低融点lcpと他樹脂とのアロイ材料 「tecros®」の特徴...2018/10/01 · oct. 2018 49...
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Oct. 2018 47
は じ め に
代表的なスーパーエンジニアリング・プラスチックの一つである液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer;以下,LCPと略)は,リフローはんだ等に耐える耐熱性,精密部品に適した寸法安定性を有することに加えて,成形性,特に流動性に優れ,実質的にバリが出ないことで,電気・電子分野や情報通信分野を中心に大きく伸長してきた.しかし,最終製品である情報機器の小型化,高性能化に伴い,構成部品となるコネクタ,スイッチ等の軽薄短小化が進み,部材であるLCPに要求される性能も年々高まっている一方,部品の小型化に伴い,材料としてのLCP使用量が減少し,市場が縮小することが懸念されている.このようなトレンドのなかで,LCP市場を拡大するには新たな用途開拓が必須となっている.当社はLCPの主原料であるp-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ -2-ナフトエ酸の世界的メーカーであることの優位性を活かし,モノマー構成成分を工夫することによって新しい機能をLCPに付与するとともに,新規用途開拓に注力している.
本稿では,低融点LCPの開発とその用途展開に焦点を当てて紹介する.
1.TECROS®(テクロス)とは
LCPには様々な特性があるが,活かされていない特性の代表的なものとして,ガスバリア性がある(図1)1).LCPは酸素ガスバリア性,水蒸気バリア性がともに高く,熱可塑性樹脂ではトップクラスの性能を有する.しかしながら,LCPはフィルムや容器への加工が難しく,また,他樹脂との接着性に乏しいため,ガスバリア性を活かした用途に展開することが難しかった.また,ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE),ポリエチレンテレフタレート(PET)等の他樹脂とLCPとの組合せ(ブレンドや積層)についても,LCPの加工温度が高いために他樹脂が分解してしまうことが障害となっていた.当社では,モノマー構成成分の工夫により,全芳香族であり
ながら低融点(約220℃)を有するLCP,A-8100(ニートレジン)を開発した(図2).A-8100はこれまでのLCPにない低温加工性を持ちつつも,全芳香族LCPに特徴的な高ガスバリア性,高強度,高弾性率,低線膨張係数といった性能を保持している.また,当社では融点が約280℃とやや低めの全芳香族LCP,A-5000(ニートレジン)も保有している.これらの融点の違いを利用すると,他樹脂との組合せの際に,加工面で相性の良い
*Shinobu Ishizu**Masahiro Kihara 上野製薬㈱ LCP事業部 技術開発部 Tel. 079-568-7205 Fax. 079-568-7217
特 集特 集 成形材料の高機能化と市場展開
低融点 LCP と他樹脂とのアロイ材料「TECROS®」の特徴
石 津 忍* 木 原 正 博**
0.1
1
LCP
EVOH MXD6PA6
PAN
PVDC
PCTFE
PET
OPP
HDPE
酸素透過係数(cm3・25μm/m2・24hr・atm)
水蒸気透過係数(
g・25μ
m/m
2 ・24
hr・a
tm) 1,000
0.1 10 100
1
1,000
10
100
図1 LCPのガスバリア性1)
低融点LCP・A-8100(融点220℃)
-60℃の低融点化を実現
一般グレード
図2 全芳香族LCPの融点と当社開発低融点LCP A-8100の融点
220 240 260 280 300 320 340 (℃)200
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48 プラスチックスエージ
図3 TECROS®ロゴ
PシリーズPP/LCP複合材
EシリーズPE/LCP複合材
TシリーズPET/LCP複合材
図4 TECROS®製品ラインナップ
10.0
0 10
12.8
12.9
15.5
19.4
26.8
24.6
14.416.8
ホモPPブロックPP
LCP比率(%)
MV
R(
cm3 /1
0min)
30.0
20 30 50
20.0
40
図5 TECROS® PシリーズのMVR(Melt Volume Rate) (@230℃)
2.0
0 10
1.4
1.1
1.9
2.7
5.5
5.2
1.5
2.2ホモPPブロックPP
LCP添加率(%)
弾性率(
GPa)
6.0
20 30 50
4.0
40
図6 TECROS® Pシリーズの曲げ弾性率
10
20
0LCP添加率(%)
酸素ガス透過度(
cm3 /m
2 ・24
hr・a
tm) 50
5 10 20
ホモPPブロックPP
30
40
15
図7 TECROS® Pシリーズの酸素ガス透過度
32
16
7
43
24
10
10.0
0 500試験時間(hr)
・試験条件 スーパーキセノンウェザーメーター(SX2D-75 スガ試験機㈱製) 放射照度180mW/cm2,ブラックパネル温度63±1℃, 120分照射中18分間噴霧サイクル,最大2,500時間・試 料 ① LCP A-8100を10%添加したPP ② 紫外線吸収剤を0.2%添加したPP
曲げ強度(
MPa)
50.0
1,000 1,500 2,500
20.0
2,000
改善30.0
40.040.0
34.9
42.6
21.5
40.6
16.8
42.4
15.3
41.6
15.0
改善
PP/LCP PP+UV吸収材
0 500試験時間(hr)
アイゾット衝撃強度(
kJ/m
2 )
4.0
1,000 1,500 2,5002,000
2.0
1.0
3.0 2.9
2.6
2.5
1.1
2.5
0.7
2.4
0.6
2.2
0.8
図8 TECROS® Pシリーズの耐候強度
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Oct. 2018 49
LCPを選択することができる.低温加工性を実現したUENO LCPと他樹脂をアロイ化した高機能ポリマーについて近年開発検討を進めていたが,2017年の国際プラスチックフェアにて,この高機能ポリマーを「TECROS®(テクロス)」(以下®を省略)の商標名で初公開した(図3).現在,TECORSはPPとLCPの複合材であるPシリーズ,PEとLCPの複合材であるEシリーズ,PETとLCPの複合材であるTシリーズを上市している(図4).以下,これらの材料について紹介する.
2.Pシリーズ
PPはコンテナボックスやポリバケツ,自動車用内外装部品に多く使用されているポリマーである.
TECROS Pシリーズは低融点化したUENO LCPとPPとの複合材料であり,ホモPPとブロックPPの2種類をベースとした材料を展開している.LCPの添加により,PPの流動性や弾性率,耐熱性,ガスバリア性が向上する(図5,図6,図7).また,LCPは紫外線や雨に曝された後の強度である耐候強度が保持されることから,PPにLCPをブレンドすることによっても,耐候強度の保持を確認している(図8).用途としては耐候強度を活かした自動車部品や土木製品,ガスバリア性を
活かした包装材料などを想定している.
3.Eシリーズ
PEはレジ袋や包装フィルム,ペットボトルのキャップに多く使用されているポリマーである.
TECROS EシリーズはUENO LCPとPEとの複合材料であり,HDPEとLLDPEの2種類をベースとした材料を展開している.また,HDPEは粘度の異なる2種類をベースにした複合材料を準備している.PEにLCPを添加す
ることによって,機械強度や耐熱性,ガスバリア性が向上する(図9,図10).また,LCPは制振特性にも優れており,スピーカーやイヤホンの振動板用途として活かされているが,この特性は,LCPをブレンド成分として用いた場合でもまた発揮される.PEにLCPを添加することで,PEの損失係数が改善され,制振特性が向上する(図11).用途としてはガスバリア性を活かした包装材料や,制振性を活かした制振材料などを想定している.
5
0 10LCP添加率(%)
※モコン法 (JIS K7129-B) 20℃,65%RH,1.5mmt
酸素ガス透過度(
cm3 /m
2 ・24
hr・a
tm) 25 24
21
15
7.3
20 30 50
10
40
15
20
図9 TECROS® Eシリーズの酸素ガス透過度 (HDPEを使用)
0 10LCP添加率(%)(0.46MPa)
DTU
L(℃)
150
7284
107132
20 30 50
50
40
100
図10 TECROS® Eシリーズの荷重たわみ温度 (DTUL)(HDPEを使用) 図11 TECROS® Eシリーズの制振特性
・試験条件 0.8mm厚みの短冊状試験片を,片持ち梁法で測定. (制振性が優れるほど速やかに収束).・試料 ① HDPE ② A-8100を30%添加したHDPE
① HDPE
543210-1-2-3-4-5
② HDPE/A-8100
変位(
mm)
543210-1-2-3-4-5
変位(
mm)
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50 プラスチックスエージ
4.Tシリーズ
PETは,ペットボトルやフルーツのパック,繊維などに使用されているポリマーである.
TECROS TシリーズはUENO LCPとPETとの複合材料であり,PETはホモ
PET,共重合PET,低融点PETを使用した3グレードの材料を展開している.PETの特徴に合わせ,ホモPET,共重合PETとのアロイにはUENO LCP A-5000(融点280℃)を,低融点PETには低融点UENO LCP A-8100(融点220℃)を使用している.LCPとのア
ロイによって,機械強度や耐熱性,ガスバリア性が向上し,耐薬品性の向上も見られている(図12,図13,図14).
5.TECROSの分散状態について
TECROSはUENO LCPと他材料の複合材であり,基本的に他材料が海,LCPが島の海島構造となっている.例として,Tダイで押出した100μm厚みのフィルムの断面観察結果を図15に示す.いずれのシリーズにおいても,LCPが島として繊維状に分散している様子が確認できる.スキン層ではせん断の影響もあり長繊維状に分散するが,コ
0 10LCP添加率(%)
(0.46MPa)
DTU
L(℃)
200
54
72
61
7888
70
132
共重合PET低融点PET
194
20 30 50
50
40
100
150
図12 TECROS® TシリーズのDTUL
0.2
0LCP添加率(%)
酸素ガス透過度(
cm3 /m
2 ・24
hr・a
tm) 1.4
5
共重合PET低融点PETホモPET
10 20
0.4
15
0.6
0.8
1
1.2
図13 TECROS® Tシリーズの酸素ガス透過度
0.72 0.7
0.47
1.2
0.93
0.57
1.2
0.84
0.2
0LCP添加率(%)
水蒸気透過度(
g/(m
2 ・da
y))
1.2
5
共重合PET低融点PETホモPET
10 20
0.4
15
0.6
0.8
1
図14 TECROS® Tシリーズの水蒸気透過度
0.76
0.470.42
1.07
0.8
0.56
0.88
0.69
倍率:×2,000 20μm
スキン層
Pシリーズ(PP/LCP複合材)
Eシリーズ(PE/LCP複合材)
Tシリーズ(PET/LCP複合材)
コア層
図15 TECROS® 各シリーズLCP20%添加品のSEM画像(100μm厚みフィルム)
100μmのフィルムを凍結裁断し,断面をTD方向から観察
MD方向
裁断箇所
観察方向
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ア層ではせん断がやや緩和され,短繊維状に分散する傾向となっている.このように,TECROSは有機繊維
(LCP)で強化されたようなモルフォロジーを形成するため,これが機械強度や耐熱性を効果的に改善する要因であると考えられる.また,Tシリーズ(PET/LCP複合材)は,Pシリーズ(PP/LCP複合材)やEシリーズ(PE/LCP複合材)と比較してLCPが微分散している様子が確認できる.これは,LCPが全芳香族ポリエステルであり,PETが半芳香族ポリエステルであるため,PPやPEといっ
たポリオレフィンよりも分子構造が似ていることに起因すると考えられる.
お わ り に
LCPとアロイ化することでガスバリア性や機械物性が向上するメリットがある一方,PPやPE,PETの特徴である安価なことや透明性が損なわれるといったデメリットもある.しかしながら,LCP単独ではフィルム製膜やブロー成形が困難であるが,他樹脂とブレンドすることで可能になり,用途範囲が拡げられることが分か
ってきた.不透明となる点は現時点では避けられないが,コストアップを抑えながら,より効果的にメリットを引き出せるような材料検討を進めており,ユーザーにも各種評価を実施していただいている.引き続き改良や市場のニーズにあった材料開発を進め,TECROS及びUENO LCPの用途開拓に努める所存である.
参 考 文 献
1)井上俊英ほか,液晶便覧,p.524(丸善,2000).