太陽光発電における単独運転検出機能の不要動作防止法...太陽光発電における単独運転検出機能の不要動作防止法...

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主要な研究成果 背 景 事故や作業により、配電線を一時的に系統から切り離した場合、連系している分散形電源は、その時発生す る電圧変化や周波数変化(電圧位相急変)を検出して連系を停止し、配電線が危険な単独運転状態になるのを 防いでいる。一方、電圧位相急変は、配電線ルートの切替え時など、平常時にも発生し、単独運転検出機能の 誤検出(以下、不要動作)により、分散形電源が一斉に停止する可能性がある。この結果、大量導入時には、 配電線電圧が異常に低下したり、系統全体が不安定になるおそれがある。 当所は、これまでに実施した単独運転検出方式の研究開発 *1 を踏まえ、平常時の不要動作防止と単独運転 の迅速 *2 ・確実な検出を両立させる技術開発を進めている。同技術の確立に向けて、現状の単独運転検出機 能の不要動作特性について試験評価し、改良方式を明らかにする必要がある。 目 的 導入が進んでいる住宅向け太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)を対象に、電圧位相急変に対する不 要動作特性を試験評価する。また、同 PCS の過渡特性解析シミュレーション・モデルを開発し、不要動作防 止と迅速・確実な単独運転検出を両立させる改良方式を明らかにする。 主な成果 1.位相急変時の不要動作特性と改良方式の提案 国内代表10機種の太陽光発電用PCSを対象に、位相急変試験を実施した。その結果、7割の機種において、 実際に起こりうる 10 度以下の位相急変で、単独運転検出機能の不要動作により停止することが判明した。 一方、検出しきい値逸脱の継続時間を考慮している機種は不要動作せず、適切な検出時限を設けることが不 要動作防止面での有効な方策であることが明らかになった。 この結果を踏まえ、現状の周波数変化率検出方式 *3 を対象に、周波数変化率を 2 サイクルの周波数移動平 均値から求めるとともに、同変化率が移動平均サイクル数の 2 倍以上継続してしきい値を逸脱した場合に検 出する改良方式を提案した。 2.過渡特性シミュレーションモデルの開発と改良方式の評価 過去の調査・実験結果 *4*5 、ならびに上記 PCS の実験結果にもとづき、5 秒程度以下の過渡特性を解析 するためのPCS制御・主回路系の一般化モデルを開発した(図1)。 本モデルを用いた EMTP シミュレーションにより、他の既存方式にもとづいた受動的方式と比較評価し た結果、提案方式が不要動作防止と迅速・確実な単独運転検出の双方を最も満足することを確認した(表1)。 また、提案方式を実験評価し、設計通りの動作が得られることを検証した。以上により、提案方式が有効で あることを明らかにした。 今後の展開 さらに、瞬時電圧低下に対する不要動作防止策を明らかにし、運転安定化技術を確立させる。 主担当者 システム技術研究所 需要家システム領域 上席研究員 小林 広武 関連報告書 「太陽光発電用パワーコンディショナの運転安定化技術の開発─系統位相急変時における単 独運転検出機能の不要検出防止法─」電力中央研究所報告: R07029(2008 年 7 月) 「系統連系形太陽光発電用パワーコンディショナの過渡特性解析モデルの開発」電力中央研 究所報告: R07027(2008 年 7 月) 66 太陽光発電における単独運転検出機能の不要動作防止法 *1:平成12年度 NEDO委託業務成果報告書「太陽光発電システムの実証研究(高密度連系技術の研究)」 * 2 :高低圧混触による高圧地絡事故時に要求される、最も短い 0.1 秒程度以内の検出を目標とする。 *3:周波数の10秒程度の移動平均値と、0.5秒程度の移動平均値を逐次比較し、差分が検出しきい値以上に達した場 合に検出。 *4:(社)日本電機工業会、「住宅用太陽光発電システムの複数台連系単独運転試験報告書」、平成18年6月 *5:(財)電気安全環境研究所「(平成11年度NEDO委託事業報告書)系統連系円滑化実証試験調査─シミュレー ションによる実証試験─」、平成12年3月

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Page 1: 太陽光発電における単独運転検出機能の不要動作防止法...太陽光発電における単独運転検出機能の不要動作防止法 *1:平成12年度 NEDO委託業務成果報告書「太陽光発電システムの実証研究(高密度連系技術の研究)」

主要な研究成果

背 景事故や作業により、配電線を一時的に系統から切り離した場合、連系している分散形電源は、その時発生す

る電圧変化や周波数変化(電圧位相急変)を検出して連系を停止し、配電線が危険な単独運転状態になるのを防いでいる。一方、電圧位相急変は、配電線ルートの切替え時など、平常時にも発生し、単独運転検出機能の誤検出(以下、不要動作)により、分散形電源が一斉に停止する可能性がある。この結果、大量導入時には、配電線電圧が異常に低下したり、系統全体が不安定になるおそれがある。当所は、これまでに実施した単独運転検出方式の研究開発*1を踏まえ、平常時の不要動作防止と単独運転

の迅速*2・確実な検出を両立させる技術開発を進めている。同技術の確立に向けて、現状の単独運転検出機能の不要動作特性について試験評価し、改良方式を明らかにする必要がある。

目 的導入が進んでいる住宅向け太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)を対象に、電圧位相急変に対する不

要動作特性を試験評価する。また、同PCSの過渡特性解析シミュレーション・モデルを開発し、不要動作防止と迅速・確実な単独運転検出を両立させる改良方式を明らかにする。

主な成果1.位相急変時の不要動作特性と改良方式の提案

国内代表10機種の太陽光発電用PCSを対象に、位相急変試験を実施した。その結果、7割の機種において、実際に起こりうる10度以下の位相急変で、単独運転検出機能の不要動作により停止することが判明した。一方、検出しきい値逸脱の継続時間を考慮している機種は不要動作せず、適切な検出時限を設けることが不要動作防止面での有効な方策であることが明らかになった。この結果を踏まえ、現状の周波数変化率検出方式*3を対象に、周波数変化率を2サイクルの周波数移動平

均値から求めるとともに、同変化率が移動平均サイクル数の2倍以上継続してしきい値を逸脱した場合に検出する改良方式を提案した。

2.過渡特性シミュレーションモデルの開発と改良方式の評価過去の調査・実験結果*4*5、ならびに上記PCSの実験結果にもとづき、5秒程度以下の過渡特性を解析

するためのPCS制御・主回路系の一般化モデルを開発した(図1)。本モデルを用いたEMTPシミュレーションにより、他の既存方式にもとづいた受動的方式と比較評価し

た結果、提案方式が不要動作防止と迅速・確実な単独運転検出の双方を最も満足することを確認した(表1)。また、提案方式を実験評価し、設計通りの動作が得られることを検証した。以上により、提案方式が有効であることを明らかにした。

今後の展開さらに、瞬時電圧低下に対する不要動作防止策を明らかにし、運転安定化技術を確立させる。

主担当者 システム技術研究所 需要家システム領域 上席研究員 小林 広武

関連報告書 「太陽光発電用パワーコンディショナの運転安定化技術の開発─系統位相急変時における単独運転検出機能の不要検出防止法─」電力中央研究所報告:R07029(2008年7月)「系統連系形太陽光発電用パワーコンディショナの過渡特性解析モデルの開発」電力中央研究所報告:R07027(2008年7月)

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太陽光発電における単独運転検出機能の不要動作防止法

*1:平成12年度 NEDO委託業務成果報告書「太陽光発電システムの実証研究(高密度連系技術の研究)」*2:高低圧混触による高圧地絡事故時に要求される、最も短い0.1秒程度以内の検出を目標とする。*3:周波数の10秒程度の移動平均値と、0.5秒程度の移動平均値を逐次比較し、差分が検出しきい値以上に達した場

合に検出。*4:(社)日本電機工業会、「住宅用太陽光発電システムの複数台連系単独運転試験報告書」、平成18年6月*5:(財)電気安全環境研究所「(平成11年度NEDO委託事業報告書)系統連系円滑化実証試験調査─シミュレー

ションによる実証試験─」、平成12年3月

Page 2: 太陽光発電における単独運転検出機能の不要動作防止法...太陽光発電における単独運転検出機能の不要動作防止法 *1:平成12年度 NEDO委託業務成果報告書「太陽光発電システムの実証研究(高密度連系技術の研究)」

4.電力流通

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種 類 検出方法の概要 位 相急変時の 応答特性

単独運転 検出特性(注) {0.1 秒を越 える頻度}

総合評価

(順位)

<既存方式> 電圧位相跳躍検出Ⅰ

・電圧位相の変化を逐次監視。 ・検出時限:なし。

6 度以上で不要 動作 (×)

3

<既存方式> 電圧位相跳躍検出Ⅱ

・電圧位相の変化を逐次監視。 ・検出時限:しきい値逸脱が 4 サ イクル以上連続した場合に検出。

不要動作無し (○)

中 2

<提案方式> 周波数変化率検出 (改良形)

・周波数の時間変化率を監視。 ・検出時限:しきい値逸脱が 4 サ イクル以上連続した場合に検出。

不要動作無し (○)

小 1

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

A

B

C

D

-400

-300

-200

-100

0

100

200

300

400

3.96 3.98 4 4.02 4.04 4.06

系統電圧( Vsys) PCS 電流( Ipcs)

位相急変発生 PCS 不要停止

時 間 (秒)

実験値とモデル 計 算値はよく一致。

不要停止の計算例

Φ1 ( 位 相検 出)

Φ2 ( 位 相検 出)

連系 点電 圧( Vsys

1. 0T2・ s Vin = sin( 2π f o t -Φ )

-

+

Ib

Vout = Vin・ exp( j�Δf )

1.0 T1・ s

-

+ Pac(交 流出力 )

Pacr

Φ

配電系 統

電流 瞬時 値 I pcs

Δ f = f - fo

Ib’

PCS 出力 電 流 ( Ipcs)

(注 ) f o :基 準周 波数 ( 50Hz)

連 系 保 護機護機 能部能部 (単(単 独運独運 転検転検 出受出受 動 的 方 式 を 含含 む )

出 力電力を一定力電力を一定 に保つに保つ 機能機能 ( AP R 制御制御 部 )

単独運単独運 転検転検 出 能能 動的方動的方 式(式( 周 波波 数シフ数シフ ト方ト方 式 ) の 信号重信号重 畳部畳部

系統系統 と同期と同期 を取を取 る機能る機能 ( PLL 回路回路 )

(正 弦波 発 信 器 )

(位 相変 調器 )

Vsys

Ib’ の 絶対値

(積 分回 路)

(積 分回 路)

I pcs

(a)太陽光発電用PCSモデル

(b)モデル妥当性検証結果(単独運転停止時間の    実験値と計算値の比較、パラメータ:PCS機種)

図1 開発した太陽光発電用PCSの過渡特性シミュレーション・モデルと妥当性検証結果

表1 単独運転検出受動的方式のシミュレーション解析結果

(注)周波数シフト方式と組み合わせた場合の特性。同方式は、現状で一般的に使用されている単独運転検出能動的方式の一つで、単独運転時に周波数が能動的に変化するように周波数制御系を設定しておき、最終的に受動的方式で検出させる。

(0~90度)

単独運転停止時間(実験結果)(秒) 単独運転停止時間(

計算結果)(

秒)

電圧(

V), 電

流(A)

(交流出力基準)

4