論説 ccctbに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 ·...

44
1.はじめに EU(欧州連合)の欧州委員会(European Commission)は、2011 3 16 日に、CCCTBCommon Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」 1)についての正式な提案 2を行った。これは、2001 年の研究調査 報告書「単一市場における法人課税」 3以後の 10 年間にわたる欧州委員会にお 筑波ロー・ジャーナル 11 号(2012 :3) 43 論説 CCCTB に関する 2011 年 3 月欧州委員会提案 の概要と展望 ―― ALP の海に浮かぶフォーミュラの貝殻―― 大 野 雅 人 1.はじめに 2CCCTB についての欧州委員会提案に至る経緯 3CCCTB 指令案の基本的枠組み及び各章の概要 CCCTB 指令案の基本的枠組み CCCTB 指令案の各章の概要 4.独立企業原則との対比 定式配分方式に対する OECD 移転価格ガイドラインの評価 独立企業原則の適用上の問題点 CCCTB 指令案が提案する定式配分方式の妥当性 5.加盟各国にとっての CCCTB 指令案の問題点 EU の補充性原則及び比例性原則との整合性 法人税制に関する加盟国の権限の喪失 加盟国の法人税の減収 独立企業原則との不本意な共存 6CCCTB の将来――「より強化された協力」条項の適用の可否 7.おわりに

Upload: others

Post on 04-Jul-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

1.はじめに

EU(欧州連合)の欧州委員会(European Commission)は、2011年 3月 16

日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課

税ベース」1))についての正式な提案 2)を行った。これは、2001年の研究調査

報告書「単一市場における法人課税」3)以後の 10年間にわたる欧州委員会にお

筑波ロー・ジャーナル11号(2012:3) 43

論説

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

――ALPの海に浮かぶフォーミュラの貝殻――

大 野 雅 人

1.はじめに

2.CCCTBについての欧州委員会提案に至る経緯

3.CCCTB指令案の基本的枠組み及び各章の概要

盧 CCCTB指令案の基本的枠組み

盪 CCCTB指令案の各章の概要

4.独立企業原則との対比

盧 定式配分方式に対するOECD移転価格ガイドラインの評価

盪 独立企業原則の適用上の問題点

蘯 CCCTB指令案が提案する定式配分方式の妥当性

5.加盟各国にとってのCCCTB指令案の問題点

盧 EUの補充性原則及び比例性原則との整合性

盪 法人税制に関する加盟国の権限の喪失

蘯 加盟国の法人税の減収

盻 独立企業原則との不本意な共存

6.CCCTBの将来――「より強化された協力」条項の適用の可否

7.おわりに

Page 2: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

ける検討の成果であり、EU内の複数の国家にまたがって活動する企業グルー

プに、コンプライアンス・コストと法人税額との両面で、いくつかの大きな変

化をもたらす可能性がある。

変化のひとつは、CCCTBの適用を受けるグループ法人間の取引について独

立企業原則(Arm’s Length Principle)の適用が要求されなくなることである。

OECDモデル租税条約 9条の下では、関連法人間の取引価格は独立企業原則に

則って定められる必要があり、価格が独立企業原則に則った独立企業間価格

(Arm’s Length Price)からはずれているとされれば、税務当局から移転価格課

税を受けることとなる。多国籍企業グループに対しては、多くの国で、その取

引価格が独立企業原則に則っていることを証明するための文書化が求められる

ようになったが、そのことが企業には重い負担となっていると言われてきた

(また、文書化を行ったからといって、必ずしも移転価格課税を回避できるわ

けでもない。)。それが、CCCTBの下では、同制度の適用を受ける企業グルー

プの各法人の所得を合算した上で(合算に当たり、グループ内法人間の取引か

ら生じた損益は無視される。CCCTB指令案 59条 1項)、当該合算所得(連結

課税ベース)を労働・資産・売上の 3要素を使った公式により各法人に按分す

ることになるため(CCCTB指令案 86条)、独立企業原則に則る必要がなくな

ることになり、コンプライアンス・コストの軽減につながることが期待されて

いる。ただし、同一の企業グループに属する法人であっても、後述のように、

CCCTBの適用を受けることができる法人には一定の制限がかけられており、

それ以外の法人との取引については、従来どおり、独立企業原則が適用される

44

論説(大野)

1) Common Consolidated Corporate Tax Base(CCCTB)の訳としては、「連結法人課税標

準の統一」(村島雅弘・後掲注 10)、「一般的統合法人税課税ベース」(吉村典久・後掲注10)

などがあるが、本稿では増井良啓・後掲注 10により「共通連結法人課税ベース」とした。

2) European Commission, COM(2011)121/4, 2011/0058(CNS), “Proposal for a

COUNCIL DIRECTIVE on a Common Consolidated Corporate Tax Base(CCCTB)” SEC

(2011)315, SEC(2011)316.

3) “Company Taxation in the Single Market”, SEC(2001)582, 通称 “The Company Tax

Study ”.

Page 3: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

ことに留意する必要がある 4)。

さらに、CCCTBの適用を受ける企業グループの法人については、課税ベー

スの計算についてCCCTBの独自ルールが適用され(その意味では、CCCTB

は、欧州連合における 28番目の法人税制となる。)、EU加盟国(以下「加盟国」

又は「加盟各国」という。)の法人税制は適用されない(同 7条)。これも企業

グループにとってはコンプライアンス・コストの軽減につながると言われる。

もうひとつの変化は、CCCTBの適用を受けるグループ法人間における利益

と損失の相殺が行えるようになることである(CCCTB指令案 57条)。これま

では、関連法人間の利益と損失のクロスボーダーでの相殺については、加盟各

国の国内法制による厳しい制限がかかっていた。それが、CCCTBの下では、

グループ内の一の法人に損失が生じていれば、当該損失は他の法人の利益と相

殺できることとなり、これは多国籍企業グループの法人税負担の軽減につなが

る。

欧州委員会は、CCCTBの導入によって、企業グループのコンプライアン

ス・コストが 7億ユーロ削減され、連結の実現により法人税の負担は 13億ユ

ーロ軽減されると試算している(2011年3月16日付プレスリリース、IP/11/319)。

これらは、EU内で複数の国にまたがって活動する多国籍企業グループにとっ

ては朗報となるが、加盟各国にとっても朗報となるかどうかについては、意見

が分かれるだろう。法人税制の統一が、将来的にはEU経済の活性化とともに

各国経済の活性化にもつながるとして、これを歓迎する意見がある一方で、

CCCTBの導入による法人税収の減収が懸念され(連結の実現による企業の租

税負担の減は、加盟国にとっての歳入の減となる。)、また、CCCTBによる所

得配分方式が適当でないと考える国や、法人税制の詳細を決める権限をEUに

委譲することを好まない国もあるだろう。

45

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

4) グループは、居住法人とその「有資格子会社」(qualified subsidiaries)から構成される

ので、「有資格子会社」に該当しなければCCCTBの適用を受けることはできない。また

EU域外に所在する法人は、原則として、CCCTBの対象とならない。CCCTB指令案 54条

から56条まで及び 78条・79条(後述3盪稟及び稾参照)。

Page 4: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

本稿では、多国籍企業グループの二重課税問題の解決策として、独立企業原

則に代わる定式配分(Formulary Apportionment)方法を採用するCCCTBにつ

いて、その正式提案に至る経緯を簡単に振り返り(後述2)、次いでCCCTB指

令案の全体像をみた後で(後述3)、CCCTBが採用する定式配分方式を独立企

業原則との対比で検討し(後述4)、さらにCCCTBをめぐるその他の論点を概

観した上で(後述5)、CCCTBが実現される可能性について考えてみることと

したい(後述6)。

2.CCCTBについての欧州委員会提案に至る経緯

EUにおける法人税制改革の議論は、1962年のNeumark Reportにさかのぼ

る 5)。1990年には、「法人課税についての独立専門家委員会」が欧州委員会か

ら法人税制改革の諮問を受け、1992年にRuding Report6)を提出した。この報

告書自体は、具体的な改革の動きに直接に結びつくことはなかったが、1999

年に、理事会は欧州委員会に、Ruding Report以来の状況の変化を踏まえて改

めてEUにおける法人税制についての検討を行うよう求めた。これを受けて、

欧州委員会は 2001年に研究調査報告書「単一市場における法人課税」7)を公表

した。同報告書では、法人税制改革の選択肢として、次の4案が示された 8)。

① Home State Taxation(HST):本拠地国課税。複数の加盟国で事業を行

う企業グループの法人税について、親会社の所在地国(Home State)の課

税ベース計算ルールを、他の加盟国に所在する子会社及びPEにも適用し

ようとするもの。税率については、各加盟国の税制が適用される。

46

論説(大野)

5) Neumark Reportから委員会提案に至る経緯については、吉村典久・後掲注 10の 38頁-

41頁参照。

6) Report of the Committee of Independent Experts on Company Taxation(“Ruding

Report”), 1992, Brussels.

7) 前掲注3。

8) 前掲注3の“The Company Tax Study” pp.373-382、後掲注12の「影響評価書」pp.52-53。

Page 5: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

② Common(Consolidated)Tax Base:共通(連結)課税ベース。法人課

税ベースの算定のための共通ルールを新たに策定し、当該共通ルールを企

業グループの各法人に適用しようとするもの。グループ内の各企業の所得

は連結された上で、一定の定式によって各国に按分される。当該共通ルー

ルを採用するかどうかは企業グループの任意となる。税率については、各

加盟国の税制が適用される。

③ European Union Company Income Tax(EUCIT):欧州連合法人所得税。

EU内に適用される新たな法人税法を制定しようとするもの。その最も純

粋な形態では、EUCITは単一の税務当局によって執行され、EU内を通じ

て単一の税率が適用され、その税収の全部又は一部はEUの諸機関の活動

のために使われる。EUCITはEUの連邦税として加盟各国の法人税制と併

存する。

④ A Single Compalsory ‘Harmonised Tax Base’:単一の強制的な「調和し

た課税ベース」。EU内に適用される新たな法人税法を制定し、加盟各国の

既存の法人税制は廃止するとするもの。

そして、同報告書は、CCCTBを導入することの基本的な利点として、次の

4点を指摘した 9)。

・ EU内の 27の税制に対処するための必要性から生じるコンプライアン

ス・コストが大幅に削減される。

・ 企業グループ内における移転価格問題がなくなる。

・ 原則として、EU内では利益と損失が自動的に通算される。

・ 多くの国際的事業再編が、税務的にシンプルになり、経費も削減され

る。

47

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

9) 後掲注12の「影響評価書」p.53参照。

Page 6: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

これらの法人税制改革案については、2002年から数次にわたって民間との

意見交換が行われた。そして、2004年 11月に、全加盟国の税務当局の専門家

によって構成される作業部会(Common Consolidated Corporate Tax Base

Working Group : CCCTB WG)が立ち上げられ、同作業部会は、2008年 4月ま

でに 13回の全体会議を開いた。同作業部会には 6つの専門部会がつくられ、

特定された問題について作業部会への報告を行った。作業部会は、2005年 12

月、2006年 12月、2007年 12月の 3回にわたり、民間企業、実務家、学者から

の意見聴取を行った。2008年 2月には、欧州委員会などが主催する会議がウィ

ーンで開催され、2010年 10月には加盟国、民間、学者及びシンクタンクから

の意見聴取が実施された 10)。そして、2011年 3月 16日に、「共通連結法人課税

ベースに関する理事会指令についての提案」(“Proposal for a COUNCIL

DIRECTIVE on a Common Consolidated Corporate Tax Base(CCCTB)”11)が公

表された。以下、本稿では、この文書を「委員会提案」と呼び、この文書に含

まれる理事会指令の案を「CCCTB指令案」(又は「指令案」)と呼ぶ。「委員会

提案」は、その冒頭の「説明のための覚書」(Explanatory Memorandum)と

「CCCTB指令案」から成っている。

48

論説(大野)

10) 以上の記述は、主として委員会提案の「説明のための覚書」( “ E x p l a n a t o r y

Memorandum”)pp.6-7、後掲注12の「影響評価書」pp. 4-7, pp.48-55による。このほか、

2011年 3月の欧州委員会の提案内容とその経緯などを紹介するものとして、村島雅弘「欧

州における連結法人課税標準の統一(Common Consolidated Corporate Tax Baseの導入)

~これまでの議論と今後の展望」国際税務 31巻 7号 68頁(2011.7)、増井良啓「法人税制

の国際的調和に関する覚書」税研 160号 30頁(2011.11)、吉村典久「法人税制の国際的調

和・税率構造」税研160号38頁(2011.11)。2001年の “The Company Tax Study”(前掲注3)

を紹介するものとして、小野島真「国際的定式配賦方式導入の可能性について」明治大学

政経論叢 72巻 4= 5号 235頁(2004)、同「EUにおける法人所得課税の租税協調をめぐる

議論について―欧州委員会 2001年報告書を中心に―」明治大学政経論叢 74巻 1= 2号 235

頁(2005)。また、野口剛「経済活動のグローバル化の進展と法人税―EUレベルでの法人

税調和に向けた試み―」諸富徹編著『グローバル時代の税制改革―公平性と財源確保の相

克―』(ミネルヴァ書房、2009)。

11) 前掲注2。

Page 7: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

同日付で、CCCTBについての「影響評価書」(Impact Assessment)12)も公

表されている。影響評価書は、これまでの経緯を詳細に記述するとともに、

CCTB(Common Corporate Tax Base without consolidation、所得合算を伴わな

い共通法人課税ベース)とCCCTB(Common Consolidated Corporate Tax

Base、所得合算を伴う共通法人課税ベース)を対象として、それぞれに、強

制適用される場合(compulsory)と納税者による選択適用が行われる場合

(optional)とに分けて評価を行っている 13)。これら 4つの選択肢について示す

と、表 1のとおりである 14)。

49

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

表1 CCTB/CCCTBについての4つの選択肢

連結なし

(optional CCTB)

・グループ内の各企業(一定の要件を満たすもの)の課税ベースは、グループが選択した場合には、CCTBのルールによって計算される。

・グループ内の各企業の損益は通算されない(グループ内企業間の取引には独立企業原則が適用される。)。

選択適用 強制適用

(compulsory CCTB)

・グループ内の各企業(一定の要件を満たすもの)の課税ベースは、強制的に、CCTBのルールによって計算される。

・グループ内の各企業の損益は通算されない(グループ内企業間の取引には独立企業原則が適用される。)。

(optional CCCTB)

・グループ内の各企業(一定の要件を満たすもの)の課税ベースは、グループが選択した場合には、CCTBのルールによって計算される。

・グループ内の各企業の損益は、グループが上記選択をした場合には、通算される(したがって、グループが上記選択をした場合には、グループ内企業間の取引には独立企業原則の適用はなくなる。)。

・グループ内の各企業の課税所得は、グループが当該選択をした場合には、定式に基づく按分計算による。

(compulsory CCCTB)

・グループ内の各企業(一定の要件を満たすもの)の課税ベースは、強制的に、CCTBのルールによって計算される。

・グループ内の各企業の損益は、強制的に、通算される(したがって、グループ内企業間の取引には、独立企業原則の適用はなくなる。)。

・グループ内の各企業の課税所得は、強制的に、定式に基づく按分計算による。

連結あり

Page 8: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

上記の 4つの選択肢の中では、選択適用のCCCTBが最も好ましいとの評価

を受けたが、その主要な理由は、 雇用に対する影響が最も好ましいと予想

されること、及び EU内のすべての法人について新たな課税ベース計算ルー

ルを適用しなければならないという事態を避けられること、にあった 15)。

3.CCCTB指令案の基本的な枠組み及び各章の概要

盧 CCCTB指令案の基本的枠組み

CCCTB指令案の基本的な枠組みは、つぎのようにまとめられる。

① 一の企業グループの各構成企業の所得を合算(利益と損失を相殺)した

上で、一定の定式により、当該合算された所得(「連結課税ベース」

(consolidated tax base))をグループ内の各構成企業に按分するものであ

ること(前文パラグラフ 6、同 7、86条 1項・ 2項、57条 2項、59条 1項。

後述盪穗参照)。したがって、企業グループの各構成企業の所得の算定は、

独立企業原則を適用することなく行えることとなる。ただし、対象となる

のは、CCCTBを採用する加盟国に所在するグループ構成企業のみであり、

それ以外の国(加盟国以外の国、及び、EU内の一部の国のみがCCCTB

を採用するとすれば、CCCTBを採用しない加盟国)に所在する企業と

CCCTBの適用を受けるグループ構成企業との間の取引については、従来

同様、独立企業原則が適用されることになる。また、CCCTBの適用を受

けることができる法人も限定されており(54条、55条。後述盪稟参照)、

50

論説(大野)

12) European Commission, 16 March 2011, “Commission Staff Working Document, IMPACT

ASSESSMENT, Accompanying Document to the Proposal for a COUNCIL DIRECTIVE on a

Common Consolidated Corporate Tax Base(CCCTB), COM(2011)121 final, SEC(2011)

316 final. この文書は、http://ec.europa.eu/taxation_customs/taxation/company_

tax_base/index_en/htm から入手可能。

13)「影響評価書」pp.17-47.

14 )この外に、「現状のまま」という選択肢(Option 1)があるが、ここでは省略する。

15) 委員会提案の「説明のための覚書」の2秡.

Page 9: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

グループ法人内であってもCCCTBの適用対象外となる法人との取引につ

いては独立企業原則が適用されることとなる(78条、79条。後述盪稾参

照)。

② 連結課税ベースの按分に用いられる定式は、労働・売上・資産の 3つの

ファクターに同等のウェイトを置いたものであること(86条 1項)。

OECD移転価格ガイドラインで言及されている、「全世界定式配分方式」

に準ずるものといえる。なお、「労働」のファクターは、更に「従業員数」

と「賃金額」との二つのファクターに分けられるため、実質的には 4ファ

クター方式ともいえる。また、売上のファクターは、ある商品の売上を行

った企業に帰属するのではなく、当該商品が配送される国の企業に帰属す

る(86条 1項、96条 1項。後述盪穗参照)。

③ CCCTBによる所得按分を行うかどうかは、企業グループの選択に委ね

られること(前文パラグラフ 8、6条。後述盪秣参照)。したがって、企業

グループは、CCCTBによらず、従来同様、グループ内の各構成企業が所

在する加盟国の法人税制によって法人所得と法人税を計算することもでき

る(企業グループがCCCTBを選択する旨の通知を税務当局に行わなけれ

ば、従来どおりに各国税制が適用されることとなる。)。ただし、CCCTB

を選択した企業グループについては、一定の条件を満たす関連企業はすべ

て当該企業グループに含まれることとなり、個々の構成企業について

CCCTBの適用を受けるかどうかについて企業グループの任意の選択に委

ねられるものではない(“all- in all-out” の原則。55条。後述盪稟参照)。

④ 按分の対象となる連結課税ベースの計算については、特定の加盟国の法

人税制によるものではなく、CCCTB指令案が独自の所得計算ルールを定

めていること(前文パラグラフ 9、9条~ 53条)。したがって、CCCTBは

EUにおける28番目の法人税制ということができる。

⑤ 定式によりグループ内の各企業に配分された所得に対しては、当該企業

の所在国の法人税制によって定められた税率が適用される。CCCTB指令

案は、独自の税率を定めるものではない(前文パラグラフ5、103条)。

51

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 10: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

⑥ 企業グループがCCCTBの適用を選択した場合には、当該企業グループ

の中心となる企業(これを「主たる納税者」(principal taxpayer)という。

4条 6項)が、当該企業グループの構成企業(54条に規定される、グルー

プの構成企業となる要件を満たしているもの)を代表して、連結納税申告

書(consolidated tax return)を、当該主たる納税者の所在地の加盟国の税

務当局(これを「主たる税務当局」(principal tax authority)という。4条

睿)に提出すれば、それによってグループの各構成企業の申告義務は果た

したこととなる、いわゆるワン・ストップ・ショップ・アプローチ

(one-stop-shop approach)が採用されている(「説明のための覚書」の 1

のパラグラフ 16、前文パラグラフ 4、109条)。

盪 CCCTB指令案の各章の概要

CCCTB指令案は、前文、18の章及び 3つの附属文書(Annexes)からなる。

同指令案の概要を各章について述べれば次のとおりである 16)。

秬 「第1章 範囲(Scope)」

指令案第 1章では、指令案の目的(1条)、指令案の適用を受けることができ

る法人の範囲(2条、3条、Annex 1、2)が定められている。EU内で設立され

たAnnex 1に掲げられた法人で(Annex 1には、European Company, European

Cooperative Societyの外、各加盟国の国内法で定義される法人が列挙されてい

る。)、かつ、Annex 2 に列挙されるEU加盟国の法人税制の対象になるものが

指令の適用を受けることができる(2条 1項)。この外、これらに類する第三国

の法人も指令の適用を受けることができる(2条 2項)。したがって、EU外の

52

論説(大野)

16) CCCTB指令案の、主として実体面からの検討として、L. Cerioni, “The Commission’s

Proposal for a CCCTB Directive : Analysis and Comment” Bulletin for International Taxation,

September 2011, p.515。また、主として手続面からの検討として、A. van Eijsden, “The

One-Stop-Shop Approach : A Discussion of the Administrative and Procedural Aspects of

the CCCTB Draft Directive”, EC Tax Review, 2011-5, p.217。

Page 11: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

法人も、そのPEについて、CCCTBの適用を受けることが可能である。

秡 「第2章 基本的なコンセプト(Fundamental Concept)」

第 2章には、定義規定(4条)、PEに関する定義規定(5条)が置かれている。

この指令案において、「納税者」(taxpayer)とはCCCTBの適用を受けること

を選択した法人をいい(4条盧)、「主たる納税者」(principal taxpayer)とは 54

条及び 55条の規定に基づき形成されるグループにおいて中心となる納税者等

をいい(4条眇秬~稈)、「構成企業」(group member)とは当該グループの構

成企業(PEを含む。)をいい(4条眄)、「主たる税務当局」(principal tax

authority)とは主たる納税者が所在する加盟国の税務当局をいう(4条睿)。

秣 「第3章 本指令に規定される制度の選択(Opting for the System Provided

for by This Directive」

第 3章は、CCCTBが選択制である旨を規定する。本指令が規定するCCCTB

の適用を受けるかどうかは、EU領域内で設立された法人の選択によること(6

条 1項)、EU領域外で設立された法人についても、EU領域内にあるそのPEに

ついてCCCTBの適用を受ける選択をすることができること(6条 2項)など

が規定されている。法人が本指令の適用を選択した場合には、加盟国の法人税

制は、別段の定めがない限り、適用されなくなる(7条)。本指令の規定は、

加盟国間でこれに反する合意があったとしても、適用される(8条)。

稈 「第4章 課税ベースの計算(Calculation of the Tax Base)」

第 4章には、本指令が適用される上での課税ベースの計算方法が示されてい

る。原則として収益及び費用は実現主義により(9条 1項)、取引は個別に測定

され(9条 2項)、課税ベースの計算方法には継続性が求められ(9条 3項)、課

税ベースは 1課税年度ごとに計算される(9条 4項)。課税ベースは、収入

(revenue)から非課税収入(exempt revenue)、控除可能費用(deductible

expenses)及びその他の控除項目(other deductible items)を差し引いて計算

される(10条)。非課税収入は 11条に、控除可能費用は 12条に、それぞれ規

定されている。32条から 42条までに規定されている固定資産の減価償却費が、

「その他の控除項目」として控除可能である(13条)。他方、控除できない費

53

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 12: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

用(non-deductible expenses)として、配当(14条 1項秬)、交際費の 50%

(同項秡)、資本を構成する利益積立額(同項秣)、法人税(同項稈)、罰課金

(同項稍)などが列挙されている。

稍 「第5章 時期及び数量化(Timing and Quantification)」

第 5章では、発生主義の原則(17条)が示されるほか、収入(18条)、控除

可能費用(19条)、非減価償却資産に関係する費用(20条)、在庫・仕掛品

(21条)についての規定が置かれている。評価に関しては、価額が金額で表示

されるものについては当該金額によるが(22条 1項秬)、価額が金額で表示さ

れないものや受贈益などは市場価格(the market value)により(同項秡秣稈)、

売買目的で保有される金融資産などについては公正価額(the fair value)によ

る(同項稍)などとされている。価額はユーロで評価される(22条 2項)。売

買目的で保有される金融資産などの定義は、23条に置かれている。

このほか、長期契約(Long- term contracts)についての特例(24条)、引当

金(provisions)についての規定(25条)、年金(pension)についての規定

(26条)、不良債権の償却(bad debt deduction)についての規定(27条)、ヘ

ッジング(hedging)についての規定(28条)、在庫・仕掛品についての規定

(29条)、保険業についての規定(30条)が置かれている。また、居住法人か

ら第三国に所在するそのPEに対する固定資産の移転などは、当該固定資産の

処分とみなされる(31条)。

稘 「第6章 固定資産の償却(Depreciation of Fixed Assets)」

第 6章では、償却費計算のルールが示されている。減価償却資産については、

36条 1項に規定するもの(建物、建物以外の長期減価償却資産(long - life

tangible assets、定義は 4条睇)、無形資産)は個別に減価償却費が計算され、

それ以外のものについては 39条が適用されて一括計算(プール計算)が行わ

れる。原則として当該資産の経済的所有者(economic owner)が、減価償却

費を費用として控除できるが(34条 1項)、リース資産の特例(同条 2項)や、

経済的所有者が特定できない場合の特例(同項 3項)が置かれている。減価償

却の詳細については、委員会が定めることができる(34条 4項)。減価償却期

54

論説(大野)

Page 13: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

間は、建物は 40年、建物以外の長期減価償却資産は 15年、無形資産は当該資

産が法的保護の対象となる期間などと定められており、減価償却方法は定額法

(a straight- line basis)である(36条 1項)。上記以外の減価償却資産について

は、ひとつの資産プール(asset pool)に入れられ、25%の償却率で償却され

る(39条)。土地、美術品、骨董品、宝石、金融資産等は減価償却の対象とは

ならない(40条)。固定資産の定義の詳細については、委員会が定めることが

できる(42条)。

稙 「第7章 損失(Losses)」

第 7章では、本指令に別段の定めがある場合を除き、法人単体の損失は後年

度において控除できること、また古い課税年度の損失から順次、控除の対象と

されるべきことが定められている(43条)。

稠 「第8章 本指令に規定される制度への参入及び離脱についての規定

(Provisions on Entry to and Exit from the System Provided for by This

Directive)」

第 8章では、納税者が本制度の適用を選択した場合と、本制度から離脱する

場合の、資産・負債の評価手続等が定められている。納税者が本制度の適用を

選択した場合には、すべての資産と負債は本制度が適用される直前の価額で評

価される(44条)。固定資産は、原則として償却後の価額による(45条 1項)。

このほか、長期契約、引当金、年金引当金、不良債権償却などに関する規定が

置かれている(46条~ 48条)。他方、いったん本制度の適用を選択した納税者

が制度から離脱しようとする場合には、その資産と負債は本制度が定める規則

に従って認識される(49条)。39条に規定する資産プールに入れられた資産、

長期契約、引当金、繰越欠損金等に関する取扱い規定が置かれている(50条

から 53条まで)。

稟 「第9章 連結(Consolidation)」

第 9章には、関連法人の所得の合算についての諸規定が置かれている。

A グループの構成

居住納税者(6条 3項・ 4項の規定に基づき加盟国の居住者とされる法人。4

55

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 14: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

条盧盻)は、 EU内に所在するそのすべてのPE、 第三国の居住者である

その有資格子会社(qualifying subsidiaries)の EU内に所在するすべての

PE、 加盟国の居住者であるその有資格子会社のすべて、及び 第三国の居

住者であり 2条 2項秬の条件を満たす会社が共通の親会社となる、他の居住納

税者(当該親会社の有資格子会社)とによって、そのグループを構成する(55

条)。また、非居住納税者(居住納税者以外の納税者)は、EU内に所在するそ

のすべてのPEと加盟国の居住者であるそのすべての有資格子会社(EU内に

所在するそのPEを含む。)によって、そのグループを構成する(55条 2項)。

ここで「有資格子会社」とは、居住法人が議決権の 50%超を保有するすべて

の子会社及び直列下位の会社(all immediate and lower- tier subsidiaries)又は

資本の 75%超又は利益の 75%超を要求する権利を持つ子会社及び直列下位の

会社をいう(54条 1項。割合の判断基準については 54条 2項及び 58条参照。)。

破産手続中の会社や清算中の会社はグループの構成企業となることはできない

(56条)。

B 連結の範囲

グループ内の各社の課税ベースは連結される(57条 1項)。連結課税ベース

(the consolidated tax base)とは、10条の規定に基づいて計算された、グルー

プ内のすべての構成企業の課税ベースの合計である(4条眥)。連結課税ベー

スの計算に当たり、グループ内法人間の取引から生じた損益は無視される(59

条 1項)。源泉所得税その他の源泉税はグループ内法人間の取引に対しては課

せられない(60条)。連結課税ベースが赤字(negative)の場合には、当該損

失は繰り越され、次年度以降の黒字(positive)の連結課税ベースと相殺され

る(57条 2項 1文)。連結課税ベースが黒字の場合には、当該課税ベースは 86

条から 102条の規定に従って按分される(57条 2項 2文)。

禀 「第10章 グループへの参加及び離脱(Entering and Leaving the Group)」

第 10章は、法人がグループに参加し、あるいはグループから離脱する場合

の、資産の評価、長期契約、引当金等に関する取扱い(61条~ 64条、67条~

69条)及びグループが存続しなくなった場合の取扱い(65条・ 66条)を定め

56

論説(大野)

Page 15: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

る。

稱 「第11条 事業再編(Business Reorganisations)」

第 11章は、グループ内の事業再編に関する課税上の取扱いを定める。グル

ープ内の事業再編は、連結課税ベースの計算においては損益を生じさせない

(70条 1項)。ただし、2年以内の期間におけるグループ内の事業再編により、

ひとつの法人の実質的にすべての資産が他の加盟国に移転され、資産ファクタ

ーが実質的に変更された場合には、特別なルールが適用される(同条 2項)。

また、事業再編の結果、一若しくはそれ以上のグループ又は二若しくはそれ以

上の構成企業が他のグループの一部となった場合には、当該吸収されたグルー

プ又は構成企業の繰越損失は、86条から 102条までの規定に従って配分され、

次期以降に繰り越される(71条 1項)。二又はそれ以上の主たる納税者

(principal taxpayers)が合併した場合には、当該グループの繰越損失はグルー

プ内に配分され、次期以降に繰り越される(71条 2項)。

稻 「第12章 グループと他の事業体との取引(Dealings between the Group

and Other Entities)」

第 12章は、グループが他の事業体から利益の配当を受けた場合や第三国の

PEから所得を得た場合などの税額計算の特例などを規定する(72条~ 77条)。

稾 「第13章 関連事業体間の取引(Transaction between Associated

Enterprises)」

第 13章は、一定の関係にある事業体間の取引の取扱いについて定める。あ

る納税者が、非納税者あるいは同じグループに属さない納税者の議決権の

20%超を有している場合、資本の 20%超を有している場合、又は事業経営に

著しい影響力(significant influence)を有している場合には、両者は「関連事

業体」(associated enterprises)とみなされる(78条)。そして、関連事業体間

の取引において設定された条件が独立企業間で設定されたものと異なる場合に

は、当該納税者の所得は、そのような条件がなかったならば生じたであろうも

のに調整される(79条)。すなわち、CCCTBが適用される法人グループを構

成する法人が、前述の「有資格子会社」に限定されるため、それ以外の一定の

57

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 16: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

要件を満たす関連法人には独立企業原則(移転価格税制)が適用されるという

ことになる。79条と前述 54条・ 55条で規定されるCCCTBと独立企業原則と

の関係を示すと、表 2のとおりである。

稷 「第14章 租税回避への対抗規定(Anti-Abuse Rules)」

第 14章は、一般的租税回避対抗規定(general anti-abuse rule)、一定の場

合の利子控除の否認、及び外国子会社所得合算税制(Controlled Foreign

Corporation rule)を定める。

A 一般的租税回避対抗規定

租税回避のみを目的として行われる人為的な取引(“artificial transactions

carried out for the sole purpose of avoiding taxation”)は、課税ベースの計算に

おいて無視される(80条 1文)。この規定は、商業上の結果は同じであるが異

なる課税を生じさせることとなる二又はそれ以上の選択可能な取引から納税者

が選択できる、純粋に商業上の活動(“genuine commercial activities where the

taxpayer is able to choose between two or more possible transactions which have

the same commercial result but which produce different taxable amount”)に対

しては適用されない(80条 2文)。この条項は、加盟国の租税回避対抗規定が

EU法に反するかどうかについての、一連の欧州司法裁判所の裁判例を想起さ

せるものである。ただし、この文言からは、具体的にどのような運用が想定さ

58

論説(大野)

表2 CCCTBを選択した法人グループにおけるCCCTBと独立企業原則の適用関係

議決権基準

資本割合基準

利益要求基準

著しい影響力基準

50%超

CCCTBの適用あり(54条、55条)

基準

CCCTB等の適用

75%超

75%超

20%超50%以下

独立企業原則の適用あり(79条)

20%超50%以下

著しい影響力あり

20%以下

CCCTB・独立企業原則 ともに適用なし

20%以下

75%以下

著しい影響力なし

Page 17: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

れているのかは、必ずしも明らかではない 17)。

B 一定の場合の利子控除の否定

指令 2011/16/EUに規定する「要請による情報交換(the exchange of infor-

mation on request)」に相当する情報交換協定を有しない第三国に所在する関

連事業体(78条参照)に支払われた利子は、当該第三国の法人税率が加盟国

の平均法人税率の 40%未満であるか、当該関連事業体が当該第三国の一般的

な制度におけるよりも著しく低いレベルの課税を受ける特別な制度の適用を受

けている場合には、控除することができない(81条 1項)。

C CFC税制

納税者が議決権の 50%超又は資本の 50%超を有し、かつ、法人税率が加盟

国の法人税率の 40%未満である第三国に設立されているなどの条件を満たす

子会社については、CFC(controlled foreign companies)ルールが適用される

(82条、83条)。

穃 「第15章 透明事業体(Transparent Entities)」

第 15章は、納税者が透明事業体の持分を有している場合には、当該事業体

の所得はその持分に応じて納税者の課税ベースに加算される旨を規定する(84

条、85条)。

穗 「第16章 統合課税ベースの按分」

第 16章は、第 15章までの規定に基づいて計算され、連結された(57条)、

連結課税ベース(the consolidated tax base)の、グループ各社への按分方法を

規定する。本章は、定式配分ルールを採用するCCCTB提案の中心となる部分

である。

グループ内のA社に対する按分計算は、次の算式によって行われる(86条 1項)。

59

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

17) CCCTB指令案 80条と過去の欧州裁判所の裁判例について論じたものとして、Michael

Lang, “The General Anti-Abuse Rule of Article 80 of the Draft Proposal for a Council

Directive on a Common Consolidated Corporate Tax Base” European Taxation, June 2011,

p.223.

Page 18: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

A社への按分額=

×

+ × × + ×

+ ×

×連結課税ベース

すなわち、売上額の割合を 3分の 1、賃金の割合を 6分の 1、従業員数の割合

を 6分の 1、資産額の割合を 3分の 1とする、加重平均による定式配分である。

指令では、「売上、労働及び資産の各ファクターに同じウェイトを置いた定式」

と説明されている(前文パラグラフ 21、86条 1項)。売上・労働・資産による

ファクター方式とも、売上・賃金・従業員数・資産による 4ファクター方式と

もいえる。連結課税ベースは、それが黒字(positive)の場合にのみ按分の対

象となる(86条 2項)。連結課税ベースが赤字(negative)の場合には、当該損

失は次年度以降に繰り越され、次年度以降の利益から控除される(57条 2項)。

主たる納税者又は関係国の権限ある当局は、この定式の適用によれば適切な

結果が得られないと考える場合には、代替的方法(an alternative method)の

適用を要請することができる(87条。この規定は “safeguard clause” と呼ばれ

る。)。ただし、「代替的方法」についての具体的な記述はない。「代替的方法」

を適用するためには、すべての関係国の権限ある当局の同意が必要である(87

条 2文)。

A 労働ファクター(Labour Factor)

労働ファクターは、その 2分の 1(全体の 6分の 1)は支払賃金額により、他

の 2分の 1(全体の 6分の 1)は従業員数による(90条 1項)。従業員数は、課

A社の資産グループ全体の資産

13

A社の従業員数グループ全体の従業員数

12

A社の賃金グループ全体の賃金

12

13

A社の売上グループ全体の売上

13

60

論説(大野)

Page 19: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

税年度末の数による(90条 2項)。「従業員」(an employee)の定義は、雇用が

行われている加盟国の国内法による。従業員は、原則として、その賃金を支払

っている構成企業に所属するものとして取り扱われるが(91条 1項)、当該従

業員がその賃金を支払っている構成企業以外の構成企業の管理と責任の下で働

いている場合には、特別な規定が適用される(91条 2項)。

B 資産ファクター(Asset Factor)

資産ファクターは、所有、賃借又は賃貸されるすべての有形固定資産の平均

価額による(92条)。資産は、原則として、その経済的所有者に帰属するもの

とされる(93条)。土地とその他の非減価償却資産については、その取得価額

(original cost)により(94条 1項)、個別の減価償却の対象となる資産につい

ては、課税年度の期首の価額と期末の価額の平均とされる(94条 2項)。資産

プール(39条)の対象となる減価償却資産の価額は、課税年度の期首の価額

と期末の価額の平均とされる(94条 3項)。リース対象資産や、グループ内で

移転された資産についての計算の特例がある(94条 4項、5項)。

なお、CCCTBの適用前6年間に納税者が支出した研究、開発、マーケティ

ング及び広告のための費用は、適用後5年間は資産ファクターに加算される

(92条 2項)。これは、連結課税ベースの按分計算において、構成企業が有する

無形資産を考慮するための規定である。

C 売上ファクター(Sales Factor)

売上とは、商品の販売及びサービスの提供に係るもの(売上値引及び返品後

の額)である。付加価値税その他の租税・関税を含まない(95条 2項 1文)。

非課税収入、利子、配当、使用料、固定資産の売却益は、原則として売上には

含まれない(95条 2項 2文)。グループ内企業間での商品の販売及びサービス

の提供も、売上には含まれない(95条 2項 3文)。売上のファクターは、商品

については、当該商品の配送又は移転が終了する加盟国に所在する構成企業に

帰属する(96条 1項 1文。当該商品を販売した構成企業に帰属するものではな

いことに注意が必要である。)。当該場所が特定できない場合には、最後に商品

の所在が特定できる加盟国に所在する構成企業に帰属する(96条 1項 2文)。

61

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 20: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

サービスについても、売上と同様に、当該サービスが提供される加盟国に所在

する構成企業に帰属する(96条 2項)。商品が配達され、若しくはサービスが

提供された加盟国に構成企業が存在しない場合、又は商品が配達され、若しく

はサービスが提供された場所が第三国である場合には、当該売上は労働及び資

産ファクターに従って各構成企業の売上に加算される(96条 4項)。

D 各ファクターの計算ルール

各ファクターの詳細な計算ルールの策定は、委員会に委ねられる(97条)。

金融機関(financial institution、定義は 98条 1項)の資産ファクターについて

は、金融資産の価額の 10%のみが含まれ、また、金融機関の売上ファクター

については、利息、手数料、証券からの収入の 10%のみが含まれるという特

則が置かれている(98条 2項)。その他、保険業(99条)、石油・ガス業(100

条)、海運・空輸業(101条)についての特則が置かれている。按分計算の結

果得られたグループ内の各構成企業への配賦額(apportioned share)は、繰越

欠損金、固定資産の除却損等により調整される(102条、64条、66条秡、71

条、63条、30条秣、Annex Ⅲ)。

E 税額

グループ内の各構成企業の税額は、按分計算の結果額(102条による調整後

のもの)に、それらが所在する加盟各国の税率を乗じ、さらに 76条に規定す

る控除を行ったものとなる(103条)。前述のとおり、CCCTBは独自の税率を

定めていない。

穉 「第17章 執行及び手続(Administration and Procedures)」

第 17章には、手続的な規定が置かれている。

A 選択通知

納税者は、その居住地国の権限ある当局に対し通知(これを「選択通知」

(the notice to opt)という。)することによって、本指令が定める制度の適用を

受けることを選択することができる(104条 1項 1サブパラグラフ 1文。記載事

項については 106条)。EU外で設立された企業のPEの場合には、通知は当該

PEが所在する国の権限ある当局に対して行う(104条 1項 1サブパラグラフ 1

62

論説(大野)

Page 21: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

文)。グループの場合には、主たる納税者が、グループを代表して、主たる税

務当局(主たる納税者の居住地国の税務当局。4条 22項)に対して通知する

(104条 1項 1パラグラフ 2文)。選択通知は、すべてのグループ構成企業(54

条及び 55条で定義されるgroup membersのすべて)をカバーして行われなけ

ればならない(104条 1項 2サブパラグラフ)。主たる税務当局は、当該通知を

直ちに関係する加盟国の権限ある当局に送付する(104条 3項 1文)。通知を受

けた権限ある当局は、1月以内に、彼らの見解並びに選択通知の有効性及び範

囲に関する情報を、主たる税務当局に提出しなければならない(104条 3項 2

文)。

選択通知の提出を受けた権限ある当局は、当該通知を審査する。当該通知が

3か月以内に拒絶(reject)されなかった場合には、当該通知は受け入れられた

ものとみなされる(107条 1項)。納税者が、106条に従って関係する情報をす

べて開示している場合には、グループ構成企業のリストが不正確なものであっ

たという判断が後日にされても、それは選択通知を無効とするものではなく、

当該事実が明らかになった課税年度の当初にさかのぼって、選択通知が訂正さ

れ、他のすべての必要な手段(all other necessary measures)が採られること

となる(107条 2項)。納税者が情報を完全に開示していなかった場合には、関

係する他の権限ある当局の同意により、選択通知を無効とすることができる

(107条 3項)。

選択通知が受け入れられた場合には、納税者又はグループは、本指令で定め

られた制度を 5年間適用しなければならない(105条 1項 1文)。当該期間が経

過した後は、期間は 3年毎に更新される(同項 2文)。終了の通知は、納税者

(又は主たる納税者)から権限ある当局に対して、期限が終了する 3か月以上

前に通知することによって行われる(同項3文)。

B 課税年度

グループのすべての構成企業の課税年度は、同じでなければならない(108

条 1項)。納税者がグループに参加する場合には、当該納税者はその課税年度

をグループの課税年度に合わせなければならない(108条 2項 1文)。その場合

63

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 22: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

において、当該納税者の按分割合は、当該グループに参加した期間の歴月に応

じて計算される(108条 2項 2文)。グループの構成企業がグループから離脱す

る場合には、当該企業の按分割合は、当該グループに参加していた期間の歴月

に応じて計算される(108条 3項)。

C 申告書の提出

単一の納税者の場合には、当該納税者が納税申告書(tax return)を権限あ

る当局に提出する。グループの場合には、主たる納税者がグループの連結納税

申告書(consolidated tax return)を主たる税務当局に提出する(109条 1項)。

申告書の記載事項は、110条に列挙されている。連結納税申告書に誤りがあっ

た場合には、主たる納税者は、主たる税務当局にその旨を通知しなければなら

ない。主たる税務当局は、必要に応じ、114条の規定に基づき修正評価書(an

amended assessment)を発行する(111条)。

納税申告書は、グループの各構成企業の納税義務評価(an assessment of tax

liability)として取り扱われる。一の加盟国の法が、納税申告書は課税評価

(tax assessment)としての法的地位を有し、租税債務の強制的実現を許容する

手段として取り扱われる旨を規定している場合には、連結納税申告書は当該加

盟国の租税債務を負う構成企業にとって同様の効果を有する(109条 2項)。連

結納税申告書が租税債務の強制的実現のための課税評価としての法的地位を有

さない場合には、一の加盟国の権限ある当局は、当該加盟国の居住者である構

成企業又は当該加盟国に所在する構成企業に関し、当該加盟国での強制的実現

の権限を与える国内法に基づく指示を発することができる(109条 3項)。

主たる納税者が連結納税申告書を提出しなかった場合には、主たる税務当局

は、入手し得るデータを考慮し、推計に基づいて、3か月以内に、評価書(an

assessment)を発出する(112条)。これは、我が国における、無申告の納税

者に対する決定通知書に当たる。

D 修正評価書

主たる税務当局は、連結納税申告書の最終申告期限から 3年以内に、修正評

価書(an amended assessment)を発出することができる(114条 3項 1文)。

64

論説(大野)

Page 23: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

これは、我が国における更正通知書に当たる。連結納税申告書が提出されなか

った場合には、修正評価書の発出期限は、112条の規定に基づく評価書が発出

されてから 3年以内となる(同)。修正評価書の発出は、12か月の期間内に 1

度しかすることができない(114条 3項 2文)。ただし、114条 3項は、123条に

基づき、主たる税務当局の加盟国の裁判所の決定に従って修正評価書が発出さ

れる場合、及び第三国との相互協議の合意若しくは仲裁手続の結果として修正

評価書が発出される場合には、適用されない(114条 4項)。また、114条 3項

の規定にかかわらず、修正評価書の発出期限は、意図的な又は悪質な懈怠によ

る誤申告(a deliberate or grossly negligent misstatement)の場合には 6年に延

長され、誤申告が刑事手続(criminal proceeding)の対象となっている場合に

は 12年に延長される(114条 5項)。連結納税申告書の場合、申告による課税

ベースと正しい課税ベースの差額が、5000ユーロ又は連結課税ベースの 1%の

どちらか低い金額を超えない場合には、修正評価書は発出されない(114条 7

項 1文)。また、一の加盟国に所在する構成企業の按分額(apportioned shares)

の調整が 0.5%未満である場合にも、修正評価書は発出されない(117条 7項 2

文)。

E 権限ある当局に対する情報提供

納税者は、当該納税者が所在する加盟国の権限ある当局からの要請に基づき、

当該納税者の租税債務の決定に関係するすべての情報を提供しなければならな

い(118条 1文)。また、主たる納税者は、主たる税務当局からの要請に基づき、

連結課税ベース又はグループ構成企業の租税債務の決定に関係するすべての情

報を提供しなければならない(118条 2文)。

F 権限ある当局の見解(アドバーンス・ルーリング)

納税者は、実行が計画されている特定の取引又は一連の取引に対する本指令

の適用に関して、当該納税者が所在する加盟国の権限ある当局の見解を求める

ことができる。納税者は、グループの構成に関する見解を求めることもできる。

権限ある当局は、見解を求められた場合には、合理的な期間内に回答するよう

に努めなければならない(119条 1項 1サブパラグラフ)。すべての関係する情

65

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 24: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

報が納税者から提供された場合には、権限ある当局の回答は拘束力を持つ。た

だし、主たる税務当局の加盟国の裁判所が、その後にこれと異なる判断を下し

た場合はこの限りでない(119条 1項 2サブパラグラフ 1文)。この規定は、

CCCTBについてのアドバーンス・ルーリング制度を定めるものである(前文

パラグラフ 23)。納税者が権限ある当局の見解に同意しない場合には、納税者

は自身の見解に従って行動することができるが、その旨を申告書に記載しなけ

ればならない(119条 1項 2段 2文)。

G 権限ある当局間の情報交換

権限ある当局が、指令 2011/16/EUに基づき、協力又はグループ構成企業に

関する情報交換の要請を受けた場合には、当該要請を受けた日から 3か月以内

に回答しなければならない(120条 2項)。本指令の下で入手された情報につい

て、加盟国は守秘義務を負う(121条)。

H 税務調査

税務調査(audits)は、関係各税務当局の協力の下に行われる(122条 1項)。

税務調査は、当該調査が実施される加盟国の国内法に基づき実施される(122

条 2項)。

I 加盟国間の意見の相違

加盟国の権限ある当局が、107条、114条 3項、同条 5項、同条 6項 2サブパ

ラグラフに基づいて行われる主たる税務当局の決定に同意できないときは、当

該権限ある当局は、3か月以内に、主たる税務当局の加盟国の裁判所に提訴す

ることができる(123条 1項)。

J 不服申立・訴訟

納税者は、①選択通知の拒否決定、②文書又は情報の開示要求、③修正評価

書、④連結納税申告書が提出されなかった場合の評価書、に対して不服申立が

できる。不服申立は、その対象となる通知を受けた後 60日以内に行わなけれ

ばならない(124条 1項)。不服申立を受けた行政部局は、6か月以内に決定を

しなければならない。もしも 6か月以内に主たる納税者が決定通知を受け取ら

なった場合には、主たる税務当局の決定が不服申立手続において支持されたも

66

論説(大野)

Page 25: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

のとみなされる(125条 5項)。主たる税務当局の決定が行政部局により支持さ

れ又は変更された場合には、主たる納税者は 60日以内に裁判所に出訴するこ

とができる(125条 6項)。主たる税務当局の決定に対する訴訟手続は、主たる

税務当局の加盟国の法に基づいて行われる(126条 1項)。国内裁判所は、必要

に応じ、主たる納税者又は主たる税務当局に証拠の提出を求めることができる。

他の加盟国の権限ある当局は、主たる税務当局に対して、必要な協力を行わな

ければならない(126条 3項)。

穡 「第18章 最終規定(Final Provisions)」

第 18章は、見直し規定等を定める。

欧州委員会(the Commission)は、本指令が効力を生じた 5年後に、本指令

の実施について見直しを行い、理事会(the Council)に報告しなければならな

い。当該報告書には、特に、第 16章に規定されたメカニズムの影響について

の分析が含まれる(133条)。

4.独立企業原則との対比

ここまで、欧州委員会による CCCTB指令案の概要をみてきた。次に、

CCCTBのコア部分といえる定式配分方式について、あらためてみてみたい。

前述 2で述べた経緯で欧州委員会により正式に提案されたCCCTB指令案であ

るが、同指令案が採用する定式配分方式はOECD移転価格ガイドラインにお

いては排斥されている。定式配分方式は何故OECD移転価格ガイドラインで

排斥されながら、CCCTB指令案において採用されることになったのだろうか。

盧 定式配分方式に対するOECD移転価格ガイドラインの評価

1979年OECD租税委員会報告書「移転価格と多国籍企業」18)(以下「1979年

OECD移転価格ガイドライン」という。)及び 1995年OECD租税委員会報告書

67

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

18) Report of the OECD Committee on Fiscal Affairs, “Transfer Pricing and Multinational

Enterprises”(1979)

Page 26: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

「多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針」19)(以下「1995年

OECD移転価格ガイドライン」という。)は、どちらも、多国籍企業グループ

に属する法人への所得配分方式としての「定式配分方式」に否定的な見解を表

明している 20)。少し長くなるが、1995年OECD移転価格ガイドラインの該当

部分を引用する 21)。

3.64 全世界的定式配分(global formulary apportionment)についての最も

重大な懸念は、二重課税を防止しつつ各々の課税を確保する方法でこの

方式を運用することが困難であるという点である。これを達成するため

には、十分な国際的調整及び、使用されるあらかじめ決定された定式、

当該グループの構成に関しての合意が必要となろう。例えば、二重課税

を回避するためには、まず第一に、この定式を採用することに関する一

般的合意、更に、多国籍企業グループの全世界ベースの課税標準の計算

方法に関する合意、共通の会計基準の使用に関する合意、課税標準を異

なる課税管轄(非加盟国を含む)に配分するために使用されるべき要因

についての合意、及びこれらの要因をどのように測定しウェイト付けす

るかに関する合意がなくてはならないであろう。このような合意に至る

には膨大な時間がかかり、非常な困難を伴うであろう。……

68

論説(大野)

19) Report of the Committee on Fiscal Affairs, “Transfer Pricing Guidelines for Multinational

Enterprises and Tax Administrations”(1995)

20) 1979年OECD移転価格ガイドラインのpara.14、1995年OECD移転価格ガイドラインの

paras.3.58-3.74。

21) 日本語訳は、「OECD移転価格ガイドライン:多国籍企業と税務当局のための移転価格

算定に関する指針(2009年版)」(社団法人日本租税研究協会)による。なお、1995年

OECD移転価格ガイドラインの第 1章から第 3章までは、2010年に大幅に改訂されている

が、全世界定式配分に関する部分については、1995年版のパラグラフ3.58から3.74までは、

2010年版のパラグラフ 1.16から 1.32までに引き継がれている。「OECD移転価格ガイドラ

イン:多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針(2010年版)」(社団法人

日本租税研究協会)参照。

Page 27: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

3.66 したがって、全世界的定式配分への移行は、膨大な政治的及び行政的

複雑さをもたらし、また、国際課税の分野において期待することが非現

実的な水準の国際的調整を必要とするであろう。……

3.67 上記で議論した二重課税問題のほかにも、重大な懸念がある。その懸

念の一つは、事前に定められた定式は恣意的であり、市場の状況、個別

の企業に特有の状況、及び経営に特有の資源配分を無視することから、

その取引を取り巻く特定の事実と健全な関連性を持たない利益配分を作

りだすという点である。……

3.70 各構成企業の売上高の決定及び資産の評価(例えば、取得価格か市場

価格か)、とりわけ無形資産の評価においても困難が生じるであろう。

これらの困難は課税管轄による会計基準の差異や複数の通貨の存在によ

り、更に複雑なものとなるであろう。……

3.73 全世界定式配分アプローチは、多国籍企業グループの全ての構成企業

を含まない場合には、この方式に従うグループ(全世界的定式配分適用

グループ)と多国籍企業グループの残りのグループとの接点のために、

別個の企業体ルールを残しておかなくてはならない。全世界的定式配分

は、全世界的定式配分適用グループと多国籍企業グループの残りのグル

ープとの取引を評価するのには使用できない。このように、全世界定式

配分の明らかな欠点は、この方式は全企業を対象に適用されない限り、

多国籍企業グループの利益の配分につき完全な解決策を提供するもので

はないという点である。……

3.74 これまでに述べてきた理由から、OECD加盟国は、加盟国及び非加盟

国間において、長年にわたって見られる独立企業原則の採用についての

合意を支持することを再表明し、また、全世界定式配分に代表される独

立企業原則に対する理論上の代替案は拒否されるべきであるとすること

に同意する。

以上を要約すると、1995年OECD移転価格ガイドラインの懸念は、 所得

69

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 28: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

を按分するための具体的な定式について各国が合意に至ることが、現実問題と

して不可能と考えられること、 定式による配分を行うに当たっては、為替

レートの変動、各国の会計制度の相違、各国の税制の相違等による問題が生じ

ること、 定式による配分では、無形資産の保有を含む、個々の企業が置か

れた状況を適切に反映させることができないこと、及び 一部の国家グルー

プにおいて定式配分方式について合意が成立したとしても、それ以外の国家と

の関係では独立企業原則によらざるを得ないこと、にあるといえる。

上記 の問題については、CCCTB指令案をめぐって、加盟各国がどこまで

歩み寄れるかが注目されよう(後述5でみるように、これまでに既に 9か国の

議会が、CCCTB指令案はEU条約の補充性原則に反しているとの意見を表明

している。)。上記 のハードルについては、現在EUでは加盟 27か国のうち

17か国で共通通貨ユーロが流通しており、CCCTB指令案によって法人税制に

ついて(少なくともCCCTBの適用を選択した企業グループにとっては)統一

されることとなることから、EU内における定式配分方式の実現は、以前ほど

の大きな障害ではないと考えられる。上記 の問題は、定式による配分では

独立企業原則に基づく所得の配分が実現できないという主張に等しいが、定式

配分自体が、独立企業原則を放棄してでも、より簡便な、納税者にとって(あ

るいは税務当局にとっても)負担の少ない所得配分方式を採用すべきとの立場

に立脚するものであり、立場の違いというべきであろう。 の問題は、仮に

CCCTBが採用されることになったとしても、EU内とEU外の取引(あるいは、

EUでCCCTBを採用する国と採用しない国との間での取引)においては独立

企業原則によらざるを得ないのであるから、回避することはできない。全世界

がフォーミュラ方式に移行しない限り、独立企業原則とフォーミュラ方式とは

併存することとなる。

盪 独立企業原則の適用上の問題点

OECD移転価格ガイドラインは、前述盧のような理由から、全世界的定式配

分方式は適当でないとする。では、CCCTB提案において、何故定式配分方式

70

論説(大野)

Page 29: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

が採用されたのだろうか。この点について、委員会提案及び「影響評価書」は、

EU内に異なる 27の法人税制が存在すること、クロスボーダーの企業活動に対

して二重課税が生じていることと並んで、独立企業原則が関連企業間の所得配

分ルールとして十分に機能しておらず、移転価格課税と事前確認に係る相互協

議も順調に進んでおらず、多国籍企業グループが高いコンプライアンス・コス

トを負担していることを強調している 22)。そして、委員会提案は、「独立企業

アプローチを用いる移転価格の公式性(formalities)を遵守するための高いコ

スト」が、単一市場における大きな問題となっていることを指摘している 23)。

また、委員会提案は、「緊密に統合されたグループが彼ら自身を組織化してい

る」状況をみれば、「独立企業原則による取引単位毎の価格付けは、もはや、

利益配分のための最も適当な方法とはいえない」とも述べている 24)。

独立企業原則を採用する場合の執行上の問題点としては、筆者としては、次

のような諸点が挙げられるものと考える。

① グループ法人間の取引について独立企業原則に基づいて価格設定をする

ことが、次のような理由から困難であること。

イ 独立価格比準法(CUP法)を用いるほどに比較可能性の高い比較対

象取引をみつけることは事実上困難。

ロ 再販売価格基準法(RP法)及び原価基準法(CP法)を用いるために

必要とされる比較対象取引については、納税者にとって取引単位又は事

業部単位の情報の入手が困難。税務当局が調査対象納税者以外の第三者

に対する質問検査権を行使して比較対象取引についての情報を入手した

としても、税務当局に課せられた守秘義務によって調査対象納税者に対

する当該情報の開示ができないために、いわゆる「シークレット・コン

71

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

22) 委員会提案の「説明のための覚書」の 1、CCCTB指令案の前文のパラグラフ 6、「影響

評価書」pp.11-14など。

23) 委員会提案の「説明のための覚書」の1のパラグラフ4。

24) 同上。

Page 30: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

パラブル」の問題が生じる。

ハ 取引単位営業利益法(TNMM)を用いるために、民間会社が提供す

るデータベースなどによって比較対象取引を探索しようとしても、デー

タの不完全性から、調査対象取引と一定の類似性を持つ複数の比較対象

取引について統計的処理を施さざるを得ないことも多いが、この比較対

象取引の選定と統計的処理の方法について明確なルールが存在しないた

め、関係者間(納税者と税務当局間、あるいは相互協議手続における税

務当局間)で意見の対立が生じる。

ニ 利益分割法(PS法、特に残余利益分割法)を用いようとする場合に

は、利益を分割するファクターを何にするか、またそれらのファクター

(特に無形資産)の価値(あるいはその存在・不存在)をどのように計

測するかについて、関係者間で意見の対立が生じる 25)。

ホ 無形資産の評価について、その評価ルールが十分に確立されていない。

現在、前述ニの観点も併せ、OECD租税委員会において、無形資産の評

価に関する移転価格ガイドライン第 6章の見直しのための議論が進めら

れている段階である 26)。

② 納税者が設定した価格が独立企業間価格であることの説明責任を納税者

に負わせるべく、各国において文書化義務が法制化されたが 27)、これが

納税者にとっての大きな負担となっていること。

72

論説(大野)

25) 例えば、外国製清涼飲料水を製造する外国親会社が持つ当該清涼飲料水についてのブ

ランド価値をどのように評価するか、当該清涼飲料水を販売している日本子会社による販

売努力や確立された販売網などをどのように評価するか(マーケット・インタンジブルを

認めるか)という問題、あるいは、日本の自動車メーカーが安価な労働力が供給され消費

市場にも近い開発途上国に工場を設置した場合に、当該開発途上国の地域的環境の寄与度

をどのように認めるか(ロケーション・セービングを認めるか)という問題など。

26) OECD “Transfer Pricing and Intangibles : Scope of the OECD Project”(25 January 2011)

para.7によれば、2013年末までに一定の結論を出すこととされている。

27) 米国の内国歳入法典(IRC)6662条稍稠、フランス租税手続法 L13AA条、L13AB条、

L13B条、ドイツ租税通則法(AO)90条など。

Page 31: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

③ 移転価格税制は、①及び②に掲げるような問題を抱えながらも、移転価

格課税後の(あるいは事前確認における)相互協議の段階で、関係国の税

の専門家同志による話し合い(相互協議)の中で解決されるものと期待さ

れたが、実際には、相互協議においても、税務当局間で、納税者と税務当

局との間でみられるのと同様の意見の対立が生じており、相互協議におい

て合意に至らない(協議決裂)という事例も見られること(この場合には、

課税処分を受けた納税者は、国内争訟手続で当該処分を争い全面勝訴しな

い限り、二重課税を解消できないこととなる。)。

④ OECDモデル租税条約は、2009年改正において、第 25条(相互協議条

項)に「仲裁」の項を加え、相互協議において長期間合意に至らないとい

う事態及び相互協議が合意に至らないままに終了するという事態を回避す

るための枠組みをつくったが、仲裁制度が実際にどのように運用されるか、

あるいは機能するかどうかについては、現在のところ予想が難しいこと 28)。

OECD移転価格ガイドラインは、A6版で 400頁近い文書であるが、それで

もなお納税者と税務当局の間、あるいは各国税務当局(相互協議部局)相互間

での議論が絶えないのは、同ガイドラインが独立企業原則と独立企業間価格に

ついての「考え方」を示すものであって、一義的な結論を導く「計算式」を示

すものではないからである。独立企業原則を具体的な事案に適用することの困

難さを考えれば、CCCTBは、関連企業間の合算所得の按分についての「考え

方」ではなく「計算式」を示すものとして、多国籍企業グループにとっては魅

力的なものに映ると思われる。

73

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

28) 我が国では、現在のところ、仲裁条項を持つ租税条約は、香港(2010年署名、2011年

発効)とオランダ(改正条約につき 2010年署名、2012年 1月発効)との間でしか締結され

ておらず、まだ仲裁条項が発動されたことはない。また、世界では、100前後の租税条約

に仲裁規定が置かれているが、具体的な事例は少ない模様である。

Page 32: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

蘯 CCCTB指令案が提案する定式配分方式の妥当性

上記盧及び盪でみたように、OECD移転価格ガイドラインが支持する独立企

業原則と、CCCTB指令案によって採用される定式配分方式には、それぞれに

長短がある。CCCTB定式配分方式は、拠るべき「計算方法」を端的に示すも

のとして魅力的なものではあるが、その「計算方法」の背後にある「考え方」

は、妥当なものといえるだろうか。

CCCTB指令案は、関連企業の合算所得の按分を、売上、労働、資産の 3要

素(厳密には、売上(仕向地基準)1/3、賃金 1/6、従業員数 1/6、資産 1/3の

4要素)を用い、それぞれに要素に均等のウエィトを与えている。しかし、関

連企業の合算所得の按分をそのような方法で行うことの根拠は、必ずしも明ら

かではない 29)。委員会提案の影響評価書においても、CCCTB指令案で採用さ

れた上記4ファクター方式以外に、①売上(仕向地基準)1/3・賃金 1/3・資

産 1/3による均等3ファクター方式、②売上(販売地基準)1/3・賃金 1/3・

資産 1/3による均等3ファクター方式、③売上(販売地基準)1/3・賃金

1/6・従業員数 1/6・資産 1/3による4ファクター方式、④賃金 1/2・資産 1/2

による2ファクター方式、⑤賃金 1/4・従業員数 1/4・資産 1/2による3ファ

クター方式による試算が示されており 30)、各国の経済や税収に対する影響を

慎重に見極めながらのシミュレーション作業が作業部会によって行われていた

ことが窺える。

米国でも、多くの州が、法人所得について、按分ファクターを用いて州間の

按分を行っている。主な方式としては、①売上・賃金・資産による均等3ファ

クター方式(アラバマ州、アリゾナ州、デラウェア州、ハワイ州、ワシントン

DC等)、②売上要素に 2倍のウエィトを置いた 3ファクター方式(カリフォル

ニア州、フロリダ州、イリノイ州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州

74

論説(大野)

29) むしろ政治的判断事項であるとされている。「影響評価書」pp.55-59記載の作業文書

CCCTB/WP/047、CCCTB/WP/060等参照。

30)「影響評価書」pp.73-88。

Page 33: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

等)、③売上要素に 50%以上のウェイトを置いた3ファクター方式(60%のオ

ハイオ州、70%のペンシルバニア州等)、④売上による1ファクター方式(ジ

ョージア州、ミシガン州、ニューヨーク州、テキサス州、ウィスコンシン州等)

のほか、これらの方式のなかから納税者による選択を認めるものなど、多様な

方式が採用されている 31)。しかし、そこで用いられている按分ファクター及

び按分割合が合理的であることが理論的に証明されているとはいい難い 32)。

さらに、これらの定式配分方式の問題点は、無形資産が収益に与える影響を

適切に反映できないことにあると言われている。例えば、先進国Aが、高付加

価値商品(特許等の高い技術力の成果によるもの、あるいは強いブランド力を

有するものなど)を、賃金が比較的安く、消費市場も拡大している開発途上国

Bに工場を設立して生産し、当該製品を現地で販売するような場合を想定して

みる。このような場合、CCCTB型の 3ファクター方式によるほうが、OECD

型独立企業原則によるよりも、開発途上国Bにより多くの所得が配分されるこ

とになると思われるが、果たしてそのような結論が妥当なのか(先進国Aとし

て容認できるのか)という疑問が生じる。なお、定式配分方式は、多国籍企業

グループが、資産(工場等)及び従業員を恣意的に低課税地国に移して租税負

担の軽減を図ることができるという弱点も抱えている 33)。

75

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

31) J. Huddleston and S. Sicilian, “The Project to Revise UDITPA” From the proceedings of

the New York University Institute on State and Local Taxation, 2009, Appendix D “State

Apportionment of Corporate Income(Formulas for tax year 2008-as of January 1, 2008). 同

文書は、ht tp ://www.mtc .gov/up loadedFi les/Mul t i s ta te_Tax_Commiss ion/

Uniformity/Minutes/The%20Project%20to%20Revise%20UDITPA.pdf#search= ‘The Project to

Revise UDITPA’ で入手可能。なお、各州が異なる按分方式を採用することによって、必然

的に二重課税が生じることになるし、按分が全世界ベースで行われることとなれば(全世

界ベースのユニタリー・タックス)、国際的な二重課税が生じることとなる。この問題に

ついては、松永邦男「合衆国における州法人課税の基本構造-ユニタリー・タックス問題

を中心として-盧~眷」自治研究 62巻 3号・ 5号・ 7号・ 10号、63巻 2号・ 4号・ 7号・

11号、64巻4号・9号、66巻12号、67巻1号・2号(1986~1991)。

32) 前掲注 10の小野島真「国際的定式配賦方式導入の可能性について」明治大学政経論叢

72巻4=5号(2004)249頁以下参照。

Page 34: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

CCCTB指令案は、CCCTBが無形資産について十分な考慮を払っていないと

の批判に応え、CCCTB適用前 6年間に各法人が支出したR&D費用、マーケテ

ィング費用等は、CCCTB適用後 5年間にわたって当該法人の資産ファクター

に加算されるとしている(92条)。これが無形資産の問題を解決するに十分か

どうかについては議論があろう。しかし、CCCTB提案は、機能とリスクの評

価や無形資産の評価という困難な問題を棚上げして、一義的に計算できる所得

配分ルールを定め、それにより納税者の負担を軽減し、納税者と税務当局との

間(及び税務当局相互間)の紛争を回避しようとしているものであるので、そ

のような意味で独立企業原則は既に放棄されているのである。このような提案

に加盟各国が同意できるかどうかは、今後、加盟各国が、EUという枠の中で、

OECDガイドラインのパラグラフ 3.64から 3.67までに予想する「期待するこ

とが非現実的なほどの国際的協調」ができるかどうかにかかっている。

5.加盟各国にとってのCCCTB指令案の問題点

CCCTB指令案の実現については、EU内の多国籍企業が強い期待感を示して

いるほか、EU関係者も強い意欲を示しており、学者も法人税制の統合(国際

的協調)の方向性については概ね好意的であるようである。他方で、欧州委員

会がリスボン条約の第 2議定書 34)に基づき各国の議会にCCCTB指令案に対す

る意見を求めたところ、回答期限の 2011年 5月 18日までにイギリスを含む 9

の加盟国の議会が補充性原則違反との意見を表明している(表3)。

76

論説(大野)

33) R. S. Avi-Yonah, K. A. Clausing and M. C. Durst “Allocating Business Profits for Tax

Purposes : A Proposal to Adapt a Formulary Profit Split”, 9 Florida Tax Review, Vo.9. p.497は、

売上ファクターのみによる定式配分方式を提唱しているが、これは賃金ファクターと資産

ファクターが納税者によって恣意的に操作されやすいことを考慮してのことである。N.

Munin, “Tax in Troubled Time: Is It the Time for A Common Corporate Tax Base in the EU?”

EC Tax Review 2011-3, p.127 は、CCCTBの導入により多国籍企業の本店の高税率国から低

税率国への移転が起こり、それがCCCTB採用国以外の国も含めた関係国の税率のコンバ

ージェンスにつながる可能性を指摘する。

34) Protocol(No2)on the Application of the Principles of Subsidiarity and Proportionality.

Page 35: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

第 2議定書によれば、各国の議会にはそれぞれ 2票(一院制の場合には 2票、

二院制の場合には各院に 1票)が与えられており、補充性原則違反とする意見

が全体の 3分の 1(27か国× 2票÷ 3= 18票)以上となれば、欧州委員会は当

該提案の再検討を義務付けられる(“yellow card” procedure)35)。今回は、

CCCTB指令案が補充性原則違反とする国は 9か国(14票)で、18票に届かず、

CCCTB指令案については、EU条約(TEU : Treaty on European Union)の規

定にしたがって、理事会と欧州議会において議論が進められることとなる。し

かし、既に 9か国が反対の意見を表明している意味は大きいと思われることか

ら、各国が反対する理由についてみていきたい。

盧 EUの補充性原則及び比例性原則との整合性

EU条約 5条(行動原則)3項及び 4項の規定により、連邦政府としてのEU

77

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

表3 CCCTB指令案に反対を表明した加盟国議会 36)

加盟国ブルガリアアイルランドマルタオランダポーランドルーマニアスロバキアスウェーデンイギリス

計二院制(一院のみ反対)一院制一院制二院制(一院のみ反対)二院制(一院のみ反対)二院制(一院のみ反対)一院制一院制一院制議会の一院制/二院制の別 票数

22211122114

35) 同議定書7条2項。

36) M. Vascega and S. van Thiel, “The CCCTB Proposal : The Next Step towerds Corporate

Tax Harmonization in the European Union?” European Taxation September/October 2011,

p.377. 各国議会から提出された意見は、http://www.ipex.eu/IPEXL-WEB/home/home.do

に掲載されている。

Page 36: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

は、補充性原則(the Principle of Subsidiarity)と比例性原則(the Principle of

Proportionality)を満たす限りにおいて活動することができることとされてい

る。

まず、EU条約 5条 3項及び 4項は、補充性原則及び比例性原則について、次

のように規定する 37)。

3 連合は、補充性原則に基づいて、その排他的権限に属しない分野におい

ては、提案された行動の目的が中央政府であれ地方政府であれ構成国によ

っては十分に達成できず、提案された行動の規模又は効果の点からいって

連合により一層良く達成できる場合にのみ、かつその限りにおいて行動す

る。……

4 比例性原則に基づいて、連合の行動の内容及び形式は、基本条約の目的

を達成するために必要な限度を超えてはならない。……

CCCTB指令案が補充性原則に整合的であることについて、委員会提案は、

「説明のための覚書」において、次のように述べている。

クロスボーダーの損失の救済や無税のグループ再編成などの、この提案

において設計されたルールは、もしも各加盟国がそれぞれの制度を適用し

たならば、効果のないものとなり、市場における歪み、特に二重課税と二

重非課税を生じさせることとなるだろう 38)。……

本提案は、関連企業間の課税ベースの計算における各国制度の相違によ

ってもたらされる租税障害(tax obstacles)への対処に限定されている。

78

論説(大野)

37) 以下、EU条約とEU運営条約の訳は、松井芳郎・編集代表『ベーシック条約集 2011』

(東信堂)による。

38) 委員会提案の「説明のための覚書」の3秡、第3パラグラフ。

Page 37: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

…これらの事項〔筆者注:法人課税ベースの計算とその国境を超えた連結

についての共通の枠組み〕は、もっぱら国境を超えた性質を持つものであ

るから、連合のレベルでの立法化を行うことによってのみ対処され得る。

したがって、本提案は補充性原則に照らしても正当化される。なぜなら、

加盟国による個々の行動によっては、そのような結果を得ることはできな

いからである 39)。

また、比例性原則との整合性について、委員会提案は、次のように述べてい

る。

本提案は、選択的制度として形作られており、特定された問題について

最も比例的な解答となっている。本提案は、国外に進出する意図を有して

いない法人に、実際上の利益がないにもかかわらず、共通ルールを実施す

るための不必要な事務的費用を負わせるものではないからである 40)。

しかしながら、CCCTB指令案に反対する加盟国からは、 各加盟国の行動

によってはクロスボーダーの経済活動に対する障害を取り除くことができない

旨が十分には証明されていない、 EUの行動によって更なる利益が得られる

かどうか不明である、 CCCTB指令案では、納税者のコンプライアンス・コ

スト及び加盟国の執行コストが増大するおそれがある、などの理由から、

CCCTB指令案は補充性原則に反するとの主張がされている。また、比例性原

則についても、クロスボーダーの経済活動に関する税制上の障害に対しては、

既にEC仲裁条約、合同移転価格フォーラム、欧州裁判所の判例、事業課税に

関する行動指針などが存在すると主張されている 41)。今後、理事会において

79

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

39) 委員会提案の「説明のための覚書」の3秡、第6パラグラフ。

40) 委員会提案の「説明のための覚書」の3秣、第1パラグラフ。

41) 前掲注36のVascega and van Thiel, pp.377-378。

Page 38: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

も、補充性原則と比例性原則に関する議論は続くものと思われる。

盪 法人税制に関する加盟国の権限の喪失

CCCTBの導入に伴い、加盟国は、CCCTB適用法人グループについては、経

済政策(景気刺激、雇用促進等)の手段としての法人税制に関する権限を失う

ことになる。このため、いくつかの加盟国は、CCCTBは加盟国の課税自主権

をEUに譲渡するものであると懸念し、あるいは法人税制に関する権限を失え

ば経済状況の急激な変化に対応できないのではないかと懸念している 42)。

蘯 加盟国の法人税の減収

加盟各国は、CCCTBを導入した場合の法人税収の減少についても懸念して

いる。これは、理論的な問題ではないが、各国政府にとっては政策判断上の極

めて大きな問題となる。欧州委員会は、「本提案は、加盟国間の法人税収の増

減を意図したものではない」と述べつつ 43)、「影響評価書」で、CCCTBの導

入により法人税が増収となる加盟国と減収になる加盟国があるとしている。表

4は、「影響評価書」の試算の一例である 44)。

委員会提案は、法人税率の設定は加盟各国の自由とされているところであ

り 45)、その他の国内租税政策もとられ得ることから、CCCTBを導入した場合

の加盟各国の実際の法人税額の増減がどの程度のものになるかについての予想

は困難であるとしている 46)。しかし、実際に税収減が生じたときに、これに

応じて法人税額を引き上げることは、周辺国との競争上も不利となり、産業界

80

論説(大野)

42) 前掲注36のVascega and van Thiel, pp.379-380.

43) 委員会提案の「説明のための覚書」1のパラグラフ13。

44) 表 4は、CCCTB指令案による按分ファクターを用いた試算である。この外にも「影響

評価書」は、分割ファクターを様々に変えての試算を行っていることについては、前述 4

蘯のとおり。

45) 委員会提案の「説明のための覚書」の 1のパラグラフ 8、CCCTB提案の前文パラグラ

フ5。

46) 委員会提案の「説明のための覚書」の1のパラグラフ13。

Page 39: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

81

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

表4 現在の課税ベースの分配と3要素による分配割合との比較

国名

オーストリアベルギーブルガリアキプロスチェコドイツデンマークエストニアスペインフィンランドフランスギリシャハンガリーアイルランドイタリアリトアニアルクセンブルクラトビアマルタオランダポーランドポルトガルルーマニアスウェーデンスロベニアスロバキアイギリスEU合計

4.00%5.60%0.00%-

0.20%16.70%5.90%0.19%3.40%8.50%8.30%0.70%0.60%2.90%6.10%0.10%1.00%0.00%-

6.40%2.00%1.20%0.10%5.90%0.10%0.00%

20.30%100.00%

2.90%3.90%--

0.40%19.50%3.90%0.20%4.60%5.50%

10.00%1.30%0.40%2.50%7.90%0.20%-

0.10%-

4.20%1.80%1.20%0.30%4.90%0.10%0.10%

20.50%97.30%

-1.10-1.70

0.202.80

-2.000.011.20

-3.001.700.60

-0.20-0.40

1.800.10

0.10

-2.20-0.20

0.000.20

-1.000.000.100.20

-2.70

現在の課税ベース

Cross-countrydistribution

Cross-countrydistribution

差異

CCCTB提案(3ファクター)による課税ベース

(注)「影響評価書」30頁の Table 3。データの欠如等のため、あくまでも参考としての試算である。試算条件の詳細については、「影響評価書」27頁以下参照。

Page 40: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

から政治的支持を受けることは難しいであろう。法人税額の税収減に対応して

他の税目(所得税など)の税率を引き上げることも同様に困難が伴うだろう。

他方で、財政状況の悪化に悩む加盟国政府(及びその国民)にとっては、税収

減による公共サービスの低下も受入れ難いものと思われる。

盻 独立企業原則との不本意な共存

前述 4盧で見たとおり、1995年OECD移転価格ガイドラインが、全世界的

定式配分方式の採用を支持しないとした理由のひとつは、ひとつの定式につい

て各国が合意すると考えることが非現実的であるからであった。他方、

CCCTBについては、EUの全加盟国、あるいは全加盟国が無理でも一部加盟国

において合意される可能性があると指摘されている 47)。しかし、CCCTBが、

EUの全部又は一部の加盟国で実施されるということは、CCCTBが独立企業原

則に取って代わるというよりは、CCCTB実施圏において、独立企業原則と

CCCTBとが共存せざるを得なくなることを意味する。これも、1995年OECD

移転価格ガイドラインが、定式配分方式を支持しない理由のひとつであっ

た 48)。

前述のとおり、CCCTB指令案では強制適用のCCCTBではなく選択適用の

CCCTBが規定されていることから、CCCTB実施圏においても、CCCTBの適

用を選択する企業グループと従来どおりの独立企業原則の適用を希望する企業

グループの双方が存在することとなる。そして、CCCTBの適用を選択した企

業グループであっても、CCCTBのルール(54条・ 55条)によってグループ構

成企業とされなかった CCCTB実施圏に所在する関係企業との取引、及び

CCCTB実施圏以外の国に所在する関係企業との取引(79条)については、独

立企業間価格によらざるを得ない。したがって、CCCTB圏に関連企業が所在

する企業グループは、CCCTBを選択することによってCCCTB実施圏との取

82

論説(大野)

47) 後述6参照。

48) 前述4盧の1995年OECD移転価格ガイドライン para.3.73。

Page 41: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

引で省ける手間と、CCCTBと独立企業原則との二つの異なるルールに従うこ

とで増える手間とを考慮しながら、CCCTBを選択するかどうかを決定しなけ

ればならないことになる。他方で、従来どおりの独立企業原則に基づく税制を

維持しつつ、並行してCCCTBも執行していかなければならないことは、加盟

各国の税務当局にとっては大きな負担となるものと懸念される。

6.CCCTBの将来-「より強化された協力」条項の適用の可否

前述 5のとおり、既に 9か国が消極意見を提出しているCCCTB指令案は、

今後EUにおいて理事会指令として実現するだろうか。

欧州連合の運営に関する条約(TFEU : Treaty on Functioning of the

European Union、以下「EU運営条約」という。)115条の規定によって、

CCCTB指令案の採択には理事会の全会一致が必要となる。このため、CCCTB

指令案が、現在の形のままで理事会指令として成立する可能性は低く、今後の

EU内での協議において大幅に変更されることになるか、あるいは結局は全加

盟国の一致に至らず、立法化が実現しない可能性も十分にあると考えられてい

る。

CCCTB指令案がEU加盟国の全会一致の支持を得られなかった場合(ある

いは得られる見通しがたたなくなった場合)の代替手段として、EU運営条約

の「より強化された協力」(Enhanced Cooperationの可能性)の規定に基づく、

CCCTBに賛同する一部の加盟国のみによる同制度の導入の可能性が議論され

ている。「より強化された協力」は、「ふたつのスピードを持つ欧州連合」

(two-speed European Union)の概念の下に、全加盟国の一致には至らなくと

も、EUの統合のための前進であると考えられる施策については、9以上の加

盟国の合意によって、当該合意した加盟国の領域内においてのみ実施すること

を容認するものである。EU条約 20条は次のように規定する。

20条

1 連合の非排他的権限の枠組内でみずからの間でより強化された協力を確

83

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

Page 42: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

立しようとする構成国は、基本条約の関連規定を適用することにより、そ

の限度内でかつ欧州連合の運営に関する条約第 326条から 334条に規定す

る詳細な取極に従って、連合の機関を利用しこれらの権限を行使すること

ができる。

より強化された協力は、連合の目的を推進し、その利用を保護し、その

統合過程を強化することを目指す。……

2 より強化された協力を許可する決定は、当該協力の目的が合理的期間内

に連合全体により達成できないことが証明された場合であって、かつ少な

くとも 9の構成国が当該協力に参加する場合に、最終的な手段として理事

会により採択される。……

また、EU運営条約326条は、次のように規定する 49)。

326条 より強化された協力はすべて、基本条約及び連合法に従う。

こうした協力は、域内市場又は経済的、社会的及び領域的結合を害

さない。強化された協力は、構成国間の貿易に障壁若しくは差別を

設けるものであってはならず、かつ構成国間の競争を歪めるもので

あってはならない。

「より強化された協力」条項の適用により、CCCTBが一部ではあれEUの領

域内で実現されるために越えなければならないハードルは、 これまでのと

ころ、「より強化された協力」の実例は、離婚に関するものだけであるこ

と、 CCCTBは、離婚と異なり、それが一部地域においてであれ実現すれば

EU運営条約 326条にいう「域内市場又は経済的結合」に大きな影響を与える

ものであるとも考えられること、 「より強化された協力」は、EU条約 20

84

論説(大野)

49) 326条の外、EU運営条約 327条から 334条までに、「より強化された協力」に関する条

項が置かれている。

Page 43: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

条において、「連合全体により達成できないことが証明された場合」の「最終

的手段」とされていること、 9か国以上の参加により実現可能であるとし

ても、そのためには理事会の全会一致による採択が必要であること(EU条約

20条、EU運営条約 115条)などである 50)。しかし、全加盟国の合意をめざす

ための新たな妥協案づくりという作業で時間を無駄にしないためにも、まずは

「より強化された協力」規定によってCCCTBを実現し、その後に他の加盟国

の参加を求めることが適当であるとの議論もされている 51)。

7.おわりに

選択適用ができるCCCTBは、多国籍企業にとっては朗報であろう。CCCTB

によってグループ企業内における租税負担の軽減(利益と損失の相殺などによ

る)とコンプライアンス・コストの負担の軽減(独立企業原則の適用がなくな

ることによる)を期待する企業は、自国の政府に、CCCTBの採用を強く求め

ていくことになるだろう。委員会提案自体、独立企業原則の適用に不満を募ら

せる産業界の意向を強く受けたものと思われる。

そのような圧力を受けて、CCCTBの導入によっても法人税収が減少しない

加盟国は、CCCTBに賛成するかもしれない。他方、CCCTBの導入によって法

人税収が減少する加盟国にとっては、実際問題として、CCCTBを容易に受け

入れることはできないと思われる。さらに、加盟国にとっては、CCCTBによ

るEU経済や個々の国の経済へのマイナス影響も懸念されるだろう 52)。

CCCTB指令案は、OECD移転価格ガイドラインによって確立されてきた独

立企業原則のアンチテーゼとしての意味を持つ。しかし、CCCTB指令案が実

85

CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案の概要と展望

50) H.T.P.M. van den Hurk. “The Common Consolidated Corporate Tax Base: A Desirable

Alternative to a Flat EU Corporate Income Tax?” Bulletin for International Taxation,

April/March 2010, pp.263-264。このほか、前掲注 33のMunin, pp.125-126、前掲注 36の

Vescega and van Thiel, pp.380-381参照。

51) 前掲注 50の van den Hurk, p.264のほか、E.C.C.M. Kenneren, “CCCTB : Enhanced

Speed Ahead for Improvement” EC Tax Review, 2011/5, p.210.

Page 44: 論説 CCCTBに関する2011年3月欧州委員会提案 の概要と展望 · 日に、CCCTB(Common Consolidated Corporate Tax Base, 「共通連結法人課 税ベース」1 ))についての正式な提案2

際に理事会指令としてEU全域で実現するにせよ、あるいは「より強化された

協力」としてEU内の一部の国で実現するにせよ、CCCTBの定式配分方式は

独立企業原則と併存していかざるを得ない。多国籍企業は、その事実を踏まえ

て、CCCTBを選択するかどうかを決定する必要がある。また、CCCTBの実現

後もCCCTBと独立企業原則の併存は続くことになるので、加盟各国の税務当

局にとっての執行の負担は大きくなるおそれが大きい。さらに、CCCTBがEU

内における 28番目の法人税制であることから、CCCTB導入後は、その執行に

関し、詳細な(そして膨大な)細則の制定が必要となることも考えられる。

2001年の「単一市場における法人課税」報告書から 10年にわたる議論・検

討を経て、CCCTBは 2011年 3月に正式に理事会指令案として提案された。

CCCTB指令案が、現在の形のままでEU全加盟国に受け入れられる可能性は

小さいと思われるが、今後、大幅に修正されるにせよ、あるいは「より強化さ

れた協力」条項により一部の加盟国のみで受け入れられるにせよ、CCCTBが

実際に実施されることになるかどうかが注目される。また、CCCTBが実施さ

れた場合に、CCCTBが他の「独立企業原則」方式を採用する国々を惹き付け

て「CCCTB圏」が拡大していくことになるのか、あるいはCCCTBと「独立

企業原則」との共存がCCCTBをそれほど魅力的なものとはせず、CCCTBが

消え行くことになるのかについても、多くの困難な問題を抱える独立企業原則

を採用する国として、注目していく必要があるものと考える。

(おおの・まさと 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻教授)

86

論説(大野)

52)「影響評価書」pp.136-138によれば、CCCTBの導入により、雇用は 0.00%~ 0.01%減

少、投資は 0.74%~ 0.88%減少、GDPは 0.15%~ 0.17%減少するとされており、各国意

見もこの点について懸念を表明している。例えば、Reasoned Opinion of the House of

Commons (U.K.), paras.12-15, para.24。