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遺伝子治療用ベクターの安全性に関 する最近の動向: ICH 専門家会議 遺伝子治療用ベクターの安全性に関 する最近の動向: ICH 専門家会議 山口照英 遺伝子細胞医薬部 200512165回医薬品等ウイルス安全性シンポジウム 講演資料

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遺伝子治療用ベクターの安全性に関する最近の動向: ICH 専門家会議遺伝子治療用ベクターの安全性に関する最近の動向: ICH 専門家会議

山口照英

遺伝子細胞医薬部

2005年12月16日第5回医薬品等ウイルス安全性シンポジウム

講演資料

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遺伝子治療とは遺伝子治療とは

遺伝子治療薬(ベクター)遺伝子治療薬(ベクター)の直接投与の直接投与

遺伝子導入細胞の投与遺伝子導入細胞の投与

採血、骨髄穿刺、生検などにより目的細胞を取り出す

体外培養、増幅

ベクターによる遺伝子導入

投与

直接投与

皮内筋肉内臓器内腫瘍内など

目的細胞目的細胞

ベクター:細胞へ遺伝子を導入する際の運び屋 遺伝子導入細胞遺伝子導入細胞

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遺伝子治療の対象疾患遺伝子治療の対象疾患

重篤な遺伝性疾患、がんその他の生命を脅かす疾患又は

身体の機能を著しく損なう疾患

先天性遺伝子疾患(単一遺伝子疾患):ADA欠損症、X-SCID、血友病、

筋ジストロフィーなど

がん:肺がん、腎がん、前立腺がん、食道がん、脳腫瘍、黒色腫など

末梢性血管疾患:閉塞性動脈硬化症など

虚血性心疾患:狭心症、心筋梗塞など

神経変性疾患:アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症

(ALS)など

ウイルス感染症:HIV、B型・C型肝炎ウイルスなど

生活習慣病、慢性疾患:糖尿病、関節リウマチなど

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遺伝子治療の光と影遺伝子治療の光と影成功例成功例

X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)に対する造血幹細胞遺伝子治療(レトロウイルスベクターでIL-2Rコモンγ鎖を導入)により10人中9人に著効アデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA-SCID)に有効慢性肉芽腫症(CGD)の遺伝子治療で極めて有望な結果

重篤な副作用の発現重篤な副作用の発現

1999年 アデノウイルスベクターの投与による異常免疫反応により死亡(米・ペンシルベニア大)

2002年 レトロウイルスベクターによるX-SCID遺伝子治療で遺伝子の染色体挿入が原因となり3名にT細胞白血病様症状発症(仏・ネッカー病院)

遺伝子治療はまだ医療として充分に確立しておらず、有効性,安全性を慎重に検討する必要がある

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from Hacein-Bey-Abina S, et al.:Science, 302, 415-419 (2003)

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LMO

from Hacein-Bey-Abina S, et al.:Science, 302, 415-419 (2003)

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from Cavazzana-Calvo M, et al.:Nature, 427: 779-781 (2004)

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from Kaiser, J: Sciencenow, 7 Mar 2005 (2005)

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細胞

染色体

DNA

遺伝子異常

遺伝子治療による根治療法

遺伝子導入による疾患治療

正常遺伝子

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遺伝子治療の国際比較

JapanJapan 2121As of 2005

USAUSA 516*516*As of 2002

Europe 103*Europe 103*As of 2002

各国で承認されている遺伝子治療プロトコール数各国で承認されている遺伝子治療プロトコール数

*Reproduced with Permission from the Wiley Journal of Gene Medicine Web Sitehttp://www.wiley.co.uk/genmed

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我が国での遺伝子治療対象疾患

CancerCancerGenetic DiseaseGenetic Disease

Vascular DiseaseVascular Disease

14 (67%)3 (14%)

4 (19%)

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我が国で用いられている遺伝子治療用ベクター

AdenovirusAdenovirus

RetrovirusRetrovirus

LiposomeLiposome PlasmidPlasmid

9 (43%)9 (43%)6 (29%)6 (29%)

1 (5%)1 (5%)3 (14%)3 (14%)2(10%)2(10%)

SendaivirusSendaivirus

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日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH) (1)

正式名称(英文):The International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use

目的:日米EU 3極の新医薬品の承認審査関連規制の調和を図ることにより、データの国際的な相互受入れを実現し、臨床試験や動物実験等の不必要な繰り返しを防ぎ、承認審査を迅速化するとともに、新医薬品の研究開発を促進し、もって優れた新医薬品をより早く患者の手元に届けること

構成員:日米EUの各規制当局及び各医薬品業界代表者[日本] 厚生労働省(MHLW)、日本製薬工業協会(JPMA)[米国] 食品医薬品局(FDA)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)[EU] 欧州委員会(EC)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)[オブザーバー] 世界保健機関(WHO)、欧州自由貿易連合(EFTA;スイス治療用品庁(Swissmedic)が代表)、カナダ保健省(Health Canada)

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日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH) (2)

活動国際会議:2~3年に1回開催し、ICHの成果の発表、討議を行う。行政、製薬業界及び学会から、千数百名参加

運営委員会(SC):原則として半年に1回開催し、ICHの企画立案・意思決定を行う。各主催者から2名の委員が出席

専門家作業部会(EWG):各主催者及び関連業界(ジェネリック業界等)から専門家が出席。テーマごとの作業部会であり、原則として半年に1回開催し、ガイドライン等の作成を行う

歴史1990年4月 SC発足

1991年11月 第1回国際会議(ブリュッセル)1993年10月 第2回国際会議(フロリダ)1995年11月 第3回国際会議(横浜)1997年7月 第4回国際会議(ブリュッセル)2000年11月 第5回国際会議(サンディエゴ)2003年11月 第6回国際会議(大阪)2007年3月 第7回国際会議(ウイーン?)

遺伝子治療に関しては、「専門家会議

(Discussion Group;DG)」が設置

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日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH) (3)

活動成果-例:ICHガイドライン50を超える新医薬品の品質、有効性、安全性に関するガイドラインが最終合意に達し、それぞれ各極の規制当局により公表・運用

例: バイオ医薬品ウイルス安全性ガイドライン

「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー

応用医薬品のウイルス安全性評価」について(Q5A)バイオ医薬品細胞基材のガイドライン

「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医

薬品)製造用細胞基剤の由来、調製及び特性解析」について

(Q5D)バイオ医薬品の非臨床試験のガイドライン

「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」

について(S6)新医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し承認申請書に添付すべき資料の作成要領(コモン・テクニカル・ドキュメント;CTD)

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ICHガイドライン/見解/勧告

ICH ガイドライン(Guideline):既にICH各極で十分な知識や経験の蓄積があるトピックを対象に、ICHの活動成果として公表するもの

ICH見解(Consideration):研究が急速に発展しているさなかにある領域のトピック(例:遺伝子治療)を対象に、ICHの活動成果として公表するもの

ICH勧告(Recommendation):情報技術(IT)の急速な変化・革新に鑑み、あえてガイドラインとしての正式な手続きを踏まずに、ICHの活動成果として公表するもの

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (1)

2001年5月 ICH SC「遺伝子治療用医薬品など急速に進展している領域においては、特にその種の製品の規制に重大な影響を及ぼす可能性のある新しい科学的知見に関連する情報について、ICH各極間での情報の交換/共有を積極的に継続して行う必要がある」

ICH内に遺伝子治療専門家会議(Gene Therapy Discussion Group;GTDG)を新設

Klaus Cichutek (EMEA), Stephanie Simek(FDA), Teruhide Yamaguchi (MHLW), Christine-Lise Julou (EFPIA), Wataru Toriumi (JPMA), Alex Kuta (PhRMA), EFTA, Canada

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ICH遺伝子治療専門家会議の活動

1997 ブリュッセル (バイオテクノロジー専門家会議)2001 東京・舞浜 (バイオテクノロジー専門家会議)2002 ワシントン (Ad hoc 遺伝子治療専門家会議)2003 大阪 ICH6 (Ad hoc 遺伝子治療専門家会議)2004 ワシントン(遺伝子治療専門家会議として正式に発足)2005 ブリュッセル(遺伝子治療専門家会議)2005 シカゴ (遺伝子治療専門家会議)

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (2)

GTDGの目的:研究が進められている科学的事項について調査・検討

遺伝子治療用医薬品に関する規制の国際調和に有益な影響をもたらす可能性のある一般的原則を予め積極的に提示

ICH における議論の成果が社会に広く浸透し、十分理解されることを保証するための、社会に向けた新しいコミュニケーション手段を開発

例: ICH遺伝子治療公開ワークショップの開催→ 2002年9月、2003年11月、2005年11月に開催ICH SCを介してのICH GTDG公的声明の発表誰でもアクセス可能なICH遺伝子治療ホームページの開設→ ICH事務局ホームページ内(英語):

www.ich.org/cache/html/1386-272-1.html国立衛研遺伝子細胞医薬部ホームページ内(日本語):

www.nihs.go.jp/cgtp/cgtp/sec1/index1-j.html

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ICH 遺伝子治療専門家会議で取り上げられたトピック

Viral Shedding from Patients Detection of RCV (RCA or RCR)Reference Materials (Adenovirus Type 5) Minimize of the Risk of Germline TransmissionInsertional MutagenesisOncolytic Virus (Workshop)Long-term Follow-up (FDA Guideline案)Lentiviral Vector (EMEA Guideline案)

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (3)2002年9月 第1回遺伝子治療ワークショップ開催(ワシントン;約150名参加)

アデノウイルス5型国際標準品アデノウイルス5型国際標準品を使用することによって、異なる施設/研究で測定されたウイルス粒子数及び力価のデータ同士を科学的に比較することが可能となる。これにより、用量依存的な毒性のような安全性に関する情報の相関関係を明らかにすること、及び遺伝子治療用アデノウイルスベクターの製品中に含まれる増殖性アデノウイルス(RCA)の真の定量値を求めることが可能となるであろう

アデノウイルスベクターの体外への排出(Shedding)ウイルスベクターの体外への排出に伴う安全性上の問題は現在までのところ確認されていない

レンチウイルスベクター(例:HIVベクター)レンチウイルスベクター中に含まれる増殖性レンチウイルス(RCL)に対する試験・検査においては適切な陽性対照を置いて実施すべきであること、及びRCLに関する試験・検査の1つとしてRCLにenv配列が含まれていないことを確認しなければならないこと、の2点を推奨する。臨床応用にあたってはリスク-ベネフィットを十分考慮した上で開始すべきである

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (4)2003年11月 第2回遺伝子治療ワークショップ(第6回国際会議サテライトセッション)開催(大阪;450名以上参加)

レトロウイルスベクターの染色体挿入変異及びそれに伴う発がん

X1 連鎖重症複合免疫不全症(X1-SCID)に対するフランスでの遺伝子治療において、治療を受けた11 名中2 例において単クローン性リンパ増殖性疾患の発現が観察されたことから、この副作用の発現機構に関する解析結果が発表された。遺伝子治療でのレトロウイルスベクターの使用は今後の遺伝子治療において依然として現実的な選択肢と考えられる

レンチウイルスベクターの品質及び構造についての科学的原則

→欧州医薬品庁ガイドライン ”Guideline on Developmentand Manufacture of Lentiviral Vectors”(2005年5月;CHMP/BWP/2458/03)

予期しない生殖細胞系列への遺伝子治療用ベクターの伝達の可能性

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (5)

2004年6月 GTDG開催(ワシントン)→見解を作成・発表

重症複合免疫不全症(SCID)の遺伝子治療に関する最新情報

X1 連鎖重症複合免疫不全症(X1-SCID)及びアデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA/SCID)の遺伝子治療臨床研究でも実際に示されているように、SCIDに対する遺伝子治療の臨床的有用性は既に確認されている

移植片対宿主病(GVHD)の遺伝子治療臨床研究においても、将来有望な予備的結果が報告されている

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X-SCID遺伝子治療のリスクX-SCID遺伝子治療のリスクについてのまとめ(2004年ワシントン会議)患者の年齢 (生後6ヶ月以内)細胞当たりの平均的ベクターコピー数/挿入数>1 導入された細胞数に依存投与量導入された細胞種によるリスクはT細胞や他の細胞より幹細胞の方が高い

3例目では生後6ヶ月を超えてから遺伝子治療が行われていた(2005年ブリュッセル会議)

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (6)2005年5月 GTDG開催(ブリュッセル)

X-SCIDに対する遺伝子治療フランスでのX1-SCID遺伝子治療臨床研究においてT細胞リンパ増殖性疾患の副作用が発現した3例目の症例が本年1月24日付で報告されたことを受けて、その後、ICH 3極では、各極で実施中のSCIDに関連する遺伝子治療臨床研究のリスク-ベネフィットについて個々のプロトコールごとに今回各極で再評価を行い、適切な規制が実施されている。何件か実施されているSCID に対する遺伝子治療臨床研究のうちの1 件で白血病の副作用がみられたものの、遺伝子治療の臨床的有用性が実際に確認されている。同様に、慢性肉芽腫性疾患(CGD)の遺伝子治療臨床研究においても有望な結果が示されている

ICH 各極間での情報交換/共有のための新しいツール欧州医薬品庁:遺伝子治療などを含む先端治療・技術に関するホームページを開設(www.emea.eu.int/htms/human/itf/itfintro.htm)

日本(国立衛研遺伝子細胞医薬部):日本国内での腫瘍溶解性ウイルス及び遺伝子治療の開発状況を、参照文献も含めてホームページに掲載(日本語/英語)

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (7)染色体へのベクター挿入による発がんのリスクを評価するために、現在、LAM

PCR(linear-amplification-mediatedPCR;片方向増幅を介するポリメラーゼ連鎖反応)法が広く用いられている。しかし、LAM PCR 法はまだバリデートされていない技術である

臨床における副作用発現を未然に防ぐための管理方法として、遺伝子導入細胞のクローナリティー(クローン増殖)をより高感度でかつより高い信頼性をもって監視するために複数の方法を組み合わせることは、科学的に適切である。加えて、新しい検査方法がまだ開発途上にあることから、将来も必要に応じて科学的検査が行えるよう被験者検体等の試料を保管しておくことも意義がある

遺伝子治療臨床研究に参加した被験者の長期フォローアップ(追跡)調査

米国では、遅発性の有害事象発症のリスクに応じて遺伝子治療臨床研究において、被験者の長期フォローアップ調査を遺伝子治療実施後(15年間実施)するよう計画する必要がある

→ FDAガイダンス(案) “Draft Guidance for Industry: Gene Therapy Clinical Trials – Observing Participants forDelayed Adverse Events” (2005年8月)

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (8)

非増殖性アデノウイルスベクター中の増殖性アデノウイルス(RCA)

非増殖性アデノウイルスベクター中に検出されるRCAの量は、従来から使用されている細胞株(例えば293細胞)によって製造する場合に比べて、遺伝子組換え技術を使って最近開発された細胞株(例えばPER.C6細胞)によって製造する場合の方が少ない

RCA が高レベルで混入しているアデノウイルスベクター製品の使用は認められない

生殖細胞系列への遺伝子治療用ベクターの伝達に関するリスク

体内分布試験は重要であり、非臨床開発でのベクターの体内分布に関する成績を基づいて対応を考慮すべき

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FDA作成中の遺伝子治療の長期フォローアップに関する議論

有害事象の長期フォローアップに関しては、各極ごとにモニタリング体制が求められている

他の地域(EUで開発されている遺伝子治療薬をFDAに)への治験申請する場合も想定され、議論の継続により基本原則の調和が達成されることが望ましい

ICH-E1 GLは?ICH-E2E GL案:医薬品安全性監視計画案

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FDA:遺伝子治療長期フォローアップGL案 (1)

パブリックコメント募集中

「レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療のRCR試験と患者の長期フォローアップガイダンス」の上位ガイドラインとして

基本的なフォローアップ期間としては15年。最初の5年間は毎年の検査を実施し、残り10年間は定期的な問診を行う

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長期に渡る遅発性有害事象に関しては、全ての遺伝子治療薬が同じリスクをもつ訳ではない

極めて予後の悪い患者、病状の重い患者、発がん性のある治療薬を投与されている患者などに同様のフォローアップを適用することは困難

それぞれの遺伝子治療薬の特性に応じたフォローアップを行う必要がある

遅発性有害事象のリスクが極めて低いケースでは長期フォローアップを求めない

FDA:遺伝子治療長期フォローアップGL案 (2)

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FDA:遺伝子治療長期フォローアップGL案 (3)

レトロウイルスベクターによる発癌

De novo 由来がんの発症の有無神経疾患の発症の有無

リウマチ性疾患の発症の有無

免疫性疾患/血液疾患の発症の有無

等を含める

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ICH遺伝子治療専門家会議(GTDG) (9)

2005年11月7~9日

腫瘍溶解性ウイルスワークショップ

及び

GTDG開催

(シカゴ;約80名参加)

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腫瘍溶解性ウイルスとは腫瘍溶解性ウイルス(Oncolytic Virus)とは?

正常細胞内では増殖できず、標的とするがん細胞内で選択的に増殖可能な制限増殖型ウイルス

General oncolytic virus theory and models.(a) Simplified model for oncolytic viruses. A virus engineered to preferentially replicate in tumor cells is delivered to a tumor. The selectivity for tumor cells may be conferred by targeted infection to tumor cell receptors or by making initiation of the virus replication cycle dependent on tumor cell specific conditions. For example, the E1A genes of adenovirus are required for viral replication, so control of E1A by tissue-specific promoters yields tissue specific virus replication. Ahmed et al.1 achieve viral regulation by adding a destabilizing segment from the PTGS2 3' UTR to the RNA of E1A. The chimeric RNA is preferentially stable in cells with an activated RAS pathway, which includes most human tumors. The virus replicates and lyses tumor cells releasing thousands more virions that can repeat the cycle until all the tumor cells are exhausted. The lytic cycle is effective. Infection of normal cells is a dead end for the virus. The oncolytic virus is 'safe.' (b) Host immune and in vivo microenvironment conditions can hinder virus cytopathic effects: first, the infected cells are assumed to be in some supportive intracellular milieu that prevents free-flow of the produced viruses; second, the host may have preexisting antibodies to the virion capsules thus decreasing the effective dose of the inoculum; third, the host has innate immunity protection against the viral infection; fourth, the host will mount a potent cellular and antibody response to the virus infection, potentially compromising follow-up treatments; fifth, tissue architecture may include fibrotic areas that prevent viral spread; sixth, tumor necrosis may also prevent viral spread; and seventh, the immune response may generate tumor and normal cell death. These in vivo conditions can slow or abolish the response to an oncolytic virus. Ongoing strategies to increase efficacy are briefly discussed in the text and in refs. 12-14.

Estaurdo Aguilar-Cordova: Nature Biotech., 21, 756-757 (2003)

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国内開発中の腫瘍溶解性ウイルスの例 (1)

<臨床研究段階>

-動物実験大腸がん、乳がん

62005年に臨床研究終了

進行性膵臓がん

5(予定)

2004年に臨床研究開始

頭頸部がん-

62003年に臨床研究終了

皮膚又は皮膚に再発した乳がん

名古屋大学医学部附属病院

弱毒型の自然変異株

HF10変異単純ヘルペスウイルス

治験

症例数

実施状況対象疾患実施施設/企業名

ウイルスの特徴

ウイルスの名称

ウイルスの種類

国内開発中の腫瘍溶解性ウイルスの例

(2005年4月現在) 天然型ウイルスのため、実施前に「遺伝子治療臨床研究指針に関する指針」に基づく厚生労働大臣の確認は不要。また、カルタヘナ法に基づく第一種使用規程承認申請も不要

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国内開発中の腫瘍溶解性ウイルスの例 (2)<動物実験段階>

膵がん、同腹膜転移大分大学医学部レオウイルス3型

大腸がん、線維肉腫ディナベック遺伝子組換えセンダイウイルス(HVJ)

大腸がん、肝がん札幌医科大学

肝がん、肝細胞がん千葉県立がんセンター

グリオーマ

卵巣がん愛媛大学医学部

胆嚢がん、胆道がん筑波大学

非小細胞肺がん

膵臓がん、膀胱がん東北大学医学部

大腸がん、非小細胞肺がん岡山大学医学部/オンコリス・バイオファーマ

遺伝子組換えヒトアデノウイルス

前立腺がん、腎がん、卵巣がん、乳がん

和歌山県立医科大学

胆嚢がん、胆道がん九州大学医学部

脳腫瘍、前立腺がん、膀胱がん慶應義塾大学医学部

グリオーマ、前立腺がん東京大学医学部

卵巣がん愛知県がんセンター

平滑筋肉腫大阪府立成人病センター

遺伝子組換え単純ヘルペスウイルス

対象疾患実施施設/企業名ウイルスの種類

(www.nihs.go.jp/cgtp/cgtp/sec1/oncltc_v/onclt-j.html)

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ICH腫瘍溶解性ウイルスワークショップ (1)

目的

腫瘍溶解性ウイルスの臨床開発に関連する以下のような問題点を整理し、フロアーも含めて積極的に意見交換を行う

腫瘍溶解性ウイルスの設計(野生型、弱毒型、遺伝子組換え型)

非臨床試験での有効性・安全性の確認及び至適用法・用量の検討

腫瘍選択性

臨床での安全性

適切な動物モデル

体外からの排出(測定法、実測データ)

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ICH腫瘍溶解性ウイルスワークショップ (2)

プログラム

午前の部:腫瘍溶解性アデノウイルス

進行= Klaus Cichutek博士(独・ポール-エーリッヒ研究所)Beth Hutchins博士(米・SPバイオファーマ社)

8:00 開会の辞Dan Takefman博士(米・FDA生物製剤評価・研究センター(CBER))

8:10 臨床応用の概観Martin Gore教授(英・ロイヤルマースデン病院)

8:30 腫瘍溶解性アデノウイルスによる前立腺がんの治療Flavia Borellini博士(米・セルジェネシス社)

9:15 腫瘍溶解性アデノウイルス:ONYX-015等の開発から得られた知見David Kirn博士(英・オックスフォード大学医学部)

10:00 休憩10:20 hTERTプロモーターによる部位選択的な複製能をもつ腫瘍溶解性アデノウ

イルス「テロメライシン」 藤原俊義博士(日・岡山大学医学部)

10:45 パネルディスカッション11:45 昼食

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ICH腫瘍溶解性ウイルスワークショップ (3)

午後の部:腫瘍溶解性ウイルス

進行= Dan Takefman博士(米・FDA CBER)山口照英(日・国立医薬品食品衛生研究所)

13:15 レオウイルスによるがん治療Don Morris博士(カナダ・カルガリ大学、アルバータがん委員会)

13:50 腫瘍溶解性ニューキャッスル病ウイルスPV701の非臨床及び臨床成績Robert Lorence博士(米・ウェルスタットバイオロジクス社)

14:25 ヒトがん細胞内で選択的にマトリクスメタロプロテナーゼを発現して細胞を破壊する遺伝子組換えセンダイウイルス井上誠博士(日・ディナベック研究所)

14:50 休憩15:10 麻疹ウイルスによる卵巣がんの治療

Evanthia Galanis博士(米・メイヨー病院)15:35 単純ヘルペスウイルスによる神経膠芽腫の治療

Moira Brown教授(英・クルセード研究所、グラスゴー大学)16:00 パネルディスカッション17:00 閉会の辞

Dan Takefman博士(米・FDA CBER)

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ICH腫瘍溶解性ウイルスワークショップ (4)

ワークショップでの論点

増殖性ウイルス(RCV)

迷入病原性因子

製品出荷時の規格試験

動物モデル

非臨床試験における有効性の確認及び作用機序の検討

臨床での有害事象

臨床での薬物動態(ファーマコキネティクス)

至適用法・用量設定試験

中和抗体

腫瘍溶解性ウイルスの体外への排出

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ICH GTDG(2005年11月、シカゴ) (1)

ICH GTDG見解(案) 「遺伝子治療用医薬品の生殖細胞系列への意図しない伝達リスクを最小にするための方策」

報告担当者(1st):Markku Pasanen (EMEA)同 (2nd):Teruhide Yamaguchi (MHLW)

2005年10月 欧州医薬品庁が第1次案を作成。各極に配付

2005年11月 各極から寄せられた事前コメントを基に、GTDG会議で第2次案を作成

2006年1月(予定)第2次案に対する各極からのコメント〆切(コメントとりまとめ:MHLW)→第3次案を作成

2006年6月(予定)次回GTDG会議で検討。2007年3月までに最終版確定の予定

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ICH GTDG(2005年11月、シカゴ) (2)遺伝子治療用医薬品の生殖細胞系列への伝達の有無を調べるための動物試験のフロー(案)

動物での薬理試験及び生体内分布試験を実施

当該医薬品が性腺に分布しているか?

生殖細胞系列への伝達の有無を調べる試験は実施する必要なし。但し、臨床研究における男性被験者の精子について試験を行うことが望まれる

臨床研究の対象患者には妊娠する/させる可能性が完全にないか?

YES

NO

NO

YES

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ICH GTDG(2005年11月、シカゴ) (3)

当該医薬品は性腺内のどこに局在しているか?

性腺内の生殖細胞系列以外の細胞に持続的に分布

卵母細胞及び/又は精子の染色体内に挿入

NO

YES

卵母細胞内 精子内

臨床的な有用性とリスクのバランスを総合的に評価した上で、臨床研究の実施の可否を判断

F0からF1への垂直伝播の可能性の有無を確認するため動物での繁殖試験を実施?

一時的

持続的

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ICH遺伝子治療WGの将来的課題Germline-Transmissionリスク低減化に関する見解の作成

Germline-Transmissionリスク低減化ガイドライン作成Viral Shedding測定法の確立。安全性評価

ウイルスベクター標準品レンチウイルス(?)

Insertional Mutagensis挿入部位の高感度測定法開発。挿入部位が特定できる より安全なベクターの開発

腫瘍溶解性ウイルス品質・安全性・有効性評価に関する見解の作成

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ICH遺伝子治療WG国内メンバー国立医薬品商品衛生研究所

山口照英

内田恵理子

永田龍二

医薬品医療機器総合機構

早川堯夫

前田大輔

藤井正樹

荒戸照世

宇山佳明

日本製薬団体連合

鳥海亙

小澤健夫

平田芳昭

井上誠

岩崎仁

長谷川護