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小中一貫校で取り組むICTの活用 熊本県産山村立産山小中学校 産山村は南に阿蘇五岳、北 に久住連山を望む阿蘇一番の 自然豊かな奥の里です。 草原は四季折々にその美し い姿を見せ、中でも爽やかな 夏に咲く瑠璃色の「ヒゴタ イ」は村花にもなっています。 深閑とした森には環境省名 水百選に選ばれた「池山水 源」を始め「山吹水源」など の名水として知られる水源が あり、地の果てから湧くその 豊かな清水はすべての生命の 源となっています。 産山村のICT教育について 産山村 工藤 圭一郎 教育長 ~産山で教育を受けてよかったと実感できる教育の創造~ 「未来の学校」創造プロジェクトでの成果 子どもたちの「生きる力の育成」へ 本村では平成22年から電子黒板等の機器を導入し、順次子どもたち1人1台 のタブレットを導入してきました。その流れから、県の「未来の学校」創造プロ ジェクトに参加し、多方面からの指導助言等をもらうことにより、効果的なICTの 活用を探りたいと考えました。 これまでの成果として、全国学力調査において、「活用」の問題(B問題)で得点 が上がりました。これはICTの活用を計画的かつ、活用の意図を明確にさせた上で 行ってきたためと考えています。 また、実証研究を進める中で教員のモチベーションも変わってきました。 ICTを使うことでこれまでの授業を見直すきっかけになり、授業の質も高まっています。 この実証研究から、教員が自分の授業に手ごたえを感じられるようになり、子どもたちにも還元されて いると感じています。 ICTは導入することが目的ではなく、あくまで本村の教育目標 である「産山で教育を受けてよかったと実感できる教育の創造」 の具現化と、子どもたちの夢の実現に向けた基礎作りとなる 「生きる力」をつけるためのものです。(右図参照) 今後もICTありきではなく、これまで培われてきた板書やノー ト活用等の教育技術の質をより高め、アナログとデジタルをうま く併用した授業を実現し、最終的に子どもたちの生きる力の育成 につながって欲しいと願っています。 デジタルとアナログ のバランスのとれた授業 教員の指導力の向上 授業改善 子どもたちの「生きる力」の育成 産山村のご紹介

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Page 1: 小中一貫校で取り組むICTの活用 - ubuyama-v.jp´»用事例LINES.pdf · 学習が可能です。単元のまとめや理解 度の確認に効果的です。 手書きで漢字・計算・理科・社会

小中一貫校で取り組むICTの活用

熊本県産山村立産山小中学校

産山村は南に阿蘇五岳、北

に久住連山を望む阿蘇一番の

自然豊かな奥の里です。

草原は四季折々にその美し

い姿を見せ、中でも爽やかな

夏に咲く瑠璃色の「ヒゴタ

イ」は村花にもなっています。

深閑とした森には環境省名

水百選に選ばれた「池山水

源」を始め「山吹水源」など

の名水として知られる水源が

あり、地の果てから湧くその

豊かな清水はすべての生命の

源となっています。

産山村のICT教育について

産山村 工藤 圭一郎 教育長

~産山で教育を受けてよかったと実感できる教育の創造~

「未来の学校」創造プロジェクトでの成果

子どもたちの「生きる力の育成」へ

本村では平成22年から電子黒板等の機器を導入し、順次子どもたち1人1台

のタブレットを導入してきました。その流れから、県の「未来の学校」創造プロ

ジェクトに参加し、多方面からの指導助言等をもらうことにより、効果的なICTの

活用を探りたいと考えました。

これまでの成果として、全国学力調査において、「活用」の問題(B問題)で得点

が上がりました。これはICTの活用を計画的かつ、活用の意図を明確にさせた上で

行ってきたためと考えています。

また、実証研究を進める中で教員のモチベーションも変わってきました。

ICTを使うことでこれまでの授業を見直すきっかけになり、授業の質も高まっています。

この実証研究から、教員が自分の授業に手ごたえを感じられるようになり、子どもたちにも還元されて

いると感じています。

ICTは導入することが目的ではなく、あくまで本村の教育目標

である「産山で教育を受けてよかったと実感できる教育の創造」

の具現化と、子どもたちの夢の実現に向けた基礎作りとなる

「生きる力」をつけるためのものです。(右図参照)

今後もICTありきではなく、これまで培われてきた板書やノー

ト活用等の教育技術の質をより高め、アナログとデジタルをうま

く併用した授業を実現し、最終的に子どもたちの生きる力の育成

につながって欲しいと願っています。

デジタルとアナログ のバランスのとれた授業

教員の指導力の向上

授業改善

子どもたちの「生きる力」の育成

産山村のご紹介

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産山小中学校では、現在各教室に電子黒板と実物投影機が1台ずつ、また子どもたち1人1台使用

可能なタブレットPCが整備されており、先生方は子どもたちの基礎学力の定着のために効果的な活用

とは何か、日々研究を進めています。

「挑戦しながら進めていきたい!」 との思いで実践されている中学校の伊佐 健一教諭(小中合同

の研修担当サブチーフ)の7年生(中学校1年生)技術科授業の様子をご紹介します。

授業での I C T利活用の様子

授 業 の 流 れ

教科・単元 : 【技術】 製作の作業手順を考えて製作しよう ~木材の切断~ ※3時間目

前時のふりかえりと課題の把握 「両刃のこぎりの切断ポイントを心がけ、正確に切断しよう」

【課題把握】

【やってみる】 両刃のこぎりで練習材を切断し、切断面を観察してみる

【まなび合う】

切断後の練習材を観察した気づきを発表する

生徒の良い例を動画で撮影し電子黒板に投影する

教師の実演を見る

タブレットで撮影する

ペアでアドバイスを受けながら練習材を切断する

タブレットで撮影する

【がく習を高める】

友達の切り方の良い所を探す

生徒の良い例を動画で撮影し電子黒板に投影する

後片付けを行う

技術科でのICT活用 今回の授業では、導入で知識の定着・確認のために電子黒板

で自作の教材を投影し、前時のふりかえりを行いました。前時

に習った内容を画面で次々と提示していくことで、授業をテン

ポよく進めることができ、時間短縮にも繋がっています。

その後、ノコギリの使用方法を理解するためにタブレットPC

で切断時のフォームを撮影し、その動きを電子黒板に投影して

3次元的に正確に切断する動きを確認しました。単に正しい工

具の使い方を習得するだけでなく、クラス全体で共有し、友達

と教え合うことで、言語活動にも繋がります。

さらに、タブレットPCで先生の模範となるノコギリびき実習

を撮影し、自分のフォームと比べて確認しながらペアで気づき

を出し合いました。実践と確認を繰り返し、技能の上達を実感

しながら学びを高めていきます。

授業者:伊佐 健一 先生

前時に学習した内容を電子黒板上で提示する 写真1

ベースはやはりアナログです。ICT機器については、失敗した

り他の先生から意見をもらったりしながら「どこで・どのよう

に・何を使うのか」を意識し、 ICTを使ったほうが効果がある

と感じたときだけ取り入れるようにしています。

今回の授業では、このタイミングでこれを見せたい!というと

きにICTを使い、逆にゆっくり丁寧に説明して子どもたちの記憶

に残し、必ず覚えてもらいたい!ときはアナログを使っています。

目的に応じてICT機器とアナログを使い分けることで、効果的

な授業ができます。

写真1 写真2

写真2

ポイントはアナログとの併用

写真3

写真3

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チ ャ レ ン ジ 学 習

担当者:古川 忠司 先生

手書きドリルは、子どもたちの喜びに直結

反復学習で個に応じた学習が実現

小中合同で取り組むICT利活用の推進と効果

小学生はデジタルドリルシステムを使って検定に向けた漢字と計算の学

習を行っています。また手書きドリルは「はね、筆順」等も判別されるの

で、丁寧にしっかり書く習慣が身に付いてきました。

書いたものをすぐ評価・判定してくれるのは子どもの喜びに直結し、や

る気につながります。手書きドリルは子どもたちの学習意欲を高め、基礎

基本をしっかり身に付けていくことができます。

6年生~9年生はeライブラリで学習しています。単元は指定せず子どもた

ちが自分のペースで、自分に必要な教材を選択しています。

eライブラリは、基礎的な学力を定着させることはもちろん、苦手な内容を

繰り返したり、難易度別の問題から自分に適したものを選んでチャレンジし

たりと、子どもたち一人一人に合わせた学習が実現できます。

個人の学習履歴や学習時間も残るため、先生方も子どもたちの学習状況を

確認し、次からの指導に繋げています。

校内でICTの活用を進めていくにあたり、ミニ研修や授業研究を小中合同で定期的に行い、先生方の温度差

やスキルを埋め合い、全体を高め合ってきました。

ICTの研究は今年で6年目になりますが、先生方のICTに対する拒否反応がなくなってきたと感じています。

その理由には、子どもたちがICT機器を使うようになり、先生も使わなければならない状態になっているから

だと思います。子どもたちと先生との相乗効果で、校内でのICT活用が広がっていったのです。

また、導入された当初はICT機器を使うことに注力してきましたが、次第に「タブレットだけでなく、ノー

トを使って目当てやまとめは残したほうがいい」「黒板の使い方を改めない

といけない」と、ICTを使うことで、これまでのアナログの部分を見直すよ

うになりました。

~産山中学校 伊佐 健一 教諭・産山小学校 古川 忠司 教諭のお話~

ICTは基礎的な学力の補充には非常に長けているのは明らかです。しか

し一方で、本校の研究である思考力・判断力・表現力を伸ばすという研究

の中で「この使い方が有効だ」という答えをまだ見つけられていないので、

今後も研究を続け、より効果的な使い方を模索していきたいと思います。

特色のある教育課程の1つである「チャレンジ学習」では、3年生から9年生が、プリントの問題集の

ほかにタブレットPCのドリルソフト(デジタルドリルシステム・eライブラリアドバンス)を利用し、基礎

基本の定着を目的とした学習に取り組んでいます。

チャレンジ学習では子どもたちが自分で目標を設定し、子どもたち一人一人に応じた個別学習を充実さ

せ、発展的な学習をサポートしています。

チャレンジ学習の様子を小学校担当の古川 忠司教諭に伺いました。

中:伊佐 健一 教諭 小:古川 忠司 教諭

3~5年生利用ソフト 6~9年生利用ソフト 小学館デジタルドリルシステム ラインズeライブラリアドバンス

小1~中3までの5教科約60,000問の難易度別ドリル問題を収録。ヒントや解説教材を確認しながら、繰り返し学習が可能です。単元のまとめや理解度の確認に効果的です。

手書きで漢字・計算・理科・社会の学習ができるタブレット専用ドリルです。ペンで書いたものをすぐに自動採点できる、デジタルとアナログの良さが融合した学習ツールです。

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●規模:児童生徒数 113名/教員数 30名/全11学級(特別支援学級含) ●導入機器:タブレットPC 120台/電子黒板 各教室他特別教室 ●研究課題:「小中一貫教育における、思考力・判断力・表現力を高める指導の工夫」

校長先生のお話 ~産山小中学校が目指すもの~

教員だけでなく、子どもたちも見極めている

産山小中学校では、小中共通の教育目標を【産山に誇りを持ち、夢の実現に向け 、可能性を広げ・伸ばす子どもの育成】とし、行動指標を 『チャンス チャレンジ チェンジ コミュニティ』と掲げています。今年度から教育目標だけでなく、行動指標も小中一緒になり、1年生~9年生までを1つのサイクルとして子どもたちの成長を見守っています。

小学校の筑紫 聖文校長先生と中学校の有住 尚之校長先生の両校長先生に産山小中学校の目指す姿についてお話を伺いました。

産山で学んだことを誇りにしてほしい

「チャンスにチャレンジ」を続ける

ICTの導入当初から学力向上につながる活用をと考え、授業の本質やねらいを達成するためのツールと

位置づけてきました。そして今年度は「学びあう」という場面に力を入れ、お互いの考えを見える化し、

効果的に伝えるといった使い方を目標としてきました。

ICT機器が充実した産山の環境の中で、教員も「ICTを使う」という共通の目標で研修を進めています。

教員にとって産山は勉強ができる環境なので、「産山だったらICT活用もできる」ということを意識させ

て、ここで勉強したことを他で広げられるようになってほしいと思っています。

本校では「ヒゴタイ交流」というタイとの交流授業、英語教育、ICT教育などを行っており、子どもた

ちは多くのチャンスにチャレンジできます。そして教員もそのチャンスを、どう子どもたちの成長に活

かすのかを意識しています。

中:有住 尚之校長 小:筑紫 聖文校長

熊本県産山村立産山小中学校

子どもたちが将来「産山で教育を受けてよかった。ここで学んだことが役

に立った」と言ってくれる、それが私たち教員としての夢です。

そこに小中は関係ありません。小中の教員が皆で同じ目標を持ち、同じ方

向に向かいながら、子どもたちとともにに取り組んでいきたいと思います。

この環境はチャンスです。我々教員がICTを積極的に活用することで、子どもたち

の情報の取捨選択能力、さらにモラルやコミュニケーション能力の向上に繋がってほ

しいと思います。

職員にも子どもたちにも、産山で学んだことを自分自身の誇りにし、社会で活躍し

てほしいと願っています。

このような研究を進めていく中で、子どもたちにICTについてのアンケートを取っ

たところ、小学生は「使えて楽しい!」という意見が多い中、中学生になると「楽

しい」だけでなく、「毎回使う必要があるのか?」「授業で必要なときにだけ使え

ばよい」という意見が出てきました。子どもたちもICTを使うメリットとデメリット

の両方を理解してきたのだと思います。

子どもたち一人一人がICTについて考え、選択ができるようになればよいと考えて

います。

ALTによる小学校英会話授業の様子