赤外線(ir)吸収スペクトル法kohka.ch.t.kanazawa-u.ac.jp/lab7/img/kougi/zemi/2005_zemi/okagawa_ir7.pdf ·...

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赤外線(IR)吸収スペクトル法 測定方法について M2 岡川 真明

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赤外線(IR)吸収スペクトル法

測定方法について

M2  岡川 真明

あらすじ

  前回は赤外線吸収スペクトルの概念及びFT-IRの原理について学んだ。

  今回はスペクトルをとるための測定方法と、その選び方、利点などを紹介をする。

測定方法

 一般的にはどのような状態(固体・液体・気体)のものでも赤外吸収スペクトルを測定することができ、測定方法には以下の種類がある。

1) 透過法(臭化カリウム錠剤法・溶液法など)

2) 拡散反射法

3) 全反射法(Attenuated Total Reflection:ATR)

4) 顕微赤外法

研究室でできる測定方法

固体、液体ATR測定器ATR法

固体

固体

液体

液体

錠剤成型器及びホルダー

組立セル

組立セル

固定セル

KBr法

ヌジョ-ル法

液膜法

溶液法

試料使用器具測定方法

透過法

全反射法

KBr法 操作 固体粉末や結晶の試料とKBrを均等に混合し、

プレスして透明な円盤を作って測定する方法。

操作

試料(1~2mg)を粉砕し、KBr(200mg)を加えすりつぶす。これをプレスし、 ホルダーに入れ測定する。

注意事項

KBrは湿気に弱いのでデシケーターで保管する。

水のピークを含むことがある。

再現性のあるすり方をする必要がある。

KBr法 特徴 ハロゲン化アルカリに圧力をかけると可塑性を示し、赤外領域で透明な板になる性質を利用。

赤外透過材質

ほとんど用いられない

湿気に弱い

NaClより湿気に弱い

やわらかい、有毒性

> 2500 cm-1

> 600 cm-1

> 350 cm-1

> 230 cm-1

溶融石英

NaClKBr

臭化ヨウ化タリウム

使用上の注意使用可能領域材質

0.5cm厚の板をセルとして使用

KBr法で測定できない物質

硫酸銅のようにKBrと反応し、臭素が発生する物質。

白糖のように吸湿性があり、大気中の水分を吸収する物質。    

酢酸ナトリウムのようなカルボン酸塩による物質。

水酸基などが水和してピークがなまるなど著しくスペクトルが変化。

KBrとの相互作用によりスペクトルが著しく変化。

ヌジョール法を用いて測定する。

ヌジョ-ル法 操作 

固体粉末あるいは結晶を流動パラフィンと練り混ぜてペースト状にして測定する方法。

操作

試料(5~10mg)をすりつぶし、流動パラフィンを1,2滴加え、よく練り、ペー

スト状にする。

組立セル

これを組立セルの窓板に塗り、測定する。

ヌジョ-ル法 特徴

流動パラフィン

ヘキサクロロブタジエン

ニ種類の分散剤を用いることで試料のスペクトルを全て知ることができる。

これまでKBr法で測定したスペクトルは、KBrと相互作用し

ているスペクトルかも知れないので、一度ヌジョール法でも測定して確認すると良い。

液膜法 操作

揮発性が低い一般の液体試料(沸点80℃以上)

または濃厚溶液を測定する方法。

組立セル

操作

二枚の窓板の間に試料1~2滴を

はさんで薄い液膜としてそのまま測定する。

注意事項

膜の厚みが変わると再現性がなくなる。

強く締めすぎると窓板を破損してしまう。

洗浄はCHCl3,CH3COCH3などを含ませた脱脂綿等で拭きとる。

液膜法 特徴

他の介在物質なく試料の吸収のみを測定することができる。

0.150.050.030.01

脂肪族炭化水素

芳香族炭化水素

含O,N化合物

含Si,F化合物

必要な膜の厚さ(mm)液体試料

スペーサー

試料が広がることを防ぎ、膜に厚みを持たせることができる。

溶液法 操作

高揮発性(沸点約80℃以下)の液体、または固体の

試料を溶媒に溶かして測定する方法。

操作

固定セルの注入口から試料を注射器で窓板間に注入して測定する。

注意事項

測定終了後の洗浄が難しい。

ほとんどの試料容器の窓板を溶かすため、溶媒として水の使用ができない。

溶液法 特徴

溶液濃度及び溶液量を調整しやすく、再現性が高い。定量分析が可能。

組立てセル及び固定セルの用途

名称 目的 定量分析

組立てセル ・不揮発性液体(沸点が高く,粘度の高い油など) ・ヌジョール法による固体の定性分析 ・厚さはスペーサやしめ方で変わる

×

固定セル ・揮発性液体(クロロホルムなど) ・溶液中の成分の測定 ・厚さは固定されている

溶液法 溶媒について

試料をよく溶解すること

非極性で試料と水素結合などを形成しないこと

溶媒の吸収が試料の吸収と重ならないこと

高波数部の測定

低波数部の測定

各種IR溶媒とそれらの吸収位置

ATR法 原理について

ATR (Attenuated Total Reflection) とは、試料を屈折率が

高い媒質に密着させ、赤外光を入射し媒質で反射した赤外スペクトルを測定する方法。

高屈折率媒質

λ : 波長 θ : 入射角 n1 : プリズムの屈折率 n2 : 試料の屈折率

dpは、もぐり込み深さを示し、ここで

赤外光の一部が吸収される。

反射光の強度は、波長に依存する。

ATR法 一回反射ATRモジュール 

ダイヤモンドATR結晶で全反射が一回のみでIRスペクトルを測定

ATR法 一回反射の特徴

試料に化学的・物理的処理を加えることなく測定できる。

耐久性の高いダイヤモンドを使用しているので試料の分析に長期間使用できる

測定した試料の回収ができる。

固体・液体の両方を測定できる。

揮発性の液体試料を測定する場合は次の水平ATRセルを使うと良い。

ATR法 水平ATRセル媒質に試料をのせ、赤外光を多重反射させ測定する方法。

反射アクセサリ

操作

液体試料をセルに入れ測定する。

注意事項

試料濃度及び量を一定にする。

赤外光の一部が上に出てくるので目に入らないようにする。

媒質:ZnSe (セレン化亜鉛)

試料の形態と測定方法

固体

液体

気体

KBr法・ヌジョール法

液膜法・溶液法

気体セル法

気体セル

スペクトルの判定

良いスペクトルと悪いスペクトルの例

拡散反射法

 拡散反射法は粉体試料をそのままあるいはKBrの

粉末に混ぜるだけで手軽に測定でき、粉体や粗面を持つ試料(紙,ガラス,繊維など)の分析や粉体に吸着した物質の確認などに用いられる。  拡散反射とは図2に示すように入射した光が粉末の

表面で反射および屈折し、あらゆる方向に光が拡散する現象をいう。

 拡散反射現象のモデル図

顕微赤外法

 赤外顕微法は微小試料・局所分析(フィルム中の異物、層状フィルムの各層など)に用いる。 また粉末結晶で化学的,物理的処理を加えることなく測定したい場合などにも用いることができる。

試料温度可変顕微赤外法

 試料温度可変赤外顕微法は試料加熱ステージを用い試料を昇温または降温(室温~375℃)させ物質

の温度変化に伴う物理的・化学的変化をスペクトルを追跡する方法である。 微量試料で測定できKBr などのマトリクスを必要と

しないため、試料からの純粋な情報が得られるというメリットがある。