重症心身障害児との コミュニケージ…1ンに関する...

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平成23年度 学位論文 重症心身障害児との コミュニケージ…1ンに関する研究 一表出の邊解と促進について一 兵庫教育.大学大学院 特別支援教育学専攻 M1 0 0 8 7C 学校教育専攻科 心身障害コース 藤田

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平成23年度 学位論文

   重症心身障害児とのコミュニケージ…1ンに関する研究

一表出の邊解と促進について一

兵庫教育.大学大学院

特別支援教育学専攻

  M1 0 0 8 7C

学校教育専攻科

心身障害コース

藤田 圭

目次

第1章 問題と目的

 第1節 問題の所在

 第2節 先行研究・

 第3節 本研究の目的

・1

・2

・5

第2章 予備研究1『表出をとらえるための指棲づくり」

 第1節 行動観察によるカテゴリー項目の検討 …

 第2節 第三者による試作版の試用・・・・・…

・6

13

第3章 予備研究2r心拍変動’の有効性の検討」

 第1節 目的…  1・…  1・…  1

 第2節 方法・1…  1・…  1…

 第3節 結果と考察1・…  .・1…  1

18

18

19

第4章

 第1節

 第2節

 第3節

 第4節

 第5節

研究1 『場面の違いによる表出の特徴」

目的 ・11・

方法 11・・

結果と考察I

結果と考察皿

総合考察・1

・22

・22

■23

・49

・51

第5章 研究2rはたらきかけの違いによる表出の特徴」

第1節 目的・・1一・・

第2節 方法・…  一・

第3節 結果と考察・・1

第4節 総合考察・…

■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■

■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■    ■

 ■    ■    ■    ●    ■    ■    1    ■    ■    ■    ■

 ●    ■    ■    ■    ■    ■    ●    ■    ■    ■    ■

・58

・58

・59

■78

第6章 全体考察

 第1節研究の概要 第2節 全体考察 ・

 第3節 今後の課題

■80

・81

・89

文献

資料

謝辞

第1章

問題と目的

第1節 問題の所在

 現在、全国の特別支援学校において、児童生徒の障害は重度・重複化、多様

化の傾向にあり(根市ら2000)、重症心身障害児(以下、重症児とする。重度重

複障害児とほぼ同義とする)が、通学や訪問形態で在籍する学校も少なくない

と思われる。今日、重症児の療育にかかる実践研究は、学校や福祉施設等で大

きく取り上げられ、様々な取り組みが報告されている(細渕2003)。申でも、重

症児の自立やQOL(Qua1ity of1ife)の向上の観点から、コミュニケーショ

ンを促進する活動を中心に取り組まれてきた(高木ら1998、元田ら2002、郷間・

伊丹2005)。

 コミュニケーションとはr入間が意思や感情などを伝え合うこと」(文科省

2009)である。さらにそれは、ことばだけでなく視線や表情、身振りなども含

めて成り立っている。平成21年度の学習指導要領改訂によって、自立活動に

関して、重症児への「具体的指導例と留意点」が示された。中でも、区分「コ

ミュニケーション」の中のrコミュニケーションの基礎的能力に関すること」

としては、「話し言葉によるコミュニケーションにこだわらず、本人にとって可

能な手段を講じて、より円滑なコミュニケーションを図る必要がある」と示さ

れた。

 しかし、重症児の多くは、身体運動の制約や、知的発達の遅れなどから、言

語的なやりとりだけではなく、非言語的なやりとりにも困難を抱えている。そ

のため、重症児は「自発的な動きが乏しい」「はたらきかけても反応が返ってこ

ない」「表情の変化が乏しく、快なのか不快なのか分かりにくい」「動きはある

が、いつも決まった動きしかしない」などととらえられることが多い(松田2002)。

また、重症児の反応は微弱であったり、時間がかかったりするため、「~に対し

て~といった反応をした」と確認することは難しい。これらのことから、かか

わり手は、重症児へのはたらきかけの手がかりを得ることが難しく、「重症児の

どこを見れぱいいのかわからない」「どうやって意思や感情を読み取ったらいい

のかわからない」「手探りであったり、重症児の思いとはかけ離れたかかわりで

あったりす一る」といった不安な気持ちになること(坂口2006a、郷間・伊丹2005)

があると考えられる。

 さらに、重症児とのコミュニケーションにおける系統的な評価法や支援方法

について、いまだ十分に整理されているとは言えず、かかわり手の判断にかな

りの部分がゆだねられているのが現状である。そのため、重症児へのコミュニ

ケーション支援の在り方が特別支援学校の大きな課題となっている。

 以上のことが、重症児とのコミュ三ケーションの難しさに直結していると考

えられる。ただし、コミュニケーションの難しさは、重症児のコミュニケーシ

ョンシステムの不備によると考えるのではなく、かかわり手が重症児の表出を

とらえる方法の問題として考えることが求められる(前田・小林2000)。また、

重症児の微弱な表出から意思や感情を理解したり解釈したりする能力も、かか

わり手に求められることを多くの研究は示唆している(元田ら2002、岡澤・川

住2005、坂口2006b、他)。さらに、かかわり手の力量によらず、重症児の表出

がもっと分かるようになる研究の必要性も指摘されている(石川2002)。つまり、

かかわり手側の課題ではあるが、かかわり手の経験や力量を問題とせず、かか

わり手が表出をとらえるための方法や手段の開発が求められていると言える。

 いかに微細な表出であっても、それがかかわりの糸口となることがこれまで

の研究から示されている(高木ら1998、岡澤・川住2005、他)。その微細な表

出にかかわり手が気付き、表出の読み取りとその意味を仮定し、それに基づく

はたらきかけによってさらに表出を促すことが丁寧に行われる必要性を、岡

澤・川住(2005)は指摘している。そのために、重症児の表出の理解と促進に

関する研究の蓄積が必要である。

第2節 先行研究

(1)表出の理解と促進について

 重症児の表出をかかわり手がrどのように理解するか」ということと、表出

をかかわり手が「どのようにして促進するか」ということについて、下記の先

行研究から知見を得た。

 元田ら(2002)は、「重症児の行動の意図を理解するために、彼らの行動を

重視したり彼らの意図を推察したりすることが適切な援助につながっていく」

と述べている。つまり、微細な表出をとらえ、その表出から重症児の意思・感

情を推察すること、即ち「表出を理解すること」がまずは大切だと言える。

 前田・小林(2000)は、重症児の表出に対して行われた教師の発話を分析し

ている。その結果、重症児の発声や身体部位の動きを感性情報として、要求な

どの意思を教師が感知していると述べている。しかし、重症児の表出の分かり

にくさが明確化されない(磯貝ら1998)ことから、全てのかかわり手が容易

に重症児の要求などを感知できるわけではない。そのため、松田(2002)は、

重症児へのコミュニケーション指導場面のビデオを教師集団で分析すること

を通して、教師集団の資質を高めようとした実践(坂口1994)や、初任者研

修の一環として指導場面のビデオを評価検討することを取り入れ資質の向上

を図った実践(姉崎1997)を例として挙げ、「子どもを見る目をかかわり手に

養うこと」の必要性を指摘している。さらに、元田ら(2002)は「重症児の行

動を読み取ろうと意識することで、かかわり手としての行動を読み取る感度が

高まり、コミュニケーションが可能になる」と述べている。

 これらのことから、「表出を理解する」立場にある、かかわり手の能力向上

を支援することや、かかわり手への方法論の提供といった寄与の仕方が研究に

は求められると考えられる。

 一方、「表出を促す」ための研究も、かかわり手にとって有用な情報となる

ため、様々な実践が蓄積されているところである。中でも、ある特定の表出を

手がかりとして、かかわりを展開することで、相互交渉の進展や表出の促進が

見られたと報告する研究は多い。

 徳永(2001)は、全盲を併せもつ重度・重複障害児を対象に、太鼓遊びを通

して、自発的な動きや表情を引き出すことと、手の活動を広げることが促進さ

れたと報告している。鈴木・藤田(1997)は脳性まひ幼児が、注視による伝達

行動を獲得できるようになった過程を報告している。高木ら(1998)は、快を

伴う刺激に関連した微弱なr舌を出す」行動について指導を展開し、微弱なが

らも応答が認められるようになった事例を報告している。坂口(2006a)は、

INREAL(Inter Reactive Learni㎎and Communication)の方法をもと

に、重症児の感覚入力や運動動作からのコミュニケーション評価や指導内容の

検討を行っている。そして対象児のオルゴールヘの注視を手がかりにコミュニ

ケーション指導を行った結果、対象児は指導者と視線を合わせることや、指導

者の声がけに反応することが増えたと報告している。

 これらの知見にあるように、いかに重度の障害があろうとも、手がかりとな

る表出は必ずあり、それを糸口にはたらきかけを展開させることはできると考

えられる。

(2)カテゴリー表について

 重症児の微細な表出を適確にとらえるための手段として、表出を分類するカ

テゴリー表がある。行動指標としてカテゴリー表を用いた先行研究から以下の

知見を得た。

 田中ら(2000)は、重症児の表出を分類するカテゴリー表を用いて、授業過

程と重症児の表出との関連ついて分析し、授業場面における教師と重症児の相

互作用の特徴について検討している。用いられたカテゴリー表は、「非学習動

作」「学習動作」の大分類の申で、さらに「発声」「目の動き」「微笑」「発声応

答」「微笑応答」「手の活動」など細密に分類されており、重症児の表出をとら

えるために有効な知見だと考える。また元田ら(2002)は、施設の介助者に、

重症児の表出行動をとらえたかどうかを自身でチェックさせ、介助者の気づき

を促している。チェック紙のもとになった行動分類表も、r注視」r接近」r接

触」r微笑」rポインティング」などの項目があり、カテゴリー表として有効な

知見だと考える。ただし、授業分析を目的に使用された田中ら(2000)のカテ

ゴリー表が、個としての表出分析に有効であるのかについて、また介助者の主

観ではチェック可能であった元田ら(2002)のカテゴリー表が、客観的な分類

のための指標となり得るのかについて、検証は必要だと考える。

 これらの知見のように、かかわり手が重症児の表情や身振り、しぐさなどの

表出を細かく観察することにより、その意図を理解する(文科省2009)ため

に、まずはr重症児のどこを観察すればよいのか」という視点をかかわり手に

与えることが必要だと考える。

(3)心拍変動について

 水田(2000)は「重症児は表出が微弱で不安定であることから、彼らの心理

過程の把握には生理心理学的手法が有効」だとしている二生理的指標として心

拍変動を検討している先行研究から以下の知見を得た。

 人間の一般的な生理反応として、定位反応(外的な刺激への注目)は心拍の

減少を生じる(宮田1998)。そのことから、重症児の定位反応などを把握する

ための指標として心拍変動が用いられている先行研究は多く、また成果をあげ

ている(水田ら1996、雲井2001、川住ら2008、他)。

 田中ら(2000)は、カテゴリー表による授業分析とあわせて重症児の心拍測

定を行い、授業内容と心拍変動との関連を検討している。また、保坂(2003)

は、心拍の測定にパルスオキシメータ』を用いている。心拍の減少と笑顔の生

起が一致したことから、一「生理指標と行動指標の一致を示し、学校場面でパル

スオキシメーターを使用して測定した心拍値を重度・重複障害児の心理過程の

把握に利用することが可能である」と述べている。さらに川住ら(2008)は、

4

パルスオキシメーターによる測定値から、場面ごとの平均心拍数を持続性心拍

変動として検討し、話しかけ・歌いかけ場面では平均心拍数の減少が見られた

と報告している。

 このような知見から、本研究においても、心拍変動は重症児の定位反応を判

断するための補完的データとして検討する価値はあると思われる。

第3節 本研究の日的

 本研究では、「重症児の表出を理解すること」と「重症児の表出を促進するこ

と」の2点について、検討することを目的とする。そのために、まずは重症児

の表出をとらえ、表出から彼らの意思・感情を推察したい。次にはたらきかけ

と表出との関係から、表出を促すと思われるはたらきかけについて検討したい。

重症児の表出をとらえるためには、表出を分類するカテゴリー表を作成する。

また、表出だけではとらえきれない重症児の定位反応については、心拍変動の

分析から検討を加えることとする。

第2章

     予備研究1

「表出をとらえるための指標づ<リ」

 重症児とのコミュニケーションにおける困難さの一因として、r重症児のどこ

を見ればいいのか分からない」というように、かかわり手に表出をとらえるた

めの指標がないことが挙げられる。そこで、重症児の表出をとらえるための指

標づくりとして、先行研究をもとに「重症児の表出カテゴリー表」を作成する

ことを目的に予備研究1を行う。

第1節 行団報察によるカテゴリー項目の検討

第1項 対象

 田中ら(2000)のカテゴリー表をもとにした「田中カテゴリー」(表2-1)お

よび、元田ら(2002)の行動分類表をもとにした「元田カテゴリー」(表2-2)

のカテゴリ』項目

     表2-1田中カテゴリー      表2-2元田カテゴリー

発声

発声・動作

非学習動作

目の動き

微笑

その他

発声応答

微笑応答

手の活動手が出る

握る1振る1叩<両手挙げ

学習動作

片手挙げ

注視1瞼開閉追視

集中して聞く

緊張

表情の変化

その他

注視

接近

接触

発声/語りかけ微笑

ポインティング対人 り一テング

サイン

表情(微笑以外)

模倣

身体の一部の動き

具体物提示

他傷行動

その他

注視

接近

接触

発声/語りかけ対物

微笑

ポインティングリーチング

表情(微笑以外)

その他

常同行動対自

自傷行動

その他

第2項 手続き

 授業場面をVTR記録し、重症児の表出を観察した。その表出をカテゴリー

分類した結果から、「田中カテゴリー」および「元田カテゴリー」のカテゴリー

項目が、重症児の表出をとらえる際に有効であるかどうかを検討した。有効だ

と思われるカテゴリー項目をもとに「重症児の表出カテゴリー表(試作版)」を

作成した。

1、表出の記録

 対象児:X特別支援学校に在籍する重症児2名。プロフィールを表2-3に

示す。なお、A児・B児の保護者には、書面にて研究の概要を説明し、同意

を得た(巻末資料参照)。

表2-3 対象児のプロフィール く2010年11月時点)

対象児 “DS乳幼児発達スケール(タイプA〕 身体運動と表出の様子

運動 014

操作定頸し、寝返りができそうな段階に

015

A児ある。自力座位不可。揺れ刺激に対

言語(理解) 015女

する表情変化・微笑がある。座位・

小学部言語(表出) 0:3 臥位での視線は安定しており、物へ

2年生社会性(対成人) 012 の視線もある。興味ある物へのリー

食事 013 テングがあり、鈴やタオルなどを振

総合発達年齢 O14 ることができる。

連動 011

操作失調型四肢麻痺。未定頸、自力座位

O11

B児不可。てんかん発作の頻度が高い。

言語(理解) 014男

午前中の覚醒レベルは低い。呼吸状

中学部言語(表出) 0:2 態に注意を要する。表出は微細であ

2年生社会性(対成人) 0:1 り、人や物に向けられる行動は明確

食事 0:1 ではない。音声や光に視線を向け応

総合発達年齢 011 えることがある。

 記録方法:VTR記録および記述記録。VTRカメラは授業全景記録用(固

定撮影、カメラ1)と対象児個人記録用(移動撮影、カメラ2)の計2台を

使用した。筆者は参与観察し、VTR記録を行った。カメラ2では、対象児

の上肢の動きや視線等が分かるように、顔を中心に上半身を撮影した。

 対象授業:対象児の体調や覚醒状態を考慮し、A児は午前、B児は午後の

授業を対象とした。集団授業(朝の会、学級活動)、個別授業(自立活動、

日常生活の指導)、給食、休憩時間等に参与観察した。その中から、表2-4

に示す4授業をVTR撮影し、分析対象とした。

7

表2-4 対象授業

”o。 対象授業 対象児 活動の概要 時間(分)

A-1 朝の会 A児 絵本の読み聞かせやお話遊び 30

A-2 音楽1絵本 A児 音楽を聴くことや絵本の読み聞かせ 25

A-3 給食準備 A児 特にかかわりのない時間 16

B-1 絵本 B児 絵本の読み聞かぜや語りかけ 40

2.分析

(1)表出のカテゴリー分類

 カメラ1、カメラ2を再生し、VTR上に見られた表出を筆者1名でカウ

ントした。カウントは全授業を10秒ごとのタイムサンプリング法(1-Oサン

プリ!グ)で行った。10秒間に1回でも表出が見られた場合には1とガウン

 トし、10秒間.に繰り返された行動も1とカウントした。また10秒以上続い

た行動は10秒区切りで1カウントとした。

 指標には「田中カ・テゴリー」と「元田カテゴリー」を用い、それぞれのカ

テゴリーに分類をした。

  A児について、またB児について、対象授業ごとに「田中カテゴリー」「元

 田カテゴリー」それぞれでの分類結果を集計し、毎分における表出の生起数

 を求めた。1-Oサンプリングで10秒を1コマとしてカウントするため、1分

 6コマごとの合計を生起数とした。

(2)カテゴリー項目の検討

 以上の結果に加え、分類をする際に明らかになった各カテゴリーの利点や

不便な点について整理した。より客観的な分類ができるように、「田中カテ

 コリー」と「元田カテゴリー」のカテゴリー項目を精選し、分類基準を検討

 した。

第3項 結果と考察

1 授業と対象児の様子

 A児については、授業A-1朝の会(30分)、A-2音楽・絵本(25分)、

A-3給食準備(16分)の3授業から表出を観察した。

 A-1朝の会は小集団で行われ、絵本の読み聞かぜやパン屋さんに扮して

のお話遊びが展開された。A児の行動としては、r指を吸う」やrゲンデン

太鼓を持つ」rゲンデン太鼓を振る」rゲンデン太鼓を注視する」などが多く

見られた。

 A-2音楽・絵本は個別で行われ、木魚を一緒に叩きながら詩を聞くこと

や、音楽とウインドチャイムの音を聞くこと、絵本の読み聞かせが展開され

た。A児の行動としては、「ウインドチャイムを注視する」「絵本を注視する」

などが多く見られた。

 A-3給食準備は、担任たちが二次調理をするため、看護師による健康観

察を受ける以外には、他者からの関わりが少ない時間であった。A児の行動

としてはrゲンデン太鼓を持つ」rゲンデン太鼓を振る」rゲンデン太鼓を注

視する」が多く見られた。

 B児については、授業B-1絵本(40分)の1授業から表出を観察した。

B-1絵本は個別で行われ、絵本の読み聞かぜや、担任と養護教諭からの語

りかけが展開された。B児の行動としては「絵本を読む担任の方へ目を向け

る」「呼びかけの方へ目を向ける」「話し声や水の音に対してと思われる目の

動き」が多く見られた。

2.「田中カテゴリー」の検証

(1)カテゴリー分類の結果

 上記4授業におけるA死およびB児の表出を、それぞれr田中カテゴリー」

に分類した(巻末資料参照)。

 表2-5に全授一業における表出の平均生起数を示した。生起数が多かったも

の(10分に10回以上見られた表出)は、A児の「目の動き」「手の活動」「手

の活動一握る・振る・叩く」r注視・瞼開閉」、B児のr目の動き」r注視・

瞼開閉」であった。ただしB児の場合、注視を判断することは難しかったた

め、瞼の開閉(瞬きではないもの)のみが「注視・瞼開閉」にカウントされ

ている。また、両児ともにr発声・動作」r発声応答」r微笑応答」にはカウ

ントできなかった。

(2)カテゴリー項目の検討

 分類結果から、カテゴリー項目に下記のような検討を加えた(表2-5参照)。

 ・「非学習動作」「学習動作」といった区分は、観察者の主観によって分かれ

 たり、区別が難しかったりするため、無くす。

 ・「目の動き」「手の活動(下位項目『手が出る』『握る・振る・叩く』を含

む)」「注視・瞼開閉」律r重症児の表出カテゴリー表(試作版)」に項目

 として反映する。

・「発声・動作」「発声応答」と「微笑応答」は、「発声」「微笑」との区別が

困難であり、観察者の主観により評価が分かれる。そのため、それぞれを

 「発声」と「微笑」に含め、項目をなくす。

・「目の動き」は「追視」とは言えないチラリとした目の動きも評価できる

 こととし、「追視」との差別化を図る。

・「注視・瞼開閉」

            表2-5 圧1中カテゴリーにおける表出の10分あたリ平均生起数は別の表出であ

 るため、「注視」

 と「瞼開閉」に

項目を分ける。

・「緊張」はその場

 にいないと分か

 らない。また対

象児に触れてい

 ないと分からな

い。そのため「そ

の他」などに含

む。

・「集中して聞く」

 については、主

観的な評価にな

 るが、項目とし

て残し、第2節

で検討する。

平均生起数回/10分〕

カテゴ1」一 項目の検討結果

A児 B児

発声 2.99 3,00

発声・動作 ■ ■ 無くす

非学習動作

目の動き 13.η 38.00

微笑 O.52 I

その他 27.79 6.50

発声応答 一 ・ 無くす

微笑応答 一 ’ 無<す

手の活動 25.19 一

手が出る 6.36 一

握る・振る・叩く 18.31 ■

両手挙げ O.39 1 他のカテゴI」一1こ含む学習動作

片手挙1ず 0.13 ■ 他のカテゴリー1こ含む

注視・瞼開閉 28.96 40.50「注視」と「瞼開閉」に

ェける

近視 4.16 1

集中して聞く O.26 一 第2節で検討する

緊張 ■ 4,25 「その他」に含む

表情の変化 2.47 2.75

その他 1.17 0.25

3.「元田カテゴリー」の検証

(1)カテゴリー分類の結果

 上記4授業におけるA死およびB児の表出を、それぞれ「元田カテゴリー」

に分類した(巻末資料参照)。

 表2-6に全授業における表出の平均生起数を示した。生起数が多かったも

のは、A児の「対物一注視」「対物一接触」「対自己一常同行動」であった。

1O

より重度なB児を評価することは難しく、r声の方へ目を向ける」といった

目の動きがr対人一その他」に分類された。

(2)カテゴリー項目の検討

 分類結果から、カテゴリー項目には下記のような検討を加えた(表2-6参

照)。

・「対人」「対物」「対自己」は観察者の主観によって評価が分かれるため、

 区分としてはなくす。ただし重要な感性情報であるため記述記録し、表出

 の意味を解釈する際に反映する。

・「サイン」「模倣」「具体物提示」は、本研究で対象とする重症二児の表出と

 しては高次であるため、項目をなくす。またr発声/語りかけ」の語りか

 けも高次であるため、項目を「発声」とする。

・「接近」は頭や上

           表2-6 元田カテゴリー1こおける表出の10分あたリ平均生起数体が人や物に接近

することとする。

・「接触」は対象児

 自らの動きによ

 り手。や身体が触

 れることとする。

 たまたま触れて

 いる場合は評価

 しない。

・「注視」だけでは

 評価できない、

 B児のような微

 細な目の動きを

 評価するための

 項目を設定する。

・r身体一部の動き」

 と「常同行動」

 を区別できるよ

 うに分類基準を

 検討する。

平均生起数回/10分〕カテゴリー 項目の検討結果

A児 B児

注視 0.65 I

接近 一 一

接触 O.52 一

発声/語りか1ナ 2.99 2.50 「発声」とする

微笑 0.91 一

ポインティング 一 ’

対人 リーチング ■ 一

サイン ■ ’ 無くす

表情(微笑以外) 1.69 2.75

模倣 ■ I 無くす

身体の一部の動き 3.38 2.00

具体物提示 L . 無くす

他傷行動 I 一

その他 0.13 42.75

注視 27.40 一

接近 2.08 ■

接触 21.30 一

発声/語りかけ ■ 一 「発声」とする対物

微笑 ■ 一

ポインティング ■ 一

リーチング 5.19 一

表情(微笑以外) O.26 ’

その他 1フ.53 ■

常同行動 18.31 .対自己

自傷行動 一 】

その他 2,34 6.フ5

11

4 『重症児の表出カテゴリー表(試作版)」の作成

  上記の結果をもとにr田中カテゴリー」r元田カテゴリー」双方が補い合

 う形でカテゴリー項目を設定した。また、両カテゴリーとも分類基準がなく、

表出の分類が困難であったことから、検討の上、分類基準を設けた。さらに

他の先行研究のカテゴリー項目を参考に項目名を修正し、「重症児の表出カ

テゴリー表(試作版)」を作成した(表2-7)。

        表2-7 重症児の表出カテゴリー表(試作版)

カテゴリ・ 分類基準

◆日の動き

注視 人や物を見る。(対人の場合、顔を見ることがポイント)

追視 人や物の動きを線状に追従する目の動き。

視線の変化視線の転勤、移動。r追視」ではない点状の動き。一瞬のチラリも

]価できる。注視・追視として評価できないもの。

瞼開閉瞬きではないもの。瞬きとは思えないもの。反応として、閉じてい

ス瞼を開く、あるいは開いていた瞼を閉じる。

◆表情等

微笑 微笑だと受け取れるもの。

表情(微笑以外) 無表情ではないもの。驚き、渋面、舌を出すなど。

集中して闘く 絵本や音楽、話し声などに集中している様子がある。

◆発声

発声 声が出ている。

◆手の動き

ポインティング 物に向かって手差し、指さしをする。

リーチング 手差しでなく、人や物に向かって手を伸ばす。

操作 物を握る・振る一叩くなど。

◆身体の動き

接近 頭や上体(あるいは全身)を、人や物へ接近させる様子。

接触手や身体で人や物に触れる。たまたま触れているのは×。触れられ

トいるのもX。

身体の一部の動き頭や首、上体の動き、上肢1下肢の動き(『ポインティング」「リー

`ング」r操作」を除く)など。r常同行動」と区別する。

◆非コミュニケージ≡Iン的行動

常同行動例:指吸い、手をヒラヒラふる、ロッキングなど。(物を振るのは

酎??v)

他傷・自傷行動例:人を叩く、自分の指を噛むなど。かかわり手がやめさせたり、

�ッたりする行動。

その他 例:口をモグモグ、ム=ヤム=ヤするなど。判別不能なもの。

12

第2節 第三者による試作版の試用

第1項 対象

 「重症児の表出カテゴリー表(試作版)」のカテゴリー項目および分類基準

第2項 手続き

  第1節とは刑場面のVTR記録から、協力者C・Dが「重症児の表出力テゴ

 リー表(試作版)」を用いて表出を分類した。両者の一致率からカテゴリー項

 目と分類基準の信頼性を検討した。

1.表出の記録

 対象児:X特別支援学校の重症児2名(第1節と同じ、表2-3参照)

 記録方法:VTR記録(第1節と同様)

 対象授業:第1節とは別の場面を記録し、分析対象とした(表2-8)。

             表2-8 対象授業

N0。 対象授業

A-4 音楽・絵本

B-2 休憩

対象児

A児

B死

活動の概要

オカリナや絵本の読み聞かせを聞く

休憩と養護教諭の語りかけ

時間(分)

15

15

2.分析

(1)表出のカテゴリー分類

 重症児と関わった経験があるCと、経験がないDを協力者とした。

 カメラ1、カメラ2を再生し、VTR上に見られた表出を協力者CとDが

カウントした。CとDは別々にカウントを行った。カウントは第1節と同様、

1O秒ごとのタイムサンプリング法(1-0サンプリング)で行った。カテゴリ

ー分類にはr重症児の表出カテゴリー表(試作版)」を用いた。

 個々の対象児について、C・Dそれぞれの分類結果を集計し、生起数を求

めた。また対象死別、カテゴリー別に、CとDによる分類の一致率を求めた。

 (巻末資料参照)

(2)カテゴリー項目の検討

 以上の結果に加え、CとDからのカテゴリー表に関する意見・感想も参考

にし、「重症児の表出カテゴリー表(試作版)」のカテゴリー項目と分類基準

13

について検討した。

第3項 結果と考察

1 授業と対象児の様子

  A-4音楽・絵本(15分)は個別で行われ、オカリナの音を聞くことや絵

本の読み聞かせを聞く活動が展開された。A児の行動としては、「ハンドベ

ルを持つ」「ハンドベルを振る」「オカリナを注視する」「絵本を注視する」「担

任の顔を見て微笑む」などが見られた。

  B-2休憩(15分)は個別で行われ、かかわりが少ない場面の後、養護教

諭からの語りかけが展開された。B児の行動としては「(対象は特定できな

いが)目を動かす」r音や話し声のする方へ目を動かす」r呼びかけの方へ目

を向ける」などが見られた。

2 カテゴリー分類の一致率より

  協力者C・Dが、それぞれr重症児の表出カテゴリー表(試作版)」に分

類した結果から、両者の一致率  表2-9協力者C-Dによる分類の一致率

を求めた(表2-9)。

 一致率が高かったものは、A児

の「注視」(70%)、「◆手の動き」

 (75%)、「操作」(88%)、B児の

 「視線の変化」(69%)のみであ

った。これらについては、有効な

項目であると考え、「重症児の表

出カテゴリー表」の項目とした。

また今回は表出が少ないため一

致率が低かった「発声」も、本来

は一致率が高くなるものと考え、

同様の項目とした。

  一方、他の項目で一致率が低

かった原因としては、①分類基

準の曖昧さから生じたC・D間

での評価のズレ、②総表出数の

一致率

A児 B児◆目の動き 51% 32%

注視 70% 4%

追視 20% 0%

視線の変化 47% 69%

瞼開閉 0% 17%

◆表情等 51% 0%

微笑 50% ’

表情(微笑以外) 0% 0%

集中して聞く 57% 一

◆発声 一 0%

発声 一 0%

◆手の動き 75% 0%

ポインティング 一 一

リーチング 50% 一

操作 88% 0%

◆身体の動き 38% 25%

接近 o% 一

接触 0% ’

身体一部の動き 43% 25%

◆非コミュニケーション的行動 39% 0%

常同行動 62% 一

也傷・自傷行動 ’ ■

その他 0% 0%

14

少なさによる誤差の大きさの2点が考えられた。これらは分類基準の再検討

と項目の精選により改善することとした。

3 カテゴリー項目および分類基準の検討

  上記の結果より、分類基準の再検討や項目の精選を行った。ただし、分類

基準をいくら.細かくしても明確には分類できない表出もあると考えられた。

また、重症児と関わった経験のない協力者Dが、表出を細密にとらえること

ができたことから、カテゴリー表は「重症児のどこを見ればいいのか」とい

 う視点を観察者に与えると考えられる。つまり、項目や分類基準を細かくし

て表出の分類を限定することよりも、細かな表出をより多くとらえられるこ

 とを優先するべきであると考え、表2-10のように検討を行った。

表2-10 カテゴリー項目および分類基準の検討内容

カテゴリー項目 検討内容

一対象がはっきりしないために評価のズレが生じている。r注視」

r追視」は、その対象がVTRに写っていないと評価が困難であ

r注視」るため、対象が写っていることを条件として分類基準に明記す

r追視」る。

「視線の変化」・「視線の変化」は対象がはっきりしなくても評価できることとす

る。

・本を「注視」しつつ、本の中で「視線の変化」がある場面など

は、『注視」r視線の変化」ともにカウントすることとする。

「身体一部の動き」 ・r常同行動」は、初めて見る子どもやVTRでは判断が難しい。

「常同行動」 そこで事象だけをとらえ『身体の一部の動き」あるいは「その他」

「その他」 に分類することとする。

r接近」 ・対象児の「何が」『何に」触れたかを明確1こするために、『接触」

r接触」 を「操作」「接近」の中に含め、手1こ関するものを『接触・操作」、

r操作」 手以外を「接近・接触」とする。

rl」一テング」 ・リーチングが届かず、結果としてポインティングになることが

「ポインティング」 ある。そこで合わせて「リーチング・ポインティング」とする。

・客観的な評価基準を設けることができないため、項目としては

「集中して聞く」 削除する。ただし、重要な感性情報として記述により記録し、他

の表出と照らし合わせる。

「他傷・自傷行動」 ・r他傷一自傷行動」も初めて見る子どもでは判別が難しいため、

「その他」 rその他」に含め、項目名をr判別不能・その他」とする。

15

4 文献的検討

  上記の検討結果に加え、カテゴリー項目と分類基準の文献的検討を打つだ。

その概要を表2-11および表2-12に示す。

       表2-11 カテゴリー項目について参考とした文献の内容

文献 参考とした内容

姉崎(1997) ①表情、②発声、③視線、④操作、⑤運動、⑥判別不能の6カテゴリー

要求行動としての、①ことば、②原初語、③手差し、④視線、⑤療育者に

磯貝ら(1995) 対する直接的行動、⑥物に対する直接的行動、⑦情動表出、⑧発声の8カ

チゴり一

・r教師の意図に添う活動」として5カテゴリー

別府(1997)1r区別不可」として1カテゴリー・「教師の意図に添わない活動」として4カテゴリー

・「不明(ビデオに写っていない)」

鈴木ら(1997) 「eye pOinting」のみの検出

・r注視方向」を①母親の顔②対象物③その他.(特定の対象物を見ていな

常田(2007)い)3つに、r表情」を①無表情②微笑③驚き④ネガティブの4つに分類

・他に記述記録として『発声」、r姿勢」、r身体の動き」

①眼球、口、手首、品等の身体各部位の何らかの動きや緊張、あるいは、

動作の静止、②開瞼、③身体の筋緊張の低減、④表情の変化(笑顔や不快

川住(2005) な表情、注視を集中している表情)、⑤注視・追視、⑥呼吸運動の変化、

⑦対象物を手で把握したり操作したりするような動き、⑧働きかけを拒否

するような身体の緊張や入眠等の8カテゴリーノシバーバル行動として①対人距離、②体の動き、③表情、④視線、⑤身

和田(1996) 体接触、⑥近言語(話の問など)、⑦嗅覚作用、⑧人工物(化粧、服装等)

8カテゴリー

表2-12 分類基準について参考とした文献と検討内容

カテゴリー 文献 検討内容

微笑は口角の上昇が基準。ただし口角の上昇は発

エクマンら(1987) 作やチックによる場合もあるため、分類基準としr微笑」 lzard(1996) て明記はできない。そこで、微笑に見える場合に「表情(微笑以外〕」 郷間ら(2005) はr微笑」とする(発作等だと判断できる場合を

常田(2007) 除く)。『微笑」か否かの検討ではなく、「笑ってい

るね」と感じることが重要だと考える。

r視線の変化」はサッケード様の動きを主とする。

「◆目の動き」宮田(1998) また「注視」「追視」は対象を限定する。

常田(2007) r集中して聞く」は瞬きが少ない様子やr注視」、

固視が感性情報になると考えられる。

橘(2009)リーチング、指さしの基準について特に記述はな

「◆手の動き」細渕(2003)

いが、発達としては分けられている。手の動きに

は視覚や姿勢と密接な関係がある。

r常同行動」はr身体の一部の動き」との区別が

『常1司行動」 細渕(2003)難しいが、減少する項目としては重要。ただし、

VTRでの判断は難しいため、「常同行動」は「その

他」の中に含む。

16

5 『重症児の表出カテゴリー表」の作成

  以上の結果から総合的に判断し、「重症児の表出カテゴリ」表」(表2-13)

を作成した。

表2-13 重症児の表出カテゴリー表

カテゴリー 分類基準

◆目の動き

注視 画面内に客っている人や物を見る。

追視人や物の動きを追う目の動き。画面内に写っている人や物の動

ォを線状に追従する目の動き。

視線の変化

対象から別対象への視線の移り変わり。「追視」ではない点状の

ョき。画面に写っていないものに対する目の動きも含め、対象

ェ分からない場合も評価できる。一瞬のチラリも評価できる。

瞼開閉何らかの刺激に対して、閉じていた瞼を開く、あるいは開いて

「た瞼を閉じる。瞬きではないもの。

◆表情等

微笑 微笑や笑顔。

表情(微笑以外) 無表情ではないもの。驚き、苦痛、舌を出すなど。

◆発声

発声 声が出ている。

◆手の活動

リーチング

@・ポインティング

人や物に向かって手を伸ばす。あるいは、人や物に向かって手

キし、指さしをする。

接触・操作 人や物を触る・握る・振る・叩くなど。

◆姿勢・運動

接近・接触手以外の部分(頭や上体、あるいは全身)を、人や物へ接近さ

ケる。または、手以外の部分が人や物に触れる。

身体の一部の動き(r◆表情等」r◆手の活動」を除く)頭や上体の動き、手や足

フ動き、手指の微細な動き、筋緊張など。

◆その他

判別不能・その他 判別不能なもの。自傷・絶傷行動・常同行動も含む。

※画面で観察可能なもののみカウントする。

記述記録するもの

・表出の対象(r対人」r対物」)

・授業内容やはたらきかけ、刺激について

・r集中して闘く(絵本や音楽、話し声などに集中している様子がある)」について

・表出の質的評価:明らかに「対人的」「応答的」「自発的」なもの

17

第3章

予備研究2

「心拍変動の有効性の検討」

第1節 日的

 人間の一般的な生理反応として、定位反応(外的な刺激への注目)は心拍の

減少を生じる(宮田1998)。このことから、微細な表出だけでは分からない重症

児の定位反応を把握するために心拍変動牟用いられる先行研究は多い(水田

2000、田中ら2000、保坂2003、川住ら2008、他)。第4軍および第5章で述べ

る本研究の対象児Bも、表出が微細であるため、その内的状態を探ることが困

難である。しかし、先行研究の知見から、心拍変動の分析によりB児の定位反

応が判断できないかと考えた。

 そこで、重症児の定位反応を示す指標として、心拍の測定と分析が本研究に

おいても有効であるかどうかを検討するために予備研究2を行う。

第2節 方法

 対象児:B児のみ。B児のSP0。の値から呼吸状態を教員が把握するために、

B児は普段からパルスオキシメーターを装着している。パルスオキシメーター

は指先にプローブを装着するタイプのものであり、かつ普段から使用している

学校の備品であることから、B死への負担は少ないと考えた。A児は体調不良

など特別な場合を除き、パルスオキシメーターを使用する機会が少ない。また

自ら手足を振ることができるため一定時間装着したままでいることは困難であ

ること、そして表出が明確であることから、A児の心拍測定は行わないことと

した。

 記録方法:VTRカメラ1台により、B児が装着するパルスオキシメーター

を撮影(固定撮影、カメラ3)。VTR記録から心拍値(拍/分)を1秒ごとに

記録した。

 対象授業:r第2章 予備研究1」のギ第1節 行動観察によるカテゴリー項

目の検討」と同じ、授業B-1絵本(40分)。

 手続き:授業B-1での、パルスオキシメーターによるB児の心拍値(拍/分)

をユ秒ごとに記録した。場面ごとの平均心拍値を求め、心拍値の変動と比較し

た。平均心拍と比べ心拍値が低い箇所について、外的な刺激や対象児の表出と

の関連を検討した。

18

第3節 結果と考察

 授業B-1におけるB児の心拍変動を図3-1に示した。

 B児はクッションチエアによる座位を保持された状態で授業が行われた。そ

の後、呼吸状態に配慮して側臥位に姿勢変換をされた。観察時間全てにおける

心拍の平均値(全平均心拍)は99.4拍/分、座位姿勢での平均値(座位平均心

拍)は1ρ1.6拍/分、側臥位姿勢での平均値(側臥位平均心拍)は92.4拍/分

であった。側臥位はB児にとって安楽な姿勢であるため、側臥位平均は低下し

たと考えられる。

130 P:::…

拍115教

^ 110一拍

/ 105分

 100

  95

90 u851

/.

斗11./l

絵本

一心拍数

一全平均心拍

 座位平均心拍

一側臥位平均心拍

。。L⊥J_L」L。ユ_]_乱_しL⊥J↓よ⊥0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40(分

図3-1 授業B-11;おけるB児の心拍変動

 ここでは定位反応を探るために、絵本場面を含む座位姿勢での授業場面(開

始から31分まで)を取り上げ、表出と心拍変動め関連を検討した。まず、授業

を①吸引等ケアや呼名などの「始業場面」、②絵本の読み聞かせの「絵本場面」、

③直接的なはたらきかけのない「休憩場面」の3場面に分け平均心拍を求めた

(図3-2)。次に予備研究1における表出の生起数(図3-3:田中カテゴリーよ

り抜粋)との関連を検討した。

19

 130

 125

心120拍

数115壷

/110分)105

 100

 95

 90

 85

 80

ザペ

  心拍数

  ・座位平均心拍

・・…@①始業場面平均心拍

  ②絵本場面平均心拍

一・…@③休憩場面平均心拍

1」一一’w」一一一一1

品11

絵本

」2468101214161820

献、1}

上__土_22  24  26  28       (分)

図3-2 座位姿勢場面における8児の心拍変動

7 9 11 13 15 17  19  21  23  25  27  29  31  33  35  37 39(生

図3-3 授業B-1におけるB児の表出の生起数(田中カテゴリーから抜粋)

 図3-2の各場面での平均心拍と、図3-3の「目の動き」を重ね合わせたもの

を図3-4に示す。また、各場面における平均心拍値とSD値を表3-1に示す。

前述の通り、座位姿勢での平均心拍は101.6拍/分(SD=7,032)であった。場

20

面別の平均心拍は①始業場面が104.3拍/分(SD=7,105)、②絵本場面が98.7

拍/分(SD=3,782)、③休憩場面が101.2拍/分(SD=5,106)であった。つま

り、他の場面に比べ②絵本場面においては平均心拍が低く、かつ変動の振幅も

小さいと言える。同時に、絵本を読む担任の方向へB児が目を向けるなど「目

の動き」も生起頻度が高い。

 これらのことは先行研究の知見(宮田1998、田中ら2000、保坂2003、川住ら

2008、他)とも重なり、絵本を読む担任の声にB児は注意を向けていると考え

られる。即ち、心拍の測定と分析によりB児の定位反応を推察することは可能

だと考えられる。

以上のことから、重症児の定位反応を判断するための補完的データとして、心

拍変動を研究に位置付けることにした。

1正繋董蔓≡…葦{{1書

             /    /95

90

85」

山一…上…           …I山一…’…皿」…し^一一一■山…皿…山阯……,1…■…一一………■…山

①始業場 ②絵本場面

㍗凹…………rr㎞㍗τ…F一

1

2  4  6  8 10 12 14   16   18   20   22 24   26   28   30  (分)

図3-4 座位姿勢場面におけるB児の平均心拍(拍/分)とr目の動き」(回/分)

表3-1 各場面1二おける平均心拍とSD値

場面平均心拍

i拍/分)SD

座位姿勢 101.6 7.032

①始業場面 104.3 7.105

②絵本場面 98.7 31782

③休憩場面 101.2 5.106

21