高経年ガス絶縁遮断器の 微量なガス漏れ評価について ·...

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Page 9 エネルギア総研レビュー No.33 0.430 0.425 0.420 0.415 0.410 0.405 0.400 0.395 0.390 0.385 30.0 20.0 00.0 0.0 ‒10.0 ‒20.0 ‒30.0 ‒40.0 ‒50.0 ‒60.0 ガス圧力[MPa] 温度[℃] 6/29 6/9 7/19 9/17 10/7 10/27 11/16 12/6 12/26 8/8 ガス圧力 ガス温度 y=ー1E-08x+0.406 ガス圧力(温度補正値) 測定日 20℃換算ガス圧力近似値 8/28 高経年ガス絶縁遮断器の 微量なガス漏れ評価について 1 はじめに 発変電所には,故障などのとき自動的に電気を遮断 する遮断器が設置されている。当社においては,電圧 が110kV以上の遮断器にはガス絶縁遮断器(写真1) を多く採用しており,今後,これらの多くは高経年 となり更新時期を迎えることとなる。  設備の更新にあたっては,機器を構成している各 部品の劣化状況の評価を行い,機器の寿命を把握し た上で最適な時期に計画する必要がある。 高経年のガス絶縁遮断器の寿命を判断する要因の 一つとして,ガス絶縁遮断器に封入されているガス が外部に漏れないようにするための部品(シール) の劣化がある。この劣化状況を把握するためにはガ ス圧力管理が必要となるが,ガス絶縁遮断器に通常 取り付けられているガス圧力計(写真2)では,目 盛り幅が大きいため微量のガス漏れによるガス圧力 低下を把握することは困難である。 このため,高感度のガス圧力センサを用いた「ガ ススローリーク監視装置」が開発されており,本装 置によるガス絶縁遮断器の微量なガス漏れ診断手法 の構築に向け,実際に運用設備を使用して検証およ び評価を実施したので報告する。 2 研究概要 (1)装置概要 微量なガス漏れを評価するため,高感度のガス圧 力センサを有するガススローリーク監視装置(図1) を用いた。 本装置の構成は,ガス圧力を計測する「ガス圧力 センサ」,計測ガス圧力を20℃換算するための温度 を測定する「温度センサ」および各計測データを処 理・記録する「信号処理装置」である。この信号処 理装置で記録したデータは,汎用パソコンでデータ の取り込みが行える。 (2)評価方法 本装置により,日射の影響を受けない早朝データ を毎日計測し,計測したデータを信号処理装置で 20℃換算ガス圧力に演算処理する。そのデータを汎 用パソコンに取り込み,20℃換算ガス圧力をグラフ 化し,近似直線の傾きで微量なガス漏れを評価した。 縦軸をガス圧力,横軸を日付とすると20℃換算のガ ス圧力が右肩下がりとなった場合,ガス漏れがある と評価できる。 評価方法のイメージを図2に示す。 なお,微量なガス漏れの定量的な評価レベル(目 標)として,0.5%/年(定格ガス圧力0.5MPa場合の圧力変化量0.0025MPa)としている。 密閉されたタンク内のガス圧力変化は温度により 変化するため,ガス漏れの有無を評価するには,同一 温度のガス圧力で比較する必要がある。一般的にはガ ス温度が20℃の時のガス圧力に温度換算している。 (3)運用設備での評価 高経年のガス絶縁遮断器からガス漏れ傾向が見ら れない機器を選定し,本装置を取り付けて20℃換算 ガス圧力近似直線の傾きについて詳細な分析を実施し た結果, 20℃換算に用いる計測温度と実際のガス温度 にズレが生じている可能性があることが推測された。 このため,検証に用いたガス絶縁遮断器のガス圧 力20℃換算に用いる温度の最適な計測箇所を明ら 流通技術センター保全技術課 生田 利文 倉吉電力所 発変電課 永田 慎一 写真1 ガス絶縁遮断器 図2 ガス漏れの評価方法(イメージ) 写真2 ガス圧力計 図1 ガススローリーク監視装置の構成 定格ガス圧力 0.5MPa

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Page 1: 高経年ガス絶縁遮断器の 微量なガス漏れ評価について · ス圧力について分析した。 温度センサの取り付け位置については図3に,毎

Page 9エネルギア総研レビュー No.33

0.430

0.425

0.420

0.415

0.410

0.405

0.400

0.395

0.390

0.385

30.0

20.0

00.0

0.0

‒10.0

‒20.0

‒30.0

‒40.0

‒50.0

‒60.0

ガス圧力[MPa]

温度[℃]

6/296/9 7/19 9/17 10/7 10/27 11/16 12/6 12/268/8

ガス圧力 ガス温度

y=ー1E-08x+0.406ガス圧力(温度補正値)

測定日

20℃換算ガス圧力近似値

8/28

高経年ガス絶縁遮断器の微量なガス漏れ評価について

1 はじめに

 発変電所には,故障などのとき自動的に電気を遮断する遮断器が設置されている。当社においては,電圧が110kV以上の遮断器にはガス絶縁遮断器(写真1)を多く採用しており,今後,これらの多くは高経年となり更新時期を迎えることとなる。  設備の更新にあたっては,機器を構成している各部品の劣化状況の評価を行い,機器の寿命を把握した上で最適な時期に計画する必要がある。 高経年のガス絶縁遮断器の寿命を判断する要因の一つとして,ガス絶縁遮断器に封入されているガスが外部に漏れないようにするための部品(シール)の劣化がある。この劣化状況を把握するためにはガス圧力管理が必要となるが,ガス絶縁遮断器に通常取り付けられているガス圧力計(写真2)では,目盛り幅が大きいため微量のガス漏れによるガス圧力低下を把握することは困難である。 このため,高感度のガス圧力センサを用いた「ガススローリーク監視装置」が開発されており,本装置によるガス絶縁遮断器の微量なガス漏れ診断手法の構築に向け,実際に運用設備を使用して検証および評価を実施したので報告する。

2 研究概要

(1)装置概要 微量なガス漏れを評価するため,高感度のガス圧力センサを有するガススローリーク監視装置(図1)を用いた。 本装置の構成は,ガス圧力を計測する「ガス圧力センサ」,計測ガス圧力を20℃換算するための温度を測定する「温度センサ」および各計測データを処理・記録する「信号処理装置」である。この信号処理装置で記録したデータは,汎用パソコンでデータの取り込みが行える。

(2)評価方法 本装置により,日射の影響を受けない早朝データを毎日計測し,計測したデータを信号処理装置で20℃換算ガス圧力に演算処理する。そのデータを汎用パソコンに取り込み,20℃換算ガス圧力をグラフ化し,近似直線の傾きで微量なガス漏れを評価した。縦軸をガス圧力,横軸を日付とすると20℃換算のガス圧力が右肩下がりとなった場合,ガス漏れがあると評価できる。 評価方法のイメージを図2に示す。 なお,微量なガス漏れの定量的な評価レベル(目標)として,0.5%/年(定格ガス圧力0.5MPaの場合の圧力変化量0.0025MPa)としている。 密閉されたタンク内のガス圧力変化は温度により変化するため,ガス漏れの有無を評価するには,同一温度のガス圧力で比較する必要がある。一般的にはガス温度が20℃の時のガス圧力に温度換算している。

(3)運用設備での評価 高経年のガス絶縁遮断器からガス漏れ傾向が見られない機器を選定し,本装置を取り付けて20℃換算ガス圧力近似直線の傾きについて詳細な分析を実施した結果, 20℃換算に用いる計測温度と実際のガス温度にズレが生じている可能性があることが推測された。 このため,検証に用いたガス絶縁遮断器のガス圧力20℃換算に用いる温度の最適な計測箇所を明ら

流通技術センター保全技術課 生田 利文 倉吉電力所 発変電課 永田 慎一

写真1 ガス絶縁遮断器

図2 ガス漏れの評価方法(イメージ)

写真2 ガス圧力計

図1 ガススローリーク監視装置の構成

定格ガス圧力 0.5MPa

Page 2: 高経年ガス絶縁遮断器の 微量なガス漏れ評価について · ス圧力について分析した。 温度センサの取り付け位置については図3に,毎

0.520

0.510

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0.490

0.480

0.470

0.460

25

20

15

10

5

0

‒5

20℃換算圧力[MPa]

温度[℃]

20℃換算近似直線ガス圧力(20℃換算)ガス圧力(実測)タンク下表面温度

右肩下がり

2011/11/03 2011/11/08 2011/11/13 2011/11/18 2011/11/23 2011/11/28

図5 運用設備評価データ

Page 10 エネルギア総研レビュー No.33

0.53西側

20℃換算圧力[MPa]

上側 東側 下側 気温

0.52

0.51

0.504/7 4/12 4/17 4/22 4/27 5/2 5/7 5/12 5/17 5/22 5/27

下側温度センサにおける20℃換算値

(線路側)

気温

ガス圧力センサ

(母線側)上側

上側

温度センサ

下側

東側東側 西側

下側

(裏:西側)

(操作箱内)

高 経 年 ガ ス 絶 縁 遮 断 器 の 微 量 な ガ ス 漏 れ 評 価 に つ い て

かにするため,複数箇所に温度センサを取り付けて,各部位の温度を計測した。その計測値と,同時刻に計測したガス圧力を用いて,それぞれの20℃換算ガス圧力について分析した。 温度センサの取り付け位置については図3に,毎日早朝の各計測データによる20℃換算ガス圧力の評価結果を図4に示す。

 この結果から,本体タンクの表面温度(上側,東側,西側)・気温により20℃換算したガス圧力はバラツキが大きいため,本体タンクの表面温度(上側,東側,西側)と気温は,タンク内のガス温度とは近似しておらず,大気の影響を受けやすいと推測される。 一方,操作箱内の本体タンク表面温度(下側)による20℃換算ガス圧力は非常に安定しており,他の計測箇所に比べて大気の影響は軽微であることから,タンク内のガス温度に近いことが推測される。 したがって,タンク下側の表面温度の値を用いることで,微量なガス漏れの評価を行うことができる。

3 研究成果

 定期巡視にてガス漏れが懸念されていた同型のガス絶縁遮断器において,本装置を用い,20℃換算用の温度センサを操作箱内のタンク下側に取り付け

て,ガス圧力の状況を確認した。毎日早朝のデータで分析した結果を図5に示す。 取得データにより分析した結果,この期間の20℃換算ガス圧力近似直線は右肩下がりであり,また,同ガス絶縁遮断器を停止して実施した詳細な調査からも,ごくわずかなガス漏れが確認されたことから,本評価手法の有効性を確認できた。

4 あとがき

 高経年ガス絶縁遮断器の寿命を判断する要因の一つである微量なガス漏れ管理に対し,「ガススローリーク監視装置」を用いた実際の運用設備での検証を行うことで,定量的で有効な診断方法を見出せた。 今後は本評価手法により,高経年ガス絶縁遮断器のガスリーク管理,ガスシール部の定量的な劣化評価による効率的な設備更新計画へ適用する予定である。

[参考文献](1)西田他:「GIS/GCBのCBM化を推進する高機能セン

サの開発」平成13年電気学会B部門誌, 121巻第9号,p1193-1198

(2)永田他:「高経年ガス遮断器の劣化診断へのスローリーク監視の適用性に関するフィールド評価」平成24年電気学会全国大会,No. 6-315

(3)永田他:「高経年ガス遮断器の劣化診断へのスローリーク監視の適用性に関するフィールド評価結果(その2)」平成25年電気学会全国大会,No. 6-221

(4)電気評論 2013年1月号 (中国電力-Ⅴ.変電部門)(5)電気評論 2013年7月号 (一般論文「高経年ガス絶縁遮

断器の劣化診断へのスローリーク監視の適用性に関するフィールドでの評価」

図3 温度センサの配置

図4 各温度センサでの20℃換算圧力の評価

研究レポート