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品質管理マニュアル

品質管理マニュアル

                                 2007.04.26

                              アドバンテック研究所

                               代表 村上 彰

                           

■ 統計的品質管理(SQC)

 SQC (statistical quality control)

 品質管理の方法の中で、統計的手法を用いて用いるもの。製品の1つ1つの品質ではなく、生産工程全体(材料・機械装置・作業・製品)を対象として品質特性を測定し、その分布(ばらつき)を見て管理を行う。品質特性が規格に対する適合/不適合として設定されている場合は、良品率/不良率で表現される。

 20世紀初頭、工業生産による製品品質は工員による熟練の技と検査に依存していたが、1920年代に米国・ベル研究所のシューハート(W.A.Shewhart)博士が大量生産における製造品質を一定にする方法として、統計的方法の利用を発案したことが発端とされる。その実際には、第二次世界大戦に際して軍指導の下、米軍需産業界において適応されるまで実施されなかった。

 同大戦敗戦の原因を「米軍の物量作戦」ととらえた日本の産業界では戦後、エドワード・デミング(W.Edwards Deming)博士らを招へい、統計的手法に基づく品質管理に取り組み、のちの日本型品質管理(TQC)へと発展した。

■ 日本型品質管理(TQC)総合的品質管理 / 全社的品質管理

TQC (total quality control)

 主に製造業において、製造工程のみならず、設計・調達・販売・マーケティング・アフターサービスといった各部門が連携をとって、統一的な目標の下に行う品質管理活動のこと。

 JIS(日本工業規格)用語では、次のように定義されている。

品質管理を効果的に実施するためには、市場の調査、研究・開発・製品の企画、設計、生産準備、購買・外注、製造、検査、販売及びアフターサービス並びに財務、人事、教育など企業活動の全段階にわたり経営者を始め管理者、監督者、作業者などの企業の全員の参加と協力が必要である。このようにして実施される品質管理を全社的品質管理(company-wide quality control、略してCWQC)、または総合的品質管理(total quality control、略してTQC)という。

 もともとは、1950年代にGE社の品質管理部長だったA.V.ファイゲンバウム(Armand Vallin Feigenbaum)氏が提唱した言葉で、「最も経済的な水準で、顧客を十分に満足させるような製品を生産するために、企業の各部門が品質開発・維持・改良していく努力を総合的に調整すること」としている。

 日本の製造業は終戦直後から1950年代にかけて、統計的品質管理(SQC)やデミングサークルなどの品質管理(QC:quality control)手法を強力に導入推進していたが生産各工程への適用に留まっており、これを統括的に扱う手法として1960年代にTQCが輸入された。

 しかし、オリジナルのTQCが「製品提供の全プロセスで総合的・調整的に品質管理を行う」という点がポイントであったのに対して、日本においては独自の発展を遂げた。

 日本のTQCの特徴は、現場のQCサークルを中心とした「全員参加型」の活動にある。QCサークルとは、現場の監督者と作業担当者が品質管理について意識を高め、具体的な活動のアイデアを出し合う小集団のこと。日本ではQCサークルを主体として、QC手法の開発や診断、改善、教育・訓練などが進められた。QCサークル活動を盛り上げるため、1962年には雑誌「現場とQC」が創刊、日本科学技術連盟(日科技連)内には「QCサークル本部」が設置された。また、同連盟会長名で企業・個人を表彰する「デミング賞」は、TQCの普及・推進を目的とした制度である。

 こうした活動の結果、ファイゲンバウムが提唱した「全プロセス型TQC」とは異なるものの、現場作業者が中心の日本型TQC(別名CWQC:company-wide quality contorol)が確立された。

 この日本型TQCは「良い製品を、より早く・安く」という目的に対し、現場や全社員が一丸となって改善に取り組むことで、1980年代をピークに圧倒的な国際競争力を生み出してきた。しかし1990年代に入り、顧客ニーズが多様化し、製品ライフサイクルが短くなるにつれ、TQCの問題点も明らかになってきた。最大の課題は、TQCは企業内の活動に軸足を置いているため、顧客志向でない、“改善”は得意だがブレークスルーを生み出しにくいことなどである。

 そこで米国ではTQCに変わる新しい概念として、TQMが提唱された。米国型TQMにはトップダウン型、顧客満足の導入などの特徴があり、日本型TQCと異なる面があるが、海外では日本型TQCを含めて“TQM”と紹介されることも多く、1996年には日科技連もTQCという用語をTQMへ変更している。

■ TQM (total quality management)

総合的品質管理

 全社的品質管理手法「TQC」を基盤とし、さらにその考え方を業務や経営へと発展させた管理手法のこと。

 1980年代、米国では強い国際競争力を持つ日本の製造業の研究が盛んで、その1つとして日本型TQCを学ぼうとの機運が高まった。しかし、日本の現場主導型改善活動は、米国の企業風土と合わないなどの理由から、会社全体をマネジメントするという観点から、基本的にトップダウンで実施される品質管理のスタイルとなった。これがTQMの発端だとされる。

 TQMでは、最上位の「経営戦略」から「顧客満足向上」「品質向上」へとブレイクダウンしていくマネジメント手法を取っており、“経営品質”の向上がテーマとなる。またTQMは1980年代にちょうど登場した「顧客満足」の概念を取り入れており、「多様化・短期化する市場ニーズに合わせる」ことを目的の1つとしている。

 国内ではバブル崩壊後の1994年ごろから、大企業を中心に従来のTQCからTQMへと呼び名を変更するようになった。1996年には日本のTQCを推進してきた日本科学技術連連盟(日科技連)もTQCという用語をTQMへ変更し、TQM活動が本格化していった。

 ただし、日科技連では「新たなTQMの枠組みは、基本的には従来のTQCの概念・方法論を継承するもの」としており、TQCすべてを否定するものではない。TQCで行われてきたQCサークルなどのQC活動は、TQMを実現する構成要素と位置付けられている。

 TQCが現場の品質管理活動に主眼を置いていたのに対し、TQMでは企業全体での取り組みが重要になる。具体的には、経営的なマクロ視点で品質管理活動を文書化・明確化し、徹底させるという「マネジメント」に重点が置かれるようになった。また、こうした考え方に合致したISO 9000などの国際品質保証規格の取得もブームとなり、TQMは広く受け入れられている。

■ PDSAサイクル PDSA cycle / plan-do-study-act cycle

 マネジメントサイクルの1つで、計画(plan)、実行(do)、評価(study)、改善(act)のプロセスを順に実施し、最後のactを次のplanに結び付け、らせん状に品質の維持・向上や継続的な業務改善活動などを推進するマネジメント手法。

 1980年代の半ばごろから、品質管理の父といわれるW.エドワード・デミング(Dr. William Edwards Deming)博士がPDCAサイクルに代えて使い出した言葉。checkがstudyになったのは、より詳しく評価するというニュアンスがあるという。

■ PDCAサイクル PDCA cycle / plan-do-check-act cycle

 典型的なマネジメントサイクルの1つで、計画(plan)、実行(do)、評価(check)、改善(act)のプロセスを順に実施する。最後のactではcheckの結果から、最初のplanを継続(定着)・修正・破棄のいずれかとして、次回のplanに結び付ける。このらせん状のプロセスによって、品質の維持・向上および継続的な業務改善活動を推進するマネジメント手法がPDCAサイクルである。

 1950年代、品質管理の父といわれるW・エドワード・デミング(Dr. William Edwards Deming)博士が、生産プロセス(業務プロセス)の中で改良や改善を必要とする部分を特定・変更できるようプロセスを測定・分析し、それを継続的に行うために改善プロセスが連続的なフィードバックループとなるように提案した。このためデミングサイクル(Deming cycle)とも呼ばれる。ただし、オリジナルはデミングの師であるW・A・シュハート(Walter Andrew Shewhart)だともいわれる。なお、デミングは晩年、PDSAサイクルという言い方を使うようになった。

plan

目標を設定して、それを実現するためのプロセスを設計(改訂)する

do

計画を実施し、そのパフォーマンスを測定する

check

測定結果を評価し、結果を目標と比較するなど分析を行う

act

プロセスの継続的改善・向上に必要な措置を実施する

 PDCAサイクルの考え方は、製造プロセス品質の向上や業務改善などに広く用いられ、ISO 9000やISO 14000などのマネジメントシステムに取り入れられている。

■ QC活動 quality control activities

 品質管理(QC:quality control)の手法を用いて具体的な業務課題の解決に取り組み、その品質の適正保持・効率化・改善などの対策を考え、実践する活動のこと。一般的に、QCサークルと呼ばれる小集団による活動を指すことが多い。

 1950年代から始まった初期のQC活動は、米国から導入された統計的品質管理(SQC)に由来するもので、品質のバラツキや異常の把握が中心テーマだった。1960年代に入ると具体的な問題解決の実践として日本独自の小集団活動が開始され、1970年代以降は全社的品質管理(TQC)として発展しながら、製造業を中心に各社で広く実施されるようになった。

 この製造現場のQC活動(QCサークル活動)は、職場ごとに作られたグループを単位に全員参加で人材育成や相互啓発、職場の管理・改善を継続的に行うものである。これは現場作業者による自主的な活動で、経営者や管理者はそれを支援するという立場となる。QCサークルは企業活動への全員参加の意識を生み出し、現場の創意工夫を経営革新に活かすことができる日本型経営手法の典型として評価されている。

 しかし、1980年代に入るとQC活動の活力の低下が指摘されるようになる。これは日本企業の課題の中心が「いかに生産するか」から「いかに販売するか」に移ったためだといわれる。こうした経営環境の変化に対応して、QC活動を製造現場から販売部門や開発部門、管理部門への拡大が志向されたが、不確実性の高いこれらの業務への適応は困難で「QC活動神話」の凋落はいっそう加速されることになった。以後、TQM、シックスシグマ、ISO 9000/14000など国際的な手法に取り組む国内企業が増えている。

■ シックスシグマ six sigma / 6 sigma

 各種の統計分析や品質管理手法を体系的に使用して、製品製造やサービス提供に関連するプロセス上の欠陥を識別・除去することにより、業務オペレーションのパフォーマンスを測定・改善する厳格で規律ある経営改善方法論。

 シックスシグマは、もともとは1980年代初頭に米モトローラ(Motorola, Inc.)で生産プロセスを改善するために開発された手法で、多くを日本の製造メーカーなどで実施されていたTQC(total quality control:総合品質管理)に負っている。

 品質管理のためには“ばらつき”をコントロールすることが欠かせないが、その方法であるSQC(statistical quality control:統計的品質管理)などの一般的な管理図では3シグマ法が使われている。シグマ(σ)とは、統計学用語で標準偏差(分散の平方根)のことで、分布の「ばらつき」を示す。3シグマ法は、品質のばらつきを標準偏差で測定し、正規分布の中心に平均からプラスマイナス3シグマを上限・下限管理限界として、管理限界の外に出た場合に対応を行うことで品質を維持しようというものだ。シックスシグマは、上限・下限管理限界に6シグマを使用することがその名の由来である。

 シックスシグマの活動は、ブラックベルトと呼ばれるチームリーダーの下に行われる。「COPQ(cost of poor quality:製品やサービスの品質不良のために生じる無駄なコスト)」と「CTQ(critical to quality:経営品質に決定的な影響を与える数少ない要因)」を2つの指導原理として、特定の要因やプロセスなどをフローチャート化し、「MAIC」(Measurement/Analysis/Improvement/Control)というサイクルをまわすことで各プロセスをチェックし、欠陥が起こる部分を改善する作業を継続的に行っていく。

 1990年代半ばには、GE(ゼネラル・エレックトリック)が、製造プロセスではなく経営活動中に存在するプロセス全般を対象に、顧客視点をベースに経営改革を実現する手段として導入し成果を上げたとされたことから、経営改革手法として一躍有名になった。

 シックスシグマは日本的経営の研究から生まれてきたものといえるが、原則として米国企業の風土に合わせてトップダウンで進めるように設計されている点には注意が必要である。逆に日本企業の特質を踏まえた「日本版シックスシグマ」を提唱する向きもある。

 なお、「Six Sigma」は米モトローラの登録商標となっている。

■ 顧客満足

CS / customer satisfaction

 顧客が持っている事前期待、顕在/潜在的なニーズあるいは要求事項が、提供された製品・サービスの効用によって満たされること。またはその充足の程度をいう。

 1987年に米国で創設されたマルコム・ボルドリッジ国家品質賞において中心的な評価基準として取り入れられたことから広く知られるようになり、1980年代末から1990年代半ばにかけて日本でも多くの企業が理念やスローガンとして「顧客満足経営」を掲げ、ブームの様相を呈した。

 ボルドリッジ賞を範として作られた日本経営品質賞ではアセスメント項目として「顧客満足の明確化」が挙げられ、ここで「顧客満足とは、顧客に期待以上の価値が提供されたときの、顧客の心理状況をいう」と定義されている。ISO 9000でも2000年版から「顧客満足の把握」が要求されるようになったが、その基本及び用語によれば「顧客の要求事項が満たされている程度に関する顧客の受けとめ方」とされている。

 顧客満足の原点としては、ピーター・F・ドラッカー(Peter F. Drucker)の著書「The Practice of Management」(1954年)、マーケティングの泰斗 セオドア・レビット(Theodore Levitt)の論文「Marketing Myopia」(1960年)などを挙げることができるが、キーコンセプトとして注目されるようになったのは1960年代の消費者運動(製品に満足しない消費者の登場)などを受けて、それまでの差別化戦略の行き詰まりが感じられるようになってきたマーケティング分野においてで、1970年代の終わりごろからである(日本ではマーケットインという言葉が登場する時期に当たる)。これは顧客が企業を選ぶ時代になったことを意味するといえる。

 一般に顧客満足は、顧客が製品やサービスの購買・使用などの体験を通じて形成される個人の心情的評価としてとらえられている。この意味での顧客満足の形成に関して現在、最も支配的な理論はリチャード・オリバー(Richard L.Oliver)によって提示された「期待不確認モデル(expectation - disconfirmation model)」で、簡単にいえば「期待(E)」と「パフォーマンス(P)」を比較し、「E>P」であれば不満、「E<P」であれば満足というもの。顧客満足度調査は、この理論に基づいて行われる。ただしISO 9000でいう顧客満足は、要求事項を過不足なく達成した状態──すなわち「E=P」のことを満足(satisfaction)としている。これは英語のsatisfactionの原義がそのようなニュアンスであること、そして顧客が“個人”ではなく“企業”であることを前提としているためと考えられる。また近年は、「E<P」のことをカスタマ・ディライトと区別することもある

 企業にとっては、自社が提供する商品・サービスのパフォーマンスの品質を高めていくことも大切だが、顧客の事前期待を適切にコントロールすることも重要である。顧客の期待は、過去の購買経験のほか、知人などからの情報、雑誌やネットでの評判、広告・カタログ、従業員の振る舞いや言動などから形成される。これらを通じて、提供する商品・サービスのパフォーマンスと齟齬を来たさないように期待レベルを形成する努力が求められることになる。

 また企業が提供する製品・サービスには「本質機能」と「表層機能」があり、の双方が期待に一致したときに顧客は満足するという理論もある。ジョン・E・スワン(John E. Swan)、リンダ・ジョーンズ・コームズ(Linda Jones Combs)による「Product Performance and Consumer Satisfaction: A New Concept」(1976年)によれば、本質機能とは顧客にとって不可欠な機能であり、一定の品質レベルをクリアしていることが必要となる。例えば“自動車が走る”とか、“ホテルに宿泊できる”などのことで、これはあって当たり前のものであって過剰なサービスを提供しても顧客満足度が大きくならない代わりに、機能が水準以下になると顧客満足が急低下する。一方、「表層機能」は本質機能を補完したり、付加価値を加えたりするもので、“自動車の燃費が優れている”“ホテルの従業員が親切”などが該当する。本質機能が水準以上であるという条件を満たしている限り、表層機能の品質レベルが向上するに従い、顧客満足も向上することが期待される。顧客に製品・サービスを提供する場合には2つの機能を区別し、本質機能を期待通り提供したうえで、表層機能で差別化を行うことが重要となる。

 経営手法として日本でブームになった際には、顧客満足は精神論的に「サービスレベルを上げること」と解釈されることが多く、過剰なサービス提供や多機能化、多アイテム化などが見られ、経営資源の浪費や現場の疲弊を生む例が見られた。しかし、本来の顧客満足経営は顧客の期待レベルを知り、それと自社が提供している商品・サービスが合致している顧客を選別することが必須である。1990年代にはITを活用して顧客の選別、長期取引(顧客を知ることにつながる)を目指すCRMやOne to Oneマーケティングが登場する。

■ ISO/IEC 20000

 ITサービスマネジメントに関する国際規格。ITサービスを提供するサービスプロバイダ(企業内のIT部門を含む)が、顧客の求める品質レベルのITサービスを安定的に供給する仕組みを確立し、その有効性を継続的に維持・改善するために必要となる要求事項を規定している。

 ITサービスマネジメントのプロセスについて記述したもので、直接の対象はITシステムの運用オペレーションであり、サービス提供を行ううえで必要となるツール、プロダクト、システムは評価対象ではない。ただし、間接的にそれらの開発に役立てることは可能である。

 2004年に英国規格BS 15000がファストトラック(既存規格を使って迅速に国際規格化を図る手順)提案がされ、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)の合同技術委員会であるISO/IEC JTC 1/SC 7で審議が行われ、2005年12月にISO/IEC 20000として発行した。なお、発行と同時に早期見直しのためのワーキンググループがSC 7の下に設立されている。

 ISO/IEC 20000はBS 15000と同様、2部構成になっている。

ISO/IEC 20000

ISO/IEC 20000-1:2005

Information technology -- Service management -- Part 1: Specification(情報技術-サービスマネジメント-第1部:仕様)

ISO/IEC 20000-2:2005

Information technology -- Service management -- Part 2: Code of practice(情報技術-サービスマネジメント-第2部:実践のための規範)

2006年11月現在

 「ISO/IEC 20000-1」は、ITサービスマネジメントを実施するための要求仕様を定義している。第三者認証審査を行う際の認証規格となっており、この規格を基準にして適合性の審査が行われる。一方の「ISO/IEC 20000-2」はITサービスマネジメントの実施規準(ガイドライン)で、ITサービスプロバイダがISO/IEC 20000-1の要求仕様に適合したプロセスを確立するための推奨事項がまとめられている。

 内容はITILとほぼ同様だが、ITILが単にライブラリ(規範集)として編さんされているのに対して、ISO/IEC 20000は顧客の要求にサービス品質を適合させるためのマネジメントシステムとして構成されている。ISO/IEC 20000では5つのプロセス群と13のサブプロセスを規定(第6~10章)し、これらをISO 9000などと同様にプロセスアプローチの考え方に基づいて、PDCAサイクルを回して継続的に改善していくことを推奨している。また、要求事項として「経営陣の責任」が明記されている点がITILと異なる。

ISO/IEC 20000-1の構成

  序文

 

1. 適用範囲

 

2. 用語および定義

 

3. マネジメントシステム要求事項※

3.1 マネジメントシステム

3.2 経営陣の責任

3.3 文書化に関する要求事項

3.4 力量、認識及び教育・訓練

4. サービスマネジメントの計画及び実施

4.1 サービスマネジメントの計画

4.2 サービスマネジメントの実施及びサービスの提供

4.3 監視、測定及びレビュー

4.4 継続的改善

5. 新規サービス又は変更の計画及び実施

 

6. サービスデリバリ プロセス

6.1 サービスレベル管理

6.2 サービスの報告

6.3 サービス継続性及び可用性管理

6.4 ITサービスの予算管理及び会計

6.5 キャパシティ管理

6.6 情報セキュリティ管理

7. 関係プロセス 

7.1 一般

7.2 事業関係管理

7.3 サプライヤ管理

8. 解決プロセス 

8.1 背景

8.2 インシデント管理

8.3 問題管理

9. コントロールプロセス 

9.1 構成管理

9.2 変更管理

10. リリースプロセス

10.1 リリース管理プロセス

  参考文献

参考文献

※ISO/IEC 20000-2では「マネジメントシステム」

 ISO/IEC 20000は認証/審査登録に用いられることを意図して作られており、第三者機関による審査を通じて、ITサービスプロバイダのITサービス品質の証明を提供する制度が想定されている。日本では日本情報処理開発協会(JIPDEC)を審査登録機関の認定機関とするITサービスマネジメントシステム(ITSMS)適合性評価制度が運用される見込みで、2006年7月からパイロット運用が開始されている。また、JIPDECは日本語化作業も行っており、「JIS Q 20000」としてJIS化される見込みである。

■ ISO 9000

 ISO(国際標準化機構)が定めた、組織における品質マネジメントシステムに関する一連の国際規格群。企業などが顧客の求める製品やサービスを安定的に供給する“仕組み(マネジメントシステム)”を確立し、その有効性を継続的に維持・改善するために要求される事項などを規定したもの。

 製品やサービスを外部から調達(特に大量購入・長期契約など)する購入者(顧客)は、供給者に契約で品質保証を求めることが多い。さらに製品/サービスそのものの品質のみならず、それを開発・生産・流通するための各工程や経営者の責任などを含めて、契約の形で品質保証を要求される場合も少なくない。

 こうした品質保証に関する要求事項の標準として規格化されたものが、ISO 9000シリーズである。この規格に基づいて、供給側企業が社内で品質管理システムを自己評価(あるいは自己適合宣言)したり、顧客が供給者を直接審査したり、信用できる第三者(審査登録機関)に依頼して客観的な評価を受け認証取得(審査登録)を行ったりする。

 これにより顧客は、供給者が求める品質マネジメントシステムを保持しているかどうかを見極め、信用・信頼できる供給先かどうかを効率的、効果的に判断できるようになる。

 ISO 9000が求めるマネジメントシステムを簡単にまとめれば、「明確な方針・責任・権限の下、業務プロセスをマニュアル化(手順化)して、それを仕組みとして継続的に実行、検証を行うこと」である。

 歴史的には、1959年に米国国防総省が制定した軍需調達規格MIL-Q-9858に由来するとされる。1968年にはNATO軍がこれを下敷きにしたAQAP-1規格を採用、1979年にこれらを参考にした英国国内規格BS5750が発行された。

 1960~1970年代、欧米において軍需調達を中心に購入サイドからの品質保証のニーズが高まり、米国ANSI/ASQCZ1-15、フランスNFX-5-110、ドイツDIN 55-35、カナダCSA Z229など、品質管理に関する国内規格の制定が相次いだ。しかし、各国で品質システム規格が異なるのは国際通商活動を阻害することから、1979年にISO内に品質管理・品質保証の分野に関する技術委員会「TC 176(Technical Committee 176)」が設置され、国際規格化が進められた(第1回総会は1980年)。

 結果、1984年にISO 8402(用語規格)が、1987年にはBS5750をベースとしたISO 9000~9004の5つの品質保証規格(ISO 9000シリーズ)が発行された(1994年に改正)。

 1987/1994年版のISO 9000は製品規格と組み合わせて、顧客と供給者の2者間取引で利用されることが想定されていた。しかし、この規格を利用した第三者審査が拡大し、その中で拡大解釈や不適切な使用といった混乱が生じるようになっていた。また、製造業(組み立て製造業)が前提になっている、経営者の関与が不明確などの問題点が指摘されてきた。

 こうした流れを受けて2000年に大改正が行われ、基本的な考え方が“品質保証”から“品質マネジメントシステム”へと変更された。構成の面でも、ISO 9001、9002、9003はISO 9001:2000に統合、環境マネジメントシステム監査との整合性の観点からISO 19011が発行され、ISO 9000ファミリーは4つのコア規格に整理された(9000番台の番号を持たない関連規格・文書を含めた、品質マネジメントシステムに関する一連の規格類のことを「ISO 9000ファミリー」と呼ぶ)。

ISO 9000ファミリー コア規格

ISO 9000:2000

品質マネジメントシステム-基本及び用語

ISO 9001:2000

品質マネジメントシステム-要求事項

ISO 9004:2000

品質マネジメントシステム-パフォーマンス改善の指針

ISO 19011:2002

品質マネジメントシステムと環境マネジメントシステムの監査指針

ISO 9000ファミリー そのほかの主な規格

ISO 10005:1995

品質管理-品質計画書についての指針

ISO 10006:2003

品質マネジメントシステム-プロジェクトにおける品質マネジメントの指針

ISO 10007:2003

品質管理-構成管理の指針

ISO 10012:2003

測定マネジメントシステム-測定手順及び測定装置の要求事項

ISO/TR 10013:2001

品質マネジメントシステム文書の指針

ISO/TR 10014:1998

品質の経済を管理するための指針

ISO 10015:1999

品質マネジメント-教育訓練の指針

ISO/TR 10017:2003

ISO 9001:2000のための統計的手法に関する指針

2004年4月現在

 ISO 9001は要求事項の規定で、顧客満足と品質マネジメントシステムの継続的な改善を目的に、最低限きちんと行うべきことを定めている。これは内部監査、第三者審査の際の審査基準としても使われる。一方、ISO 9004は品質マネジメントを行っていく際の指針で、すべての利害関係者の相互作用の中で品質マネジメントの“システム”をどのように効果的に機能させるかという位置付けのもので、組織内部の改善モデルとなる。ISO 9001とISO 9004は独立した規格だが、一対のもの(コンシステントペア)として利用されることが意図されている。

 なお、日本においては、JIS Q 9000ファミリーとして国内規格化が進められている。

■ ISO 14000

 ISO(国際標準化機構)が定めた、組織における環境マネジメントシステムに関する一連の国際規格群。企業などの活動、製品およびサービスによって生じる環境への負荷の低減──環境パフォーマンスの改善を実施する“仕組み(マネジメントシステム)”を確立し、その活動を継続的に運用するために要求される事項などを規定したもの。

 ISO 14000シリーズは世界的な環境重視の流れから生まれてきた。1992年、リオデジャネイロで開催された「地球サミット」に合わせて、結成された「持続的発展のための産業界会議(BCSD)」が環境マネジメント規格の制定をISOに勧告したことをきっかけとして作業が始まり、1996年に初版が発行された。2004年には要求事項の明確化、ISO 9001との両立性を向上した改訂版が発行されている。

ISO 14000シリーズの概要

ISO 14001:2004

環境マネジメントシステム - 要求事項及び利用の手引

ISO 14004:2004

環境マネジメントシステム - 原則、システム及び支援技法の一般指針

ISO 14010シリーズ

環境監査

ISO 14020シリーズ

環境ラベル

ISO 14030シリーズ

環境パフォーマンス評価

ISO 14040シリーズ

ライフサイクル・アセスメント

ISO 14050

用語と定義

ISO Guide 64

製品規格の環境側面

2005年1月現在

 ISO 9000シリーズと同様、組織が規格に適合した環境マネジメントシステムを構築していることを宣言・認証取得するために用いられ、その企業・組織が環境配慮の姿勢・活動を行っていることを示す手段となる。究極的には、認証取得を通じて企業体質を変え、会社を優良企業に導くということが目標となる。

 なお、日本においては、JIS Q 14000シリーズとして国内規格化が行われている。

■ プロセスアプローチ

process approach

 品質管理において、品質の向上・維持の活動を最終工程における検品に頼るのではなく、すべての工程(プロセス)においてそれぞれの役割や要件、目的・目標、有効性などを明確にし、工程間の相互関係を的確に把握して、不良品やミスの発生を少なくするという考え方。

 これは各プロセスにおける「インプット」「資源・情報」「アクティビティ・方法」「アウトプット」に注目して判断基準を定義し、PDCAサイクルを通じてそれら適正に管理(control)する。さらに各プロセスが結合したシステム(品質マネジメントシステム)においてもPDCAを行い、全体を管理(manage)するというモデルになっている。

 品質管理における“品質”とは製品やサービス自体の品質ではなく、それを生み出す仕事のやり方=プロセスやそのマネジメントの質であり、経営資源(人材、組織、設備、技術)の充実度を指す。こうした「原因」の改善を通じて、売り上げや利益、製品・サービス、安全性や環境対策といった「結果」が生み出されると考える。

 ISO 9000:2000ではプロセスアプローチを「品質マネジメントシステムの8原則」の1つに挙げ、構築した品質マネジメントシステムが効率的に実施され、有効性を継続的に改善していくために、その採用を推奨している。

■ アウトソーシング

outsourcing

 企業が自社の業務や機能の一部または全部を、専門業者あるいは子会社などの外部に委託すること。特定の部門を人員を含めて子会社化したり、事業売却(業務委託は継続)することを指す場合もある。

 従来、情報システムにかかわる開発、運用、保守といった業務を外部業者や系列子会社に委託することをいう用語として使われることが多かったが、近年では経理や総務、人事といった間接業務の外注化のほか、製品設計や開発、生産、物流業務などの外部委託を含め、全般的にアウトソーシングと呼ぶようになっている。

 英語本来の意味では、その業務に関して業務設計から管理・決済責任までの一切を全面的に負うものをアウトソーシング、発注企業側が戦略とコントロールを保持した状態でオペレーションのみをパートナーに委託するものはアウトタスキング(outtasking)という。この双方を含めた広い意味でアウトソーシングという語を使うこともある。

 本来の戦略的アウトソーシングは、コア・コンピタンス経営の推進──すなわち自社が得意とする分野へ限られた経営資源を集中するため、ビジネスプロセスの中に積極的に外部資源を取り入れることを意味し、「高度な外部資源の利用」「固定費の変動費化」「柔軟な業務プロセスの確保」「業務変革の迅速化」「設備投資負担の軽減」などが目的となる。こうしたアウトソーシングはエレクトロニクス産業のセットメーカーが製造部門を切り離し、EMS(electronics manufacturing service)事業者を利用するケースが代表例だ。

 情報システム関連業務のアウトソーシング(アウトタスキング)に関しては、「技術力の確保」「開発業務などにおけるスケーラビリティの保持」「リスク回避」などが目的とされることが多かったが、最近では「情報化投資の削減」「全社的なリストラクチャリングの一環」として行われるケースが目立つ。しかしコスト面のみに着目した安易なアウトソーシングは、“戦略なき外注”となり、最適なITガバナンスが失われるリスクがある。IT業務に関しても全社最適を考え、自社で行う業務と外部に委託する業務を適切に切り分け、「ビジネスパートナー」として対応してくれるアウトソースを選択することが重要となる。

 調達される資源は、SEやプログラマ、保守要員といった人的なもののほかに、ASPのようなソフトウェア資源、ホスティングやデータセンター・サービス、ユーティリティ・コンピューティングといったハードウェア資源、ネットワークインフラ、セキュリティサービスなど多岐にわたり、これらの調達に関してもアウトソーシングに位置付けられる。また最近では、これら資源を国境を越えて調達する海外アウトソーシング(offshore outsourcing)にも注目が集まっている。

■ ワークアウト

work-out

 GE(ゼネラル・エレクトリック)が、1980年代末から全社規模で導入・実施した業務改善プログラム。同社の官僚的社風を打破するのに大きな力となったと評価される。

 もともとGEは社員研修に熱心な会社だったが、研修所の自由な雰囲気が全社に行きわたらないことに不満をもった同社会長兼CEO(当時)のジャック・ウェルチ(John F. Welch, Jr.)が、ニューイングランドの伝統的なタウンミーティングに習ってざっくばらんに話し合われた改善策を、具体的な行動・実践に結び付けるよう制度化したもの。

 一般的なワークアウトは、社内のさまざまな階層から40~100人ほどの従業員が集まって、2~3日にわたって行われる。

 最初に、マネージャが大まかに事業内容を説明し、その部門が抱える課題や目標を呈示する。それが終わるとマネージャは退席し、話し合いには参加しない。参加者はいくつかのグループに分かれ、ファシリテーターと呼ばれる進行役(外部のコンサルタントやビジネススクールの教授など)の助言を受けながら、提起された課題について議論を行う。

 一定の解決策が出たら、マネージャを呼んでその説明を行う。参加者がまとめた提案を聞いたマネージャは、その場で採用するか、却下するかを即答しなければならない。その場で結論を出せない場合も、決断を下すべき期限を設定する。提案が承認されたら、“オーナー”と呼ばれる実行リーダー(通常は提案者などの改革に積極的な社員)に権限が委譲され、実現に向けて具体的な活動が行われる。

 それまでは意図的ではないにしろ、マネジメント・ヒエラルキーのどこかで葬り去られていた“現場の声”が即座に実行されるようになり、現場で会社を支える従業員に積極的な発言と事業への主体的な参画を促すことにつながった。

 現場参画型改善活動という意味では、日本で広く展開されたQC活動に似ているが、QCサークルは基本的に職場内グループであり、マネージャも参加しないことが多いのに対し、ワークアウトはバウンダリレスな営みであって所属や役職にとらわれない点が異なる

 ワークアウトの語源は「文字どおり、不必要な仕事を取り除くという意味だ」(ウェルチ)とされるが、ウェルチが大規模な人員整理(ピープルアウト)を実施した後、「仕事の整理はいつになるのか?」と皮肉られたことに由来とする説もある。

■ QC七つ道具

 QC七つ道具は、様々な管理(品質管理もその1つ)を行うにあたり、現象を数値的、定量的に分析するための技法である。いずれも、視覚的に表すことで誰でもすぐに問題点が判ったり、説明を容易にすることを狙っている。

 品質管理とは、消費者の満足を得るに足る高度の有用性を有する製品を最も経済的な水準において生産するための計画を作ることと、その計画を達成するために行うすべての活動をいう。

・ヒストグラム

 ヒストグラム(度数分布図、柱状グラフ、Histogram)とは、縦軸に度数、横軸に階級をとった統計グラフの一種で、データの分布状況を視覚的に認識するために主に統計学や数学、画像処理等で用いられる。

また工業分野では、パレート図、チェックシート、管理図、特性要因図、層別法、散布図と並んで品質管理のためのQC七つ道具として知られている。

層別ヒストグラムでは、平均値の差の検定や、等分散の検定なども簡単に行える。

・グラフ・管理図

新JISの管理図(区分ABCも表示)

 管理図とは、品質や製造工程が安定な状況で管理されている状態にあることを判断するために使用するグラフのことである。時間ごとの状態をグラフ上に配置し、従来までの傾向と異なるデータや管理限界線を逸脱したデータの有無から異常の発生を判定する。

右図に新しい管理図の例を示す。【グラフ】 データを図に表すことによって、データ全体の姿を見たり、その量を比較したりし、変化の状態を明確にする。

【管理図】 工程が安定な状態にあるかどうかを調べるため、又は、工程を安定な状態に保持するために用いる図、一対の管理限界線を引いておき、これに品質や工程の状態などを表す特性値を打点していき、点が管理限界線の外に出たり、点の並び方のくせなどから管理異常を発見していく統計的なQC(SQC:Statistical Quality Control)の手法。管理図には用途上から分類すると、 ・解析用管理図 ・管理用管理図

の2つに分けられる。・チェックシート

 管理に必要な項目、図等があらかじめ印刷されており、テスト記録、検査結果、作業点検記録等が、簡単なチェック・マーク付けで確認、記録できるようになっている用紙。目的によって、①工程分布調査票 ②不良項目別調査票 ③欠点発生位置調査票       ④不良要因調査票 ⑤欠点結果確認票 ⑥その他に分類できる。このうち①~③はデータシートとも呼ばれる。また⑤はチェックリストとも呼ばれる。 -チェックシート作成上の要点

①簡単に要点が分かり、チェックできること②チェックする人、時間、場所が明確なこと③記録項目に漏れがないこと④後の集計・計算がやりやすいこと⑤適切なチェックシートの回覧ルートを決めておくこと

-チェックシート作成上の注意

 関連する担当者、スタッフを集めて①チェックする目的を明確にすること②過去の実績、経験、資料等を生かしてチェックする項目を洗い出すこと③チェックする項目を整理し、層別する       「修理チェックシート」(例)④後の集計・計算のやり方を決める                      ⑤チェックシートのフォーマットを決める⑥作成した(P)チェックシートを使ってみて(D)、使いやすさを確認し(C)、不具合い箇所を修正(A)する(P-D-C-Aサイクルを回す)⑦使いやすいフォーマットが決まったら、適宜必要部数を印刷する

-チェックシートの見方と活用

①異常データ・異常現象を見つける②集計したデータを、グラフや表にして、内容を把握しやすいようにまとめる③層別項目の層間の違いを検討する④現状だけでなく、過去との比較をして未来を想定する⑤一部の人だけでなく、関係者全員で検討する

・パレート図

 パレート図とは、値が降順にプロットされた棒グラフとその累積構成比を表す折れ線グラフを組み合わせた複合グラフである。ヴィルフレド・パレートに因んで名付けられた。ジョセフ・M・ジュランと石川馨によって品質保証の分野で広められた。

 パレート図はQCの7つの基本的な道具の1つである。7つの道具には、ヒストグラム、パレート図、チェック・シート、管理図、特性要因図、グラフ、散布図を含む。

 典型的には左側の垂直軸は発生頻度を表すが、コストやその他の重要な測定単位を表すこともある。右側の垂直軸は全体の発生件数、総コスト、特定の全測定単位に占める累積構成比を表す。目的は(しばしば多くの)要因の中から最も重要なものを浮き彫りにすることにある。品質管理においては、パレート図はしばしば、欠陥の最も一般的な原因、最も起こりやすい欠陥の種類、顧客の苦情のうち最も頻度の高い理由などを表す。品質管理で用いられるほか、在庫管理等でも用いられる。

・層別

 層別とは、データを共通点を持つグループに分けることによって漠然としていたデータの特徴をはっきりさせることができる。通常は層別を行った後、パレート図やヒストグラムを利用して分析を行う。

つまり、”機械別、原材料別、作業方法別、または作業者別等のようにデータの共通点、癖、特徴に着目して同じ共通点や特徴を持ついくつかのグループに分けること”を言う。たとえば機械A,Bで同じ部品(棒)を生産している場合に機械設備のバラツキ、作業者のクセ等により棒の直径はばらつくことが考えられる。

次に機械A,Bで生産された加工品を全部、一緒にするとバラツキつきはさらに大きくなる。もしこれを機械別に層別すると機械A,Bで生産された部品のバラツキがわかり、解析、改善するための有効なツールとして活用することができる。

層別ヒストグラム、層別箱ひげ図、層別散布図、層別因子を含む回帰分析など、層別はデータ解析で頻繁に使われる。層別は、データ解析の基礎となる重要な考え方であり、QC7つ道具の1つである。

  右図は日本食品標準成分表から実際のデータで3次元バブル散布図を描いてみたものである。いろいろな突起や凸凹があることがわかる。こうした突起部分のデータだけを抜き出して散布図を描くことができる。これは、主成分層別法という手法を用いる。 主成分層別法を使うと、この例のように飛行機の主翼の特徴を示す観測値だけを抜き出すことができる。

3次元バブル散布図は立体形状を見るのにとても有用である。

それぞれの主成分のなかで、ひとかたまりで動いている因子群が判るのであるから、これを利用すればメカニズムが抽出されるのである。

■ 層別化の必要性(例)①企業は様々な集合体である。事業、業務機能、商品、原材料・部品、顧客・販売チャネル等々である。その為、企業を総論だけで見ても決してリーンの姿は出てこない。層別化し各論で具体的に検討していって始めて、ありたい姿が明確になってゆくのである。②従来の業務役割の設定は生産・販売等の業務機能から行っていた。しかし、SCMでは機能でなく業務の流れに基づき検討してゆく。受注~出荷・入金までのプロセスというように。まず、仕事のプロセスがあり、それを円滑に効率的に実現するということで業務機能が決まってくる。その為、層別化する視点は、業務機能からではなく流れが異なるものという視点で行う。③SCMとは層別化分類法と、最適プロセス設計の技術ということもできる。

 SCM:Supply Chain Management(供給連鎖管理)

 企業活動の管理手法の一つ。取引先との間の受発注、資材の調達から在庫管理、製品の配送まで、いわば事業活動の川上から川下までをコンピュータを使って総合的に管理することで余分な在庫などを削減し、コストを引き下げる効果があるとされる。

■ 層別化の種類(例)①事業から見た層別化。企業は複数の事業からなっている場合が多い。これを事業毎の特性を明確にすることからSCMは始まる。事業毎の環境や進むべき姿は全く異なる。②商品から見た層別化。新商品・定番品・終売品等で受注から出荷までの中で関係する機能の扱いは全く異なる。新商品と定番品とでは、販売の仕方、生産の仕方、在庫の持ち方等全てのことが異なる。各々の特性に応じて方針を明確に決め込んでいくことである。③部品から見た層別化。主部品・副部品の分類や、年間契約購入や都度購入等取引形態の分類もある。まず分類し、自社が最適と考えるバランスに変えて行かねばならない。④需要者・販売チャネルの層別化。需要者(顧客・市場)を層別化し、それに届けるまでのルートの層別化である。事業や商品の分類と密接な関連を持つ。

・特性要因図(Cause and Effect Diagram)

 仕事の結果(特性)の良し悪しに影響する要因は数多く、しかも複雑にからみ合って存在する。特性要因図は、「問題とする特性と、それに影響を及ぼしていると思われる要因との関連を整理して、魚の骨のような図に体系的にまとめた図」である。 多くの関係者の経験や知識を集めて作られた特性要因図は、パレート図やグラフなどとともに品質管理を効果的に進めていくために不可欠な道具なのである。

特性要因図は、次のような場合などに用いられる。(1)不良や欠点といった結果と、その原因の関係を図で整理する。(2)改善の手段を図で整理する。情報が早く読み取れ、深く理解できる。数字だけでは、見落としがちな問題もグラフ化すれば発見しやすくなる。

 要因を大項目(10)、中項目(20)、小項目(10)、孫項目(10)に分けて表示、特性の追加や削除、項目移動、再利用などが簡単に行なえる。特性要因図の拡大・縮小、印刷プレビューや印刷設定機能なども多彩で使いやすく,要因名は変数名としてワークシート上に登録が可能である。特性要因図とワークシートを連携して使用できる。 項目の移動やレイアウトの調整は項目ごとにドラッグ&ドロップで簡単に行える、項目のフォントサイズも変更可能である。

特性要因図における主なオプション機能と特性要因図(具体例)は以下の通りである。

要因の挿入

項目(要因)を追加する。

子要因の追加

カーソルで指定した項目(要因)に、下層の項目(要因)を追加する。

要因の削除

カーソルで指定した項目(要因)を削除する。

マーキング

カーソルで指定した項目(要因)を目立つように枠で囲みむ。

レイアウト自動調節

尻尾on/off

特性要因図の尻尾のある/なしを選ぶことができる。

拡大/縮小

1段階ずつ表示サイズを変更することができる。

・散布図

 散布図とは、縦軸、横軸に2項目の量や大きさ等を対応させ、データを点でプロットしたものである。各データは2項目の量や大きさ等を持ったものである。

-散布図の例

 散布図には、2項目の分布、相関関係を把握できる特徴がある。データ群が右上がりに分布する傾向であれば正の相関があり、右下がりに分布する傾向であれば負の相関がある。

・QC七つ道具に関する用語解説

-カタヨリ(偏り)、またはバイアスという用語は、統計学で2つの異なる意味に用いられる。それは「標本の偏り」と「推定量の偏り」である。

a.標本の偏りとは、母集団(統計学的推定で基本として仮定する、ある要素の集合)の要素が標本として平等に選ばれていないと考えられる場合をいう。 標本(Sample、Specimen)とは、集団や物質の全体の中から取り出し観察・調査を行う一部分をいう。(関連用語:サンプリングまたは標本化)

b.推定量の偏りとは、推定すべき量を何らかの理由で高く、または低く推定しすぎている場合をいう。 推定量(Estimate)とは、現実に測定された標本データをもとに、確率分布の母数(パラメータ、現実には測定できない)として推定した数量をいう。

[注]偏りという用語は悪い意味に聞こえることがあるが、必ずしもそうではない。偏った標本は悪いものであるが、偏った推定量のよしあしは状況によって異なるものである。

-バラツキ{分散(variance)と同義}とは、確率論において、確率変数の2次の中心化モーメントのことで、確率変数の分布が期待値からどれだけばらけているかを示す値である。統計学においては、確率変数の分散だけでなく、標本が標本平均からどれだけばらけているかを示す指標として標本分散が用いられる。平たく言うと、データのばらつきの尺度の一つで、代表値として「平均値」を用いた場合に使われることが多い。 各データの値から平均値を引いたものの自乗和をデータ数(n)で割ったものである。

 分散における正の平方根が標準偏差(Standard Deviation)であり、統計値や確率変数の散らばり具合を表す数値のひとつで σ や s で表す。

-回帰分析

 回帰分析(Regression Analysis)とは、従属変数(目的変数)と連続尺度の独立変数(説明変数)の間に式を当てはめ、従属変数が説明変数によってどれくらい説明できるのかを定量的に分析することである。

従属変数(目的変数)とは、説明したい変数(注目している変数)を指す。独立変数(説明変数)とは、これを説明するために用いられる変数のことである。経済学の例を挙げてみよう。経済全体の消費(C)を国民所得(Y)で説明する消費関数がC = a + cYという形で表されるとする。この例では、消費が従属変数、国民所得が説明変数に対応する。以下で述べる計算方法によってa,cといった係数の大きさを推計する。

説明変数が1つならば単回帰分析、2つ以上ならば重回帰分析と呼ぶことがある。 普通用いられる方法は上式のような1次式モデルを用いる線形回帰であるが、その他のモデルを用いる非線形回帰の方法もある。回帰分析で用いられる代表的な推計方法として、最小二乗法という方法がある。

-最小二乗法

与えられた9個の測定値 (+) を最小二乗法により近似した例 関数の次数を0から9まで変化させた。左上には次数と残差の二乗和を示した。

 最小二乗法(最小自乗法とも書く)は、測定で得られた数値の組を、適当なモデルから想定される一次関数、対数曲線など特定の関数を用いて近似するときに、想定する関数が測定値に対してよい近似となるように、残差の二乗和を最小とするような係数を決定する方法、あるいはそのような方法によって近似を行うことである。

■ 価値工学

 「価値」の重要性はリーン生産方式でも同じだし、アジャイル・プロセス全体にとってもとても重要なものだ。試しにXPでもScrumでも適応型ソフトウェア開発でも、アジャイル・プロセスの教科書を開いてご覧なさい。そこには必ず「価値」というキーワードが見られるはずだ。つまり何にしろ、良くしよう、頑張ろうと思うのならば「何のために」良くするのか、頑張るのかが問われるのである。

 制約理論で何を制約と考えるか、リーン生産方式で何をムダと考えるかは何を価値と見るかによって変わってくるはずだ。例えばリーン生産方式で、段取り替えのムダを許してもバッチ・サイズを小さくしようとするのは、その方がより大きなムダを取り除けると考えたからだ。しかし、段取り替えのムダと大きなバッチ・サイズというムダとの比較は、より大きな視点からの価値観があって初めて可能になる。先を見据えた価値観がなければ、取りあえず目先のムダをむしろ増やすことになる段取り替えに挑戦しようとはしないだろう <注>。

<注> トヨタは20年以上かけて段取り替えにかかる時間を2~3時間から3分にまで短縮したという(「トヨタ生産方式」大野 耐一、ダイヤモンド社、71ページ)。恐るべきビジョンと粘りである。

 ところが……、価値を考えるのは難しい。制約理論では価値を取りあえず「継続して利益を上げ続けること」と見なす。企業の場合には大方この価値観は当てはまるだろう。しかし、自分のプロジェクトの「価値」は何かと問われて即座に答えられるだろうか? 価値を簡単に測る、計算する方法はないものだろうか?

 生産工学の分野では「価値工学」というものが知られている。日本バリューエンジニアリング協会による価値工学の定義は次のようになっている。

 「価値工学とは、最低のライフサイクルコストで、必要な機能を確実に達成するため、製品とかサービスの機能分析に注ぐ、組織的努力である」(「実践 価値工学―顧客満足度を高める技術」手島直明、日科技連出版社、1993、23ページ)

 そして価値は次の式で与えられる。

価値(V) = 得られる効用(F) / 支払う犠牲(C)

 得られる効用を上げるか、支払う犠牲を減らすことによって価値を高めることができる。効用とは何か、犠牲とは何か、効用を上げ、犠牲を減らすためにはどうすればいいかを考えるのが価値工学というわけだ。

 効用としては品質、機能、タイミングなどがある。犠牲はコスト、消費エネルギー、時間、作業などである。もっともいままでのモノ作り(製品)のための価値工学では効用は主に機能であり、犠牲とはコストであった。ソフトウェアをモノと見れば、機能を増やし、開発コストを下げればソフトウェアの価値は上がることになる。しかし、単純にそれを追求するとどういうことになるか。ソフトウェアには使われもしない機能が増えていき、目先の開発コストを下げるために2次請け、3次請け、オフショア開発が乱用される。開発者は疲弊し、ユーザー側も管理作業ばかりが増えていく。

 一方、ソフトウェアをサービスと見れば、モノとは異なる価値のとらえ方が必要になる(実はいまやモノだってサービスとして見ることが要求されているのだが)。前掲書では、全10章/331ページのうち、1章/20ページだけがサービスにおける価値工学に充てられている。その中でサービスとは「モノと行為を関連付けるシステム」であるとして、次のようなマトリックスを掲げている(各行はモノを、各列は行為を表している)。

 

移動する

貸与する

代行する

例:タクシー

例:人材派遣

例:教師

例:宅急便

例:リース

例:小売り

金/権利

例:金融

例:クレジット

例:保険

情報

例:IP

例:図書館

例:インターネット検索

 そして、前掲書によればサービスに価値工学を適用するためのプロセスは次のようになる。

(1)対象分野を明確化する

 組織のポリシー、経営目標を確認する。自分のサービス領域を先のマトリックスに位置付ける(もしかしたらこのマトリックスでは不足かもしれないし、これとは異なる切り口もあるかもしれない)。「サービスの流れ」を分析する。価値工学適用のためのチームを作り、計画を立てる。

(2)達成すべき機能/品質を定義する

 基本機能をトップダウン(演繹的)に定義する。問題点、要求、制約などを整理する。それらを盛り込んで達成すべき機能を定義する。トップダウンな機能定義とは、目的から考えて、その目的を達成するために必要な機能を順に割り出していく方法である。定義した機能を樹木図(機能系統図)にまとめてモレ・ヌケをチェックする。

(3)機能/品質の評価基準とその重み付けを決める

 サービスの評価項目(書中では評価因子と呼んでいる)の例として以下のような項目が挙げられている。

<基本機能>

-過剰性

-信頼性

-快適性

-嗜好性

-融通性

-対応性

-簡便性

-迅速性

-優越性

 これはあくまで例でしかないが、通常ソフトウェアの品質属性として挙げられるISO/IEC 9126などとはかなり異なることが分かるだろう。

 このそれぞれに対して、何を重視するかに応じて寄与率と呼ぶ重み付けを行う。

(4)機能/品質の達成度を随時評価する

 機能/品質とその評価尺度ごとに、現状値、目標値を算出する。これに対して次の式で表される値を貢献値と呼ぶ(後で使う)。

 貢献値とは、目標値を達成すればどれだけ価値の向上につながるか、という値である。

(5)コストを把握する

 顧客がサービスへの対価として払ってもよいと考えるコストを把握する。コストには直接支払われるコスト(例えばパッケージ価格、開発費用)と間接的に支払うべきコスト(例えば教育費用、移行/運用費用)がある。コストと前項の機能/品質達成度との相関関係を調べる。

(6)価値を把握し、評価する

 サービス価値は、

で算出される。ただしここでは分母にコストを取っているが、実は「支払う犠牲」はそれ以外にもあるはずだ。例えば、支払う犠牲として時間が非常に重要な要因ならば(われわれの世界ではそういう場合も少なくない)、サービス価値は次のようにも表されるだろう(前掲書ではこの式は現れないが)。

サービス価値の向上を時系列に従ってプロットし、現在のサービス価値がその延長線より上にあればよし、下ならば目標値を再設定したり、機能を見直したり、コストを下げる努力が必要になる。そのために次のステップを行う。

(7)アイデアを発想する

 いわゆる創造的思考、発想法などと呼ばれているものである。モノ作りの現場だとTRIZ(トゥリーズと呼ぶ。例えば「TRIZ入門」 V. R. Fey/E. I. Rivin/畑村洋太郎、日刊工業新聞社、1997)や創造設計原理(「創造学のすすめ」畑村洋太郎、講談社、2003)などが知られているが、世界中にはそれ以外にもたぶん無数にある。モノ作りの現場で重視されている「発想」や「創造」は、ソフトウェアの世界では意外と軽視されているのではないだろうか。

(8)具体案を作成し、提案、実施する

 考え出されたアイデアを組み合わせて改善案とし、計画を立て、実施する。

 以上が価値工学において考えられている「サービス価値を高める」ためのプロセス(サイクル)である。これがソフトウェアの世界にどこまで適用可能だろうか? これを「サービス」価値工学と呼ぶにはまだまだ「機能」や「コスト」がハバを利かせ過ぎているような気もするが、ソフトウェアをサービスと考えたいのならば、価値をこのようにとらえてみることも一度は必要かもしれないと同時に、サービスとしてのソフトウェアの価値計算論を考えていかなければならないだろう。

■ リーン生産方式

LPS / lean product system / lean manufacturing

 1980年代に、マサチューセッツ工科大学(MIT)のジェームズ・P・ウォマック(James P. Womack)、ダニエル・T・ジョーズ(Daniel T. Jones)が、日本の自動車産業の強さを探るため、特にトヨタ生産方式を研究し、それを一般化、再体系化した際に用いた名称。leanとは「痩せた」「贅肉のない」の意味で、この場合「ムダのない生産方式」のこと。

 1980年代、米国の自動車業界も日本車の輸出攻勢にさらされ、危機に喘いでいた。こうした中、日本自動車メーカーの競争力の源泉は何か探るべく、1985年からMITを中心にしたIMVP(国際自動車プログラム)によって研究が行われ、1990年にその結果が「The Machine that changed the World」という報告書として公表された。

 この研究プロジェクトの中で、GMのフレミンハム工場とトヨタ自動車の高岡工場が比較分析された。GM工場が依然としてフォード生産システムによる大量生産を志向していたのに対し、トヨタの工場は多品種の製品を適量だけ生産することを目指しており、生産ラインで必要な分だけ部品発注をしたり、発注先の選定基準、外注会社と共同開発体制を敷いたりと多くの違いがあると指摘した。この生産方式を「リーン生産システム」と呼んだ。

■ オフショア開発

offshore development

 企業が自社のソフトウェア開発業務の一部、または全部を海外に移管・委託すること。資本関係のない海外企業にアウトソーシング(オフショア・アウトソーシング)する場合と、海外支社・法人を設立して現地で人材採用を行い、業務移管する場合がある。

 オフショア開発の委託先としては、米国からはインドが圧倒的に多く、日本企業は中国が主流になっている。そのほかにシンガポール、フィリピン、タイ、ベトナム、韓国、ロシア、メキシコ、ブラジル、ハンガリーなどが知られる。また、インドや中国の大手ITオフショアリング受託企業の中には自身が世界展開して、これらの国々に開発や運用の拠点を持つようになっているところもある。

■ ロジックツリー

logic tree / 論理木

 物事を論理的に分析・検討するときに、その論理展開を樹形図に表現して考えていく思考技法のこと。またはその樹形図をいう。

 結果-原因(why)、目的-手段(how)、全体-部分(what)といった推論を繰り返して論理展開を行う場合、その概念・事象間の論理的なつながりをツリー状に図示することで、相互関係が明確に把握できるようになる。ロジックツリーとは、そのための思考ツールである。

ロジックツリーの例

 ロジックツリーを作るときには、同じレベルの枝では分類基準がそろっており、上位概念のすべてが網羅され、かつ重複がないこと(MECE)が必須である。信頼性工学やリスク管理では各枝に発生確率を持たせることがあるが、その場合も同レベルの枝の確率を合計すると100%になる。

 問題解決などに使う場合には、上位概念から下位概念への分岐を2~3程度、多くても5つぐらいまでにするのがよいとされる。いきなり何十にも分類すると内容を把握しづらく、モレやダブリを検証することが困難となるためである。2~3ずつの分岐しながら主要課題をブレークダウンしていくことで、すべての原因や解決手段を挙げることができ、これを客観的に比較・検討する。

■ MECE(mutually exclusive, collectively exhaustive) ミッシー / ミーシー / メシー

 物事を要素や原因、手段などに分解していくとき、それらが相互に排他的で重複がなく、かつ全体が網羅されているようにすること。

 「漏れがなく、ダブリがない状態」を意味し、論理思考を行う際の基本ルールである。もともとは戦略コンサルティング・ファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーにおいて、コンサルタントが対象を構造的に把握するための基本テクニックとして使われていた。MECEの考え方を使った思考ツールとしては、「ロジックツリー」が有名である。

 MECEで最も重要なのは物事を分類する際の基準(切り口)であり、得られた要素の排他性・網羅性を検証できるか否かである。MECE自体はその方法を教えてくれるものではなく、ロジックツリーも同様である。一方、「ファイブフォース」「SWOT分析」といった思考フレームワークは、そうした切り口を提供してくれる存在である。

■ 特性要因図 要因関連図 / 原因-結果チャート / 因果関係図 / 魚の骨 / 魚骨図 / フィッシュボーンチャート / イシカワ・ダイアグラム / cause and effect diagram / fishbone diagram / ishikawa diagram

 特性(結果の善し悪し、解決すべき課題)と、それに影響を与えるさまざまな要因の関係を系統的・階層的に整理した図。特性がはっきりと絞り込まれているとき、それを防止するための管理項目を検討したり、発生原因を追及したりするために使われる。

 表記法は通常、右端に特性を置いた水平の矢線(背骨、幹などという)を引き、その上下から斜めに接する矢線(大骨、大枝)で要因(分類)を示す。“要因の要因”は順次、中骨(中枝)、小骨(小枝)と分岐していく。製造業の品質管理では、最初の大骨として「材料」「機械(材)」「人」「方法」を置くことが多い。

特性要因図の基本形

 ある結果──例えば「歩留まりが悪い」という特性を想定したとき、その要因となり得るものは「機具の不具合」「作業者の不慣れ」など数多くあり、複雑にからみ合っている。要因の要因という具合に検討を進めると要因の数がさらに増えるので、これらを構造的に把握することが大切となる。こうした多数の要因を漏れ・重複・矛盾などがないように階層構造で整理するのが特性要因図である。

 未発生の特性を予防的に管理・検討するような場合には、関係者の経験や知識、あるいはブレーンストーミングなどによって管理すべき要因を網羅的に列挙・整理する(対策検討型)。一方、すでに発生した結果から原因を探るときには、すべての要因を列挙するのではなく、影響の強いものに絞って、問題と主要因の因果関係を明確にする(原因追求型)。

 このようにして作成された特性要因図はまだ仮説なので、実際のデータや改善活動などを通じて、検証を行う必要がある。要因の影響度が数値化できるのであればパレート図で特に影響力の大きい要因を抽出するなどし、定性的な要因であれば話し合いなどで重み付けを行って、要因を絞り込んで検証・対策を繰り返す。

 特性要因図はもともとは品質管理において、品質特性に影響を与える多数の要因を整理・把握するために東京大学(当時)の石川馨教授が考案したもので、1952年に川崎製鉄の葺合工場が実務に適用して大きな成果を挙げ、知られるようになった。QC七つ道具の1つに数えられる。

■ ディシジョンツリー decision tree / DT / 決定木 / 意思決定ツリー / デシジョンツリー

 意思決定の“決定”や命題判定の“選択”、物事の“分類”などを多段階で繰り返し行う場合、その「分岐の繰り返し」を階層化して樹形図(tree diagram)に描き表したグラフ表現、あるいはその構造モデル。

 統計的決定理論、人工知能、機械学習、データマイニングなどの分野で、予測モデル構築、意思決定分析・最適化、分類問題の解決、概念・知識の記述、ルールの抽出・生成などに利用される。

 意思決定理論の分野においては、意思決定と不確定条件によって分岐を繰り返す多重決定問題モデルを示したもので、プロセスと予測される結果を示す。決定理論(決定分析)の主要分析ツールである。

利得表

晴天

雨天

傘を持つ

傘が邪魔

(-3)

傘が役立つ

(7)

傘を持たない

快適

(10)

ずぶ濡れ

(-10)

※効用として主観を数値に置き換えたものを仮に置いている

 

ディシジョンツリー

“傘を持つか持たないか”という決定問題を示す利得表(左)と、ディシジョンツリー(右)。事象が発生する確率(降水確率など)と、最終価値(この例では主観効用)が入手できれば期待値を算出し、最適経路を選択できる。

 知識工学や人工知能の分野においては、命題判定の繰り返しによる知識表現方法であり、エキスパートシステム構築の際などに使われる。データマイニングの分野においては与えられたサンプルデータ群をその属性変数の値から分類し、その繰り返しによってデータ全体を樹形モデルで表現する手法をいう。

 ディシジョンツリーの原形は、ゲーム理論の「ゲームの木」だと見なされている。1950年代、数学者のエイブラハム・ワルド(Abraham Wald)博士がベイズ統計学にゲーム理論を統合して統計的決定理論(決定理論)を体系化したが、ゲームの木は2人のプレーヤー(意思決定者)による交互ゲームを表すツールである。これに対して、ディシジョンツリーは1人の意思決定者がもう1人のプレーヤーである“不確実性”と対峙するゲームを表すものと見なすことができる。

 決定理論におけるディシジョンツリーは、意思決定者が取り得る選択行動と、相手(不確実性)の発生確率(主観確率)の分岐が多段にわたる際、これら分岐点を階層化して描いたもので、起こり得るすべての結論とそれぞれの期待値を算出し、期待効用が最大となる選択の経路(戦略という)を求める。

 決定理論におけるディシジョンツリーは、一般のツリー(樹木図)と同様、根(root)から葉(leaf:分岐節・分岐点とも)が分岐する形で描かれる。分岐節には決定ノード、確率ノード、結果ノードがある。

決定ノード(decision node)意思決定者がコントロールできる変数や行動を示す。一般に四角で描かれる。行動分岐ノードともいう。

確率ノード(chance node)意思決定者がコントロールできず、他者・自然・偶然などによって決まる事象を示す。一般に円形で描かれる。シミュレーションを行う場合は、事前確率・主観確率によって表現する。機会事象ノード、偶然ノード、事象分岐ノードともいう。

結果ノード、終端ノード(terminal node)結果価値を示す最終点。開いたリンク、あるいはしばしば三角形で描かれる。

 最適経路選択には、ゲーム理論(ゲームの木)と同じく後ろ向き帰納(backward induction)が用いられる。これはすでに描かれたディシジョンツリー(問題構造)を結果ノードから分析していくもので、後述の人工知能分野でいう帰納推論とは異なる。また、理論決定の分野ではディシジョンツリーを使った意思決定分析の手法を「ディシジョンツリー分析」というが、後述のデータマイニングでいうディシジョンツリー分析とも異なる。

 ディシジョンツリーはすべての結果を漏れなく書き出す(不要な枝を省略することも多いが)ので、より一般的には正事例を包含する概念記述と見なすことができる。利用範囲は意思決定・行動選択に限定されずに人工知能の分野では知識表現の方式として用いられた。

 その人工知能の分野では、1980年代になってエキスパートシステムが実用化されるようになる。エキスパートシステムは知識ベース(その知識モデルはディシジョンツリーで表現される)に基づいて演繹推論を行うシステムだが、知識ベースにエキスパート(各分野の専門家)の知識を入力する作業は人手で行われていた。

 この知識ベース構築の手間を削減するため、機械学習の分野で研究されていたディシジョンツリー学習の導入が提案された※。知識から結果を推論するのではなく、結果(未分類のデータ)から知識(ルール)を導き出す──帰納推論である。1983年には最初のディシジョンツリー生成アルゴリズムCARTが登場する。この分野はやがて巨大データを探索的に分析・分類する手法として、データマイニングの主要な方法の1つに数えられるようになった。

※ディシジョンツリー自動生成の指摘そのものは1960年代からあった。また今日、主要なディシジョンツリーアルゴリズムに数えられるCHAIDの基となったAIDの登場は1963年だが、これはもともと変数間の関連を統計的に検出することを目的とするものだった

 機械学習、データマイニングにおけるディシジョンツリー分析は、一定の規則(アルゴリズム)によって自動的にデータを分類していくものである。簡単に説明すると、対象データ全体を最もよく分類できる属性変数を探索し、それに従った分類されたデータ群にもそれぞれまた最も分類効率の高い属性変数を探索するという作業を繰り返し、分類できなくなるまで分岐を行う。分類の仕方はアルゴリズムによって異なる。著名なアルゴリズムにCARTやCHAID、ID3/C4.5/C5.0などがある。

 データマイニングでは、目的変数が質的変数(カテゴリ変数)の場合は分類木、量的変数(連続変数)の場合は回帰木ともいう。

 ディシジョンツリーの形状は、決定分析では右に向かって、データマイニングでは下に向かって成長する形に描かれることが多い。分岐がイエス/ノーの2つである2分決定木(binary decision tree)が基本形だが、用途によっては分岐が3つ以上ある決定木や分岐数や深さがさまざまな混合木などが使われる。ツリー図なのでループは含まない。

 ディシジョンツリーの利点は、if-thenルールとして透過的に表現されるので意思決定や学習の過程が分かりやすく、分析結果の評価・解釈がしやすいことが挙げられる。

 ただし、命題数が増えるごとに結果の数が等比級数的に増大するので、問題が複雑だと巨大で複雑なツリーが生成されることになる。これを補うためインフルエンス・ダイアグラムが提唱されている。

■ WBS(work breakdown structure) ダブリュービーエス / ワーク・ブレークダウンストラクチャ / 作業分解図 / 作業分割構成 / 作業の詳細構造

 プロジェクトマネジメントの計画フェイズにおける主要なツールで、プロジェクトの成果物あるいは仕事(work)を詳細区分(breakdown)して階層構造(structure)化した図表、あるいはその図表によってプロジェクトのスコープ(範囲)全体とその中で作られる成果物ないしは作業の関係を体系的に集約・把握する手法のこと。

 WBS作成はプロジェクト計画の初期に行う作業で、プロジェクトで実施されなければならないすべての作業を洗い出し、同時にプロジェクトマネジメントにおけるコントロール単位を明確化するものとなる。WBSはその後のプロジェクト工数の見積もり、日程計画(ネットワーク図など)、調達管理(外注化判断)、資源配分計画(役割分担表など)、予算/コスト管理(EVMSなど)、リスク管理といったフェイズのベースとなるもので、プロジェクトマネジメント全体の基盤となる。

 WBSの基本的な作り方は、まずプロジェクトの目的を定め、最終的な成果物(製品、サービス、結果など)を具体的に決定する。次にその成果物を要素や中間成果物に分割・定義していく。その方法は、関係者が集まってボトムアップに要素を洗い出していくアプローチ、上位の最終成果物からトップダウンに分割していくアプローチ、その併用アプローチなどがある。プロジェクト開始段階では要素が不確定である場合は、大まかな分割・分類だけを定義しておき、プロジェクトが進行するに従って細分化する。

 分類・整理の切り口は、対象となる成果物(製品など)の構成要素ごとに分けるやり方、目的と手段で整理するやり方、手順や作業フローに沿って作業を展開するやり方などがある。各枝の深さは一様でなくてもよいが、1つの分岐点における分解基準は統一されていなければならない。

 WBS各枝の最下層レベルのWBS要素は、しばしばワークパッケージと呼ばれる。ワークパッケージは、プロジェクトを実施する際のコントロール単位であるため、それぞれ細分化の粒度、意味がそろっていることが望ましい。ワークパッケージは成果物を示す場合もあれば、作業(タスクやアクティビティ)だとされる場合もある(後述)