国際的な資質を育成する社会科学習(5)...娯楽施設公共施設コンビニ・商店飲食店家・マンションその他合...

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173 1.はじめに 現代社会は,ヒト・モノ・カネの移動が急激に進ん でおり,エネルギー問題や環境問題などは当該国だけ ではなく,地球的規模で対処していかなくてはならな い問題となっている。また,急速なメディアの発達に よって時空も狭まり,居ながらにして世界の情報がリ アルタイムで得られるようになった。そして,このよ うな傾向はますます進展することが考えられる。 このように国際化・高度情報化が急激に進み利害関 係が複雑に絡み合う社会では,問題解決が単純ではな い。今自分が既有している知識・理解だけでは,目の 前の社会的事象や今後起こるであろう社会的事象を捉 えることが難しくなってくる。 社会科は,社会の変化に適応し,平和的な社会を築 くことができる人材を育成していかなければならな い。国際化社会においては,より広い視野で科学的な 事実認識ができるとともに,正しい思考力・適切な判 断力をもち,他者・多国との価値観の違いを認め,お 互いの関係を平和的に形成する資質が必要となる。21 世紀を担う子どもたちのために育成したいこのような 資質を「国際的な資質」として,本研究主題を設定し た。 2.めざす子ども像と育成すべき力 2.1 めざす子ども像と思考の再構成 正しい思考力・ 適切な判断力を育 成するためには,正 しい知識・理解が 重要である。正しい 知識をもち,その知 識を体系的に関係 づけることで,さら に広く深く正しい思考を促し,適切な判断をすること ができる。また,正しい思考・適切な判断ができるこ とで,正しい知識・理解が得られる。今後必要となっ てくるのは,「事実を正しく捉え→多面的に社会的事 象を考え→自主的・論理的判断する」活動を通して, 自分の思考をより科学的なものへと再構成していくこ とである。この繰り返しにより,国際的な資質が高まっ ていくと考える。 2.2 育成すべき力 思考を再構成するためには,次の4つの育成すべき 力を設定した。この4つの力はどの学年においても育 成すべきであるが,子どもの実態に応じて,重点的に 育成する学年を設定した。 ○ 観察力 3・4年生(小学校3・4年生)では主として「観 察力」の育成を行う。偏見にとらわれない正しい思 考・適切な判断を行うにあたっては,科学的論理的 に社会的事象が捉えられなくてはならない。その基 本となるものが「事実を事実として正しく捉えるこ と」である。 「観察力」とは,目の前にある社会的事象がどの ような状態であるのか,またこれからどうなるのか ありのままの姿を注意してみることである。 ○ 批判力・推理力 5~8年生(小学校5・6年生,中学校1・2年 生)では主として「批判力・推理力」の育成を行う。 「批判力」とは,目の前にある社会的事象を科学 的・論理的に検討し,評価・判定をする力である。 科学的・論理的に検討するためには複数の資料を用 いることが必要であり,それが多面的に考察するこ とにつながる。その結果,宣伝や情報操作などに左 右されない科学的な思考・適切な判断力を身につけ 広島大学 学部・附属学校共同研究機構研究紀要 〈第38号 2010.3〉 国際的な資質を育成する社会科学習(5) 思考の再構成を促す授業づくりを通して 柳生 大輔  石原 直久  長野 由知  池野 範男 棚橋 健治  木村 博一 Daisuke Yagyu, Naohisa Ishihara, Yoshitomo Nagano, Norio Ikeno, Kenji Tanahashi, Hirokazu Kimura: Fostering competences in global age through social studies (5)Focusing on reconstruction of learners’ thinking in the class.図1 思考の再構成のサイクル

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1.はじめに 現代社会は,ヒト・モノ・カネの移動が急激に進んでおり,エネルギー問題や環境問題などは当該国だけではなく,地球的規模で対処していかなくてはならない問題となっている。また,急速なメディアの発達によって時空も狭まり,居ながらにして世界の情報がリアルタイムで得られるようになった。そして,このような傾向はますます進展することが考えられる。 このように国際化・高度情報化が急激に進み利害関係が複雑に絡み合う社会では,問題解決が単純ではない。今自分が既有している知識・理解だけでは,目の前の社会的事象や今後起こるであろう社会的事象を捉えることが難しくなってくる。 社会科は,社会の変化に適応し,平和的な社会を築くことができる人材を育成していかなければならない。国際化社会においては,より広い視野で科学的な事実認識ができるとともに,正しい思考力・適切な判断力をもち,他者・多国との価値観の違いを認め,お互いの関係を平和的に形成する資質が必要となる。21世紀を担う子どもたちのために育成したいこのような資質を「国際的な資質」として,本研究主題を設定した。

2.めざす子ども像と育成すべき力2.1 めざす子ども像と思考の再構成 正しい思考力・適切な判断力を育成するためには,正しい知識・理解が重要である。正しい知識をもち,その知識を体系的に関係づけることで,さら

に広く深く正しい思考を促し,適切な判断をすることができる。また,正しい思考・適切な判断ができることで,正しい知識・理解が得られる。今後必要となってくるのは,「事実を正しく捉え→多面的に社会的事象を考え→自主的・論理的判断する」活動を通して,自分の思考をより科学的なものへと再構成していくことである。この繰り返しにより,国際的な資質が高まっていくと考える。

2.2 育成すべき力 思考を再構成するためには,次の4つの育成すべき力を設定した。この4つの力はどの学年においても育成すべきであるが,子どもの実態に応じて,重点的に育成する学年を設定した。○ 観察力

 3・4年生(小学校3・4年生)では主として「観察力」の育成を行う。偏見にとらわれない正しい思考・適切な判断を行うにあたっては,科学的論理的に社会的事象が捉えられなくてはならない。その基本となるものが「事実を事実として正しく捉えること」である。 「観察力」とは,目の前にある社会的事象がどのような状態であるのか,またこれからどうなるのかありのままの姿を注意してみることである。

○ 批判力・推理力 5~8年生(小学校5・6年生,中学校1・2年生)では主として「批判力・推理力」の育成を行う。 「批判力」とは,目の前にある社会的事象を科学的・論理的に検討し,評価・判定をする力である。科学的・論理的に検討するためには複数の資料を用いることが必要であり,それが多面的に考察することにつながる。その結果,宣伝や情報操作などに左右されない科学的な思考・適切な判断力を身につけ

広島大学 学部・附属学校共同研究機構研究紀要〈第38号 2010.3〉

国際的な資質を育成する社会科学習(5)― 思考の再構成を促す授業づくりを通して ―

柳生 大輔  石原 直久  長野 由知  池野 範男棚橋 健治  木村 博一

Daisuke Yagyu, Naohisa Ishihara, Yoshitomo Nagano, Norio Ikeno, Kenji Tanahashi, Hirokazu Kimura: Fostering competences in global age through social studies (5)―Focusing on reconstruction of learners’ thinking in the class.―

図1 思考の再構成のサイクル

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に説明がつかない事象を提示したり,発問をしたりすることで,子どもたちに自分の既有知識・理解を見直させ,思考を再構成させるようにする。

○ 新しい知識・理解体系を推理させる 変化の激しい現代社会では,社会事象を既有の知識・理解だけでは十分に捉えきれないことが増えてくる。今までは意識していなかった知識・理解をもちだしてきたり,現在の知識・理解体系を変更したりしなければ対応できない。そこで,KJ法やマインドマップ,イメージマップ等を活用しながら,今までの見方・考え方を広げ,深めさせ,そこから新たな知識・理解の関係づけを見つけ出させるようにする。

○� 他者と自分の思考を比較させたり,自分の思考・判断過程をふりかえらせ記述させたりする 自分だけで考えていては,狭く浅いものなってしまう。また,誤ったものになってしまうこともありうる。他者との比較を通して,思考は広がり深まり,科学的なものなっていく。そこで,学習中,他者の意見を記述したり,それに対する自分の考えを記述させたりすることを通して,自分の思考をふりかえらせより科学的な思考を促すようにする。

 ・�自分の考えを要領よく的確に論理的に発言する。 ・�友だちの意見の要旨を的確にノートに記述する。 ・�友だちの意見に理由を明確にして反対や賛成の意

見を述べる。

る基礎となる。 「推理力」とは,既知の事実を基にして,未知の事柄を推し量る力である。そして事実を事実として捉え,それらの関係を比較検討していく中で,社会的事象の事実や今後の動静などを読む力の基礎を養うものである。

○ 社会的判断力 現在の国際化社会の有り様を正しく捉え,自主的に論理的に判断し行動することができる社会的判断力を身につけることが民主主義社会の発展につながる。また,社会的判断力をもつことが世界的な視野をもつ人であり,国際的資質の基礎を育てるものとなる。

3.思考を再構成させるための方略 子どもたちが観察力や批判力・推理力,社会的判断力を高め,状況に応じて思考を再構成していくためには,学習の中で次のような手だてが必要と考える。○� 子どもたちの既有知識・理解を揺さぶる学習内容

と発問 子どもたちは今までの経験などをもとに,社会的事象に対して自分なりの知識・理解を既有している。 そこで,事前アンケートなどにより学習材に対する子どもたちの既有知識・理解を把握する。その結果をもとに,子どもたちの既有知識・理解では十分

4.実践事例4.1 小学校第3学年4.1.1 単元名

「どうする!?イチクミコンサルティング三原駅前デパート跡地問題」

4.1.2 単元について 本単元は,三原駅前地域の変化について調べたり,デパート跡地の利用方法を考えたりすることを通して,街の様子の移り変わりには社会的な要素がかかわっていることや高齢化社会の進展について理解させ

図2 「思考の再構成」のイメージ

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に,子どもたちの自由な発想を引き出し社会的な条件との結びつきを考えることができるようにした。

4.1.5 授業の実際第1次 イチクミコンサルティング発足!(1時間)・�単元終末に「駅前のよさを生かして,賑わいを創出

できる」ような利用方法を市役所に提案するというゴールを決めて,単元全体に見通しをもつ。

・�三原駅と本郷駅の利用者数の比較から,三原駅前地域を利用者減少の背景と,利用者数が増加している本郷駅の秘密を探るという計画を立てる。

第2次 �三原駅前地域の様子と本郷駅前地域の様子を調べよう(5時間)

①②三原駅前デパート撤退の背景を探ろう �「ジェットコースターまであったのに,三原駅前地

域を利用する人が減ったのはなぜだろう」 ・郊外型ショッピングセンターの台頭 ・しまなみ街道の開通による交通の変化③④利用者が増えている本郷駅前地域の様子 �「駅舎を建て替えさえすれば,駅前地域に人が集ま

るのだろうか」 ・超高齢化社会の到来とバリアフリー対応の駅舎 ・高齢者が利用しやすい文化学習ゾーンの整備⑤三原駅前地域の変化 「三原駅周辺に増えているものはないのだろうか」 ・三原市交通バリアフリー基本構想に基づく整備 ・マンションの増加と都心回帰の動き第3次 �駅前デパート跡地の利用方法を考えよう(2

時間)・�ブレインストーミングとオズボーンのチェックリス

トを使ってアイデアの創出・�学習してきた社会的条件(高齢化社会の進展・交通

結節点機能)に基づく検討

4.1.6 授業を終えて[デパート跡地に何ができたらいいと思いますか(事後)]

娯楽施設

公共施設

コンビニ・商店

飲食店

家・マンション

その他

合  

自分が楽しむため 0 0 0 0 0 0 0交通の利便性 13 9 12 10 10 0 54他年齢層のため 25 11 13 9 17 0 75今ないから 0 0 0 0 0 0 0合  計 38 20 25 19 27 0 129

(複数の視点を含む考えは複数に分類)

ることがねらいである。 三原市は全国や広島県よりも早く超高齢化社会を迎え,現在も高齢化が進行している。平成20(2008)年まで存在していた駅前デパートは,郊外型ショッピングセンターの台頭やしまなみ街道開通による交通の変化により経営が悪化し撤退した。空洞化が進み,周辺商店街による賑わいの創出の努力が重ねられている。また近年は,立地のよさの見直しから都心回帰の動きが見られ,マンションが増加している。

4.1.3 子どもの実態 子どもたちは校区探検を通して,駅前地域には高齢者が多いと感じている。また,デパート跡地が空地のままにされ,建物が減っているととらえている子どもが多い。 事前調査として,デパート跡地の今後の利用方法を尋ねた。

[デパート跡地に何ができたらいいと思いますか(事前)]

娯楽施設

公共施設

コンビニ・商店

飲食店

家・マンション

その他

合  

自分が楽しむため 7 5 5 5 2 0 24交通の利便性 1 2 3 1 0 0 7他年齢層のため 0 1 1 1 0 0 3今ないから 1 0 2 0 0 1 4合  計 9 8 11 7 2 1 38

 大規模な商業施設や遊園地や映画館などの娯楽施設,博物館や図書館などの施設に偏り,自分自身にとって魅力的な施設であるか否かで判断する傾向が見られた。デパート跡地が空地のままになっている背景を考えたり,利用者のニーズのとのかかわりを考えたりするには至っていない。

4.1.4 思考の再構成を促す手だて 駅前地域利用者減少の背景や立地の特徴や利点,これからの街づくりに求められる高齢化社会について理解した上で跡地の利用方法を考えることで,社会的要素や利用する高齢者を含めた人々のニーズと関係づけて考えることができるように単元を構成した。同じく市内にある本郷駅周辺地域と比較することで,三原駅前地域の特徴を浮き彫りにできるようにし,実態調査を受けて問いを作成した。 また,跡地の利用方法を考える際にはブレインストーミングとオズボーンのチェックリストを手がかり

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ほとんどの子どもたちは「何か知らないけど荷物」と答えた。また,鉄道貨物の良さについては,「鉄道貨物は一度に多くの物を運べる」と答えるにとどまり,定時性や安全性など鉄道貨物の他の特徴についてはとらえられていなかった。

4.2.4 思考の再構成を促す手だて 子どもたちの既有知識・理解では説明がつかない静脈物流に関する資料を提示し学習を展開することを通して,子どもたちに自分の既有知識・理解を見直させ,思考を再構成させるようにする。 単元導入時に,「鉄道貨物」についてのイメージマップを各自に作成させる。このイメージマップを友だちの意見や,資料などをもとに学習中数度修正させる。この活動を通して,自分の思考・判断を客観的に見つめ直させ,より深く正確な思考ができるようにする。

4.2.5 授業の実際(全7時間)第1次 �鉄道貨物は本当に日本の経済や社会を引っ

張っているのだろうか(1時間) ・�鉄道貨物の特徴や運ばれているものを考えること

で,子どもたちに物流に対して既有している知識・理解を明らかにさせる。

第2次 �鉄道貨物でどんな物が運ばれているのだろう(3時間)

 ・�鉄道,自動車,船舶,飛行機それぞれの輸送機関を比較することを通して,鉄道貨物の特徴を捉えさせる。

 ・�糸崎駅や広島貨物駅からどんな物が運ばれているのか考え,資料から検証することを通して静脈物流について知る。

第3次 �こらから鉄道貨物はどうなっていくのだろう(2時間)

 ・�静脈物流の現状から,継続可能な社会を創り出すために鉄道貨物が果たす役割について考える。

第4次 �再度「鉄道貨物は日本の経済や社会を引っ張っている」について考えよう(1時間)

 ・�学習したことをもとに,鉄道貨物を含め日本の物流の在り方について考える。

4.2.6 授業を終えて 子どもたちがもっている既有知識・理解をもとに,子どもたちの思考を揺さぶる資料を提示しながら学習を展開した。その結果,子どもたちは「定時性」「機密性」「安全性」といった視点から鉄道貨物や,物流を捉えることが出来るようになった。 しかし,思考を再構成できず適切な判断を導き出せ

 事前には単に自分が利用したいという理由にとらわれがちであったが,単元終了時には駅前地域の特徴や社会の変化をとらえて考えることができた子どもが増加した。 しかし,「高齢者」のとらえが一般的なものにとどまり,デパート跡地の利用方法を考える際に切実感を高めきれない場面がみられた。 単元に街頭インタビューの場面を組み込み,高齢者個人の思いを知り,結びつきを築くことができれば,高齢者一人ひとりの姿を具体的にイメージしながらの学習を展開することができたであろう。 直接体験を通して,より現実に裏づけされた知識の獲得を大切にした授業作りが,小学校高学年,中学校における社会科学習の充実につながると考えている。

4.2 小学校第5学年4.2.1 単元名

「私たちの生活と運輸 ―日本の社会や経済を引っ張っている鉄道貨物―」

4.2.2 単元について 現在私たちの生活は自動車や鉄道などの輸送機関により支えられている。しかし,輸送機関が排出する二酸化炭素などによる地球温暖化や大気汚染は地球環境を悪化させており,世界的な問題となっている。また,産業廃棄物などのゴミ処理,資源の有効利用などは重要な問題となっている。 本単元では,鉄道貨物が大量定型輸送や安全性,定時性といった特性を生かし,他の輸送機関と連携しながら日本の経済活動を支えていることを理解すると共に,モーダルシフトなど,環境に配慮した役割を担っていることについても理解することをねらいとしている。 物流には二つの流れがある。原材料を工場へ,商品を生産地から消費地へという「動脈物流」。工場や会社から出た様々な不要物や,私たちの生活から出たごみなどをリサイクル施設や処分場に運ぶ「静脈物流」である。本単元では特に「静脈物流」に焦点をあてることで,物流の在り方や鉄道貨物の特徴について考えさせることもねらいとしている。

4.2.3 子どもの実態 子どもたちは農林水産業や工業の学習で,自動車や船舶などの輸送機関により原材料や商品が国内だけではなく多国間でやりとりされていることを学んだ。しかし,鉄道貨物でどんな物が運ばれているか聞いたところ,特定されたものは「石炭」,「引っ越しの荷物」で,

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とでより一層学習内容の理解が深まるのである。また,単に内容理解の深化のみならずレイアウト力,情報の収集力,思考力,文章でまとめる力,発信内容を工夫する力なども培うことができると考える。

4.3.3 単元計画(全7時間)第1次 世界と日本の伝統的な生活・・・2時間第2次 変化する日本の生活   ・・・1時間第3次 京都と沖縄の生活文化  ・・・2時間第4次 レポートの作成(冬休みの課題)第5次 交流と学びあい     ・・・2時間

4.3.4 授業の実際(第4・5次)(1)課題追究 教科書や地図帳,資料を使っての学習(第1次~第3次)を終え,いよいよレポートの作成である。レポートの作成に先立って,作成の仕方について全員で確認していく。レポート用紙はA4である。冬休み中の課題ということもあり,分量からも適切だと考えた。  生徒たちは,年間に3回レポートを作成する機会がある。夏休みに行う新聞コンクールの新聞切り抜き部門への出展については,生徒が自由に作品作成に取り組むことができる。その他のレポートについては,生徒の発達段階を考えて,上記のような作成に向けてのマニュアルを通して実践していくようにしている。

(2)レポートの作成 レポートを作成するにあたって,一番大切なことはテーマ設定である。どのような理由でテーマを設定するのかによって,今後の情報収集やまとめ方に大きな影響を及ぼすからである。また,テーマ設定の中に,それぞれの生徒たちの興味・関心のみならず,今までの地理・歴史学習,あるいは社会の出来事についてニュースや新聞等で自ら学んだことなど既習内容との関連性も見ることができる。生徒の作品は,読んでいてとても楽しくなる。

【生徒のテーマ設定の理由】Aさん〔日本と世界の食法〕 授業中の手食についての話にとても興味を持ち,世界各地の食べ方を調べてみたいと思ったから。また,箸が日本人にこれほど生活に定着し,愛されてきた理由を知りたいと思ったから。そこで私は食品・食習俗などを分析し考察してみることにした。Bさん〔日本とインドのカレー比較〕 日本とインドのカレーについて比較しようと思った理由は,地理の教科書に,2つの国のカレーの様子が比較するように写真で示されているのを見て,本場のインドのカレーと日本のカレーは,どんな所が違うのか,調べてみたくなったからです。

なかった子どもたちがいた。その解決には次のような手だてが必要と考えている。○直接体験の充実

 より子どもたちに既有知識を明らかにさせ,思考の再構成を促すために,貨物ターミナル駅などを見学し,鉄道貨物の様子を生で見たり,関係者からの話を聞いたりするなどの直接体験が必要である。

○提示する資料の精選 各輸送機関の特徴を理解するとともに,物流には動脈物流と静脈物流があることについても理解できるように様々な資料を提示した。しかし,資料が多すぎて子どもたちは混乱したり,誤った思考をしたりした。子どもに捉えさせたい視点を絞り,より効果的な精選した資料を作成する必要がある。

○言語活動の充実 自分がどのような思考をしているのかを客観的に見つめるためには,自分の考えを言葉でノート等に記述したり,発表したりする必要がある。自分の思考の過程等をわかりやすく記述できるノート作りや,お互いの考えを効果的に交流できる話し合いの在り方を開発していく必要がある。

4.3 中学校第2学年4.3.1 単元名   「世界と日本の生活と文化」

4.3.2 単元について 本単元では,①各国の特色ある伝統的な衣食住について。②日本の伝統的な衣食住の特色をつかんだ上で,外国(ギリシャ・エジプト・ドイツ)との比較検討。③日本における電化製品などの普及過程や日本に定着した外来文化について。④それぞれの地域の特色を,世界遺産,伝統的工芸品,独特な食文化,気候と農業の関係から考えていく。⑤日米関係における沖縄の位置づけ,の5点を中心に学習していく。 どれも,生徒にとって興味・関心を惹きつける内容となっている。では,なぜ生徒の興味・関心を惹きつけるのであろうか。第一に,日本や他国の未知な内容に出会えること。また,少しは情報として知っていることを,より正確に知り,より深く考えることができるからである。第二に,小学校や中学校での修学旅行で実際に訪れた地域も含まれ,親近感を持って学習を進めていくことができるからである。しかしながら,この単元の本当の面白さは,各単元を学習した後に行う調べ学習にある。各人が既習内容をもとに,自らテーマを設定し,調べ,考え,まとめる。そして,そのまとめたものを他者と交流し,再度みんなで学び合うこ

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4.3.5 成果と課題 本単元の学習内容は,地理的分野での,習得・活用能力を高めるための実践である。これからも,系統立てて調べ学習を実施していきたい。その際に,調べて交流するだけではなく,授業を通して思考の再構成を行うことが重要であることがわかった。また,そのことが,確実な知識・理解にもつながると考える。課題としては,作成されたレポートに,内容面や表現の仕方の面で生徒間に差が生じているので,その差をうめるために,共感的理解を示しつつ,個別に指導していく。調べること,まとめること,新しい知識を得ることの喜びを感じ取れる生徒を育成するために,今後も継続的に研究に取り組みたい。

5 終わりに� �思考を再構成していくためには,発散的な思考法と収束的な思考法の育成が重要であるとされている。現在,子どもたちの思考力を高めるために,様々な方法を子どもたちに伝え実施し,より具体的な形で思考の再構成を促進している途上である。特に,発想法についてはKJ法,イメージマップ,概念地図,マインドマップなどを用いている。今後は,「NM法」など他の発想法についても調査し研究を行いながら,子どもたちの発達段階や学習内容にあったより適切な方法を試行していく。� また友だちの意見の要旨を既述する,それに対する自分の考えを既述するような「思考の再構成を促すためのノート」についても研究を行うことにしている。

引用(参考)文献

1)柳生大輔,石原直久,徳本光哉,池野範男,棚橋健治,木村博一「国際的資質を育成する社会科学習

(4)」,広島大学学部・附属共同研究紀要,第36号,2008

2)広島大学附属三原学園[編著]『21世紀型“読み・書き・算”カリキュラムの開発』,明治図書,2005

3)若木久造・福田恵一・瀬戸口信一〔編著〕『くらしと知恵が見える世界地理』,わかたけ出版,2008

4)北尾倫彦・祗園全禄〔編集〕『観点別学習状況の新評価基準表』,図書文化,2002

 生徒の課題追究は,自分の興味・関心のあるテーマについて,今までの授業で学習した内容(いわゆる社会科の4観点に相当するもの)をふまえた上で再度,学習内容の典型化をはかったものである。これを繰り返すことで,より充実した課題学習の実践が可能になると考える。生徒のレポートを交流することは,知らないことを知るといった面で,知的好奇心を刺激するものにはなるが,本単元では,思考の再構成を実践していくものなので,交流後,一斉授業の中で,生徒のレポートをもとに授業を実施した。

(3)授業の概要 ここでは,交流後の授業展開の概要を説明することにする。授業で活用する生徒のレポートは,Aさんの

「日本と世界の食法」と,Bさんの「日本とインドのカレーの比較」を利用した。2人のレポートを印刷して当該生徒に内容を発表させた後,授業を始めた。生徒たちは,食に関して興味・関心が強いので配布した資料を読みながら,内容を理解しようと積極的に取り組むことができた。紙幅の都合で,生徒の感想などを紹介できなかった。

発問(番号)・説明(○) 準 備

(1)生徒の作品紹介(2)�インドの人たちは,何を食べているので

しょうか。○世界の主作物とその食べ方の分布について。

(3)カレーの原料は何かな?(4)カレーって,黄色いけどどうして?○クミンなどスパイスについて。

(5)�では,どうしてインドではスパイスを使ったカレーを作るようになったのか?

○スパイスの効能について。(6)チャパティ以外に何があるか?○チャパティとナンの違いについて。

(7)�インドの人たちは,カレーをどのように食べていますか。

(8)�インドの人たちはどうして手で食べるのか?

(9)�チャパティはどのような役割を果たしているか?

○チャパティが箸の役割をしている。(10)�なぜインドで箸やスプーンが発達しな

かったのか。○インドの気候について。作品のコピー

作品のコピー写真(食べている)資料(分布図)

実物(クミン)

写真(スパイスの加工)

写真(チャパティとナン)

写真(手で食べている)

資料(気候)

(11)�箸を使う国は,日本以外にどこがあるのか?

○東アジアの食生活について。(12)日本と韓国の箸は,なぜ材質が違うのか?○材質の違いが文化の差を生み出す。

資料(作物)実物(箸)

(13)まとめ ノート