耕畜連携農業に対するイメージダウンが危惧される。こ

    のような事態にならないためにも、耕畜連携農業について大勢の人に知ってもらい、イメ

    ージアップを図る必要があると考える。

    3.遊休農地を使った飼料イネの栽培

    飼料イネが遊休農地で生産される状況について良いと答えた農家は 24 戸、どちらかとい

    えば良いは 10 戸、どちらかといえば悪いは 2 戸、悪いは 3 戸、分からないは 11 戸となっ

    た(図 5-3)。良い、どちらかといえば良いと答えた戸数が高く、悪い、どちらかといえば悪

    いと答えた人でも、別の利用がしたいという意見であり、飼料イネの栽培に反対する意見

    は特段みられなかった。分からないと答えた人では、労力面や機械、経費といった心配が

    あるため、しっかりとした情報提供が必要ではないかと思われる。

    24

    10

    2

    3

    11

    良い

    どちらかといえば良い

    どちらかといえば悪い

    悪い

    分からない

    図 5-3:飼料イネが遊休農地で生産される状況について

    出所:農家調査結果より作成

  • 33

    第6節 課題と提案

    ラッピングしたホールクロップサイレージ(WCS) は、開封後の保存期間が3日と短いた

    め、1ロールのサイズ(350kg)が大きいために小規模の畜産農家では一度に使い切れない

    という問題が生じている。邑南町では2~3頭を飼育している畜産農家が多く、350kgの

    ロールを保存期間内に使い切ることはできない。よって町内では、1個当たりのロールサ

    イズを50kgにして欲しいという要望が出ている。しかし、1ロールのサイズを小さくする

    ためには、新たな機械投資が必要であり、実現することは難しいと考えられる。この問題

    の解決策として、現在は一戸で使用されている1ロールのWCSを、保存場所を設けて、数

    戸で共有することが有効であると考えられる。数戸で共有することにより、費用は機械設

    備の導入よりも尐額であり、ロールの大きさが現状のままでも使い切ることが可能になる。

    小規模の畜産家が点在しているため、それぞれの畜産農家で堆肥が生じ、その消費がで

    きずに堆肥の余剰が発生している。解決策として、飼料イネの栽培をアグリサポートが中

    心に行っているが、それだけでは余剰をなくすには至らないので、農家全員が積極的に現

    在使用している耕地で堆肥を利用すべきである。また、飼料イネの栽培面積をさらに増や

    し、堆肥余剰問題をなくすとともに、飼料が自給できるようにする。これにより、シック

    ス・プロデュースが行っている自然放牧と同様に購入飼料依存から脱却し、年々高騰して

    いる飼料にかかるコストの削減が可能となる。さらに、地域で物資の循環という仕組みが

    形成される。その具体的な方法としては、堆肥の作り方や飼料イネの栽培方法などの講義

    とともに、実践講習を多く行うことである。また、地区ごとでこのような循環の仕組み、

    つまり耕畜連携への呼びかけを行い、参入者が増えるに従い、その地区への補助金を増す

    政策を行う。そして、参入者が一定の人数あるいは全員になったときには、補助金を増や

    すことはやめ、詳細な補助金の使途が明記された場合にのみ、増額すれば良いと考えられ

    る。

    各節の担当者

    第 1 節 山本

    第 2 節 山本

    第 3 節 渡辺

    第 4 節 中澤

    第 5 節 山本

    第 6 節 全員

  • 34

    第 3 章 邑南町の林業とバイオマスの現状と課題

    第1節 はじめに(背景と目的)(担当者:林)

    京都議定書における日本の温室効果ガスの削減目標は 6%に設定されており、森林の成

    長による二酸化炭素の固定効果を見込んだ削減量は 6%のうちの 3.9%に相当し、森林管理

    を行う林業の重要性が再認識されつつある。また、邑南町の林野率は 8 割以上であり、そ

    の大半の管理を行う邑智郡森林組合の役割は重要といえる。そこで、邑南町の森林状況、

    邑智郡森林組合の現状、邑智郡森林組合のバイオマス利用の現状を把握し、問題に対して

    解決策を提案していく。

    第2節 現状(担当者:小川)

    (1)自然状況

    邑南町は島根県の中南部に位置し、総土地面積 41,922ha の広大な地域である。中山間

    地に代表的な盆地の多い地形で、ほとんどが標高 100~600m の地域であるが、瑞穂地域、

    石見地域の南側から西側にかけては中国山地の 1,000m 級の急峻な地形も分布している。

    (2)森林資源の状況

    表3-1より、邑南町の総土地面積 41,922ha のうち林野面積は 36,346ha となっており、

    林野率は 86.7%で島根県平均 78.8%を上回っている。

    表3-1:邑南町総土地面積及び林野面積

    総土地面積 41,922ha

    林野面積 36,346ha

    現況森林面積 36,282ha

    森林以外の草生地(野草地) 64ha

    林野率(%) 86.7

    総土地面積 41,922ha

    林野面積 36,346ha

    現況森林面積 36,282ha

    森林以外の草生地(野草地) 64ha

    林野率(%) 86.7

    出典:2005 年 農林業センサス

  • 35

    表3-2より、所有形態別にみると民有林が 35,242ha で現況森林面積の 97%を占めて

    いる。また、私有林が民有林の 70%を占めていることから、私有林の管理が重要であると

    思われる。

    表3-2:邑南町所有形態別林野面積

    私有

    市区町村

    森林整備法人(林業・造林公社)

    都道府県

    公有(計)

    緑資源機構

    民有(計)

    国有(計)

    現況森林面積 36,346ha 100%

    1,104ha 3%

    35,242ha 97%

    4,832ha

    3,631ha

    264ha

    2,023ha

    1,344ha

    26,715ha 民有(計)のうち70%

    私有

    市区町村

    森林整備法人(林業・造林公社)

    都道府県

    公有(計)

    緑資源機構

    民有(計)

    国有(計)

    現況森林面積 36,346ha 100%

    1,104ha 3%

    35,242ha 97%

    4,832ha

    3,631ha

    264ha

    2,023ha

    1,344ha

    26,715ha 民有(計)のうち70%

    出典:2005 年 農林業センサス

    表3-3より、森林蓄積は 662 万㎥ で、うち人工林が 360 万㎥、天然林が 302 万㎥と

    なっている。また、表3-4より、森林成長量は 13 万 4 千㎥/年で、数字の上では1年

    間に 13 万 4 千㎥伐採しても森林を減尐させずに木材資源を利用することができるという

    ことになる。

    表3-3:森林蓄積

    森林蓄積(計) 662万㎥

    人工林 360万㎥

    天然林 302万㎥

    森林蓄積(計) 662万㎥

    人工林 360万㎥

    天然林 302万㎥

    出典:2005 年 農林業センサス

    表3-4:森林成長量

    3万7千㎥ /年天然林

    9万7千㎥/年人工林

    13万4千㎥ /年森林成長量(計)

    3万7千㎥ /年天然林

    9万7千㎥/年人工林

    13万4千㎥ /年森林成長量(計)

    出典:2009 年 島根県農林水産部森林整備課 森林資源関係資料

  • 36

    表3-5より、在村者、不在村者別に私有林の面積をみると、不在村者の割合は非常に

    低いと思われる。表3-6より、邑南町の林業経営体は 1,252 経営体で、うち家族経営が

    1,210 経営体で、ほとんどが家族経営である。また、法人化している経営体は 11 経営体で、

    法人化されていない経営体(その多くは林家)がほとんどである。

    表3-5:在村者・不在村者別私有林面積

    425ha

    582ha

    1,007ha

    25,708ha

    26,715ha

    県外

    県内

    不在村者 計

    在村者

    私有林面積 100%

    99%

    1%

    425ha

    582ha

    1,007ha

    25,708ha

    26,715ha

    県外

    県内

    不在村者 計

    在村者

    私有林面積 100%

    99%

    1%

    出典:2005 年 農林業センサス

    表3-6:林業経営体数

    1,252経営体林業経営体

    1,210経営体うち家族経営

    法人化している経営体 11経営体

    農事組合法人 5経営体

    会社 なし

    各種団体 2経営体

    その他法人 4経営体

    地方公共団体・財産区 1経営体

    法人化していない経営体 1,240経営体

    1,252経営体林業経営体

    1,210経営体うち家族経営

    法人化している経営体 11経営体

    農事組合法人 5経営体

    会社 なし

    各種団体 2経営体

    その他法人 4経営体

    地方公共団体・財産区 1経営体

    法人化していない経営体 1,240経営体

    出典:2005 年 農林業センサス

  • 37

    図3-1より、林家数は減尐傾向にあり、林家数は 2005 年、2,224 戸で 1990 年と比較

    すると 35%減尐している。

    図3-1:林家数の推移

    出典:2005 年 農林業センサス、邑南町第1次総合振興計画

    第3節 邑智郡森林組合、役場、農家における調査結果(担当者:久保)

    1 邑南町の林業対策(役場の調査結果から)

    まず、邑南町独自の林業復興政策としては町産材利用促進協議会が設置され、間伐

    材の利用、バイオマスについて話し合われている。しかし具体的な話までは進んでな

    いので、進める必要があると考えられる。

    次に木質バイオマスを促進させるための政策としては、間伐材を燃料とするウッド

    ボイラーの普及を行っているが、燃料の木材を確保するための費用が高いことが問題

    となって普及が進まない状況にある。それから今年度から予定されているのがストッ

    クヤードという、いらない木材を置くことができ、利用したい人に提供するためのス

    ペース。

    放棄された森林に対する政策は、国が間伐の費用に関して補助金をだしているため

    邑南町では行っていない。

    そして、邑南町の目標としている林業のかたちは、

    ・定めた範囲に重点的な整備を実施

    ・間伐を行い奥地の林の機能を保つ

    ・広葉樹林を植え鳥獣のすみかも確保 としている。

    2224

    3417

    2322

    0

    1000

    2000

    3000

    4000

    1990 年 2000 年 2005 年

  • 38

    2 森林組合における林業関連事業

    邑智郡森林組合の事業規模については組合員 6810 人、林業従事者(作業班員)の人

    数は 53 人でその平均年齢は 43.4 歳、組合がカバーする森林の割合は 80%、組合が管

    理を任されている私有林 6 万 7650ha である。邑智郡森林組合は邑南町、川本町、美

    郷町、江津市桜江町の森林管理をまかされており、以下では邑南町だけでなく、管轄

    エリア全体について述べる。

    効率よく作業を行うために所有者の異なる土地を1つの施業箇所としてまとめる団

    地化を進めるために組合は森林所有者に山の状況を知らせる提案型施業プランナーを

    置いている。しかし、森林はまとまった面積を 1 箇所に所有しているのではなく、あ

    ちこちに尐しずつ所有している人が多いことと、不在者の所有している森林が点在し

    ていることから、作業がなかなか進まないのが問題となっている。また、組合の目標

    とする林業のかたちはチップ生産、産業廃棄物を有機堆肥へ、おが粉の提供(菌床しい

    たけ)など事業の幅を広め、所有者の収益が増え、山の手入れがなされる林業としてい

    る。今、森林組合が抱えている問題は①木材価格の低迷、②民有林の管理ができてい

    ない、③国が林業の公共事業に民間企業も参入させようとしているということである。

    ①の問題に対して組合は育林、下刈りで赤字を取り戻すことで対忚し、②の問題に対

    しては団地化によって間伐の促進を行う、③に対して森林組合は公共事業が 80%を占

    めているので反対している。

    森林組合の作業については森林整備の内容は造林、地ごしらえ、下刈り、除伐、枝

    打ち、間伐であり、主伐の方法は皆伐が主で、年間約用材 699 ㎥、チップ用材 2691

    ㎥、合計 3660 ㎥が伐採されている。しかし主伐の合計が邑南町の森林成長量を下回っ

    ているため、まだ伐採が可能と考えられる。これらの作業を行うために森林組合が導

    入している機械はプロセッサー、フォワーダ、スイングヤーダー、グラップルなどが

    ある。伐採された木材は年間約 2330 ㎥出荷され、出荷額は 2182 万 8000 円である。

    チップ工場で生産されるチップは約 167.7/月で、その販売先は 100%製紙会社である

    が、最近は製紙会社も経営が苦しいためチップの販売先の確保は難しくなっている。

    この問題を解決するため組合は今、中国電力に受け入れを頼んでいる。

    最後にバイオマス利用について述べると邑智郡森林組合は「ゆめみどり」という独

    自の純国産木材有機質肥料を生産している。生産過程は、まず伐採後の不要な木など

    を大型機械で集め、リサイクラーで細かく砕き、発酵処理を行い、半年以上熟成させ

    て袋詰めされる。その「ゆめみどり」の出荷先は、組合員、ホームセンター、堆肥を

    作る会社となっている。「ゆめみどり」の他に、新しく産業廃棄物(木くず)を使った

    事業を展開する予定はないとしている。

  • 39

    3 農家調査

    農家調査を行い、限られた数とエリアであるがそこからわかった森林所有者の特性

    について以下で述べる。

    表3-7から、森林は所有しているが、利用目的のない農家がほとんどだというこ

    とがわかる。さらに、利用目的のあるほとんどの農家には 10~60 代の働き盛りの男性

    がいることもわかる。森林の主な利用目的は、木材生産・チップ・しいたけ栽培・薪

    の利用などがある。また、図3-2から、5ha 以下の小規模所有者が多いことがわか

    る。

    表3-7森林所有戸数と森林利用目的の有無

    農家属性 所有していな

    所有していて

    利用目的あ

    所有している

    が利用目的な

    合計

    10-60代男性

    がいる世帯

    8% 16% 55% 80%

    その他 0% 4% 16% 20%

    合計 8% 20% 71% 100%

    出典:邑南町農家調査

    図3-2:森林所有面積規模別にみた戸数

    出典:邑南町農家調査

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    8

    9

    1ha

    未満

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 1 以

    不明

    面積(ha)

    戸数

  • 40

    図3-3から、半数近くの農家が、所有する山の境界線を把握していないことがわ

    かる。把握できない理由として、境界線を知る人が亡くなり、境界線を把握する手段

    がないなどが挙げられる。

    図3-3:所有する山の境界線把握状況

    出典:邑南町農家調査

    4 ゆめみどりについて

    ゆめみどりとは邑智郡森林組合が製造している純国産木材有機質肥料である。表3

    -8から、ゆめみどりを知らない農家が3割ほどだということと、ゆめみどりを使用

    しているのは野菜を栽培している農家が多いということがわかる。

    表3-8:ゆめみどりの認知度と利用の有無

    知らない 知っていて利用

    している

    知っているが利用

    してない

    合計

    野菜を栽

    培している

    18% 22% 18% 58%

    野菜を栽

    培していな

    16% 6% 20% 42%

    合計 34% 28% 38% 100%

    出典:邑南町農家調査

    所有する山の境界線把握状況

    24 22

    把握してない農家数

    把握している農家数

  • 41

    ゆめみどりを使用している畑の使用面積は 12 戸中、1~50a が7戸、51~100a が4

    戸、101a 以上が1戸であった。

    ゆめみどりを使う理由には土に混ぜると耕しやすくなる、土が柔らかくなるなどの

    理由があり、使わない理由には知らないから、新しくてよく分からない、なじみがな

    いからなどの理由がある。

    表3-9からゆめみどりは他のバーク堆肥と比較したところ、あまり価格差がない

    ことがわかる。しかし畜産廃棄物系堆肥の10kg当たりの平均価格は168円なの

    で、バーク堆肥は尐し高いことがわかる。

    表3-9 ゆめみどりと他のバーク堆肥との価格比較

    販売元 商品名 内容量 価格

    邑智郡森林組合 ゆめみどり(純国

    産木材有機質肥

    料)

    40ℓ(15kg) 400円

    丸和林業グルー

    コーリン・バーク

    (有機質土壌改

    良材)

    40ℓ(正味20kg) 400円

    クリーンリサイ

    クル株式会社

    クリーンバーク

    (良質有機堆肥)

    40ℓ 315円

    夏野土木工業株

    式会社

    夏野ミネラル(地

    域循環型エコ堆

    肥)

    40ℓ 500円

    花ひろば本店 バーク堆肥(家庭

    園芸用資材)

    18ℓ 450円

    出典:邑智郡森林組合 HP,丸和林業グループ HP,クリーンリサイクル株式会社 HP,

    夏野土木工業株式会社 HP,花ひろば本店 HP

    第4節 問題と解決策 (担当者:林)

    1 バイオマス製品の販売に関する問題と解決策の提案

    (1)問題

    バイオマス製品の販売に関する問題は①バイオマス製品全般的に生産に多くの費用が

    かかり、高価なため売れにくい、②ゆめみどりの使用者数が尐ないことが挙げられる。

  • 42

    一般的にバイオマス製品の生産初期において、製品の原料となる木材などのバイオマス

    資源が高価であること、バイオマス資源の効率的収集が難しい、多くの輸送費用がかかる、

    生産規模が小さいなどの理由から、生産費用が多くかかり、その分価格に上乗せされ、売

    れにくくなると考えられる。

    今回の農家調査で得たデータより木材を 100%使用した有機堆肥「ゆめみどり」の使用

    率は 4 割以下であった。それに対して、農家全体のうち、ゆめみどりの存在を知らなかっ

    た人は 3 割半いることが明らかになった。土に混ぜると耕しやすくなる、町から補助金が

    でる、散布しやすいといった声もあり、使用する利点は多いことがわかるため、使用者数

    を増やせる見込みが高いと考えられる。

    (2)解決策

    ①バイオマス製品全般が売れにくいことに対する解決策としてはバイオマス製品の生

    産者に対し、生産初期段階において、町が補助金を出し、生産規模拡大、生産の効率化な

    どによって生産費用が低くなる(価格の安定化)につれて、徐々に補助金の額を減らしてい

    く政策が求められる。生産初期段階だけ補助をすることによって、市場での競争力がつき、

    町の補助額も減らすことができる。

    ②ゆめみどりの使用者数が尐ないことに対する解決策としてはゆめみどりの PR を促進

    することが考えられる。PR の際には使用する利点を強調し、また、回覧板などに掲示す

    るなど、多くの人に認知してもらえるような方法が必要である。

    2邑智郡森林組合の問題と解決策の提案

    (1)問題

    邑智郡森林組合の問題は①森林の団地化が進まない、②森林の間伐が進まないことが挙

    げられる。農家調査で得たデータでは森林の所有面積が 5ha 以下の農家が多く、森林の小

    規模所有が多いと言える。そうなると組合も多くの所有者に団地化の依頼をする必要があ

    り、多くの労力を要するため、団地化を進めにくいと考えられる。また、農家調査のデー

    タから、森林所有者の 78%は森林の利用目的がなく、経営意欲が低く、森林管理を放棄す

    る場合が多い。このため、森林の団地化が進まないと考えられる。

    森林の間伐が進まない理由としては、森林管理・経営意欲の面で消極的な所有者が多い

    のが最大の理由である。また間伐を実施する際には補助金があるが、それでも、切り捨て

    間伐は森林所有者の費用負担が大きく、森林組合の利益も尐ないこと、利用間伐では間伐

    費用が高く、利用間伐の実施範囲が限られてくることが考えられる。

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    (2)解決策

    ①森林の団地化が進まないことに対する解決策としては、団地化を促進させるための施

    行プランナーの人数を増やすことが考えられる。プランナーを担当する人数を増やすこと

    で、団地化のための労力不足は解消されると考えられる。

    ②森林の間伐が進まないことに対する解決策としては、効率的な木材伐出システムを作

    ることが考えられる。具体的には林業作業における機械化の推進、林道、作業路の拡大を

    図る、不必要な木材を置くことができ、それを利用したい人に無料で提供するためのスペ

    ースであるストックヤードの規模拡大・設置箇所の増加を図ることが挙げられる。

    今後はバイオマス製品である「ゆめみどり」の販売促進、団地化、伐採システムの効率

    化の促進を通して、持続的で、より環境に配慮した林業が求められる。

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    第4章 邑南町の農家民宿の現状と課題

    第 1 節 はじめに(担当者:後藤)

    現在、日本は尐子高齢化が進み労働力の減尐は避けられない。その中でも農村部は過

    疎・高齢化の問題が深刻化している。島根県邑南町もその一つである。そこで私たちは邑

    南町がどのようにして過疎化の問題を解決しようとしているのかに目を向け、観光につい

    て調査しようと思った。観光の中でも特徴的だと思ったのが農家民宿である。農家民宿と

    は、都市の人々が田舎にやってきた時に、農家の方が自分の家を民宿として地域の文化や

    特徴、田舎の良さを伝えようとする活動である。

    本章ではまず農家民宿の実態を明らかにし、農家民宿が邑南町にどのような影響を与え

    ているのか、農家民宿を行っている人の心境・思い、農家民宿に対する地元農家の認識度、

    農家民宿を行う条件を明らかにすることを目的とし調査を行った。また、行政と農家民宿

    の連携が取れているのか、行政が農家民宿をどのように PR しているかも明らかにしてい

    こうと思う。その調査の中で明らかになった課題に対し提案していきたい。

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    第2節 農家民宿の概要 (担当者:藤井)

    1)全国の農家民宿の概要

    図2-1 農村におけるグリーン・ツーリズムの例

    出典:農林水産省ホームページ(http://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kyose_tairyu/k_gt/)

    農林水産省のホームページによると、グリーン・ツーリズムとは農山漁村地域において

    自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動のことと記述してある。農村におけ

    るグリーン・ツーリズムの例は図2-1に示した。同図を見て分かるように、滞在の期間

    は長期的または定期的、反復的な(宿泊・滞在を伴う)場合まで様々である。

    欧州では、農村に滞在しバカンスを過ごすという余暇の過ごし方が普及しており、英国

    ではルーラル・ツーリズム、グリーン・ツーリズム、フランスではツーリズム・ベール(緑

    の旅行)と呼ばれている。日本では、海、山、里などからなる自然と四季の変化が、その

    土地ごとの伝統・文化・生活等といった「風土」を産んだ。それぞれの土地の人々は、食

    材などの最もいい時期を「旬」と呼び、その味わいを自らのものにしてきた。グリーン・

    ツーリズムの魅力は、こうした日本各地に残る風土と旬の味わいを楽しむことにあり、そ

    れこそが「日本」らしい旅の魅力となることだろう。農家民宿は、グリーン・ツーリズム

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    のひとつの主要な活動である。

    次に、日本の全国の農家民宿の数と利用者数を見てみる。『農林業センサス(2005 年度)』

    によると、農家民宿の数は上から順に、長野県(345 件)、新潟県(235 件)、兵庫県(130 件)、

    福島県(84 件)、北海道(55 件)・・・島根県は 28 位の